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【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】 [無断転載禁止]©5ch.net

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0001 ◆KxUvKv40Yc 2017/01/01(日) 23:57:31.17ID:96Qz7rYm
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。


ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり(ただしスレの形式上敵役で継続参加するには工夫が必要)
避難所の有無:なし(規制等の関係で必要な方は言ってもらえれば検討します)

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:
職業:
性格:
能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

前スレ 【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50
0002創る名無しに見る名無し2017/01/02(月) 00:03:14.74ID:TulIvSlj
おつ
0003創る名無しに見る名無し2017/01/02(月) 08:01:48.51ID:RUmTO285
ジェンスレ思い出した
0004 ◆KxUvKv40Yc 2017/01/03(火) 23:21:26.77ID:rIEwX2bO
第一話『灼熱の廃都』(1スレ目〜89)

赤い風の吹き荒ぶ、灼熱の聖域――イグニス山脈。
ヴィルトリア帝国南部に連なるその魔境に、ただ一人で歩を進める男が居た。
彼の者の名は、アルバート・ローレンス。帝国が誇りし七人の黒騎士の一角であり、黒竜騎士の称号を持つ男だ。
そんなアルバートは、世界中を震撼させている古竜(エンシェントドラゴン)をも操ることが出来ると言われている竜の指輪の捜索を命じられ、遥々このイグニス山脈にやって来たのであった。

そして、アルバートが山道を歩いていると、彼を獲物と見なしたジオリザードマンたちが現れた。
それらを魔剣レーヴァテインで蹴散らしている最中、自らをハイランド連邦共和国の名門魔術学園であるユグドラシアの導師だと名乗ったエルフ、ティターニアと邂逅する。
ティターニアとの共闘でリザードマンを全滅させたアルバートが、彼女の話を聞いてみれば、どうやら自分と同じような目的でこの場所に来たのだと分かる。
このままティターニアと共に探索を続けるべきか考えていた時、二人の前に現れたのは伝説の古代都市の守護者――スチームゴーレムだった。
古代文明の叡智の結晶である強敵と対峙し、途中で合流したハーフオークのジャンや、アルバートを付け回すコインという犯罪奴隷の協力もあり、一行はゴーレムを撃破することに成功。

一体何故、とうの昔に滅びた古代都市の護り手が、まだ活動を続けているのか。
そんな疑問は、次に取ったアルバートの行動によって、すぐに払拭されることとなる。
周囲の風景に違和感を覚えたアルバートは、魔術効果さえも燃やし尽くすことができるレーヴァテインを振り、辺り一面を覆っていた幻術を見事に焼き払う。
すると、その中から現れたのは真紅に彩られた美しい街並み。かつて栄華を誇った四大都市の一つ、灼熱都市ヴォルカナの遺跡に他ならなかった。
考古学者でもあるティターニアが、浮かれた足取りで街の中を駆け回っていると、次いで現れたのは幻の蛮獣ベヒーモスと、その上に跨った赤い髪の少女だ。
赤髪の少女は、指輪の元までアルバートたちを案内すると言い、途中で強引に割り込んできた格闘士のナウシトエも加えつつ、一行はヴォルカナの神殿へと向かう。

そして、ようやく辿り着いた遺跡の最奥部で始まったのは、ベヒーモスと対峙するという試練だった。
アルバートはその突出した力を以てベヒーモスと拮抗し、ティターニアは空間の属性を塗り替える大魔術の詠唱を開始。
ジャン、コイン、ナウシトエらの時間稼ぎの甲斐もあり、発動したティターニアの魔術によって、灼熱のマグマは一変。
突如として極寒の風が吹き荒れ始めた洞窟内で、ベヒーモスの動きは明らかに精彩を欠き、その隙を狙ってアルバートの剣が敵の右腕を断つ。辛くもこれを討ち倒すことに成功した。

彼らを試練を越えた勇者と認め、赤髪の少女――いや、焔の竜イグニスは、ドラゴンズリングに関わる伝説を語り始める。
だが、遂に差し出された指輪を前にして、暴走とも呼べる行動を取ったのはナウシトエだった。
ナウシトエは素早く奪い去った指輪を飲み込むと、その肉体が竜の魔力によって、化け物じみた姿へと変貌する。
この騒動でアルバートは彼女を帝国の敵と見なし、今にも戦いの火蓋が切って落とされようとした時、またしても事態が急変する。

虚空を斬り裂く氷の槍に貫かれ、あっけなく絶命するイグニス。
そして、空中に開いた黒い穴から現れた、神話の登場人物のように美しい男。
それはかつてのアルバートの親友であり、現在はダーマ魔法王国の宮廷魔術師を務める天才。白魔卿の異名を持つ、ジュリアン・クロウリーだった。

憎むべきジュリアンを前に激昂したアルバートは、地を駆け抜けて斬り掛かるが、しかしその剣は悪魔の騎士(デーモンナイト)によって阻まれる。
ジュリアンの護衛であるその騎士と剣戟を交え、無残にも完敗したアルバートは、胴体に強烈なダメージを負って倒れ伏す。
そして、仲間たちもジュリアンの行使する魔術の前に手も足も出ず、為す術もないまま、ナウシトエが腹に抱えた指輪を奪われてしまった。

ティターニアは最後の精神力を振り絞って転移魔術を発動し、満身創痍のアルバートらを、麓のカバンコウまで送り届ける。
傷付いた一行は体を休めながら、それぞれに思いを馳せ、その上空には町並みを照らす黄金色の満月が浮かんでいた。
0005 ◆KxUvKv40Yc 2017/01/03(火) 23:28:05.33ID:rIEwX2bO
第二話『海精の歌姫』(1スレ目90〜262)

イグニスが遺した言葉を手掛かりに水の指環があると思われるアクア海溝を目指すことにした一行は
海溝に向かう船を手に入れるために自由都市カルディアを訪れた。
街の中を歩いていたところ、物乞いらしき少女が店主に痛めつけられている現場に遭遇。
なんだかんだで少女を助けた一行は、少女から遺跡や指環に関する情報収集を試みる。
情報提供として少女が歌った歌は素晴らしく美しく、歌詞には「ステラマリス」「人魚」という言葉がちりばめられているのであった。

そんな中、街の衛兵が少女を監視していることに気付き警戒していたところ、港で爆発火災が発生。
駆けつけてみると、反帝国レジスタンスの海賊「ハイドラ」による襲撃であった。
帝国騎士であるアルバートを中心とする一行は、必然的に消火・鎮圧に協力することとなる。
火災がほぼ鎮火しひと段落と思ったのも束の間、港に突如巨大な船が現れ、街に砲撃を開始した。
その船を指揮するのは、ハイドラの首領エドガー・オールストン。
エドガーの狙いは、帝国打倒のために、実は特殊なセイレーンである少女の「滅びの歌」を発動させることであった。
ジャン・ティターニア・ナウシトエは港にてエドガーと戦闘を開始。
一方、敵に路地裏に誘導されたアルバートとそれを追いかけていったコインは、路地裏にてハイドラ団員と戦闘を開始する。
エドガーは予想以上に強く、苦戦するジャン達。
追い詰められて絶体絶命のピンチに陥ったところ、津波のようなものが来て、ジャンとティターニアは暫し気を失うのであった。

気が付いてみると、ジャンとティターニアは美しい人魚の姿になった少女に手を引かれて海の中を進んでいた。
(尚、アルバート・コイン・ナウシトエの三人は戦闘の混乱で消息不明になってしまった)
少女の正体は、セイレーンの女王にして海底都市ステラマリスの守護聖獣クイーンネレイド(通称クイーン)であった。
実は津波のようなものは、クイーンによる戦意喪失効果をもつ歌の大魔術であった。
クイーンは、指環の勇者として認めたジャン達を海底都市ステラマリスの水竜アクアのもとへ連れていくという。
記憶を対価に人間に扮して指環の勇者を探しに地上に来ていた彼女は、指環の勇者と出会ったことで全てを思い出したとのことだ。

道中で流されていたドワーフのマジャーリンを仲間に加え、ステラマリスに到着した一行は
指環の祭壇へと導かれ、青髪の少年の姿をした水の竜アクアと相見える。
アクアは一行に水の指環を渡し、近頃何故か風の竜ウェントゥスが襲撃をしかけてくると告白。
噂をすれば早速、ウェントゥス配下と思われる翼竜の一団が攻め込んできた。
迎え撃つ一行だったが、襲撃に便乗して何故かジュリアンまで現れ、一行から指環を奪おうとする。
アクアがジュリアンの足止めをし、クイーンの転移の歌によって危うくカルディアに逃がされた一行。
別れ際にアクアは、次は大地の竜テッラの元へ向かえと言い残した。

カルディアに転送された一行のもとに、黒騎士の一人であり、指環を集める命を受けている黒鳥騎士アルダガが現れる。
アルダガと会話をしていたところ謎の襲撃者達が襲い掛かってきて戦闘となり、マジャーリンが死亡。
怒りのままに襲撃者達を蹴散らすジャンとティターニアだったが、襲撃者達の死体が巨大なアンデッドとなって襲い掛かってきた。
アルダガはそのアンデッドを一撃で倒した後、ジャンが持つ指環の存在に気づき、指環を渡すよう一行に迫る。
ジャン達は協力して指環を集めないかと交渉するも決裂、戦闘となった。
ジャンとティターニアは激しい戦闘の末に辛くもアルダガを撃破。
戦闘不能となったアルダガは、先々での再戦を予告しつつ強制帰還の転移術によって二人の前から消えて行ったのであった。


※現在第三話進行中。参加者は常時募集中なのでお気軽にどうぞ。
0006ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/06(金) 01:44:32.89ID:FALY+Lj6
名前:ミライユ・ヴィ・エルジュ
年齢:23
性別:女
身長:167
体重:54
スリーサイズ:90/57/87
種族:人間
職業:ギルドマネージャー
性格:明るいが、冷酷で無慈悲
能力:空間を操作する魔法、格闘術
武器:なし(あらゆるものを武器にする)
防具:シンプルな紋様のローブ、プリーツスカート
所持品:事務用品や連絡用マジックアイテム、護身用のナイフ等
容姿の特徴・風貌:茶色の外ハネショートボブで、明るく笑顔で声も大きく快活そうに見える。
簡単なキャラ解説:ハイランド連邦共和国首府・ソルタレクのギルドマスターの直轄のギルドマネージャー。
ギルドマスターに絶対的な忠誠を近い、その感情は常軌を逸しており、完全に耽溺している。むしろ連邦の総領への忠誠心は無いに等しい。
逆に言えばマスター以外は心の中では虫ケラのように扱っている。
密命でギルドの一員として、他国のほか、国内の元老院、ユグドラシアの動向を調査しており、今回はティターニアの監視を主とする。
また、指名手配中のギルド員の始末、新ギルド員の勧誘など、様々な任務に対応。指環についても調査している。
ミライユ以外にもギルド員はマネージャークラスを含め数人が行動を開始している。
一見快活そうに見え、敬語調で明るく喋る裏で計算する性格のため、相手の警戒を解きやすい。
0007ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/06(金) 01:45:13.83ID:FALY+Lj6
>>294【了解です!】

>「……行っちゃったよ」

ラテがギルドの会員証を持ったまま、ブツブツと何やらつぶやきながら何かを考えている。
それをティターニアたちの方に向かいながらミライユは気にしていた。
ラテは確か受け取る際に少し抵抗したはずだ。

もしかしたら、何か勘違いしているのかもしれない。
ミライユとて鬼ではない。素早く戻ると、軽く声をかけた。

「あのう、一つ。ラテさんが所属しているレンジャーズギルド、実は冒険者ギルドの一部なんです!
そういうことですから、もしソレを"失くす"などということがあれば、「組織を抜けた、裏切った」ということになりますので、
くれぐれもご注意を。勿論、持っていて犯罪を犯しても同じです。私、仲間割れって、嫌い、なんですよ〜」

軽い感じで話しかけるも、ミライユのウィンクされたもう片方の目は細くテラの目を見据え、笑ってはいなかった。

あぁ、とふと自分の服装を見ながら思った。ミライユはローブの下にチェイン・メイルを着込んでおり、腹部は特に分厚く防護されている。
これはポイントガードの効果もあるが、身体の線を出さないようにするためでもあった。胸や尻を見せつけるのは目立つだけで不利でしかない。
一方で先ほどのラテという女は元々だろうが、なんと健康的で肉感的か。
あれを女好きの紳士であるマスターが見れば、興味を持たないとも限らない。
ここがアスガルドではなく、そこらの無人の荒野だったのなら……

(私は、女に会員証を渡した後、騙して殺害し、事故に巻き込まれた扱いにしてしまっていたかもしれません……)


大男、ジャンはミライユの全身の装備などを見ると妙に冷静な顔になってティターニアに耳打ちをした。
どうやら、怪しい者だと思われているらしい。やはり彼氏か、部下の線が正しいのだろう。

>「いかにも、我がティターニアだ。しかしよく分かったな。
ソルタレクまで名が知れ渡っているとは光栄というべきか恐れ多いというべきか。
このようなところまで遠路来てもらってかたじけない」

「いえいえ、こちら側が勝手に視察を行っただけですから、私についてはお構いなく。
ギルドでは有名ですよっ! 特にマスターの部屋なんかにはティターニア様の……あっ」

うっかりマスターの部屋の様子を伝えそうになるところだった。
0008ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/06(金) 01:46:04.19ID:FALY+Lj6
>「実はこのところ研究のために放浪しておったのだが
最近洞窟から強いモンスターが出てくるようになって被害が出ているということで舞い戻ってきたところなのだ。
同行はやぶさかではないのだが洞窟探索には危険が伴うと思うが……それでも良いのであれば共に行こう」

ミライユの同行をあっさりと承諾するティターニア。これなら目標としては達成だ。

「研究……ですか!? それは、一体、どのような!? あぁっ、そういった内容は後にしましょう!」

一瞬だけミライユの頭で「指環」の存在が首を擡げたが、慌てるのもよくない。

>「ジャン殿もよいな? さっきの戦いぶりを見ておっただろう、きっと頼りになるぞ」

今度はゆっくりと頷く。やはりティターニアには従順であることから並々ならぬ信頼関係であることは確定。

グゥー……

「……はッ!」

腹の音を聴いて、ティターニアとジャンがこちらを見た。
ミライユは空腹には弱い。常に腹ペコなのだ。顔を赤らめながら慌てて宿付きの居酒屋を探す。
既に日も暗い。


「では、早速ですが、腹ごしらえでもしながらゆっくり語らうとしましょう。
今晩に限り、ティターニア様たちの分は、私の方でお出ししますので、お気になさらず」

『フェンリル』と書かれたそこそこ高級なこの宿は、大衆酒場というよりは
レストランのような様相をしていた。ちなみに宿は小ぢんまりしておらず、大部屋ばかりである。

席も思いの他空いている。
「3人ですか? 4人ですか!?」

後ろから様子を見ているラテをけん制しながら、情報交換の邪魔にならないのなら、ラテに参加してもらっても良いつもりだ。
恐らく大した影響力はないだろう。それに今後何らかの因縁を付けて誤殺する機会も出てくる。

大きなテーブルに腰掛けたジャンの隣に慣れ慣れしく座り、そのたくましい右腕を手に取った。
同時に正面に腰掛けるティターニアの反応も伺う。

「すっごい腕……よく鍛えられているし、大体の敵なら一薙ぎですね! ちなみにうちのマスターはここまで太くないですが、
力はもう、すっごいんです! この前の暴動のときもすごい活躍をして、五十人斬り?をやっても、全く動じてませんでした。その晩マスターは……」

と、酒も入りすっかりとミライユはマスターの惚気話に入っていった。
良質なこの地方特有の肉料理が運ばれ、モグモグとそれらを食べながら。

この後取ってある宿は、4人用の大部屋が一つだけだ。


【容量オーバーにより、こちらに書かせていただきました。】
0009 ◆ejIZLl01yY 2017/01/06(金) 07:00:35.53ID:QmQFQmYi
あ、なんか丁度よく合流出来そうな気がするので
ここらで割り込ませてもらってもいいですか?
投下には3日もかからないと思います
0010 ◆KxUvKv40Yc 2017/01/06(金) 08:05:44.97ID:H9lZqN73
>9
ではよろしく頼む! ミライユ殿がうまく誘導してくれたな!
0011 ◆ejIZLl01yY 2017/01/06(金) 19:31:48.36ID:07vFe33q
っと、そう言えばあの女の子は大丈夫かな?
あの歳であんな馬鹿でかい魔物に襲われたんだ。さぞや肝を冷やしただろう。
私があの子だったら多分ちびってたね。

えーと……うん、もうお母さんと会えたみたい。
逃げる時に手を離しちゃったのか、泣きながら謝ってる。
ろくに息も出来ないんじゃないかってくらい泣いてるせいで、逆に女の子が慰めてるよ……。
アンデッド系の魔物が出て来るダンジョンとかでも、自分よりビビってる人がいるとなんか冷静になるって言うよね。
トレジャーハンターは基本ぼっちなのでそういう感覚、私には分かりませんがね!

ま、あの感じなら私が首を突っ込む必要はなさそう。

なんて感じでちょっとした満足感を得て前を向き直すと、ミライユさんが目の前にいた。

って、えぇええええええええええええええええ!?すっごいびっくりしたんだけど!
えっ、なに、この人思い立ったら即行動って感じでちょっと怖いんだけど。
いや私も人の事言えないけどさ、なんて言うか……言葉にしちゃうとちょっと失礼なんだけど、とにかく怖い。

>「あのう、一つ。ラテさんが所属しているレンジャーズギルド、実は冒険者ギルドの一部なんです!

「へ?……あ、はぁ、それはどうも……」

と、思ったら話しかけられた内容はわりと普通だった。
まぁ冒険者同士の互助を旨とするなら、そりゃ提携関係くらい組んでるか。
それをまるでそっちの傘下みたいな言い方してるのは、ちょっとどーかと思いますがね!へんっ!

ん?あれ?もしかしてこれ、私の態度が懐疑心丸出しで気を使わせちゃった感じ?
うーん、だとしたら申し訳ない事しちゃった……

>そういうことですから、もしソレを
0012 ◆ejIZLl01yY 2017/01/06(金) 19:33:55.61ID:07vFe33q
>そういうことですから、もしソレを"失くす"などということがあれば、「組織を抜けた、裏切った」ということになりますので、
 くれぐれもご注意を。勿論、持っていて犯罪を犯しても同じです。私、仲間割れって、嫌い、なんですよ〜」

「……やだなぁ!やっと冒険者になれたのに失くす訳ないじゃないですか!もー!」

……なんて一瞬でも思った私が馬鹿だったね、こりゃ。

レンジャーの訓練を積んだ私の前で、殺気を隠そうともしないのは、見くびられているからかな?
それとも隠そうとして、それでも隠しきれなかった?
さっきは失礼だからって言葉にしなかった事を改めて書き留めておこう。

ミライユさんはまるで、感覚の鋭い獣か魔物のようで、怖いのだ。
私を見下ろす彼女の眼に宿る光を、私は見た事がある。
ダンジョンの奥底で、何度も……アレは知性ある魔物が、矮小な獲物へと向ける殺意の光だ。

あの人は、何故か私を殺そうと思い立って、実際に殺意を抱いて……
多分、周りに人が多すぎるから、やっぱりやめた。
やっぱりやめた、程度の感覚で、人を殺すか殺さないか決められるんだ。

……いやいやいや!怖すぎるでしょ!ホントなんなの冒険者ギルドって。

まず殆ど初対面の私に殺気を向ける理由が分かんなすぎて怖い。
まさか私が冒険者ギルドに懐疑的な態度を見せたから?
どこの独裁者だよ……絶対ろくでもない組織だよ冒険者ギルド。

そもそも、失くしたら裏切り扱いってのがもうおかしい。
だってそれって冒険者ギルドの刺客に会員証を奪われても『紛失』扱いでしょ?
地獄行きの片道切符かよ。助けてー粛清されるー。

>「いかにも、我がティターニアだ。しかしよく分かったな。
  ソルタレクまで名が知れ渡っているとは光栄というべきか恐れ多いというべきか。
  このようなところまで遠路来てもらってかたじけない」

でも……これでもう、見て見ぬふりは出来ない。
あの人は、いとも簡単に人を殺せる……魔物だ。
目の前で、魔物が人ににじり寄るのを、我が身可愛さで見過ごす訳にはいかない。

それに……冒険者ギルドが魔物をけしかけるほどの二人。
あの二人が何者なのか……私も冒険者なんだ。気にならない訳がない。

さぁて、それじゃあ……レンジャーのスキルを見せてやる。
私は人混みに紛れ込むと、そのまま気配を消し去った。

……とは言っても、気配を消すって具体的に何をしてるの?と思う人もいるだろう。
実は言葉にしちゃうと結構簡単で、これは魔力を纏っているのです。
と言っても魔法使いがよく使ってる硬い壁みたいな感じではなくて、どっちかと言うとこれは布。

さっき魔力の話をしたけど、魔力ってのは別に人体以外にも宿ってるし巡ってる。
自然物に宿る魔力は人によってはマナって呼ぶ事もあるね。私もその方が区別付けやすくて好き。
ともあれ、そのマナの巡りは一定じゃない。
そして一定じゃないって事は、対流が生まれ、模様が生まれ……風景が生まれる。
0013 ◆ejIZLl01yY 2017/01/06(金) 19:36:20.87ID:07vFe33q
察しのいい人はもう分かっただろう。
私達レンジャーは、そのマナの風景に溶け込むように、魔力の迷彩布を被るのだ。
なにしろ空間そのものと同化するから、今の私は例え視界に映っていても、気付けない。
路傍の石ころ同然だ。
この世界の何処かにある和国出身のレンジャー、ニンジャ達はこのスキルが凄い上手で、固有の別スキル扱いまでされてるとか。
あ、勿論足音や呼吸にも気を使ってますよ?そこは基礎中の基礎。

ちなみに一流のアサシンともなると、そこにいると言われてもなお、目を凝らしてやっと見えるくらい。
おっぱい揉まれても反応が一瞬遅れるレベル。あの先輩はいつか絶対ぎゃふんと言わせてやる……。
まぁ流石に私はそこまで上手くは隠れられません。
が、こんだけ人がいれば問題ないね。木が隠れるなら森の中。

さておき私はミライユさんと、彼女に絡まれた二人へと忍び寄る。

>「ジャン殿もよいな? さっきの戦いぶりを……

……うん、二人とも意識はミライユさんに向いてる。
これなら上手くやれる……私は二人の背後に回り込むと、

「どーもこんにちわ!お話中にすみませんが今、洞窟の話をしてましたよね!」

なるべく不意を突くように、大きな声で挨拶をした。

「洞窟って、テッラ洞窟の事ですよね?実は私もあそこに目を付けてるんですよ!
 魔物が急に強くなったって事は、きっと何かあるに違いないって!お二人もそうなんですよね?
 ……あ、すみません、私トレジャーハンターのラテって言います!」

うーん敬語を使うと体がむずむずする……え?なんでそんな脅かすような真似をしたのかって?

「でもちょっと当てが外れちゃいまして……
 オオネズミですらあれだけ凶暴化してるとなると、
 私だけじゃ大して潜れなさそうなんです」

ちっちっち、その脅かすのが大事なのですよ。

「なので……もし良ければ私もそちらのパーティに混ぜてもらえませんか?」

小説とか絵物語を読んでるとよくアサシンっぽい登場人物が

『彼はまだ来ていないのか?』

『……ここにいる』

『なっ……まるで気配を感じなかったぞ……』

みたいなやり取りをしてたりしない?
アレって実は創作の中だけのカッコつけじゃなくて、現役のレンジャーもよくやるんだよね。

理由は主に二つ。
まず遊撃を担当するレンジャー系列の冒険者は、いざって時に切り捨てられやすい。
だから依頼者や同行者を事前に観察して、ヤバそうならそのままさよならする為。
あの有名なアサシン、ミスター13さんはこっちが理由だね。あの人の場合、裏切ったら相手がこの世からさよならするけど。
0014 ◆ejIZLl01yY 2017/01/06(金) 19:37:57.48ID:07vFe33q
もう一つは……実力を知ってもらう為だ。
不意の突けないレンジャーとか、ねえ?
その点ではさっきの私はかなり上手く出来た気がする!
この人達もかなりの手練っぽいけど、最悪でもちょっとビクッとくらいは……したよね?ね?
私みたいな村娘Aはかなり背伸びしないと舐められがちなのです。

「あ、もしお宝があっても、それはそっちの取り分で構いません!
 私一人じゃそもそも深い所まで行けないだろうし、
 強くなった魔物の素材も結構な価値が出そうですしね」
 
これは特に嘘偽りなく本当。
そもそもこの都で上手い事マジックアイテム仕入れて、よそで捌くだけで収支的には問題ないくらい。
なんか冒険者が泊まるには無駄に高級な宿屋で無駄にお高そうな料理を食べたりしない限り、今回の冒険に赤字はないのだ!


【ラテさんがパーティ加入申請を飛ばしました】


あ、結構余白が出来ちゃったからてきとーに落書きしよっと。

ちなみに今回使ったレンジャースキルは実は【スニーク】だけじゃなかったりする。
さっきの私って実力を示しつつも、隙のないアサシンって感じは全然しなかったでしょ?
アレは素が出ている訳ではなく、そういうスキルなのです。

レンジャー系でも特にシーフやエージェント、アサシンなんかが使うスキル【ヒュミント】だ。
意味は人的諜報。騙したり、籠絡したり、魅了したり、とにかく人の心情を利用して利益を得る為のスキルだ。

最近やっと一端の冒険者になれてやる気出してます!ふんす!
って雰囲気は、きっとこの人達の心から庇護欲を引きずり出す!はず!
重ねて申し上げますが素が出てる訳じゃないんだからね!

いやホント、馬鹿な事書いてんなーとか思ってるでしょ?
訓練させられるんですよ、ちゃんと。
先輩に「チワワだ!チワワの気持ちになれ!」って言われながら上目遣いの練習を一時間くらい。
どさくさに紛れて「体も使え!押し付けろ!」とか言われて流石にマスターにセクハラで訴えました。

いつもは物静かで優しいお爺ちゃんって感じのマスターなんだけど、
その時は私の訴えを聞くや否や、思わず震えるほど冷たい声で「けしからん」って言って立ち上がり……
そのまま先輩のもとへ向かうと

「チワワにだって牙はあるからこの子は精々ハムスターじゃろ。丸みもあるし」

とか厳重注意してくれました。ハムスターにだって前歯があるわい!噛み付いたるぞ!
もうやだあのギルド……。

ちなみにこの【ヒュミント】。
達人が使えばお互い武器を構えて相対した状況でも、致命的な油断を誘えるとか。
まさに魔性って奴ですね。

また人によっては【テンプテーション】とか【ハニートラップ】みたいな呼び方もします。
私はそういう露骨な言い方はよくないと思います!

……え?さっきからシーフやらアサシンのスキルばっかだけど、トレジャーハンターのスキルはどうしたって?
この街中で何をしろと。鍵開けか。
勇者じゃあるまいしそんな事したら犯罪ですよ犯罪。
0015 ◆ejIZLl01yY 2017/01/06(金) 19:38:52.57ID:07vFe33q
そんな感じでとりあえずパーティ申請送りました
ふと気づいたけど私も結構怪しい奴だこれ!
0016ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/07(土) 16:57:45.21ID:AenxSHOl
名前:ジャン・ジャック・ジャンソン
年齢:27歳
性別:男
身長:198
体重:99
スリーサイズ:不明
種族:ハーフオーク
職業:冒険者
性格:陽気、もしくは陰気
能力:直感・悪食
武器:良質な量産品の手斧・ナイフ
防具:鉄の胸当て
所持品:ロープ・旅道具一式
容姿の特徴・風貌:薄緑の肌にごつい顔をしていて、口からは牙が小さく覗いている
         笑うと顔が歪み、かなりの不細工に見えてしまう
簡単なキャラ解説:
暗黒大陸の小さな村で生まれ、その村に立ち寄った魔族の冒険者の
生き方に憧れ冒険者を目指し大陸を飛び出た。
それ以降、人間の異なる価値観に戸惑いつつも今ではそれなりに名が売れた冒険者として
日々、未知の風景を求めて探索している。
0017ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/07(土) 16:58:58.01ID:AenxSHOl
>「ソルタレクの冒険者ギルド……か。まあ適当に話を合わせてくれ」

小声で返ってきた返答に、小さく頷いてティターニアの後ろへ一歩下がる。
二人は護衛対象と護衛という関係である以上、ジャンは必要以上に声を出す気にならなかった。

そうして二人の会話を眺めていると、どうやらこのミライユと名乗った女性もこちらに同行してくるようだ。
武器の腕前は問題なく、魔術の扱いにも慣れている。

>「ジャン殿もよいな? さっきの戦いぶりを見ておっただろう、きっと頼りになるぞ」

「ああ、俺としても歓迎だ。魔術も武器も使える奴ってのは貴重だからな」

ゆっくりと頷き、またティターニアの後ろに控える。
仮に指環を狙う刺客だったとしても、同じ冒険者である以上なんらかの取引に応じるだろうとジャンは考えていたのだ。
そして宿でも探そうかと後ろを振り向いた瞬間、目の前の空間からぬるりと少女が現れた。

>「どーもこんにちわ!お話中にすみませんが今、洞窟の話をしてましたよね!」

>「洞窟って、テッラ洞窟の事ですよね?実は私もあそこに目を付けてるんですよ!
 魔物が急に強くなったって事は、きっと何かあるに違いないって!お二人もそうなんですよね?
 ……あ、すみません、私トレジャーハンターのラテって言います!」

>「でもちょっと当てが外れちゃいまして……
 オオネズミですらあれだけ凶暴化してるとなると、
 私だけじゃ大して潜れなさそうなんです」

何もないところから姿を現し、いきなりまくし立ててきたラテと名乗った少女。
見れば先ほどオオネズミを狩っていた冒険者のようだが、レンジャーの技である姿隠しを使いわざわざ背後から来たようだ。
こういった行為を行うレンジャーは少なくない。なぜかというとレンジャーを名乗りマジックアイテムの価値を偽って
仲間からだまし取る者、嘘の偵察で仲間をまとめて殺し、遺留品をかっぱらう者は後を絶たないからだ。

だからこそ、多くのレンジャーは他の冒険者と組むときには、自分がきちんとギルドで学んできたことを
証明するために自分の実力を示す行為を行う。
それは弓の技術や罠外し、簡易な鑑定などがあるが、やはり一番有名なのはこの姿隠しだろう。

ジャンも未熟な姿隠しならば背後に来る前から見抜けるが、ラテの姿隠しは分からなかった。
つまり、ギルドでしっかりと学んできたということだ。

「……見たところ、経験はあるみてえだな。その箱、ミミックだろう?
 単独で狩ったなら大したもんだ」

ラテの装備を上から下まで点検する。動きやすい服装に、魔除けと思われる大量のアクセサリー。
ミミックの箱を担いでいる理由はよく分からないが、たぶん振り回して鈍器にでもするのだろう。
それから盾にできそうな石板に、なんと呼べばいいのか分からない武器のようなもの。これもきっと振り回すんだろうとジャンは思った。

>「なので……もし良ければ私もそちらのパーティに混ぜてもらえませんか?」

>「あ、もしお宝があっても、それはそっちの取り分で構いません!
 私一人じゃそもそも深い所まで行けないだろうし、
 強くなった魔物の素材も結構な価値が出そうですしね」

レンジャーにしてはいい条件……のような気がする。
実際レンジャーだけで魔物を倒せるかというと難しいだろうし、このまま断るのも……悪い気がする。

(なんだこの…この違和感。そういえばレンジャーはまだ何か対人の技があった気がするんだが……
まぁいいか)

持ち前の前向きな姿勢がヒュミントに大きく影響され、結局ジャンは了承した。
0018ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/07(土) 16:59:44.80ID:AenxSHOl
「ティターニア、レンジャーってのは一人いるだけで安定するもんだ。
 魔術に頼った偵察が罠を見抜けずに踏み抜いた、なんて例はたくさんあるんだぜ」

いかに職業としてのレンジャーが有用であるかをティターニアに語っていると、ふと腹の音が鳴った。
昼に屋台でイモガエルのもも肉串を食ったばかりのジャンではなく、ティターニアでもないようだ。
ラテでもなかった。では誰かというと……

>「……はッ!」

分かりやすく顔を赤く染めている。刺客とは思えないほど感情を表に出すミライユに、ジャンはもしかすれば
刺客ではないのでは、と思い始めていた。

>「では、早速ですが、腹ごしらえでもしながらゆっくり語らうとしましょう。
今晩に限り、ティターニア様たちの分は、私の方でお出ししますので、お気になさらず」

そして何事もなかったかのように宿へ案内してくれ、おまけに奢ってくれるという。
普段泊まることのないような高級さを醸し出す宿は明らかに冒険者向きではないようにジャンには思えたが、
きっと首府のギルドの人間はこういった宿に泊まるのが一般的なのだろうと考えることにした。

ジャンはテーブルに座り、持ち慣れない銀のフォークやナイフをどうにか不器用に使いながら運ばれてきた料理を食べる。
正面にラテ、右隣にミライユ、左隣にティターニアという形になったが、護衛としては悪くない位置だ。
ただ、料理はあまり美味しく感じられなかった。

(奢りなのは嬉しいけどよ……そこらへんの屋台で肉串とかミルクパンでも食ってた方が気楽だぜこりゃあ)

客が少ないとはいえ、見た目はオークであるジャンをじろじろと眺める視線を入ったときから感じているのだ。
旅の途中でもこういった視線を感じることはあったが、よりにもよって居住種族が最も多いであろうここでもそうなるとは!

>「すっごい腕……よく鍛えられているし、大体の敵なら一薙ぎですね! ちなみにうちのマスターはここまで太くないですが、
力はもう、すっごいんです! この前の暴動のときもすごい活躍をして、五十人斬り?をやっても、全く動じてませんでした。その晩マスターは……」

居心地の悪さを感じ始めていた頃、ミライユが話しかけてきた。わざわざ右手を手に取って、分かりやすい世辞を飛ばしながら。

「お、おう……そうかい。ところでティターニア、結局洞窟に行くのは明日でいいのか?」

話をティターニアに振りつつ、早くこの料理が終わってくれと願いながらナイフで肉を切り分ける。
結局、ジャンはこの食事で腹が満たされることはなかった。
0019 ◆ejIZLl01yY 2017/01/07(土) 19:43:40.32ID:sAdh7jqa
(この人用途が分からない他人の装備は全部鈍器扱いしてる・・・?)
0020創る名無しに見る名無し2017/01/07(土) 22:44:34.47ID:rCRuv5O1
>>19
黙ってろ
0021ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/08(日) 21:27:49.06ID:+bm/sbWr
>「いえいえ、こちら側が勝手に視察を行っただけですから、私についてはお構いなく。
ギルドでは有名ですよっ! 特にマスターの部屋なんかにはティターニア様の……あっ」

世の中には部屋中に好きな吟遊詩人の肖像画を貼る人種も存在するがその類だろうか、と思うティターニア。
少し気にはなるも、うっかり口を滑らせたようだったので詮索はしないことにした。

>「ああ、俺としても歓迎だ。魔術も武器も使える奴ってのは貴重だからな」

おおかた意図は伝わったようで、ジャンもミライユの同行を承諾した、その時だった。

>「どーもこんにちわ!お話中にすみませんが今、洞窟の話をしてましたよね!」

「なぬ!?」

突然、目の前に先ほどのリスかハムスターのような雰囲気の少女が現れた。
隠密の魔術でも使ったのか?と一瞬思うが、魔術師といった出で立ちでもない。
ジャンが少女の素性を見極めようとするように、その全身を検める。

>「……見たところ、経験はあるみてえだな。その箱、ミミックだろう?
 単独で狩ったなら大したもんだ」

「すまぬな。別に変な意味で見ているわけではない。見慣れぬアイテムに興味津々といったところだ。
そなた、面白そうなものを色々持っておるではないか」

小柄ながらなかなかに健康的な肢体の少女である。
要らぬ誤解を招かぬように一言言い添えながら自分も改めて少女の出で立ちを見てみれば、
鞄代わりのミミックをはじめとして、全身を大量のマジックアイテムらしき装備品で固めている。
おそらくトレジャーハンターの類、ということは先程突然現れたように思えたのはレンジャーの姿隠しだろう。
その原理は、魔術師のやり方と発動の過程こそ違えど、魔力を纏っているというものらしい。
ティターニアは以前、盗賊少女を魔術師の素質ありとしてスカウトしたことがあるが
この世界における魔術師とシーフ・レンジャー系技能というのは実は素質に共通する部分があるのかもしれない。
実際冒険者にはその二つを兼ね備えた怪盗のようなクラスもあるし
和国のニンジャというのもレンジャー系技能と忍術という独特の術を併せ持つ、それに近いもののようだ。
0022ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/08(日) 21:31:12.26ID:+bm/sbWr
閑話休題――ラテと名乗った少女は、自分の目的地もテッラ洞窟だと言って、同行を申し出てきた。
只でさえかなり怪しい人物の同行を承諾した直後であり、ついでではないが心理的ハードルが下がっている。
その上密やかに行使されたヒュミントの効果もあり、ジャンがかなり承諾の方向に傾いている。
増してや――本人に自覚は無いが端から見ていればもうお気づきであろう。
ティターニアは可哀そうな子どもや危なっかしいドジっ娘や健気に頑張る若者には滅法弱い。

「我はティターニア。以後よろしく頼む」

ティターニアはラテの作戦の前にあっさり陥落した。効果はてきめんだ。

>「ティターニア、レンジャーってのは一人いるだけで安定するもんだ。
 魔術に頼った偵察が罠を見抜けずに踏み抜いた、なんて例はたくさんあるんだぜ」

「うむ、高度な魔術罠を見破れる魔術師が超単純な物理罠を見抜けるとは限らぬからな。
頼りにしておるぞ、ラテ殿」

そんなことを話していると――誰かの腹の虫が鳴った。

>「……はッ!」

ミライユが分かりやすく顔を染めている。
涼しい顔をしていれば分からないのに分かりやす過ぎィ!と内心思うティターニア。
先程のマスターの部屋の内情をうっかり言いかけた時の様子といい、自分達が疑い深くなっているだけで
単なる根っから明るいドジっ娘なのだろうか?との考えが鎌首をもたげてくる。
実際にはドジっ娘属性の有無と良からぬことを企んでいるか否かは何の関連性もないのだが、人間(エルフ)心理としてどうしてもイメージに流されてしまうものである。

>「では、早速ですが、腹ごしらえでもしながらゆっくり語らうとしましょう。
今晩に限り、ティターニア様たちの分は、私の方でお出ししますので、お気になさらず」

「それは誠にかたじけない。ではお言葉に甘えてご馳走になるとしよう」

ミライユに導かれるままに高級な宿付きレストランに入っていく一行。
オークはやはり暗黒大陸に多い種族であり、中央大陸程ではないといえこの西方大陸にもそれ程多くは無い。
外見がほぼオークのジャンは多種族が行き交うこの街でも高級宿となると目立つようで、視線を向けられ心なしか居心地が悪そうだ。
ジャンが人間――特に若い女性から見れば親しみやすい外見ではない事実を改めて思い出したティターニアは、二人にそれとなく怖がる必要はない事を伝える。

「このジャン殿は気は優しくて力持ちを地で行くとてもいい奴でな――
我は一応研究費を貰える身ゆえジャン殿には臨時助手ということで護衛をしてもらっておる。
……といっても上司部下といった堅苦しい関係ではない」

そこで少し視線を外し、半分噛みしめるように、半分冗談めかして言う。

「そうだな、英雄譚風に言うなら”仲間”――とでもいうのかな」

>「すっごい腕……よく鍛えられているし、大体の敵なら一薙ぎですね!」

「……」

視線を戻してみると、ミライユが積極的にジャンの腕を取って話しかけていた。
心配は杞憂だったようだ。それを見たティターニアはニヤリと笑ってからかうように言う。
0023ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/08(日) 21:36:10.12ID:+bm/sbWr
「ほほう、ミライユ殿はたくましい男性が好みか。
ああ、念のため申し添えると我とジャン殿は別に恋人関係というわけではないゆえ遠慮しなくても良いぞ」

学園のある種のサークルが作る自主制作の薄めの冊子の中ではそのようなジャンルも確立されているが
実際にはそのようなカップルが成立するのは非常に稀と思われる。
ただでさえエルフが他の種族とカップルになるのは珍しいというのもあるが、それに加えて。
これまで旅をしてきてなんとなく分かったのだが、どうやらエルフとオークでは美的感覚が決定的に違うようだ。
エルフが一般的に美しいとされるのは人間から見た時の話であり、そういう美的感覚を持つ人間が比較的多いからに過ぎない。

>「ちなみにうちのマスターはここまで太くないですが、
力はもう、すっごいんです! この前の暴動のときもすごい活躍をして、五十人斬り?をやっても、全く動じてませんでした。その晩マスターは……」

話を聞いていると、どうやらミライユは冒険者ギルドのマスターなる人物に心酔していることが分かってきた。

「ふむ、凄いものだな……一度お目にかかってみたいものだ。
ところで……そろそろ腕を離してやってはくれぬか、そのままでは食べられぬ」

ティターニアはそれなりに様になった手つきで料理を食べながら、ミライユにジャンを解放するようにそれとなく伝える。
ジャンもそろそろ困惑しているようで、ティターニアの方に話を振ってきた。

>「お、おう……そうかい。ところでティターニア、結局洞窟に行くのは明日でいいのか?」

「そうだな、下手に夜に動いても危険であろう。今日はここに泊まって明朝に出発するとしよう」

こうしてなんとも微妙な空気の晩餐会は過ぎてゆく――

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*
0024ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/08(日) 21:42:52.54ID:+bm/sbWr
さて、取ってある部屋は4人部屋であった。
特にミライユには警戒は必要になるが、いい方向に考えれば話すことで人となりを見極める良い機会でもある。
本当なら学園に寄って挨拶がてら報告もしたいところだが、後をつけられでもして今の時点で核心に気付かれてもよろしくない。
いつのも伝書フクロウ便でまあいいか――ということで、そのまま泊まることにした。
とはいえ、寝るにはまだ早い。
皆がひと段落ついた頃、ティターニアは自分のベッドのふちに腰かけ、学者の間で一般的に知られている知識の範囲で話し始めた。
一応ミライユからインタビューを受けるという名目になっているのと、こちらもミライユ達の反応を見るのも兼ねて、だ。

「我の専門は考古学でな、と一言でいってもまあ節操のないもので世界の謎を解き明かす学問、とでも言おうかな。
この世界と魔力や魔術は切り離せぬものであるゆえ魔術学園でも研究対象となっておるわけだ」

「我々の業界で今アツい話題と言ったら当然古竜の復活――
そなた達は竜の指環、というのを聞いたことがあるか?
古竜を倒せるとも伝説によっては自在に操ることが出来るとも言われておる。
まあおとぎ話のようなものだ。冒険者の中にはそれを真に受けて本気で探しておる大馬鹿者もおるらしいが……」

このご時世で竜の指環の話題を避けるのは逆に変であるため、敢えて当たり触りのない範囲で話題に出す。
ティターニアが言う大馬鹿者、というのはもちろん褒め言葉である。

「そういえば……最近中央大陸の沖合で突然島が浮上したらしいな。
あの辺りに沈んだ古代都市があったという伝説はあるのだが果たして関係あるのか無いのか」

「そうそう、古代都市といえば明日行くテッラ洞窟、地底都市への入り口があるとかいう都市伝説が学園生徒達の間でまことしやかに囁かれておるぞ。
といっても普段はしょっちゅう学園の生徒たちが探検にいっておるのだ、もしもそんなものがあったらとっくに見つかっておるだろうがな!」

「学生というのはその手の噂話が好きでの、あの想像力には感心するわ。
例えばダーマの図書館が無限地下ダンジョンになっておるとかな」

「古竜には四星竜という手下がおってそれらを全て倒さぬと親玉にたどり着けぬ、とかな。
自主制作の冊子で”奴は我ら四星竜の中では最弱……!”とか言わせてみたりの」

表向き友好的に腹の内を探り合う緊迫した心理戦でもあるのだが、どこか楽しんでいるようにも見えるティターニア。
一見とりとめのない話に見せかけてかなりギリギリの線を攻めてみたりしつつ、夜は更けていくのであった。
0025 ◆KxUvKv40Yc 2017/01/08(日) 22:25:34.57ID:+bm/sbWr
【一応テンプレ】

名前: ティターニア・グリム・ドリームフォレスト(普段は名字は非公開)
年齢: 少なくとも三ケタ突入 外見は若いが醸し出すオーラから年齢不詳な印象も受ける
性別: 女
身長: 170
体重: 52
スリーサイズ: 全体的に細身(エルフの標準的な体型)
種族: エルフ
職業: 考古学者/魔術師
性格: 学者らしく思慮深くもあるが本質的には大物か馬鹿か紙一重
変人でオタクだがなんだかんだで穏健派で情に流されやすい一面も
能力: 元素魔術(魔術師が使う魔術。魔術(狭義)といったらこれのこと)
武器: 聖杖”エーテルセプター” 魔術書(角で殴ると痛い)
防具: インテリメガネ 魔術師のローブ 魔術書(盾替わりにもなる)
所持品: ペンと紙 その他一般的な冒険者道具等
容姿の特徴・風貌: メガネエルフ。長い金髪とエメラルドグリーンの瞳。
エルフの標準体型だが人間から見れば長身痩躯。もしかしたら黙っていれば美人かもしれない。
簡単なキャラ解説:
ハイランド連邦共和国の名門魔術学園「ユグドラシア」所属の導師で、実はエルフの長の娘。
研究旅行と称して放浪していたところ偶然にも古代の遺跡の発見の現場に立ち会ったことをきっかけに
学園から正式に指環の調査の命を受け、紆余曲折を経てジャンと共に竜の指環を集めるべく旅をしている。


聖杖『エーテルセプター』
エルフが成人(100歳)のときに贈られる、神樹ユグドラシルの枝で出来た杖。
各々の魔力の形質に合わせて作られており、魔術の強化の他
使用者の魔力を注ぎ込んで魔力の武器を形作る事もできる。

魔術書
本来の用途以外に護身用武器防具としての仕様も想定して作られており、紙には強化の付与魔術がかけられている。
持ち運びのために厚さ重さが可変になっており、最大にすると立方体の鈍器と化す。
最初に持っていたものはアルダガ戦にて大破したため、現在のものは最新版である。
0026 ◆KxUvKv40Yc 2017/01/08(日) 22:26:41.72ID:+bm/sbWr
【ついでにラテ殿のも】

名前:ラテ・ハムステル
年齢:18
性別:女
身長:153cm
体重:54kg
スリーサイズ:わりと健康的
種族:人間
職業:トレジャーハンター兼行商人
性格:リアリストになりたいなぁと常日頃から思ってるお人好し
能力:レンジャーの心得スニーク編&サバイバル編・アイテム作成&合成・数奇な運勢
武器:大量の低レア武器・お手製魔力爆弾・未鑑定投射武器【不銘】
防具:帷子・大量の低レア防具・大量の加護アクセサリー・呪われた予言の石版
所持品:冒険者セット・エルダーミミックの死骸・お手製ポーション各種・お手製ドーピング薬・お手製、濃縮!ドーピング薬

容姿の特徴・風貌:赤毛のポニーテール・完全武装した子リスのような少女

簡単なキャラ解説:
共和国のレンジャーズギルドに所属する冒険者です
冒険者ってなんかカッコいい!なりたい!なノリで家を飛び出して早三年
ろくに弓も引けなかった小娘でしたが、やる気だけはあったので去年ついにトレジャーハンターとしての活動を許可されました!
でもお宝なんてそうそう見つからないので
副業として、数だけは集まる低レア武器や手作りアイテムを売り歩く行商人ごっこも最近始めました
ダンジョン内でしんどそうな人を見つけたら色々ちょっとお高めに売りつけては後で心を痛めています

素質的には正直ただの村娘Aと言われへこんだ事もありましたが
幸運にも見つけた幾つかのレア装備やお手製アイテムなどでがんばります

ちなみにトレジャーハンターって要はただの遺跡荒らし、盗掘家ですが
収穫物の何割かをギルドに献上する事でちゃんと社会に貢献しています
シーフとかアサシンとか、レンジャーズギルドにはその手の人材が結構いるようで、私は一応それらの講習も受けています
私掠船みたいなもんですね。低レア武器は献上の対象外なのでちょっと助かっています

テッラ洞窟には最近やたら強くなった魔物が出て来るって噂を聞いてやってきました
ギルドからの依頼じゃないので何か見つけても献上しなくていい!がんばろう!
0027 ◆KxUvKv40Yc 2017/01/08(日) 22:27:41.68ID:+bm/sbWr
『未鑑定投射武器【不銘】』
町に持ち帰って色々調べても未鑑定なままの武器。弓のような銃のようなパチンコのような?
間近で見ても輪郭がはっきり捉えられない。少なくとも私にはわかんない
でも未鑑定って事はつまり色んな可能性を秘めてるって事で、この武器はなんでも投射出来る
ちょっとお高い鑑定士に頼めばハッキリしそうだけど、鑑定が難しいって事は最悪とんでもなく呪われてるって事
呪われてるかどうかも未確定のままにしときたいからこのままでいーや

『呪われた予言の石版』
宝箱に『此処に古の預言者ナビィの遺した滅びを封じる。無知である事は、未知である事。その未来決して知るべからず』
とか書かれてた。知るべからずなら残さなきゃいいじゃんと思ったんだけど、この石版割れないの。なんで知ってるって?落っことしたから
ともあれこの石版は凄く頑丈なので、私は刻まれた文字に留め具を合成して盾にリメイクしました
ちなみに枕詞の呪われた、は予言ではなく石版の方にかかってるみたいで、実際文字を目にすると胸がモヤモヤする
多分だけど読んだら死んじゃう呪いとか施されてる。知るべからずだし
ちなみに私はなんて書いてあるか解読出来なかったから平気!
トレジャーハンターとして古代言語の勉強もした私が読めないから、多分まだ未発見の文字とかじゃないのこれ

『エルダーミミックの死骸』
幾人もの冒険者を喰らったミミックの死骸。私が倒したんじゃなくて、見つけた時には既に死んでた
すぐ近くに上半身のない骸骨があったから……うぅ、つまりそういう事だったんだろうなぁ
なんとも言えないけど、あの人より先に私が見つけてたら100%死んでただろうから、せめて両手を合わせて、遺骨は持ち帰ってギルドに弔ってもらった
ともあれこの宝箱、死してなお強い魔力を秘めている。具体的には中が超広い。詰め込んだ物の重さも感じない
低レア武器を沢山持ち帰って売るのって、人一人が持ち運べる重量を考えると効率悪いんだけど
私がそれで行商人の真似事が出来てるのはこの箱のおかげ。自分が箱の中に入るのはちょっと怖すぎてした事がない
0028ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/09(月) 01:52:25.13ID:TGmddEgC
(……ん? あれは……)

先ほど別れたはずの1188番のラテ・ハムステルの気配がミライユの横にスライドし、
一瞬でティターニアの正面へと移動する。
ミライユはそれを目線だけで追っていった。

(へぇ……あの女、なかなかの使い手じゃないですか)

>「なので……もし良ければ私もそちらのパーティに混ぜてもらえませんか?」
「あ、もしお宝があっても、それはそっちの取り分で構いません!
 私一人じゃそもそも深い所まで行けないだろうし、
 強くなった魔物の素材も結構な価値が出そうですしね」
 
>「うむ、高度な魔術罠を見破れる魔術師が超単純な物理罠を見抜けるとは限らぬからな。
頼りにしておるぞ、ラテ殿」

上から目線も様になっている。あざといキャラだが、それは他人に言えたことではない。
しかし、ミライユはラテのその姿が気に食わず、思わず唇を軽く噛んでいた。

「あっ、そうだ」

ミライユはそういえば報酬などについてはまだ話していなかった。
天下のソルタレクの冒険者ギルドとて、ただ飯ただ宿を与えるだけの慈善事業ではない。
何よりマスターへの貢納という意味で収益がないのは色々とまずいのだ。

「では、私は報酬の4分の1を頂くということで結構です。お二人が半分で、
残りの4分の1はラテさんの取り分ということで、彼女にお任せします
財宝についてはティターニア様のものということで、邪魔をするつもりはございません!
もっとも、ギルドにとって無関係のものであれば、ですが!」

4分の1とはいえ、時には桁違いの収穫があることを、ミライユは身をもって知っている。
かつてはただの一冒険者だった立場だけに、金銭感覚にはシビアなのだ。
笑顔を崩さないまま、報酬については先におことわりを入れておいた。

――

結局のところラテはティターニアらのパーティーに入ることになった。
いや、むしろミライユの管理するパーティーへの同行を許可された、という感覚なのが彼女の正直な気持ちだ。
ティターニアたちはカネで操っている一人に過ぎない。主導権はこちらにあるのだ。

ラテに至っては「たかがフリーでヒラの冒険者が直轄のマネージャーと同じ立場に立てると思ったつもりか」
とすらミライユは感じていた。
『フェンリル』でも食事代と宿代を払わなくてはならないのは癪だが、一日の辛抱だ。

心理的に緊迫したミライユだったが、美味しそうな名物料理や酒の数々を目にすると途端に表情が明るくなり、
満面の笑顔でそれらにかぶりついていた。フリー時代からミライユは食いしん坊キャラで知られていた。

円形にテーブルでは左側にジャン、正面にティターニア、右側にラテがいる。
これだけ密着していれば相手の様子を観察するのは容易だが、とりあえず絡んだジャンがいまひとつの反応をした。

>「お、おう……そうかい。ところでティターニア、結局洞窟に行くのは明日でいいのか?」

どうやらティターニアの支持待ちらしい。一方、ティターニアは。
0029ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/09(月) 02:56:24.40ID:TGmddEgC
>「このジャン殿は気は優しくて力持ちを地で行くとてもいい奴でな――
我は一応研究費を貰える身ゆえジャン殿には臨時助手ということで護衛をしてもらっておる。
……といっても上司部下といった堅苦しい関係ではない」
「ほほう、ミライユ殿はたくましい男性が好みか。
ああ、念のため申し添えると我とジャン殿は別に恋人関係というわけではないゆえ遠慮しなくても良いぞ」

「勿論、たくましい男性が好みです! ただ、私は、先約がありますので、別にお付き合いしたいとかでは……
お二人ともやっぱり付き合うならたくましい男性が良いですよね、ね!?」

ティターニアとラテの両方の顔を見合わせながら、ジャンに笑顔を返す。
ジャンが食事をしにくそうにしているので、腕から手を離した。

(なるほど、良いことを聞きました。つまり、ティターニアの彼氏でもなければ、
どこかに所属している訳でもない…… ということは、こちら側に入れても問題ないですよね?)

「頼りになる方が助手で、ティターニア様もお喜びでしょう。ジャンさん、ところで、
冒険者ギルドには興味ありませんか? 今なら、私の権限で、仮会員証を発行できますが……!
ギルド正会員になれば、安定した収入も、夢じゃないですよ!」

周囲の客が「うるさいなぁ」という感じの視線をこちらに送ってくる。ついでに言えば、どうやらジャンの緑色の皮膚が
忌み嫌われているらしい。
テーブルを見ると食事や酒が殆ど無くなっていた。
半分近くはミライユ自身が飲み食いしてしまっていた気がするが……

「では、お会計は私のほうで、皆さん、宿が取れていますので、お部屋までどうぞ!」


――


宿は大部屋で、ベッドが横に一列に並んでいた。
配置が四角だったらどうしようと悩んでいたが、運に恵まれたらしい。
宿代を出している以上、ミライユが配置については注文をつける。

「では、男性のジャンさんが一番窓側で、その隣にティターニア様。これならお互い慣れてるし、何も起きません……よね?
その隣に私、そしてその隣のドア側にラテさん、でいかがでしょう?」

ジャンをギルドに勧誘するのは今である必要はない。最も情報を得なくてはならないティターニアをとりあえず、
ジャンの隣に置いて安心させ、話を聞き出す。そして、得体の知れないラテを孤立させ圧迫し観察する。完璧な配置だ。

「綺麗な部屋で良かった〜! これで、安心して、寝れそうです!」

ミライユはベッドに腰掛け、欠伸をすると、ローブと、続いてスカートを突然脱ぎだした。
その下はチェイン・メイルになっており、肩から腰にかけて防護しており、特に腹にはさらにチェインが巻かれている。
これは特に腹を意識して防護するものではなく、身体のラインを隠すのが主目的だ。少しでも注目されるのを避けるために。
そして腹のチェインと全身のメイルを脱ぐと、完全に下着姿になった。
胸は大きく、さらに目立つのは普段は見れないくびれた腰から尻への柔らかいラインだった。
細かい斬り傷や矢傷の痕が残っており、鍛えられた臍周りには痣のようなものも見られる。
0030ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/09(月) 02:57:07.56ID:TGmddEgC
「あぁー、重い重い! こうやって武装を取るとスッキリしますね!」

チラリ、とジャンの方を見て、目を合わせる。折角の機会なのだ。さらにティターニアの方を見て、
右隣のラテにも見せびらかす。スタイルなら勝ってはいるだろう。スタイルなら。

>「我の専門は考古学でな、と一言でいってもまあ節操のないもので世界の謎を解き明かす学問、とでも言おうかな。
この世界と魔力や魔術は切り離せぬものであるゆえ魔術学園でも研究対象となっておるわけだ」

ティターニアが眠るにはまだ早いとばかりに薀蓄を垂れ流しはじめる。
ミライユはそれを聞き流しつつ、下着の上から直接スカートを履き、ローブを着る。こうなると今までのミライユとは印象もだいぶ違う。
外に出ればあっという間に男達に襲われるだろう。

>「我々の業界で今アツい話題と言ったら当然古竜の復活――
そなた達は竜の『指環』、というのを聞いたことがあるか?
古竜を倒せるとも伝説によっては自在に操ることが出来るとも言われておる。
まあおとぎ話のようなものだ。冒険者の中にはそれを……」

(『指環』――!)

思わぬキーワードにグキリ、とローブを着込む体勢で驚いたので、腰を捻ってしまう。
ローブに手をかけたまま、ベッドに倒れこみ、ジタバタするミライユ。

「痛たた、何でもありません、何でもありませんったらー!!」

ジャラジャラジャラ……。

ミライユのローブの懐から、五枚ほどの銀色のプレートが音をたてて宿の床に落ちる。
No.547、No.780、No.1012、No.1017、No.1102
それは男女五枚の名前の刻まれたギルドの正会員証だった。

「うう〜、痛かったぁ……はッ!」

ようやく着替え終わったミライユは、ようやく大事なものを落としたことに気付いた。
他の三人にそれらを見る時間を充分に与えてしまう。恐らく名前も一部見られてしまっただろう。

「あぁ、うっかり落としちゃいました…… これ、ラテさんと同じでまだ正式にお渡ししていない会員証なんです。
あ〜 危ない危ない……これ失くしたら、マスターに怒られちゃいますね」

(……な訳ないでしょう! 余計なもの見られちゃったかなぁ?)

それは今回ソルタレクを出立する際、ついでにマスターに課せられた任務。
――「偽の任務で特に素行の悪い会員五名を"始末"してこい」との内容。

相手は男三人、女二人。ミライユは前もって六人パーティーを組み、その中でも男二人とは特に親しくして、
金を払って自分の傘下に引き込んだ。
そして目標のポイント。ミライユたちはキャンプと偽ってまずは男二人と組んで残りの男を抹殺し、女二人を攻撃した。
ミライユからは「好きにして良い」と言われていた男たちは、それなりの反撃を受けながらも女たちに重傷を負わせ、慰み者にした。
男とミライユが女たちを殺すと、次は男たち二人をミライユは脅した。最初男たちは抵抗したが、ミライユの強さを前に屈し、最後は「殺し合って生き残った方を助ける」
というミライユの提案に乗り、殺し合いが始まった。それをミライユは唇を吊り上げながら観察し、最後に生き残った男も命乞いをさせた上で殺した――。
以上が事の顛末だった。

一瞬だけ当時の光景が思い起こされたが、五枚の会員証をさっさと懐に回収すると、既に頭の中は指環のことで一杯だった。
「弱いのが悪い」それがミライユの考え方。マスター以外は転がっている石くれに過ぎない。
0031ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/09(月) 02:58:30.07ID:TGmddEgC
「指環……ですか。フリーの頃に聞いたことがあります。ワクワクしますね。
お手伝いします! ご一緒に気合、入れて、探しましょう!」

勿論嘘だ。指環などを見つけたら……

(殺してでも、奪い取らなくてはなりませんね……!)

ミライユの心は先ほどのミスと指環の話で少々、動揺していたが、
止めどなく続けられる薀蓄に、少しずつ心が安らいでいくのだった。

>「そうそう、古代都市といえば明日行くテッラ洞窟、地底都市への入り口があるとかいう都市伝説が学園生徒達の間でまことしやかに囁かれておるぞ。
といっても普段はしょっちゅう学園の生徒たちが探検にいっておるのだ、もしもそんなものがあったらとっくに見つかっておるだろうがな!」

「アハハっ! 確かにそうですね! 修学旅行気分で、探検、楽しみましょう!
私は、ティターニア様の面白いお話をお聞かせ願えれば充分ですから!」

>「学生というのはその手の噂話が好きでの、あの想像力には感心するわ。
例えばダーマの図書館が無限地下ダンジョンになっておるとかな」

「ダーマですか! 私、子供の頃はダーマのファンで、色んな伝説の本を読んでたんですよ!
今思うと、無限地下ダンジョンなんて、魔法の力でいくらでもできるじゃないですか。
しょぼーん。大人になるって、嫌ですね〜!」

気がつくと酒やツマミを片手にニコニコと笑顔を振りまきながらミライユは談笑していた。
ティターニアのベッドの周りにジャンやラテが集まり、ある種寝る前の怪談話のようになっている。

「それじゃ、ティターニア様の次はジャンさん、その次はラテさん、って感じで話していきませんか?
面白くなかったら、罰ゲームってことで!」

ミライユが勝手に提案し、話は勝手に盛り上がり、夜は更けていった。
自分の番になるとマスターの武勇伝や自分がやらかしたドジなどについて語り、場を適度に和ませる。

ティターニアの男性経験についてつついたり、ジャンに抱きついて仮会員証を無理やり懐に入れたり、
ラテをふざけて脱がせようとし、トランジスタグラマーの恐ろしさについて語ったりしながら、
やがてだらしなく自分のベッドで布団もかけずに眠りにつこうとするミライユ。

しかし、彼女の頭の中は、指環への野心とティターニアへの興味で一杯だった。

(ティターニア――この女ならきっと何かを知っています。
必ず、指環を見つけ出させ、マスターへのお土産にしてみせます。
たとえ、誰かに犠牲になってもらおうとも……!)
0032ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/09(月) 09:41:11.99ID:TGmddEgC
【用語のミスがありましたので訂正を。】

>>28 上から目線も様になっている。→上目遣いも様になっている。
0033 ◆ejIZLl01yY 2017/01/10(火) 19:25:07.03ID:sFDXsjz1
>「ティターニア、レンジャーってのは一人いるだけで安定するもんだ。
 魔術に頼った偵察が罠を見抜けずに踏み抜いた、なんて例はたくさんあるんだぜ」

>「うむ、高度な魔術罠を見破れる魔術師が超単純な物理罠を見抜けるとは限らぬからな。
  頼りにしておるぞ、ラテ殿」

「やった!ありがとうございます!まっかせといて下さい!」

やったー!自分の実力が認められるって嬉しいよね!
いやー洞窟探索に向けて心強い仲間が出来たなぁ。
……い、いや、この二人とミライユさんに近づいた理由も忘れてませんけどね?

別に嬉しくてつい素が出たとかじゃないし。これもヒュミントだし。
ティターニアさんの手を取ってぴょんぴょん飛び跳ねちゃったのもヒュミントの一環だし。
う、嘘じゃないし……。

と、不意にぐうぅ、と異音が聞こえた。
異音っていうか、腹の音だよねこれ。
聞こえたのは……ミライユさんの方からだ。

うわ、めっちゃ顔赤くしてる。かわいい。
本当に……さっき私に殺気を向けた人とは思えない。
これは……ヒュミントなんだろうか。それとも、これがこの人の「素」?

>「では、早速ですが、腹ごしらえでもしながらゆっくり語らうとしましょう。
  今晩に限り、ティターニア様たちの分は、私の方でお出ししますので、お気になさらず」
 
>「それは誠にかたじけない。ではお言葉に甘えてご馳走になるとしよう」

まぁそんなこんなで宿を取って夕飯を食べに行く事に。
ここアスガルドは大量のマジックアイテムが集まる性質上、冒険者達も集まりやすい。
買い手として、或いは売り手として。

だから懐に優しい感じの宿を探して回る必要もないんだよね。
ほら、ミライユさんも迷いない足取りで『フェンリル』へ……ってちょっと待ったぁー!

ここ超お高い感じなところじゃん!
フェンリルって言ったら「名前の由来は生半可な輩が足を踏み入れると財布の中身を食い尽くされるから」
なんて噂される、清々しいほどお金持ちをターゲットにした高級ホテルですよ!

いやまぁ、ソルタレクのギルドマネージャーともなればお金には困ってないんでしょう。
それにジャンさんとティターニアさんに取材してる立場なんだっけ?
だったらそれなりの宿やご飯を用意しなきゃいけないのも分かる。

しかしこの出費は私に痛恨の一撃!
さっき報酬として収穫の四分の一はもらえるって話になったけど、だからって出費が大きくていい訳じゃないんだよぉ。

なんて私が頭を悩ませてたら、ミライユさんがさらっと四人分の宿代を払ってた。
あれ?もしかして私も「ティターニア様たちの分」に含まれてたり?
……こ、ここは素直に感謝しておこうかな!

>「すっごい腕……よく鍛えられているし、大体の敵なら一薙ぎですね!」

こうしてる分には、感じの良い女の人なのになぁ。
この底抜けの明るさが、かえってあの乾き切った殺気を私の記憶の中で際立てている。

私は冒険者同士で争うのとか、あんま好きじゃないし、出来ればミライユさんとも仲良くしたい。
とは思うんだけど、感覚だけで生きていけるほど私は強くないからなぁ。
ミライユさんは、なんで私を殺そうと思ったんだろう。
0034 ◆ejIZLl01yY 2017/01/10(火) 19:25:38.66ID:sFDXsjz1
……あ、この猛火牛のフィレ肉のグリルめちゃくちゃおいしい!
猛火牛ってのはその名の通り、とんでもない勢いの炎を吐いたり、炎を纏っての突進をかましてくるモンスター。
その火力の秘密は体中に溜め込んだ燃料……つまり脂なのだ。

だから猛火牛のお肉ってすんごいおいしいの。
口の中でとろけるって表現はこの牛の為にあると言ってもいい。
仕留めた剣を思わず舐めたくなるなんて噂まで聞くけど、これは確かに舐めちゃうかもしれない!

でも猛火牛は戦闘態勢に入ると体内の脂を放火用の臓器や角などに移動させちゃう。
そうなるともうお肉もパサパサ。
まぁそれはそれで戦士系の人達が肉体作りに重宝してるんだけど。

とにかく、猛火牛をおいしいままで仕留めるには熟練の技が必要なのです。
それに加えて調理も単純だけど難しい。
その素晴らしい脂が落ちないよう、それでいて生焼けに感じさせない絶妙な火力と時間感覚が求められるからだ。

っとと、そんな職人芸の結晶を冷ましちゃ罰が当たっちゃう。
ので二口目を……お、おいひい!

>「ほほう、ミライユ殿はたくましい男性が好みか。
  ああ、念のため申し添えると我とジャン殿は別に恋人関係というわけではないゆえ遠慮しなくても良いぞ」

>「勿論、たくましい男性が好みです! ただ、私は、先約がありますので、別にお付き合いしたいとかでは……
  お二人ともやっぱり付き合うならたくましい男性が良いですよね、ね!?」

私が目の前の皿に心を奪われてると、ミライユさんが話を振ってきた。
この人、めいっぱいジャンさんをからかうなぁ……。

「まぁ、弱いよりは強い方がいいですよね。こんな稼業ですし」

まぁ私も乗るけどね!見るからに困っててちょっと面白いし。

「それにジャンさんは心根も優しそうです。強さよりも、私はそっちのが好印象だし大事かなぁ。
 どんなに強くたって、性根がねじ曲がってたらただの超嫌なヤツですもん。
 ……パーティ、入れて下さって本当にありがとうございます。私、明日はばっちし頑張りますから!」

おーっと、ここでラテちゃんのレンジャーズギルドお墨付きスマイルが炸裂ぅー!

そう言えば、よく作り物めいた笑いを指して「目が笑ってない」って表現するよね。
あれってなんでそうなっちゃうか知ってる?
普通、自分が今から騙そうと思ってる相手からは目を離したくないよね。
だから笑ってるのに目だけぱっちりになっちゃうんだってさ。

つまりどういう事かって、私のこのスマイルは完璧って事。
だって騙すつもりなんて別にないんだもん。

なんて話をしてたら、いつの間にかテーブルの上の料理はあらかた無くなっていた。
大皿料理は殆どミライユさんがたいらげてたような……あの細い体のどこにそんな質量を。

>「では、お会計は私のほうで、皆さん、宿が取れていますので、お部屋までどうぞ!」

しかしここの料理のレベルはめちゃくちゃ高かった。
多分お値段もめちゃくちゃ高かったんだろう。
これはお部屋のグレードにもかなり期待が高まっちゃいますよ。
0035 ◆ejIZLl01yY 2017/01/10(火) 19:26:35.20ID:sFDXsjz1
そんな訳でお部屋へ。なんかもうドアの時点でそこらの安宿とは違う。
蹴れば破れるような薄板じゃなくて、重厚そうな……これはフェアリーズベッドかな。

めちゃくちゃ硬い上に強靭、しかも磨くとすごくきれいな艶が出る木なんだけど、
妖精の寝床って呼ばれるだけあってあんまり背が大きくならないんだよね。
木一本からこのドア一枚削り出してるレベルなんじゃないかな。
このドアのお値段だけで、私が普段泊まるような宿屋なら二週間くらい泊まれちゃうかも。

そんな事を考えてると、ドアの解錠音が聞こえた。
ジャンさんの小脇ごしに、部屋の中を覗き見た感想は……

……めちゃくちゃ広い!それに綺麗だ!いい匂いもする!
照明も天井に散りばめた魔導クリスタルを介した光魔法で目に優しい明るさ!
備え付けのお菓子やお酒もさり気なく高級品だ!これは部屋代とんでもなさそう!

はい、ここまで僅か一秒弱。これがトレジャーハンターのスキル【目利き】です。
洞窟内で披露するタイミングがなかった時の為に使っておきました。

>「では、男性のジャンさんが一番窓側で、その隣にティターニア様。これならお互い慣れてるし、何も起きません……よね?
  その隣に私、そしてその隣のドア側にラテさん、でいかがでしょう?」

「え?あぁ、私は別にどこでもいいですよー」

……っと、なんか素で答えちゃったけど、わざわざ指定してきたって事は何か意味があったのかな。
でもどういう配置になっても、結局事が起こる時は起こるだろうし、逆も然り。
運否天賦でしかない状況で大事なのは、現状のデメリットを理解しつつ、前向きである事なのです。

例えばミライユさんの言った並び順なら、少なくとも私に危険は無さそう。
だって自分からジャンさん達に声をかけていってこの状況を作ったのに、それをぶち壊す意味がないし。
いや、初対面で殺気を向けてくる人に「意味がないから殺されない」はちょっと怖いけど。

>「綺麗な部屋で良かった〜! これで、安心して、寝れそうです!」

まぁ、この並び順にして何か突発的なメリットが生まれればそれでよし、くらいの感覚なのかな。
だからミライユさんもこうして呑気に振る舞ってるんだろう。

……って、うわっ!早速脱いでるしこの人!
一応ジャンさんがいるんだし、一言断った方が良かったんじゃ。
この人の中の公私はどういう形で分離してるのか、私にはよく分かんない……。

>「あぁー、重い重い! こうやって武装を取るとスッキリしますね!」

ていうかこれ見よがしに見せびらかしてるし、これさっきの続きのつもりなのかな?
うーん流石にちょっと趣味が悪い気もする。

けど、細いなぁこの人。
さっきの強さを見てなかったらちょっと健康を心配するレベルで細い。

しかしあれだけ食べてこの細さ……うーん、世の女性は羨んでやまないだろうなぁ。
私?私は食べたら食べただけ太るけど、ちゃんと運動してますから。
ダンジョンでモンスターから逃げたり、断崖絶壁から向こう岸にジャンプしたり、徐々に降りてくる岩の扉の下に滑り込んだり。
ヘマをやらかさなくなったら、今よりもうちょっと太るかもなぁ……。

>「我の専門は考古学でな、と一言でいってもまあ節操のないもので世界の謎を解き明かす学問、とでも言おうかな。
  この世界と魔力や魔術は切り離せぬものであるゆえ魔術学園でも研究対象となっておるわけだ」

まぁそんなこんなで荷物の整理とかお風呂とかを終えた後、
ティターニアさんがインタビューへの応対をしようかと切り出した。
0036 ◆ejIZLl01yY 2017/01/10(火) 19:26:49.93ID:sFDXsjz1
>「古竜には四星竜という手下がおってそれらを全て倒さぬと親玉にたどり着けぬ、とかな。
  自主制作の冊子で”奴は我ら四星竜の中では最弱……!”とか言わせてみたりの」

そうして語られた古竜と指環の伝説は、私も聞いた事がある。
普通に有名な話ってだけじゃなくて、トレジャーハンターは知っているのです。
それらは決して、根も葉もないおとぎ話なんかじゃないって。

何の理由もなく、きっかけもなく、伝説は生まれたりしない。
作り話だったとしても、何かしらの原型やモチーフが存在する筈。
だから私達はそのおとぎ話を調べて、調べて、調べ上げる。
例えそのおとぎ話が作り話だったとしても……その原点には、もしかしたらお宝が眠っているかもしれないからだ。

……って感じの事を喋りたい!
トレジャーハンターやってる身としてはその話すっごく乗っかりたい!
けど邪魔しちゃ迷惑だろうから大人しくしてます。しょんぼり。

>「痛たた、何でもありません、何でもありませんったらー!!」

うわぁ!びっくりしたぁ!
驚いて振り返ると、ミライユさんがローブを着る途中でベッドに倒れ込み、藻掻いていた。
どうも腰を捻ったみたいなんだけど、自分から取材を申し込んだのにこの人ちょっと自由過ぎる……。

あ、なんかローブから零れた。
あれは……冒険者ギルドの会員証?

>「うう〜、痛かったぁ……はッ!」

ようやく痛みが引いたらしくミライユさんはローブの襟ぐりに頭を通す。
そして……自分が落っことしたものに気づいた。

>「あぁ、うっかり落としちゃいました…… これ、ラテさんと同じでまだ正式にお渡ししていない会員証なんです。
  あ〜 危ない危ない……これ失くしたら、マスターに怒られちゃいますね」

そそくさと会員証を拾い上げつつ、ミライユさんはそう言った。
まぁ……私はもう、今更だから特筆すべき事はない。
あえて言うなら、改めて嫌な現実を目の当たりにさせられて胸がモヤモヤしてます。
うーん……これでジャンさん達が彼女に不信感を抱いてくれればラッキーだけど。

>「指環……ですか。フリーの頃に聞いたことがあります。ワクワクしますね。
  お手伝いします! ご一緒に気合、入れて、探しましょう!」

ミライユさんが話題を指環へと戻す。

ティターニアさんは見た目からは分からないけど、やっぱり人生経験が豊富なんだろう。
私がトレジャーハンターって事を除いても、聞き入りたくなるような話し方が上手い。
そこにミライユさんも加わって、時たま皆に話を振るもんだから、
いつの間にか取材と言うよりただの談話会みたいになっちゃった。

>「それじゃ、ティターニア様の次はジャンさん、その次はラテさん、って感じで話していきませんか?
  面白くなかったら、罰ゲームってことで!」

あ、これまた気分だけで喋ってるやつだ。
私なんとなくだけどこの人の事が分かってきた気がする。
切り替えが早すぎるんだ。そう、色んな事に無頓着過ぎる。
今んとこ例外は、マスターの話をしている時くらい……と。

「えぇー……どんだけジャンさんを困らせたら満足するんですかこの人……。
 まぁ、ご愁傷様です。私先にお話するんで、頑張ってネタ考えといて下さい」

こほん、と咳払いを一つ。
0037 ◆ejIZLl01yY 2017/01/10(火) 19:35:19.32ID:sFDXsjz1
「……それじゃトレジャーハンターらしく、私も指環のお話を」

ちょっとさっき書いた事の焼き直しになっちゃうんだけどね!許してね!

「知ってましたか?古竜と指環の伝説って、地方によって少しずつ形が違うんですよ。
 例えば帝国の方では、指環は最後火山に投げ入れられ、ベヒモスに委ねられておしまい。
 って話が広く伝わってますが、実はそれ以外にも口承として色んな話が残ってるんです」

昔調べた事を振り返るように冒険の書をぱらぱら捲りつつ、私は喋り出す。

「指環は奪い合いの末、滅びた古代都市と共に海の底に沈んだとか。
 指環を巡る争いに嘆いた大地の神が体を震わせ、それが大地震となって地面を割り、指環を手にした勝者をも飲み込んだとか。
 指環の力は一つの都を滅ぼすどころか、灰燼に還してしまい、その跡地は今では大砂漠になっているとか。
 指環は人の世には過ぎた力だと、時の聖女が神の落とした雷に指環を結んで、天に召し上げられた勇者へ返したとか……
 地獄の大穴に返された、なんてパターンもありますね」

節操ねーなー!って思うじゃん?
でもこれって実は、ちゃんと元を辿っていけば納得のいく理由があるの。

「これらは多分、どれもベヒモスに委ねられたって所から始まってるんです。
 ベヒモスは、神々の時代から今の世に至るまでに、色んな姿を想像され……与えられてきましたからね。
 例えば大地を支える巨大魚バハムートは、元々はベヒモスの名を読み替えたものと言われてます」

つまり大地震がーって説はここから来てる可能性が高いって事。
火山の説はベヒモスが一千の山のある地に住むと言われていたから。
砂漠の説はベヒモスの背中には大きな砂漠があるって話だから。
海底の説はベヒモスが元々は海に住んでたとか、バハムートが魚の姿だから。

地獄の底にって話は……地方によってはベヒモスは悪魔として扱われてるからかな?

「勿論、中には本当にただの作り話もあるでしょうけどね。
 でも……その中の幾つかは、元を辿っていくとたった一つの言葉に収束する。
 そう考えると……古竜と指環の伝説、なんだか信憑性があるように思えてきませんか?」

いやね、実際あり得る話だと思うんですよ私。

「少なくともこの世界は、古い古い神様達が一週間で天と地と命を創り出したって奇跡の上に成り立ってる……なんて話もある訳で」

一週間って。絶対半分くらいノリで創ったでしょ世界。
なんか動物達にやった寿命いらんって返されたから全部エルフと人間にやるわの下りとか。
半々くらいにするつもりがエルフに多くやりすぎたけどめんどいしこれでいいわとか。

いや、大変ありがたいんですけどね。
長いようで、少し短い命を与えられたからこそ、人間は限られた生命の中を走る事が出来た。
だから色んな発見や成功を掴み取って、文明を築いてこれたのだ。
ちょっと話が逸れたけど要するに。

「その奇跡に比べれば、古竜や指環なんて全然あり得る話でしょ」


【ネタの種にでもなればいいなって感じで!】

ちょびっと余白があるし、また落書きしちゃおうっと。
そんなこんなで消灯したんだけど、その時に部屋のあちこちに魔力の糸を張ってたら変な目で見られちゃった。
トレジャーハンターってやっぱりお宝を持ってるってイメージが強いから、寝込みを襲われる事もあるみたいなんだよね。
だからレンジャーズギルドでは、寝る前に何かしらの夜襲対策を徹底するよう教育されるの。

ちなみに糸は切れても特に何も起こりません。
ただ私の指に繋がってるから、切れたら分かるし私が飛び起きるってだけ。
別にミライユさんを警戒してって訳じゃないんだけど、誤解されたらちょっとやだなぁ……すやぁ。
0038ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/11(水) 22:32:45.08ID:HSn1eE9u
ジャンにとって人生で最も気まずい晩餐が続く中、ティターニアがジャンのことを話題に出した。
早く食事を終わらせるために黙々とうつむいて食べていたジャンにとっては後ろから味方に斬られたようなもので、
冷や汗がじっとりと背中を伝うのをジャンは感じていた。

>「勿論、たくましい男性が好みです! ただ、私は、先約がありますので、別にお付き合いしたいとかでは……
お二人ともやっぱり付き合うならたくましい男性が良いですよね、ね!?」

>「まぁ、弱いよりは強い方がいいですよね。こんな稼業ですし」

>「それにジャンさんは心根も優しそうです。強さよりも、私はそっちのが好印象だし大事かなぁ。
 どんなに強くたって、性根がねじ曲がってたらただの超嫌なヤツですもん。
 ……パーティ、入れて下さって本当にありがとうございます。私、明日はばっちし頑張りますから!」

他の二人まで話題に乗ってきた。冒険者として10年ほど経験を積んでいるジャンは恋愛経験がないわけではなかったが、
それでも女性からこのような話題を振られるのは、はっきり言って経験がなくジャンは返答を考えるのにかなりの時間がかかる。

(いつも他の奴と組むときは男ばっかりだったからな……人間やエルフの女冒険者は見た目がオークってだけで嫌な目で見てくるしよ……)

雄のオークは性欲が強く、異種族を平気で襲うと他種族からは思われているが、実際は違う。
傭兵や船乗り、大工を営むことが多いオーク族は必然的に肉体労働をする者が多く、そういった仕事の近くには必ず需要に対する供給として
性関係の仕事が存在し、仕事帰りの雄のオークがよくそこに通っているというだけなのだ。
もちろん山賊や野盗に転落してしまったオーク族もいるが、犯罪に身をやつす者はどの種族にもいる。

「二人とも、お世辞だとしても嬉しいけどな。あんまり男を褒めるもんじゃねえぞ。すぐに調子に乗るからな……」

喋り終えたときふと、ジャンは昼に冒険者ギルドで聞いた噂を思い出していた。
男女混合で活動していたパーティーが全滅、理由はおそらく恋愛関係。

(――いや、俺たちもそうなるか、なんて考えすぎだな。「あなたに惚れました!」なんて俺に言ってくる人間の女は
みんな冒険者に見せかけた盗賊だった。やっぱり女はオークの女が一番だ)

>「頼りになる方が助手で、ティターニア様もお喜びでしょう。ジャンさん、ところで、
冒険者ギルドには興味ありませんか? 今なら、私の権限で、仮会員証を発行できますが……!
ギルド正会員になれば、安定した収入も、夢じゃないですよ!」

ジャンの腕から手を離し、ようやく食べることに集中できるとジャンが思った直後に
またミライユが話しかけてきた。今度は冒険者ギルドへの勧誘らしい。
0039ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/11(水) 22:33:09.85ID:HSn1eE9u
「……悪いけどよ、俺もう入ってるんだわ」

そう言って腰の布袋の紐をほどき、中から取り出した冒険者ギルドの会員証を見せる。
鉄で作られたそれには短い文章が刻まれていた。

『以下の者を冒険者として認める。ジャン・ジャック・ジャンソン』
『鋼鉄都市スクリロ支部 No.95 鶴嘴の月 銅の日』

ちなみに鋼鉄都市スクリロはハイランド連邦共和国の湾岸部にまたがる細長い都市の名であり、
地下に大量の鉱脈を持つ巨大鉱山でもある。

「だからよ、二重に入るってわけにもいかねえだろう。そこらへんの規則はよく知らないけどよ」

ミライユの勧誘を断っている間、気がつけば食事がようやく終わっていた。会計は言われた通りミライユに任せ、部屋へと向かう。
部屋は普段泊まっている安宿とは違い床はきしむ音がせず、ベッドは白さのあまり輝いて見える。

>「では、男性のジャンさんが一番窓側で、その隣にティターニア様。これならお互い慣れてるし、何も起きません……よね?
その隣に私、そしてその隣のドア側にラテさん、でいかがでしょう?」

あまりの高級さに気後れしていると、ミライユがベッドの配置を指定してきた。食事代や部屋代を出されている以上文句は言えないが、
護衛主であるティターニアと離された位置に置かれるのであれば警戒する必要がある。
だがそうはしないところを見ると、どうやら監視以上の目的はないのかもしれない。

「ああ、それでいいぜ。俺もいざって時には助手としての役目を果たせるってもんだ」

そうしてベッドに腰かけたミライユは、いきなり防具どころか服を脱ぎ始めた。
唐突に起きた目の前の事態にジャンが呆然とベッドに座っているのを見ると、チラリと目線を合わせてくる。
0040ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/11(水) 22:33:33.66ID:HSn1eE9u
>「あぁー、重い重い! こうやって武装を取るとスッキリしますね!」

どうやらジャンに見せるつもりだったらしいが、ジャンとしては娼館でたまに見るストリップより色気が感じられなかった。
そういったやり取りを続けているうち、ティターニアがベッドに腰かけて例のミライユからの取材に答え始めた。

>「我の専門は考古学でな、と一言でいってもまあ節操のないもので世界の謎を解き明かす学問、とでも言おうかな。
この世界と魔力や魔術は切り離せぬものであるゆえ魔術学園でも研究対象となっておるわけだ」

>「我々の業界で今アツい話題と言ったら当然古竜の復活――
そなた達は竜の指環、というのを聞いたことがあるか?
古竜を倒せるとも伝説によっては自在に操ることが出来るとも言われておる。
まあおとぎ話のようなものだ。冒険者の中にはそれを真に受けて本気で探しておる大馬鹿者もおるらしいが……」

どうやら探りを入れてみるつもりのようだ。ジャンはこういう腹の探り合いが得意ではないし、好きではなかったので
黙ってベッドの隅に座り、三人の華やかな話し合いを聞いておくことにした。

話し合いの中、いきなり金属音が部屋に響いた。ミライユが何かを落としてしまったらしく、必死にかき集めている。
ジャンの視点から見えたのは冒険者ギルドの会員証、それも正会員証だ。

>「あぁ、うっかり落としちゃいました…… これ、ラテさんと同じでまだ正式にお渡ししていない会員証なんです。
あ〜 危ない危ない……これ失くしたら、マスターに怒られちゃいますね」

(ギルドの会員証ってのは、ティターニアへの取材よりは優先度が低いみてえだな……やっぱり監視に来てるのか?)

>「それじゃ、ティターニア様の次はジャンさん、その次はラテさん、って感じで話していきませんか?
  面白くなかったら、罰ゲームってことで!」

話が進むにつれておかしなことになってきた。そろそろジャンが寝るかと毛布をかぶり始めた頃に
いきなりミライユがまた話題を持ち掛けてきたのだ。

>「えぇー……どんだけジャンさんを困らせたら満足するんですかこの人……。
 まぁ、ご愁傷様です。私先にお話するんで、頑張ってネタ考えといて下さい」

どうやらラテが考える時間をくれるようだ。ジャンはラテの話を聞いている間
何を話そうかとずっと考えていたが、やがて一つの話を思い出した。

「俺の番みてえだな、じゃあ……旅の途中に出会った、喋る竜の話でもするか」

「その竜はダーマ魔法王国のアールバト山脈に巣を構えていてな、通りがかる旅人に昔話を語るのが趣味だった。
 昔話と言ってもそいつは長生きだったみたいでな、数千年前の話を平気でするんだ。まるで昨日の話みたいにな」

「その話の中で一番興味深かったのは、今思えば指環の話だな。なんでも竜の指環ができる瞬間に立ち会ったって言うんだ」

「古竜とその眷属たる全ての生き物が集まり、この世界を作る四つの力との契約が行われた指環。
 力ある者が嵌めれば世界を理解し、世界の王どころか世界そのものになるであろう……なんて言ってたな」

やがて夜が深くなる頃、ジャンはベッドの中で今度は夢を見ることなく、ぐっすりと眠っていた。
0041創る名無しに見る名無し2017/01/12(木) 23:57:01.34ID:ShCyPSR1
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0042創る名無しに見る名無し2017/01/13(金) 00:01:08.47ID:7iGWlzhX
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鵜め
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0059ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/13(金) 21:22:41.92ID:ZQAFYa48
何を思ったかいきなり服を脱ぎ始めるミライユ。
ローブ姿を見る限り自分と大差無い細身だとばかり思っていたが
下に着こんだ鎧や鎖によって凹凸を少なく見せていたようで、グラマラスなメリハリボディが現れる。
ちなみにティターニアは普通に魔術師のローブだけだが、魔術による加護がかかっているので防御力はそこらの鎧には引けを取らない。

>「あぁー、重い重い! こうやって武装を取るとスッキリしますね!」

明らかに見せびらかしているようだが、残念ながらジャンとラテには生暖かくスルーされているようだ。
もしもここが真面目と品行方正を良しとする中央大陸であったら、全くもって正しい反応であろう。
しかしここは西方大陸。多種族が住まい寛容と和とウィットとボケとツッコミを良しとする自由な大陸。
そう言ってしまえば住みやすそうだし実際住みやすいのだが、
人間至上主義の独裁体制、逆に言えば終始偉い人に目を付けられないように大人しくしていればどうにかなる中央大陸とは違った意味で過酷な世界でもある――!
という謎の理論による使命感によるものかは知らないが。

「ふむ、少し触らせてはくれぬか。よいではないかよいではないか、我はそなたのような娘が嫌いではないぞ」

ニヤニヤとした笑みを作りながら構えを取る。哀れミライユはBBAエルフの毒牙にかかってしまうのか!?
しかし実際には指一本触れることはなく手を下ろし、いつもの穏やかな微笑みで諭すように言うのだった。

「――安心せい、冗談だ。
しかし……切り札はいざという時のために取っておいた方がよい。
人は秘められたものに人は心惹かれるものだ、古代の秘宝然り、世界の真実然り、な」

イマイチ分かりにくいが彼女が行ったのは渾身のノリツッコミ―― 一旦乗ると見せかけてツッコむという高度な技法である。
忘れがちだがこれは極限の心理戦、常に相手の上手を行きアドバンテージを取るのだ――!
ティターニアが指環という言葉を口にしたところで、ミライユが腰を捻ってベッドに倒れこむ。

「大丈夫か!?」

>「痛たた、何でもありません、何でもありませんったらー!!」
>「あぁ、うっかり落としちゃいました…… これ、ラテさんと同じでまだ正式にお渡ししていない会員証なんです。
あ〜 危ない危ない……これ失くしたら、マスターに怒られちゃいますね」

それにしては会員証の番号がやけに飛び飛びだった気がするが……。
と疑問を持つも、直接にミライユに殺意を向けられてはいないティターニアは
まさかこのドジっ娘が会員を冷酷無慈悲に抹殺したとまでは考えが至らない。
あんなに料理を美味しそうに食べる様を見せられては猶更だ。
0060ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/13(金) 21:24:55.30ID:ZQAFYa48
>「それじゃ、ティターニア様の次はジャンさん、その次はラテさん、って感じで話していきませんか?
  面白くなかったら、罰ゲームってことで!」

こうして、一人ずつ伝承等の話を披露する流れとなる。
トレジャーハンターのラテは、レンジャーとしての腕前だけではなく伝承知識も豊富のようだ。
ベヒモスが登場する一連の神話――そういえば、あのヴォルカナで戦ったベヒモスはどうなったのだろうか、ふと思う。
あの後怒涛の展開で命からがら脱出したような状態のため、それどころではなかったのだ。
ジャンの喋る竜の話も興味深い物であった。

最終的に修学旅行の夜のような雰囲気になってきたところで、ミライユがティターニアの男性経験について切り込んできたりする。
こやつ、侮りがたし――! と思いながらも、謎の修学旅行テンションに後押しされてティターニアは間接的に答えを返す。

「お主、神樹の民にそれを言うか――我らエルフは受肉した精霊。
滅多に死なぬ種族が人間と同じように勝手に増えては人口ならぬエルフ口過多で世界が滅ぶであろう。
子を望む男女二人で神樹ユグドラシルに祈りを捧げ、神樹に認められた場合に限り実が結実し中からエルフが生まれるのだ……って何言わすねん!」

柄でもなく微妙に頬を赤らめ少女のように恥らっているようである。BBAの貫禄が見る影もない。
いつも心の中でツッコミを入れる時に使う西方大陸語も思わずポロリしようものである。
しかし人間から見る限りだと恥じらいポイントが全く意味不明であった。
もしかして、ミライユの仕掛けた罠にはまってすでにペースに乗せられてしまったのか、と思うが時すでに遅し。

さて、この話題が出てしまったからにはハーフエルフ談義は避けては通れまい。
一口にハーフエルフと言っても、神樹から生まれエルフ社会で育てられるエルフ寄りのハーフエルフと
人間社会で生まれ育った人間寄りのハーフエルフの二種類が存在する。
前者は種を超えて神樹の祝福を受けた奇跡の存在としてむしろ普通のエルフ以上に大事に育てられ
後者は……まあ予想が付くとおりエルフの側からすれば余所者扱いである。
ここで当然浮上する疑問が、後者の場合そもそも繁殖方法の違う二つの種族がどうやって子を成すのか、ということだ。
ティターニアの同僚にはそのような分野を研究している者もいるのだが、事例が希少過ぎて協力者が捕まらないため仮説を立てるしかなく
変なダンスを踊ってフュージョンと呪文を唱えながら小指を合わせるとか、カレーをひたすら1か月煮込みまくるだとか、
頭がいい(はずの)学者達が真面目な顔をして珍議論を繰り広げる様は、まさに「笑ってはいけない学会」状態。
とはいっても、人間と本気の恋に落ちた時に肉体が変成する、というのが最有力説なのでご安心あれ――
何にせよとても希少な存在なのでこの旅で出会う可能性はまず無いであろう(※フラグ)
0061ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/13(金) 21:26:59.77ID:ZQAFYa48
話を元に戻して、気が付くと、ミライユがふざけてジャンに抱き着いたりラテを脱がせようとしたりの独壇場と化していた――!
もはや何故か男性のジャンまで巻き込んでの女学園の修学旅行状態である。
この状況においても動じないジャンの安定感は半端ない。
もしも女学園出身だとしたら男性の目も気にせずいきなり脱いだのも天然なのか? と混乱してくるティターニア。
今までに出会ったことのない【新ジャンル】暗黒系ドジっ娘に完全に翻弄されているのであった。
騒ぎ疲れてそろそろ眠ろうかという頃、ラテが魔力の糸を部屋に貼っていた。

「なるほど、夜襲対策も万全というわけか。我らも安心で有難いことだ」

どうやら彼女はレンジャーの中でも魔力を積極的に扱う類のレンジャーなのだろう。
もしも怪しい動きをするつもりなら、魔力については専門のティターニアがいる場で、わざわざ自分で魔力を使ったセキュリティを張り巡らすとは考えにくい。
ここまでの過程で、長年の勘によるとラテは少なくとも危険な人物では無いだろうとの感覚は持っていたが、それが確信に近い物へと変わる。
これでミライユも怪しい動きは出来まい、と安心し、眠りについたのであった。

さて、まさかのお泊りイベントで閑話が盛り上がり過ぎてしまったが、そろそろ本筋に戻らねばなるまい。
ジャンとティターニアに暗黒系ドジっ娘ミライユの魔の手が迫る!
小動物系元気っ娘ラテは二人を守ることが出来るのか!? そしてそもそも大地の指環は手に入るのか!?

【>37 うまく拾えるかは分からぬがそういうの好きだ!】

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

次の日、一行はテッラ洞窟へと出発した。
アスガルドから洞窟まではそれ程離れてはいないので、程なくして到着する。
普段は開放されている洞窟の入り口も現在は立ち入り禁止となっていて、無鉄砲な学園生徒が入ったりせぬように警備兵が配置されていた。

「ユグドラシア導師、ティターニアだ。近頃強いモンスターが出現するようになったと聞き馳せ参じた」

学園の身分証を見せ、道を開けてもらおうとした時であった。
洞窟の奥の方からドォンと地響きのような音が聞こえてきて、同時に地面が少し揺れる。
「ああ、またですね……」と呟く警備兵。

「初めてではないのか……?」

「はい、少し前から段発的に。次第に感覚が短くなってきているようで……」

「分かった。我々が見て来るゆえそなたらはそこで待っておれ」

「くれぐれもお気をつけて――」

こうして一行は洞窟へと足を踏み入れるのであった。
0062創る名無しに見る名無し2017/01/13(金) 23:33:23.68ID:qPUxKk/R
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0063創る名無しに見る名無し2017/01/13(金) 23:43:47.70ID:W80MQPYM
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0065創る名無しに見る名無し2017/01/13(金) 23:57:12.17ID:Pvw1AZJi
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0066ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/14(土) 00:47:57.39ID:Y7eW+DYy
>『以下の者を冒険者として認める。ジャン・ジャック・ジャンソン』
『鋼鉄都市スクリロ支部 No.95 鶴嘴の月 銅の日』
「だからよ、二重に入るってわけにもいかねえだろう。そこらへんの規則はよく知らないけどよ」

ジャンが共和国側のギルドに入っているという話を聞くと、ミライユは自信満々にさらに前に出る。

「では、尚更じゃないですか! スクリロもソルタレクの管轄ですね。
それは正会員証じゃないんですよ。では、実力が分かり次第、こちらから改めて正会員に加えますね!」

そう言うと、名前の書かれていない銀色の会員証をスカートに仕舞った。

――

ミライユが服を脱いでいると、横にいたティターニアが反応する。

>「ふむ、少し触らせてはくれぬか。よいではないかよいではないか、我はそなたのような娘が嫌いではないぞ」

周囲の反応が予想以上に(特にジャンがドキリともしないので)不満だったのか、一瞬胸をそちらに向けるも、すぐに隠す。

「ダメ、ですっ! これはマスター以外の方には…… それにティターニア様でも魔法の力を使えば……いや、何でも」

そこで言ってはいけない話をしてしまったかのように口を噤み、そのまま着替えを続けるとうっかりと「大事なもの」を落としてしまった。
周囲の注目を引くも、大事にはなっていない。

(会員証については特に疑われてはいないようですね……)

うっかり落としてしまった抹殺の痕は、すぐに回収したため名前までは見られなかった……といいんだが。

>「えぇー……どんだけジャンさんを困らせたら満足するんですかこの人……。
 まぁ、ご愁傷様です。私先にお話するんで、頑張ってネタ考えといて下さい」

「すいません。ジャンさん、弄ると面白いタイプみたいで私、ツボにはまっちゃったみたいです!
じゃあ、面白いお話、期待してますよ!」

適当に流し、ホッと一息をつく。

>「指環は人の世には過ぎた力だと、時の聖女が神の落とした雷に指環を結んで、天に召し上げられた勇者へ返したとか……
 地獄の大穴に返された、なんてパターンもありますね」
>「その竜はダーマ魔法王国のアールバト山脈に巣を構えていてな、通りがかる旅人に昔話を語るのが趣味だった。
 昔話と言ってもそいつは長生きだったみたいでな、数千年前の話を平気でするんだ。まるで昨日の話みたいにな」
「その話の中で一番興味深かったのは、今思えば指環の話だな。なんでも竜の指環ができる瞬間に立ち会ったって言うんだ」

ラテとジャンの話を聞いていると、指環というものが途端に現実味を帯びたものに思えた。
――まるで、強ければ、強ささえあれば、力ずくで奪取することができる、かのような……

(やはり持ち主は竜……の可能性が高いですか。マスターにご報告せず、私一人で奪えるかなぁ……
この三人を利用すれば、あるいは……)

やがてティターニアが柄にもなくノリノリで恋愛経験について語り始めた。
どうやらこのエルフ、話し始めると止まらないようである。
結論からすると「人間世界でのまともな恋愛はしていない」といった感じだ。
それに相槌を適当に打ちながら笑い、眠りにつこうとした。

先ほどからラテの移動するところのそこかしこに魔力の糸が張られている。
消灯が終わってもその仕掛けは残っているようだ。魔術師の一部がよく使う手段で、野営でも使われる手法だ。

ミライユは空間操作をする魔術師でもある。ちょっと驚かせてやろう。
これだけの魔力を動かせばティターニアあたりは気付きそうなものだが、
仕掛けを周到に動かし、調度ラテの前までそれを形象する。
0067ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/14(土) 00:53:51.78ID:Y7eW+DYy
「ラテさん、ラテさん」

眠りについているのか、その振りをしているのか、彼女にそっと囁きかける。

「上、見てもらえますか?」

ラテは気付いたはずだ。見えない糸が動かされ、何かを込められていることに。そして、ミライユが魔力をラテの指のあたりに収束させると――
ラテの方角から「だけは」そう見えるように、文字が浮かび上がる。

  『ぶっ殺すぞ』

その文字を見ているラテの方を、わあっ、といった感じに軽く叩く。

「わっ! ふふっ、驚いちゃいました? お邪魔してしまい、申し訳ありませんでした。勿論、これはネタ。冗談です。
私は野営には慣れてますので、三人分の知覚探知は代わりにやっておきます。明日は早いですし、気を張らず寝ていて良いですよ……ぐぅ」

と、言いながらミライユはいびきをかき始めた。
そして夜が明ける。


――

あくる日、四人はアスガルド近くのテッラ洞窟まで来ていた。

「ふわぁぁ、結構寝たのにまだ眠いですぅ、下着は買い込んでおいたので、
今度キャンプがあっても大丈夫ですが。食料はこれで足りますかねぇ」

アスガルドで買った味付きの乾燥パンをボリボリと齧り、ローブの中に着込んだチェインの具合をポンポン叩いて
フィット具合を確かめながら、ミライユは進んだ。

>「ユグドラシア導師、ティターニアだ。近頃強いモンスターが出現するようになったと聞き馳せ参じた」
「くれぐれもお気をつけて――」

(顔パスですか……流石ですね)

洞窟に入る前に念のためにギルドマネージャー級を含む増援を送ることにした。
ミライユの予想では、ここに指環が眠っている可能性が高い。
ティターニアが虚言でミライユを逆に罠に嵌めようとしている線は無いと見た。

ミライユはティターニアたちから比較的大きく間を取り、予め用意してあった小さな"通信石"を取り出すと、
そこに魔法文字による「追記」を行い、洞窟の外へと放った。これはアスガルドの別の宿で待機している仲間へと届けられることとなる。

『――タイザン殿、シュマリ殿、ホロカ殿へ。予定通り発信元の場所への増援をお願いします――
追記:現在ティターニアに張り付いております。目的は指環。情報を持っていそうな方は全て内部にいると見て良いでしょう。
警備の方が数名いらっしゃるようですが、全て殺してしまって構いません。その後は封鎖するのがよろしいかと思われます。』

【洞窟を少し進んだあたりで密かにアスガルド宿泊中のソルタレクギルド員に支援要請を送りました。
適当な場面で乱入させる予定です。】
0068創る名無しに見る名無し2017/01/14(土) 08:33:30.50ID:69rngpEC
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0069創る名無しに見る名無し2017/01/14(土) 11:49:23.98ID:FwP76uMs
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0070創る名無しに見る名無し2017/01/14(土) 13:12:19.65ID:baCvzsLW
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0071 ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/14(土) 19:03:18.18ID:Y7eW+DYy
【先に追加キャラのプロフィールから投下しておきます】

名前:タイザン・シモヤマ2世
年齢:51
性別:男
身長:177
体重:68
スリーサイズ:痩せ型に見えるが引き締まっている
種族:人間
職業:ギルドマネージャー/料理人
性格:非常に奇を衒うが中身は常識人
能力:火を操る能力・刀剣術
武器:秘刀「カムイ」
防具:鎖帷子の上に白い独特の模様の衣服と帽子
所持品:食材やレシピ、マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:東国系。髪は黒で長く、頭頂部が禿げている。
簡単なキャラ解説:ハイランド連邦共和国の自治都市インカルシペの出身。
父・タイザンの酒場兼ギルドを引き継ぎ、酒場とギルドのマスターをしていたが、
突如ソルタレクのギルドにより併合され、マネージャーに抜擢される。
本人は旅に出て帰らぬ人となった父が考案した「カレー」を究極のものにすることに余念がない。
マトイという一人娘がいる。インカルシペの仲間たちならず、仲間をとても大切にする性格。
0072 ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/14(土) 19:13:54.74ID:Y7eW+DYy
【所用により夜中から明日の午前まで書き込めません。
この場面は顔見せだけなので、飛ばして次の方に書き込んでいただいて大丈夫です】
0073創る名無しに見る名無し2017/01/14(土) 22:25:41.94ID:L8dnFEyf
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0074創る名無しに見る名無し2017/01/14(土) 22:28:31.84ID:L8dnFEyf
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0075創る名無しに見る名無し2017/01/14(土) 22:28:46.25ID:L8dnFEyf
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0076創る名無しに見る名無し2017/01/14(土) 22:29:04.54ID:L8dnFEyf
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0077 ◆ejIZLl01yY 2017/01/14(土) 23:13:02.55ID:Zx5dZlfu
レンジャー達の朝は早い。
理由は色々あるけど、まぁ単純にパーティを組めば奇襲警戒を任される私達がすやすや寝てたらまずいでしょ。
それに単独行動の時も、場合によっては森や敵地やダンジョンの中で何日も過ごす事になる。

そんな中で一睡もしないのはかえって危ない。
睡眠不足と空腹はどんな英雄にも通じる最強の状態異常ですからね。
かと言ってそんな危険な場所でぐっすりおねんねしてたら、そのまま永眠する羽目になる。

だからレンジャーは睡眠一つにも結構な訓練を積む。
どんな訓練かって、ただの反復練習だけどね。
つまり寝てる時に密かに接近されたり、攻撃されたり。

弱い雷の力を込めた魔法具は、攻撃されても怪我はしないけどめちゃくちゃ痛い。
そんな事を繰り返していれば、その内僅かな気配ですぐに目を覚ませるようになる。
人間の環境適応能力ってすごい。

だから昨夜ミライユさんが私に何かするつもりだったのも、分かっていた。

『うーん……もうおやすみしたでしょ……流石に二人に怒られますよ……むにゃ……』

分かった上で、私はそう返事しておいた。
だってジャンさんティターニアさんの傍で私を殺そうとする事は、まずないと言っていいもん。
あの状況で、私がどんな形であれいなくなったり、死んだりすれば、今後の『仕事』がやりにくくなるでしょ。

昨日、ミライユさんの様子を見ていて分かったのは、彼女は「主導権の取りたがり屋さん」だって事だ。

だから私みたいな、別のギルドに所属している人間にも会員証を押し付けるし、
自分の仕事が絡まない、立場的に強く出ても平気な、つまりこれまた私みたいな相手には脅しをかけてみたりする。

まっ、なんていうか分かりやすいよね。
可哀想だけど、そういうやり方もレンジャーの領分。対策は簡単なのです。

つまり、てきとーにいなして構わなきゃいい。
反応しても疲れるだけだもん、そういうの。

書き方がちょっと刺々しくなっちゃったけど、許して欲しい。
私は誰かと反目したり争ったりするのは好きじゃないけど、
だからと言って私を踏みにじりたいだけの人間にずっと敬意を払えるほど愚かでもない。

……って割り切れればいいんだけどなぁ。

仲良く出来ればそれに越した事はないよなぁ。
うーん……もやもやする。

まぁ、もっと長い時間を共にすれば、まだ見えてなかった一面も見えてくるかもしれないよね。
そうである事を祈ろう。

……それにしてもぶっ殺すぞはちょっとチープ過ぎるのでは。
脅しにしたって、なんかもうちょっとあったと思うんだけど……。

だけど、チープであるって事は、平凡って事。
彼女が平凡な、何かちょっと、ボタンの掛け違いが一つ心の中にあるだけの、どこにでもいるような女の人なら。
それはきっと素晴らしい事だ。……そうである事を、祈ろう。

昨日目にした、ミライユさんの、人らしい側面が……全て偽りだとは、私は思いたくない。

なんて事をベッドの上で丸まりつつ考えていたら、その内ジャンさんとティターニアさんも起きてきた。
そして軽い朝食を取って、私達一行はテッラ洞窟へと出発したのでした。
0078 ◆ejIZLl01yY 2017/01/14(土) 23:14:38.28ID:Zx5dZlfu
>「ユグドラシア導師、ティターニアだ。近頃強いモンスターが出現するようになったと聞き馳せ参じた」

「……ユグドラシア導師!?えっ、嘘、めちゃくちゃ偉い人じゃないですか!」

話の流れからなんかすごい人なんだろうなーとは思ってたけど、これは流石に予想外。
ユグドラシアは説明するまでもないよね。アスガルドの繁栄はあの学園があってこそと言ってもいい。
あらゆる魔法学の最先端を往くあの学園の、導師様って!
という事はもしかして、この洞窟に潜るのもフィールドワークの一環とか?

「という事はもしかして、この洞窟に潜るのもフィールドワークの一環とか!?」

気になったので聞いてみた。だって気になるじゃん。

「専門は……確か考古学でしたよね!それって環境魔法学とか、古代魔法とかについても調べたりするんですか?」

気になる気になる!すごく気になる!
こういう時私はちょっと自制が利かなくなっちゃう。でも気になるものは気になるんだもん。

……あれ?環境魔法学ってご存じない?あー、普通に生活してる分にはあんまり馴染みがないもんね。
まぁ読んで字の如しなんだけどね。環境魔法学ってのは、環境を利用した魔法について調べる学問です。
と言っても、ただ単に植物や鉱物を触媒にした魔法って意味じゃなくて、もっと大きな環境。

例えば大規模な召喚魔法を行う時とかって、人の力だけじゃ到底力不足で、だから星の巡りを利用するの。
星という無数の力の塊が夜空に描く魔法陣を用いて、やっと魔法が行使出来る。
星じゃなくて地脈を利用したり、大昔に生きていた巨大な魔物の亡骸の側で儀式をしたりってパターンもあるね。

まぁそんな感じで、なかなかお目にかかる機会の少ない魔法学なのです。
でも他のどんな学問にも負けず劣らず、すごく偉大な学問なんですよ。

なんでそんなマイナーな魔法学を知ってるのか?
……いや、その、実家が神学者の家系でして。
嘘じゃないよ!ティターニアさん達に聞かれても同じように答えられるし!いやホント。

まぁそれに、夜空に敷かれた魔法陣も、地の底に流れる力の祝詞も、古き偉大な生物の遺骸も、
丸ごと盗み出すには大きすぎるけど、素晴らしいお宝だもん。
トレジャーハンター的には注目度の高い学問なんです。はい、この話はここでおしまい!

と、不意に洞窟の中から轟音……だけじゃない、小さな地震も起きてる。

>「ああ、またですね……」
 「初めてではないのか……?」
 「はい、少し前から段発的に。次第に感覚が短くなってきているようで……」

「……これは、いよいよ怪しいですね。匂いますよ、お宝の匂いがします」

地震や火山の噴火が何故起こるのかは諸説ある。
そしてその中には神や精霊の昂ぶりとか、大きな力が流れすぎて一時的に詰まった地脈が原因とか、
トレジャーハンター的にはピンと来るような説もあるのだ!

しかも地震の頻度が増してきているって事は原因である何かの力も高まり続けているって事。
つまり自然発生的な地震ではない……これは絶対何かあると見たね!

それが昨日、ティターニアさん達が話題に上げた指環なのかは分からないけど。
まーでもあのタイミングで話題にするって事は何かしら意味があるんじゃないかな。
ミライユさんも指環って単語にすごい反応してたし。

「じゃ、先行しますね……って言っても、まぁとりあえずは普通に奥を目指す事になりますけど。
 ……くんくん。うーん、マナの流れはまだ感じ取れないかな」

……え?何を当たり前のように匂いを嗅いでるのかって?
0079 ◆ejIZLl01yY 2017/01/14(土) 23:15:19.43ID:Zx5dZlfu
「もし魔物達を凶暴化させてる魔力の源が、どこかに隠された地下都市にあるなら、
 どこかからその魔力が漏れ出てきていると思うんですよね。あ、進みましょうか」

いやいや、レンジャーたるもの鼻でお宝の匂いくらい嗅ぎ取れなくてどうするの。
これは別に冗談とかじゃなくて、レンジャーズギルドでは六感を鍛える訓練を積まされます。

私の場合は、五感を第六感で補う訓練。
二十四時間ずっと目隠しをさせられて、その状態でギルド内を自由に歩き回れるようになるまで外せないの。
当然そんな事、匂いを嗅ぐとか、音を聞くとか、その程度の工夫では出来る訳がない。

いやマジでしんどかったよ。訓練だから先輩達もわざと体をぶつけたり、急に大声で呼んできたりする。
トイレに行くだけでもビクビクしなきゃいけなかったし、一時は怖すぎてそのままトイレに閉じ籠もったりもした。

でも出来ないままじゃいつまで経っても目隠しは外せない。
そんな生活を延々続けていると、いつの間にか感覚が鋭くなっている事に気付く。
それは見えないものを感じ取る為に、体が第六感を効果的に使う事を試み始めたから。

その第六感ってのが、つまりは魔力を感じ取る感覚なのです。

訓練が色々とスパルタ過ぎない?って思うでしょ。
でもこれくらい頑張らないと、レンジャーになってもすぐ死んじゃうから、仕方ないんだよ。

レンジャーも、ハンターも、シーフも、アサシンも、スパイも、トレジャーハンターも、
およそレンジャーと呼ばれるクラスは、たった一人、ないし極少数で、大きな相手と戦う事になる職業。
だから徹底的に自分を磨き上げる必要があるの。

ギルドでその為の訓練をしてもらえるのは、正式にレンジャーになって暫くしてやっと分かる。
それは後進への大きな愛情なんだよ。

ちなみにこれはあくまで「出来ない人間が出来るようになる為の訓練」ってのが泣ける。
出来る人は生まれつき、体を動かす為に魔力を使うって事が出来るのです。
魔力と体力が結びついてるって言うのかな。優れた戦士や武闘家が技を放つ時、魔力に似た気配を感じるのはその為。
他にも普通に素の身体能力だけで人外じみてる人もいたり……村娘Aには辛い世界だなぁ。

まぁそんな訳で、私はマナの流れだろうと嗅ぎ取る事が出来る。

「あ、ちょっと待って下さいね。もうちょっと匂いを分かりやすくします」

そう言って宝箱をがさごそ……と取り出したのは沢山の『灯火の杖』。
炎の杖じゃなくて?って思うじゃん?
これは込められてる魔法が弱すぎて、炎と言うほどの威力が出せない低レアマジックアイテムなのだ。

でも松明代わりにはなるから回収して売るとそこそこ捌ける。
この手のアイテムは元から篭められていたり、大気中にあるマナを使うから魔力も浪費しないし、洞窟の中でも窒息の恐れがなくて安心。

ここで重要なのは、大気中のマナを使うって事。
この洞窟の中のマナを使って杖に火を灯していけば、大気中のマナ濃度は少しずつだけど薄くなっていく。
そして隠された古代都市があるならそっちとこっちでマのナ濃度差が生まれる。
するとどうなるか。

「……うん、風を感じます。濃いところから薄いところへ流れる、マナの風を」

干しスライムを水に突っ込むとすごい勢いで膨れ上がるじゃん?
理屈的には大体そんな感じ。水があるところから、ないところへ。
後はお化けナメクジに塩をかけるとめっちゃ萎むとか。
0080 ◆ejIZLl01yY 2017/01/14(土) 23:16:38.65ID:Zx5dZlfu
さておき、これでマナ濃度の違う、別の空間の存在があるとはっきりした。
後はマナの風が示す道に沿って進んでいけば……ほーら。

アスガルドで見たオオネズミよりも更にデカいネズミの群れが!
ってなんでやねーん!

中にはなんか二足歩行になってるのもいるし……これは良くない。
人間の姿に近づいてるって事は、力だけでなく知性をも手に入れようとしているって事。
洞窟を封鎖するのも納得だね。学生さんが食べられでもしたら、色んな意味で厄介だ。

えー、マナの風は確かにこの奥から吹いてきてるんだけど……私一人ならともかく、全員気づかれずに抜けるってのはリスキーかな。

「……始末しちゃいましょう。もしかしたら、何かを守っているのかも」

何らかの要因で知性を得た魔物や獣が、その源を崇め、守ってるってケースはたまにある。
それは別にマジックアイテムとかじゃなくて……この先の空間そのものかもしれない。
ていうかそうだったら嬉しいんだけどなー。

「私が仕掛けますね。仲間を呼ばれても面倒ですし、上手い事全部仕留めてみます。まぁ、ミスったらフォローお願いしますね」

ラテちゃん特製爆弾を使えばこれくらいはイチコロなんだけどね。
流石に洞窟の中でぶっぱなすのはなぁ。そんなリスクを冒すほど状況も差し迫ってないし。

と言う訳で宝箱から取り出しましたるは、ピックを数本と、ヘブンスパイダーの毒を一瓶と、ショートソードと、んふふふー。
そして私は周囲の風景に自分の気配を同化させた。
先端の鋭いピックは獣の分厚い皮を貫いて、塗りつけた毒を体内に届ける。
一応頚椎を狙ってはいるけど、毛皮で手元が狂っても良くないしね。

ちなみにヘブンスパイダーってのは麻痺毒に長けた蜘蛛のモンスター。
噛まれた獲物は痛みすら感じず、全身がリラックスしたように弛緩して死んでいくからヘブンスパイダー。
この毒は濃縮したり効能を強めるよう調合すれば大型のモンスターにも通用するから結構便利。

刺したピックは抜かない。血の臭いが強くなったらバレちゃうからね。
とは言え……抜かなくても、時間の問題ではある。

……気付かれた。私の居場所はまだバレていないけど、仲間を呼ばれたらそれだけで私としては仕事は失敗だ。

「まぁ、もう遅いけどね」

そして私は、分厚い皮の鞘に収めたままのショートソードを【不銘】に番え……後方に向かって射ち放った。
あ、勿論ジャンさん達から狙いは外してありますよ……っと、血の噴き出す音。
既にネズミ達の首に括り付けてあったヘブンスパイダーの糸が、ショートソードに強烈に引っ張られ、首を切断したのだ。

さっきのんふふふーはこの糸をぼかしてたのです。
なんでかって?だってその方がカッコよく決まるし……あと、ほら、ネタバレとかよくないし……。
ちなみにヘブンスパイダーの麻痺毒が優れている理由は、糸が強靭だけど伸縮性がなくて、獲物を捕まえるのに向かないから。
だけどこういう用途には大変便利で、毒も糸も優秀だからと、レンジャーの中には捕まえてきて飼育してる人もいるくらい。
私?実はこの宝箱の中には……ふふふ、なーんて。
0081 ◆ejIZLl01yY 2017/01/14(土) 23:17:57.79ID:Zx5dZlfu
さておきショートソードも回収して、これで道は開けた。

「ちょっと前をお願いします。私は一旦、後ろに警報程度の罠を張っときます。
 血の臭いで何か集まってくるかもしれませんので」

そんな訳で脆い糸と薄い金属板で鳴子を作り……私は首を失ったネズミ達の死体を見る。
そして未だにその断面から溢れる血を、宝箱から取り出したポーション瓶で回収する。
……いや、魔物の血って魔法薬の素材として優秀なんですよ。
こんだけ強化された魔物なら、それはそれは強い効能が期待出来るんです。
私にはそれ以外にも、別の用途があるしね。

でも私みたいな小娘が魔物から血を抜いてると大抵の人は変な目でこっちを見てくるの。
つらい。
だからちょっとこそこそとさせてもらいました。

ともあれ、マナの匂いもかなり濃くなってきてる。

「そろそろ、何かありそうな気がするんですけどね。壁とか床とか、
 古代都市を隠してるなら魔法的な仕掛けがあるのかも……どれどれ」


【てけとーに話を進める下準備だけしときましたので後はよろでーす】



さーて!またもや余白が沢山だ!純度100パーセントの落書きを見せてやる!
……って意気込んだ時に限ってなんだか書く事が思いつかない。

うーん、うーん……あ、じゃあ今回は魔力を使うレンジャーについてでも。
昨日ティターニアさんがなんか珍しそうに見てたし、
もしかしたら以前に身体的素質だけでやってるレンジャーでも見た事あるのかもね。

さっきも書いたけど、素質がある人は生まれつき魔力をまるで体力のように使う事が出来る。
その結果生まれるのは強烈な身体能力。
言い方は悪いけど、生まれつき体の作りが魔物にちょっと似ている、と表現すると分かりやすいかな。

でも私はそんな才能はこれっぽっちもない村娘Aだったので、色々と訓練を積んだのです。

では本題。そもそもレンジャーと魔力、魔法って、そんなにかけ離れたものなのかな?って所から。

例えばアサシン。
その由来は古くに栄え今でも密教としてどこかに残っていると言われる、とある宗教。
そこでは老人が若者を攫い、山中の楽園で秘薬を振る舞い、極楽を味わわせ……目が覚めたら若者は下界にいる。
そして懐には人名と、「楽園に戻りたくば使命を果たせ」と記された紙切れ、それに短剣……

宗教を拠り所にして、人界から離れた地に住まい、極秘の薬物で人を惑わし、操る……これなーんだと言われて。
魔女ですって言われたら、あーって納得しそうじゃない?

それに狩りを司る神様って結構いるんだけど、その中でも超有名な女神アルテミス様。
彼女の従姉妹には魔術を司る女神ヘカテー様がいるのです。解釈によっては同一神と扱われたりもするけど。
まぁつまり狩猟者と魔術師ってかなり属性的に近いところにいるの。

狩人も自分達だけの毒薬を作り出したり、あらゆる自然と命を崇め、その恩恵を求めたりするしね。
トレジャーハンターも、古代の遺跡に挑むなら魔術や呪いへの知識が不可欠だ。

そう、私も色々と勉強してるのです。例えば……レンジャーズギルドでも教えてもらえない、古代魔法とかね。

なんか良さげなタイミングがあったら、ティターニアさんに振ってみたいなぁ。
誰もが忘れた、なのに皆が覚えてる、三つの古代魔法……どう?面白そうでしょ?でしょ!
……あれ?なんか話が脱線してるような気も。まぁいっか!
0082創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 12:18:28.11ID:zYFqe272
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0083創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 12:44:47.33ID:zYFqe272
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0084創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 12:46:00.63ID:zYFqe272
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0085 ◆BRRt8qoQM4qo 2017/01/15(日) 12:49:31.03ID:S9Ls+HXP
名前:シュマリ・シズカリ
年齢:17
性別:女
身長:162
体重:53
スリーサイズ:87/61/90
種族:獣人(狐系)
職業:ギルドメンバー・ハイ(上級)
性格:直情型
能力:スピード特化型の爪による攻撃、精霊術
武器:アイアンファング
防具:臍出し型のレザー・アーマー
所持品:マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:髪はボサボサの銀髪。狐耳が出ている。
簡単なキャラ解説:タイザン2世の店の従業員から急遽ギルド員にされた少女。
タイザンの亡き親友、ワッカの娘であり、妹と共にタイザンの元に引き取られた過去がある。
タイザンの事を心から尊敬しており、恋心に近い感情を持っている。それなりにギルドの特殊任務の経験あり。


名前:ホロカ・シズカリ
年齢:15
性別:女
身長:155
体重:46
スリーサイズ:81/59/86
種族:獣人(狐系)
職業:ギルドメンバー・コモン
性格:穏やかな性格であるが真面目で忠実
能力:精霊術を生かした補助系能力が中心
武器:小型のボウガン、ナイフ
防具:民族衣装のローブ
所持品:マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:銀髪の混じる黒髪で直毛
簡単なキャラ解説:姉・シュマリと同じでタイザン2世の店の従業員から急遽ギルド員にされた少女。
ギルド員としての訓練を積んでおり、才能はあるが、破壊を嫌い、人殺しなどの仕事を毛嫌いしている。
0086創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 12:50:04.48ID:zYFqe272
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0087創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 12:50:22.09ID:zYFqe272
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0088 ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/15(日) 12:50:24.32ID:S9Ls+HXP
名前:タイザン・シモヤマ2世
年齢:51
性別:男
身長:177
体重:68
スリーサイズ:痩せ型に見えるが引き締まっている
種族:人間
職業:ギルドマネージャー/料理人
性格:非常に奇を衒うが中身は常識人
能力:火を操る能力・刀剣術
武器:秘刀「カムイ」
防具:鎖帷子の上に白い独特の模様の衣服と帽子
所持品:食材やレシピ、マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:東国系。髪は黒で長く、頭頂部が禿げている。
簡単なキャラ解説:ハイランド連邦共和国の自治都市インカルシペの出身。
父・タイザンの酒場兼ギルドを引き継ぎ、酒場とギルドのマスターをしていたが、
突如ソルタレクのギルドにより併合され、マネージャーに抜擢される。
本人は旅に出て帰らぬ人となった父が考案した「カレー」を究極のものにすることに余念がない。
マトイという一人娘がいる。インカルシペの仲間たちならず、仲間をとても大切にする性格


名前:シュマリ・シズカリ
年齢:17
性別:女
身長:162
体重:53
スリーサイズ:87/61/90
種族:獣人(狐系)
職業:ギルドメンバー・ハイ(上級)
性格:直情型
能力:スピード特化型の爪による攻撃、精霊術
武器:アイアンファング
防具:臍出し型のレザー・アーマー
所持品:マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:髪はボサボサの銀髪。狐耳が出ている。
簡単なキャラ解説:タイザン2世の店の従業員から急遽ギルド員にされた少女。
タイザンの亡き親友、ワッカの娘であり、妹と共にタイザンの元に引き取られた過去がある。
タイザンの事を心から尊敬しており、恋心に近い感情を持っている。それなりにギルドの特殊任務の経験あり。


名前:ホロカ・シズカリ
年齢:15
性別:女
身長:155
体重:46
スリーサイズ:81/59/86
種族:獣人(狐系)
職業:ギルドメンバー・コモン
性格:穏やかな性格であるが真面目で忠実
能力:精霊術を生かした補助系能力が中心
武器:小型のボウガン、ナイフ
防具:民族衣装のローブ
所持品:マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:銀髪の混じる黒髪で直毛
簡単なキャラ解説:姉・シュマリと同じでタイザン2世の店の従業員から急遽ギルド員にされた少女。
ギルド員としての訓練を積んでおり、才能はあるが、破壊を嫌い、人殺しなどの仕事を毛嫌いしている。
0089創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 12:51:00.23ID:zYFqe272
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0090創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 12:51:37.00ID:91gubEOg
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0091 ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/15(日) 13:29:38.25ID:S9Ls+HXP
――<アルガルドのとある宿にて>

ミライユから放たれた通信石は光状になり、アスガルドの宿の壁を貫通してタイザンの元へと届いた。
それはタイザンが持つ通信板と呼応し、空中で内容を伝える。

「んー……」

既に義理の娘たち二人――シュマリとホロカが準備を済ませている中、
初老の男、タイザン・シモヤマ2世はその光に反応してベッドから身を起こした。
普段は使わないコック帽を寝ている時だけは被っている。当然寝具代わりに着ているのもマスター(酒場の)の服だ。
いつも「変わっているんだけど常識人」と言われるのは、父の代から一緒らしい。

>『――タイザン殿、シュマリ殿、ホロカ殿へ。予定通り発信元の場所への増援をお願いします――
追記:現在ティターニアに張り付いております。目的は指環。情報を持っていそうな方は全て内部にいると見て良いでしょう。
警備の方が数名いらっしゃるようですが、全て殺してしまって構いません。その後は封鎖するのがよろしいかと思われます。』

「ふむふむ、……ってもうかい? もう少しここでゆっくり食材探ししたかったよー……
困るんだよねー……その『構いません』ってやつがさ。
暗に『殺して』って言ってるようなもんじゃない。僕は殺しとかさ、あんまり好きじゃないんだよ」

(なるほどね、ティターニアと指環はセットって訳ね。ミライユは頭は良いんだけど……
色々余計なことしてないと良いけどなぁ)

鎖帷子を着込んで身支度をしながらもブツブツと文句を言う。
0092創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 13:31:22.62ID:SSDttvr/
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0093 ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/15(日) 13:32:54.71ID:S9Ls+HXP
タイザンは、あまり現状について満足していない。まるでミライユの下請けのような扱い。

それも酒場のマスターとしてギルド支部を仕切っていたら、突然ソルタレク側から合併の話が来た。
彼は料理以外のことはオマケのようなものだと思っている。父は全てを尊敬するほどの人物ではなかったが、
父と同じぐらい料理についてのプライドは高い。よって武器は常に料理用具になるものを持ち歩いている。

それも親友から預かった娘を勝手に配属されてしまった。せめて片方ぐらいは残したかったのだが。
ホロカに残れと言えば、泣いて嫌がるものだから、店は臨時休業で大打撃だ。

大体、タイザンという名前を受け継ぐのも嫌だったのだ。自分には「ナオユキ」という名前がある。
父も元々は「ヤスユキ」という名前だったのが、勝手に「タイザン」を名乗って代々継がせるらしいのだ。困ったものだ。
そして、さらに困ったことがあった。

「なあ、マスター。任務が来たんだろ? 内容をオレたちにも教えてくれよ!」

これだ。元々の肩書きが「マスター」なために「マネージャー」にして「マスター」と呼ばれる。

「あのさ、シュマリ。僕のことをマスターって呼ぶのはやめてくれない? 任務中はせめてね。向こうのマスター怖いのよ。
タイザンとか、マネージャーとか、あるでしょ他に」

「りょーかい、タイザンマスター!」

ホロカが脚をパタパタさせながら答える。二人とも向かいのベッドに並んで腰掛け、
早く行きたいとばかりに張り切っているようだ。シュマリは獲物の爪を磨いている。
タイザンは頭を抱えながら、渋々と立ち上がった。

「……じゃあ、朝ごはんにしようか。二人とも、鍋の用意して。
食材は、昨日の昼から決めてる。調理方法はは僕に任せてもらっていいよ。
食べ終わったら胃を悪くしないように、ゆっくり行こう。徒歩で。地図はあるからね」

各地で集めてきた食材・出汁とアスガルドの食材を合わせた鍋は、予想以上に美味だったようで、
特に食べ盛りの娘二人は迷わずおかわりをした。その間にタイザンは今回の任務について説明をする。

「ってことでさ、ギルドの資料によると入り口を封鎖して念のため一人見張りを置くのがベストみたいだけど、
そこは見張りを片付けてから決めようか。ミライユはああ言ってるけど、逃がしさえしなければ、殺す必要なんてないからね」

タイザンがコック帽を被っていたことに気付き、慌てて道具入れに畳んで仕舞う。
こんなものが見られてしまったらギルドマネージャーとしての面目がたたない。
その代わりに、下手をすればそれ以上に目立つ禿げ上がった頭頂部が丸出しになったが……

(……やっぱり朝食にカレー用のスパイスは拙かったかな……!?)

このようにゆっくりと朝食を味わった三人は、ミライユの予想よりも遅れて洞窟へと向かっていった。

【以上、支援の三人組登場シーンでした。このキャラたちはタイミングを見ながら
ミライユのターンで出していきますのでよろしく!】
0094創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 13:33:14.29ID:SSDttvr/
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0095創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 13:43:50.02ID:0w6xqI+N
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0096創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 13:44:05.03ID:0w6xqI+N
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0097創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 13:44:28.53ID:0w6xqI+N
埋め
0098創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 13:45:35.21ID:0w6xqI+N
埋め
0099創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 15:26:54.60ID:oDnZgUGE
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0100創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:08:42.03ID:aWeqpg4N
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0101創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:09:31.56ID:aWeqpg4N
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0102創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:13:26.39ID:aWeqpg4N
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0103創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:15:01.93ID:aWeqpg4N
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0104創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:35:27.37ID:AQ8gJxjo
埋め
0105創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:35:40.16ID:AQ8gJxjo
埋め
0106創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:38:38.49ID:AQ8gJxjo
埋め
0107創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:39:17.36ID:AQ8gJxjo
0108創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:39:27.64ID:AQ8gJxjo
0109創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:39:46.86ID:AQ8gJxjo
0110創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:39:59.82ID:AQ8gJxjo
0111創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:40:29.61ID:b50VSs0c
埋め
0112創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 19:40:54.18ID:WKTyiryX
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0113創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 20:14:40.12ID:OFMGNHHr
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0114創る名無しに見る名無し2017/01/15(日) 20:15:58.99ID:OFMGNHHr
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0115ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/16(月) 21:09:25.55ID:gdIl8BgC
ジャンの朝は他種族に比べ、やや遅い。
それはジャン個人の体質というわけではなく、単純にオーク族そのものがそういった体質なのだ。
オーク族の神話が語るところによると、かつて夜に生きていたオーク族は戦争において
夜襲や見張り、両方に重宝されていたが昼に生きる他種族によって絶滅の危機に追い込まれた。
しかし、少数のオークが昼に目を覚まし、見張りをすることで無事に絶滅を防ぐことができたという。
今では他種族との交流が進んでいるためオーク族も夜行性の者が減りつつあるが、神話の名残として
夜遅く寝て、朝遅く起きるというオーク族の数は多い。

だからこそ、ミライユとラテの行動にも気づいていた。
ジャンにはよく分からなかったが、二人は寝る直前にあまり好意的でないやりとりをしていたようだ。

(ミライユの部下かもしれなかったが……こりゃ揉めるかもな)

朝起きたとき、二人は特におかしい様子はなかった。
両方とも賊の襲撃に備えてか警戒をしてくれていたようなので、もしかしたら勘違いをしていたかもしれない。
ジャンは市場で買った焼き野菜串と焼肉串を朝飯代わりに食べつつ、ティターニアの三歩後ろについてテッラ洞窟へと向かう。

洞窟の入口には警備兵が立っていた。学生が肝試し代わりに入るには少々物々しい雰囲気だが、
これも最近続いている魔物の活性化のせいだろう。

>「ユグドラシア導師、ティターニアだ。近頃強いモンスターが出現するようになったと聞き馳せ参じた」

「その護衛兼助手、ジャン・ジャック・ジャンソンだ」

ティターニアが学園の身分証を見せるのに続いて、ジャンもギルドの身分証を見せる。
根無し草とか浮浪者扱いされることも多い冒険者にとって、ギルド公認というのはとてつもなく大事なものだ。
もしここで身分証がなければジャンは警備兵に警戒され、一人だけ確認のために足止めを受けていたことすらありえる。

(だからまあ、ミライユが勧めてくる気持ちも分からなくもないんだけどよ……
そりゃ首府にあるギルドの方が有名だろうしな)

(でも、俺を初めて冒険者として受け入れてくれたのはあそこだ。その恩義に反することはできねえよ)

改めてスクリロの冒険者ギルドマスターに感謝しつつ、ジャンも洞窟へと入っていく。
0116ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/16(月) 21:10:17.55ID:gdIl8BgC
だが、入っていく途中、妙なことに気がついた。いつの間にかミライユが後ろにいる。

「取材の報告でもしてんのか?俺の話がネタになると嬉しいけどな」

取材という目的をジャンはあまり信じていなかったが、それでももしジャンやティターニアたちの冒険が
文字になり、詩になり、物語となれば、ジャンの旅の目的は達せられたようなものだ。
だからこそ、せめて本当であってほしいと一縷の望みをかけてミライユに言った。

>「……うん、風を感じます。濃いところから薄いところへ流れる、マナの風を」

さて、洞窟に入ってしばらく進んでいるとラテが何かに気づいたようだ。
ラテのすぐ後ろを歩くジャンはミスリル・ハンマーを短く持ち、狭い洞窟内でも最小限の動きで戦えるように構える。
通路をさらに進んだところで、街で見たものよりさらに大きいオオネズミの群れに出くわした。

>「……始末しちゃいましょう。もしかしたら、何かを守っているのかも」
>「私が仕掛けますね。仲間を呼ばれても面倒ですし、上手い事全部仕留めてみます。まぁ、ミスったらフォローお願いしますね」

その言葉に無言でジャンは頷き、ラテを邪魔することがない通路の端へ移動する。
いつでも飛び出せるよう、リーダー格であろう二足で歩いているオオネズミへ狙いを定めることも忘れずに。

結局、ジャンが出る必要はなかった。オオネズミたちの首が音もなく吹き飛び、噴き出した血が地面や壁を染めていく。
ついでにジャンはオオネズミの肉も確保しておくことにした。
他種族が食べても平気かどうかは知らないが、ジャンはこの大きく締まったもも肉が好きなのだ。
というわけで干し肉の材料にするべく手早く解体していると、ジャンが解体しようとしたオオネズミをラテが血抜きしてくれている。

「お前……オオネズミ食うのか?わざわざ血まで抜く辺り、さては無類のオオネズミ好きなんだな…」

自分と同じオオネズミ食いが仲間にいたことに感動し、干し肉を作ったら分けてやろうとジャンは決意していた。

>「そろそろ、何かありそうな気がするんですけどね。壁とか床とか、
 古代都市を隠してるなら魔法的な仕掛けがあるのかも……どれどれ」

「そうだな、見たところこいつらがいた広間が行き止まりみたいだが…あっおい!」

干し肉に使えそうなオオネズミの部位を専用の革袋に入れ、解体を終えたところで気がついた。
飛び散った血がこびりつく地面をよく見てみると、ジャンには読めない文字で紋様が円状に刻まれている。
死体の残骸をどかしてみれば、そこには刻まれた文字にオオネズミの血が流れ込み、血の魔法陣とも言うべき形を成していたのだ。

「……古代都市への入口というより、これじゃ冥界への入口だな」
0117創る名無しに見る名無し2017/01/17(火) 10:00:51.90ID:oaiL8x7o
埋め
0118創る名無しに見る名無し2017/01/17(火) 10:01:17.98ID:Ab3qDE8c
埋め
0119創る名無しに見る名無し2017/01/17(火) 10:01:38.19ID:qRwMSOtR
埋め
0120創る名無しに見る名無し2017/01/17(火) 22:38:34.39ID:XjYYaH2o
埋め
0121創る名無しに見る名無し2017/01/17(火) 22:38:53.36ID:XjYYaH2o
埋め
0122創る名無しに見る名無し2017/01/17(火) 22:39:11.94ID:XjYYaH2o
埋め
0123ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/18(水) 02:06:01.92ID:6K4Y6PbZ
昨日の夜ミライユがラテにちょっかいを出していたようだが、あれは何だったのだろうか――と思うティターニア。
魔力が大きく動いた気配がしたのでうっすら目が覚めたのだが、ラテが気に留めていない様子だったのでそのまま寝てしまった。
本人があの様子だったということは、おおかた他愛のない悪戯なのだったのであろうが……。

>「……ユグドラシア導師!?えっ、嘘、めちゃくちゃ偉い人じゃないですか!」
>「という事はもしかして、この洞窟に潜るのもフィールドワークの一環とか!?」
>「専門は……確か考古学でしたよね!それって環境魔法学とか、古代魔法とかについても調べたりするんですか?」

ラテが興味津々といった感じで食いついてきた。
あからさまに顔には出さないものの、満更でもなさそうな様子で応えるティターニア

「何、確かに人間で導師になった者は物凄い天才揃いだがエルフの導師連中はおおかた年の功といったところだ。
お主勘が良いな、概ね正解だ。実際に様々なところに行って忘れ去られた真実への扉を開く……それが我々の仕事となる。
もちろん詳細な解析は個々の専門の者に委ねることになるがな。
この前行った遺跡ではな……おっと、長くなるゆえ帰ってから話すとしよう。
ミライユ殿、どうしたのだ? 行くぞ」

思わずヴォルカナやステラマリスのことを普通に話してしまいそうになるが流石に思いとどまり
いつの間にか後ろの方にいたミライユに声をかけて、洞窟へと入っていく。
夜目が効く種族補正の無いラテやミライユが困らぬように杖の先に明かりの魔術を灯す。

>「じゃ、先行しますね……って言っても、まぁとりあえずは普通に奥を目指す事になりますけど。
 ……くんくん。うーん、マナの流れはまだ感じ取れないかな」

しかし、どうやら魔力の流れが読めるラテには必要なかったようだ。
レンジャーとして積極的に先行するラテの後姿を見ながら、まだ少女であろう若さで大したものだな――思う。
これは天性の素質があったか……もしそうでなければ余程の努力を積み重ねたかのどちらかであろう。

>「……うん、風を感じます。濃いところから薄いところへ流れる、マナの風を」
>「あ、ちょっと待って下さいね。もうちょっと匂いを分かりやすくします」

ラテがマジックアイテムの力を借りて、魔力の流れをティターニアにも分かるようにして見せる。
そこに存在する魔力を感じ取る力自体は本業の魔術師であるティターニアの方が上かもしれないのだが
どちらからどちらへ流れている等の動きを感じ取るにはまた別の訓練が必要のようだ。

>「……うん、風を感じます。濃いところから薄いところへ流れる、マナの風を」

マナの風に沿って進んでいくと、そこは巨大ネズミやら二足歩行のネズミが闊歩するネズミーランドと化していた。
確かに魔力には溢れているがあまり夢のある光景とは言えない。

>「……始末しちゃいましょう。もしかしたら、何かを守っているのかも」
>「私が仕掛けますね。仲間を呼ばれても面倒ですし、上手い事全部仕留めてみます。まぁ、ミスったらフォローお願いしますね」

杖を構えるティターニアだったが、ラテがそう言うのでお手並み拝見ということで、ジャンと共に下がっておく。
数瞬後――
0124ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/18(水) 02:08:14.55ID:6K4Y6PbZ
「す、すごい……!」

高出力の魔力で吹っ飛ばす良く言えばシンプル悪く言えば力押しの戦法が中心のティターニアは
ラテのトリッキー且つ鮮やかな手腕にテンプレ驚き役のごとく感心していた。

>「ちょっと前をお願いします。私は一旦、後ろに警報程度の罠を張っときます。
 血の臭いで何か集まってくるかもしれませんので」
>「お前……オオネズミ食うのか?わざわざ血まで抜く辺り、さては無類のオオネズミ好きなんだな…」

前を警戒しながら、ジャンの小さな勘違いにくすりと笑う。
魔物の血が魔法薬の素材になることを皆が皆知っているわけではないのだ。

「ジャン殿、それは……まあ良いか。食べてみれば新たな扉が開けるかもしれぬ」

>「そろそろ、何かありそうな気がするんですけどね。壁とか床とか、
 古代都市を隠してるなら魔法的な仕掛けがあるのかも……どれどれ」
>「そうだな、見たところこいつらがいた広間が行き止まりみたいだが…あっおい!」

ジャンが何かを発見したようだ。
見れば、偶然にもオオネズミの血が染み込んだことにより、普通なら気付かなかったであろう魔法陣が露わになっていた。

>「……古代都市への入口というより、これじゃ冥界への入口だな」

「ああ、そういえばここにあると噂されておるのは地底都市アガルタ――各伝承によって楽園とも地獄とも謳われておるな。
これは形からいって転送魔術陣のようなものかもしれぬ――この文字……ラテ殿の盾の文字に少し似ておらぬか?」

おおかた雰囲気が似ているだけだったのだろうが、もしかしたら本当に同じ種類の文字だったのかもしれない。
しかしそれを確かめることは出来なかった。
間近で魔法陣の文様を検めようとしたところ――轟音と共に地面が大きく揺れた。
おそらく洞窟に入る前にあったものと同じものだが、震源が近いために遥かに大きい。
天上から礫がパラパラと落ちてくる。

「まずいな……崩落でもしたら……」

そう言いながら上を見上げていると、間髪入れずに次の激震――
今度は立っていることすらかなわぬほどの揺れ。反射的に頭を庇うような姿勢を取るティターニア。
そんな中で、魔法陣から眩い光が迸ったかと思うと、そこから風景が塗り替わっていく――ように見えた。
転移魔法陣が発動したのか、あるいは――それは空間を隔てる結界を繋ぎとめる杭のようなものだったのかもしれなかった。
0125ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/18(水) 02:09:56.31ID:6K4Y6PbZ
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

気が付くと一行は、黄の宝石で彩られた古代都市に立っていた。
しかしゆっくりと周囲を見回している場合ではなく、まず最初に目に飛び込んできたのは、激しい戦いの様子。

≪何故扉を開き奴らを招き入れた!?≫

「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者――何故分からぬのですか!?」

≪我は認めぬ――奴らは昔から甘いのだ! 非情になれぬ者達に世界を変える事など出来ぬ!≫

黄金色にも近い黄色の竜の翼を生やした金髪の女性――大地の竜テッラと
巨大な狼の姿をした獣、アガルタの守護聖獣フェンリルが、地を揺らし礫巻き上げる戦いを繰り広げていた。
フェンリル、その名の意味は「地を揺らす物」――地震の正体は、この戦いの余波だったらしい。
彼らはジャンとティターニア達に指環を託すかどうかを巡って争っているようだった。

「まさか……内輪もめか……?」

ティターニアの呟きに、大地の竜テッラが答える。

「ジャン様、ティターニア様、お仲間の皆様……お見苦しいところを大変申し訳ありません――とにかく今は加勢をお願いします!
この分からず屋に貴方達の力を見せてやって下さい!」

「仕方あるまい、行くぞ――!」

ティターニアが加勢に入ろうとしたときだった。
荒れ狂っていたフェンリルがはたと動きを止め、一行の方に歩み寄ってくる。
その瞳は、ミライユの方を真っ直ぐと見つめていた。

≪そなた、他の者達とは違うな――冷酷で無慈悲で何よりも純粋――
我は思うのだ、世界を変え得るのはそなたのような者だと。
もしもそなたが指環を欲するなら、力を貸そう――娘よ、力が欲しいか――!≫

ミライユに向けて唐突に発せられた荘厳な問いかけ――
あまりの展開に、ティターニアは息を飲んでミライユの返答を待つしかなかった。

【一応ジャン・ラテ・ティターニア・テッラVSミライユ・フェンリル・(増援3名)
の対戦カードを組んでみたつもりだがもちろんここからどういう流れになるかは皆次第だ!】
0126創る名無しに見る名無し2017/01/18(水) 19:59:44.16ID:ilVEVhxz
埋め
0127 ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/19(木) 13:36:39.22ID:BUszQBJk
「これでいいのかなぁ?」

タイザンら3名はテッラ洞窟の見張りを不意をついて沈黙させ、処遇について話していた。

「二人ほど殺っちゃったけど……残りはどうすんだ? マスター」

「仕方ないなぁ……シュマリは手加減できないの、直した方がいいよ。じゃあさ、そこらの木まで運んで縛ってもらえるかな。
シュマリ、ホロカ。特製スパイスで眠らせておいたから、後は頼める?」

タイザンは二人に倒れた警備兵たち四名の処遇を任せて、二名の犠牲者の処理をしながら、
一人娘、マトイのことについて思い出していた。
懐からメモを取り出し、マトイのギルドNoを確認する。

(『No.1012 マトイ・シモヤマ』 マトイは最近おかしかったね……
向こうのマスターが凄く良い人だとか言ってた。最後に会ったときも笑顔だったけど、
本当に無事なんだろうか……)

死体を埋め、形跡を消して、入り口を封鎖する準備をしている間に、二人が戻ってくる。

「はーい、ありがと。ところでホロカ、ちょっとここで警備兵の服装に着替えて、残ってもらえる?
すぐ終わるからさぁ、どうせ誰も来ないと思うよ」

「えぇ〜!? 嫌だぁ、わたしもお姉ちゃんと行く〜」

「……仕方ないなぁ、じゃあ、完全に入り口封鎖しとくから、できるだけ前出ないように注意して。行くよ」

タイザンは最後に会ったときのミライユの顔を浮かべながら、僅かに寒気がするのを感じた。

(あの子は有無を言わせないところがあるから……本当に気をつけないと)


――一方、ミライユは――


>「……これは、いよいよ怪しいですね。匂いますよ、お宝の匂いがします」

既にミライユも感じているのだ。この洞窟の奥底にある魔力の流れを。

(しかし、このラテという女もなかなかの使い手のよう。マスター、私、頑張ります!)

「むっ!? あれはオオネズミ! しかも結構大きいですよ……!」

あくまで後方支援とばかりに安全な位置を確保しながら近づいていくミライユ。
ラテの様子を観察する。そうやらピックと毒と剣を使い、何やら仕掛けているようだ。
アサシンギルドの視察でみたようなものだ。

(あんな仕掛けじゃすぐバレちゃいますよ……って……!)

巨大なネズミの首が一瞬で切断され、既にラテはその死骸の片付けやら採集やらをしている。
どうやら侮れない相手であるころは間違いないらしい。
0128 ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/19(木) 13:55:37.56ID:BUszQBJk
「へぇー、ラテさん、これは、大手柄ですよ!!」
適度にラテを褒めておく。
驚きを悟られないように、ジャンと共にオオネズミの肉の処理をした。結構な肉量になりそうだ。

やがて血が魔方陣になるなどの紆余曲折あって、洞窟の床は崩落、
一行は下のフロアに立っていた。
「古代都市……!?」

ティターニアの知識ではアガルタというらしい。
正直、殺しの経験ばかりはあるが、ミライユはこういった遺跡などの知識は殆ど無いに等しい。
彼女がいなかったら自分が何をすれば良いのかも分からないだろう。轟音のような叫び声のような音が響いてくる。

(深入り、し過ぎましたかね……)
ミライユは身体を起こすと、ハネた髪に付いた土を払いながら、髪の隙間から見開いた目を覗かせていた。
魔力の居場所が目の前に迫っているのだ。

正直なところ、これだけの深追いをしている自分に驚愕している。
あくまで自分の目的は「ティターニアの監視」なのだから。しかし、指環の在り処の特徴と一致する部分はいくつかある。

恐る恐る様子を見ると、どうやら竜の翼を生やした女と、巨大な狼が戦っているようだ。
自分が必死であることを周囲の三人に悟られないように、集中力を凝らして他の魔力や精霊力を検地する。

と、増援のタイザンたちがこちらに向かってきているのが分かった。
あと二人もいればこの状況で自分の手足になるにはこと足りるだろう。

「……って、三人!?」
泥や土まみれになりながら、タイザン、シュマリ、ホロカがそこには居た。

ティターニア、ジャン、ラテもほぼ同時に彼らが登場したことに気付いていた。
いや、ティターニアあたりは既に感知していたかもしれない。

タイザンたちにはティターニアについては「取材と護衛」ということで表面上は済ませると
伝えてある。ただし裏ではギルドにとっての危険人物であると周知されているのだ。
手っ取り早く紹介を済ませる。

「タイザンさん、お久しぶりです。こちらの方が導師ティターニア様。
あ、ティターニア様。私が急遽増援としてソルタレクから派遣した護衛のタイザンさんです。
ってことでタイザンさん。主に、護衛を、よろしくお願いしますね! ところで……」

「あぁ、うん、ミライユちゃん、よろしく頼むよ」
「"連絡役"は一人用意してあるんですよね?」
「あぁ、それは必要無かったよ」「タイザンマスターがいらないって言ったから!」

「タイザン、"マスター"? あのですね、No.1188・ホロカ・シズカリ。タイザンさんはマネージャーですよ?
マスターはソルタレクのギルドマスター一人だけ。分かった?」

ミライユがホロカの黒髪の頭を撫でるようにして、内側から力を加える。
ホロカはやがて涙目になって、その場を素早く離れ、シュマリの後ろに隠れた。
タイザンがため息をつく。

「ほら、だから言ったでしょ。僕はただのタイザンだから。ここからはとりあえず
ミライユちゃんの指示に従って」

「怖いよ、お姉ちゃん……」

ホロカがシュマリの後ろに隠れ、ミライユを遠巻きに見る。

(お姉ちゃん……? うっ、頭が……)
ミライユは過去の思い出したくもない出来事を思い出していた。
0129 ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/19(木) 14:22:31.22ID:BUszQBJk
「お母様!」

首府ソルタレク。当時まだ12歳だったミライユの屋敷はローブを着た集団によって襲われていた。
魔術師でもあった母はそれらに応戦していた。敵の頭は空中を浮遊する、露出度の高い服装をした魔女だった。
何度かミライユも会ったことがある。それは父の不倫相手でもあったのだ。
いずれはこうなるだろうと予想はしていたものの、あまりにもそれは早くきた。

「ミライユ、護衛のいるメルセデスの部屋に下がってなさい。あなたは脱出するの! 
あれは"指環の魔女"よ。私たちを裏切った化け物! あぁっ!」

母が魔女の炎によって焼かれていく。屋敷でも護衛とフードの集団が戦っていたが、流れは見えていた。

メルセデス……ミライユの最愛の姉はギルドに所属していた。15歳ながら剣の腕は確かだった。

「お姉さま、私、どうしたら良いんですか?」
「ミライユ、ここには護衛の騎士もいるし、お父様がきっと私たちのことは助けてくれるわ。
だから、指示があるまで待ってて。あなたはまだ戦えないんだから」

やがて父が現れた。その姿は何かに取り付かれたようで、何も見ていなかった。
「お父様!!」

ミライユが叫んでいる間に、父は次々と見張りの騎士たちを殺していった。
「ミライユ、下がって!」
姉・メルセデスが剣を抜く。そして迫り来る父にその切っ先を向ける。
ミライユの顔に生暖かい何かが大量に散った。

――それは姉の血液だった。どろりとそれを浴びたミライユは、落ちている槍を拾い、振り回していた。

「お姉さま! 嫌アァァァァァァ!!!!―――」

そこから先は覚えていない。父は死体となって発見され、いつの間にかミライユは
冒険者ギルドのメンバーのよって助けられていた。
後から聞いた話によると、母が父と不倫相手である"指環の魔女"との関係を察し、
先に冒険者ギルドにも増援を寄越したらしい。魔女の組織はギルドと敵対しており、調度それらは駆逐された。

その後、ミライユは冒険者ギルドの一員となって少しでも強くなるために非正規メンバーとして様々な任務をした。
既に12歳にして「人殺し」になっていたミライユは比較的活躍したが、それでもベテランには到底及ばないものだった。
時には裏通りに呼び出され、収穫物を取られたり、理不尽な暴力を受けたりもした。それはエスカレートした。
当時の冒険者ギルドはまとまりが無く、ギルド員と荒くれ者が混在している状態だった。
任務が終われば取り分をめぐって争いが起こることもしばしばであり、ついに目をつけられたミライユは、
何か気に入らないことがある度に荒くれの男女に取り囲まれ、暴力を振るわれてはモノを奪われた。そしてミライユは心を壊した。
ただ笑うことで感情を押し殺し、我慢するようになっていた。

――しかし、それもある男の登場で変わる。
それが今の「マスター」だった。彼は裏通りの荒くれや、冒険者ギルドに片足を掛ける狼藉者を次々粛清していった。
やがてミライユもその一員になり、報復を行った。そして殺しの快感を覚えてしまった。
そこからは当然のような流れだ。ミライユが受けた分の嫌がらせを相手に対してすることで、自分の気を紛らわす毎日だった。
服を脱ぎ、自分の身体に刻まれた暴力の傷を見るたびに、それを誰かになすり付けたくなる。ミライユの心は荒んでいた――
0130ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/19(木) 16:08:12.87ID:BUszQBJk
(はッ、何を考えているんでしょう……私は、今から大事なことが、起こりそうなのに……)

目の前では竜女とフェンリルが言い争いをしていた。

>「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者――何故分からぬのですか!?」
>≪我は認めぬ――奴らは昔から甘いのだ! 非情になれぬ者達に世界を変える事など出来ぬ!≫

アガルタとティターニアが呼ぶ遺跡の住人たちの会話の内容を、冷静になって分析する。
女は恐らく竜……指環を持っているのだろう。そしてフェンリルの方は会話内容からすると、
ついさっきまで仲間として共に行動していたということで間違いない。


「いいですか……彼らが何を話しているか、落ち着いて聞いていてくださいね」
後ろにいるタイザンたちに目配せする。

>「ジャン様、ティターニア様、お仲間の皆様……お見苦しいところを大変申し訳ありません――とにかく今は加勢をお願いします!
この分からず屋に貴方達の力を見せてやって下さい!」
>「仕方あるまい、行くぞ――!」

「お知り合い……ですか?」

ジャン、ティターニアの名前、それを知るタイミングといえば、警備兵に名前を告げたあたりだろう。と普通は思う。
少なくともミライユにはアクアの件を知る由は無かった。

(となると、警備兵を始末するときに、タイザンは持ち物や仕掛けの確認を怠っていた……と)

チッ、と舌打ちが思わずミライユからこぼれる。
頭を抱えていると、何やらフェンリルの方がこちらに向かっている。ミライユの方だ。
あっさり女と停戦するあたりは、未だに交渉の余地があることと思われた。

急過ぎる。さすがの戦闘慣れしたミライユもこれには後ずさる。これだけの高位の魔物はそういまい。
0131ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/19(木) 16:13:15.43ID:BUszQBJk
≪そなた、他の者達とは違うな――冷酷で無慈悲で何よりも純粋――
我は思うのだ、世界を変え得るのはそなたのような者だと。
もしもそなたが指環を欲するなら、力を貸そう――娘よ、力が欲しいか――!≫

(力……? 欲しいに決まっているでしょう。 
そして世界を変えられるのも、この中には私しかいません。しかし……)

「シュマリ。あなたにこの任務をお任せします。"インカルシペ最高の守護戦士"と呼ばれるあなたにこそ相応しい力。
獣人の誇りというものを、見せてあげなさい! 故郷を助けたのはどこでしたか?」

シュマリは面食らったような表情でタイザンや他の面々の方を見渡した。
タイザンは汗をかきながら、とりあえずといった様子で首を縦に振る。ホロカは混乱していて返事ができる状態ではない。
ティターニアたちの表情からは初対面のシュマリからは何も分からない。
ただ、ミライユの有無を言わさぬ表情が、シュマリを睨んでいる。

「シュマリ。大丈夫、必ず助けてあげるから」

タイザンのその一言が決定打となり、シュマリの覚悟を決めた。

「分かったよ。マスター。オレ、力、欲しい。オレがこの場を動かしてやる。くれよ、力ってやつを……!」

≪仕方あるまい。言われてみればこちらの娘も心は違えど"資質"は持っている様子。
では獣人の娘よ。我が敵、地竜テッラを討ち滅ぼしてみせよ。オォォォ――≫

「ふっ、ぐぁっ、フオォォォォォォ……――ン!!
あぁっ、すげぇよ……すっげぇ力だよぉ、オォォォ……!!」

巨大なフェンリルが雄叫びを上げると、その巨体がオーラの塊になり、シュマリを襲う。
雄たけびのような声と共に、それを受け入れたシュマリの髪が伸び、全身から禍々しいオーラと衝撃波を放った。
思わずミライユたちは吹き飛ばされる。
目は真っ赤に染まり、それはただ一点、大地の竜である女の方を見ていた。

「愚かな……そのような娘に力を与えても、操れる力ではない――」

テッラは突如襲いかかるシュマリの猛烈な攻撃を受け止めた。しかし、フェンリルの強力な打力と魔力にシュマリの速度と鋭さが相まって、
もはや人間形態だけではその攻撃を受け止めきれないようだ。
一撃、一撃がテッラに入るごとに、皮膚が破れ鮮血が舞い、やがて翼の皮膜にも穴が空きはじめた。
限界を察したテッラは呪文のようなものを唱えると、一同へと言い放つ。

「どうやらフェンリルの力を侮っていたようですね。私はこれより真の姿にならねばなりません――
私の能力もやはり理性が飛びかねない膨大な力を要するものです。先にお伝えします。
そこから現れる指環、ティターニア様とお仲間の方々に託します。私がフェンリルを止めている間に指環を取ってそこの
魔方陣から脱出なさい。それと、その娘は――グゴッ、ゴゴゴオゴ……」
0132ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/19(木) 16:17:22.92ID:BUszQBJk
テッラが両手を天にかざすと、まばゆい光とともに脇の祭壇が崩れ、そこから
一本の柱がせり出してきた。それは初めは人間の背丈四方ほどだったが、徐々にピラミッド状に伸び、一番天辺に
まさに黄金色に輝く"指環"が現れた。同時に魔方陣も出現する。

巨大な黄金のドラゴンとなったテッラは徐々に押し返し、シュマリをブレスや爪により傷つけていく。
シュマリは何の因縁もないテッラに攻撃することを強要され続けており、既に身体は悲鳴を上げていた。
あばらの何本かは折れているだろう。出血も相当だが、痛みも感じないらしく、尚もテッラに向き直る。

「シュマリ……! もういいから退きなさい、まだやり直せるから……!」
「『助けて』ってずっと言ってる……! お姉ちゃん! もうやめて……!」

ホロカはシュマリの精霊力の変化を感じ取ったようだ。

しかしミライユはそんなものには構わず指環だけを見て詠唱し、指環に向けて勢い良く駆ける。
この点においてはミライユが誰よりも有利だった。
射程内に入ると同時に空間操作魔法が発動し、あっという間に指環はミライユの手に渡った。
アハハ、と高笑いし、それを大事そうに握ったまま、声を荒げてタイザンたちや"ギルド員"たちに指示を出す。

「タイザンさんとホロカは、とりあえず私が魔方陣まで行くのを支援してください!」

「ジャンさん、ラテさん、あなた方もギルド員なら、シュマリの支援にでも向かったらどうです?
彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?」

口の端を吊り上げながら、ミライユは"テッラが用意した脱出用の魔方陣"めがけて一直線に駆けた。
(あの三人も用済みですね……マスター、必ず指環を持ち帰って、そして、貴方の望みを……!)


【竜化したテッラと獣化して限界突破したシュマリが戦闘中。テッラが有利。
ミライユは"指環"を奪って魔方陣へ。タイザンとホロカがそれを護衛。
ジャンとラテには不利になっているシュマリを守るように指示。】

【捉え方、選択肢は多いと思いますが、お好きな展開をどうぞ。シュマリはこのままいけば死ぬまで戦います。
タイザンとホロカはこれ以降は好きなように動かしてもらって大丈夫です。】
0133創る名無しに見る名無し2017/01/19(木) 23:24:26.73ID:h/PzmiO7
埋め
0134創る名無しに見る名無し2017/01/19(木) 23:24:44.72ID:h/PzmiO7
埋め
0135創る名無しに見る名無し2017/01/19(木) 23:25:04.72ID:h/PzmiO7
埋め
0136創る名無しに見る名無し2017/01/19(木) 23:25:33.96ID:h/PzmiO7
埋め
0137創る名無しに見る名無し2017/01/19(木) 23:25:47.41ID:h/PzmiO7
埋め
0138創る名無しに見る名無し2017/01/19(木) 23:32:58.20ID:g3jlfOTj
埋め
0139 ◆ejIZLl01yY 2017/01/20(金) 14:18:29.92ID:KSHQ0kvW
>「お前……

「ひゃいっ!?」

ぎゃー見られた!
洞窟の暗がりの中こそこそとオオネズミの血を採取する所を見られてしまった!
しかもびっくりして変な声まで出た。絶対変な奴と思われたよこれ。

陰気で根暗なレンジャーのくせに黒魔術にも手を出してるヤバイ奴だと思われるに違いないんだぁ。
もうだめだぁ。

>オオネズミ食うのか?わざわざ血まで抜く辺り、さては無類のオオネズミ好きなんだな…」

「へっ?……あ、あぁ、そうなんですよ!
 レンジャーやってるとやっぱりお世話になりがちでして……
 そのまま癖になっちゃったんですよねー、あはは……」

と思ったらセーフ!いや、これはアウトかも!
少なくともネズミのお肉が大好きな奴と思われて女の子的には完全アウトです!

よく見るとジャンさんもオオネズミの解体してるし。
これは今更「いや、私はオオネズミとか食べませんよ。オークじゃあるまいし、ははんっ」とか言えそうにない雰囲気。

>「ジャン殿、それは……まあ良いか。食べてみれば新たな扉が開けるかもしれぬ」

まぁ良くないです……駄目だ、これはもう誤解を解けるような雰囲気じゃない……詰んだ……
諦めて私も食肉として幾らか回収しておこう……
そして回収したからには食べなきゃと口に運ぶんだろうなぁ。

「あっ、首にピックが刺さってるのは麻痺毒打ち込んでますから、気をつけて下さいね」

いや、まぁ、不味い訳じゃないんだけどね。

ん?食べた事あるのかって?
そりゃあるでしょ、レンジャーですよ私。
森や遺跡や敵陣で、たった一人で何日も過ごす事を前提とした職業なんですよ。

訓練時代、食べられる虫から魔物まで実践も含めて教わりましたとも。
オオネズミなんて余裕でもりもり食べられますよ。

ただオオネズミってどこにでもいるじゃん?どこにでもいるって事は、雑食性って事じゃん?
味がすごいまばらなんだよね。
だけど草食べてようが肉食べてようが、まず間違いなく臭みがある。

この洞窟の場合は……虫とか?
虫って結構栄養があるし、美味しいお肉になったり……してたらいいなぁ。

実際の重量以上に重く感じるオオネズミのお肉を蝋紙で包んで宝箱に収め……さて、探検再開と行きますか。
と言っても、ここで行き止まりみたいだけど、マナの風は確かにここから感じる。

「そろそろ、何かありそうな気がするんですけどね。壁とか床とか、
 古代都市を隠してるなら魔法的な仕掛けがあるのかも……どれどれ」

「そうだな、見たところこいつらがいた広間が行き止まりみたいだが…あっおい!」

「ん、何かありました……」

とりあえず壁を検めようかと思っていたら、ジャンさんが驚きの声を上げた。
私はそちらを振り返って、松明代わりの灯火の杖を掲げ……思わず、言葉と呼吸を忘れた。
灯火に照らされた地面に、ネズミの死体から流れた血が魔法陣を描いていた。
0140 ◆ejIZLl01yY 2017/01/20(金) 14:19:32.69ID:KSHQ0kvW
地面に小さな溝……これは、古代文字?が刻まれていたんだ。
灯火からの明かりを受けて、魔法陣は妖しい紅の輝きを放っている。

>「……古代都市への入口というより、これじゃ冥界への入口だな」

「ちょっとやめてくださいよ。今からそこに潜るかもしれないって時に」

>「ああ、そういえばここにあると噂されておるのは地底都市アガルタ――各伝承によって楽園とも地獄とも謳われておるな。
  これは形からいって転送魔術陣のようなものかもしれぬ――この文字……ラテ殿の盾の文字に少し似ておらぬか?」

「あー……この盾ですか?そう言われてみれば確かに……でもこの石版、なんて書いてあるか読めないんですよね。
 あ、あ、待って。読んじゃ駄目ですよ。読めなくていいんです。読めない方がいいんです。
 見ての通りこの盾、呪われてるみたいで……多分、完全に解読すると……最悪死ぬかも」

なんでそんなもん盾にしてんだって聞かれたら、頑丈だったからとしか……

「ただ……この盾、どうも世界滅亡の予言が記されてるみたいで。
 かつて世界の滅びを予言した、古代文明の魔法陣……うーん、穏やかじゃない」

と……また地震だ。今のは結構激しく揺れたなぁ。

>「まずいな……崩落でもしたら……」

ここは自然に出来た洞窟だし、滅多な事じゃ崩れないとは思うけど……怖い事には変わりない。

「ティターニアさん。この魔方陣、解析出来ますか?……もし解析が難しいとして、起動ならどうです……」

っと……言い終わらない内からとんでもない激音!
うわわまた揺れてるよ!ちょっと、これは、立ってられないくらい大きい……!

瞬間、足元の魔法陣から眩い光。
これは……真っ暗な洞窟の景色が、眩く塗り変わっていく。

石とも金属ともつかない、継ぎ目一つなく艶やかな、淡く光を放つ街路。
連なる建物さえもが地面と繋がっている……いや違う。天井にさえも、同じように建物が並んでいる。
そしてそれらを彩る、太陽を封じ込めたかのように煌めく宝石。
私はその光景に目を奪われ、そしてトレジャーハンターとしての感性が、一瞬にも満たない内に理解した。

ここが……古代都市なんだ。

凄まじく高度な魔法技術と、恐らくは大地の竜の加護が、こんな幻想的な街並みを……って、なんかまだ揺れてる!
一体何が……

>≪何故扉を開き奴らを招き入れた!?≫
>「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者――何故分からぬのですか!?」
>≪我は認めぬ――奴らは昔から甘いのだ! 非情になれぬ者達に世界を変える事など出来ぬ!≫

と顔を上げたその先で、竜の翼を生やした女の人と、めちゃくちゃでっかい狼が戦ってた。
えっ、えっ?なにこれ、ちょっと私ついてこれてない。

>「まさか……内輪もめか……?」

ティターニアさんなんでそんな冷静なの?
いや、待って。少し頭が追いついてきた。
冷静になって、状況から事実を逆算すれば、すぐに分かる事だ。

この人達は古代都市が実在する事を、ずっと前から知っていたんだ。

そして恐らくは、指環や、その守護者の存在も。
だからこんなに冷静でいられる。
0141 ◆ejIZLl01yY 2017/01/20(金) 14:20:48.41ID:KSHQ0kvW
>「ジャン様、ティターニア様、お仲間の皆様……お見苦しいところを大変申し訳ありません――とにかく今は加勢をお願いします!
  この分からず屋に貴方達の力を見せてやって下さい!」
>「仕方あるまい、行くぞ――!」

あぁ、もう、色々聞いてみたいけどなんかそういう状況じゃないっぽい!
まずは目の前の状況に集中するしかない……

>≪そなた、他の者達とは違うな――冷酷で無慈悲で何よりも純粋――
  我は思うのだ、世界を変え得るのはそなたのような者だと。
  もしもそなたが指環を欲するなら、力を貸そう――娘よ、力が欲しいか――!≫

……そうして私が【不銘】を構えたところで、巨大な狼はそう言った。
ミライユさんに向けて。

そして状況は目紛るしく二転、三転と動き回る。


>「ジャンさん、ラテさん、あなた方もギルド員なら、シュマリの支援にでも向かったらどうです?
  彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?」

ろくに言葉も行動も挟む間もなく、ミライユさんとその増援は脱出の魔法陣へと駆け出した。
その光景に私は……

「……いやいや、おかしいでしょ」

思わず、胸の中に渦巻く暗い感情を、そのまま声にして零してしまった。

なんて言えばいいんだろ。
あー、だめだ。あんまり言葉を飾り立てる余裕もないや。

めちゃくちゃムカついた。

「止めてきます」

ジャンさん達の返事も待たずに、私は腰の宝箱を開いた。取り出すのは爆弾。
魔物の血肉から抽出した魔力を固めて、その過程で軽銀を合成した物。

左手いっぱい、優に十を超えるそれらを【不銘】で放つ。
狙いはミライユさん達じゃない……脱出用の魔法陣だ。
その真上にも周囲にも爆弾が落ちて、爆ぜる。
軽銀が高濃度のマナと反応して、その場に業火の壁を残す。

ただの業火じゃない。魔力を燃料にして燃える炎だ。
排除する為の魔法すら、その魔力を燃やして更に燃え上がる。
優秀な魔法使いであっても、短時間でどうにか出来る代物じゃない。

身体能力増強のポーションも飲めば、十も地面を蹴る頃には、三人に追いついた。

「おや、どうやら道が混んでるみたいですね」

後ろから声をかける。

「……で、いつ助けに行くんですか?」

振り返った、タイザンとか呼ばれてたおじさんを、強く睨む。

「『必ず助けてあげるから』なんでしょう?
 『彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?』。いつ助けに行くんですか?」

肺腑から喉を通って出て来る声は、自分でも驚くくらい冷たい。
0142 ◆ejIZLl01yY 2017/01/20(金) 14:23:54.58ID:KSHQ0kvW
「私達を倒さずにってのは、ちょっと無理がありますね。それにその炎、魔法を使ってもそうそう消せませんよ。
 私達を倒して、炎を消して、ミライユさんを見送って、目減りした戦力であの狼を倒して、助ける。……出来ますかね。
 おっと、ついでに私はレンジャーです。のらりくらりと戦うのはお手の物ですよ」

だけど、これくらいで丁度よかった。
自分でも驚くほどの、この冷たさでも……もう長くは抑えきれそうにない。

「まぁ、もしかしたら私達もあの狼も、あなた達よりずっと弱い、かもしれないですよね。
 その炎も、そうそう消せないってのはただの私のハッタリ、かもしれない。
 ミライユさんは指環をどこかに隠したら、すぐに戻ってきてくれる、「かもしれない」……」

この、腸が煮えくり返るような怒りは。

「……そんな曖昧な言葉に委ねられるほど、あの子の命は軽いものなのか!なんで助けにいかないんだ!」

私は怒りのままに、声を張り上げた。

「家族なんだろう!?今更ミライユさんに義理立てして何が残る!あの子の命よりも重くて尊い物が手に入るのか!」

宝箱から装備を取り出す。
煙幕、閃光弾、毒を塗ったダガー……持久戦にはどれも役に立つ。
道具はまだまだ沢山ある。全部使ってやるぞ。

「今すぐ私の目の前から消えろ。でなければ、あの子が死ぬまでここで粘ってやる。
 あの子が少しずつ力に蝕まれ、弱り、己を失いながら死んでいく、その一部始終を見させてやるぞ」

おじさんと、女の子は、まだ迷っている。
あぁ、もう、本当に……腹が立つ!

「助けに行けって言ってるんだよ!さっさと行け!まだ踏ん切りが付かないなら、こっちから仕掛けてやるぞ!」

感情に任せて怒鳴り上げる。

そして弾かれたように、まず妹が身を翻して走り出した。
おじさんは、一瞬だけミライユさんを見て、だけどすぐに妹ちゃんの後を追った。

……深い溜息が漏れる。怒るのって、めちゃくちゃ疲れるなぁ。

ん?……あぁ、違う違うよ。今のはヒュミントなんかじゃない。
ただの、めちゃくちゃカッコ悪いおじさんと妹への、本心からの怒りだったよ。
もし今のでまだもじもじしてるようだったら、私はさっき言った事全部実行に移すつもりだったさ。
……いや、多分、半分くらいは……まぁ……逃げ出したら追いかけるまではしなかったかも。

でも本当に、それくらいムカついたんだ。
仲間が、家族が、苦しんでるのに、死のうとしてるのに、それに背を向けて走り出す奴があるかよ。

そして……そうなるように仕向けたミライユさんにも、腹が立った。
絶対に懺悔させてやる。償わせてやる。
私は彼女を睨みつける。

「これ」

懐から取り出すのは、武器でも道具でもない。
彼女から押し付けられたギルドの会員証……あの人と、私の、唯一の接点。
0143 ◆ejIZLl01yY 2017/01/20(金) 14:28:37.13ID:KSHQ0kvW
「やっぱりお返ししておきますね。私には私の家があるんです。あなたとの繋がりは、いらない」

鎖を巻きつけて丸めたそれを、ミライユさんへと投げる。

「……あなたは、生まれた時からずっとそうなんでしょうね。人の情なんて理解出来ない。
 だからあなたの傍には誰の心もありやしない。
 あぁ、マスターさんとやらは傍に置いてくれているんでしたっけ?」

違う。人を利用し、いたぶり、踏みにじれる人間は……本当は、人の情をよく知っている。
それこそ人一倍に。ゴーレムは好き好んで人をいたぶったりしない。
残酷な事が出来るのは、その人の中にそれを残酷と感じる情があるからだ。

間違いないと断言出来る訳じゃない。そうじゃない可能性だって十分にあり得る。
それでも私は、ミライユさんが「心の中にボタンの掛け違いがあるだけの、普通の女の人」だと信じる。
そう決めた。

「でもそれは、きっとあなたの力に価値を感じているだけ。あなたという人間には、何の価値もない」

そしてだからこそ、私はそれを否定する。
人間は、否定されれば、否定し返したくなる生き物だから。

私は彼女に懺悔させたい。自分の非道の償いをさせたい。
だから、私は彼女の中の「真心」を引きずり出す。
なぜかって?

歪んだ心で懺悔し、罪を償う事なんか出来やしないからだよ。
精々、自分の犯した罪の重さに苦しめばいい。

……別に昨日の夜ご飯とお喋りが、少し楽しかったなんて、そんな理由じゃない。

さぁて、これでどれくらい怒るかな。どれくらい「素」を見せてくれるかな?
仮にめちゃくちゃ怒って襲いかかってきたとしても、まぁ私には当たらないんだけどね。
だって彼女が見ている私は、ただの【ファントム】だから。

つまり【スニーク】の逆。
魔力のハリボテを置き残して、まるで自分がそこにいるかのように見せるスキル。
スニークと併用する事で、まったく別の場所にこっそり移動する事も出来る。


例えばミライユさんの背後に回って、麻痺毒を塗ったダガーで斬りつけるなんて事も出来る。

さっき飲んだポーションの効能で、体の感覚は研ぎ澄まされている。
感覚が鋭くなっているという事は、精神もそれに引っ張られる。
精神が鋭くなれば、魔力の操作も鋭くなる。

見切れるもんか。

気配は絶っていても姿は見せているから、きっとジャンさん達も合わせてくれる……はず!
あ、いや、さっき勝手にブチ切れて先行しちゃったからちょっとヤバイような気も……だ、大丈夫だよね!



【分身の術&バックスタブ】

【NPC3人はどうやってもグダる未来しか見えなかったのでカッコつけついでに隔離させてもらいました
 でもお喋りするにしろバトルするにしろミライユさん本人との方がお互い楽しいんじゃないかなぁ】
0144ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/20(金) 21:44:11.35ID:Xq0kz3CE
刻まれた魔法陣が血によって鮮明となり、ティターニアが魔法陣を調べようとした直後。
洞窟全体が崩れそうな勢いで激震が続く中、魔法陣は閃光を放ちながらその力を発動した。

気がつけばジャンたちは、黄土色や橙の宝石で彩られた古代都市の中に佇んでいる。
地底にあるせいか、宝石だけではなく金や銀の割合も多いようにジャンは感じていた。

>≪何故扉を開き奴らを招き入れた!?≫

>「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者――何故分からぬのですか!?」

だが、装飾品の回収は後になりそうだった。
ジャンが近くの家で早速探索しようとした瞬間、その家がどこからともなく聞こえてきた
言い争いと共に落ちてきた岩塊に押し潰されたからだ。

振り返ってみれば竜の翼を持つ女性と、巨大な狼がお互いに凄まじい力を振るいながら口論している。
きっとこの都市の竜と守護聖獣なのだろうが、今までに出会ったそれとは様子がかなり違った。

>「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者――何故分からぬのですか!?」

>≪我は認めぬ――奴らは昔から甘いのだ! 非情になれぬ者達に世界を変える事など出来ぬ!≫

どうやら指環を渡すかどうかで揉めているようだが、先ほどの岩塊のようにとばっちりがこっちに飛んでこないとも限らない。
それに、決着がつく頃にはこの都市が丸ごと壊されかねない惨状だ。

>「まさか……内輪もめか……?」

「口論で手を出すなって親父に教育されなかったみてえだな、あいつらしつけがなってねえ」

一人と一匹に聞こえないようこっそりとティターニアに耳打ちした。
このままでは指環をもらってもそれ以外の儲けが出ない。できる限り早くあの一人と一匹を止めるべく、ジャンはミスリル・ハンマーを構える。

>「ジャン様、ティターニア様、お仲間の皆様……お見苦しいところを大変申し訳ありません――とにかく今は加勢をお願いします!
この分からず屋に貴方達の力を見せてやって下さい!」

口論の内容とこの言い分から察するに、あの狼が指環を渡すことに反対しているようだ。
どうやら世界を変えるような人間に指環を渡したいようだが、ジャンにその気はまったくなかった。

>「仕方あるまい、行くぞ――!」

「ああ、俺の稼ぎが減る前にとっとと止めちまおう」

ティターニアと共にジャンが駆けだそうとしたとき、狼が動きを止めた。

>≪そなた、他の者達とは違うな――冷酷で無慈悲で何よりも純粋――
我は思うのだ、世界を変え得るのはそなたのような者だと。
もしもそなたが指環を欲するなら、力を貸そう――娘よ、力が欲しいか――!≫
0145ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/20(金) 21:44:48.68ID:Xq0kz3CE
この言葉で、全てが狂っていく。
ミライユが連れてきた護衛に狼の力を与え、地竜へと襲わせた。
地竜が真の姿を現し、指環を持って魔法陣へ逃げるよう伝えた。
残った護衛が泣きながらミライユを守ろうとしている。

ミライユは、全てを無視して指環へ走った。ジャンたちへ煽るように一言を残して。

>「ジャンさん、ラテさん、あなた方もギルド員なら、シュマリの支援にでも向かったらどうです?
彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?」

信じたくはなかったが、ミライユもまた指環を狙う刺客だった。
その声にまず、ラテが動く。

魔法陣を塗りつぶすように爆炎が広がり、ミライユたちへ脅しをかけて分断する。
さらに一撃を叩きこむべく、どうやったのかは分からないが分身までやってのけた。
おそらく身体強化のポーションも使ったのだろう、凄まじい速さで行われた一連の動作。

その流れの中、ジャンはただ走っていた。鉄の鞘から聖短剣サクラメントを引き抜きながら。
いかなる守りをも貫き、確実に標的へと刃を届かせる教会の必殺武器。
かつて戦った強敵からもらったそれを殺すべき者へと向けた。

(ギルドの一員なら…か。そうだな、ギルドの者どうし助け合わないとな。
 だから――あんなことにしちまった元凶を潰さねえとなァ!)

オーク族は傭兵や軍人になる者が多いが、それは生まれ持った体の頑強さや腕力だけではない。
彼らの戦士階級が持つ『戦の掟』と呼ばれるルールが傭兵や軍人にとって大事なものなのだ。

一つ、いかなる理由でも隣に立つ者を見捨てることなかれ。
二つ、いかなる理由でも死は生より恥である。
三つ、ただし一つ目を守るとき、二つ目は恥ではない。

ジャンもまた、冒険の途中において戦うときは常に戦の掟に従っていた。
だからこそ生き抜くために全力を尽くし、味方を守ってきた。

ミライユのとった行動は、それら全てに反するものだ。
隣に立つ者を見捨て、死なせるつもりで連れてきた。
ジャンからしてみれば恥の塊、ここにオーク族の会議があれば両腕切り落としか両足切り落としの
どちらにするかで揉めていただろう。

だからジャンは、真っ先にミライユを狙った。
サクラメントにて心臓を貫き、ミスリル・ハンマーで頭を潰すために。

そしてミライユがサクラメントの投擲距離に入った瞬間、ジャンは吼えた。

「グオォ……グガアアアァァァ!!!」

ウォークライによって怯ませ、増幅された腕力でサクラメントを心臓へ向け思い切りぶん投げる。
続けざまにミスリル・ハンマーもぶん投げ、両の拳で顎をかち割るべく、ミライユへと突進した。

【殺意MAXでハーフといえどマジ切れしたオークが突っ込んできます
 NPCと殴り合うのは一方的になりすぎても互角でもつまらないのでこっちに向かわせてもらいました!】
0146ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/21(土) 11:42:44.74ID:QkbALjB6
>「口論で手を出すなって親父に教育されなかったみてえだな、あいつらしつけがなってねえ」

単にしつけがなってないだけだったらまだいいのだが――とティターニアは思う。
クイーンネレイドはアクアに忠誠を誓っていたようだが、アクアはイグニスとベヒーモスが一枚岩ではなかった可能性を示唆していた。
もしくは、風の竜ウェントゥスすらご乱心するご時世だ、このフェンリルも何らかの理由で乱心してしまったのかもしれない。

>「シュマリ。あなたにこの任務をお任せします。"インカルシペ最高の守護戦士"と呼ばれるあなたにこそ相応しい力。
獣人の誇りというものを、見せてあげなさい! 故郷を助けたのはどこでしたか?」

フェンリルに白羽の矢を立てられたミライユは、何故かシュマリにその役を任せテッラを迎え撃たせる。
シュマリは戸惑いながらも承諾――というより、もとより彼らに拒否権などなかったのだ。
タイザンとホロカも内心では反対だがミライユに意見することができないという感じであった。
最初にこの3人が追い付いてきた時から違和感があったが、これで確信した。
増援の3人はミライユの絶対的な権力――もしくは、彼女自身の残虐性に怯えているのだ。
こうして、フェンリルの力を得たシュマリとテッラとの壮絶な戦いが始まった。

>「どうやらフェンリルの力を侮っていたようですね。私はこれより真の姿にならねばなりません――
私の能力もやはり理性が飛びかねない膨大な力を要するものです。先にお伝えします。
そこから現れる指環、ティターニア様とお仲間の方々に託します。私がフェンリルを止めている間に指環を取ってそこの
魔方陣から脱出なさい。それと、その娘は――グゴッ、ゴゴゴオゴ……」

人間形態のままではどうにもならないと悟ったテッラは、指環を一行に託し、真の姿を現した。
イグニスやアクアが人間形態のままだったのはこういうわけか――と思うティターニア。
竜の姿になると、人間形態の時のような理性を保てなくなるようだ。
指環が現れた途端に、空間を操作できるミライユがいち早く指環を手に入れてしまった。
そしてこんな指示を飛ばす。

>「タイザンさんとホロカは、とりあえず私が魔方陣まで行くのを支援してください!」
>「ジャンさん、ラテさん、あなた方もギルド員なら、シュマリの支援にでも向かったらどうです?
彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?」

タイザンとホロカはミライユに恐怖によって支配されていて、彼女に逆らうことができない。
こうなってしまってはシュマリを放っては置けないが、そちらに加勢に行ってはミライユが指環を持ち去ってしまう。
ティターニアが逡巡している間に、ラテが飛び出した。

>「助けに行けって言ってるんだよ!さっさと行け!まだ踏ん切りが付かないなら、こっちから仕掛けてやるぞ!」

シュマリは見事な啖呵で、最終的に二人をシュマリの加勢に向かわせることに成功した。
ティターニアはその普段との違いっぷりに少々驚きつつ、少し考える。
これが素なのか、それともこれも熟練したレンジャーとしての高度な技術なのか――
まあどちらにせよ同じことか、ミライユに恐怖によって支配された二人の呪縛を見事に解いてみせたのだから。
0147ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/21(土) 11:45:34.36ID:QkbALjB6
「……これで3対1だ。そなたに勝ち目はない、大人しく指環を渡すのだ。ここで渡せば悪いようにはせぬ」

何はともあれ指環を回収するのが先決だ。おそらく聞く耳持たないとは思いつつも、降伏を勧告する。

>「あぁ、マスターさんとやらは傍に置いてくれているんでしたっけ?」
>「でもそれは、きっとあなたの力に価値を感じているだけ。あなたという人間には、何の価値もない」

ラテがミライユを煽ってみせる。敢えて怒らせて、本心を引き出して対話しようとしているのだ。
功を奏してくれればいいが――と思いつつミライユの反応を見守っていた時だった。
オークの攻撃性を露わにしたジャンが殺意をむき出しにして襲い掛かっていくのが目に入った。

「ジャン殿……相手は指環を持っておるのだ!」

そう声をかけるも、ジャンが止まるはずはない。
これはまずい――と思うティターニア。何せ大地の指環は今はミライユの手中にある。
この初撃で首尾よく仕留められればいい、しかしミライユは空間を操作する魔術師でもある。
初撃で終わる可能性は低い。
そうなったら、追い詰められたミライユは相当に高い確率で指環を嵌める、という行為に出るだろう。
そうなってしまえば、もう何が起こるか分からない。
それに、ミライユ個人ではなく冒険者ギルドとしてティターニアを狙っているのであれば、縛り上げて情報を聞き出す必要もある。
それにしてもジャン殿――最初は見ていて心配になる程のどこまでも平和主義者のお人よし、といった印象だったが
最近少し、ほんの少しだけ攻撃的になってはいまいか、とティターニアは思う。
普段ならミライユがジャンの譲れない信念に触れてしまったのだろう、で終わるところだが、ティターニアには一つ気にかかっている事があった。
それはジャンに水の指環を持たせていることだ。あれ程の力を持つ指環、持ち主の精神に影響を及ぼしても何ら不思議はない。
見れば、竜化したテッラのごとく完全に理性が吹っ飛んでいる様子。
もともと優しい性格のジャンのことだ、我に返ってから後悔することはないだろうか――

「――ホールド!」

瞬時に以上の思考を経てティターニアが放ったのは、このフィールドでは威力が出やすい地属性の拘束術。
大地から魔力の土がせりあがり、それが相手の全身を覆い拘束する魔術だ。
今回は少しアレンジが加えてあり、拘束土自体の強度を最大まで強化してある。
つまり拘束すると同時に、どこまで通用するかは分からぬが、ジャンの攻撃に対しての防御にもなるということだ。
それは前述のように、諸般の事情を総合勘案した合理的理由によるものである。
こう見えてもティターニアは学者。
決して、昨日の晩餐を美味しそうに食べる様が目に焼き付いているからでも
年甲斐も無く修学旅行の夜のガールズトークに巻き込まれたのが楽しかったからでもない。
少なくとも本人はそう思っているのだ。

【>ミライユ殿
怒涛の展開で予期せぬ1対3になってしまったが中ボスということで遠慮せず派手に暴れてやってくれ!
>ジャン殿
指環が精神に影響、はそういうネタもアリかな、程度なので気にしないでもらっても大丈夫だ!】
0148ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/21(土) 11:54:24.34ID:QkbALjB6
【誤植申し訳ない
>146 下から四行目
×シュマリは見事な啖呵で、最終的に二人をシュマリの加勢に向かわせることに成功した。
○ラテは見事な啖呵で、最終的に二人をシュマリの加勢に向かわせることに成功した。

それとホールドを放ったのは当然ながらミライユ殿に対してだ!】
0149創る名無しに見る名無し2017/01/21(土) 13:05:45.20ID:88unqtu9
0150創る名無しに見る名無し2017/01/21(土) 13:06:14.29ID:88unqtu9
0151創る名無しに見る名無し2017/01/21(土) 13:06:49.03ID:88unqtu9
0152創る名無しに見る名無し2017/01/21(土) 13:07:22.92ID:88unqtu9
0153創る名無しに見る名無し2017/01/21(土) 13:07:59.14ID:88unqtu9
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産め
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膿め
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倦め
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熟め
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うめ
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0181創る名無しに見る名無し2017/01/22(日) 00:33:26.66ID:a9Hn9Vu1
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0182創る名無しに見る名無し2017/01/22(日) 00:34:51.65ID:a9Hn9Vu1
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0183創る名無しに見る名無し2017/01/22(日) 00:35:38.59ID:a9Hn9Vu1
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0184創る名無しに見る名無し2017/01/22(日) 00:41:36.62ID:vlEzVIn6
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0185創る名無しに見る名無し2017/01/22(日) 00:50:54.23ID:RUfuTQ+n
埋め
0186ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/23(月) 14:24:21.77ID:UYM1vaS0
転移魔方陣へと素早く駆ける。
使い方は知っている。テッラが出したものとはいえ、ある程度汎用性のある魔術だ。
魔方陣は目の前だ。

しかし――
後ろからようやく現れたタイザンは汗だくで血眼になっており、もはや自分の判断や意思はなさそうだ。
惰性で動かされ、シュマリの身を案じている方に心が動かされているのが丸分かりだ。
その後ろから来るホロカはさらに遅い。それまでに何らかの妨害がある可能性は高いだろう。

(残念ですが……ゴミどもは残して、一人で帰りますね。待っていてください、マスター……!)

そのときだった。
ドゴオォォン…… シュゴォォォ……!!!

魔法爆弾。それも高魔力のものが大量に。
「なっ…… もう少しのところで……っ!!」
魔力の動きから察知し、ラテの行動であることを確認すると、ミライユは
目を見開き、ラテをギロリと睨みつけた。もはや笑顔の彼女の面影はない。

>「……そんな曖昧な言葉に委ねられるほど、あの子の命は軽いものなのか!なんで助けにいかないんだ!」
「家族なんだろう!?今更ミライユさんに義理立てして何が残る!あの子の命よりも重くて尊い物が手に入るのか!」
「助けに行けって言ってるんだよ!さっさと行け!まだ踏ん切りが付かないなら、こっちから仕掛けてやるぞ!」

タイザンが踵を返す。ホロカもそれに続く。
動きが、流れが変わる! ミライユが先ほど命令した仲間たちに、次々と裏切られていった瞬間だ。

>「これ、やっぱりお返ししておきますね。私には私の家があるんです。あなたとの繋がりは、いらない」
「……あなたは、生まれた時からずっとそうなんでしょうね。人の情なんて理解出来ない。
 だからあなたの傍には誰の心もありやしない。
 あぁ、マスターさんとやらは傍に置いてくれているんでしたっけ?」

「あぁ、やっぱりお前も裏切るんですか……」

目の前にはラテの幻影がおり、斜め後ろに向かってその気配が進んでいるのが分かる。
今から突っ込んで魔方陣の炎を消し、ラテの攻撃を全て弾くことは不可能ではない。
ただし、死ぬ可能性もある大怪我、大火傷を負う覚悟があればの話だが。

(皆殺しにしてあげましょう…… ここでノコノコ逃げるなんて、私とギルドのプライドが許さない……!)

振り返ることなく、投げつけられた会員証を空間操作で弾き、移動していくラテを追尾するように弾き返す。それも高速度で。
さらに、魔方陣全体を覆う炎の壁からも、ラテの居る方向へと火弾を飛ばし、挟み撃ちにする。
裏切られたトラウマを沢山背負っているミライユにとって、ラテの行動は油に火を注ぐように効いた。額に青筋が浮かんでいる。

「丸見えですよ。ラテ。お前は特別に最後に殺してあげます…… いや、これは"粛清"……
不要なギルド員は、始末される定めにあるんです。じっくりと、甚振ってからね……!」
0187ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/23(月) 14:25:01.19ID:UYM1vaS0
素早くラテの動きを振り切ると、まずは会員証を一枚スカートから抜き取り、操作して飛ばした。

「待ってなさい、シュマリ、今助けに行くからね!」

その標的は刀を抜き、殆ど狼と化してテッラと戦うシュマリへと向かう、タイザンの腕へと突き刺さった。
思わぬ後方からの不意打ちに、タイザンは刀を落とす。
そして、タイザンの目にはその目に入れても痛くないほど大切な、あの娘の名前とナンバーが飛び込んできた。

『No.1012 マトイ・シモヤマ』

「あぁっ……! マトイ…… そんな、これがあるということは、ミライユが、僕の娘を……!?」

「せいか〜い! 『罪状:マスターの部屋に入った』です。彼女、美人でしたもんね。
何があったのか知りませんが、私の聖域に入った女は、死刑……! ハハ、それがソルタレクギルド本部の"裏の"掟なんですよ〜
そしてマスターも二人は要りません。あなた、二回も約束、破りましたよね? 殺しますよ?」

グサリ、と刀がタイザンの腹にめり込み、腹からは柄と鍔だけが見えるほどまでになった。
血の滴る長い刀身を背中から生やし、揺らしながら、タイザンは涙を流し、歯を食いしばって、ミライユの方を見た。

「ギィェェェッ……!!」≪グォォォォゥ……!!≫

向こうではテッラの翼の付け根にほぼフェンリルと一体化したシュマリが一撃を放ち、テッラの右翼と肩口からおびただしい量の血液が飛び散るところだった。
大怪我を負わせると同時にテッラの一撃をもろに食らったシュマリはついに倒れ、フェンリルと分離してついに力尽きる。
フェンリルは臓腑が脇から飛び出しており、シュマリもまた、裸で全身に大小の傷を負って倒れている。既に死んでいるか、もしくは瀕死だろう。

タイザンがその姿を見て、口から血を吐き出しながら、ミライユに訴えかける。

「おのれ……マトイのことは死んでも許さないぞミライユ。 僕はこのまま死んでも構わない……
頼みがある……シュマリと、ホロカの命だけは助けてくれないか……!? 
それとみんな仲良く…… 僕はね……戦いが嫌いなん……ごほッ!!」

ミライユはタイザンの口を塞ぐように脚で何度も何度もタイザンの腹や頭を蹴り付けた。

「アッハッハッハ! 私ね、そういうの嫌いなんですよ。目の前でこれだけの連中がケンカして、裏切りあって、
勝手に殺し合ってるじゃないですか? 命乞いしてみせなさいよ。クズ、ハゲ! あ、死んじゃったかな?」

やがて事切れたのか、頭を割られて脳漿を流しながら動かなくなったタイザンに、ホロカが涙を流して抱きつこうとした。

「あら、獣っ子、まだ生きてたんですか? ねぇ、お馬鹿、何で言うこと聞かなかったの?……ってことで、あなたも殺します」

ホロカをつまみ上げ、首を締め上げながら操作魔法の力を使い持ち上げる。
「返してよ! マスターと……お姉ちゃんを返してぇぇー!!」

ズキリ、とミライユの心が痛む。この痛みはどれぐらい振りだろうか…… 
殺戮と裏切り合いの興奮で心が昂揚しているところを、何か鋭く冷たいナイフのようなもので、突き刺されたような気持ちになった。

「うぅ……うわぁぁー!!」
思わず心を揺さぶられたミライユはホロカの腹部に蹴りをかまし、そのまま壁へと吹き飛ばした。ホロカがガクリと動かなくなる。

「さて、大体片付きましたね。次は、テッラ、大物から片付けてしまいましょう。
横に転がっている犬っころも一緒に潰してしまいますね。はい、さようなら……」

タイザンを空間操作で持ち上げ、刀の飛び出している切っ先をテッラに向ける。
そして、魔力を込めてテッラ目掛けて投げ、同時に駆け出そうとした――
0188ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/23(月) 14:37:54.19ID:UYM1vaS0
その時だった。横からジャンが物凄い勢いで突っ込んできた。
これまでにこの男のこのような表情を見たことがない。それはまさにオークそのものともいえた。

「グオォ……グガアアアァァァ!!!」

ついに、ジャンまで敵に回ったのだ。
ハーフオークには、昔、酷く痛めつけられたことがある。

(『女を殴んのって楽しいなァおい!』『チビのガキの癖に調子乗りやがって、ほら、立てよオラァ!』
『チッ、もう終わりなのか? 死にたくなかったら四つん這いになってこっちにケツ向けろよ、ゴラァ』)

嫌なことを思い出し、耳や脳裏に声が響いてくる。あれだけ優しそうだったジャンが、今はあの鬼どもに見える。
短剣が物凄い勢いで飛んでくる。それは魔力を帯びたものだった。
「くッ……!」

素早くかわそうとするも、思わぬウォークライの威力でミライユは動きが鈍くなり、
それは脇腹を貫通し、ローブと腰に巻いていたチェインが弾き飛ばされた。当然、その衝撃でミライユ自身の肉体もダメージを受ける。

「うっ……!」

倒れた拍子にスカートの中から会員証やら針、魔法の爆薬やらが飛び散った。

さらにフラついたところに重厚なミスリルハンマーまでもがミライユを襲う。

「ふん、この程度の動きで、ソルタレクの管理者の私を仕留めたつもりですか!?」

ミライユもジャンを睨みながらその攻撃を魔法の浮力で避けようと試みる。
(なっ……この棘は……!)

しかし、困ったことにこのハンマーは飛来する速度が不規則で、おまけに棘までついており、リーチは予想を超えた。
ただでさえラテが後方を攪乱しており、動きを制限されているのだ。
さらにジャン本人が両腕に力を込め、突っ込んでくる。無傷では済まされまい。
0189ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/23(月) 14:40:17.72ID:UYM1vaS0
―――その瞬間だった。

>「ジャン殿……相手は指環を持っておるのだ!」

ティターニアが不意に動いた。
>「――ホールド!」

これは拘束系の魔法だ。地面から土が盛り上がり、相手の全身を拘束する。

「しめた……!」

ミライユは咄嗟に空間操作を行い、地面から発現する魔力を素早くジャンの移動経路へと操作した。
ゴゴゴ……バシュウゥッ……!

瞬く間にジャンが強力な土の魔法により<ホールド>され、動きを完全に封じられる。
思わぬ同士討ちにミライユは助けられた。

「……ええと、残りは一、二匹……あ、一応三匹だったかな?」

ミライユが起き上がる。と、いうのも、先ほどのジャンの投擲自体は完全に避けきれなかっためだ。
右目はハンマーの柄で潰され、身体を覆うチェインも脇に棘が引っかかってが裂けてスカートごとボロボロになり、傷を負っている。
額や右目、そして脇腹に傷を負いながらも立ち上がり、いつもの調子で言葉を続ける。

「……まさかこの私がこれだけの目に遭うとは……痛いです。女の子の柔肌を痛めて、到底許されることじゃないですよ?
マスターに会ったら、何て言い訳をしたら良いのやら……。
しかも、ティターニアや竜じゃなく、その周りの虫ケラどもにここまで手傷を負わされるなんて……ねぇ……?」

動けなくなっているテッラ、ジャン、そしてラテの居る方向を見比べるミライユ。

「決めた。最初はこのオークにします。ティターニア、ソルタレクのギルド本部の名において命じます。
最後まで仲間割れの好きな人たちで、私、今、凄く楽しいですよ? あなたが言えば聞くでしょ?
とりあえずこの男とあの竜、そして私の後ろにいる羽虫を黙らせて、ギルドに降伏なさい。でないと、この男から殺します。
ま、愛する人を殺されて怒ってるあなた方の顔を見るのも、楽しみなんですけどねッ、アハハハッ!」

口の端を吊り上げて高笑いをするミライユ。その手には血のついたミスリルハンマーが握られ、
背後には魔力により、魔法の短剣、刀が飛び出したタイザンの死体、そして、多数の針と爆薬が浮かんでいた。


「私の傷のことは構いません……フェンリルと私については確かにその女の言う通り内輪揉め……我らの。
あなた方は私を反面教師として……悪しき者を正しいと思うとおりに罰しなさい。ティターニア、あなたに申しているのですよ……!!」

テッラはグォォと呻き、魔方陣の上の炎も徐々に弱まりつつあった。


【タイザン死亡、フェンリル・シュマリ・ホロカ生死不明、テッラ重傷】
【ということで、遠慮せずにどうぞやっちゃってください】
0190ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/23(月) 14:42:04.58ID:UYM1vaS0
【ちなみに指環はミライユのもう片方の腕に握られています】
0191創る名無しに見る名無し2017/01/23(月) 16:56:53.81ID:oPrgYVAn
頑張れ
0192 ◆ejIZLl01yY 2017/01/23(月) 22:47:47.77ID:SeUu6PQj
>「丸見えですよ。ラテ。お前は特別に最後に殺してあげます…… いや、これは"粛清"……
  不要なギルド員は、始末される定めにあるんです。じっくりと、甚振ってからね……!」

そんな……これでも、見切られるなんて。
驚いている暇すらなく、銀の閃きが私に迫る。背後からは熱波も感じる。
……避けられない。

「あ、が、あぁああああああああああああああああああああ!」

自分のものとは思えない、思いたくない悲鳴が聞こえる。体が思うように動かせない。地面に倒れ込む。
どこか他人事のように感じてしまうのは、意識が飛びかけているからだ。
駄目だ……あんだけ大口叩いておいて、こんなところで寝てられるか……!

私は歯を食いしばって、顔を上げ……そして惨劇を見た。

>「アッハッハッハ! 私ね、そういうの嫌いなんですよ。目の前でこれだけの連中がケンカして、裏切りあって、
  勝手に殺し合ってるじゃないですか? 命乞いしてみせなさいよ。クズ、ハゲ! あ、死んじゃったかな?」

なんて……事を……。
私は……ミライユさんが、普通に戻れる人だと信じた……。
今でも、信じたい……だけど、その結果が、これだ……。

あの人は、きっと哀れな人だ。
助けたいと思ってた。
心の底から、本心から。

だけど、こうなってしまっては……もう、腹を決めろ、私。

私は、冒険者をしてても冷徹になれない私の事が、なんだかんだ言って嫌いじゃなかった。
それでも……生きていれば、何かを選ばなきゃいけない時が来る。
二度と元には戻れないかもしれない、運命を決定付ける選択をする時が。
私は自分に言い聞かせる。

『分かっていただろう。またこういう時が来るって。あの時と同じだ。今度は、失敗するな』

>「決めた。最初はこのオークにします。ティターニア、ソルタレクのギルド本部の名において命じます。
最後まで仲間割れの好きな人たちで、私、今、凄く楽しいですよ? あなたが言えば聞くでしょ?

ジャンさんとティターニアさんを助けろ。例え、ミライユさんを殺す事になっても。

立ち上がり、胸に突き刺さった会員証を引っこ抜いた。
運良く肋骨で止まってなかったら、死んでたかもなぁこれ。
0193 ◆ejIZLl01yY 2017/01/23(月) 22:50:11.77ID:SeUu6PQj
よろめく体をなんとかまっすぐ立たせると、私は宝箱から鎖を取り出す。
鎖の先端には小さな鉄球が付いている。
それ以外は特筆すべき事もない。何か魔力が篭っているなんて事もない。

だけど空間を操るミライユさんの魔法にとっては、この武器はきっと厄介だろう。
だって放たれた鉄球の軌道を決めるのは、鎖を掴む私の手元。彼女の魔法の射程外。
跳ね返されても逆手に取られても対応出来る。

鎖を振り回し、鉄球を飛ばす。
ジャンさんの攻撃で大怪我を負っているとは言え、これがミライユさんに当たるとは思っていない。
ただ気を引ければそれでいい。

「……裏切り者は、あなただ。ミライユさん」

さっき引っこ抜いたばかりの会員証を再びミライユさんへ投げる。
次跳ね返されたら今度こそ死にかねないから、少し手前に。

「いらないって……言いましたよね。あなたみたいな臆病者との繋がりなんていらない。
 裏切られるのが怖いのなら……誰とも関わらなければいいのに。
 あなたは……弱いからそれすら出来ない」

……っと、足から力が抜けて、体がふらつく。

「勝手に関わってきて……裏切られる前に裏切る……すごく、みじめだ」

語気だけは強く保とうと思っていたけど、正直もうしんどい。

「出し惜しみは……やめだ。
 ……誰もが忘れ、だけど皆が覚えている、三つの古代魔法。
 その一つを……見せてあげますよ」

だけど、もう少しだけ堪えないと……ちょっと謎かけをしようか。

「それは古の時代から……今まで人を生かし続けてきた魔法。
 時に知恵を、時に強さを、時には不死さえもを、人に与えてきた魔法……。
 これなーんだ……なんてね」

宝箱から二つの物を取り出す。
さっき洞窟で回収してきた、魔物の血と肉。
0194 ◆ejIZLl01yY 2017/01/23(月) 22:51:35.46ID:SeUu6PQj
ポーション瓶に詰められたその赤黒い血液を……私は一息に煽った。

自分の中に巡る魔力と、魔物の血に宿る魔力が、混ざり合っていく。
魔物の肉も、口に放り込み、ろくに噛まずに飲み込んだ。うげえ、まずい……。

これが、誰もが忘れ、だけど皆が覚えている古代魔法……。
つまり……食事。食べる事だ。

人は禁断の果実を口にして、知恵と自由を得た。
アンブロシアとネクタルは口にすれば、神々と同じ時を生きられると言われている。
竜の血は舐めればあらゆる動物達の声が聞こえるようになり、浴びれば無敵の戦士と化し、
心臓を食べればこの世で最も優れた魔術師になれるそうだ。

人魚の肉とか、ニンニクとか、ナツメヤシとか、オレンジとか、葡萄とか、ザクロとか、他にも色々。
人は古の時代から、食べるという行為に栄養補給以上の価値を見出してきた。
食べる事で力を取り込み、己を塗り替え、苦難を乗り越えるという儀式的な価値を。

そう、『食事』とは本来、儀式であり、最も古くから存在する魔法。
誰もがそれを忘れてしまっているだけで。
そして価値を忘れられてしまえば、それはもう儀式たり得ない。
もし人々が神々への信仰を忘れれば、聖水だってただの塩水だ。

体が、変化していくのを感じる。体中に魔物の力がたぎる。

ふと見た自分の手がネズミの毛に覆われつつあるのを見て、少し肝が冷える。
けどこれくらいで済むならマシな方だ。
自分じゃ見えないけど、きっと火傷も酷かったろうしね。

……え?それはレンジャーのスキルなのかって?
そりゃ勿論。

命を奪い、食し、取り込むという信仰は、元を辿ればハンターとしての訓練を通して学んだ事。
アサシンは古来、秘薬をもって人を操り、殺す教団だった。これも、私だけが知る秘薬とその使い方。
今を生き、しかし古の時代を学び、果てはその時代へと手を伸ばすのは……そう、私トレジャーハンターの業。

これは私の、私だけの、レンジャーとしての奥義だ。

「あなたを、殺したくない。傷つけたくもない。だけど……あなたを止めます」
0195 ◆ejIZLl01yY 2017/01/23(月) 22:52:54.62ID:SeUu6PQj
鎖を、鉄球を、振り回す。
普段の私じゃ絶対に出せない、風をも置き去りにするような鋭さ。
鉄球は、ミライユさんには届かない。鎖の長さをそう調整したからだ。

手加減?そうじゃない。
私が手元の鎖を掴む力を少し弱めれば、鉄球の間合いは振り回した後からでも伸びる。

つまり「え?防御しないの?じゃあ鎖伸ばしますね。これは痛いぞー……」ってプレッシャーをかけ続け、防御を強いる事が出来るって事。

超高速で振り回される鉄球は、当たれば手足の骨くらい簡単に、帷子なんか関係なしに折れる。
っていうか最悪砕ける。そんな事にするつもりはないけど。
ジャンさん達と挟み撃ちの形が取れるよう動きつつ牽制を続け、私は魔力の糸を二人へ飛ばす。

『仕切り直しましょう。ミライユさんの魔法は強力ですが、神の奇跡って訳じゃない』

糸電話だ。
糸を伝って二人の届く声が、ミライユさんに聞こえる事はない。

『言ってしまえば魔力を、別の力に作り変えて、物を動かしているだけ。
 だから他の魔法と同じように、限界がある』

もしあの魔法を無制限に使えるなら、彼女は空間のねじれの中に閉じこもって、一方的にこちらを攻撃出来るはず。
でもそうはしてこない。
つまりあの魔法は、ちょっと見た目が奇抜なだけで、破る術は他の防御魔法と同じだ。

『力でぶち破る事も、手数で切り開く事も出来るはず。……手数は、私が稼ぎます』

鉄球を縦横無尽に振り回す。
一度鎖が胴体や足に巻きついて、それを空間魔法で解くのが先か、私が鎖を引っ張ってすっ転ばせるのが先か。
試してみるのは、ミライユさんにとってはリスクが高いだろう。

鉄球による嵐の中に、左手でスローイングナイフも織り交ぜる。
鉄球を放つタイミングと、ナイフを投げるタイミングは、ずらしてある。
ナイフを跳ね返せば、その隙に鎖を叩き込めるように。

けど、これだけじゃミライユさんの防御を崩し切る事は出来ない。
だから私は牽制を繰り返しつつ、徐々に間合いを詰めて……ネズミの瞬発力で、まっすぐ一気に切り込んだ。

鎖は利用されないように投げ捨て、煙幕を地面に叩き付ける。
右手には麻痺毒を塗ったダガー。
こいつで、殺してしまわぬように斬りつける!



……そう見えるように、【ファントム】を作り出した。
0196 ◆ejIZLl01yY 2017/01/23(月) 22:54:30.84ID:SeUu6PQj
野生の力を身に宿し、殺気を乗せ投擲したダガーに、虚像を被せた。
今度こそ、見切れるもんか。

同時に【スニーク】を纏い、地を蹴る。
ネズミの瞬発力は、ほんの一瞬で私をミライユさんの懐へ運んだ。

右手には、森での活動に使う大振りのマチェット。
私はそれを、渾身の力で振り抜いた。

ミライユさんが指環を握り締めた、その手を斬り落とすように。

殺したくないと言った。アレは私の本心だ。
傷つけたくもないと言った。

アレは……嘘だ。
こうなった以上、傷つけずに終わらせるなんて不可能だ。
私はお人好しだけど、そこまで馬鹿じゃない。

わざわざ火傷でめちゃくちゃしんどい思いをしながら古代魔法をアピールしたのも、それ以外のスキルへの警戒を薄れさせる為。
虚実を織り交ぜるからこそ、嘘ってのはバレにくくなる。

つまり……これは【ヒュミント】だ。

ま、奥義もいいけど、どんな事だって基礎が大事だよね。
それに古代魔法なんてカッコつけても、所詮私は凡人。
こういう事をしないと、決められないのだ。

と言うか、ここまでやっても決められないかもしれない……。
だけどそれでもいい。
だっていつもと違って、今の私には仲間がいるからね。


【不意打ち手首ズバー】
0197創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 00:45:21.82ID:0zKrx5aG
埋め
0198創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 00:48:35.03ID:0zKrx5aG
埋め
0199創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 00:52:09.33ID:0zKrx5aG
埋め
0200創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 00:53:26.37ID:0zKrx5aG
埋め
0201創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 00:53:51.58ID:0zKrx5aG
埋め
0202創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 00:58:40.48ID:EiQyCJxo
埋めますか
0203創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 07:41:26.53ID:ffMphuE7
埋め
0204創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 07:52:04.77ID:ffMphuE7
埋め
0205創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 07:53:18.54ID:FpGlBBCa
埋め
0206創る名無しに見る名無し2017/01/24(火) 13:36:50.29ID:vsp79v7Q
埋め
0207ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/24(火) 21:34:09.96ID:oB1r/UUP
>「ジャン殿……相手は指環を持っておるのだ!」

後ろからティターニアが止めようとしてきたが、もはや遅い。
今のジャンはミライユを潰すことしか頭になかった。

「――黙ってろッ!!」

そうティターニアに吐き捨て、二度の投擲で怯んだであろうミライユへとさらに突進する。
ティターニアが援護のつもりか、ミライユの周りの土が盛り上がって体を拘束するように動き始めた。
ジャンにとっては都合がよかった。これなら顎をかち割りやすい。
右の拳を振りかぶり、体勢を崩したままのミライユへ一撃を叩きつけんとした瞬間、ミライユの策は成った。

発動した拘束魔術はジャンの位置へと反転して発動し、ジャンは足を取られて転倒する。
振り上げた拳は地面へと叩きつけられたが、ミライユはわずかに届かない数歩先だ。
ジャンを見下しながら悠然と立ち上がるミライユを、魔力で固められた土に覆われながら眺めるジャンの形相は
もはや悪鬼のようであったが、何も手出しができなければそれは強がり以外の何物でもなかった。

>「……ええと、残りは一、二匹……あ、一応三匹だったかな?」

>「……まさかこの私がこれだけの目に遭うとは……痛いです。女の子の柔肌を痛めて、到底許されることじゃないですよ?
マスターに会ったら、何て言い訳をしたら良いのやら……。
しかも、ティターニアや竜じゃなく、その周りの虫ケラどもにここまで手傷を負わされるなんて……ねぇ……?」

ジャンの処理は終わったと言わんばかりに喋るミライユを前に、ジャンは体を突き動かす怒りが
さらに増すのを感じる。土壁に覆われたこの体でできることは何があるか、ジャンは必死に体を動かした。

そして気づいた。腰の紐に括ってある小袋の一つ、その中に入れてあったアクアの指環。
ミライユが長々と喋っている間にどうにか両腕を背中に回し、指環を右手の中指に嵌めた。

(指環をこのまま取られちまうぐれえなら……いっそ今嵌めてやる!)

指環はジャンの太い指に触れたとたん、その見事な装飾を変化させてぴったりと嵌まるように広がる。
0208ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/24(火) 21:34:38.01ID:oB1r/UUP
そして完全に中指に嵌まった瞬間にジャンは、気がつけば海の上に立っていた。

波立つことのない静かな海と、雲一つない見事な晴天。
薄暗い洞窟からの突然現れた爽やかな天候に、ジャンは戸惑い辺りを見回す。
すると声がした。明るい少年のような声だ。

「――指環を嵌めたということは時が来たのか、それとも」

声の主はジャンの目の前に、空間からぬるりと姿を現した。

「君は、力を求めるだけの愚か者だったのか」

青い髪の少年にして水を司る竜。アクアだった。

「……ここはどこだ。外に出ちまったのか?」

「この場所は指環が見せている幻だよ。ボクは指環の一部分。瞬きする時間より短い時間の中にボクたちはいる」

「そうかよ、なら早速言わせてもらうけどよ」

指環の力をくれ。そうジャンが言おうとしたところでアクアが口を開いた。

「ダメだ。時が来るまで渡すことはできない。ましてや怒りに我を忘れるような間抜けでは力に取り込まれ、
 ただの竜ですらない、もっと醜悪なおぞましいものになるだろうね」

まるで煽るようなアクアの口調に、ジャンは反論が思いつかず、ただ詰め寄った。
だがジャンはその怒りゆえに土壁に閉じ込められ、今こうして指環の力をもらうことができずにいる。

「このままだとあのクソ女に指環を奪われちまうぞ、それでもいいのかよ!」

「それでも構わない。指環の力は善悪にこだわらない、ただ決意のみを必要とする。
 彼女の決意は本物だろうね。使いこなせるかどうかは別として」

ジャンは焦りからか、さらに詰め寄った。

「ティターニアたちが追いつめられてるんだ!仲間になったばかりのラテも!」

「君は仲間の危機という大層なお題目を掲げて自分の怒りを相手にぶつけたいだけだ。
 指環の力は半端なものではない。この海を丸ごと君一人に押し込むような凄まじい力だ」

そう言うとアクアは指を軽くパチンと鳴らした。
すると海と空が一瞬にして変貌する。海はあっという間に時化り、空は暗雲が立ち込め風と雨が激しい勢いでジャンを襲う。

「海は決して収まらない。今の君に荒れ狂うこの力を与えても無意味だろう」

暴風に吹き飛ばされ、激しい雨に打たれ、時折やってくる津波に揉まれながら、ジャンは呟く。

「だったら……だったらどうしろってんだよ……」

「君は既に力があることを示している。次に必要なものは決意だ。
 ただその身を怒りに任せるのではなく、君がするべきことはなんだろうね」
0209ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/24(火) 21:35:29.90ID:oB1r/UUP
怒りのまま走るのではなく、仲間と一緒に歩く。
ただそれだけでよかった。ジャンは思い出す。この指環を巡る旅を始めてから、ずっと仲間に助けられてきた。
一時の怒りで自分を見失い、仲間よりも先走って思うがままに力を振り回すなんてこと、あってよかったのか?

「ダメだよな……それじゃあ、格好よくねえ。
 歴史に名を残すんだったら、もっと格好よくいかねえとな……!」

「――気づいたようだね。なら行くといい」

気づけば嵐は止み、海は再び凪いでいた。ジャンは静かな海の上で大きく息を吸い込み、目を閉じた。

目を開ければ、そこは地面だった。
相変わらず土壁に取り込まれた自分と、ティターニアたち。そして傷だらけのまま狂ったように高笑いするミライユ。

そこに、ラテが突っ込んだ。

>「それは古の時代から……今まで人を生かし続けてきた魔法。
 時に知恵を、時に強さを、時には不死さえもを、人に与えてきた魔法……。
 これなーんだ……なんてね」

生き物の血肉を食らい、己が物とする秘術。
ある暗殺者一族に伝わると噂されていたそれを、ラテはためらいなく使った。

傷だらけのその身体に魔物の力を滾らせながら、鎖付き鉄球を勢いよく振り回す。
ジャンでも止められるかどうかわからないその一撃は、ミライユにとって脅威だろう。

>『仕切り直しましょう。ミライユさんの魔法は強力ですが、神の奇跡って訳じゃない』

>『言ってしまえば魔力を、別の力に作り変えて、物を動かしているだけ。
 だから他の魔法と同じように、限界がある』

鉄球が嵐のごとく振り回される中、ラテから伸びてきた糸が情報を伝えてくる。
魔力で編まれたそれは、魔法が使えない者にも情報を伝達できるとあって戦場では重宝される技の一つ。

>『力でぶち破る事も、手数で切り開く事も出来るはず。……手数は、私が稼ぎます』

「なら俺は、力で試してみようかね……頭も冷えたしな!」

右手の中指に嵌めた指環が蒼く輝き、指環から水が溢れ始める。
やがて土壁を押し流すように水は形作られ、ジャンの腕力が土壁にひびを入れたと共に、水流の圧力で土壁が砕け散る。

「指環の力よ!」

ジャンのその言葉に応えるように飛び散った水流が右手に集い、やがて大剣の形を成した。
そして、ジャンがそれを一振りすれば荒波の如き波紋が刀身に浮かぶ、見事な大剣が出来上がる。

「ティターニア、さっきは悪かった!ラテと一緒に、あいつをやっちまおう!」

大剣を肩に担ぎ、ラテが切り込むと同時にジャンも突撃した。
異なる二つの方向からの襲撃に加え、ジャンは大剣に秘められた力を放つ。

「そのハンマーと短剣はよ、お前が持っていいもんじゃねえんだよ!」

大剣を思い切り突き出し、刀身から凄まじい激流が放たれる。
その勢いはミライユを狙うのではなく、背後に浮かべられた武器や爆薬だ。
0210ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/25(水) 22:55:06.64ID:PfG98e+1
>「丸見えですよ。ラテ。お前は特別に最後に殺してあげます…… いや、これは"粛清"……
不要なギルド員は、始末される定めにあるんです。じっくりと、甚振ってからね……!」
>「あ、が、あぁああああああああああああああああああああ!」

「ラテ殿……!」

ついに残酷で無慈悲な本性を現したミライユ。
額に青筋を立てたその姿は、ティターニア達に見せていた快活な娘の面影は無く、まさに物語に出てくる悪の魔女そのものだ。
タイザンを、娘を殺した事実を知らしめ絶望させた上でじっくり甚振ってから葬る。

>「返してよ! マスターと……お姉ちゃんを返してぇぇー!!」
>「うぅ……うわぁぁー!!」

さらに、ホロカも壁に叩きつけて気絶に追い込んだ。
お姉ちゃんを返してと言われた時に何故か動揺したように見えたが、今は考えている余裕はない。

>「グオォ……グガアアアァァァ!!!」

理性を失い荒れ狂うジャンがミライユにダメージを与えていく。

>「くッ……!」 「うっ……!」

何故こんなことを思ってしまったのか自分でも分からないが、ジャンに追い詰められていくミライユを見て
ほんの一瞬だけ、野蛮なハーフオークがうら若き娘を蹂躙しているように見えてしまって――
そんな違和感を振り払い、このまま殺してしまう前に拘束して終わらせようと、ホールドを発動させるティターニア。
しかし――それは裏目に出てしまった。
ミライユが空間操作の魔術を行使し、ティターニアの放った魔術を使ってジャンを拘束してしまったのだ。

>「決めた。最初はこのオークにします。ティターニア、ソルタレクのギルド本部の名において命じます。
最後まで仲間割れの好きな人たちで、私、今、凄く楽しいですよ? あなたが言えば聞くでしょ?
とりあえずこの男とあの竜、そして私の後ろにいる羽虫を黙らせて、ギルドに降伏なさい。でないと、この男から殺します。
ま、愛する人を殺されて怒ってるあなた方の顔を見るのも、楽しみなんですけどねッ、アハハハッ!」

>「私の傷のことは構いません……フェンリルと私については確かにその女の言う通り内輪揉め……我らの。
あなた方は私を反面教師として……悪しき者を正しいと思うとおりに罰しなさい。ティターニア、あなたに申しているのですよ……!!」

ジャンを人質にして脅迫しティターニアに降伏を迫るミライユと、誑かされるなと訴える重傷を負ったテッラ。

「戯言を――外道の行動パターンなど大体予測は付くぞ。
仮に降伏したとて降伏したら助けるとは言ってない等と言って結局殺すのだろう?」
0211ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/25(水) 22:59:57.81ID:PfG98e+1
ティターニアは不敵な笑みを作って応じながら、時間稼ぎをする。
次の一手を考える時間を……だ。
実を言えば自分が放った魔術なのでジャンを解放することはいつでも可能なのだが
理性を失った状態のジャンにこのままミライユを葬らせて本当にいいのか。
そして、殺す事が本当にテッラの言う“悪しき者を正しく罰する”ことになるのか。
そしてもちろん、この状態のジャンを解放して今度こそミライユに指環を嵌められては一巻の終わりだというのが一番の問題だ。
まだミライユが自分の方が優位と認識していて嵌める気になっていない今のうちに不意打ち等で指環を奪取してしまいたいところだが……。
そんな事を考えていると、ラテが動いた。

>「それは古の時代から……今まで人を生かし続けてきた魔法。
 時に知恵を、時に強さを、時には不死さえもを、人に与えてきた魔法……。
 これなーんだ……なんてね」

魔物の血を飲むことによって獣の力をその身に宿し、鉄球を振り回してミライユを牽制し始めるラテ。

>「あなたを、殺したくない。傷つけたくもない。だけど……あなたを止めます」

ラテは交渉術を使いこなす凄腕のレンジャー、この言葉の全てが真実ではないだろう。
しかし同時に、全てが嘘ではないように、ティターニアには思えた。
魔力の糸を伝わり、ラテの声が聞こえてくる。

>『仕切り直しましょう。ミライユさんの魔法は強力ですが、神の奇跡って訳じゃない』
>『言ってしまえば魔力を、別の力に作り変えて、物を動かしているだけ。
 だから他の魔法と同じように、限界がある』
>『力でぶち破る事も、手数で切り開く事も出来るはず。……手数は、私が稼ぎます』

そうは言ってもジャン殿がこの状態では――そう思い、思わず歯噛みした時だった。
ジャンの力強い声が響き渡る。

>「なら俺は、力で試してみようかね……頭も冷えたしな!」
>「指環の力よ!」

水流が土壁を打ち破る――!
なんとジャンは水の指環をはめ、その力を使いこなしていたのだ。
そうか、彼は水竜アクアに試されていたのかもしれない――そんなことを思う。

>「ティターニア、さっきは悪かった!ラテと一緒に、あいつをやっちまおう!」

ああいつものジャン殿だ、そう思った時、ティターニアは自分のローブを掴んでいる者がいることに気付いた。
先程壁に叩きつけられ気絶したように見えたホロカだ。
0212ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/25(水) 23:02:55.46ID:PfG98e+1
「導師様……あの人を助けてあげて。ずっと過去に囚われている。精霊が助けて苦しいって言ってるの……」

「しかし――タイザン殿の仇だぞ!?」

あまりに予想外の訴えに、思わず聞き返すティターニア。

「それは許さない。だから……助けるの。死んで終わりなんて許さない。救う事があの人にとっての最大の罰――」

少女の髪の間から覗いている狐耳に気付き、ティターニアはこの少女は精霊使いではないかと検討をつけた。
獣人族に多く見られる、精霊使いという術士達がいる――精霊と対話し、独特の世界観を持つ者達。
そしてこの世界でのエルフは、受肉した精霊と言われている――
ティターニアは薄く微笑んだ。

「いい度胸ではないか、そなた、偉大な精霊使いとなるぞ……いや、もうなっておるのか。
この次期”神樹の神子(みこ)”ティターニア・グリム・ドリームフォレストを使役しようとはな!」

“過去に囚われている”――少女の言葉を切欠に、バラバラだったパズルのピースが一気に繋がっていく気がした。
明朗快活なドジっ娘、料理を美味しそうに食べる食いしん坊、お泊りではしゃぐ無邪気な少女のような姿
たった今見せた冷酷な魔女の本性、その中で垣間見せる心の傷、裏切られる事への恐怖――きっと全てが真実。
過去という檻に囚われて、足掻けば足掻くほど雁字搦めになって、偽りの愛に縋るしかなくて――
彼女は助けてほしかったのだ、救ってほしかったのだ。
そう、彼女が本当に物語に出てくるような純粋な悪の魔女なら――もうとっくに指環を嵌めて暴れて手を付けられなくなっていたはずだ。
そうなったらティターニアも心置きなく、と言ったら語弊があるが、全力で殺しにいっていただろう。
だけどミライユは人間の心を捨てきれずに弱さを抱えたまま戦った――どうしても捨てられなかったのだ。
でも、ティターニアやジャンやラテや今ここにいる者達には彼女を救うことは出来ない。
彼女を救う事が出来る者がいるとすればそれは――
だから、賭けてみることにした。これより行使しようとするのは、本来はエルフの長――”神樹の神子”のみに使える奥義。

「情けない、道を踏み外した若者一人導けずして、何が導師だ……」

次期とはいえまだ神樹の神子になっていないティターニア“だけ”では魔力が不足している。
しかしここにいるのは精霊と対話し真実の欠片を掴んだ異才の精霊術士だ。

「しかしホロカ殿、そなたが手伝ってくれるなら……やってみせよう。
我のようなヘッポコ精霊でよければ心置きなく使ってやってくれ。
早くミライユ殿を止めて、そなたの姉、シュマリ殿も助けるぞ――!」
0213ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/25(水) 23:06:14.53ID:PfG98e+1
重傷を負い倒れているシュマリからは、しかしまだ魔力が感じられる。大丈夫、まだ息はある。
ティターニアはやおら眼鏡を外した。
彼女が近眼なのは、精神世界を見る能力に偏り過ぎて、物質世界を見る能力が割を食っているためだ。
そのため普段は特殊な魔術が付与された眼鏡を通し調整をかけている。
その眼鏡を外したということは、これから行使するのは精神世界を顕現する特殊な術だということ。
ティターニアはエーテルセプターを構え、横からホロカにも手を添えさせる。
そして高らかに詠唱を始めた。

「ティターニア・グリム・ドリームフォレストの名において乞う――
其は 何処より遠く何より近い場所 生命の生まれる場所にして何時か帰る場所
果て無く巡る魂の円環 忘れ去られた記憶に刻まれた聖痕 我が声に応え暫し顕現せよ――」

やがて訪れる決着の時――

>「そのハンマーと短剣はよ、お前が持っていいもんじゃねえんだよ!」

ジャンが大海の力を宿す見事な大剣を振るい、ミライユの背後の武器に向かって激流を放つ。
そして、ラテがマチェットを振りぬきミライユに斬りかかると同時――

「――夢の森《ドリームフォレスト》」

ティターニアとホロカ、二人掛かりの大魔術は発動した。
そもそもドリームフォレストとは――神樹ユグドラシルを擁するエルフ達の住まう森。
物質世界と精神世界を繋ぐと言われるユグドラシルの周囲に広がるこの森は、物質世界にありながら、精神世界の影響を強く受ける。
この森と同じ名を冠するこの奥義は、その名の通り精神世界を映す夢の森を顕現する魔術だ。
ここが、森の名を冠するこの魔術とは相性がよい土のフィールドであったことも幸いした。
周囲に魔力によって顕現された草や木が生い茂り、一瞬にして風景が塗り替わっていく――

「ミライユ殿、ここは現在と過去が入り混じり、死した者とも対話できる場所――
我に出来るのはここまで……後はそなた次第だ」

ティターニアのその言葉の通り、ここで何を見て何を聞き何を得るかはミライユ次第。
それがミライユの記憶を基に再現される幻覚のようなものか、本物の降霊術に近い物なのかは、各々の解釈に委ねることとしよう。
それは大した問題ではない、どちらにせよミライユにとっては紛れもない真実であるのだから。
ただ一つ、まず間違いなく言えるのは、ミライユはここで最愛の姉、メルセデスと邂逅することとなるだろう。
そして彼女は、ミライユが、自分の死をはじめとする過去の呪縛から解き放たれ立ち直り、真実の愛を知ることをただ願うのだ――
たとえどんなに罪を重ねたとしても、ミライユはメルセデスにとって、たった一人の最愛の妹なのだから。

【>ミライユ殿
結構な無茶振りだが自由に演出してやってくれ!】
0214ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/26(木) 01:01:56.36ID:1EoHxC9l
>「あなたを、殺したくない。傷つけたくもない。だけど……あなたを止めます」

ラテがポーション瓶の中身を飲み干すと、肉体の一部が鼠のような怪物へと変貌した。
そして鎖の付けられた鉄球が振り回される。
遠心力をもって徐々にその破壊力の輪は迫ってくるが……

ドォォン、と空中に浮いた爆薬――ミライユの空間操作によって操られた物体が爆発すると、
それらは鉄球を砕き、同時に周囲に浮いた針とともに飛び散る。
瞬く間にラテにその複数の爆風と毒針が襲い掛かる。しかし、ミライユの方も毒針の一部は身体へと刺さっており無事では済まない。

「ぐっ……単細胞ですね。造作もない……次はそんな貧弱なダガーで何を……?」

ラテは強化された全身を迫らせるように懐へと飛び込み、ダガーでミライユの腕を狙う。

「……ぐ……っ!」

ダガーに見えたそれはマチェットだったのだ。その間合いへとミスリルハンマーを振り下ろしてラテを狙う。
大きな傷を負った左腕からは血が溢れ、恐らく麻痺毒と思われる痺れも出てきた。
しかし、それでも指環を離す訳にはいかない。

「こいつッ! 武器を置いて服を全部脱いで指環を出せっ、ティターニア、お前ら! そうすれば三人の命は保証するって
言ってんだよッ! ぶっ殺されてえのかよ!」

ミライユは血を流しながら片方の目でジャンやティターニアを睨み、尚も声を荒げ、再び拘束されたジャンを狙う。
しかし――

そのジャンが、持っていた指環を嵌めたのだ。

「馬鹿な、この男、一体何を……!?」

一瞬、瞑想し、何者かと会話をしたかに見えたジャンは、
空間に水のフィールドを展開していた。
0215ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/26(木) 01:02:33.51ID:1EoHxC9l
>「指環の力よ!」
>「そのハンマーと短剣はよ、お前が持っていいもんじゃねえんだよ!」

「そんなっ……その力がハーフオーク程度に……!?」

あっさりと破られた拘束魔法。そこからジャンが飛び出してくる。
ジャンは大剣を担ぎ、そのハーフオークの力とは思えぬ水魔法の激流を放った。
それはミライユの背後にあるあらゆるものを押し流そうとする。

「くっ、うわぁぁぁああ!!」

多くの武器や針などが押し流される中、ただミライユは落ちそうになる意識を集中させ、
奔流の中に刀の刺さったタイザンの死骸をジャンにぶつけ、動きを封じる。
そしてティターニアを睨んだ。

>「戯言を――外道の行動パターンなど大体予測は付くぞ。
仮に降伏したとて降伏したら助けるとは言ってない等と言って結局殺すのだろう?」

「アハハハッ、ご名答。あなた方はどうせ死ぬのだから言ってあげます……ソルタレクのギルドでは指環を集めているのですよ。
既に"その中のひとつ"はこちらの手の内にあります。マスターは新しい国を作るために、新しい力が必要なんです。
そして、相思相愛の私の愛情も不可欠なの。そもそも、腐った国と腐った人間は潰すしかないじゃない?
ユグドラシアにもギルドの手の者が組織ごと潰しに行くはず。暗殺者ギルドも併合されてますから、きっと今頃は……」

そして、残りの力を全て使う。こうなってしまったからには最後の手段だ。
周囲にある巨大で強固なもの――テッラが作ったピラミッドと、テッラの弱った肉体そのものを操作し、宙に浮かせた。
特にピラミッドの方は地中部分が大きく、巨大なクリスタルのような形となってティターニアたちの上空へと舞い上がった。

「殺してやる。潰してやる…… 何もかも……!!」

ティターニアはそれでもミライユを憐れな何かを見るような視線を崩すことは無かった。
それがミライユにとっては不愉快に思えた。指環を破れたチェインの胸の谷間に入れ、そして血のついた左手で頭を掻き毟る。
その時、何者かがティターニアへと近づいた。ホロカだった。

>「導師様……あの人を助けてあげて。ずっと過去に囚われている。精霊が助けて苦しいって言ってるの……」
「しかし――タイザン殿の仇だぞ!?」
「それは許さない。だから……助けるの。死んで終わりなんて許さない。救う事があの人にとっての最大の罰――」

「タイザンのところのガキですか……潰しておかないと……
何をしているのです? 喧嘩売ってるの……? ぶっ殺すよ? ティターニア……!」

間合いを取ると、ぐったりとしたテッラと巨大な岩石のクリスタルを二人の頭上へとセットした。
これで全てを始末できる。

(マスター……これで任務が完了します……)

>「ティターニア・グリム・ドリームフォレストの名において乞う――
其は 何処より遠く何より近い場所 生命の生まれる場所にして何時か帰る場所
果て無く巡る魂の円環 忘れ去られた記憶に刻まれた聖痕 我が声に応え暫し顕現せよ――」

ミライユがそれらを落とそうと構え、後ろへと飛び跳ねたあたりで、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。

≪ミライユ、どこで間違ってしまったの? あなたの敵はそこにはいないわ≫

(――! そんな!? この声は……!!)
0216ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/26(木) 01:04:01.49ID:1EoHxC9l
「お……お姉……さま……?」

15歳の少女である姉・メルセデスが、自分よりも背の高い23歳妹・ミライユに、
慈しむように語り掛ける。その姿は15歳であれ、ミライユにとってはいつになっても姉であることには変わりがなかった。

≪ミライユ、退きなさい。今からでもやり直せるから、正しい道を行くの。
あなたの本当の敵は……指環の魔女。お父様とお母様と私、エルジュ家を破滅させた全ての元凶よ。
その方たちに、指環を渡し、あなたの愛する人、マスターの元で、ゆっくり休んで。痛かったでしょう?≫

>「シュマリ……! もういいから退きなさい、まだやり直せるから……!」

メルセデスの声は、既に臓腑を散らしている禿頭のタイザンの死体からも聞こえた気がした。

「はっ、私は……お姉さま、お姉さまーー!!」

そして姉・メルセデスの姿が消滅すると共に、彼女と死別してからの思い出が走馬灯のように蘇ってきた。
自らの手で父を殺した後はギルドに拾われ、多くの殺しを請け負った。
そして暴力を受けて心は荒み、自ら人を殺めるようになった。何十人もの人間を騙して、奪って、殺してきた。
さらに愛するギルドマスターのために、近づく者を次々と消していった。何の罪もない人間も含めて。

「あぁぁ……痛い、痛いよぉ……!」

全身の外傷、猛毒、麻痺毒が今になって激痛となって苦しめ、ミライユは捲れ上がって身体に食い込んだボロボロのチェインを脱ぎ捨てると、
――膝を付いて大声で泣き出した。血と涎と鼻水を垂らしながら、まるで12歳の子供のように。

「うわぁぁんっ……! 助けて、怖いよぉ、痛いよぉ……お姉さま……マスターっ……!!」

その言葉は「許しを乞うても許されない」ことが分かって故のものだった。
心はどれだけ清められようとも、過去に犯した罪を償うことはできないのだ。

テッラの巨体が、ティターニアたちの頭上へと落下してきた。
大きな地響きが起こる。
同時に巨大な岩石のクリスタルも落ち、ジャンたちを襲った。

無防備になったミライユは床に這いずるようにして痛みと痺れに耐えていたが、
岩石の一部が右脚を直撃し骨を砕かれると、ついに糸が切れたかのように床へと倒れ伏した。
その胸元からはコロリ、と指環が転がっていった。


【ミライユついに倒れる。
――ということで、死ぬ覚悟でしたが、ここはお情けに甘えてもう1ターン頂くことにしました(笑)
処遇はお好きなようにしてしまってください】
0217 ◆ejIZLl01yY 2017/01/26(木) 06:17:13.66ID:E1+pXxZy
爆薬が爆ぜ、毒針が私に降り注ぐ……私の作り出した【ファントム】に。
遅い。
私は既に懐へと潜り込んでいる。

体幹の回転に合わせてマチェットを一振り……肉を切り、骨を絶った。確かな手応えを感じる。
だが薄皮一枚残して手首は切断出来なかった……。
斬り落とせていれば、ここで戦いは終わっていたのに。

自分の非力を悔いている暇はない。
ジャンさんが水の大剣をミライユさんへと薙ぎ払う。
身に宿した野生が、大津波のような、凄まじい力の奔流を感じ取る。
これは万一にも巻き添えにはなりたくない……!ネズミの脚力で一飛びに私はその場を退く。

ミライユさんの身の心配は……不思議と意識に浮かんでこなかった。
今のジャンさんを見ると、あれほどの力を振り回しても、何故だか彼女を殺してしまうようには思えなかった。

>「そんなっ……その力がハーフオーク程度に……!?」

「……あなただって、ただの人間ですよ。その事をもっと早く、思い出せていれば……」

この人は自分の事を、なんだと思っていたんだろう。
魔物?悪魔?それとも、ミライユさんの「マスター」が神様で、自分はその使い?
……なんであっても、それはきっと、そう思っていなくては生きていられなかったからなんだろう。

初めて出会った時、殺気を向けられて、私はこの人を魔物のようだと言った。
今更悔やんでも何にもならないけど……そうだ。自分で言って、自分で今気付いた。
この人はただの、人間だった。

だから……もう、終わりなんだ。

>「アハハハッ、ご名答。あなた方はどうせ死ぬのだから言ってあげます……ソルタレクのギルドでは指環を集めているのですよ。

脇腹は貫かれ、左腕の深手は動脈にまで及んでいる。
あの傷と、出血では……既に意識は朦朧としているはず。

「……もうやめましょう、ミライユさん。分かっているはずです。
 そんな大袈裟な魔法、今更私達には通じません。
 もうこれ以上、自分を苦しめる必要はないんです」

命を振り絞るように繰り出された空間魔法は、見た目こそ派手だけど……。
きっと、もう精密な制御が出来ないだけだ。
あの岩と竜が降ってくるよりも速く、ミライユさんを「止める」事は、今の私なら難しい事じゃない。

ただそれは難しくないだけで……出来る事なら、私はそれをしたくない。
だから……お願いだ、ミライユさん。

「ミライユさん!もうやめろ!あなたに勝ち目はない!私は……決着を、つけたくない!」

>「殺してやる。潰してやる…… 何もかも……!!」

……駄目だ!
もう何も聞こえていない……。

私は【不銘】を構え、矢を番える。
射抜くしかない……もうこれ以上、犠牲は払えない。

私は渾身の力で弦を引き絞り……矢を放った。

その閃きが、ミライユさんのあらゆる可能性を奪い、私の人生にすら、暗い炎を灯し続けると知った上で。
0218 ◆ejIZLl01yY 2017/01/26(木) 06:18:51.49ID:E1+pXxZy
>「ティターニア・グリム・ドリームフォレストの名において乞う――
其は 何処より遠く何より近い場所 生命の生まれる場所にして何時か帰る場所
果て無く巡る魂の円環 忘れ去られた記憶に刻まれた聖痕 我が声に応え暫し顕現せよ――」

ふと、ティターニアさんの声が聞こえた。

>「――夢の森《ドリームフォレスト》」

直後に感じるのは、清らかなマナの迸り。
吹き抜ける風のように広がっていくそれは、黄金と白銀が彩る古代都市を緑の森へと塗り替えていく。

そしてそのまま、マナの奔流は私の放った矢に追い付き……瞬間、矢は栗色の小鳥へと姿を変えた。
小鳥は私の迷いも決断も、まるで知った事じゃないと言わんばかりに、どこか高くへと飛び去っていった。

その光景に私は思わず気が抜けて、その場に座り込んでしまった。
これは……結界魔法だ。
それも破魔とか防壁のような、防御魔法とは違う。

糸を結んで輪を作るように、この世界の中にもう一つの輪を……世界を結ぶ。本物の結界魔法だ。

>「ミライユ殿、ここは現在と過去が入り混じり、死した者とも対話できる場所――
  我に出来るのはここまで……後はそなた次第だ」

そしてミライユさんは……自分のお姉さんと出会った。
……私にはついぞ出来なかった、ミライユさんの純心を、彼女の姉はいとも簡単に引き出してしまった。
だけど……

「……こんな残酷な事が、あっていいのか」

ミライユさんの「ボタンの掛け違い」が、姉の……家族の死だったとしたら。
あのお姉さんが言うような、正しい道に戻る術なんて……初めから無かったって事じゃないのか。

失ってしまった事に耐えて、それでも正しい道を選べば良かったって、そう思う人もいるかもしれない。
でもそう思えるのは、きっとその人が強いか、鈍いからだ。

人は強く生まれるか、弱く生まれるかなんて、選べない。
自分以外の誰かの悪意が、いつ誰に降り注ぐのかも、選ぶ事なんて出来ない。
だったらミライユさんは……どうすれば、こんな事にならずに済んだんだ?

考えても、答えは出ない。
いや……きっと、答えなんてない。
答えがないからこそ、残酷なんだ。

だけど、答えがあるからこそ、残酷な事もある。
そう、こうなってしまった今、私に出来る事はもう、殆ど無い。
殆どないだけで、確かにあるんだ。あってしまう。

>「うわぁぁんっ……! 助けて、怖いよぉ、痛いよぉ……お姉さま……マスターっ……!!」

ミライユさんが、堰を切ったように泣き出した。

それはつまり、完全に魔力の制御を失ったという事。
竜……テッラさん、だっけ。彼女の巨体が落ちてくる。
少し遅れて、彼女と同じように持ち上げられていた岩が降ってくる。

私は動かない。動く必要は、ない。
ただ、頭上を見上げた。

白い横薙ぎの閃光が、私達の頭上を駆け抜ける。
0219 ◆ejIZLl01yY 2017/01/26(木) 06:21:39.57ID:E1+pXxZy
フェンリルの牙が、巨岩を飴玉のように噛み砕いていた。
それでも降り注ぐ小さな石塊から、テッラの両翼が私達を守る。

そう、もう指環を巡る争いに決着はついた。
なら……この二匹が、大人しくしている理由もない。

「試してたんだな、ずっと」

蚊帳の外の存在でしかない私だから、今分かった。

そもそもたかが人間相手に、世界の滅びと予言された狼と、神に非ずして神に値すると謳われる竜が、こんなボロボロになる訳がない。
初めから、かは分からないけど……きっとミライユさんと、ジャンさん達は、試されていたんだ。
最初から指環を持っていたジャンさん達に対して、ミライユさんにも指環を与えて舞台を整え、ぶつけあった。

フェンリルは冷徹で、無感動な眼光で、ミライユさんを見下ろしていた。

……ふざけやがって。

でも、今は怒りを燃やすべき時じゃない。
私は視線をミライユさんへと落とした。

「……ごめんなさい、ティターニアさん。それに……えっと、妹ちゃん。
 ミライユさんはきっと、もう十分な罰を受けたよ。彼女には、もう何も残ってない。
 あなたは、もしかしたらそうは思えないかもしれないけど」

もう這いずる事すら出来ないミライユさんへと歩み寄る。その途中で、一つ拾い物をして。

「だから……私は、もうこれ以上、ミライユさんを苦しませたくない」

宝箱からポーションの瓶を取り出す。
瓶の中身は、人間の呼吸器に作用する麻痺毒と、弱い興奮剤の合成薬。

「ミライユさん、痛み止めです」

この薬が体に回ると、興奮剤の効能で痛みが和らぎ、僅かな幸福感が訪れる。
だけど同時に麻痺毒が徐々に呼吸を弱くしていく。
結果、酸欠になり……興奮剤が働いているのに、眠くなるという不思議な現象が起こる。

……そしてその眠りは、二度と覚めない眠りになる。そうだ。これは、安楽死の為の薬。
0220 ◆ejIZLl01yY 2017/01/26(木) 06:23:09.50ID:E1+pXxZy
これほどの傷と出血……。
そして何より、あの鬼気迫るほどの精神力を、ミライユさんは姉との再会で、失ってしまった。

もう、助からないだろう。
だから、せめて安らかに……。

魔力を体に纏う。
使うのは【スニーク】でも【ファントム】でもない。

私達レンジャーは、魔力の流れを偽装して姿を消したり、残したり出来る。
だから……少し工夫すれば、姿そのものを偽装する事だって、出来るんだ。

さっき夢の森の中で見た、ミライユさんのお姉さん……メルセデスの幻影を、私は纏った。

「もう眠りなさい、ミライユ。あなたは怖い夢を見ただけ……。
 もう一度、眠りに就いて……次に目が覚める時は、お母さんがあなたを起こしてくれるわ」

私はミライユさんの手を取り、さっき拾い上げた物を握らせる。
彼女が私にくれて、私が突っ返した、ギルドの会員証。
私はソルタレクのギルドには入れない。けど……

「今度は、お友達として、渡してあげて。そうすればきっと、受け取ってくれるわ」

ミライユさんの両眼に右手を被せ、幻影を解く。
代わりにネズミ面の自分の上に、普段の自分の姿を被せる。

右手を逸らす。
ミライユさんが今、この瞬間に、これを渡してくれるなら。
私は、それを彼女との繋がりとして、受け取れる。



【う、うーん……悩んだんだけど、すっごく悩んだんだけど……こうしたかったんです……!】
0221ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/26(木) 21:50:33.43ID:GkpI7Ad5
激流を大剣から放つなか、タイザンの遺体がこちらへと投げられる。
慌てたジャンは激流を収めて大剣を地面に突き刺し、両手でそれを抱え持った。

「……死体は粗末に扱うもんじゃねえぞ」

再びこみ上げてきた怒りを抑えつつ、ゆっくりとタイザンの遺体を地面に降ろす。
そして再び大剣を振り上げ、刀身から放たれる激流によって二つの武器をこちらへと運んだ。

激流によって押し流した武器や爆薬の中から、ミスリル・ハンマーとサクラメントを拾い上げる。
水に濡れて淡く煌くその二つは、怒りに燃えて投げつけたあの時より輝いているように思えた。

>「アハハハッ、ご名答。あなた方はどうせ死ぬのだから言ってあげます……ソルタレクのギルドでは指環を集めているのですよ。

激流が収まったことで呼吸を取り戻したのか、もはや立つことすらままならないはずの身体で
ミライユは高笑いと共に演説を始める。
国は腐り、民衆もまた腐る。なれば作り直すしかないと。
ソルタレクのギルドは指環によってそれを成し遂げるつもりのようだ。

>「殺してやる。潰してやる…… 何もかも……!!」

「……アクアの言った通りだな。思えば最初から、お前はずっと目的に向かって一直線だったわけだ」

大剣が放つ激流ならば、今宙に浮かんでいるあの巨岩を押しとどめることはできる。
ミライユはもう、限界なのだろう。拘束魔術を利用してみせたあの知性は感じられない。
ならば介錯をしなければならない。無様に生き恥を晒すならば冥界へ送ってやるのが戦士の務めだ。

大剣を両手で持ち、肩に担ぐように構える。
オーク戦士の技の一つ「処刑の構え」とされるものだ。
この構えを維持したまま突撃し、勢いを乗せて振り下ろすことで対象を一撃で冥界に送る慈悲深い技。

そうして大剣の柄を握りしめ、いざ突撃せんと一歩を踏み出した瞬間。
後ろから、ティターニアの高らかに、しかし凛とした声が響き渡る。
0222ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/26(木) 21:51:03.59ID:GkpI7Ad5
>「ティターニア・グリム・ドリームフォレストの名において乞う――
其は 何処より遠く何より近い場所 生命の生まれる場所にして何時か帰る場所
果て無く巡る魂の円環 忘れ去られた記憶に刻まれた聖痕 我が声に応え暫し顕現せよ――」

>「――夢の森《ドリームフォレスト》」

詠唱を終えると同時に、古代都市に一陣の風が吹き抜けた。
魔力の素養がないジャンですら感じる濃密な魔力の風は、伝わる場所全てを草木生い茂る森へと変貌させる。

>「ミライユ殿、ここは現在と過去が入り混じり、死した者とも対話できる場所――
我に出来るのはここまで……後はそなた次第だ」

小鳥がさえずり、柔らかな木漏れ日が木々からあふれ出るこの場所では、いざ介錯といった雰囲気にはなれなかった。
何もないところを斬るように無造作に大剣を振り、ただの水の塊として指環に戻す。
そうしてミライユが自らの過去と対面し、正気に戻って倒れ伏す様をジャンはただ眺めていた。

>「……こんな残酷な事が、あっていいのか」

「いっそ戦場で討ち死になら分かるんだけどよ……こりゃ歪むぜ。
 トチ狂ったように明るかったのも、むき出しの殺意も全部これが始まりなんだからな」

ラテが思うところがあるのか、ぽつりと呟いた一言に顔をミライユに向けたまま返す。
戦場は人が死んで当たり前だが、それ以外で人が死ぬのは許されるべきではないのだ。
冒険者となってから、ジャンはずっとそう考えている。

>「うわぁぁんっ……! 助けて、怖いよぉ、痛いよぉ……お姉さま……マスターっ……!!」

ついに自分の過去に耐えきれなくなったのか、子供のようにミライユは泣く。
その見た目は、つい先程まで戦っていた裏切り者とは思えなかった。

それとほぼ同時に、ミライユが持ち上げていたテッラと巨岩が制御を失い、降ってきた。
ジャンがそれに気づき、指環から水の大剣を引き抜いて押しとどめようとしたその時、狼が空を駆けていく。
守護聖獣たるフェンリルの牙と爪は巨岩を粉々に粉砕し、テッラは翼を広げて破片からジャンたちをかばう。
0223ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/26(木) 21:51:24.65ID:GkpI7Ad5
指環を受け継ぐべきかは誰か、既に決まったと言いたげにミライユを守ろうとはしていなかった。
ミライユの胸から転がり、黄金に輝くその指環をジャンは拾う。
今身につけている指環と同格の力を持つであろうそれを、ティターニアへ渡すことにした。

「――あんたとその子、二人であいつに勝ったんだ。
 戦利品だよ。俺はまだ壊れてない家で漁ってくるから、帰るのはちょっと待ってくれや」

大地を表すであろうそれをティターニアに渡し、既に息が小さくなっているミライユの元へと向かう。
ラテがもう助からないと判断したのか、飲ませていたそれは戦士にとっては身近なもの。
傷が重く、治療の意味がない者に慈悲を与えるそのポーションは、ジャンも村にいた頃に見たことがあった。

「もう、無理なんだな。トドメを刺す必要もねえか」

死ぬ間際に自分のような顔を見たくはないだろうと思い、ラテの後ろからミライユの様子を見る。
殺しあったとはいえ、決着が着いた以上は同じ戦士だ。敬意を払わなければならない。

>「今度は、お友達として、渡してあげて。そうすればきっと、受け取ってくれるわ」

ラテが自らの顔に幻影を被せ、ミライユの姉のふりをした。姉の死で全てが狂い、殺し続けた者が
見る最後の風景としては、上等な方だろう。

「……ありがとよ、ラテ。帰ったらおごるぜ」

自分の代わりに介錯を務めてくれたラテにポン、と肩に手を置いて呟く。
ミライユが言っていたユグドラシアへの襲撃は気になるが、ひとまず指環は確保できた。
それでよしとしたジャンは、ミライユの最期を見届けるまでじっとそこに佇んでいた。

【こういうとき「たたかう」しかできないオークは動きづらいので見守ります!】
0224ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/26(木) 22:09:03.54ID:Cd/Gxe8H
【ミライユ殿のPLに意思確認なのだがパーティー入りして継続参加してもいいかもとかは思ったりするか?
もしそうならここからそれ用の振りをすることもやぶさかではない。
もう敵役の短期参加で決めているということなら蛇足な感じになってしまいそうなので先に聞いてみた】
0225創る名無しに見る名無し2017/01/26(木) 23:32:02.49ID:1EoHxC9l
【ありがとうございます。どうやらミライユ死亡が確定しているようなので、このまま死体の後処理はお任せします。】
【同時にこれ以降の生存NPCのシュマリ、ホロカは自由に動かして頂いて結構です。】
【ティターニアさんの次の書き込み以降、時間のある時にミライユEDを書きます。(その次の方が飛ばしても大丈夫です)】

【継続参加はしませんが、人数が足りなくて回らなそうなときは適宜味方か敵で参加希望するかもです。】
0226ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/28(土) 13:10:42.20ID:0oBAucsK
「ラテ殿! 何を……!?」

>「もう眠りなさい、ミライユ。あなたは怖い夢を見ただけ……。
 もう一度、眠りに就いて……次に目が覚める時は、お母さんがあなたを起こしてくれるわ」

ラテはメルセデスの幻影をまとい、安楽死の薬を飲むように誘う。
折角人間の心を取り戻したのに。折角本当の敵に気付いたのに。そんなのはあんまりだ。
ラテはミライユがこの重傷ではもう助からないと見立てたが
ティターニアは、すぐにユグドラシアに搬送して治癒魔術の専門の導師の治療を受けさせればギリギリ助かるかもしれない、と踏んでいた。
それよりも、一番の問題は彼女に生きる意思が残されているかどうかだ。
それを見極めるために、ティターニアはミライユにとある選択を突きつけようと考えた。
それは、過酷な生か、安寧の死かの、究極の選択―――
幻影魔術で指環の魔女に化けて「自分を倒しに来い」と煽れば、きっと生きる気力を奮い立たせることができるのではないかと。
彼女が次に目覚めた時に側にいて微笑んで手を差し伸べたかった、今度は仲間として、共に真の敵を倒そうと。

「いや、これで……良いか」

しかし、最終的に――ティターニアは事態を静観することを選んだ。
ミライユはあまりに罪を重ねすぎた、しかしその事自体はこの弱肉強食の世界においては最大の問題ではなく……
ミライユがいつぞやのおっぱい娘のようにあっけらかんと割り切って生きる良く言えば強い、悪く言えば鈍いタイプだったら良かった。
しかし彼女の根はとても純粋で繊細、あまりにも純粋過ぎたからこそこうなってしまったのだ。
そんな彼女に、本当の敵を討った先に光を掴む一縷の望みに賭けて
罪を背負い咎を背負う贖罪と復讐の旅を強いるのはあまりにも過酷な事で――
凄腕のレンジャーのラテが助からないと見立てたのだから助からないのだろう、と自分を納得させた。
本当は分かっている……それは言い訳で、ただ、生きることを選ばせた責任を背負い隣を共に歩く自信が無かったのだ。

>「――あんたとその子、二人であいつに勝ったんだ。
 戦利品だよ。俺はまだ壊れてない家で漁ってくるから、帰るのはちょっと待ってくれや」

そう言って、ジャンが指環を渡してきた。紛う事無き大地の指環――今回の洞窟の探訪の目的物だ。

「うむ……かたじけない」

流石に今すぐはめる気にはならず、暫くしまっておくことにした。
いつの間にか周囲は元の遺跡の風景に戻っていた。
静かにミライユの最期を見届けたティターニアは、今は感傷に浸っている場合ではないことを思い出した。
せめて姉だけは助けるとホロカに約束したのだ。
0227ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/28(土) 13:13:11.76ID:0oBAucsK
ティターニアは自らの顕現した夢の森にて、ミライユの過去の一端を見ることとなった。
本当の悪の魔女は――その中にこそいた。
魔女の襲撃を受け姉を殺された時、ミライユにとっての世界の全てが狂い始めたのだ。

>≪ミライユ、退きなさい。今からでもやり直せるから、正しい道を行くの。
あなたの本当の敵は……指環の魔女。お父様とお母様と私、エルジュ家を破滅させた全ての元凶よ。
その方たちに、指環を渡し、あなたの愛する人、マスターの元で、ゆっくり休んで。痛かったでしょう?≫

指環の魔女――指環の名を冠するその敵の名に、ほぼ確信に近い予感を感じた。
指環の名はきっと単なる偶然ではない、この旅でいずれ敵として相見えることになるだろう、と。
もしかしたら、ミライユが一行の元に差し向けられ指環の争奪を企てたのも
裏で全て彼女によって仕組まれていたことかもしれない――そんなことまで思った。

>「うわぁぁんっ……! 助けて、怖いよぉ、痛いよぉ……お姉さま……マスターっ……!!」

テッラとフェンリルが、落ちてくる岩石から一行を守る。
しかし、守る対象の中にもはやミライユは入っていなかった。

>「試してたんだな、ずっと」

真実に気付いたラテが静かな怒りを燃やすが、ティターニアは静かな心で「ああそうだったんだ」と思っただけであった。
これまでの旅の中でなんとなく分かっていたからだ。
彼らは人間の尺度による善悪の概念を遥かに超越した、世界の機構に近い存在だと。
それが確信に変わっただけの話だ。

>「……ごめんなさい、ティターニアさん。それに……えっと、妹ちゃん。
 ミライユさんはきっと、もう十分な罰を受けたよ。彼女には、もう何も残ってない。
 あなたは、もしかしたらそうは思えないかもしれないけど」
>「だから……私は、もうこれ以上、ミライユさんを苦しませたくない」

ラテがこんなことを言い出す。

今更何を……と一瞬思うが、ラテもよもやティターニアやホロカがここから追撃をかけるとは思ってはいまい、と思い直す。
そうなると、ラテの言葉の意味することは、一つしかなかった。
0228ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/28(土) 13:15:15.04ID:0oBAucsK
「ラテ殿! 何を……!?」

>「もう眠りなさい、ミライユ。あなたは怖い夢を見ただけ……。
 もう一度、眠りに就いて……次に目が覚める時は、お母さんがあなたを起こしてくれるわ」

ラテはメルセデスの幻影をまとい、安楽死の薬を飲むように誘う。
折角人間の心を取り戻したのに。折角本当の敵に気付いたのに。そんなのはあんまりだ。
ラテはミライユがこの重傷ではもう助からないと見立てたが
ティターニアは、すぐにユグドラシアに搬送して治癒魔術の専門の導師の治療を受けさせればギリギリ助かるかもしれない、と踏んでいた。
それよりも、一番の問題は彼女に生きる意思が残されているかどうかだ。
それを見極めるために、ティターニアはミライユにとある選択を突きつけようと考えた。
それは、過酷な生か、安寧の死かの、究極の選択―――
幻影魔術で指環の魔女に化けて「自分を倒しに来い」と煽れば、きっと生きる気力を奮い立たせることができるのではないかと。
彼女が次に目覚めた時に側にいて微笑んで手を差し伸べたかった、今度は仲間として、共に真の敵を倒そうと。

「いや、これで……良いか」

しかし、最終的に――ティターニアは事態を静観することを選んだ。
ミライユはあまりに罪を重ねすぎた、しかしその事自体はこの弱肉強食の世界においては最大の問題ではなく……
ミライユがいつぞやのおっぱい娘のようにあっけらかんと割り切って生きる良く言えば強い、悪く言えば鈍いタイプだったら良かった。
しかし彼女の根はとても純粋で繊細、あまりにも純粋過ぎたからこそこうなってしまったのだ。
そんな彼女に、本当の敵を討った先に光を掴む一縷の望みに賭けて
罪を背負い咎を背負う贖罪と復讐の旅を強いるのはあまりにも過酷な事で――
凄腕のレンジャーのラテが助からないと見立てたのだから助からないのだろう、と自分を納得させた。
本当は分かっている……それは言い訳で、ただ、生きることを選ばせた責任を背負い隣を共に歩く自信が無かったのだ。

>「――あんたとその子、二人であいつに勝ったんだ。
 戦利品だよ。俺はまだ壊れてない家で漁ってくるから、帰るのはちょっと待ってくれや」

そう言って、ジャンが指環を渡してきた。紛う事無き大地の指環――今回の洞窟の探訪の目的物だ。

「うむ……かたじけない」

流石に今すぐはめる気にはならず、暫くしまっておくことにした。
いつの間にか周囲は元の遺跡の風景に戻っていた。
静かにミライユの最期を見届けたティターニアは、今は感傷に浸っている場合ではないことを思い出した。
せめて姉だけは助けるとホロカに約束したのだ。
0229ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/28(土) 13:16:36.26ID:0oBAucsK
「シュマリ殿!」

急いで駆け寄るも、ティターニアが何かをするまでもなくシュマリがゆっくりと起き上がった。
ホロカがその胸に飛び込み、姉妹は固く抱き合う。

「お姉ちゃん……!」

「オレ、アイツを許さない。でも、夢の中で言ってくれた気がするんだ。
妹が私のようになってはいけない、だからあなたは生きてって……」

まさか、ミライユが最後の生命力をシュマリに与えたというのか。
夢の森――あの領域の中なら、そんなこともあるのかもしれないな、と思った。
姉妹と共にミライユとタイザンの遺体を埋葬しつつ、ティターニアは二人に声をかける。

「済まなかったな……こんなことになって……」
「お前に謝られる筋合いはねーよ、しかし参ったな、ギルドにいられなくなっちまった」
「これからどうしよう……」

今後の身の振り方に困窮する姉妹に、ティターニアは一つの道を提示する。

「我に良い考えがある。もしそなたらさえ良ければユグドラシアに来るがよい。
心配するな、そなたら程の逸材……同僚の精霊術導師に紹介すれば嫌と言っても放ってはおいてはくれぬ」

二人を埋葬し終わり、一行が遺跡から使えそうな物を採取したりし終わった頃――
頃合いを見計らってテッラが口を開いた。

「我々に怒りを燃やすのも無理からぬこと。しかし今は聞いてください。
伝えておかねばならぬことがあります。
……といってもミライユの記憶を通しすでに気付いたようですね、”指環の魔女”の存在に――」

「指環の、魔女……!」

やはりそうか、という感じでその敵の名を噛みしめるように呟く。

「其れは虚無、其れは常闇、其れは絶望――
遥か古より名を変え姿を変え歴史の影で暗躍してきた全ての生命の敵――」

「ウェントゥス殿が乱心したのもそいつのせいなのか!?」

「はい、おそらくは……」

テッラは何かを言いかけたようにも見えたが、その言葉の続きを聞くことは叶わなかった。

「残念ながら時間が無いようです。炎の指環を持った者がここに近づいてくる……」

炎の指環所持者といえば、言うまでも無くジュリアンのことだ。
おそらくジャンが指環の力を発動させたことで、場所が感知されてしまったのだろう。
ミライユとティターニア一行をぶつけあって試したテッラ達だったが
何らかの理由によって“ジュリアンとここでかち合わせることは適切ではない”という判断したらしい。

「彼は私達が足止めしておきます。
あなたがたは一刻も早くウェントゥスの元へ。お行きなさい、”指環の勇者”達よ――!」

テッラは一行に問答無用で転移魔術を発動させ、視界がまばゆい光に包まれた――
0230ティターニアin時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc 2017/01/28(土) 13:20:48.65ID:0oBAucsK
済まぬ、時空が歪んでしまったようだ。>226は飛ばして読んで頂けると有り難い。

>ミライユ殿
やはり一緒に盛り上げてくれたPCが死ぬというのは寂しい物だな。敵だから仕方がないとはいえ。
しかしここまでのダイナミックな展開は別PLじゃないと得難いものであるからして
ミライユ殿は我の毎度の無茶振りからいつも予想の遥か斜め上で展開させてくれて本当に楽しかったぞ。
ちなみに今回我がしかけてやめた究極の選択ロールはもしミライユ殿が継続参加を希望したらするつもりだったものだ。
しかし死んで寂しいのはPLの大人の事情というもので純粋に物語として見るとこれで良かったのだと思う。
あと指環の魔女は有難く頂戴しておいた。
ジュリアン殿がワケあり感が半端ないゆえにそろそろガチ悪役が要るかな?と丁度思っていたので。
本当にお疲れ様、ありがとう! また気が向いたらいつでもお待ちしておるぞ。

>ラテ殿&ジャン殿
テッラがあまり喋らず終いになっておるがもちろん間に挿入する形で追加で何か語らせても可
転移先はまあ普通にいけばアスガルドだろうか

それと大変つかぬことをお伺いするのだがノーキン&ケイジィ殿はまだおられるだろうか
長らくお待たせして申し訳ない。
みんな消耗していてこのまま連続バトルに雪崩れ込んでも微妙な感じになりそうだし
丁度ユグドラシア襲撃の話も出ておることだし1回区切って
3.5章みたいな感じでメイン敵に据えてやってみるのもいいかな、と思っておるのだがどうだろう
0231ノーキン&ケイジィ2017/01/28(土) 20:47:18.31ID:fGyQg7oZ
ここにおりますぞ
ティターニア氏のご提案に喜んで乗らせていただきましょう!
0232創る名無しに見る名無し2017/01/28(土) 21:40:11.68ID:AD9QSNOL
>>231
トリップ
0233ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/28(土) 23:57:46.71ID:AD9QSNOL
ミライユの全身に回った毒は彼女を蝕み続け、全身の傷からの出血はいよいよ致命的なところまで来ていた。
ここにミライユの23年余の人生は終わりを告げていた。
ラテたちの献身的な「痛み止め」により、より安らかなものとして……

ミライユは最後の夢を見た。いや、最期の、と言った方が良いのかもしれない。

ミライユたち四人は、ソルタレクの最高級酒場『サクラメントゥム』にて、楽しく酒を酌み交わしながら、
大量のご馳走を囲んでいた。ここにはあらゆる国のあらゆる珍味が揃っている。

「それで、今日は、ラテさんの大手柄でしたね! きっとマスターも喜ぶと思います!
それにしても、ジャンさん、あれは無いですよ〜、死ぬかと、思いました!」

ミライユが大皿に盛られた料理をバクバクと食べながら、話を振っていく。
ジャンが祝杯片手にガツガツと食べているペースを落とし、両手を開いてポーズを取る。

「つっても、ありゃティターニアも悪いしなぁ。いっつも俺が盾じゃねーか。
今回の一番の手柄は俺だぜ?」

ラテが適当につまみながらも、何やら小道具を内職している。そして笑顔で返す。

「いえいえ、ティターニアさんと、それにミライユさんの勇敢な行動のおかげですよー!
それにしてもミライユさん、年齢にしては可愛らしいですね。何か秘訣はあるんですか?」

ミライユはそれに対しバクバクと食い散らかしながらも返す。

「そんな…! 照れちゃいます。まぁ、大したことは無いですよ。いつも子供っぽいってマスターに言われてるし」

「それに、それ言うならティターニアはどうなのよ? 歳を考えれば…」

ティターニアがジャンに言われて魔道書を開きながら返す。しかし表情は笑顔だ。
そして、後ろから誰かが来ていることに気付く。勿論ミライユの大事な人だ。

「それは喧嘩を売っているということで良いのか? ジャン殿。 おや?
ミライユ殿、待ち人が来たようだな。行ってやったらどうだ?」
0234ミライユ ◆6Nqsyb3PfY 2017/01/28(土) 23:59:58.32ID:AD9QSNOL
「あ……マスター…!!」

ミライユはその男が酒場に入ってくるなり、飛びつくように男に抱き付いた。
男が抱き返し、そのハネの利いた髪を撫でながら囁く。

「ミライユ、良い子だ。今回も大手柄だった。だから……」

――と、ミライユが異変に気付く。
愛しいマスターの姿が徐々に変貌し、露出度の高い大柄な女の格好になっていた。

「だから――死になさい」

その時の魔女"指環の魔女"だ。

「あ……あ、あぁ……」
ミライユは心臓に突き刺された刃物のようなものを見ると、既に魔女の姿は消えていた。
それどころか"仲間"たち三人がミライユの方を見ている。何か恨めしそうな表情で。

ジャンは徐々に顔が変貌し、既にミライユに殺されている、暴行を繰り返したハーフオークの姿になり、
それはやがて複数になり、暴力を振るって報復された全ての死者たちの姿になった。
半透明の姿で恨めしそうにミライユに近づいていく。

ラテの姿はやがてタイザンの娘、マトイの姿となり、その後ろからタイザン、そして
ギルド時代にミライユが騙して殺した面々の姿となってミライユを取り囲んでいく。

ティターニアの姿はギルドの"任務"で暗殺した元老院の女エルフ議員になり、さらにそれに付随する任務で殺した
議員、ユグドラシアのメンバー、レンジャーギルド等の要人の姿となって、ミライユに素早く襲い掛かり、呪詛をかける。

オォォォォォ…… オーオーオーオーオー…… 

ミライユがこれまでに殺害してきた半透明の死霊たちはミライユを取り囲み、同じく徐々に姿を消していくミライユに襲い掛かると、
次々と被り付いて貪っていった。腕や脚が千切れて血を吸われ、頭を割られて脳漿を吸われ、それでもミライユが心臓を奪われ、骨だけになるまで、
ミライユの苦痛は続いていた。

「アッハッハッハッハッハ……!」

魔女の声が響き、やがて途切れていく。埋葬されたミライユは、その罪を償いながら、
土の中で苦しみながらその命を閉じた。


【ミライユ無事に退場。ありがとうございました!】

>>ティターニアさん【色々気遣ってもらってありがとうございます。
こちらこそ無茶な展開を発展させて頂けて嬉しいです。】」

反省点:
今回はNPCの登場するタイミングが悪かったのと、一部(ミライユの過去に行った行為や伏線が作中でキャラに伝わっていない等)
足りない部分があったので、改めて皆さんにお詫びします。
0235創る名無しに見る名無し2017/01/29(日) 00:20:45.53ID:oVNlJknl
埋め
0236創る名無しに見る名無し2017/01/29(日) 00:21:11.94ID:oVNlJknl
埋め
0237創る名無しに見る名無し2017/01/29(日) 00:21:36.90ID:oVNlJknl
埋め
0238創る名無しに見る名無し2017/01/29(日) 00:22:00.77ID:oVNlJknl
埋め
0239創る名無しに見る名無し2017/01/29(日) 00:22:23.18ID:oVNlJknl
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0240創る名無しに見る名無し2017/01/29(日) 00:22:41.03ID:oVNlJknl
埋め
0241 ◆ejIZLl01yY 2017/01/29(日) 04:39:28.87ID:VysKKKrJ
ミライユさんの呼吸が段々と弱くなっていく。
後はこのまま眠るように……楽になれるはずだ。
私には、もう、こうする以外に出来る事はなかった。

……ふと、草むらの中を踏み歩くような、音が聞こえた。
段々と狭まりつつある夢の森を、私は見回す。

額に冷や汗が滲み、心臓の鼓動が荒っぽくなるのを、私は感じていた。

そうだ。
ここはミライユさんの為に作り出された世界。
だけどミライユさんのみに向けて効果を発する魔法じゃない。

ここは現世とは違う世界……過去と、死者の魂と、相見える事の出来る世界。
相見える事が、出来てしまう世界。

『あーあ、またやっちゃったね』

森の奥、木々の隙間から、黒い影が私を見ていた。
魔術師のローブのようにも、神父服のようにも見えるあの衣装は……私の家に伝わる交神の礼装。

『お姉ちゃん』

私の弟が、私の代わりに着せられていた礼装だ。
これは……私の幻覚?それとも……。

『また失敗した。また、死なせちゃったんだ』

違う。私は、私に出来る事を。

『出来ない事が、出来ないまま終わっちゃった。でしょ?
 あの時もっと綺麗に手首を切り落とせていれば、指環を奪ってそのまま戦いを終えられたかもしれないのに。
 お姉ちゃんがもっと深くその人の心を抉っていれば、逆上なんてさせずに、戦いすら避けられたかもしれないのに』

私は……何も言えない。
人が死んだんだ。仕方ないなんて言えない。
私には才能がないなんて、言い訳にもならない。

『まぁ、仕方ないよね。お姉ちゃんには才能がないんだもん。
 交神術の才能もなければ、レンジャーとしての才能もない。
 だから僕もその人も死んじゃった』

やめて、お願い、やめて。
弟はそんな事言わなかった。
私は、才能はなかったけど、それでも弟とは家族だった……はずなんだ。だから、

『だからこれは、自分の罪悪感が産んだ幻覚?違う、違うよ。お姉ちゃん。
 僕は確かにここにいるんだ。いつだってお姉ちゃんの傍にいる。大好きだったお姉ちゃんの傍にね』

だったら、なんで。

『こんな事を言うのかって?それは……教えられないよ。自分で気づかなきゃ、意味が無いんだ』

……夢の森が、消えた。
弟の気配はもう、感じない。

呼吸を整えてミライユさんをみると……彼女はもう、息絶えていた。
その双眸に右手を被せ、瞼を閉じさせる。
0242 ◆ejIZLl01yY 2017/01/29(日) 04:39:51.94ID:VysKKKrJ
「……死は苦しきものなれど、汝の罪は我が刃が断ち切った。汝を迎えるは安らぎなり。眠れ、安らかに」

……これはアサシン達に伝わる祝詞。
今でこそただの殺し屋集団と捉えられがちだけど、彼らは元々、神に仕え、平和の為に戦う戦士達だった。
その掲げる平和は、世の大勢とは少し違っていたかもしれないけど……。
彼らにとって殺める事は救いであり、殺めた者への敬意も、ちゃんと持っていた。

なんて、ただの綺麗事かもしれないけど。
私がただ、辛い気持ちを紛らわせたいだけかもしれないけど。
少なくとも、それだけじゃないんだ。それだけは、本当の本当。

だから……どうか、安らかに。ミライユさん。

>「……ありがとよ、ラテ。帰ったらおごるぜ」

私は、人を殺しただけだ。礼なんて言わないで下さい。
私は、本当にこれで良かったのかも分かっていないのに。

「……私、結構よく食べますよ。ミライユさんほどじゃ、ないですけど」

やめろ。そんな事言っていい訳がない。思う事すら、本当なら許されない事だ。

それは私にミライユさんの最期を委ねてくれたジャンさんと、
きっと助けようとして、それでも引き下がってくれたティターニアさんへの、
そしてなによりミライユさんへの侮辱だ。

「でも……ごめんなさい。もう少しだけ、このまま……」

肩に置かれたジャンさんの手を取り、頬を寄せ、目を閉じる。

私は、今の自分も嫌いじゃないけど……やっぱり、リアリストになりたい。
……でないとこういう時に、辛くて、悔しくて、悲しすぎる。

だけど、いつまでも沈んだ気持ちでいる訳にはいかない。
切り替えろ。そういう訓練も、積んできただろう。

ジャンさんの手を離し、両手で頬を強く張る。

「よし……もう大丈夫です。私達は、勝ったんだ。戦利品を、拝借しに行きましょう」

振り返り、ジャンさんに笑いかけ……そこで気付いた。

「と……私は先に『解呪』をしないと」

私まだネズミ面のまんまだ。
一応いつも通りの顔を【ファントム】で被せてあるから、ドン引きするような光景にはなってなかったはずだけど。

宝箱からポーション瓶を取り出す。
中で揺れている赤い液体は……事前に用意しておいた私の血液だ。
これを飲む事で、魔物に近づいた体にもう一度、人間としての自分を上塗りする。

そんなんで大丈夫なのって思うかもしれないけど、まぁ大丈夫じゃないよね。
多分何度も何度も繰り返してたら、その内、元に戻れなくなる。
だからなるべくあの奥の手は使いたくなかった。

……でもそれじゃ生き残る事もままならないほど私が弱いのが悲しい所。
とりあえず、はい、鼻を摘んで、ぐびー……うげえ、自分の血でも不味いもんは不味い……。
これで後は、体が元に戻るのを祈るだけです。

じゃ、私も色々漁りに行こっかなぁ。
0243 ◆ejIZLl01yY 2017/01/29(日) 04:40:13.72ID:VysKKKrJ
あのおじさんの死体、確かこっちの方に投げ飛ばされてたよね。
えっと……あった。

私は短刀を取り出すと、おじさんの殆ど残ってない髪を一束、切り取った。
比較的長い部分を使って、長さを整えた束を結ぶ。
いや、なんか、すみません……。
ともあれ今度は短刀で、地面に散りばめられてる宝石の中から、色の淡い物を抉り出す。

おじさんの遺髪と、小さな宝石。
私はその二つのマナの流れを読み取り、解きほぐし……撚り合わせる。
アイテム合成って色々とやり方があるけど、マナの流れを読む訓練を積んだ私はこのやり方が一番楽かな。
こうする事で、二つの異なる物体を、一つに混ぜ合わせる事が出来る。

これで、よし。
後は戦いの余波で折れちゃったおじさんの刀を拾って……あの姉妹達へ振り返る。
丁度、二人もおじさんの傍に近寄ってきていた。

「……これ、余計なお世話じゃなければ……なんだけど」

遺髪という概念が獣人にあるのか分からないから、少し戸惑い気味に、おじさんの髪を封じた宝石を差し出す。
いや、遺髪や遺骨を封じたブローチって私の故郷じゃお守りとしてよく作られてたんですよ。
え、あれ?これ地方特有の不気味な風習だったりしないよね!?

「……おじさん、今頃複雑な気持ちかもね。髪が薄くなってきてる事、気にしてたから。でも、ありがとう」

あ、良かった!とりあえず妹ちゃんが受け取ってくれた……。

「あと、この刀も……これ折れちゃってるけど、凄い名刀だよ。
 復元は無理でも、形を整えれば短刀としては使える筈だから……」

いや、これはホントとんでもない刀だよ。
銘は見てないけど、折れてしまってもなお、凄まじい魔力の迸りを感じる。
その迸りに応じて踊る刃紋はまるで無限に燃え広がる炎のようで……うぅ、トレジャーハンターとしての眼が奪われる。
多分折れた刃先の方だけでも、ちょっとしたお家が買えちゃうんじゃないのか。

「……お前さ、欲しいのか?これ」

お姉さんが、受け取った刀の刃先の方を見せて、そう尋ねた。
……ちょっとジロジロ見すぎたかな。

「す、すみません。ちょっと不躾でしたね。ただ本当に凄い刀だなって……」

「……欲しけりゃ、やるよ。私も二刀流なんて使えないし、ホロカは剣は苦手だしな」

「あ、いや、だから違うんですって……それは故人の形見ですし、赤の他人の私が貰う訳には……」

待って、剥き出しの刃をこっちに押し付けようとしないで怖い。
これもしかして怒ってたりする……?

「……お姉ちゃんも、聞こえてたんですよ。赤の他人の為にあれだけ怒ってくれた、ラテさんの声が」

……それも、結局裏目に出ちゃったんだけどね。
どうやら妹ちゃんの言葉は図星のようで、お姉さんは私にそっぽを向いて、ただ刃先を突きつけて……いやだから怖いです!

でも……くれるって言うなら、受け取っておこう。
私は、弱いんだ。才能もない。
だから……魔物だって自分の血肉にするし、他人の形見だって、くれると言うなら、受け取らなくてどうするんだ。
0244 ◆ejIZLl01yY 2017/01/29(日) 04:40:35.86ID:VysKKKrJ
「……じゃあ、お言葉に甘えて」

折れた刃先を受け取り……改めてその魔力を肌で感じ、思わず怯む。
……これがあれば、次は、失敗せずに済むのかな。

いや、だめだ!
さっき気持ちを切り替えたばかりなのにまた陰鬱な感じに戻りつつある!

「……うん、ありがとう!この刀、絶対に上手く使ってみせるから!
 じゃあそろそろトレジャーハンターとしての本能が抑えきれないので……またねっ!」

私は二人に背を向け、宝探しを始めた。

この古代都市を構成する鉱物も、一面に散りばめられた宝石も、持ち帰れば相当な額になるに違いない!
上手く加工すれば便利なマジックアイテムにもなるだろうし……。
いや、そもそも古代文明の作り出したアレコレがここには眠ってるはず!他にも持ち帰れるだけ、持ち帰らなきゃ!
そして……

「私はもっともっと、強くなってやるんだー!」

今度こそ、気持ちを切り替える為に、私は大声でそう叫んでみた。




………さて。
正直な話をすればですね。
これほどの規模の遺跡に辿り着いた以上、ここらにキャンプを仮設して一週間、いや一ヶ月くらいは滞在して探索したいんです。

でもジャンさんティターニアさん、それにテッラさんを見るにどうもそういう雰囲気じゃないっぽい。
これ多分あと十分もしない内にここを離れる羽目になって、そのまま戻ってこれない奴だ。
いやだー、テッラさんお願い今晩お家に泊めて。夕飯はオオネズミのお肉でも食べるから。

……なんて冗談は置いといて。
私は皆と合流して、テッラさんを見上げた。

>「我々に怒りを燃やすのも無理からぬこと。しかし今は聞いてください
>「指環の、魔女……!」

あっ、これ私が話聞いてても半分も理解出来ない奴だ。
うえーん、ウェントゥスって誰だよぉ……。
ジャンさんティターニアさんは優しいけど流石にこの状況で教えて教えてとは出来ないです……。

>「残念ながら時間が無いようです。炎の指環を持った者がここに近づいてくる……」

テッラさんの翼がふわりと円を描くと、その下の地面に魔法陣が現れる。
これで、この古代都市ともお別れかぁ……。

「くっくっ」

なんて考えてたら、噛み殺すような笑い声が聞こえた。

「おぉ、すまんすまん。つい、思い出し笑いをしてしまった」

振り向いたその先には……魔狼、フェンリル。

「そこに埋まっている傀儡の如き女を思い出すと、どうにも愉快で愉快で、なぁ?」

瞬間、私は掻き消したはずの怒りの炎が、再び燃え上がるのを感じた。
0245 ◆ejIZLl01yY 2017/01/29(日) 04:41:11.87ID:VysKKKrJ
「我は初めから、指環を手にする術を述べておったと言うのに。
 指環を手にするべきは、世界を変え得る者だと。
 その悪魔紛いの半端者がそうしたように、自ら指環を嵌めれば、それだけでよかったものを」

フェンリルは濁った嘲りと愉悦を浮かべた眼で、私達を見下ろしていた。
まるで、私達を……いや、この眼は、私を捉えていない。
これは……ジャンさんと、ティターニアさんを、挑発しているのか?

「実に愚か……いや、愚かと言うも愚かよな。
 運命に流されるだけの傀儡と、その傀儡師風情の指に、竜の指輪が巡り合うものか。
 指環の勇者の名が、似合うものかよ」

一体なんの為に……いや、理由なんかどうでもいい。
ミライユさんはそりゃ敵だったけど。

「……無駄死にだな」

そんな舐めた笑みを浮かべて!あの人の死を踏み躙られて!
大人しくしていられるほど私は賢くな……

「粋がるな」

たった一言、たった一睨み。
……ただそれだけで、私は死を感じるほどに威圧されていた。
体の震えが、冷や汗が止まらない……。

「貴様は所詮、指環を巡る舞台に迷い込んだ小鼠……精々踏み潰されぬよう、逃げ惑っていろ」

フェンリルはその眼光の矛先を、ジャンさん達へ戻す。

「貴様らは、傀儡よりかは幾分マシなようだが……まだ、それだけだ。我は認めぬぞ」

そして世界をも噛み砕くと謳われた魔狼の牙が、剥き出しになる。
やれるのか……?いくら、ジャンさん達は強い。だけどそれでも、さっきの今の連戦で!

「……もう、やめましょう。フェンリル。その気持ちだけで、私は十分に嬉しい」

……テッラさんが、片翼でフェンリルを抱き締めるように包み込んだ。
フェンリルはそれを……振り払わない。

「あなたと過ごした、果てしない年月は……時にはあなたの苛烈さに手を焼く事もありましたが。
 おおむね、安らかで、居心地のよい時でしたよ。
 どうか最期まで、私に居心地のよい時を過ごさせて下さい」

……指環を巡る舞台に立てていない私には、彼らが何を言っているのかは、完全には分からない。

だけど……なんとなくだけど、分かる事もある。
テッラさんは、このままだと死んでしまうんだ。
だからフェンリルは……私達を、ジャンさん達をここに引き留めようとした。
0246 ◆ejIZLl01yY 2017/01/29(日) 04:41:32.40ID:VysKKKrJ
「……行け。指環の、勇者達よ」

それは絞り出すような声だった。

……魔狼、フェンリル。
今でも童話やおとぎ話では、その存在は恐ろしいものとして扱われる。
だけど神話を少し読んでみれば、彼がそんなにも邪悪な存在ではないとすぐに分かる。

彼は生まれた時からこんなに大きかった訳じゃない。初めは、普通の狼と変わらなかった。
だけどその成長は止まらず、巨大になり続け、果てには世界を滅ぼすと予言されてしまった。
神々は彼を二度捕縛しようとして、失敗した。
そして三度目……神々はこう言った。
もし我々のこしらえた綱を千切れないのならば、神々の脅威にはなり得ないから、もうお前を襲う事はない、と。
フェンリルはとある条件付きとは言えその言葉を信じて……そのまま最終戦争の時が来るまで、縛り続けられた。

フェンリルが神々の言葉を信じたのは、己の力に驕っていたからなのか。
それとも己を縛ろうと神々が幾度となく襲い来るだろう日々に嫌気が差したのか。

初めてこの話を読んだ時、多分、違うと思った。
そして今、違ったんだと確信した。

彼はきっと、恐れられたくなかったんだ。
自分が脅威ではないと証明して、誰かと関わりを持ちたかった。
そしてようやくこの場所で、それを手に入れた……はずだったんだ。

「……帰ったら、色々教えて下さいよ。指環の事」

転移の魔法陣の光りに包まれながら、ジャンさんの服の裾を引っ張って、そう呟いた。

フェンリルは私にこう言った。
お前は舞台に立てていない。迷い込んだだけだ、と。
私はそれが堪らなく悔しい。

もし、この指輪を巡る舞台の上で、また誰かの命が奪われるのなら。
役者にすらなれていない私が、それを救える訳がないんだから。
0247 ◆ejIZLl01yY 2017/01/29(日) 04:47:14.70ID:VysKKKrJ
「……その指環を、我らから、我が許から、持ち去ろうと言うのだ。もし下らぬ結末を迎えてみろ」

フェンリルの声が聞こえる。直後に私達の周囲を奔る、白い残影。
魔法陣の周りが、まるで深い谷のように抉り取られていた。

「この世界の何処にいても、その心の臓に、この牙、食い込ませてくれるぞ」

……さようなら、テッラさん。フェンリル。タイザンさんも。そして……ミライユさん。


【かつて予言されし世界の滅び、フェンリルをカッコよく書きたいだけの1ターンだった……】



ふぅ、冒険も一段落したし……久しぶりにのんびり余白に落書きでもしよっかな。

今回の内容は……うん、古代都市での収穫物かな!
トレジャーハンターの仕事が上手く行って、しかもギルドへの上納も必要なかったら、どれほどの儲けになるのか……。
みんなも気になるでしょ?

という訳で、まずは街中を彩っていた鉱物や宝石から。
鉱物はこれちょっと売るのがめんどくさいんだよねー。普通に売ってもなんか珍しいね、で済まされちゃうんだよ。

だから今だったらユグドラシアに持ち込んでみたり、武具職人さんに頼んで立派な武具にするとか。
そういう手間をかけるかどうかで天と地ほど値段が変わっちゃうの。
武具にするなら自分好みの感じに作ってもらってそのまま使っちゃうのもいいね。

宝石は……いいよね!軽くてちっちゃくて高い!全てのトレジャーハンターの恋人……!
大抵の宝石は魔力を秘めてるから、マジックアイテムにしても役に立つ事間違いなし。

お次は……収穫物じゃないけど、こちら【秘刀カムイ】です!
銘はシュマリちゃんホロカちゃんにあの後聞きました!
私は折れた刃先の方を貰ったので、根本にスライムの濃縮粘液を塗って皮を巻いて短刀っぽく仕上げてみた。

こっそり宿屋の屋上に登って空に向かって振ってみたら、一瞬昼間かと見紛うほど眩い炎の刃が飛び出てびっくり。
火事か放火かと騒ぎになって、憲兵さん達にとっ捕まらない内に逃げ出す羽目になりました。
いや、カムイって名前の時点である程度は予想してたんだけど、まさかこれほどとは……。

カムイってのは多分、和国の言葉である『神威』。神様のもたらす破壊、その威力とかそんな意味。
この無限に燃え広がるような波紋は、山一つ丸ごと焼き尽くしてしまうような、神の火を模しているんだ。
折れてしまった刃先でこれなんだから、折れる前はもっと広くを薙ぎ払えたんだろうなぁ。
それは集団戦において単純に強いし、一対一においても届かないはずの刀から炎の刃が伸び来たる、必殺剣として使えたはず。
……ミライユさんの空間魔法とは、組めば相性抜群だったろう。危ないところだった……。

後は……こちら。この薄っぺらい土色の何か……。これ多分、テッラさんの、大地の竜の飛膜だと思うんだよね。

最初あの古代都市に着いた時、二匹はかなりやり合ってたけど、きっとアレは完全な演技って訳でもなかったんだ。
周囲には血や、皮や肉片が飛び散っていた。その中から見つけてきたのがこれ。

見た目は土と血で汚れたマントのようだけど、マナを感じ取れる人間なら分かるはずだ。
凄まじいほどの、大地の持つ守りの力と、引きちぎられてもなお滾る竜の生命力が。
ただこれ、めちゃくちゃ重い……私じゃマントみたいに羽織るのは無理かな。多分圧死するんじゃないかってくらい重いの……。
今度ジャンさんにいるか聞いてみよう。売っちゃうのは、なんか違う気がする。

最後に……この、ちょっとした剣よりも長い牙。言うまでもなくフェンリルの牙だと思う。
その鋭さや恐ろしいもので。持ち上げた後、涎と血で手が滑って落っことしたらそのまま地面に突き刺さった。
上手く加工すればめちゃくちゃすごい武具になりそうなんだけど、そもそも硬すぎて加工出来るのか、これ。

まぁ……上手くアイテムとして使えなくてもいいんだけどね。
これらは古代都市の、彼らの思い出として、どんなお宝よりも価値があるんだ。
0248 ◆ejIZLl01yY 2017/01/29(日) 04:48:05.11ID:VysKKKrJ
【ミライユさんお疲れ様でした。
 確かにリアクションが難しいなと思うシーンもありましたが
 だからこそ頭を捻ってどう動くか考えるのは結構楽しかったです。

 NPCを出したり、色々キャラの伏線を張るなら、もしかしたら味方として参加した方が良かったかもしれませんね。
 ……と言うより、参加して欲しかったなと言うのが、終わってからの私の気持ちになります。
 仲間としてミライユさんとお喋りするのは、きっと楽しかったのではないかと、思ってしまいます。

 それではまたいつか、どこかのスレで、お会いいたしましょう】
0249ノーキン&ケイジィ ◆xMlzBZPYec 2017/01/30(月) 05:18:34.79ID:oIKoGK93
トリップテスト
0250創る名無しに見る名無し2017/01/30(月) 08:42:02.77ID:ljciiA5V
>>249
無理そうやな
参加するかしないか、早いうちに宣言した方がいい

あとジャンはもう書き込んでもええで
0251ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/30(月) 21:34:47.70ID:SrnXSExw
>「でも……ごめんなさい。もう少しだけ、このまま……」

「……戦うのは慣れてても、ヒト相手は初めてだったか。
 そりゃ最後まで止めようとするよな……」

静かに頬を寄せるラテの姿は、ネズミの毛に覆われているとはいえ華奢だ。
魔物を狩るのには慣れていただろうが、初めての殺人は肩に重くのしかかるだろう。
ジャンも旅を始めた頃、身を守るためとはいえ初めて野盗を殺してしまったときも
手にこびりついた血が取れない錯覚にとらわれたのだから。

>「よし……もう大丈夫です。私達は、勝ったんだ。戦利品を、拝借しに行きましょう」

だが、ラテはジャンが思うより心の強い人間だったようだ。
両手で頬を強く張り、その動作を軸にして気持ちの切り替えを行う。
そうしてこちらに振り返り、いつものにこやかな笑みを見せてくれた。

>「と……私は先に『解呪』をしないと」

「血を触媒に化けるなんざ、まるで吸血鬼みてえだな。
 あいつらも血を使って色々できるって言うしよ、ダーマに行ったらあいつらから教えてもらえるんじゃねえか?」

すっかり元気を取り戻したラテと共に雑談を交わしながら
まだ壊れていない家へ向かい、今回の戦利品を漁ることにした。

ラテは死んでしまったタイザンの遺品を回収するとのことで分かれ、
ジャン一人で家へと向かう。家を漁っている途中、ティターニアとラテがあの姉妹、
シュマリとホロカと話していたようだが、ジャンはあまり近づきたくはなかった。

それはミライユとの戦闘が影響していたというわけではなく、ごく単純な理由。
0252ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/30(月) 21:35:16.13ID:SrnXSExw
(獣人の毛って大抵俺の鼻によくねえんだよな……気を抜くと、くしゃみが出そうになっちまう)

幸いラテのネズミの毛はジャンの鼻にはひっかからなかったようだが、
もし、あの姉妹がジャンの鼻にひっかかる毛であれば……
一緒に戦利品を回収している間、くしゃみが止まらず、力加減ができないジャンがどれだけ貴重な装飾品を
うっかり壊してしまうか考えるだけで恐ろしいだろう。

「……お!これはなかなかいい壺じゃねえか。表面の銀と金細工がいい味出してるなコレ」

あの姉妹がこちらに来ないかビクビクしている内に、家の居間で両手で抱えるほど大きい壺を見つけた。
銀で作られた壺に、狼と龍をかたどった金細工が壺の表面を彩っている。
誰でも足を止め、見惚れるような作りに思わず壺を高く掲げた。

「ジャンさん……でしたか?あなたにもお礼を――」

「こりゃ高く売れそうだ、転移で飛ばされちまう前に持ってい――ぶぇっくしょっ!!」

鼻がむずむずするなと思った瞬間、居間に長年積もっていた埃が全て巻き上がるほど大きいくしゃみが出た。
その拍子に高く掲げていた壺を地面に叩きつけ、見事銀の壺は砕け散り、金細工も儚く無数の欠片となってしまう。
慌ててジャンが振り向くと、そこには例の姉妹が並んで立っていた。

「あんたも助けてくれたからな……お礼を言いに来たんだが」

「……とりあえず下がってくれねえか。お前らの歩幅で十歩ぐらい」

無性にむずむずする鼻を抑えながら二人から後ずさり、何回か小さくくしゃみを
繰り返しながら姉妹の返答を待った。

「……ありがとよ。あいつを止めてくれて」

「本当に、ありがとうございました」

ぺこり、と頭を下げる二人だが、ジャンとしては礼を言われるよりも
できるだけ早くティターニアたちの方へ行ってほしかった。

「お、おう。まぁアレだよあんまり気にするな、雇い先とかそこらへんならたぶんティターニアが考えてくれただろ」

適当に姉妹に返しつつ、今のくしゃみで吹き飛んだであろう金貨の数々を思うと胸が締め付けられそうになるジャンであった。

腰の袋に入りそうな装飾品を大体回収し、全員が合流した頃。
テッラが口を開き、『指環の魔女』について語り始めた。
0253ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/01/30(月) 21:35:45.03ID:SrnXSExw
>「其れは虚無、其れは常闇、其れは絶望――
遥か古より名を変え姿を変え歴史の影で暗躍してきた全ての生命の敵――」

「最近起きてる物騒な話やら戦争もそいつのせいにできそうな勢いだな」

ジャンが皮肉めいてそう言うと、大狼フェンリルがすぐに返してきた。

「実際に歴史を動かしてきたのだ、そろそろ民衆の噂になる時期だろう」

どうやら皮肉や冗談といったものをこの狼は好んでいるのか、反応が早い。

>「我は初めから、指環を手にする術を述べておったと言うのに。
 指環を手にするべきは、世界を変え得る者だと。
 その悪魔紛いの半端者がそうしたように、自ら指環を嵌めれば、それだけでよかったものを」

ラテにもこれくらい言ってのけるのだ、神代の時代より生きてきたとはいえ
話し相手がテッラしかいなくて暇だったのだろう。テッラがその方面に詳しいとも思えないしな、とジャンは思った。

「……最後に言っておくぜ。悪魔じゃなくてオークの半端者だ。それくらい見抜きやがれ」

転移魔術の光に包まれながら、一行を見送る狼と竜を見つめる。

>「……行け。指環の、勇者達よ」

>「彼は私達が足止めしておきます。
あなたがたは一刻も早くウェントゥスの元へ。お行きなさい、”指環の勇者”達よ――!」

ずっと指環を継ぐ者を待っていた彼らは、最後の役目を果たすのだろう。
右手の中指に嵌められたアクアの指環が小さく光った刹那、ジャンたちは地上へと向かった。

>「……帰ったら、色々教えて下さいよ。指環の事」

「全部教えてやるよ、こうなりゃ指環全部集めるまで終わるつもりはねえからな」

転移の光が周りを囲む中、小さく聞こえたラテにそう返してジャンは目をつぶる。
こいつらだけは、旅の最後まで守りたい。そう願いながら。



【ミライユさん参加ありがとうございました!
 前回の敵PCとはまた違った趣向の敵PCでなかなか返答に苦労しましたが、
 その分充実した戦闘になったと思います。

 NPCの扱いは色々考えましたが、上手く活かした使い方が思いつかなかったのと
 なるべく簡潔にレスしようと思うとどうしても冗長になりかねない点から
 あのような扱いになってしまいました。もしまたご一緒することがあれば、
 今度はもっとミライユさんの設定を活かして書きたいと思います!】
0254ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/01/30(月) 22:00:54.71ID:9XP+5UAl
失礼、トリッポはこちらでした
0255創る名無しに見る名無し2017/01/30(月) 22:46:39.66ID:ljciiA5V
>>254
おぉ!それだよ
で、参加するかしないのか
早めに決めてくれや
具体的なタイミングもな
0256ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/01/30(月) 23:12:56.67ID:9XP+5UAl
参加する
いつでも参戦可能
0257創る名無しに見る名無し2017/01/30(月) 23:29:07.10ID:ljciiA5V
>>256
すぐ乱入して導入部分を書いて
みんな待ってるから
0258ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/01/31(火) 03:40:31.82ID:wqs1AmbY
>>257
ティターニア氏の旗振りで進行するものと認識している
0259ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/01/31(火) 06:56:06.24ID:d9lffD0G
【ノーキン殿お疲れ様だ。心配せずとも参加の意思があるのは分かっておるぞ!
出来るだけ早く登場してもらえるよう努力するのでもう少々だけお待ちを。
我々が進行について話し合う時はコテ付きで行うゆえ名無しでの司会には返答しないで貰って大丈夫だ】
0260ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/01(水) 20:33:51.96ID:LHDFEK+F
一行を行かせまいとするフェンリルを、優しく制止するテッラ。
灼熱都市にて勝負が決して尚立ち上がろうとしていたベヒモスと、それをもういいと制したイグニスの姿が重なる。

>「……行け。指環の、勇者達よ」

「そういう……ことか」

今までの旅の詳しい経緯は知らぬラテも、フェンリルとテッラの様子から何かを察しているようだった。
きっと指環を勇者に託した竜は、死ぬことで全ての力を指環に委譲し、そうしてはじめて指環が完成することとなるのだ。
竜に止めを刺すその役目を担ったのは、炎の指環の時も水の指環の時もジュリアンであった。
そして奇しくも、今回もまた――
彼はヴォルカナでは指環を容赦なく奪っていったが、ステラマリスでは
どこか本気を出していないような攻防の末に結果的にこちらに指環を持ち去る事を許した。
そう、今思えばまるでこちらを試していたかのような……
そして今回は、自分達とかち合うことすらなくテッラにとどめを刺しにこようとしている。
あやつは本当にアルバート殿の言っていたような悪人なのか、と微かにそんな考えが浮かんでくるが
考えても詮無きことか、とひとまず考えるのをやめた。

>「……帰ったら、色々教えて下さいよ。指環の事」
>「全部教えてやるよ、こうなりゃ指環全部集めるまで終わるつもりはねえからな」

「うむ、ここまで関わってしまったら今更降りるわけにもいくまい。ようこそ――”指環の勇者御一行”へ。
御一行といっても二人ではイマイチ体裁が整わなかったが……これでやっとそれらしくなろうぞ」

そう言って微笑む。ラテを正式に仲間に迎え入れることに、今更迷うべくもなかった。
緩みかけた空気を引き締めるかのように、最後にフェンリルの言葉が響いてきた。

>「……その指環を、我らから、我が許から、持ち去ろうと言うのだ。もし下らぬ結末を迎えてみろ」
>「この世界の何処にいても、その心の臓に、この牙、食い込ませてくれるぞ」

「やれやれ、随分と物騒なことだ――ではそうならぬように頑張らねば、な」

最初は帝国騎士にノリで同行という形で始まった旅だが、気付けば随分と色々な人物の期待や激励や脅迫や願いを背負ってしまった。
テッラ殿、フェンリル殿――そなたらが幾星霜の時守ってきた指環、しかと預かった。
タイザン殿――巻き込んだ上におめおめ死なせてしまい済まなかった。姉妹のことは心配するな。
ミライユ殿――救えなかったのは我の力不足ゆえ。せめて安らかに眠れ。仇は必ず討つ――

【皆第三話お疲れ様であった! 守護聖獣と竜のコンビは出番は少ないものの隠れた人気コンビポジションになりそうな雰囲気が急上昇してきた件】
0261ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/01(水) 20:45:12.47ID:LHDFEK+F
第三話『惨劇の楽園《アガルタ》』(1スレ目278〜2スレ目260)

テッラの元に急げとのアクアの言葉に従い、目的地をハイランド連邦共和国領のテッラ洞窟に定めたジャンとティターニアは
洞窟の近くにあり探索の拠点となる都市、魔術学園都市アスガルドにやってきた。
街中を歩いていると、突如として通常より強いオオネズミの一団が現れ、人々を襲い始めた。
近頃テッラ洞窟から魔力の影響を受けた強いモンスターが出てくるようになっていたのだった。
掃討に入ろうとする二人だったが、そうするまでもなく、オオネズミ達は二人の女性によって一掃される。
ハイランドの主府ソルタレクの冒険者ギルドのマネージャー、ミライユと
テッラ洞窟探索のためにアスガルドを訪れていたトレジャーハンターのラテだ。
ミライユは表向き友好的に二人に接近するが、本当の目的はティターニアの監視、ひいては指環の奪取であり
その場面に遭遇したラテはミライユの危険性を感知し、二人の身を案じて同行を申し出るのであった。
こうして行動を共にすることになった4人は、ミライユの払いで高級宿に泊まることとなり
互いに警戒しつつもそれなりに楽しい一晩を過ごすのであった。
次の日、洞窟に向かう一行だったが、この先に指環があると予感したミライユは増援を呼び、
ギルド員のタイザン・シュマリ・ホロカも合流する。
洞窟を進んでいった先には謎の魔法陣があり、どうしたものかと思案していたところ大きな揺れとともに魔法陣の力が発動。
一行は地底都市アガルタに招き入れられたのであった。
そこでは、ジャンとティターニアに指環を託そうとする大地の竜テッラと
それに反対するアガルタの守護聖獣フェンリルが激しい戦いを繰り広げていた。
フェンリルは突然ミライユに歩み寄ると、ミライユのような者が指環を託すにふさわしいとして力が欲しくないかと問う。
しかしミライユはシュマリにその役目を命じ、シュマリはフェンリルと同化してテッラと戦い始めた。
テッラがジャンとティターニアに指環を与えると言った後に指環の祭壇を出現させると、
ミライユがいちはやく指環を手にし持ち去ろうとする。
ラテがそれを阻止すると、ミライユは冷酷で残虐な本性を現し、自らの権力を振りかざして同士討ちをさせようとしたり
実際にティターニアの魔術を使ってジャンを拘束したりとあらゆる手段を使って応戦。
更に、自らに逆らったタイザンを殺害し、ホロカを蹂躙する。
また、戦いの中でミライユからユグドラシア襲撃の計画も語られるのであった。
そんな中、ラテはジャンとティターニアを鼓舞し、魔物の血により自らの強化をした上に
何重にもレンジャーとしての技を使い、ミライユに斬りかかる。
一方、怒りのあまり理性を失っていたジャンは、持っていた水の指環を嵌めるという行動に出たが
精神世界での水竜アクアとの対話の末に、理性を取り戻す。
そして水の指環を制御できる力を得て、その力で作り出した水の魔力の大剣を持って、ミライユに対峙するのであった。
そんな中、ティターニアは、ホロカからミライユを救ってほしいとの驚くべき要請を受ける。
精霊使いであり精霊と対話できるホロカは、ミライユが今のようになった理由が彼女の過去にあると見抜いたのだ。
ティターニアはそれに応える形で、ホロカの助力を受けて、
過去と現在が入り混じり死者と対話できる、精神世界のような領域を顕現する大魔術を発動。
その中で、幼いころに“指環の魔女”に殺された姉のメルセデスと邂逅し、自らの罪を自覚したミライユは泣き崩れるのであった。
そんな彼女に先程までの鬼気迫る気迫は見る影もなく、精神的には生きる気力を失い肉体的にもすでに重傷で助からないと見立てたラテは
せめてこれ以上苦しませまいと、メルセデスの幻を纏ってミライユに安楽死の薬を飲ませたのであった。
タイザンとミライユを埋葬し、一通り遺跡からめぼしい物を採取し終えた一行に、
テッラは”指環の魔女”が真の敵であるという意味合いの事を語り始めるが
詳細を語る間も無く、ウェントゥスの元へ行けとだけ言って、一行を送り出すべく転移魔術を発動する。
ジュリアンが近くまで来ているというのだ――おそらくはテッラにとどめを刺すために。
テッラに死んで欲しくは無いフェンリルは最後まで一行を行かせまいとするものの、
テッラに諭され最終的には一行に指環を託し送り出すのであった。
0262ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/01(水) 23:54:40.69ID:LHDFEK+F
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. 第3.5話(or第4話)開始.。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

地底都市での激戦から数日後―― 一行はティターニアの紹介による賓客としてユグドラシアに滞在していた。
激戦での消耗はほぼ癒え、上層部にこれまでの経緯を報告したり、シュマリとホロカを精霊術の導師に頼んだり
ラテに一連のことを話して聞かせたりを終え、多少手持無沙汰となっていた。
さっさとウェントスのところに向かえよ、とフェンリルあたりから怒られそうだが、これには理由がある。
地名を頼りに次の目的地として目星を付けた場所は、ウェントゥス大平原――暗黒大陸に存在する”らしい”平原である。
何故存在する”らしい”かというと、周囲全てを切り立った崖のような大変高い山脈に囲まれており、誰も足を踏み入れる事が出来ないのだ。
そう、空でも飛ばない限りは。詰んだ――かと一瞬思われたが、渡りに船とはこのこと。
魔術工学研究室を中心に極秘に開発していた空を飛ぶ船のようなもの――”飛空艇”なるものが帝国に先駆けてもうすぐ完成するというのだ。
そんな話を聞いた事も無かったティターニアはいくらなんでも極秘過ぎるだろう、とも思うが
ユグドラシアの校風から言って、同僚導師に言ったら「ここだけの話」でまず生徒に伝わり
そうなったら一巻の終わりで際限なく広まり、やがては敵国にまで伝わってしまう事は想像に難くない。
空を飛ぶ船など俄かには信じがたいが――
そもそも何故誰も足を踏み入れる事が出来ないのにそこに平原があるらしいという事が伝わっているという事が
大昔には実際に飛空艇が飛び交う時代が実在したということを示唆しているのだろう。
(ちなみにこの世界には有翼の種族も存在するが、流石にその山脈を越えるほど高くは飛べないらしい)
というわけで飛空艇の完成を待っていればいいのだが、一つ気になるのは、激戦の最中にミライユが語った言葉である。

『アハハハッ、ご名答。あなた方はどうせ死ぬのだから言ってあげます……ソルタレクのギルドでは指環を集めているのですよ。
既に"その中のひとつ"はこちらの手の内にあります。マスターは新しい国を作るために、新しい力が必要なんです。
そして、相思相愛の私の愛情も不可欠なの。そもそも、腐った国と腐った人間は潰すしかないじゃない?
ユグドラシアにもギルドの手の者が組織ごと潰しに行くはず。暗殺者ギルドも併合されてますから、きっと今頃は……』

「きっと今頃は……」と言われた割には帰った時も今の時点に至っても何事もないので
ハッタリや苦し紛れの出まかせの可能性も十二分にあるのだが、警戒しておくに越したことはないので一応上層部には報告しておいた。
0263ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/01(水) 23:56:29.08ID:LHDFEK+F
そんな理由で徒然なる日々を送っていたところ、「ティタ先生、新しい冊子を作ったので見てください」と、
顧問をしているサークルの学生が自主制作の冊子を持ってきた。

「ジャン殿ラテ殿も見てみるか? なかなか面白いぞ」

今回の目玉は、魔法が使えないエルフの宮廷武官がバッタバッタと敵を打ち倒していく痛快活劇であり、
主人公は随分な美形……いわゆるイケメンに描かれていた。
それは別に不自然なことではなくエルフなのだから普通に考えるとそうなのだが。
ティターニアはすぐに元ネタとなったであろう人物に思い至り、
そういえばいつだったか宮廷武官をやめたと風の噂に聞いたが今頃何しておるかの、等と思う。
ところで、高い魔力を持つエルフは生まれながらの魔術師――
母国語を文法を習わずとも喋りはじめるように、自然と簡単な魔術なら使えるようになる。
(もちろん高位の魔術を習得しようと思うと理論的に学ぶ事が必要である)
何故か本当にごく稀に、魔術を使えないエルフが生まれるのだが、そのような人物はほとんどの場合森で静かに過ごすこととなる。
しかし、彼はそれを良しとせず、肉体を極限まで鍛えて宮廷武官にまで出世したのであった。
そんな感じで呑気に冊子を見たりしている最中であった。

「ティターニア様、大変大変!」

ホビットで助手のパックが騒がしく駆け込んできた。

「なんだ、騒々しい。そなたの悪戯にはもう騙されぬぞ」

「魔術師ギルドから情報が入ったらしくて……主府の冒険者ギルドの一団がここを襲撃しに向かってるらしい!」

「出まかせではなかったのか……!」

魔術師ギルドから情報が入ったということは、どうやら傘下にしようとしてし損ねたものと思われる。
ユグドラシアと魔術師ギルドは表向きは全く別の組織だが裏で就職を斡旋したりと様々な癒着…
もとい密接な友好関係があるので、流石に襲撃に参加させるのは無理というものである。

「襲撃の編成等の情報は入っておるのか?」
「質より量のコモンクラスの集団らしい」
「コモンクラスの冒険者など束になって来ようとも我々の敵ではあるまい。率いている者が何者かは分かるか?」
「それが……適当に臨時で雇われたフンドシ一丁とゴスロリの二人組のモグリの冒険者だと……」

「……。ギルド員ですらないと。ソルタレクの冒険者ギルドは一体何を考えておるのだ……?」

ただ舐められているだけなら何も問題はないのだが。
あまりにもアホらし過ぎて、実はそのフリーの冒険者が超強いとかいうパターンを勘ぐってしまう。
万が一まかり間違えて完成間近の飛空艇をぶっ壊されたりしては目も当てられない。
戦える導師や助手(この学園の導師は魔術は漏れなく使えるのでつまり全員)は総員戦闘態勢に入って防衛にあたれとのお達し。

「仕方があるまい、ジャン殿、ラテ殿、付き合ってくれるか?」
0264ティターニアin時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc 2017/02/02(木) 00:19:00.30ID:DPQixAXK
とりあえずバトルが出来るように状況設定してみた。
雑魚の集団はその辺でドンパチやってます的な背景設定程度の扱いでいいと思う!
3.5章or4章にしているのはシンプルなバトル章(3.5章)になってもいいし
思わぬ方向に発展して4章になってもいいしということで

>ノーキン&ケイジィ殿
お待たせした! 導入をよろしく頼む!
勝手に色々設定してしまったが要は襲撃に来てくれれば何でも良いゆえ変換受け遠慮無用だ!

それと現在3人パーティーなのでまだまだ参加者募集中!
シュマリ殿やホロカ殿を使ってもらってもいいし今回の章は学園関係者等での短期参加もしやすいと思う。
(今章はノーキン&ケイジィ殿に敵をやってもらうので参加は味方側でタノム!)
0265パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/02(木) 23:17:20.22ID:zo2xLeN/
【新キャラとして参加】


ヴィルトリア帝国、ダーマ魔法王国等、数多くの国々が発祥するはるか昔、
この世界は「エーテリアル世界」と呼ばれていたという――

そこは国境がなく、全ての世界はエーテルの力によって統一され、
争いもなく全ての生きる者たちが、思うがままに生活をしていたと言われている。
それを“理想世界”と彼らは呼んだ。

――「エーテル教団」――
現在、単に「教会」「教団」と呼ばれればこれのことを指すだろう。

エーテル教団は数百年前に各国の連合討伐隊によって壊滅させられたが、
昨今の世界情勢の中で、徐々に力を付けつつある。
各地で魔物を放しているとか、秘宝を探しているとか。“魔女”がいるとか――
様々な噂が飛び交っている。

「エーテリアル世界の復活」――
それを目標に掲げる彼らは、各地で徐々に布教を行い軍事力を蓄え、ついには各国を脅かすほどの存在になっていった。
あらゆる国にエーテル教団の教会支部が設立され、表面上は穏やかな信仰を謳っているが、内部事情は深い闇に閉ざされている。


パトリエーゼ・シュレディンガー。
彼女はヴィルトリア帝国内のシュレディンガー家で、三人姉妹の三番目として生まれた。

一番上の姉はメアリ・シュレディンガー。現在はヴィルトリア帝国にある「エーテル教団」の幹部の一人――
その信仰心と魔力は非常に高く、常に黒衣の部下たちを引き連れており近寄り難い人物だ。

すぐ上の兄はアドルフ・シュレディンガー。現在はヴィルトリア帝国の七騎士の一人――
「黒犬騎士アドルフ」と呼ばれ、名のとおり素行は七騎士でも最も悪く、やはり近寄り難い人物だ。

一人だけ歳の離れた末っ子のパトリエーゼ・シュレディンガーは、大切に育てられ、初めは教団に預けられた。
しかし、教団の厳しい“規律”を守ることができず、脱走。
そこからは騎士団に仕えるも上手くいかず、国外に退去し、ハイランド連邦で冒険者として雇われるも、
今度はギルドの内部抗争で殺害されそうになる。

――そしてすっかり疑心暗鬼に陥ったパトリエーゼは、ティターニアたちの前に現れることとなった。
0266パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/02(木) 23:29:06.99ID:zo2xLeN/
名前:パトリエーゼ・シュレディンガー
年齢:19
性別:女
身長:186
体重:78
スリーサイズ:長身だが体格はしっかりしている
種族:人間
職業:無職
性格:極めて疑心暗鬼で根暗
能力:「エーテル」の力による無属性魔法が使える。地味に力が強い。
武器:錫杖「白夜のページェント」
防具:灰色のローブに灰色のストールと地味な服装
所持品:持ち金0、少しの食料
容姿の特徴・風貌:長いストレート黒髪でボサボサである
簡単なキャラ解説:
エーテル教団の姉、黒犬騎士の兄と反りが会わず疎ましく思われ、
さらに冒険者ギルドからも殺されかけて疑心暗鬼になっている地味な末っ子。
世界のあらゆるものに疑いを求め、新たな救いを求めている。
優秀な姉や兄を見て育っており、華がないことを気にしている。
0267パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/02(木) 23:40:56.25ID:zo2xLeN/
「ゆぐどらしあ…?」

ここはどこだろう? それにしてもどうやってここまで辿りついたのか。
少しだけあった食料も尽き、あたしはもう腹ぺこだ。

冒険者ギルドからは騙されて変な女に殺されかけるわで、命からがら逃げてきたというのに。

運もよく、どうやらここは話が分かりそうな人たちが揃っているらしい。
どこかの学校? 教団とは違う、研究施設のようだ。

「ねえ、ちょっとそこの方、このあたりに食料の配給は…」

「うわっ!」

学生らしい少年に驚かれ、逃げられた。
下手に体格が良いから、あたしはどうしても避けられることが多いんだ。

そうこうしている間に、どこかの建物に入った。
周りもあたしもローブに杖の姿だから不思議じゃない。開放的な場所みたいだ。

>「襲撃の編成等の情報は入っておるのか?」
「質より量のコモンクラスの集団らしい」
「コモンクラスの冒険者など束になって来ようとも我々の敵ではあるまい。率いている者が何者かは分かるか?」
「それが……適当に臨時で雇われたフンドシ一丁とゴスロリの二人組のモグリの冒険者だと……」
「……。ギルド員ですらないと。ソルタレクの冒険者ギルドは一体何を考えておるのだ……?」
「仕方があるまい、ジャン殿、ラテ殿、付き合ってくれるか?」

「ひっ! ソルタレク、ギルドぉ……」

うわぁ。つい嫌ぁな単語に反応してしまった。

中にいた研究者らしいエルフと、その助手らしい少年、
他に冒険者らしい大男と人間の女が一斉に振り向いた。

「あっ、いやいや、怪しい者ではないんですぅ、その、食事を少々恵んでもらえれば。
いや本当に、お腹が空いて死にそうなんです。お金もないし。…何でもしますから!
名前はパト、パトリーヌ。とりあえず。ところで冒険者ギルドの人達ではないですよ…ね?」

と、言いながらいつでも逃げられるようにあたしは一歩後ずさった。


【よろしくお願いします。即参加でも、もし都合が悪ければ飛ばしちゃってもいいです。】
0268ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/02(木) 23:52:41.07ID:DPQixAXK
【ようこそ、歓迎するぞ!
では折角なので前章の順番を元にラテ殿→ジャン殿→我→パトリエーゼ殿という感じで開始しよう!
ノーキン殿は遭遇した時点で上のローテーションのどこかに入る感じで!】
0269 ◆ejIZLl01yY 2017/02/03(金) 23:47:53.81ID:idk0E4bQ
「十二、十三、十四……」

あの古代都市への短い冒険が終わって数日。
私はこないだ放火騒ぎを起こし……放火騒ぎが起きてた宿屋の屋上にいた。
いや違います。放火魔が現場に戻ってきた訳じゃないです。
トレーニングをしにきたんですぅー。

今はティターニアさんの計らいでユグドラシアに泊めてもらっているけど、
走り込みとかはあそこじゃちょっとやりにくいんだよね。

で、今は逆立ち腕立て二十回セットの五回目なんだけど……。

「十八、十九……二十」

……出来ちゃったよ。しかもまだまだ余裕がある。
これは……と、私は振り返って、通りを挟んで向こう側の建物を見た。
高さは、少し向こうが低いけど、大体同じくらい。

この辺は安い宿や食堂が建ち並ぶ通りで、道は狭め……だけどそれでも馬二等分くらいの道幅はある。

私は今いる屋上の、真ん中に立った。
そして……向かいの建物めがけて走り出す。
何の為って?そりゃ、飛ぶ為に。

床を一蹴りする度に、体がぐんと加速する。
だけどまだまだだ。もっと速く走れる。もっと、もっと、もっと速く!

「っ、ふっ……!」

そして屋上の縁を思いっきり蹴っ飛ばして、私は跳んだ。
落ちれば大怪我間違いなし……極限の緊張感が、私の時間感覚を少しだけゆっくりにする。
通りで朝の掃除をしている宿屋のおじさんと、目が合った。

っと、いけない。よそ見をしてる場合じゃない。
私はめいっぱいに腕を伸ばし……うん、届く。

屋上の縁に、指を引っ掛ける。
体が壁にびたーんって叩き付けられるけど、こういう時の受け身の取り方は訓練済み。
足の裏でしっかり衝撃を受け止め、全身の関節を使ってそれを緩和。
そのまま壁を蹴りつつ体を引っぱり上げて、屋上に登りきった。

「……届いちゃったかぁ、この距離」

さっきまでいた屋上を振り返って、呟く。
熟練のレンジャーならわりとぴょーんと渡っちゃう距離なんだけどね。
少なくともちょっと前までの私なら、背伸びしても届かなかった距離。
それが届いちゃったのは、きっと、日頃の訓練の成果……だけじゃない。

ミライユさんとの戦いで使った、私の奥の手。
あれのせいでまた少し、私の体は魔物に近づいちゃったんだと思う。

「……やっぱり、使い続けたらとんでもない事になるよなぁ、アレ」

具体的には顔だけネズミの怪人ネズミ女になっちゃいかねない。絶対嫌だ。
でも使わざるを得なかったんだよなぁ。

だって私みたいな村娘Aがいきなり伝説の指環を巡る戦いに放り込まれたんだよ!?
普通に戦ってたら間違いなく死んでたんだもん!
0270 ◆ejIZLl01yY 2017/02/03(金) 23:49:09.64ID:idk0E4bQ
え?余計な事に首を突っ込むな?はい、ごもっともです……。
けどもう手遅れ……ではないんだけど。
正直、今からでもジャンさん達に人間やめるの怖いし降ります、って言う事は出来る。
出来るんだけど……あれ、出来ちゃうじゃん。

……私がジャンさん達に近づいたのは、元はと言えばミライユさんが原因だ。
放っておけば、二人がミライユさんに殺されちゃうのではと思って、私は声をかけた。
でもその脅威はもう去ったし……お二人は、私よりずっと強かった。

……あれ?私、なんでジャンさんティターニアさんに付いていこうと思ったんだろ。

ミライユさんや、あの古代都市で出会った皆の事を忘れない為?
いや、指環を巡る旅に同行しなくたって忘れない事は出来る。

トレジャーハンターとして、指環のロマンには逆らえない?
うーん……確かにすっごい魅力的だし心惹かれるけど……。
人間やめて、命投げ打って……そんなリスクを冒す事ばかりが冒険じゃない。

いやね、私の冒険の書をちょっと読み返してもらえば分かると思う。

基本的に旅先で見た魔法やアイテム、魔物やダンジョンについて雑学や雑感を述べてるだけでしょ。
ここ数日で、ミライユさんと事を構えるまで、倒した魔物なんて多少強くなってたとは言えオオネズミだけ。

いざまともな戦闘が始まったら
「絶対見切られたりしないっ!」
って言った直後にミライユさんに【ファントム】を見切られて反撃をもらう始末。

そう!そもそも私は切った張ったとは遠い位置にいる冒険者だったの!
散々書き散らかしてる余白の雑感コーナーとか、正直入れ替えたいもん。戦闘とかなんやかんやと。
余白で戦って後はひたすら解説でもしていたい……。

でも……今までもダンジョン内の魔物や罠が原因で死ぬかと思う事はあったよなぁ。
あの奥の手も、別に使ったのは初めてじゃない。
旅に同行しなくても皆を忘れない事は出来るけど、逆に付いていったら忘れちゃうって訳でもない。

うーん、うーん、と考え込んで……ふと、気が付いた。
私は、ジャンさん達に付いていく理由を探して悩んでるんじゃない。
ジャンさん達に付いていかない理由を探して、悩んでるんだ。

ついこないだまでの私なら、カッコよさとか、ロマンとか、
それだけで後は何も考えず、二人に付いていってたはずだ。

だけど……あの古代都市で、私は人を殺した。
ミライユさんを、殺したんだ。

人の死を見るのが初めてだった訳じゃない。
トレジャーハンターをしていれば、選択を誤った人達の亡骸は何度も目にする事になる。
時には、その瞬間だって。

だけど……自分の手で誰かの命を奪うのは、今まで見てきたそれらとは全然違った。
もっと、もっと、恐ろしいものだった。

指環を巡る冒険に乗れば……きっとまた、人を殺す時が来る。
私は……それが怖いんだ。

手が、震えてる。

「……今からやっぱり降りるって言ったら、怒られるかな」

気が付けば、私はそう呟いていた。
0271 ◆ejIZLl01yY 2017/02/03(金) 23:50:07.97ID:idk0E4bQ
 


……それから私は、暗くぼんやりした気分で、ユグドラシアに帰ってきた。
ティターニアさん達は……この時間なら、研究室かな。
研究室を訪れると、ティターニアさんは何やら薄めの冊子を読んでいた。

「あ……あの、ティターニアさん」

>「ジャン殿ラテ殿も見てみるか? なかなか面白いぞ」

「え?あ、あぁ……絵物語ですか?じゃあ、お言葉に甘えて……」

……出鼻を挫かれてしまった。
えっと、とりあえず受け取っちゃったからには読んでみよう……あ、これ面白い。

エルフの戦闘者って聞くと、大抵の人はまず魔法使いを連想すると思う。
そして次に弓使いや、流麗な技を扱う剣士とか、かな?

でも彼らの適性はあくまでも魔法一辺倒。
全体的に器用ではあるけど、別に剣や弓をあえて使うほどの種族的素質はないんだよね。

ただ魔法ばかりに頼っていては、他種族との戦いで対策を取られた時、
それがそのまま絶滅の危機に繋がりかねない。
だからやむを得ず、剣や弓の技術も磨いてきたってだけ。

でも、やむを得ず使われてきたから優れていない……って訳じゃない。
むしろ逆。やむを得ず使わなきゃならないからこそ、その技は研鑽され続けてきた。

森に生きる彼らが特に得意とする風や水の魔法。
それらを用いた身体操作や技の数々は、冴え渡るという表現がまさしく相応しい。

私も一度エルフの剣士さんとご一緒した事があったんだけど、いやホント見事なもんだったよ。
水の力を身に宿して繰り出される流れるような動きは、剣技の「起こり」が感じ取れないの。
遠目から見てる私ですら、気が付いたら魔物が斬り伏せられていた、って感じだったもん。

……でも、それらはあくまで魔法を剣技に流用しているからこその代物。
この絵物語の主人公であるエルフさんは違う。

「……面白かったです」

生まれながらにして一切の魔法が使えないエルフが、肉体を極限まで鍛え上げ、連邦の宮廷武官にまで上り詰める。
しかもそれが、実在した人物の話だって言うんだから……私みたいな小娘にはもう、感服するしかない。
もし、この人が今の私を見て、この心の内を明かしたのなら……なんて思うんだろう。
いや……詮無い事を考えるのはやめよう。

「ティターニアさん……あの、指環の勇者御一行の、話なんですけど」

>「ティターニア様、大変大変!」

……うぅ、また何か邪魔が入ってしまった。
言い出すのが遅くなれば遅くなるほど気まずくなるし、困ったなぁ……。

>「魔術師ギルドから情報が入ったらしくて……主府の冒険者ギルドの一団がここを襲撃しに向かってるらしい!」

私は思わず、後ろを振り返った。
ホビットの助手さんは慌てて走ってきたのか息も絶え絶え。顔色は蒼白だ。
どう見たって嘘をついている様子じゃない。

……ミライユさんの言葉は、嘘じゃなかったのか。
0272 ◆ejIZLl01yY 2017/02/03(金) 23:50:34.09ID:idk0E4bQ
私はティターニアさんへは向き直らず、そのまま助手さんの更に奥を見た。
研究室の扉の外。私がさっき、ぼんやりと通ってきた道のり。

アスガルドの発展を導いてきた導師様方。
これから先を作り上げていく大勢の学生達。
彼らとすれ違った廊下を。

そして……アスガルドそのものと言ってもいい、この都市に住まう人達。
高度な魔法技術と、それが見せてくれる夢を求めて集まった商人や冒険者達。
彼らが築く、賑やかな街並みを。

……指環を巡る戦いの中では、きっとまた、人を殺す時が来る。
それは、私じゃなくてもそう。
私じゃない誰かが、人を殺すんだ。

舞台から降りてしまえば、その時……私はそこに居合わせられない。
いや、違う。

>「仕方があるまい、ジャン殿、ラテ殿、付き合ってくれるか?」

冒険をやめてしまえば、今この瞬間、この場に居合わせる権利だってない。

今回は大勢死にそうだから手を貸して、後はさよならなんて……そんなのは傲慢で、無責任だ。カッコ悪過ぎる。
覚悟を決めろ、私。
そう自分に言い聞かせて……私は思いっきり、自分の両頬を引っ叩いた。

「……新生指環の勇者御一行の、初クエストって訳ですね。やってやりますよ」

私はティターニアさんへ向き直って、会心の笑みを見せつけた。

さて……じゃあ早速、情報を整理しよう。
向こうは首府から大軍を引き連れてアスガルドへ向かってきている。
となれば到着にはまだ数日かかるはず。守りを固める時間は十分。
その殆どはコモンクラス。率いているのはギルドメンバーですらないモグリ二人。

ティターニアさんがなんかすごい微妙そうな顔をしている……。
うん、正直私も気合入れて思っきしほっぺ叩いてちょっと後悔してる。
……とは言え、相手を舐めていい事なんかない。仮にも相手はソルタレクの冒険者ギルドなんだ。

「……ミライユさんの言葉を全て信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは」

>「ひっ! ソルタレク、ギルドぉ……」

……なんかすごく情けない感じの声が聞こえた。
振り向いてみると、うわ、でっかい女の人。
ゆったりしたローブと、持ってる杖が物差し代わりになって、ものすごく大きく見える。

でもなんか、意識朦朧というか……ふらふらしてる。
その場から一歩も動いてないのにまっすぐ立ててないし。
学生さん?……じゃなさそうかな。ローブも結構汚れてるし、行き倒れ寸前の冒険者とか?

この人こんな調子でここまで入ってきたの?
いや、まぁ、これだけ大きい人が虚ろな感じで歩き回ってたら私もまず導師様を呼びに行くかも。
0273 ◆ejIZLl01yY 2017/02/03(金) 23:51:37.21ID:idk0E4bQ
>「あ、いやいや、怪しい者ではないんですぅ、その、食事を少々恵んでもらえれば

うーん、残念ながらものすごく怪しいです。
ていうかこっそり逃げ出す準備をしている辺り、自覚があるんだろう。
ふらふらしてるのが演技とは思えないし食べ物をあげるのは構わないんだけど、変に疑られても面倒。
なので、

「お食事が欲しいなら、部屋から離れてどうするんです?」

はい、毎度おなじみの【スニーク】アンド【ファントム】で背後に回らせて頂きました。
そのままふらっふらの背中を押して、研究室の中へ。

「はいはい、とりあえず壁に体預けて、座って。ふらふらじゃないですか」

体格差はかなりあるけど、どうやらご飯が必要なのは本当のようで、簡単に座らせる事が出来た。

よし、それじゃあ腰の宝箱をがさごそ、と。
テッラ洞窟の探索用に買い込んで、結局食べずじまいの保存食が残ってるんだよね。
でも長い間ご飯を食べてないなら……あんまり硬い物はよくないよなぁ。
なら……うーん、これだ。

干しスライムのベーコンと野菜詰めコンソメ風味。

どういう料理かって言うと、名前のまんま。
瀕死にして消化能力を失ったスライムにベーコンと野菜と濃縮したコンソメを無理矢理詰め込んで、そのまま日光や火の魔法で乾燥させた物。
作り方はえげつないけど、これは保存食として優秀なんだよね。

宝箱から小さな鍋、それと低レアリティのファイアソードを取り出す。
この剣、戦闘に使うには火力が無さすぎるんだけど、鍋で料理を温めるくらいは出来る。
床に直置きする訳にもいかないから、今回は口を開けた宝箱の上で固定。零したら悲惨な事になる……。

鍋に入れて熱した事でスライムが溶けて、そのままスープ状になる。
スライムって生命を宿した液体じゃん。つまり栄養抜群なんだよね、彼ら。具材を変えれば飽きも来ない。
その上作るのも簡単で、ダンジョンに保存食として持ち込める温かいスープは、レンジャーの間では結構人気。

鍋のまま渡す訳にもいかないので、追加で取り出したマグカップに注いで……あとビスケットも付けちゃおう。
肉に野菜に穀物、水分……うん、栄養バランスは完璧!

「落ち着いて、ゆっくり食べて下さいね」

それで、えーと……何の話をしてたんだっけ。
……あぁ、戦争が始まるんでしたね。またしばらく余白に落書きする暇も無くなりそう。いやだー。

「話を戻しますね。ミライユさんの言葉を信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは、アサシンギルドを併合してます。
 ……ま、どうせ少しばかしレンジャーの技術を齧っただけの、ちゃちな殺し屋集団でしょうけどね」

前にも書いた気がするけど、アサシンってのは元々は神に仕え平和の為に戦う戦士達だったんだ。
今じゃ金をもらって人を殺せばアサシンみたいな認識になってるけど、そんなんじゃあないんですよ!
私は常々思ってますよ。いつか冒険者として有名になって、何の信念もない人殺しはアサシンじゃありませんって世の人々に言ってやりたいと!
0274 ◆ejIZLl01yY 2017/02/03(金) 23:53:31.43ID:idk0E4bQ
……と、閑話休題。

「つまり……もしかしたら、既に刺客はアスガルドに到着して、潜んでいるのかも。
 本隊が到着して都市を包囲したら、中で騒ぎを起こして、侵攻のきっかけを作る。
 私が作戦を練るなら、そうします」

アスガルドは、ユグドラシアで扱われる魔法技術や知識の危険性から、結構強固な外壁がある。
だけどそれも、外壁の上に立って攻撃を行う者がいなければただの飾りだ。
意識が完全に外敵に向いていれば……例えユグドラシアの導師であろうと、暗殺は不可能じゃない。

他にも井戸に毒を入れたり、風説の流布を行ったり……。

「まぁ、刺客がいるかもしれないと思っていれば、ここの導師様方なら遅れは取らないでしょう。
 ホロカちゃんが早速活躍出来るかもしれませんね。
 疲れを知らない精霊達を刺客の警戒に当てれば、外への攻撃に集中出来る。そう、外への攻撃です」

……ティターニアさんは、どういう反応をするだろうか。
外への攻撃……私は、した方がいいと思う。
正直アスガルドの防御と兵力を考えれば、籠城してるだけでも負けはないはず。
だけど……

「……一発、大きなのをぶちかましてやった方がいいと私は思います。
 何人か、為す術もなくやられれば、それが見せしめになる。
 相手の士気が落ちて、さっさと退却してくれるかもしれない。そうなれば、ソルタレク冒険者ギルドの面子を潰せる」

面子が潰れれば、支配力が失われる。人が離れていく。
次は兵力を用意するのが難しくなる。
後々の事を考えれば、敵にはそれなりの被害を受けてもらった方がいい。

これは、命を天秤にかける行為だ。
アスガルドの人達をより確実に助ける為に、ソルタレクの冒険者達に、死ぬかもしれない攻撃を仕掛ける。

「……もし、ここの導師様方が難色を示したら。いえ、示さなくても……攻撃は私が……あるいは私も、やります。
 私には手製の爆弾と、この【不銘】がある。尻尾巻いて逃げ出すまで、爆撃してやりますよ」

……だけど、私はそれが傲慢な事とは思わないぞ。思ってやるもんか。
人の命を奪いに、平和を壊しに来ているなら、向こうにだってそれ相応の覚悟があるはず。
もし覚悟も思慮もなしに、やってきているなら……それこそ、最低だ。

「それでも万が一の時の為、住人の皆さんにはユグドラシアに避難してもらった方がいいかもですね。
 可能なら土魔法が得意な魔術師を集めて、内壁を築いて街を幾つかの層に区切っておきたいですし。
 やれる事は、全部やりましょう。何をしてでも、人命だけは絶対に守り抜かないと」

こんな、顔も名前も知らない誰かの私欲が引き起こした戦いで奪われていい命なんて、ここにはないんだ。


【警戒さえしとけば暗殺者なんか怖くないよね!外壁の上からちょっと爆撃すれば皆ビビって帰りますよ!】
  
 
うぅ、もうすぐまた余白に落書きする暇もなくなるのに、今回は余白が少ない……つらい……かなしい……。
えっと、それじゃ今回は【二つのレンジャー】についてでも。
今回、私は結構あれこれ喋ってたけど、レンジャーって実は戦術についても勉強させられるんだよね。

何故なら……レンジャーって二つの意味があるんだよ。
一つは『徘徊者』。
これはアサシンやシーフ、トレジャーハンターとか、それら全てを包括するベースクラスとしての『レンジャー』だね

もう一つは……『猟兵』。戦場において遊撃や奇襲を任せられる、こっちは一つのクラスとしての『レンジャー』。
こっちは兵士としての性質が強い。つまり大抵の時勢、地域で仕事として機能するって事。
全ての『徘徊者』がまず『猟兵』の勉強をさせられるのは、それが一番食いっぱぐれな……あぁもう余白がない!くそう!ちくしょう!
0275 ◆ejIZLl01yY 2017/02/03(金) 23:54:01.35ID:idk0E4bQ
【パティさんよろしくお願いします!
 私は「なんでもする?じゃあ戦力に追加な!」とかいうキャラじゃないので浅めに絡ませて頂きました。
 なんかいい感じに恩に感じて下さい】
0276オークの集団 ◆ceap50eg.2 2017/02/04(土) 08:28:19.50ID:UPvCiZV/
それと時を同じくして、ユグドラシアにオークの集団現る!!

既にユグドラシア魔法学院内は「敵の斥候」の一人によって仕掛けが作られていた。
転送陣(いわゆるH×Hのノヴさんのアレみたいなやつ)が各地に張られ、「敵」は
まず残虐で屈強な破壊者を送り込んできた。

ヒュン・・・・・ヒューイ!

妙な音とともに徐々に具現化されたのは、身の丈2m以上はあろうかというオークの集団だった。
肉体は鍛え上げられており、三人の戦士と一人の魔術師の計四名で構成されている。「敵」の斥候部隊だ。
ほぼ全裸で緑色の皮膚を持つ彼らは「ただただ破壊しつくし、略奪しつくし、逃げろ」という命令に従い、まずは
近くにいた研修生の少女二人を襲った。

「おっ、女だゼ」「女、女、女〜♪」「もしかして俺らに≪ヤられたいんじゃないの〜♪≫」

少女は魔法で抵抗するも、その攻撃は効かず、屈強な肉体で一撃、一撃を受けると、あっという間に少女は倒れた。

「なんかハラがバチバチすんなァ」「なんか股間がムラムラすんなァ」「ひっ!!」

あっという間に少女たちは怪我を負って倒れると丸裸にされ、オークたちに犯されていった。
薄着なのは戦闘で獲物をすぐに犯すためでもある。ものの2分か3分の間に少女たちは汚物塗れになり全裸で地面に放置された。
生死は定かではないが、助かったとしてもはやまともな精神状態には戻れまい。

「はい、次、次!」

次に目を付けたのは入り口に「ティターニア!」と書かれた部屋だった。

「ティターニア!これ女の名前じゃねェノ〜♪」「いちいち叫ぶなってのうるせェ、一応任務だ静かにやんゾ」

部屋から出てきたホビットはあっという間に巨大な棍棒の餌食になり、頭蓋骨をパックリ割られて無残な死骸となった。
オークたちがティターニア!部屋へと入っていく。

中にはエルフの女が一人、他に女が二人、オーク風の男が一人。

「女、女、女〜♪」「おゥ!強盗ダァ!お前ら女は武器を捨てて壁に手を付けェ!モノ盗だァ、殺しやシネェ」
「ティターニア!っテェのは「天国」ミテェな意味カァ?」

オークたちの装備はそれぞれ棍棒、剣、巨大なボウガン、杖だ。

「聞こえネェのカ?壁に手をついてケツこっち向ケロ、できればパンツも脱いどケ。あ、そこの男はこっち来ナ」

オークの中の棍棒を持った一人は早速勝った気分で宝箱を物色し始める。勿論棍棒を持つその肉体に隙はほとんどない。
頭は悪いが盛況な連中が選ばれているのがよく分かる。

剣のオークは早速女の品定めか股間を触りながら三人の女たち(ティターニア、ラテ、パトリエーゼ)の全身を嘗め回すように眺め、
ボウガンのオークは四人に対して順番にボウガンを構える。
杖を持ったオーク(オークシャーマンか!)は全員に強化魔法をかけて部屋の扉を閉めるか?!と思ったら違った。
剣のオークと同じように股間を触りながら女たちを眺め、そして雷の攻撃魔法を遠慮なく一発、男であるジャンに対して放った。

「ヒャッハー! 女と財宝ヨコセ。命だけは助けてやル」

言っていることとやっていることが猛烈に違う。


(斥候の雑魚が乱入。適当に倒しちゃって、どうぞ)
0277ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/02/04(土) 16:08:37.32ID:5t5RArOu
地底都市での指環を巡る戦いから数日。
ジャンとラテはティターニアの紹介でユグドラシアに賓客として迎えられたが、
冒険者として長く過ごしてきたジャンにとっては、もてなされるという経験はどうにも慣れなかった。

せっかくなので、ジャンにもできるような頭を使わない仕事がないか探してみると
この学園にある大図書館の蔵書点検手伝いという仕事があった。
地底都市で拾った装飾品や宝石を売った金で新しく防具を買い揃え、少々財布が軽くなっていた
ジャンにとってこれはちょうどいい小銭稼ぎだ。

早速大図書館へと続く渡り廊下を渡っていると、ふと外の景色が目についた。
ユグドラシアを囲む街並みは活気に溢れ市場は人で賑わう中、何故かその上の風景に。
健全な発展と言える景色の中、ラテが建物の屋上で一人、トレーニングをしている。

飛び跳ねては建物の屋上から屋上に移り、空に浮くかのような軽やかな挙動はレンジャーというより軽業師のそれだ。

(あいつ、ここにいねえと思ったらあそこに……トレーニングにしちゃちょっと危ねえな)

迷いを振り切るようなその動きは、軽やかというより何かから逃げているような――そんな気がした。

そうしてそれぞれが己のやるべきことをやっていたある日、蔵書点検が終わって
暇になったジャンがティターニアの研究室で本を読んでいた。
「基本属性理論 第三章」と書かれたそれは新入生向けの入門書。指環を巡る戦いの中で
魔術を使う敵が多かったことを考えたジャンは、付け焼き刃とはいえ学ばないよりはマシだろうと思い
蔵書点検手伝いのついでに図書館で魔術の初歩的な勉強をしていた。
それがきっかけで一緒に点検をしていた学生とも知り合い、授業の課題で作ったというアミュレットをもらった。
特定の属性を吸収するというそのアミュレットは、ジャンの首にかけられ黄色の輝きを見せている。

(黄色なら雷の属性が引き寄せられ、吸収する。アミュレットの色が多ければ多いほど優秀な魔術師の証である……)
0278ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/02/04(土) 16:08:57.86ID:5t5RArOu
そう書かれた一文を見て、ふとティターニアを見る。
ジャンはハイランドで使われている文字はある程度読めるが、すらすらと読むことは難しい。
そのためややこしい言い回しや面倒な文法をところどころ見つけては、ティターニアに教えてもらっていた。

>「ジャン殿ラテ殿も見てみるか? なかなか面白いぞ」

視線が合った瞬間、ティターニアから冊子を渡された。
魔術が生まれつき使えないエルフが肉体を徹底的に鍛え、その筋肉であらゆる敵をなぎ倒すというストーリーだ。
中盤で主人公が故郷に帰り、森にある木を片っ端から粉砕して修業しているところを読んでいたところで、

>「ティターニア様、大変大変!」

ジャンは、読書の時間は終わったと直感で理解した。
二人の話を聞きながら研究室に置いてあった鉄の篭手と鉄兜を装備して、ミスリル・ハンマーを腰のベルトに留め具で固定。
聖短剣サクラメントが同じく留め具でベルトに固定された鉄鞘にあるかどうか確認し、いつでも戦える態勢となった。

>「仕方があるまい、ジャン殿、ラテ殿、付き合ってくれるか?」

>「……新生指環の勇者御一行の、初クエストって訳ですね。やってやりますよ」

「ソルタレクの連中業を煮やしたみてえだな、一つ決戦といこうじゃねえか」

暗殺と指環の強奪が失敗したと見るや、即座に次の手を仕掛けてくる辺り
ソルタレクの冒険者ギルドは失敗を前提に動いていたと見るのが正しいだろう。
つまり相手の準備が十分に整っているとみるべきだが、どうにも相手がおかしい。

率いている相手が臨時で雇われたモグリの冒険者二人組なのだ。
はて、これはどういうことだろうとジャンが考えていると、悲鳴にも似た声が聞こえた。

>「ひっ! ソルタレク、ギルドぉ……」

>「あっ、いやいや、怪しい者ではないんですぅ、その、食事を少々恵んでもらえれば。
いや本当に、お腹が空いて死にそうなんです。お金もないし。…何でもしますから!
名前はパト、パトリーヌ。とりあえず。ところで冒険者ギルドの人達ではないですよ…ね?」

手入れのしていない長い黒髪に、ジャンよりは低いが人間の女性にしては大きめな身長。
そしてそれを隠すような地味な服装。パッと見て学生か助手に見えたが、どうも様子がおかしい。

襲撃に巻き込まれて錯乱してしまったのだろうと思い、ラテに加えてジャンも食料を渡すことにした。

「ほれ、黒パンだ。さっき食堂からもらってきた」

といってもラテほど立派なものではないが、こういう時は食べることに集中させて落ち着かせた方がいい。
少々硬くなってはいるが、スープに浸せばまだ食べられるだろう。

>「話を戻しますね。ミライユさんの言葉を信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは、アサシンギルドを併合してます。
 ……ま、どうせ少しばかしレンジャーの技術を齧っただけの、ちゃちな殺し屋集団でしょうけどね」

「俺たちがにカルディアにいたときもそれっぽいのに襲われたな。もしかしたらあの時から狙われてたのか?」
0279ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/02/04(土) 16:09:21.54ID:5t5RArOu
それからしばらくラテの話を聞き、強烈な一撃を見舞って退かせた方がいいという結論になった。

>「……もし、ここの導師様方が難色を示したら。いえ、示さなくても……攻撃は私が……あるいは私も、やります。
 私には手製の爆弾と、この【不銘】がある。尻尾巻いて逃げ出すまで、爆撃してやりますよ」

「そう急ぐんじゃねえ。こういう時は大体勝つこと前提で動いてるもんだ、冒険者って奴はな。
 斥候やら暗殺者のことも気になるが、指揮官を捕まえて城壁にでも吊るしてやれば逃げるだろうよ」

地底都市での戦いから、ラテが戦闘の話になるとどうも様子がおかしい。
殺人を割り切ることができたと思っていたのだが、悩んだ末にまずい方向に動いてしまったのかもしれない。
ラテも落ち着かせる必要があるのかとジャンが考えた矢先、研究室のドアが乱暴に開かれた。

>「聞こえネェのカ?壁に手をついてケツこっち向ケロ、できればパンツも脱いどケ。あ、そこの男はこっち来ナ」

いかにも世間の噂通りといった風情のオーク四人がこちらへ向かって露骨に脅してくる。
おそらく今起きている襲撃と関係がある連中だろう、好き勝手に暴れさせて注意をそらすための囮だ。

>「ヒャッハー! 女と財宝ヨコセ。命だけは助けてやル」

「――黙ってろッ!」

留め具を外して引き抜いたミスリル・ハンマーを棍棒を持ったオークに思い切り叩きつけ、防ごうとした棍棒ごと頭をかち割った。
おそらく戦士階級でない、ただ生まれ持った力を振るうだけの連中はオークの中でも唾棄すべき存在だ。

頭をかち割ったオークを蹴り飛ばし、残った三人のオークにぶつける。
反撃として飛んできた電撃は、首にかけていたアミュレットが吸収してくれた。
だが、使い捨てかもしくは質が悪かったのか、吸収しきったアミュレットはあっさりと砕け散ってしまう。

(これをくれたあいつ、巻き込まれてなきゃいいんだけどよ……!)

剣を構えたオークと派手に打ち合う中、散っていくアミュレットの破片を見てジャンは一人奥歯を噛みしめ、さらに腕に力を込めた。
0280ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/04(土) 21:11:27.29ID:XGgG/LDW
学園での滞在中、ラテは街に出てはトレーニングに勤しみ、ジャンは図書館の手伝いをしたり研究室で勉強をしたりしていた。
ジャンにいつものように本の文章を教えていたところ、彼の首で光る物に気付く。

「おや、そのアミュレットは授業の課題のものではないか。貰ったのか、お主なかなか隅に置けぬな」

と軽口を叩いていると、ラテがどことなく思いつめたような様子で帰ってきた。

>「あ……あの、ティターニアさん」

ラテは地底都市での戦い以来、どこか様子がおかしい。
やはりミライユを救えなかったのが彼女の心に影を落としているのだろう、とティターニアは推察する。
ラテは元々トレジャーハンターで、人間相手にドンパチするような類の冒険者ではない。
自ら人を手にかけたのは初めてだったのだろう。
ミライユは本気でこちらを殺す気で向かってきていて、殺らなければ殺られていた。正当防衛だ。
そもそも、ラテはミライユがもう助からないと判断して介錯しただけで、
肉体的な大怪我を負わせたのはジャンで、精神的に引導を渡すことになったのはティターニアだ。
理論的にそなたは何も悪くないと根拠を述べて慰めることはいくらでもできる。
しかしそんなことはおそらくラテ自身も分かっている、それに感情が付いて来るかは別問題ということなのだろう。
故に、敢えて自分からは何も触れず、せめて気でも紛れれば、と一緒に絵物語を見ようと誘うティターニアであった。

>「ティターニアさん……あの、指環の勇者御一行の、話なんですけど」

ああ、やはり――と思う。
自分たちの旅に付いて来れば、また人を殺さなければならなくなる時がきっとある。
そこにまだ自分なりの落としどころを見つけられていないラテに、同行を無理強いは出来ない。
そう思いラテの次の言葉をじっと待っていたところに、襲撃の知らせが舞い込んできたのであった。

>「……新生指環の勇者御一行の、初クエストって訳ですね。やってやりますよ」
>「ソルタレクの連中業を煮やしたみてえだな、一つ決戦といこうじゃねえか」

おそらく指環の勇者一行を辞退しようとしていたラテは、しかしこの襲撃の知らせを前にして覚悟を決めたようで。
ティターニアはそんなラテを見て頼もしくも思い、反面無理をしているようで危うくも思うのだった。

>「……ミライユさんの言葉を全て信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは」

ラテの言葉を遮るように、突然の闖入者が現れた。

>「ひっ! ソルタレク、ギルドぉ……」
>「あっ、いやいや、怪しい者ではないんですぅ、その、食事を少々恵んでもらえれば。
いや本当に、お腹が空いて死にそうなんです。お金もないし。…何でもしますから!
名前はパト、パトリーヌ。とりあえず。ところで冒険者ギルドの人達ではないですよ…ね?」

見たところ人間のようだが、純粋な人間だとしたたら男性でもかなりの長身の部類、増して女性なのだから猶更だ。
服装は魔術師風だが、学園の生徒にしては随分地味なローブを着ていて、なんだかフラフラしている。
怪しくはあるが、とりあえず危険性はなさそうだ。
0281ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/04(土) 21:15:10.87ID:XGgG/LDW
>「はいはい、とりあえず壁に体預けて、座って。ふらふらじゃないですか」
>「ほれ、黒パンだ。さっき食堂からもらってきた」

素早いラテがいち早く動いた。
ジャンもパンを差出し、一緒に食堂に来るか、と聞くまでも無くあれよあれよという間に食事が用意された。

「そなたもソルタレクのギルドのごたごたに巻き込まれたのか? 全く仕方のないギルドだ。
安心せい、ここはあの冒険者ギルドとは無縁……むしろどうやら今のところ敵対している組織だ」

>「落ち着いて、ゆっくり食べて下さいね」

パトリエーゼが食べている間、暫し元の話題に戻るティターニア達。

>「話を戻しますね。ミライユさんの言葉を信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは、アサシンギルドを併合してます。
 ……ま、どうせ少しばかしレンジャーの技術を齧っただけの、ちゃちな殺し屋集団でしょうけどね」

ラテは、刺客がすでに潜んでいる可能性を示唆し、防衛専念ではなく外への積極的な攻撃を提案するのだった。

>「……一発、大きなのをぶちかましてやった方がいいと私は思います。
 何人か、為す術もなくやられれば、それが見せしめになる。
 相手の士気が落ちて、さっさと退却してくれるかもしれない。そうなれば、ソルタレク冒険者ギルドの面子を潰せる」
>「……もし、ここの導師様方が難色を示したら。いえ、示さなくても……攻撃は私が……あるいは私も、やります。
 私には手製の爆弾と、この【不銘】がある。尻尾巻いて逃げ出すまで、爆撃してやりますよ」

やはりラテは何かに追い立てられているような様子。その様子を察したジャンがそれとなく制する。

>「そう急ぐんじゃねえ。こういう時は大体勝つこと前提で動いてるもんだ、冒険者って奴はな。
 斥候やら暗殺者のことも気になるが、指揮官を捕まえて城壁にでも吊るしてやれば逃げるだろうよ」

最初に人を殺したショックのあまり、人殺しなんて大した事ないと振り切れて、逆に必要性もなく人を殺すようになる者もいる。
まさかラテがそうなるとは思わないが、飽くまでも殺すのは他にどうしようもない時の最終手段で
殺す以外に方法があるならそちらを選ぶに越したことはない。

「ジャン殿の言うとおりだ。しかし一発ぶちかましてやるのはいい考えかもしれぬな。
安心せいラテ殿、目的が面子を潰すことなら――何も殺す必要はない」

一見矛盾しているようなことを言い出すティターニア。そして不敵な笑みを作ってこう続ける。

「忘れてはおらぬか、ここは紙一重の者達が集う魔境ぞ?
そなたの爆弾を使わずとも魔法薬学研究室や魔法化学研究室がわんさか出してくれるわ。
殺さずに、しかも一発ぶちかまして面子を丸潰しに出来るような爆弾や魔法薬をな!」
0282ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/04(土) 21:26:11.86ID:XGgG/LDW
一説には共和国最強勢力とも噂されるユグドラシアだが
強さを敵を殲滅する殺傷力という尺度で測ると、もっと強い組織がたくさんある。
普通に考えれば、戦闘を本業とする組織に学者集団であるユグドラシアが敵うはずはないのだ。
むしろユグドラシアが得意とするのはその逆。
いかに相手を殺さずに、更には傷つけずに戦意喪失に持ち込むかとか
集団戦においてはいかに敵陣に大混乱を巻き起こして有耶無耶にして終わらせるか、等を日夜研究しているのだ。
ティターニアがいつぞやの宿屋の主人に使った黒板超音波の魔術などはその一例である。
また、その戦術も他の組織とは一線を画し、良く言えば特異、実も蓋も無く言えば非常識なものが頻繁に飛び出る。
魔術師ギルドですら冒険者に共通する戦闘のセオリーというのに則っていたりするものだが
ユグドラシアはどこまでいっても本質は戦士ではなく学者集団、そんなものは知ったこっちゃないのだ。
ティターニアがいきなり魔術書をぶん回してみたり、紙で神を迎え撃ったりしたのにもその一端が現れていると言えるだろう。

>「それでも万が一の時の為、住人の皆さんにはユグドラシアに避難してもらった方がいいかもですね。
 可能なら土魔法が得意な魔術師を集めて、内壁を築いて街を幾つかの層に区切っておきたいですし。
 やれる事は、全部やりましょう。何をしてでも、人命だけは絶対に守り抜かないと」

「そうだな、人命だけは絶対に守り抜こう――言うまでも無くこちら側は全員。
敵も殺すのは出来る限り最小限に――面子を丸潰しにして将来に渡る被害も防いでみせようぞ」

これから先の旅では敵も殺さずなんて甘い事は言っていられないかもしれない。
しかしここユグドラシアの防衛戦なら、完璧に防衛した上で更にそれが出来る――と踏んだからこその言葉。
この戦いを通してラテが自分は自分のままでいい、お人よしのままでいいと
自信を取り戻してくれればいいのだが――とティターニアは密かに思っているのだ。
何はともあれ、“死んではいけない魔術学園防衛戦”の始まりである――!
そう決意を固めた矢先、オークの一団が雪崩れ込んできた。

>「ティターニア!これ女の名前じゃねェノ〜♪」「いちいち叫ぶなってのうるせェ、一応任務だ静かにやんゾ」

真っ先に飛び出していったパックが殴られて無残な死骸になった。
人命を守り抜くと決意を固めた瞬間にあまりにあまりな展開だが、ティターニアは動じない。
実は死骸になったのはレンジャーの技能【ファントム】による幻影で、本物の彼は伝令のためにその横をすりぬけて部屋から飛び出していったのだ。
(死骸のリアルな表現には幻影の魔術等も併用しているのかもしれない)
見た目弱そうとはいえ腐ってもユグドラシアの助手、雑兵オークにやられるほど弱くは無かった。
0283ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/04(土) 21:27:07.67ID:RTchBiuy
【この土日のうちに導入書き入れます。遅くなってすみません!】
0284ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/04(土) 21:28:23.86ID:XGgG/LDW
>「聞こえネェのカ?壁に手をついてケツこっち向ケロ、できればパンツも脱いどケ。あ、そこの男はこっち来ナ」

ティターニアはドン引きと呆れと物珍しさが合わさったような複雑な表情で杖を取る。

「お主ら……我のような者でもいいとはオークとしては随分ゲテモノ趣味なのではないか?」

オーク女性に相手にされなくてこうなったのか、それとも元々特殊性癖なのか、疑問は尽きない。
ジャンを見ていれば分かるように、当然この世界のオークが一般的にこんな感じではないわけで……
“何故か広まってしまった間違ったオークのイメージ”の理想的なフォルムを体現し過ぎていて、逆にこんなの実在したのか、と思ってしまう。

>「ヒャッハー! 女と財宝ヨコセ。命だけは助けてやル」
>「――黙ってろッ!」

ジャンがまず棍棒を持ったオークを撃破し、他の三人にも攻撃を加える。
ジャンとしては、このようなオークの間違ったイメージを流布する元凶は営業妨害極まりないことだろう。
杖を持ったオークから放たれた電撃の魔術はアミュレットが防いでくれたようだ。
ジャンが剣のオークと打ち合い始める一方、ティターニアは魔術を使う敵を早く片付けておこうと、杖を持ったオークに魔術戦を挑む。
その最中、ボウガンのオークがパトリエーゼ(ティターニアの中ではパトリーヌ)にボウガンを向けて狙っている事に気付く。
しかし魔術オークの相手で手が離せず、思わず叫ぶしかなかった。

「パトリーヌ殿! 危ない!」

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*
0285ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/04(土) 21:30:20.09ID:XGgG/LDW
一方、オークに襲われて地面に放置された研修生らしき少女に追いすがり泣いている眼鏡の男がいた。

「うええええええええん! メアリーちゃぁああああああん! スーちゃぁあああああああん!!」

そこに同僚らしきやはり眼鏡の男が歩み寄り、そっと肩に手を置く。

「彼女たちは犠牲になったのだ、生徒を守るための尊い犠牲に、な……」

魔術工学研究室――ただでさえ紙一重な者が集うユグドラシアの中でも更に一際異彩を放つ、眼鏡率が異常に高い集団である。
彼らは飛空艇以外にも様々な物を同時並行して開発しており
このメアリー&スーは彼らがあふれ出る煩悩を研究への熱意に変換して開発した美少女型ゴーレムのプロトタイプだった。
どうも研究室が男ばかりでむさくるしいということで、最近は研修生の中に紛れ込ませて楽しんでいたのだ。
転送陣が開く気配を、早速精霊を使っての警戒にあたっていたホロカが感知し、見張りとして配置していたのだが――
見た目等に力を傾け過ぎ、戦闘力が疎かになっていたのが敗因であった。
ちなみに他の場所は美少女型ではなくもう少しまともなやつが配置されている事であろう。

「許さん! 総力を結集して殺す、じゃなくて生き恥を晒してやるわああああああああ!!」

眼鏡のオタク集団が本気になってしまった。このままではとんでもない兵器が世に放たれてしまうかもしれない。

一方――魔法薬学導師や魔法化学導師達は早速爆撃に使う物の算段をしているようだ。

「これなんかどうでしょう、爆発したら最後、笑いが止まらなくなって戦闘どころではなくなる笑い弾(しょういだん)」

「これを見てください!
毒性は無いがただひたすら強烈な悪臭にのた打ち回る恐怖のガス兵器、シュールストレミングガス」

こんな感じでユグドラシア導師総員、敵を迎え討つ気満々である――
0286ティターニアin時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc 2017/02/04(土) 21:52:49.55ID:XGgG/LDW
>283
実は1週間ルールなので気にする事はないぞ、よろしく頼む!
早速バトルが始まっておるがもしギルドの組織絡みが難しかったら個人的に指環奪いに来る感じでも何でも大丈夫!
ギルドの側がその動きを感知して勝手にリーダーに仕立て上げている事にするとか割と色々できるので
とりあえず気楽に登場してみてくれ!
0287オークの集団 ◆ceap50eg.2 2017/02/05(日) 01:39:03.86ID:Ks3d7Hrx
ジャンがオークたちの方へと歩を進める。

「なんだァ? このオーク風、状況が分かってネェみてえだなア」「おう、こいつ殺すカ?」
「それよりこいつ雷が効かねェ! どうなってやがル!」

>「――黙ってろッ!」

「ブキャピ・・・」

そのミスリルハンマーの一撃を棍棒で受けるも、一気に食い込んで棍棒を破壊、
そのままオークの頭を勝ち割った。
拉げた音がして、オークの頭がハンマーに捥ぎ取られる。
首無しの死体が床へと落ちた。

「おォオ・・・」

残り二人の攻撃はジャンの方へと向かう。
しかし、

>「お主ら……我のような者でもいいとはオークとしては随分ゲテモノ趣味なのではないか?」

ティターニアが応戦し、オークのシャーマンは撃ち合いになる。
しかし、あっさりと片付いた。
「ギャァァァ!!!」

ティターニアの攻撃魔法で杖ごと焼け焦げてその場で死臭を放つオークシャーマン。

そして、その傍では剣を持っているオークもジャンによって
オークの頭部のついたハンマーで剣ごと頭を潰されていた。
ジャンのハンマーには二つのオークの頭が首の皮をぶら下げ、目玉や脳漿を垂らしながら引っ付いていた。

「クソォ、せめてあの女だけでもォォ!!」


>「パトリーヌ殿! 危ない!」

パトリエーゼをボウガンで狙った最後の一人、ゴロドフは異変に気付いた。

「な、なんなンだ、これハ・・・」

頭をキィィンとした痛みが襲う。
何となくゴロドフは思い出した。「そういや俺らを雇った連中は、なんか強化魔術とか言って俺らに仕掛けをしてたなぁ」と。

ゴロドフはボウガンを置き、開き放たれている扉から勢いよく脱出する。

「あぁァ! 死にだくねエエエ!!!」

パァァァン!!!

爆発音とともに、オークの頭が破裂した。
同時に残りの三つのオークの頭に仕掛けられていた何かも爆発する。

魔法の爆薬だ。
何者かが遠隔操作で操っていたのだ。

これにて、ささやかな「斥候」によるユグドラシア襲撃は終わった。



(雑魚退場。ありがとナス)
0288ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:41:14.58ID:NJZYvVHR
ハイランド連邦共和国首府・ソルタレク。
大陸における主要国家の一つ、その中心に相応しい繁華な目抜通りを、奇異の視線で見送られる一台の馬車が通る。
石畳を蹴立てるは四頭立ての普遍的な荷馬車。奇異の理由は積荷にあった。
客車に連結された荷台に縛り付けるように、巨大な竜の死体が載せられている。

大人が四人手を繋いでようやく比肩し得る広さの両翼、眼窩の上に位置する二本の禍々しく捻れた角。
殊更に特徴的なのは陽光を受けて星のように乱反射する無数の黄金の鱗。
ハイランド連邦の北部に在するアラキア台地、その峻険たる奥地に生息する金剛竜オリハロドンだ。

鱗の一片が4kgにも達する過重量で荷馬車の車輪は一回転ごとに悲鳴を上げ、石畳に真新しい轍を刻む。
ハイランドの山間部を踏破する頑健な車引の馬達が、四頭がかりで滝のような汗を流しながら運搬する重量だ。
本来の半分程度のスピードで進む馬車は、やがて大通りに軒を連ねる一軒の店の前に停車した。

冒険者や傭兵が仕留めてきた魔物を腑分けし買い取り、値段を付けて市場に流す『解体屋』と呼ばれる店だ。
通常、冒険者が収入目的で魔物を狩る場合は仕留めたその場で魔物を解体し価値のある部位のみを持って帰る。
角や希少臓器など高値のつく部位を取り出した後に残る大量の屍肉は、多くの場合飼育された牛や豚より硬くて不味く不要だからだ。
しかし魔物の中にはその身体の大部分が有用であったり、あるいは解体に専門技術や機材の必要なものもいる。
そうした場合に死体を丸のまま持ち帰って解体と値付けを任せる専門家が解体屋なのである。

「久々に大物が来たな!」

予め伝書の使い魔により連絡を受けていた解体屋の店主が飛び出して来て、建屋の横にある搬入口へ馬車を誘導する。
大型の魔物の解体はその先の専用工房で行うのだ。
解体屋は弟子に指示を飛ばしながら、手際よく死体にロープを巻きつけ大型の吊り機の鋼鉄鈎に引っ掛けた。

「こりゃ派手にやったな。大砲でも使ったのかい」

吊り機を軋ませながら運ばれていくオリハロドンの、胸郭に空く乾いた大穴を眺めて解体屋は感慨深げに呟いた。
向こう側に宮廷の尖塔が窺える円形の虚空は、そこにあったはずの心臓を綺麗に消し飛ばしていた。
荷降ろしの済んだ馬車の客車が開き、一人の男が解体屋の隣に飛び降りる。
何気なくその方へ視線を遣った解体屋はぎょっと肩を竦めた。

「なんつう格好してんだあんた!」

巌のような大男だった。若い頃は武闘派の冒険者で鳴らした解体屋でさえ見上げるほどの偉丈夫。
そして男は半裸であった。手足の先まで分厚い筋肉に覆われた四肢に上等な外套を纏い、他には何も着ていない。
唯一衣服と言える物は外套と同じ材質の褌と、何故か貴族が身分を隠すのに用いるドミノマスクを装着している。
男は威容を漂わせる胸板を拳で一つ叩いて笑う。

「ふはは!この磨き抜いた肉体こそが我が具足よ!鋼鉄よりも硬き素肌があれば鎧など必要なし!」

「鎧は要らなくても服くらい着とけよ……あんたは良くてもパーティ組んだ連中が可哀想だろ。
 もしかしてお仲間もみーんなそういう趣味の集まりなのか?」

「我輩に同行者など居らぬし要らぬ。寝食を共にするはこの拳、そして愛と勇気だけが友朋である!」

「……まさか一人でこいつを仕留めたってのか?そりゃ流石に冗談だろう、オリハルコン並の甲殻を持つ金剛竜だぞ」

解体屋は今度こそ訝しげに眉を顰めた。
オリハロドンはギルドの定める指標において最上位の討伐難度を誇る"金級標的"と呼ばれる竜種だ。
一介の冒険者が入り込むには過酷すぎる生息域もさることながら、単純に極めて頑丈な装甲鱗を持ち鋼の剣程度では傷も付けられない。
その鱗は優れた物理耐久と魔法耐性を兼ね備え、加工すればオリハルコンの代用として最上級の鎧や建材に用いられるものだ。
高位の武芸者が十人単位のパーティを組んで、それこそ大砲やバリスタでも持ち出さなければ敵わぬ相手である。

如何にこの大男が優れた武人であろうとも、装甲貫徹可能な大型兵器を持ち込む人手は必ず必要になる。
兵器とその使い手を現地まで護衛する人手に、それらの糧秣を補給する人手も。
単独での討伐がそもそも不可能であるからこその"金級"だ。
0289ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:42:16.90ID:NJZYvVHR
「然り。それが何か?」

「何かってあんた……」

閉口してしまった解体屋の代わりに抗議の声は別の場所から上がった。

「然り。じゃ……ないでしょーっ!」

大男が胸を叩いたポーズのままガクっと膝から崩れ落ちた。
解体屋が目を合わせたままの視線を反射的に下げると、大男の足元で彼の膝に蹴りを入れた人影を発見した。
男の巨躯と存在感のせいで気付かなかったが、傍にもう一人いたのだ。

「一人じゃないじゃん!ケイジィも一緒に戦ったじゃん!なんで分けわかんない見栄張るの!」

男の腰ほども背丈のない小柄な少女が仮借ない蹴りを入れ続けながら憤っていた。
陶磁器のように白い肌、それに劣らぬ白さの瀟洒な衣服。霞の中にいれば見失ってしまうであろう銀の髪。
半裸の大男の隣に立つには水と油のような取り合わせだ。

「おおケイジィ、そこにいたのか。吾輩こんなマスク付けてるから下方向の視界が狭くてな!うっかり踏み潰すところであった!」

「外せばいいじゃん!その変なマスク!そのマジで変なマスク!形から入りすぎでしょ!見栄っ張りさんだなもー!」

「見栄ではないとも、吾輩は一人でこの首級を挙げた。貴様は人ではないからな。吾輩の用いる道具に過ぎぬ!」

二人のやりとりを黙って見ていた解体屋は、不穏な言葉にケイジィと自分を呼ぶ少女を眺めた。

「人じゃないってこの子、もしかして魔導人形か?」

「そだよ。肌とか触ってみる?すごいかたいよ」

「はー、うちでも魔導人形の扱いはあるけどここまで精巧なものは初めて見たな。ほとんど人じゃないか」

解体屋が鼻を鳴らして感嘆する通り、ケイジィは完璧に近い精度で人間を模していた。
露出した肌や眼球にこそ生物本来の瑞々しさはないが、髪などは一般的な人形のような合成繊維ではなく艶やかな人髪だ。
ハイランドの技術水準が大陸諸国家に劣るわけではないが、それでもこの国で可能な人造品の限界を遠く超えている。
自律意志を持つ魔導人形は数多く存在するものの、今ケイジィがしているような『誇らしげ』という複雑な表情までは再現不可能だ。

「とーぜんっ!なんてったってケイジィは人間から造られぎゃんっ!!」

調子よく喋っていた魔導人形の頭上に大男の手刀が落とされ、『舌を噛んだ』彼女は目を瞑って黙った。

「如何に精巧であろうとも所詮は人に似せただけの模造品よ。技術の誇示の為だけに造られた哀しき器物である」

「うう……まぁその通りだけどさぁ!デリカシーがないよねノーキンは!あと足も臭いよね!本当に!」

「そうか……あんたも事情があるんだろう。詮索はしないでおくよ」

見たところ中年に差し掛かったこのノーキンという男が少女の人形を持ち歩く『事情』に思い当たるフシがないわけでもないが、
なんというか精神の闇のようなものに触れそうだったので解体屋は生温かくこれをスルーすることに決めた。
後に残ったのは人形とお話する半裸のおっさんという心の歪みの塊みたいな印象だけでありやはり闇だ。

「仕事の話に戻ろう。このオリハロドンはうちで解体して見積り出すよ。あんたのギルドは?」

竜種のような高価かつ希少な魔物の素材にはそれを仕留めた冒険者のギルドを刻印するのが通例だ。
これは品質の保証も兼ねる。錬金術を使ってそれっぽい死体をでっち上げる詐欺師が横行したころの名残だ。
『どこそこのギルドが討伐した』という情報はそのまま素材に対する信用になる。
しかしノーキンとケイジィは二人で顔を見合わせるばかりで何も答えない。

「おいおい、手形とか印章とか、なんかあるだろう。竜種の討伐なら狩猟権を持ってるギルドの依頼だろ?」
0290ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:42:46.61ID:NJZYvVHR
やおら怪しくなってきた雲行きに解体屋が怪訝な顔をすると、応答はノーキンではなく工房の出入り口から聞こえた。

「手形ならここにあるぜ……!」

大通りから差し込む逆光に照らされるは3つの人影。
剣士風の男と、魔導師風の女、そしてリーダーと思しき盗賊風の男だった。
盗賊風は右手に首府ソルタレクの冒険者ギルドの印章を掲げ足早に工房の中へと歩みを進める。

「金剛竜を仕留めたデカい冒険者ってのはてめえだな?ようやく追いついたぜ。
 仲間集めてアラキア台地に出向いてみりゃ竜の巣穴は蛻の殻、巣の主はとっくに解体屋に持ち込まれたって話だしよ」

盗賊風は疲れを伺わせる双眸でノーキンを睨み据えた。
その身に纏うレザーアーマーは魔獣ダイアサルクスの革で織られた軽鎧としては最上級の防御力を誇るもの。
お供の二人もそれぞれその職種における上級防具に身を包んでいて、三人ともが相当に高位の冒険者であることを伺わせる。

「困るんだよなぁ勝手なことされると。狩猟協定を知らねえわけじゃねえだろう」

冒険者稼業とは基本的に投資と回収のサイクルだ。何をするにも金がかかる。
例えばダンジョン一つ潜るにしたって、探索期間中の食糧やポーション、探索に適した仲間の雇用、松明やテントの手配。
魔物の討伐なら武具や兵器の調達整備、殲滅力の高い人材の雇用、道中の移動手段や宿泊費、獲物の引き上げに関わる手配。
共通して、事前に街でかけておく状態異常防止の祝福や身体能力向上の加護に支払う布施。
必要経費と言ってしまえばそれまでだが、とにかく費用が嵩むことは確かだ。

無論それらの負担を分散する為にギルドという制度があるわけだが、
高額の経費を支払って万全の準備を整えことに臨む冒険者たちにとって最も遭遇しやすく最悪の事態とは、
準備をしている間に狙った獲物が他の冒険者によって狩られてしまうことである。
そうなればまさに骨折り損のくたびれ儲け、現地に赴いてから先を越されたと知った日にはもう手配のキャンセルも効かない。
資金繰りのサイクルは破綻し、最悪破産して装備も売り払って露頭に迷うことになる。

そうした事態を回避する為の制度が、ギルド同士が取り決める『狩猟協定』だ。
やっていることは至極単純、希少価値のある獲物は事前にギルド間で競札を行い『狩猟権』を落札する。
狩猟権のないギルドは傘下の冒険者たちに該当する魔物を狩猟しないよう通達し、依頼も取り扱わない。
要は『この獲物はウチがツバ付けたんだから他は手を出すなよ』をより事務的に取り決める制度だ。
この場合金剛竜の狩猟権を持った盗賊風達のギルドを無視して、ノーキン達が勝手にそれを討伐した形となる。

「余計な争いを防ぐ為の狩猟協定だ。破ったからには戦争だよ戦争。この街に骨埋めてもらうぜ」

「ふはは!模範的なギルド付きの能書きだな若造よ!協定など大手が高額標的を囲い込む題目に過ぎん!
 既得権益を侵されるのは初めてか?もっと力を抜いて楽しむがよい、意外と法悦至極かも知れぬぞ!」

盗賊風はそれまでの揶揄するような態度を一変、両眼を細めてノーキンを見る。
腰を落とした戦闘態勢から放たれる威圧感は、やはり熟達した戦闘者の持つそれだ。

「……言うじゃねえかオッサン。代紋出せよ、どこのギルドだ?」

「我輩に寄る辺などない!この肉体と拳だけが己を構成する全てよ!」

「ああ?モグリかあんた。ギルドの支援もなしに冒険者やるたぁ随分金持ちなんだな」

「おうとも!自営は良いぞ!貴様らのように上納金を徴収されることもなく獲物は丸獲りだからな!
 社会の歯車共は毎日毎日身をすり減らして大変なことだな?吾輩同情しちゃう」

「税金も納めてないよねノーキンは。老後どうするつもりなの?生涯現役なの?やだよケイジィこんなデカい老人の介護なんて」

「老いてからのことは老いた吾輩がなんとかするであろう!今を生きる我輩の知ったことではない!!」

「社会のガラクタ過ぎる……」

盗賊風の男はノーキンが無所属と知るや臨戦態勢を解いた。
張り詰めていた一触即発の空気が嘘のように霧散する。
0291ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:43:25.97ID:NJZYvVHR
「なんだ。あんたがどこのギルドにも属してない金持ちの道楽で冒険者やってるんなら話はもっと簡単になるぜ。
 まずその死体をこっちに引き渡せ。その上で然るべき『報酬』を正確に算盤弾いてあんたらに支払ってやるよ。
 あんたらには依頼を受けた俺たちが現地で雇った無頼の冒険者ってことになってもらう」

「はぁー?戦ってもないのに後から来てピンハネしてくの!?」

「こっちも支度に山ほど金突っ込んでんだ。平和的な解決だと思うぜ?たったの二人でギルド丸ごと敵に回すよかよっぽどな」

腕組みしながら盗賊風の提案を聞いていたノーキンは顎を手でさすって答える。

「それには及ばぬよ若輩。より簡便に始末をつける方法ならたった今我輩がピコンと閃いた!
 貴様ら三人が今ここで消えれば利害に関わる者は一方のみになる!平穏無事なる日常の回帰であるな!」

弾かれるように噛み付いたのは盗賊風の後ろで黙っていた剣士風と魔導師風の手下二人だった。

「なんだとテメーギルド舐めてんのか!おおん?先輩がせっかく譲歩してくれてんだろうが!」
「もうヤっちゃいましょうよ先輩!たかがデカブツとジャリガキの二人、うちら三人で始末じゅーぶん出来ますよ!」

今にも飛びかからんとする後輩達を片手で制する盗賊風は油断のない目で対峙する二人を見ていた。

「見た目で侮るなよお前ら。いかにも強者ってツラしてるあの筋肉ダルマはともかくガキの方も易くはねぇぞ。
 あんなフリフリおべべでアラキアの奥地まで行って帰って来てるんだ。しかも砂塵の一つもついてねえ。
 術式防御か移動魔法か……なにがしかのカラクリがあるんだろうよ」

「なるほどたしかに!」「流石先輩!」

盗賊風の知見にノーキンはドミノマスクの奥で眉を開く。

「ほう、賢しいな。こやつの容姿は油断を誘うよう『造られて』いるのだがな。有望な若造である」

腰の位置にあるケイジィの頭にポンと右の手のひらを乗せて、ノーキンは犬歯を見せた。

「だがその賢しさも無意味だ。知力など所詮は肉体弱者による膂力の代替品に過ぎぬ。
 世渡りの未熟な若輩共に教えてやろう。圧倒的なパワーがあれば……頭が悪くても生きていけるということを!!」

瞬間、ノーキンの右腕がブレた。同時にその下にあったケイジィの身体がそこから消える。
ノーキンが恐るべき速度でケイジィの頭を掴んでぶん投げたことを、盗賊風は歴戦の勘ばたらきで理解した。

「死角から来るぞ、構えろ!」

リーダーに言われるまでもなく手下二人が動き始めたのは歴戦の練度が為し得た連携だ。
戦闘態勢に入った五感は時間を凝縮し、解体屋の「おい!店の中だぞ!」という抗議の声すら間延びする。
研ぎ澄まされた聴覚によって接敵を察知した剣士風が、何もない空間へ向けて背の大剣を薙ぎ払った。
けたたましい金属音が響き、大剣が阻むものなどあるはずもない空中で弾かれた。

「ええっ!今の分かっちゃう!?」

次いで虚空からケイジィの驚く声が上がった。

「古典的な視覚迷彩っす、先輩!こっちは自分が抑えときますよ!」

「頼んだ」

剣士風と短いやり取りで意思疎通を終えた盗賊風が、魔導師風と共にノーキンと対峙する。
対するノーキンは呑気にケイジィと剣士風が始めた不可視の剣戟を眺めていた。

「なんだ貴様らは戦闘に参加しなくても良いのか?吾輩が言うのもなんだがあやつは並の冒険者で歯の立つ相手ではないぞ」

「並の冒険者じゃねえから任せてんだ、信頼があんだよ俺たちには」
0292ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:43:50.18ID:NJZYvVHR
「理性はそう言っていても肉体はどうだ。我輩には聞こえるぞ!貴様らの筋肉の声が!
 一度己の筋肉に耳を傾けその叫びを聞いてみよ!力というものは使われて初めて意味を獲得する!」

「は……?」

「騙されたと思って耳を傾けるが良い!戦いたい、その抑圧された力を振るいたいと言う声が聞こえて来ぬか?」

「…………」

いよいよ意味不明な妄言に盗賊風と魔導師風は鼻白んだ。
混乱を誘う繰り言にしてもあまりに稚拙。戦闘において需要なウエイトを占める聴覚をわざわざ割く馬鹿はいない。
出方を伺うばかりの沈黙が、剣戟音を背景に数秒続いた。

「耳を傾けよと……言っておろうがぁぁぁ!!!」

ノーキンはいきなりキレた。
丸太のような大腿筋が倍ほども膨らみ、繰り出された踏み込みが一瞬にして盗賊風との距離を詰める。
そのすぐ後方で魔導師風が詠唱破棄での魔術行使を間に合わせた。

「『プロテ……『タービュランス』!!」

唸りをつけて振り抜かれたノーキンの右拳が、盗賊風の胴を穿ち貫いた。
巨大質量の蠕動に巻き込まれた空気が突風を産み、床の埃を残らず洗い工房の張り紙まで吹き飛ばす。
しかし確かに胴に一撃を見舞われたはずの盗賊風は、一滴の血も零さず二歩ほど離れた場所へ着地する。
ノーキンの右腕で力なく項垂れる大穴ぶち抜かれた身体が、陽炎のような余韻を残して掻き消えた。

「ぬ……?」

「危ねえ……!」

一瞬にして高度な連携だった。
魔導師風は防御障壁の魔法を唱えるまさにその最中、ノーキンの拳の威力を見極め強引に回避の呪文を唱え直した。
盗賊風は瞬間的にそれを理解し、防御態勢を解いて自らの幻影『ファントム』を作り出し回避行動まで追従してのけた。
彼らのうちどちらの判断が瞬き一つ分遅れても、盗賊風の胴には本物の穴が空いていただろう。

「こいつがオリハロドンの鱗をぶち抜いた一撃ってわけか!頭おかしい威力してんな!」

「ほう。吾輩の拳を受けて生きているとは……いや受けてはいないのか……ぬん……?」

やはり三人が三人ともに手練。彼らもまた最難度対象・金剛竜を狩ることのできる高位冒険者だ。
しかしノーキンはまるで動じた様子もなく己の拳を眺めた。

「まずは一つ、解き放っておいたぞ。貴様の腹筋をな」

ノーキンは手の中にあるものを盗賊風へ向けて弾く。
凄まじい速度で発射され、床に突き刺さったそれは、硬質な革の一片であった。
盗賊風の鎧のちょうど胴体の部分が、五指の形に千切り取られその向こうのよく鍛えられた腹筋が見えていた。

「………………ッ!?」

盗賊風の鎧の材質、魔獣ダイアサルクスの皮革は軽い革素材でありながら鍛錬鋼の強度を持つ最上級素材だ。
革の特性として特に引っ張る力に強く、竜種の顎ですら食い千切ることは不可能な靭性を誇る。
それをほんの一瞬掠っただけで、紙のように容易く引き千切られた。
滝のような汗が背中を流れ落ちていった。

「さあ今度こそ、貴様の腹筋と愉快痛快な力比べの祭りといこうではないか。案ずるな、痛と快は紙一重であるぞ」

「てめえの脳内奇祭に付き合うわけねえだろ……だがこれで"留めた"ぜ」
0293ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:44:30.67ID:NJZYvVHR
いざ二撃目を放とうとしたノーキンは、己の身体が動かないことにようやく気付く。
彼の足元には金色の太い針が三本突き刺さり、地面と影とを縫い止めていた。
アサシンのスキルが一つ、『影縫い』。対象の影に魔力を込めた刃物を突き刺すことで動きを縛る術だ。
盗賊は恐るべき反射神経で、回避と同時に針の投擲まで済ませていた。

「あ、あれっ?」

同時、けたたましく剣戟音を立てていた不可視のケイジィが困惑の声を上げた。
見えない何かが空を切ったらしくポテっと床に落下する音が聞こえる。
ケイジィと切り結んでいたはずの剣士風の姿が消えていた。

「おおっ!」

剣士が出現したのはノーキンの背後だった。既に担う大剣を直上に振り上げた姿勢だ。
剣士のスキルが一つ、『剣重ね』と『縮地』。
実体を伴う殺気を残して一度に二撃を振るう剣技『剣重ね』の片割れでケイジィを押さえ込み、
短距離を一瞬にして移動する歩法『縮地』でノーキンの背後へと回り込んだのだ。
呼吸一つの暇もなく、影を縛られ動けないノーキンの無防備な背後を袈裟斬りに大剣で打ち下ろした。

有無を言わさぬ瞬時の連携、魔獣の牙から削り出されたミスリルをも断つ大剣の一撃。
為す術もなくそれを受けたノーキンは一刀両断――されなかった。

「……うむ。なかなか敬老精神のある見上げた若輩であるな。だが気遣いのしすぎというのも良くない」

分厚い筋肉の載った肩は、刃筋の立った大剣をその弾力で受け止めきった……!!

「もっと強く叩いてくれねば……肩の凝りが取れぬであろう!」

瞬間的に肩の筋肉を膨張させ、その圧力だけで上に乗った大剣を弾き飛ばす。
柄を握った剣士も合わせて床を転がった。受け身すらとることができない。身体に力が入らない。

「きっつい麻痺ガスしこたまぶち込んだんだけどねー。やっぱ異常防御の祝福受けてるよね」

仰向けのまま何が起きたか理解できず目を白黒させる剣士風の胸の上に、ケイジィが姿を現した。
祝福を受けた冒険者の肉体すらも侵す毒ガスの出処は、彼女の指先に小さく開いたスリットだ。

「針治療もなっておらんな。影の凝りをとってどうする!」

ノーキンはサイドチェストと呼ばれる筋肉を美しく見せるポーズを影縫いに縛られたまま強引に決めた。

「ウッソだろ……影縫い三本入れてんだぞ……」

ポージングを決めたノーキンが筋肉にグっと力を入れると、足元の金の針が三本とも弾け飛んだ。
僅かな傷跡として凹んでいた肩の筋肉も、間をおかずにもとの形に戻ってしまう。
盗賊風は笑った。もう笑うしかなかった。

「簡便してくれよ。ミスリルの鎧だってぶった切れる剣なんだぜアレ」

「鎧などという"重石"を指標に評価されるのは甚だ心外であるな。
 ミスリルよりも強靭なる我が素肌なれば、何も着ないのが最も道理に合致している」

「その格好は伊達や酔狂じゃねえってわけか」

「あと磨き抜いたこの肉体を衆目に晒すとスカっというかムラっというかとにかく気持ちが良い」

「伊達や酔狂だったかぁ……」

盗賊風はがっくりと項垂れて膝を折る。
0294ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:45:05.04ID:NJZYvVHR
戦意の喪失を確認したノーキンは踵を返し、鉄扉の向こうに引っ込んでいた解体屋の元へ向かおうとして、

「ノーキン!まだそいつ諦めてないよ!」

ケイジィの警告に振り向いた彼の分厚い胸板に5本の金針が突き立った。
投じた盗賊風は項垂れたままこちらを見ていないが、その手指だけは真っ直ぐにノーキンを指していた。

「お望み通り本体の方に針打ってやったぜ」

盗賊風の男は剣を弾かれた時点で既に次善の策を打っていた。
諦めたように笑い、項垂れ、戦意を喪失した――ように見せかけた。
心情を偽り隙を作り出すアサシンのスキルが一つ、『ヒュミント』だ。

「こいつはギルドの威信としての問題だ。俺一人が諦めて良い話じゃねえ――社会の歯車、舐めんなよ」

ノーキンの胸筋に突き刺さった針は、『十字括り』と呼ばれる影縫いの上位スキルだ。
対象に直接5本撃ち込むという難条件と引き換えに、より強固に地面に足を縛りつける術。
如何にノーキンが人間離れした膂力を持とうとも、抗えぬ強制力を持っている。

盗賊風は懐から一枚の術符を抜いた。刻まれた魔法陣を指で擦って起動する。
複数の念動魔法の組み合わせからなるその術式は、バラバラのものをその場に『組み立てる』魔法。
工房の外、表通りのノーキンの馬車に横付けされた盗賊風達の荷馬車から、無数のパーツが飛んできてひとりでに組み上がった。

「金かけて準備したって言ったろ。準備したんだよ――金剛竜の装甲をぶち抜ける大砲をな」

完成したのは馬車一台ほどもある魔導砲だった。
炸裂魔法による起爆で巨大な鉄塊を砲弾として撃ち出す、連邦軍が城門破りに使う攻城砲だ。

「安心しろよオッサン。こいつを喰らえば肩の凝りなんか肩ごと消し飛ぶぜ」

その威力は想像に違わず、息を潜めていた解体屋が泡を食って叫んだ。

「こんな街中でぶっ放して良いモンじゃないだろそれ!店を壊す気か!?」

「弁償はそこの金剛竜でしてやるよ。丸ごと売りゃあもう一軒店が建つ」

「アレは流石にマズいよノーキン!解呪するからとっとと逃げよ!」

「ううむ」

ノーキンは唯一自由な両腕をぐりぐりと回して今更ながらの準備運動をしていた。

「費用だの、弁償だの、煩わしいことだな。いつから闘争の世界はかくも金で回るようになってしまったのか。
 実に嘆かわしい、大砲を買う金で何本の鶏ササミが買える?その金を稼ぐ時間で、何回腕立て伏せができると思っている!」

「筋トレだけして飯が食えるなら誰だってそうしてる」

「吾輩はそうしたぞ」

閉口する盗賊風に、ノーキンはなおも語りかける。

「吾輩は鍛えた!生まれながらに何も持たぬ者が、後天的に獲得できるものがあるとすればその最たるものが筋肉だ!
 どれだけ筋肉を付けても大砲には勝てない?軍勢に囲まれれば負ける?誰が決めたのだそれは!我輩ではないぞ!
 強力な武器、統率された組織、そんなものは筋肉のない者が追い詰められて見つけ出した逃げ道に過ぎぬ!
 真に磨き上げた肉体ならば!鍛え上げた拳ならば!数の利を覆し砲弾だって跳ね返せる!!」
0295ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:45:44.66ID:NJZYvVHR
「……妄言だな。歴史があんたを否定してる」

「ならばこれから証明して見せよう。砲弾よりも強き拳。その為に、吾輩は今日まで鍛えてきたのだ」

ノーキンは拳を引いた。
腰を深く落とし、肉体のバネを全て一振りの拳に注ぎ込む正拳突きの構え。

「そうかよ。なら良い夢見てくたばりな」

盗賊風は眩しそうに両眼を歪めて、攻城砲の引き金を引いた。
瞬間、音が消え、光が瞬く。炸裂術式が起動し、その爆圧が鉄塊を砲身から追い出した。
吐き出された砲弾は音を置き去りにして飛翔し、狙い過たずノーキンへと迫る。
着弾の刹那、限界まで引き絞られた偉丈夫の拳が迎え撃つように伸び、二つの質量は重なった。

「ノーキン・エクスプロージョン☆フィストォォォォォオオオオッ!!」

置き去りにされた音が追いついた時、爆風の嵐が工房内を駆け巡った。
風はやがて一点の出口を見つけて外へと吐き出される。余波で工房の壁に空いた大穴だ。
耳鳴りを残す爆音と、息も据えない砂埃とが途絶えたあと、耳障りな金属音と共に何かが崩れ落ちた。
それは砲身のへしゃげた攻城砲。握る手を弾き飛ばされた盗賊風は、ただ呆気にとられて床に尻をつけていた。

ノーキンは五体満足で立っていた。
十字括りの金針は全て吹き飛ばされ、自由の戻った今も動くことができないでいる。
その右腕は、拳を中心に夥しい裂傷が刻まれその全てからの出血がひび割れた床を赤く染めた。

「ノーキン!!」

ケイジィが叫ぶ、その声に答えるようにノーキンは首だけの動きでこちらを向いた。

「ううむ。まだまだ鍛え方が足りぬようだ。吾輩も修行のし直しだな」

指先の骨が残らずひしゃげて、原型を保っているのが奇跡のような右拳を見ながら彼はそう呟いた。
そして首を戻した視線の先には、拳の形に大きく潰れた砲弾の成れの果てが転がっていた。

「これで一つの事象が証された。我が拳と攻城砲の砲弾は……今のところ、互角であるな。
 そしてもう一つ私見として明らかになったことがある。――砲弾は、素手で殴ると、超痛い」

「空気呼んで黙ってたけどホントに馬鹿じゃないのノーキン!あっ今引いてる!今ケイジィすごいドン引きしてるよ!どーしよ!」

「ドン引きという感情まで再現するとは人形の分際で僭越である」

「デリカシいいいいいい!」

豪風は彼の纏っていた外套をも吹き飛ばし、固められていた髪が乱れている。
固めた髪の中にしまっていた耳がぴょこりと顔を出した。
長く、尖った耳。エルフの耳だ。

「え、エルフ……?あんた、その筋肉で、エルフ……!?」

盗賊風はこの世の終わりでも見たような表情でノーキンの耳を指差した。
平静を装うヒュミントを試みたがあまりの驚愕に正気度を削られファンブルした。

「おうとも、我が名はノーキン・ソードマン!ハイランド連邦旧家が一つ、ソードマン家の嫡子!
 由緒正しきエルフの血筋であるぞ!!」

「そしてその相棒、殺戮の魔導人形ケイジィちゃん!二人合わせて……なんて呼ぼっかノーキン」

「決まったら教えろ」
0296ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:46:29.50ID:NJZYvVHR
盗賊風は巨大な何かに打ちのめされたようなショックで暫し放心し、歴戦の戦士としての才覚が気絶を押し留まった。
とりあえず自分の中に起きようとしているとてつもないセンセーションを押さえ込む為に、
「世界って広いな」という身も蓋もない結論で自我を保つことに成功した。

「ああああ!?なんてことしてくれてんだあんた!」

解体屋が少女のような悲鳴を上げた。
何事かと見てみれば、工房に備えてあった解体用の機材が押し花のように綺麗に潰れていた。
その上には、ノーキンの拳跡がくっきり残った砲弾の残骸が我が物顔で鎮座している。

「機材がめちゃくちゃじゃないか!どうしてくれるんだこれ専門機器だから一品モノなんだぞ!」

「む。これは相済まないことをした。しかしそこの金剛竜を売り払えば釣りが出るだろう。弁償はそこから差っ引いてくれ」

「だから!その金剛竜を解体する機材が潰れてるんだよ!オリハルコン並の強度を解体できるのはうちの機材だけだぞ!!」

「むむ……」

「それ以前にな!機材壊れちまったからいつ終わるかも分からない修理完了までうちは閉鎖だ!
 この街で一日何億の金が動いてると思ってんだ!この経済損失!休業補償!!どうしてくれる!?」

「むむむ……」

解体屋の怒号に押されて大砲相手にすら退かなかったノーキンはじりじりと後ずさった。

「は、半分はこやつらのせいであろう!弁済義務を負うのは吾輩だけではないはずだ!」

「ええ……」

ケイジィが再びドン引きしているのを尻目に、中年エルフは冷や汗を流しながら盗賊風達を指差す。

「あ、うちはギルドから補償出るんで」

「なんだと……!」

盗賊風は我が意を得たりとばかりに口角を上げた。
これもヒュミントではない(念の為)。

「自営はこーいうときつれーよなぁオッサン。ギルドは儲けが等分なら責任も等分!
 分かるかこいつが素晴らしき社会のシステムって奴だ。歯車ライフサイコー!」

ノーキンは解体屋の射殺すような目付きと、ケイジィの白眼視、盗賊風の嘲笑に挟まれて子犬のように縮こまった。
しばらく両面焼きの卵のような気分を味わいながら黙考して、盗賊風の方を首だけの動きで向いた。

「うわ、その動きやめろよ気持ちわるいな」

「貴様の提案に乗ろう」

「ああ?いつの話まで遡ってんだそれ」

ノーキンは今まで見たこともないような苦渋の表情で言った。

「……仕事を紹介してくれ」

ハイランド連邦首府・ソルタレクの冒険者ギルドがユグドラシア襲撃へ向けて兵を挙げる三日前。

ノーキン・ソードマン(143)。


就職。
0297ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:47:10.80ID:NJZYvVHR
とても簡単なキャラ解説:
どこからか指環の情報を聞きつけ入手を狙う二人組の冒険者。
魔法を使えない中年筋肉エルフのノーキンと荒野もゴスロリで旅する謎の少女ケイジィ。
冒険者ギルドに所属しないいわゆるモグリの二人だが、独自の情報網で指環の在り処を追跡している。
豪快かつ後のことを全く考えない戦い方の為、彼らの通った後は台風一過のように滅茶苦茶。


名前:ノーキン・ソードマン
年齢:143  性別:男
身長:195  体重:100
スリーサイズ:筋骨隆々マッチョマン
種族:エルフ
職業:冒険者/元ハイランド連邦宮廷武官
性格:豪放磊落ハイテンションおじさん
能力:魔力と拳法を組み合わせた全く新しい格闘術『能筋拳(マジックマッチョアーツ)』
武器:エーテルメリケンサック
防具:世界樹の植物繊維で織ったフンドシ
所持品:上記フンドシと同じ材質の意志によって形を変えるマント
容姿の特徴・風貌:フンドシ一丁にマント、ドミノマスクとかなりヤバげな見た目の大男

簡単なキャラ解説:
エルフに生まれながら魔法を一切使えず代わりに己の肉体を極限まで鍛え込んでいる筋肉エルフ。
元はハイランド連邦の高官だったがある事件を境に出奔、富と名声を求めて冒険者に転身する。
細かいことを気にしないガハハタイプの豪快な男に見えて、名家の生まれで教養もあるそれなりのエリート。
人間の妻と一人娘がいたが、娘とは死別しておりその件で妻とも別居中。娘は生きていれば18歳になる。
魔法は使えないもののエルフの魔力は健在で、鍛え上げた身体を更に強化し老いを防ぎ傷を癒やすことに特化している。
独自に編み上げた『能筋拳』は通常の拳打や関節技に加え、拳に纏った魔力の塊を常軌を逸した拳速で打ち出すことにより、
大砲並の威力と射程を持つ強烈な必殺技と化している。
その戦闘能力は高官時代に敵国から送り込まれた暗殺者を後詰めの部隊ごと叩き潰すほど。
古竜の復活に際し、指環の強大な力を我が物とせんと相棒の魔導人形ケイジィと共に旅をしている。
好物は猪の肉だが野菜ばっか食ってるエルフの貧弱な消化器官ではお腹を壊すので整腸のポーションを愛飲。


名前:ケイジィ
年齢:起動から3年  性別:女性型
身長:145  体重:65
スリーサイズ:細身の少女(15歳相当)
種族:骸装式魔導人形
職業:冒険者/元ダーマ王属特務"SOR"所属暗殺者
性格:純粋無垢かつ残虐非道
能力:身体の各所に仕込まれた魔術武装、ステルス魔術
武器:仕込み短砲、仕込み毒ナイフ、火炎放射器、ワイヤー他
防具:防御魔術の施された瀟洒な衣服、肌も特別製なので頑丈
所持品:魔術によって巨大化したり自律駆動するウサギの人形
容姿の特徴・風貌:銀髪に白いゴスロリ衣装の少女。耳がヒトより少しだけ長い

簡単なキャラ解説:
ダーマ魔法王国の外法によって死体から造られた『骸装式』の魔導人形。
同国の暗部で汚れ仕事を請け負う特務機関"SOR(太陽の聖典)"が敵国要人の暗殺用に製造した。
容姿及び人格は元となった死体に準拠するが、記憶の殆どは封印され文字通りダーマの傀儡人形である。
機関におけるコードネームは『KG-03(キラーガイスト三号)』。
華奢で可憐な容姿と純粋な性格で油断させ相手の懐に潜り込み、対象を殺害した後はステルス魔術で身を隠し脱出する設計。
特にステルス魔術は強力で、魔力の気配さえも隠蔽できる為に普通に戦ってもそこそこ強い。
ハイランド連邦の政府高官を暗殺すべくノーキンの元に送り込まれたが返り討ちに遭い、その際の戦闘でSORも壊滅している。
拠り所を喪ったKG-03はノーキンによって"ケイジィ"の名前を与えられ、その後は彼と行動を共にする。
自分の出自は理解しているが生前の記憶がないため割りとあっけらかんと第二の人生を歩んでいる。
好物はハイランドの元気な魔鋼蟲を澄んだ機械油でカリカリになるまで揚げたもの。
0298ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:48:28.66ID:NJZYvVHR
【魔術学園都市アスガルド近郊】

冒険者ギルドの命によりアスガルドに出立したユグドラシア襲撃部隊(本隊)は、馬車編成10車にもなる大規模な集団だった。
実働要員としては数にして実に100人。その殆どがギルドの最下層で燻っていたゴロツキ紛いの冒険者達だ。
練度はともかく職種には富んでおり、剣士に魔導師、レンジャーハンターシーフから遊び人まで、
どこのパーティにも及びがかからなかったお茶引き同然の連中に雇用を創出する為の公共事業とさえ揶揄されていた。
主に揶揄していたのはケイジィである。

ギルドマスターより特別に仕立てられた長距離仕様の馬車に溢れんばかりに詰め込まれた冒険者達が、
己が暴力を思う様振るうときを今か今かと待ち続け、そのボルテージは最高潮に達していた。

「ヒャッハー!戦争だあああ!」「殺せ奪ええええ!」「男は殺せ!女は犯せ!」「どっちでもない奴は?」「お友達になりたい!」

「すごいねあの人たち!3日間ずっと同じことで盛り上がってるよ!ユグドラシア着く前に疲れちゃわないかなあ!!」

舗装の行き届いていない馬車道を車輪が跳ねる度にガタガタ揺れる車内。
騒音まみれの環境に、隣で喋っているケイジィの声もだんだん怒鳴るようなテンションになっている。

「……はぁー」

対照的にノーキンはずっと車内で巨大な身体を丸めながらため息をついていた。

「ちょっとノーキン!3日間ずっと同じことで盛り下がってるじゃん!ため息つくと幸運逃げるよ!?
 もうだいぶため息つきまくってるから幸運逃げ切って幸運気圧に差が生じて幸運大嵐が起きちゃうよ!すごいね気象学!」

「吾輩、なにをやってるんだろうか……」

「それ三年くらい前に考えるべきことだったよね!ホントこの三年間半裸で大陸ぐるぐる旅しかしてなかったもんね!」

「己の拳のみに頼みを置く無頼にして孤高の風来人、それが吾輩だったはずだ……それが何故ギルドの下働きなど……」

「しょーがないじゃん!借金返済しなきゃでしょ!ほぼほぼノーキンのチョンボだもん!解体屋さんカンカンだったよ!」

「それにしたって何故ユグドラシアなのだ……吾輩あそこすごく苦手であるぞ……」

解体屋粉砕事件の後、盗賊風の冒険者によって紹介された仕事がこのユグドラシア襲撃だった。
エルフ族にとってユグドラシアは単なる学術機関以上の意味を持つ、言わば宗教上のアンタッチャブルに近い場所だ。
当然ノーキンは反駁し、辞退しようとしたが、直近で大きく稼げる仕事はこれしかないとのことであり彼に拒否権はなかった。
それどころかギルドの幹部に近しい盗賊風がかなり好意的に(あるいは悪意を持って)ノーキンに高評価を付けて紹介した為、
あれよあれよという間に彼はこのごろつき愚連隊の音頭取りにまで祭り上げられてしまった。

「もー!いい加減切り替えなよノーキン。それにユグドラシアに行くのは仕事だけじゃないでしょ」

「……『指環』か」

如何なるギルドにも属さない彼らが冒険者として探索や魔物討伐をこなせるのは、ギルドとは別口の情報源があるからだ。
そしてノーキン達は何も無軌道に大陸をブラブラしていたわけでは……まあちょっとはあるが、明確な理由がある。
古竜復活に際し、世界各地で目覚めた7つの『指環』。所有する者に人知を超えた超越者としての力を約束する伝説の魔導具。
彼らはそれを求めて三年の間旅をして、しかしその一つも手に入れることは叶わなかった。

現在、ノーキン達が捕捉している指環の所在は4つ。
ヴィルトリア帝国南部はイグニス山脈に眠ると言われる古代都市の炎の指環。
帝国領海の深く海の底に沈んだ都市ステラマリスの水の指環。
ハイランド連邦アスガルド近郊に在するテッラ洞窟の大地の指環。
残る一つはソルタレクのギルドが保有していると噂されているが、詳細は掴めていない。

いずれにせよ、ノーキンとケイジィはどの指環においてもタッチの差で獲得を逃している。
ステラマリスに至っては海底遺跡探索中(素潜り)にいきなり海溝が隆起して危うく巻き込まれて死にかけた。
だが指環が精霊と共に在所から消えているということは、それを持ち去った者が確かにいるはずなのだ。
0299ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:49:13.47ID:NJZYvVHR
盗掘者か、あるいは正当なる継承者か。
まだチャンスはある。ようは全て揃う前に持ってるところから買い取るなり……奪ってしまえば良い。
盗掘品の獲った盗られたなど冒険者の間ではよくある話だ。同様の手段に訴えることに呵責はなかった。
そして、テッラ洞窟の指環に関しては地理的にも近い学術機関のユグドラシアが保有している可能性は極めて高い。
仮に現物がなくとも、なんらかの手掛かりは掴めるはずだ。

「ソルタレクのマスターが指環持ってるっていうのがマジバナなら、ここで功を立てて恩を売っとこうよ」

「うーむ、うむむむ……」

ノーキンは暫く腕組みして唸っていた。そうしている間にもごろつき共を積んだキャラバンはアスガルドに近付いていく。
やがて、街の城門が見えてきた頃、ノーキンはやおら立ち上がりそのまま屋根を突き破って首から上を外に出した。

「うわっ!その図体で極端な動きすんのびっくりするからやめてよホント!」

「吾輩やる気が出てきたぞ!そうとも、何を迷う必要あらん!
 この拳で全てを打ち砕き、然るのちに瓦礫の中から指環を掘り出せば良い!」

ノーキンはそのままぐるりと反転、馬車から生えた生首が後続の全隊へ向けて号令する。

「全隊へ告ぐ!実働隊は事前の取り決め通り三隊に別れ行動せよ!
 第三隊(40人)!アスガルド市内にて敵地上戦力の漸減にあたれ!敵は術士集団、対魔法機動を怠るな!
 第二隊(30人)!飛翔魔獣に騎乗し航空支援!アスガルド上空から敵勢力への弓射を行え!街と農地は国家の財産だ、傷を付けるな!
 まずは上下の波状攻撃によりユグドラシアを丸裸とするのだ!
 そして第一隊(30人)!――他2隊の陽動を得て吾輩と共に地上から街を突っ切り、ユグドラシアを制圧する!」

飛翔魔獣アルゲノドンはギルドマスターがこれも特別に用意した騎乗クラスの為の航空戦力だ。
速度はそれほどでもないがとにかくタフであり、長く飛べる為に正規軍の航空騎兵にも採用されている非常に高価な獣畜である。
追従する馬車の一つから僧侶風の冒険者が顔を出して問うた。
彼は第一隊の隊長ザギン。優れたプリーストでありながらおっさんという理由で色ボケパーティ共から爪弾きを食らった男だ。

「総隊長、市内へ進軍ったってどうやって街に入るんスか?
 先んじて潜入した斥候部隊も全滅したって言うし、内部から開けてもらうこともできないっスよ」

「案ずるな。出入り口は吾輩が作る」

「ええ?アスガルドの外壁ってユグドラシアの魔法防御でとんでもない頑丈さらしいじゃないスか。どうやるんスか?」

「殴って壊す」

ノーキンは馬車の内側で両拳を合わせる。金属音が鳴り響いた。
前回素手で砲弾殴ってすごく痛かった教訓から、裸拳を身上とする彼が信念を曲げてまで用意した武器。
拳を保護するエーテルメリケンサックだ。

「……はぁ。まぁ期待しとります」

ザギンはそれだけ言って馬車の中に引っ込んだ。
前方、アスガルドの町並みが森の奥に見えた。しかしここで馬車隊は左へ舵を切る。
街道を逸れ、馬車が辛うじて通れる程度の獣道へと入っていく。

「総隊長!城門あっちッスよ!?」

「門など不要!街に入るには門を潜るなどと決めたのはどこの誰だ?我輩ではない!!」

やがて馬車隊は森を抜ける。一気に視界の開けたここはアスガルド外苑の農業地帯だ。
眼前には見上げるだけで首の痛くなりそうな巨大な白磁の外壁がそびえ立っていた。
ノーキンは首を抜き、馬車の上へとよじ登る。全力疾走する幌の上に驚くほどブレない体幹で仁王立ちした。

「吾輩にとってはこの壁の全てが扉よ!そして鍵は――我が拳だ!!」
0300ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:50:07.77ID:NJZYvVHR
腰を落とし、重心を低く、握った拳を胸より後ろに引き絞る。
嵌められたメリケンサックに輝きが灯る。無論これも単なる鋼鉄の保護具ではない。
マスターから支給された支度金で買った、装用者の魔力で仮想の装甲を作り出す魔道具・エーテルメリケンサック。
無論常人が用いれば単に武闘家が防御範囲を広げる為の防具に過ぎないが、ノーキンの拳速と合わされば。

「ノーキン・マスターキー☆スラッガァァァァァアアアアアッ!!!!」

――装甲部分があまりの拳圧に切り離され、魔力の塊として飛んでいく、すなわち砲弾である。
吹き付ける走行風の全てを巻き込み常軌を逸した速度で打ち出された魔力の塊が、白磁の壁に激突する。
轟音と共に外壁の破片が飛び散り、巨大なクレーターが生まれた。
しかしげに恐ろしきはユグドラシアの建築技術、アスガルド外壁は一度や二度の砲撃で破れるものではない。

「さらにもう一発!」

なのでもう一発撃った。

「さらにさらにさらに!!」

何度も撃った。

「さらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらぁぁぁぁにッ!!!」

都合50発近い間断なき砲撃に、数百年もの間外敵ついに外壁の向こう側が見えた。
開いた穴は馬車が一台どうにかして通れる規模。正規軍ならともかく、この愚連隊には十分だ。

「我が拳!完☆全☆勝☆利ィィィィィッ!!」

「うーんこれ拳かな……?拳って言っていいのかなこれ……?」

トップスピードに乗ったまま縦列に並んだ馬車はそのまま街の中へと侵入を成功させた。

「うそだろ……ホントに外壁破っちまいやがった」
「あんぐりしてる場合じゃねえ!第三隊、出るぞ!」

外壁の内側で停車した馬車から、40人の冒険者達が次々と飛び出して行く。
それぞれが手に剣や槍、戦斧にメイスを持ち、雄叫びを挙げて大通りへと進撃していく。

「ボサっとしてんな!第二隊出撃!!」

馬車の幌が取り去られ、格納されていた飛翔魔獣アルゲノドンが耳障りな鳴き声を上げる。
その背に取り付けられた鞍に弓兵クラスの冒険者達がまたがり、町並みを超えて飛び立っていく。
彼らには火矢の他用意できた少量の爆弾を持たせてあり、ゴーレムが出てきても対抗は可能だろう。

「では諸君、健闘を祈る!第一隊、吾輩の後についてくるが良い!」

遠く、街の大通り方面では既に交戦の声が聞こえる。
対応が早い。ユグドラシアの術士の優秀さは無論、斥候部隊が全滅したことで敵も既に臨戦態勢を完成させていたようだ。
ノーキン以下30人からなる潜入部隊は、地上部隊が敵をひきつけてくれている間にユグドラシアへと向かう算段だ。
0301ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/05(日) 14:51:48.26ID:NJZYvVHR
「おお懐かしき街の灯よ!彼方に見えるユグドラシアの威容よ!この神聖なる学び舎はこれより蹂躙されるのだ!
 こんなにも悲しく心躍ることがあるだろうか?多分たくさんある。吾輩は山ほど知っているぞ!羨ましいかね!!」

ノーキンは支離滅裂な謎の勝利宣言をしながら、ユグドラシアへ向けて両の拳を掲げるファイティングポーズをとった。

「何やってんのノーキン。見えない敵でもそこにいるの?」
「見えない敵はどちらかと言えば貴様のほうだろうケイジィ」
「そーでした。ステルスあるもんね」

「これは吾輩なりの儀礼だ。昨日までに死んだ者達、今日この戦いで死ぬ者達、明日死ぬかも知れない者達。
 彼らに対し吾輩は生存競争を仕掛け、そして今日まで勝ってきた。今日も勝つ。明日も勝つ。明後日もだ」

「なるほど。じゃあケイジィもやるね」
「貴様がする必要はない」
「ええー?なんでなんで?」
「指環が全て集まれば理由を教えてやろう」
「そか。じゃあ頑張んないとね」
「うむ」

ポーズを取り終えたノーキンは麾下の部隊へと再び号令し、ユグドラシアへ向けて進撃を始めた。
アスガルドはユグドラシアを中心に発展した街だ。全ての道はユグドラシアへ通じている。
歩けばそこへ辿り着く。いつかは、そして必ず。

『待て!表通りに現れた武装集団と同じ装備、仲間だな!?』

いくつかの目貫通りを超えたところで、家屋ほども背丈のあるゴーレムが立ちはだかった。
岩造りの巨人からは若い声が響く。おそらくこれを操っている学生か何かであろう。

『ユグドラシアに近づけさせるものか!お前はここで止める!』

接敵にいきり立つ部隊の冒険者達を片手で制して、ノーキンは一歩踏み出した。

「よかろう、吾輩を止めてみせよ!ゴーレムの出力と我輩の筋力、力比べをしようではないか!」

ゴーレムの主はおそらく初めての戦闘なのだろう。
もはや言葉による警告をすることなく、ゴーレムの豪腕――馬一頭分はあるそれを打ち下ろした。
ノーキンはそれを片手で止めた。

『な……!』

「貴様に足りぬものは二つ。一つは上腕二頭筋の筋繊維量、そして――」

そのままゴーレムの腕を掴み、あろうことか自らの肩を梃子として投げ飛ばした。

「――腕橈骨筋だァァァッ!!!」

「どっちも筋肉じゃん!!」

ケイジィの指摘も虚しくゴーレムは宙を舞い、路面に激突して砕け散った。
ノーキンは意味もなく自分の裸体をはたき、汗で張り付いて落ちるわけもない埃を気にしながら前方の学び舎へ向き直す。

「さぁ、征くぞユグドラシア、魔法の殿堂。あらゆる知慧の集う場所よ。
 頭でっかちの貴様らに――吾輩が肉の付け方を教えてやる」


【お待たせしました!】
【ノーキン&ケイジィ、そしてソルタレク麾下の冒険者集団100名がアスガルドへ侵攻】
【表通りで40名が陽動の為に交戦中、30名が航空戦力として上から矢と時々爆弾落としてます】
【ノーキンは30名の部下達と表通りの戦闘を避ける形でユグドラシアへずんずん向かってます】
0302ティターニアin時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc 2017/02/06(月) 23:30:25.46ID:fUcyikt3
ノーキン殿大作導入大変乙であった! 指環がなんか途中で増えそうだな〜という予想通り当初の想定より増えて草
オークの集団殿も支援かたじけない。今章は特にあんな感じで単発ネタ振りもしやすそうなので歓迎するぞ
こちらは次はパトリエーゼ殿だがまだパーティーに正式加入もしてない状態でノーキン殿のレスを直接拾うところまでもっていきにくいようなら
とりあえず自キャラ周りの出来事で回してもらっても大丈夫だ。皆でもっていくので!
0303パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/07(火) 15:32:01.22ID:YVxtoF6L
>「はいはい、とりあえず壁に体預けて、座って。ふらふらじゃないですか」

あ、なんか人柄の良さそうな子があたしを椅子に座らせてくれた。

「う、うっそ……これ美味しい! おかわりは? おかわりはある?」

恥ずかしいことにものの数十秒で平らげてしまった。
これであたりが大食らいなのがバレる!

おまけに一番壊そうだったハーフオークのジャンさんも、黒パンを差し出してくれた。
スープがなくなってからも、あたしは図々しくも黒パンをおねだりして、沢山食べた。
まだお腹が空いてたけど、そろそろ眠くなってきたし、いいや。

ラテさん。世話をしてくれた女の子は、背は頭一つ小さいけど、
大体あたしと同じぐらいの年齢だろう。
と、他に食料が無いかどうかキョロキョロしている間に、聞きたくもない言葉が飛び込んできた。

>「話を戻しますね。ミライユさんの言葉を信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは、アサシンギルドを併合してます。
 ……ま、どうせ少しばかしレンジャーの技術を齧っただけの、ちゃちな殺し屋集団でしょうけどね」

「み、ミライユ、アサシン、ソルタレク、ギルドぉ……」

それを聞いただけであたしの脳裏にはあの日の光景が蘇ってくる。
エーテル教団、黒犬騎士団から逃げ出し、当てもなくソルタレクの街中を彷徨っていたところ。
冒険者ギルドというものの存在を知った。

そうだ、あたしは今まで姉さんや兄さんによって“鍛えられ”ている。
きっとここにいれば稼いで凌ぐことぐらいはできる。

そう思ったのが間違いだった。
ギルドの内部はブラック化が進み、内部組織は腐りかけていて、それを更に間違った方向に修整しようとしている勢力もいた。
そして、“鬼”をそこで見た。

ミライユ。思い出したくもない名前。聞いただけでも背筋が震えてくる。
謎のギルドマスター崇拝は下手なエーテル教団の狂信者にも優り、その二重人格は
あたしにとって三度目のトラウマを植え付けさせられることになった。

目の前でなすすべもなく一撃、一撃が骨を折り、脳天をかち割り、命を奪っていく。
あたしはそこからただ逃げることで精一杯だった。そして、もう“組織”というのを信じるのを止めた――
0304パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/07(火) 15:33:00.00ID:YVxtoF6L
――『無限に広がるエーテリアル世界』――

エーテル教団では国境の存在自体を忌み嫌い、「世界は一つ!」という信念を大事にする。
分かり易い教義は子供でも幼少期から洗脳しやすい。
姉さんたちの教えは理解はできた。でも、教団はそのために各地で暗殺を行ってきた。

あたしは姉さんによって沢山の薬を飲まされ、そして魔法の撃ち合いによって鍛えられた。
それを「エーテル力の強化」と姉さんは言ってた。姉さんは優しかったけど、周囲はあたしの信仰への葛藤を見逃さず、
陰口や暴力を振るった。それでもあたしは逆らわなかった。姉さんが傷つくから。

教団の任務では圧倒的な魔力によりその集団一つの存在を葬り去る。酷い場合は村ごと無かったことにする。
そして教団の支部を立ち上げるためにあらゆる手段を使う――それにあたしは……えっと。

目が覚めた。

>「女、女、女〜♪」「おゥ!強盗ダァ!お前ら女は武器を捨てて壁に手を付けェ!モノ盗だァ、殺しやシネェ」
「ティターニア!っテェのは「天国」ミテェな意味カァ?」
「聞こえネェのカ?壁に手をついてケツこっち向ケロ、できればパンツも脱いどケ。あ、そこの男はこっち来ナ」

「…んー、……あっ、えぇぇっ!!?」

テーブルに突っ伏して寝ていたら、突然部屋にオークが。
それも明らかにさっきまで居たジャンさんとは雰囲気が違う。まさか、敵?
パンツを脱がせるような連中が敵じゃない訳がない。
あたしは……とりあえず後ずさりして、壁に手をついた。オークの一人が早速あたしのところに来る。
薄汚く欲望を爆発させながら……!

この光景には見覚えがある。――兄さんのところだ。
黒犬騎士団では兄さん――アドルフの周囲以外はいわゆるならず者の集まりだったんだ。
兄さんは冷たかったけど、必ず危なくなったら助けてくれた。
あたしに殺人に関する任務はさせなかったし、ならず者たちに暴力を受けていると、必ず助けてくれた。
それによって何人かが目の前で殺されていった。

あたしはそこまでして生き残りたくはなかった。
できればあそこで終わっておけばよかったんだ。
でも――

あぁ、また…あたし、意識が飛んでる。
0305パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/07(火) 15:35:40.57ID:YVxtoF6L
>「――黙ってろッ!」
>「パトリーヌ殿! 危ない!」

ジャンさんとティターニア師の叫び声で再び目を覚ますと、
さっき襲おうとしていたオークたちがあっという間に死体になって転がっていた。
そしてその頭が爆発。
あたしの衣服にも、その血しぶきや脳漿が降りかかって汚れる。

「あぁ……あ、ありがとう、皆さん」

情けなくもうつ伏せの格好で、ジャンさんたちの方を見上げる。
またここでも助けられてしまった。

ドゴオォォォォン…!

外で物凄い轟音が聞こえ、こちらに響く。あたしは「ティターニア!」と書かれた扉の外に出た。
まるで「スティッチ!」のような響きでティターニア師がこの学園内でマスコット的なキャラクター扱いされているのかは分からなかったけど、
きっとこの人は人望があるんだ。

と、その扉から見える中庭では、多くの導師や学生たちが空中にいる何かに対抗して魔力を増幅させている。
飛翔魔獣アルゲノドン。この魔獣は単独でも中位の魔物以上と言われているけど、人が使役することによって
その能力を爆発的に上昇させる。
「エーテル教団」でも見たことがあった。

これは…間違いなく“戦争”だ。

ふと、その近くに協力なエーテルの気配に気付く。杖を振りかざしてみると、
そこには空中に浮遊する直径2メートル以上の大きな透明の魔方陣があった。
それは「エーテル教団」でも何度か見たことがある。

「ワールドノット! これは、それにオークの臭い……!」

この仕掛けからオークが潜入してきたことは確かなようだ。とりあえずこれだけでもと思い、
あたしはなけなしの魔力をエーテル力に置き換え、その魔方陣を“相殺”した。
エーテルの力は火・水・風・地・光・闇のどの属性にも含まれない、「虚無(ヴォイド)」の属性と言われている。

そちらに集中していると、さっきあたしを助けてくれた三人が、「ティターニア!」の看板のところから顔を出し、
様子を見ているところだった。
とりあえず第一報を報告しなくちゃ。
教団が何らかの形で関わっているのは間違いない。
私の考えは当てずっぽうでしかないけど。

「敵の集団がここを襲撃しているみたい! 「エーテル教団」の名前を知りませんか?
ティターニア師、恐らくは彼らはその構成員じゃないかと思います!
上からだけじゃなく、建物の方からも…数は、たぶん100人近く!」

そしてもう四回目だ。今度こそは命が無いかもしれない。本当のことを話さなくては。
まだこうして自由が利くうちに。

「あたしの本名はパトリエーゼ・シュレディンガー。
教団の幹部で“黒曜のメアリ”と呼ばれたあのメアリ・シュレディンガーの妹です。
怖くって教団から逃げ出してきたの。お願い、何でもするから、あたしに居場所をください。
そして…みんな、“友達”になって! 裏切られてばかりで怖いの!」

涙を流しながら、あちこちで悲鳴が上がる中で、あたしは膝をついて三人にお願いした。


【パトリエーゼが仲間になりたそうに三人の方を見ています。仲間にしてあげますか?】
0306 ◆ejIZLl01yY 2017/02/08(水) 03:07:25.38ID:onk2pPi/
……ジャンさんとティターニアさんは、私の心境の変化を察しているようだった。
確かに……自分でも少し、過激な方向に傾いている……そんな気はする。

でも……このアスガルドの平穏と、それを壊そうとする人達の命。
それらを天秤にかけるなら、どちらを重んじるべきかは明白だ。

命を天秤にかけるなんて、と思うと……胸が苦しくなる。
だけど、指環を巡る戦いに挑むのなら、それは避けられない。
究極的には、自分の命か、敵の命か……その二つを天秤にかける事になる。

だから私は、殺してしまっても構わないと、覚悟を決めた。
それは……間違っているのかな。

ジャンさんとティターニアさんは……もう少しだけ、私に悩んでいられる時間をくれた。
それはすごく、ありがたい事だ。
だけどこの時間は……少しだけ、重くて、息苦しい。

>「ティターニア!これ女の名前じゃねェノ〜♪」「いちいち叫ぶなってのうるせェ、一応任務だ静かにやんゾ」

不意に聞こえる、扉を破る音。品性を感じさせない喋り声。
オークの集団……内部で混乱を起こさせる為の、工作員か。

扉のすぐ傍にいた助手さんに棍棒が振り下ろされる……。
だけど彼らホビットは大河に生まれ、山に生きる民。
決して好戦的な訳ではなく、むしろ戦いを好まない種族だけど……だからこそその視力は、敵の接近と動きを見逃さない。

流れるような動きで棍棒を躱し、【スニーク】で身を隠し、オーク達の脇をすり抜ける。
更に【ファントム】の置き土産……流石ティターニアさんの助手さん、お見事な体捌き。

オーク達は……いや、私もオークの外見とか体格とかよく分からないけど、多分あんまり鍛えてないんだろう。
何故なら同じオークのジャンさんが三対一……もうニ対一だけど、圧倒してるから。

あとジャンさんの攻めがとんでもなく苛烈。
この人、結構怒りが動きに出やすいよね。
けどそれが隙ではなく、純粋な爆発力として表れているからすごいんだよなぁ。

と……なんだかお二人だけで軽くのせちゃいそうで、私は動き出すタイミングを逃していた。

……いや、ホントは違う。私は、迷ったんだ。
いざ敵を目の前にして……殺すべきか、倒すべきか、迷った。
だから動き出せなかった。

……こんな調子じゃ、駄目だ。
しっかりしろ私。守るどころか足手まといになっちゃうぞ。

>「パトリーヌ殿! 危ない!」

襲撃者の一人がパトリーヌさんにクロスボウを向ける。
私は……流石に、もう呆けてはいない。
後ろ腰から【秘刀カムイ】を抜き、一振り。

その切っ先から伸びる、白昼のように眩い炎の剣閃は……まるで『流れ星』《ブルームスター》
この長く、質量を伴わない刃なら、私でも軽く矢を切り払えちゃう。

カムイを手に入れるまでは?予言の石版(盾)が大活躍してました!
これも間違いなく呪われたアイテムだけど、長く使ってるとなんか愛着湧くよね。
この子最近いいとこなしだし、使ってあげないとなぁ。
0307 ◆ejIZLl01yY 2017/02/08(水) 03:10:04.48ID:onk2pPi/
ともあれこれで、襲撃者は全員無力化……

>「うええええええええん! メアリーちゃぁああああああん! スーちゃぁあああああああん!!」

不意に、扉の外から叫ぶような慟哭が聞こえた。
慌てて廊下に飛び出す……そして振り向いた私の視線の先に、二人の少女が横たわっていた。
その傍らには、二人に縋り付いて泣く、男の人……。

気が付けば私は『カムイ』を抜いて、オーク達を振り返っていた。
頭が爆ぜ、無残に転がったオーク達の死体を。

「よくも……!」

何を、何をお前達は死んでいるんだ。
自分達が犯した罪の償いもせずに……いや、今からでも償わせてやる。
死体を傷めつけて、首と一緒に外壁に吊るして、そして外に放り捨ててやる。
そうすればソルタレクから来る本隊の指揮も大きく削げる。一石二鳥だ。

私は手元のカムイに視線を落とし……そこに映る私の両眼は、赤い光を宿していた。

驚いて、カムイを取り落とす。
慌てて拾い上げて再び両眼を映す……普通の、眼だ。

気のせい、だったのか?
あの、まるでネズミのような赤い眼は……ジャンさん達には、見られただろうか。

確認する勇気は出なかった。

さっき見た、廊下で横たわる少女は、ゴーレムだった。
血は流れていなかったし潤滑油の独特な臭いもしてたけど、少し距離があったから、一目でゴーレムとは確信出来なかった。
一瞬、もしかしたら本当に人なのかもと思った。

その一瞬で……私は我を忘れていた。
……どうしちゃったんだ、私。

>「敵の集団がここを襲撃しているみたい! 「エーテル教団」の名前を知りませんか?
ティターニア師、恐らくは彼らはその構成員じゃないかと思います!
上からだけじゃなく、建物の方からも…数は、たぶん100人近く!」

不意にパトリーヌさんが大声を上げた。

「……落ち着いて下さい。首府からアスガルドまでは、かなりの距離があります。
 大軍で来るとなれば、時間はもっとかかりますよ」

どうやら錯乱しているみたいだ。
……さっきの襲撃だけが原因じゃなさそう。
こんな若い女の人が行き倒れ寸前の、物乞いみたいな事をしているのは、それなりの理由があるんだろう。

>「あたしの本名はパトリエーゼ・シュレディンガー。
 教団の幹部で“黒曜のメアリ”と呼ばれたあのメアリ・シュレディンガーの妹です。
 怖くって教団から逃げ出してきたの。お願い、何でもするから、あたしに居場所をください。
 そして…みんな、“友達”になって! 裏切られてばかりで怖いの!」

エーテル教団……大陸各地で執拗なテロ活動を繰り返している邪教だっけ。
表向きは穏やかな信仰を掲げてるけど……
ある日突然、一つの組織や村が破壊工作を受け、暫くするとそこに教団の支部が立つ。

そんな事を何度も繰り返してるみたいだから……まぁ、アイツらヤバいって子供でも分かるよね。
最近じゃ各国当局の監視対象になっているとか。
0308 ◆ejIZLl01yY 2017/02/08(水) 03:12:41.29ID:onk2pPi/
黒曜のメアリ……私も名前は聞いた事がある。
もしパトリーヌ……パトリエーゼさんの言っている事が本当なら、彼女は今まで異常な環境で生きてきた……のかもしれない。

……友達に、裏切り、か。
なんとなくだけど、私はこの人にミライユさんの面影を見出してしまった。
そして、だからこそ……

「……裏切られるのが怖いなら、誰とも関わっちゃ駄目ですよ。
 誰かの期待に、ずっと答え続けられる人間なんていないんですから。
 私がまさに今、あなたの期待を裏切ったように」

私はミライユさんに言った事と、同じ言葉をこの人にも言おう。
……ついこないだまでの私なら、何も考えずに快諾していたかもしれないけど。

「だけど……居場所なら、ここにありますよ。何もしなくたっていい。
 ここは皆優しいし、安全です。
 ずっといようと思ったら……流石にちょっとは働かなきゃ、駄目でしょうけど」

まぁ、ユグドラシアにお世話になってるだけの私がこんな事を言うのは、なんというか大変恐縮なのですが……。
ティターニアさんならきっと同じ事を言ってくれるはず。

……居場所が欲しい。その為ならなんでもする。
それはきっと今まで生きてきた環境から、出てきた言葉なんだろう。

だけどその考え方は、健全じゃない。
間違ってる……と、私は思う。

「何かをするから、居場所があるんじゃない。
居場所があるから、その為に何かをする。世の中の、大部分は、きっとそうやっと回ってます。
何かをしようと思えるまで……この居場所にいてみたら、どうですか」

そうだ。居場所があるから、その為に何かをする。
パトリエーゼさんみたいな、普通の人は……きっとそうあるべきだ。
0309 ◆ejIZLl01yY 2017/02/08(水) 03:14:12.72ID:onk2pPi/
 
 
 
……あれから三日が経って、私はアスガルドを囲う外壁の上に立っていた。
今朝、とうとうソルタレク冒険者ギルドの軍団と思しき集団が見えたと、伝令が入った。
地平の奥に見える、十を超える馬車が、ゆっくりと近づいてくる。

……あれくらいの規模なら、門を破る事すら出来ずに退却させられるかもしれない。
門の前にはユグドラシアの皆さんが用意した非殺傷爆弾が仕掛けてある。
攻城兵器などを持ち出して、門に近づけば……きっと愉快な光景が見れる。
ずっと落ち込んだままの私の気持ちも、晴れるかもしれない。

……けど、どうやらそう上手くはいかないらしい。
罠を読んでいたのか他の目的があるのか、馬車隊は門を避けて外壁の周囲を迂回する。

……私もそれを追うように走る。
何にせよ、こちらがする事は変わらない。
どうせ城壁を破る事なんて出来ないんだ。城壁から徹底的に嫌がらせをしてやれば……

不意に、凄まじい衝撃音が響いた。
思わず足を止めて外壁の下を見る。
停止した馬車の上に……半裸でムキムキの……いや、なんだアレ。

見た目のインパクトが凄すぎて一瞬思考が止まっちゃったけど、今の衝撃音はあの人の仕業っぽい。
防御魔法を施されたこの外壁を揺るがすほどの……え?あの、もしかして……殴ったの?

……恐ろしい威力だけど、流石にこの壁を破る事は出来なかったみた……うわぁ!また揺れた!
ま、まさか……この一撃、奥義とかそういうのじゃなくて……れ、連発してる!

……一際大きな衝撃音。
そして……石が砕け、崩れ落ちる音。

う、嘘でしょ……い、いや、呆けてる場合じゃない!
敵が市街へと雪崩れ込んでる!

「外壁班!二班一組で上空からの攻撃を凌ぎつつ追走を!
 空からの攻撃を肩代わりして、迎え撃つんです!地上班を孤立させるな!」

ユグドラシア謹製の伝言のオーブにそう叫び、私は城壁から飛び降りる。
まっさかさまに地上に落ちたら死は免れないけど……私はレンジャーだ。
既に「道」は見えている。

飛び渡る先は、最も近い建物の屋根。
そして一歩、二歩、三歩と走るが……傾斜が急過ぎる。
走り続けられない。私は背中から倒れ込み、屋根を滑り落ちる。

この先は……数多くの露店が建ち並ぶ、いつ訪れても賑やかな白夜通り。
最も今は皆、ユグドラシアへ避難してる。けど、露店を片付けてる暇なんて無かった。
私は滑り落ちる勢いのまま、露店のオーニング……布屋根に飛び移る。

猛烈な速さで流れていく景色、強烈な落下の感覚……・そして布が私の体を跳ね返す反動。
よし……五体満足。

上手く距離も稼げた。追いかけよう。
……何かまた、とんでもない破壊音が聞こえた。
あの筋肉男が何かまたやってくれたとすれば……もっと急がないと。

私は街路を走りながら、空を見上げる。
上空を飛ぶアルゲノドン……厄介な物を持ってきてくれた。
だけど……利用する分には、すごく便利だ。
0310 ◆ejIZLl01yY 2017/02/08(水) 03:14:41.32ID:onk2pPi/
前方に見える、積まれたままの木箱……商品の保管箱かな。
だとすれば、それなりに重いはず。つまり安定していて……踏み台にはうってつけ。
全身のバネを使って跳び上がり、次はお店の看板、次は窓枠……思いっきり腕を上に伸ばす。

建物の屋上の縁を掴み、よじ登る。
上を見上げれば……うん、沢山のアルゲノドンが見える。

息を整えつつ宝箱を開く。取り出すのは、ショートスピアと鉤縄。
それらを……合成。流れるマナを解きほぐし、より合わせ、一つの存在として作り直す。

ついでに毒も塗っておこう。バーンアントの毒だ。
この毒は受けても死んだり痺れたりはしない。ただ傷口が、焼けるように痛むだけ。
よし、出来た。

後はこれを【不銘】に番え……上空へと射かける。
……うん、命中。
突如襲いかかる激痛に、アルゲノドンが暴れ狂う。
まさに無我夢中といった様子で、制御も利かずに猛進していく。

私はロープを掴んで、その勢いに引っ張られるように宙に飛び出した。
……っと、いけない。壁にぶつかる。
体をよじって壁を躱し、そのまま壁の側面を走るようにしてアルゲノドンに追従。

立ち昇る黒煙が見えてきた。
多量のマナを含む煙……ゴーレムが破壊されたのか。
だけど、追いついた!

私は思いっきり壁を蹴っ飛ばして……その勢いでロープスイング。
大きく弧を描いて敵地上部隊の頭上を飛び越え……屋上に着地。

激痛と、私が大きく跳んだ慣性で体勢を崩したアルゲノドンが建物に突っ込んだ。
……運が悪くなければ、生きてるだろう。
その事に感慨を抱いてる暇はない。間髪入れず、軽銀爆弾を放る。
たちまち炸裂する火柱が、敵の進路を遮った。

もっともあの防壁を殴り壊す相手に、どれほどの意味があるのかって感じだけど……。
どのみち、私一人で勝てる相手じゃない。

「……兵を退いて下さい。あなた達は、この戦いで何を得るって言うんですか」

……だから私がここですべきなのは、足止め。

「富ですか?それとも名声?……それがなんであれ、この街の平和と、
 人々の暮らしを壊してまで得る価値があるとは、私には思えない。
 どうか兵を退いてもらえませんか」

そして……覚悟を決める事だ。
0311 ◆ejIZLl01yY 2017/02/08(水) 03:20:43.72ID:onk2pPi/
「……慎重に、答えて下さい。ユグドラシアは魔道の怪物。あなた達は、今その口の中にいる」

これは半分嘘で、半分本当。
私はユグドラシアの戦力を代表して語るような立場じゃないから、そういう意味じゃ嘘。
だけど慎重に答えて欲しいってのは、私の本心。

誰かを守る為に、誰かを殺す。
何かを成し遂げる為に、何かを奪う。

そういう手段を取る覚悟。
あるいは、取らない覚悟。
ジャンさんティターニアさんがくれた猶予で、私は結局何の答えも出せなかった。

だけどこの状況、もうどう転んでも後には引けない。
だから……私は今、ここで、覚悟を決める。

私は宝箱からポーション瓶を取り出し、その中身……オオネズミの血を呷る。
私自身の魔力と、魔物の魔力が混ざり合い……体が作り変わる。
獣の毛皮に包まれた人外の容貌。

「あなた達も、こうはなりたくないでしょう?立ち去る事を強くオススメします」

まぁ、私にそんな呪いじみた事は出来ないんだけどね。
この見た目も文句も、脅しには丁度いいよね。

もし、これでもまだ退いてくれないのなら……今度は人外の力が、役に立つだけだ。
……今まで、何度も使ってきた力だ。
そんな、急に副作用が出て来る訳……ないよね。



【ひとまず足止め。道徳のお時間。

 それと……またもやすみません!
 やっぱり私は「なんでもする?じゃあ戦力に追加な!」って柄じゃないので
 パトリエーゼさんには今回もやんわりな感じのリアクションしか出来ませんでした……】
0312ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/02/09(木) 21:41:41.57ID:c8qHjzco
斥候と思われるオークたちを無力化したところで、先程助けた長身の女性が突然喋りだした。

>「敵の集団がここを襲撃しているみたい! 「エーテル教団」の名前を知りませんか?
ティターニア師、恐らくは彼らはその構成員じゃないかと思います!
上からだけじゃなく、建物の方からも…数は、たぶん100人近く!」

エーテル教団。ジャンはその名を聞いたことがあった。
他の冒険者と一緒にある漁村に滞在していたとき、ちょうど同じ宿にいた信者に勧誘されたのだ。
ジャンとその冒険者は両方断ったが、信者は執拗に勧誘を繰り返し、やがて他信者を引き連れて漁村を襲撃した。
幸い素人の集まり程度だったため二人で難なく退けられたが、その後漁村にはしっかりと教団の支部が建設されていたという。

>「あたしの本名はパトリエーゼ・シュレディンガー。
教団の幹部で“黒曜のメアリ”と呼ばれたあのメアリ・シュレディンガーの妹です。
怖くって教団から逃げ出してきたの。お願い、何でもするから、あたしに居場所をください。
そして…みんな、“友達”になって! 裏切られてばかりで怖いの!」

おそらく、彼女は行く先々で教団の追手に襲われたのだろう。
居場所を作っては追い出されたことが幾度もあったのだろう。
ソルタレクの冒険者ギルドの襲撃を自分に来た追手と勘違いする辺り、かなりの重症だ。
だが、ただでさえ指環を狙う者たちにこうして狙われている現状、
ジャンの冷静な部分は警鐘を鳴らしていた。

(これ以上厄介事を抱え込む気にはなれねえぞ、ただでさえよく分からん組織に追っかけられてる最中なのにまだ抱え込む気かよ)

確かにこれは正しい。下手をすれば街中で指環を狙った者に襲撃されかねないような現状、
エーテル教団とかいう怪しい宗教に構ってはいられないのだ。
しかし、ジャンのもう一つの部分はこう考えている。

(どうせそのエーテルなんたらも指環狙いで来てるんじゃねえのか。どっかの勢いに乗じて漁夫の利を狙うってのもよくある話だ。
もしかしたら指環を奪うためにその姉ちゃんに何か仕掛けてるかもしれねえが、そうなりゃティターニアにでも解呪してもらおうや)

二つの異なる意見を脳内でまとめている間、ラテが説得してくれていたようだ。
最近不安定なところが見られたラテだが、こうして他人を落ち着かせ、語り掛けることができているのだから一定の区切りはつけたのだろう。

「あー……パトリエーゼ……だったか?俺からも話がある」

部屋の隅にあった椅子を引き寄せ、どっかりと腰を下ろしてパトリエーゼに話しかける。
なるべく落ち着いて、今日の天気にについて話すような態度で。

「今俺たちは敵に追われてる。あんたと同じだ。それに危険なところばかりに行く。誰も行ったことがないような場所だ。
 これから敵はどんどん増えるだろうが、それでも来るのか?友達にはなれるだろうし、居場所もあるかもしれないが、それでも本当に一緒に行くのか?」

大体のことはラテが言ってくれた。自分が言うべきことはこれくらいだろうと考え、ジャンは返答を待つことにした。
0313ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/02/09(木) 21:42:14.39ID:c8qHjzco
それから三日。ソルタレクの冒険者ギルドによる斥候と威力偵察がしばらく続く中
ジャンは、ユグドラシアの正門に学生謹製のゴーレム部隊やアスガルドの冒険者たちと共に待機していた。
単純な命令しか効かないが、土と石で作られた肉体は動く城壁そのものだ。

住民たちを既に避難させ、敵を一か所にまとめやすいように瓦礫で横道を塞ぎ、一本道だらけになった市街地は
このゴーレムにとって最適な戦場と言えるだろう。

意外なことに、アスガルドの冒険者ギルドは協力を約束してくれた。
前から噂になっていたソルタレクの暗殺者が実在したこと、冒険者ギルドに所属するジャンがそれに殺されかけたことなども影響しているが、
もっとも大きい理由は一番の顧客であるユグドラシアが狙われているということだ。

こうしてユグドラシアとその周辺は要塞化されつつあったが、ジャンはふと嫌な予感がして城壁の上で待機していたラテに、
連絡を取ろうと伝言のオーブに話しかけようとしたその瞬間に、轟音が響いた。

街全体に響くような、幾度も続く轟音。即座に来たラテからの伝言が、何が起きたかを明確に教えてくれていた。

>「外壁班!二班一組で上空からの攻撃を凌ぎつつ追走を!
 空からの攻撃を肩代わりして、迎え撃つんです!地上班を孤立させるな!」

城門をこじ開けて突入するのではなく、まったく予期しない方向からの突入。
さらにタイミングを合わせてやってきた飛翔魔獣の群れによる上空からの襲撃。

「……ラテッ!慌てるんじゃねえ、指揮してんのは俺たちじゃねえぞ!
 ティターニア!城壁が突破されたみてえだ、様子を見てくる!」

屋上から屋上へ飛び移るラテを横目に見ながら、自身も城壁から侵入してきた部隊を叩きに行く。
こうなった場合、市街地に潜伏している冒険者部隊と共に仕掛ける手はずとなっていた。
既に表通りから聞こえてくる戦闘音を聞きながら、露店が数多く集まる通りへと出た。

その瞬間見たのは、強靭なゴーレムが宙を舞い吹き飛ばされる姿。
そして凄まじい速度で路面に叩きつけられ、見事に粉砕されたゴーレムだったものだ。

あまりに現実離れした光景にジャンは目を見開いたが、直後に駆け付けたラテの行動にも驚かされた。

>「あなた達も、こうはなりたくないでしょう?立ち去る事を強くオススメします」

火柱が通りに吹き荒れる中、ヒトの姿を迷うことなく捨てたラテ。
その肉体は魔物の如き容貌だが、心は最後まで争いを止めようとしている。

「……やめとけや、ラテ。冒険者に良心を期待するもんじゃねえ。
 街を焼いて戦利品を頂くのは傭兵だけじゃないんだからな」

指環を腰の袋から取り出し、左手の中指に嵌める。
軽く左手首を振れば、あっという間にアクアの大剣が水流と共に姿を現した。

「城壁をぶち抜いたのは誰かは知らねえが、こっから先は通せねえんだ。
 悪いが依頼の前金だけで勘弁してくれや」

アクアの大剣を正眼に構え、腰をわずかに落とす。
目の前で構え出したソルタレクの冒険者部隊を睨みつけ、ジャンはアスガルドの冒険者たちが
こちらに気づくまでの時間稼ぎに徹するつもりだ。

【ラテさんと一緒に楽しい遅滞防御戦闘のお時間です!】
0314ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/11(土) 07:35:44.06ID:VFS1GnfL
>「あぁァ! 死にだくねエエエ!!!」

パトリエーゼを狙っていたオークが突然何故か外に走り出たかと思うと凄まじい爆音が響いた。
所詮は捨て駒だったということか。

「――プロテクション!」

とっさにすでに倒れている3体のオークに向かって魔力障壁の魔術を展開。
通常は防御のために使う魔術だが、今回は爆発の被害を防ぐためだ。
それでも色々飛び散ったが、怪我人が出るのは防ぐことができた。
ああ、掃除が大変だな――等と場違いなことを思う。
普段はそんなに意識しないのだがラテのような者と接するとよく分かる、
やはり長い時を生きている間にそれなりにスレてしまったようである。

>「あぁ……あ、ありがとう、皆さん」

一件落着したかと思ったら、扉の外から慟哭が聞こえてきた。

>「よくも……!」

怒りに燃えるラテがカムイに視線を落としたかと思うと、何故かカムイを取り落した。
早くも犠牲者が出てしまったのかという事それ自体と、それに対するラテの動揺を思い
二重の意味で一瞬肝が冷えたが――幸い犠牲になったのは人ではなかったようだ。

「ラテ殿落ち着くのだ……彼女達はゴーレムだ」

ラテを落ち着かせ、オークが転送されてきたらしき魔法陣の痕跡を調べているパトリエーゼの方に行く。

>「ワールドノット! これは、それにオークの臭い……!」

彼女はそういうと、杖を振りかざして魔方陣を“相殺”して見せた。ティターニアは目を見開く。

「そなた、高位術士なのか……!?」

パトリエーゼはそれには答えず、酷く混乱した様子で何やら叫びはじめた。

>「敵の集団がここを襲撃しているみたい! 「エーテル教団」の名前を知りませんか?
ティターニア師、恐らくは彼らはその構成員じゃないかと思います!
上からだけじゃなく、建物の方からも…数は、たぶん100人近く!」

>「……落ち着いて下さい。首府からアスガルドまでは、かなりの距離があります。
 大軍で来るとなれば、時間はもっとかかりますよ」

「うむ、今回我々に襲撃をかけているのはソルタレクの冒険者ギルドらしいからな。
“少なくとも直接は”構成員ということはないだろう」

裏で手を引いている可能性は否定できないがな――という言葉を言いかけて飲み込む。
エーテル教団――秘宝を探しているとか、“魔女”がいるとかいう噂。
嫌でも”指環の魔女”の名が想起されるというものだ。しかし無駄に不安を煽る必要はない。
可能性はいくらでも想定できるが、考えても無駄なら今は目の前の敵に集中すべきだ。
0315ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/11(土) 07:36:45.62ID:VFS1GnfL
>「あたしの本名はパトリエーゼ・シュレディンガー。
教団の幹部で“黒曜のメアリ”と呼ばれたあのメアリ・シュレディンガーの妹です。
怖くって教団から逃げ出してきたの。お願い、何でもするから、あたしに居場所をください。
そして…みんな、“友達”になって! 裏切られてばかりで怖いの!」

唐突にこんなことを言い出したパトリエーゼに、ラテがここにいてもいいと語りかけ、
ジャンが危険をおしてまで本当に一緒に来たいのかと問いかける。
二人の話がひとしきり終わった後、ティターニアが自分のターンとばかりに唐突に講釈をし始めた。

「ところでパトリエーゼ殿、このようなものを見た事はあるだろうか?」

その手に持っているのは、正八面体の模型のようなもの。
各頂点と中心にそれぞれ違った形のシンボルがあしらわれ、それが棒で繋がれている。
よく見るとそれぞれのシンボルは炎、水等の属性を現しているようだ。

「世界を構成する属性を現した模型だ。まずこの正方形部分を形作る4つが地水火風――一般に四大属性と言われるものだ。
上下の三角の頂点が光と闇――見ての通り四大元素と同じ平面には並ばぬ属性だ。
そしてこの中心にあるのが“エーテル”……全ての属性の中心にして未だ全貌は解明できておらぬ。
「虚無」とも「全」とも「生命」とも言われておるな」

ティターニアが使う魔術の中では、“エーテルストライク”や”プロテクション”等がエーテル属性にあたる。
プロテクションは習得自体は初級の魔術だが、その強度には術師としての力が如実に反映される。

「このエーテル属性は特殊な属性でな、あるレベルのこの属性の魔術を使おうと思えば
同程度のレベルまでの全属性の魔術を万遍なく習得しなければ使えぬ。
先ほどそなたがやった魔法陣の相殺……あれが出来るのは高位魔術師だけだ――”普通は”」

長居前置きを終え、ようやく核心に切り込む。

「もしやそなた、エーテル属性だけに特化しておるのではあるまいか?」

現時点で確証はない、勘と言えば勘――しかし限りなく確信に近い勘だ。
あの魔法陣相殺ができる程の高位魔術師なら、普通は引く手数多のはずだ。
しかしパトリエーゼからは、落ちこぼれ扱いされて居場所が無くなった生徒のような印象を受ける。
そして既存の型にはまることができない者を落ちこぼれとして切り捨てる風潮を
真っ向から否定するのがユグドラシアという学園であり、ティターニアという導師であった。
ともあれ、パトリエーゼはティターニアの問いを、概ね肯定することだろう。
そうするとティターニアは一方的にはしゃぎ始めるのだ。
0316ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/11(土) 07:39:12.43ID:VFS1GnfL
「興味深い、実に興味深い! それは凄いことだぞ……! エーテルとは見ての通り中心の属性。
他の属性を習得せずしてエーテル属性を使えるとは、もしやそなたには最強の素質が眠っておるのかもしれぬ……!」

(実際にはパトリエーゼのエーテル特化の魔術が神聖魔術に属するものであるとするなら
「エーテル属性だけ使えるなんて凄い」という、元素魔術の体型を前提としたティターニアの理論は全く成り立たず、思い込みで暴走しているだけになるのだが
ここで重要なのはパトリエーゼが変人導師に興味を持たれてしまったということである)

そして、悪戯っぽい笑みを浮かべて告げるのだ。

「さて、先刻友達になってと言ったな。残念ながら友達にはなれぬ。
――学者にとっては興味の対象というのはある種恋人以上のものだからだ……って何言わすねん!」

パトリエーゼにいきなりツッコミを求めるのは酷なので、自らツッコミをしておいた。
気を取り直して真面目な表情を作り、いったん建前として戦力外を言い渡す。

「我々はソルタレクの冒険者ギルドの襲撃を迎え撃つことになる……
当然ながら命の危険もある、戦い慣れしていなさそうなそなたは安全な場所に隠れておくのが賢明であろう」

そこまで言って、また微笑んで今度は本音を告げる。
ティターニアは魔法陣を相殺したパトリエーゼの力量を見て、十二分に戦力に成り得ると踏んでいた。
そして彼女が落ちこぼれ扱いの人生で失った自信を取り戻すには、多少の荒療治が必要だろうとも。

「もしどうしても共に戦いたいというのなら……自分の身は自分で守ると約束してくれるなら。
折角の貴重な研究対象に死なれては困るのでな。”プロテクション”は使えるか?
使えぬなら教えよう、そなたほどのエーテル属性の使い手ならすぐに覚えられようぞ」

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*
0317ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/11(土) 07:42:11.93ID:VFS1GnfL
それから三日の時が流れ、いよいよソルタレク冒険者ギルド本隊が到着と相成った。
ティターニアは戦況に合わせて最適な場に投入されるべく、ユグドラシア内部の指令本部で待機していた。パトリエーゼも一緒だ。
まず、巨大な砲撃音のようなものが何度も響き渡り始める。
一人一つずつ貸与された伝言のオーブから、伝令担当のパックの声が聞こえてきた。

『マントでマッチョでフンドシ一丁の漢が壁を打つ! 打って打って打ちまくるゥ!』

その日、壁は壊された――――巨人ではなくマッチョなエルフによって。
続いて、オーブからラテとジャンの声が聞こえてきた。

>「外壁班!二班一組で上空からの攻撃を凌ぎつつ追走を!
 空からの攻撃を肩代わりして、迎え撃つんです!地上班を孤立させるな!」
>「……ラテッ!慌てるんじゃねえ、指揮してんのは俺たちじゃねえぞ!
 ティターニア!城壁が突破されたみてえだ、様子を見てくる!」

強引に外壁に開けられた穴から雪崩れ込んできたのは、航空部隊が30騎ほど、地上部隊が70名ほど――侵入してすぐに大通り組と裏道組に分かれた模様だ。
弓兵クラスの航空騎兵の襲来を受け、本丸防衛に配置された複数の術士が連携してユグドラシア全体を覆う巨大な風の障壁を展開。
飛び道具による攻撃を防ぐ魔術”ミサイルプロテクション”の超大規模版だ。
道幅のある大通りには魔導工学導師操る女性型巨大ゴーレムが満を持して出動――
こちら側の防衛網を潜り抜けてきた猛者たちに、胸部の二門砲塔――通称”ロマン砲”が炸裂する。
巻き込まれたものを魅了《チャーム》の状態異常に陥れる、最恐の非殺傷性攻撃だ。
魅了の便利なところは、眠りや麻痺と違って味方側を巻き込んでも特に大きな問題は無いので、混戦の最中にも撃ちこめる事だ。
表通りの方は制圧できるのは時間の問題だろう。
問題は……裏通りの方の部隊を迎え撃ったゴーレム(こちらは通常仕様)が、一人の筋肉男によってにべもなく投げ飛ばされたようだ。
ティターニアが投入されるべき場所は決まった。
空間魔術を専門とする導師の手によって、転移術がかけられる。その最中、ティターニアはパトリエーゼに手を差し出して言った。

「パトリエーゼ殿、ここにいれば安全だ。共に来れば危険に晒される、それでも良いなら、この手を取れ――」

次の瞬間には周囲の景色が塗り替わり、丁度ラテが駆けつけて説得を始めたところだった。

「……兵を退いて下さい。あなた達は、この戦いで何を得るって言うんですか」
「富ですか?それとも名声?……それがなんであれ、この街の平和と、
 人々の暮らしを壊してまで得る価値があるとは、私には思えない。
 どうか兵を退いてもらえませんか」
「……慎重に、答えて下さい。ユグドラシアは魔道の怪物。あなた達は、今その口の中にいる」

ラテはそこまで言って魔物の血を飲み、人外の容貌と化す。
ミライユとの戦いの時にも使っていたが、魔物の血は頻繁に服用すると危険を伴う。

「そこまでせずともそなたは十分強いではないか……」

後でもう暫く飲まないように止めておこう。そう思うが、ふとこんな考えが浮かぶ。
もしや異種族の血も混ざらなければ特殊な血筋でもない平凡な人間であるラテは
そこまでしないと自分達に付いて来られないとでも思っているのかと。
そもそも人間ではないティターニアは、当然ながらそのままで人外の力を持つ。
高い魔力に優れた魔術適性、老いぬ体に半永久的な寿命――
半分ではあるがジャンだってそうだ。あの膂力と耐久力は純粋な人の身では持ち得ぬ物。
0318ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/11(土) 07:45:20.10ID:VFS1GnfL
「あなた達も、こうはなりたくないでしょう?立ち去る事を強くオススメします」

更に、魔法の殿堂を襲撃なんかしてネズミーランドの住人になっても知らんぞと脅しをかけるラテ。
確かに魔力には溢れているが夢があるとは言えない光景である。

>「……やめとけや、ラテ。冒険者に良心を期待するもんじゃねえ。
 街を焼いて戦利品を頂くのは傭兵だけじゃないんだからな」
>「城壁をぶち抜いたのは誰かは知らねえが、こっから先は通せねえんだ。
 悪いが依頼の前金だけで勘弁してくれや」

ジャンがアクアの大剣を構えて戦闘態勢に入る。
ジャンの横に進み出るティターニア。

「やれやれ、要塞を守るゴーレムは魔法の笛を吹いて眠らせるのが風流というものではないのか。
筋肉で破壊とは相変わらずの脳筋だのう、ノーキン・ソードマン!
フンドシ一丁と噂を聞いてまさかとは思ったが……真に遺憾ながら我がエーテルセプターとそなたのマントの魔力が共鳴しておるわ」

エーテルセプターは神樹の枝から作られた杖。ノーキンのフンドシ&マントと同じ素材ということになる。
ノーキンからは中年の貫禄が漂っており、ああ自分も年取るはずだわと一瞬思いかけて、
いやいや、エルフに中年という概念はあっただろうか!?と我に返る。
マッチョなので貫禄が付いて見えるのだろう、ということで自分の中で一応納得しておいた。
エルフはおしなべて若い容姿をしており、若いと言ってもガチのピチピチから麗しい妙齢まで個人差はあるが、大体人間から見ると20歳〜30歳前後に見えるらしい。
ちなみにティターニアはノーキンが物心付いた時には既に今の姿をしていたと思われるが、
エルフの感覚で言うところの同年代の範疇なのか、もっと遥かに年上なのかは定かではない。

「ツッコミどころは多々あるが……その子はまさか誘拐してきたのではあるまいな。犯罪臭半端ないぞ」

そう言って、ノーキンの傍らにいるケイジィを示す。
あんなイカしたファッションの可憐な美少女が、壊滅的ファッションのマッチョエルフに好きで付いて回るはずがない。
そう勝手に結論付けたティターニアは、可及的速やかに幼女誘拐犯をタイーホせんと魔力の縄による捕縛の魔術を放った。

「幼女誘拐犯許すまじ! ――ルーンロープ!」

【では全員が一か所に集まったのでここからノーキン殿にローテーションに入ってもらおう!
パトリエーゼ殿は出来る限りフックを作ってみたつもりなのでなんとか食いついてオナシャス!】
0319ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/13(月) 20:24:29.10ID:J+5VRhUT
<アスガルド大通り>

ユグドラシア襲撃に乗り込んだ地上部隊と航空部隊の混成隊は待ち構えていたアスガルド防衛戦団と交戦に入っていた。
敵戦力は魔術学院の術士達とアスガルドの冒険者達。
純戦闘員としての数の利はこちらにあるが、敵には練度となにより地の利がある。
第三・第二隊の戦術目標は敵の漸減と陽動とは言え、拮抗を維持することさえ過酷な戦況だった。

「クソ、またゴーレムが出てきやがった!一旦退いて後衛の火力と合流しながら前線を押し上げろ!」
「爆撃支援はまだか!地上の武装じゃあの装甲は抜けねえぞ!」
「術士の殆どはユグドラシアの護りに入ってるはずだ!路地をうまく使って側面から叩け!」

飛び交う矢と爆弾、唸る剣戟、爆ぜる魔法の炎……。
襲撃部隊の戦線を維持していられる理由の一つはアスガルド防衛団が積極的に攻勢に出てこないことだ。
戦場を広い大通りからその先の路地に移せば街に甚大な被害が出る。大規模な攻撃魔法は使えない。
襲撃隊は言わば街を人質に取りながら、白兵によるゲリラ戦を展開することで練度の差を補っていた。
しかしそれでも所詮は寄せ集め、いつまでも士気軒昂とは行かない。

「クソ、冗談じゃねえ!アスガルドの冒険者共まで出てくるなんて聞いてねえぞ!端金で命まで懸けられっか!」
「でもよぉ……マスター直々の命令で成果出せなかったら俺たち今度こそ食い詰め者だぞ」

襲撃に参加している冒険者達はいわゆるコモンクラス、ギルドの最底辺を這いずる落伍者達だ。
冒険者とは名ばかりの、大規模な事業に一山いくらで動員される廉価で代えの効く粗雑な戦力である。
彼らにとってこの襲撃は言わば最後のチャンスだった。

途中で逃げ出せばただでさえ低いギルドでの評価は更に落ち、契約不履行により作戦にかかるコストの損害賠償まであり得る。
もっと最悪かつ可能性が高いのは、"使えない"という烙印を押されギルドを除名されることだ。
古竜復活で浮つくこの時勢において一攫千金を夢見て冒険者に転身する者は多く、全体的にどこのギルドも人が余っている状況にある。
そんな中で、不名誉除籍された冒険者を雇い入れようなどと考える数寄なギルドはほぼ皆無と言って良い。
ろくなバックもなしにモグリで冒険者を続けられるほどこの稼業は甘くなく――行き着く先は、やはり食い詰め者だ。
実績も得られないまま加齢により冒険者を引退し、傷んだ身体の治療もできないまま路上生活を営む者の姿を彼らは知っている。

「俺はごめんだぞ……首府の地下道でネズミと一緒に残飯にありつく生活なんざ……!」
「路地裏で通行人に食い物と小銭をねだる未来なんか……!」
「なんの為に冒険者になったってんだ……!」

襲撃に加担する冒険者達は、みな例外なく追い詰められていた。
借金や負傷、己の無能、漠然とした将来への不安。首にかかる焦燥感と言う名の吊り縄が、彼らを死兵に変えた。

「コモンクラス舐めんなあああああッ!!」

剣士達が咆哮する。僧侶達が彼らの肉体を祝福で強化する。弓兵達が爆薬混じりの矢を雨のごとく降らせる。
魔術師は魔法の雷を縦横無尽に奔らせ、盗賊が痺れ薬をばら撒き、遊び人が踊りで仲間達を鼓舞し――
寄せ集めの冒険者達の命を振り絞るような吶喊が、アスガルドの防衛線をこじ開け押し込み始める!

「前方、新手のゴーレムが出現!胸部に二門の巨大砲塔!!」

アスガルド防衛戦団の後方に巨大な少女の形をしたゴーレムが立ちはだかる。
その凶悪な威力を想像できる砲塔が、突撃する襲撃部隊を捉える!

「ビビんじゃねえ!あんなでけェ大砲、味方のいる所にぶっ放せやしねえ、虚仮威しだ!」
「乱戦に持ち込めばあんなもんただのガラクタよォ!!」

ゴーレムは普通に砲撃してきた。
極太の桃色をした光線が襲撃者達を……それと剣を交える防衛戦団ごと薙ぎ払う!!
0320ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/13(月) 20:24:49.42ID:J+5VRhUT
「馬鹿なァ!味方を巻き込んで撃ってきやがっただとォ――」

桃色光線に撃たれた者達が胸を押さえて倒れ込む。
光線に物理的な破壊力はなかったが、対象者を苦しめる謎の効果があるようだ。
幸運にも砲の範囲から逃れた者達が青ざめて路地へと退避する。

「おい!大丈夫か!?ありゃ何の光線なんだ、呪詛の類か!?」

倒れ込んだ味方へ声を掛ける冒険者達、撃たれた者達は膝をついて胸を掻きむしる。

「ぐ……が……胸が……苦しい……!!」

すわ、新手の病原性呪詛か――息を呑む味方を端に、被害者達は空を仰いで叫んだ。

「トキメキで胸が苦しい!これが……恋……!?」

「恋……だと……!?」

あまりに突拍子もない事態に激しい剣戟を繰り広げていた戦場が停止した。
撃たれた者達は何かを抱くように剣を手放した両手で空を掻き、その目はどこか遠くを見ている。
否、視線の先は少女型ゴーレムだ。

「あのゴーレムを見てるだけで心臓がドキドキする!顔が熱い!頭が甘くしびれる!!」
「なんて可愛らしいデザインなんだ!見ろよあの鋭角な傾斜装甲!あのインビなフォルム、堪らねぇぜ!!」
「お友達になりてェ!文通から始めてェ!!」「見つめ合うと素直にお喋りできねェ!!」「会いたくて震えが止まらねェ!」

屈強なむくつけき剣士達は兜を脱ぎ、前髪を撫で付けながらもじもじして上目遣いにゴーレムを見る。
あるものは内股でくねくねし、あるものは即興で恋心をしたためた詩を朗読し始めた!!
度肝を抜かれたのは正気の連中である。

「おい馬鹿戻ってこい!戦場で敵から目を離すな!敵のド真ん前だぞ!死にたいのか!?」

必死に声を上げながら骨抜きにされた味方を守るべくアスガルド防衛戦団の方を見る。

「美少女ゴーレムっていいよね……」
「いい……」

「お前らもか――!?」

光線に巻き込まれた防衛戦団の冒険者達もまた、剣を降ろしてニヤニヤしながらゴーレムへの愛を語らっている!
もはやどっちが狂っているのか分からない地獄のような光景が展開されていた。

「こいつは最早洗脳だろ!有無を言わさず精神を汚染する、なんて凶悪な魔法なんだ……!」

「そうだな……俺たちは心を縛る恋という魔法に掛けられてしまったのかも」

「てめえは黙ってろ!!」

大国の地方都市、その戦火たなびく大通りで……新たな恋物語が幕を上げる――!!


 ● ● ● 
0321ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/13(月) 20:25:54.75ID:J+5VRhUT
うっちゃったゴーレムが爆煙混じりに四散するのを満足げに見ていたノーキンは、前方の空を横切る何かを気が付いた。

「む!あれは何だ!鳥か?飛翔器か!?」

「第二隊のアルゲノドンだよ!大通りに送ったはずなのになんでこんなところに?」

ギルドの紋章入りの鞍を付けた飛翔魔獣アルゲノドンが、交戦機動の速度で飛んでいる。
巨大な猛禽に竜の翼膜を合わせたような凶相が、苦悶の叫びを挙げている。
手綱を握る弓兵は必死にそれを抑制しようとしていたが、諦めたのかやがて空中で飛び降りて落下傘を展開。
重りのなくなったアルゲノドンはさらにスピードを上げた。

「こっちに向かってきたよノーキン!撃ち落とす!?」

「まぁ待てケイジィ。何かがぶら下がっているぞ」

アルゲノドンの足のあたりに小ぶりの槍が刺さり、その柄尻から生えるロープに人影が繋がっていた。
人影は吊られながら器用に家屋の壁を蹴って軌道を修正しつつ、やがて手近な屋上へと降り立った。
下から振り回された哀れなアルゲノドンがそのままその辺の家に突っ込んで動かなくなる。
人影は自身の巻き起こした一部始終を一瞥して、懐から何かを路上にばら撒いた。
無数の軽銀爆弾。目を灼くような閃光と共に、ノーキン達の進路が炎に包まれた。

>「……兵を退いて下さい。あなた達は、この戦いで何を得るって言うんですか」

「ほらぁ!あんな派手なぶっ壊し方するからもう気づかれちゃったじゃん!陽動とはなんだったのか!」

「ううむ、吾輩の完璧なるスニークを看破するとは優秀な猟兵である。流石ユグドラシアは層が厚いな!」

自分の軽挙妄動を棚に上げながらノーキンは新たなる敵対者を見る。
アルゲノドンにぶら下がってやってきたのは小柄な猟兵風の女だった。少女と言っても良いほどに若い。
しかしこの複雑な街中でこんなにも早くノーキン達に追いついてきた手腕は熟達した猟兵のそれだ。
若さは侮る理由にはなるまい。

>「富ですか?それとも名声?……それがなんであれ、この街の平和と、
 人々の暮らしを壊してまで得る価値があるとは、私には思えない。どうか兵を退いてもらえませんか」

「だってさノーキン。どーする?捕捉されちゃった以上増援なんてすぐ来ちゃうよ」

>「……慎重に、答えて下さい。ユグドラシアは魔道の怪物。あなた達は、今その口の中にいる」

「ほう。質問に質問を返すようで相済まないが若輩よ!退かねばどうなると言うのだ!」

猟兵風の返答はシンプルだった。
彼女は赤い液体に満たされたポーション瓶を呷り、肉体を変化させてゆく。
肌の毛穴が開き、そこから太く強靭な獣毛が生まれ、指先には硬質な爪が形成される。
年若き少女は、凶悪な獰猛さを宿した鼠のような獣人へと変身した。

>「あなた達も、こうはなりたくないでしょう?立ち去る事を強くオススメします」

猟兵風の突然の変貌に配下の冒険者達が一様にざわめく。
ある者は果敢にも槍を構え、ある者は自分も獣に変えられるのではないかと魔法による防護を展開。
部隊の足が止まる。動揺が支配する場で、ケイジィは辟易するような表情を作った。

「うえええ……なにあれ。ユグドラシアって人間をあんな風にする研究とかしてるの?ダーマみたい!」

「いいや逆かも知れぬ!獣が人間のふりをする技術など、いかにも頭のイカれた導師共が考えそうではないか!
 ユグドラシアは魔道を横道に逸れ過ぎた者達の受け皿というかゴミ箱的なところがあるからな!」

ノーキンは悠然と猟兵風を指差して叫ぶ。
0322ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/13(月) 20:26:34.45ID:J+5VRhUT
「貴様の愚問に答えよう!何を得るかだと?吾輩は冒険者だ!得るものは金に決まっておるだろう!!
 知らぬのか?金は天下の回りものと言ってな、ヒトが社会で生きていく上で不可欠なる最重要物資であるぞ!」

「ええぇ……」

ケイジィが半目で手の平を手首ごと高速回転させるのを横にノーキンは両腕を広げた。

「良いか若輩、金は全てに優先する!人々の安寧は金より重い?誰が決めたのだそれは!吾輩ではないぞ!
 街一つ脅かして大金が得られるならば、それは立派な経済活動だ!」

二者が二様の反応を返す中、おそらく猟兵風の仲間であろう大男が路地を抜けて追いついてきた。

>「……やめとけや、ラテ。冒険者に良心を期待するもんじゃねえ。街を焼いて戦利品を頂くのは傭兵だけじゃないんだからな」

緑色の硬質な肌に、口からはみ出る二本の牙。容貌は人間のそれを逸脱している。
猟兵風が鼠の獣人ならば、この戦士風の大男はオーク混じりの亜人だ。

「獣人に、亜人……しばらく離れているうちにユグドラシアは余程と人間の改造に執心していると見えるな。
 いや結構なことではないか!肉体を強化するにあたりより強靭な生物の利点を取り入れるというのは利に適う!
 貴様の毛皮はオオネズミのものだな?生半な剣では貫くことも能わぬ硬毛は冷熱にも耐え堅牢である!
 オークの発生器官は特殊な音律で術士を圧するのだったか?これも素晴らしい。――どちらも吾輩には不要であるがな!」

ノーキンが的外れな分析を聞かれてもいないのに謳う中、戦士風が腰の袋から何かを出す。
太い指に嵌められたのは……指環。瞬間、凄まじい魔力の迸りと共に水が生まれ、戦士風の手元に大剣を創り出した。
ケイジィが弾かれたように傍で手を引く。

「……ノーキン、あれ!」

「これは驚いた。この胸筋に吹き付ける魔力の波濤……『指環』ではないか!貴様が持っていたとは!
 しかしその様相、水の指環か。ユグドラシアにあるとすればテッラの大地の指環だと睨んでいたのだがな」

「イグニスのやつもこいつが持ってたりしないかな」

「であるならば僥倖ここに至れり。全ての手間が省けるというものよ!」

>「城壁をぶち抜いたのは誰かは知らねえが、こっから先は通せねえんだ。悪いが依頼の前金だけで勘弁してくれや」

水気走る大剣の切っ先がこちらに向く。
ノーキンは犬歯を見せて笑い、拳を突き合わせる。

「いいや押し通るとも!こちらも些か事情が変わった!貴様を打ち倒し、その指環を貰い受けよう!」

両雄が戦闘態勢へと入り激突の一歩を踏み出すその刹那、横合いから彼のよく知る声が闖入した。

>「やれやれ、要塞を守るゴーレムは魔法の笛を吹いて眠らせるのが風流というものではないのか。
  筋肉で破壊とは相変わらずの脳筋だのう、ノーキン・ソードマン!フンドシ一丁と噂を聞いてまさかとは思ったが……
  真に遺憾ながら我がエーテルセプターとそなたのマントの魔力が共鳴しておるわ」

ジャンの傍に立ったのは白衣姿のエルフだった。
長く艷やかな金髪、碧眼にかかる眼鏡は知性を思わせる美貌だが、ノーキンは彼女の素性を知っている。
0323ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/13(月) 20:27:02.92ID:J+5VRhUT
「……ぬ。そういう貴様は相変わらず年甲斐のない乳臭い格好だなドリームフォレスト!久しいぞ!!」

「誰あのひと、知り合いなのノーキン」

「ティターニア・ドリームフォレスト。ユグドラシア、ひいてはエルフ魔法界における有名人だ。異端児という意味でのな。
 優秀な導師ではあるが如何せん頭のネジがイカれ方向に振り切れているユグドラシアの狂人代表のようなものだ」

「ううーん……とりあえずノーキンの類友ってことはよくわかったよ」

「まぁ聞け。ヒトに限らずエルフもまた積み重ねた年齢で相応の貫禄を宿すものだが……あの女はアレで吾輩より年上であるぞ」

ケイジィは絶句しながらティターニアとノーキンの両方に何度も視線を左右させて、驚愕を言葉にした。

「キャピキャピエルフおばさん……!!」

>「ツッコミどころは多々あるが……その子はまさか誘拐してきたのではあるまいな。犯罪臭半端ないぞ」

「はぁっ!?ちょっと失礼過ぎるでしょこのおばさん!
 ノーキンはね!娘に家出された悲しみを似たような女の子の人形で紛らわそうとしてる哀れな中年なんだよ!?」

「失礼なのは貴様だ」

>「幼女誘拐犯許すまじ! ――ルーンロープ!」

好き勝手しゃべくるケイジィの頭を平手ではたいたノーキンの肢体にロープが巻きついた。
ルーンロープ。魔術により織られた縄は術者の意のままに動き、容易に断ち切れぬ強靭さで相手を拘束する。
ノーキンは両腕ごと簀巻きにされた。

「そこのポンコツが言ったようにこのケイジィはヒトを模したただの魔導人形よ。
 利害の一致から共に旅をしているに過ぎぬ……余計な詮索はするなよドリームフォレスト」

同郷であるティターニアはノーキンの出奔の原因となった事件についても知っていることだろう。
ロープに縛られたまま彼は言外に詮索無用の釘を刺した。

「……さぁ!待たせたな若輩諸君!旧交の温め合いは終わった。待望の命のやり取りの再開だ!
 吾輩昔はこの国の軍人でな!重要な技術拠点でもあるこのアスガルドの戦略地理については熟知している!
 例えば街の下水道普及率はユグドラシアを中心に6割程度!この辺りはまだ汲み取り式で用を足しているな!」

言いながら彼は自由な片足をゆっくりと上げる。

「すなわち!――多少派手に地盤を割っても復旧に問題はないということだ!!」

瞬間、硬質な轟音。ノーキンの足元から前方へかけて扇状の亀裂が石畳に入った。
亀裂の元は踏み締めた彼の片足――武闘家のスキル『震脚』。
強烈な踏み込みによる反作用で肉体を硬く引き締める技だが、ノーキンの脚力で行えばそれがそのまま破壊を起こす!
亀裂はラテと呼ばれた猟兵風や指環を持つ戦士風の立つ場所まで届き、次いで地割れの如き崩壊が足場を襲った。

「ノーキン・スピニング☆アクセル!!」

震脚の反作用をそのまま片足を軸とした右回転に変換、ノーキンはその場でバレエのように高速回転する。
ルーンロープが凄まじい勢いで巻き取られ、それを手繰るティターニアもまた強烈に引っ張られるだろう。
魔術でどれだけロープを伸ばしてもその分だけスパゲッティのように巻かれ、やがて彼女の足は地を離れる。

「瓦礫の彼方へ飛ぶがよい!」

モーニングスターの先端と化したティターニアを遠心力で彼方へと放りながら、ノーキンは自身に巻き付いた縄を解いた。
古典的な縄抜けの技術。予め力を込め膨張させておいた筋肉を脱力することで肉体の体積を減らし、縄を緩めたのだ。
空中のティターニアへ向かって拳を構える。

「ノーキン・クレイショット☆ブロォォォォッ!!」
0324ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/13(月) 20:27:27.35ID:J+5VRhUT
エーテルメリケンサックの形成した魔力の塊が、正拳の速度でティターニア目掛けて打ち出された。
着弾の結果を見届けることなく連れてきた冒険者達に指示を出す。

「第一隊、下がれ!路地を迂回しユグドラシアを目指すのだ!」

予め取り決めていた指示通り、冒険者達が煙幕を張って路地の中へ散り散りに消えていく。
手下30人はここで使い潰して良い兵力ではない。ユグドラシアを制圧するにあたって重要な人員だ。
幸いにも敵はティターニア含め三人、ノーキンとケイジィならば食い止められる。

猟兵風の先程の言動から、彼女の目的は大通りの戦力が陽動部隊を鎮圧するまでの時間稼ぎであるとノーキンは読んでいた。
ならばここでこのまま遅滞戦闘を続行すれば良い。陽動が潰える前にユグドラシアへ30人が辿り着けばこちらの勝ちだ。

「ケイジィ、貴様はあのネズミ女を止めろ。吾輩は指環を取りに行く」

「あいあいさっ。がんばるからね」

「知っている」

ケイジィの輪郭が薄れ、溶けるようにして姿を消す。
足場の崩壊で動きを封じたラテと戦士風の二人は既に態勢を立て直していることだろう。
ノーキンは腕を回しながら大股で彼らへ向かって歩いて行く。

「良き戦いを期待して名乗ろう!我が名はノーキン・ソードマン!そして我が傀儡ケイジィ!
 我々はユグドラシアを制圧しソルタレクの完全なる支配下に置くことを目的としている!
 支配下に置いてどうするのかは吾輩の知るところではないが、受けた注文には応えてみせよう!」

とは言え大方想像はつく。
ユグドラシアは極めて重要な技術拠点でありながら特定国家に帰属しない独立した場所だ。
その研究成果や育成された術士を正しく国に還元したならば、ハイランドは瞬く間に大陸最強国家に躍り出るであろう。

換言すればユグドラシアはどこか一国に肩入れしないことで、大陸国家間のバランスを調整し過度な戦争を防いでいるとも言える。
ソルタレクがユグドラシアの中枢を手に入れれば、その力は必ず戦いの場で振るわれる。
そう遠くない未来、帝国やダーマ、大陸の全てを巻き込んで覇権を巡る大戦争が起きることだろう。
いつかは。そして、かならず。

「そしてオークの若輩よ!貴様の持つ指環は吾輩が個人的に探し求めていたモノだ。
 くれと言ってもくれぬであろう?ならば冒険者らしく、盗掘品の奪い合いといこうではないか!」

瞬間、ひび割れた石畳が更に爆ぜ、ノーキンは疾風の如く一歩を踏み込んだ。
彼にとっての『一歩』だ。鍛え込まれた脹脛筋が生み出す跳躍は実に二十歩分の距離を一度に詰め、戦士風の眼前に肉迫する。
ノーキンの左手が風を巻きながら踊り、戦士風が構えた大剣の刀身を掴んだ。刃が食い込み、掌が僅かに出血する。

「吾輩の皮膚を断つとは実に業物である。だが剣を断ち切るモノもあると知っているか?」

間髪入れずに右手が閃いた。

「――我が手刀だ!!」

耳を劈くような破砕音と共に、横合いから打ち込んだノーキンの手刀が、水の大剣を半ばから叩き折った。
そのまま手刀の慣性で軸足を回転させ、

「そしてこれが我が足刀だ!!」

渾身の後ろ回し蹴りを戦士風の胴へと叩き込んだ。

「指環を渡して貰おう!それは吾輩の目的に必要なのだ!」

 ● ● ● 
0325ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/13(月) 20:27:55.05ID:J+5VRhUT
「うわちゃあ、あばら粉砕コースだよあの亜人!死んだねありゃ!」

ステルス魔術によって不可視となったケイジィは足音を消しながらラテなる猟兵風へと接近する。
獣を宿したあの姿が単なるハリボテでないならば、ラテはオオネズミの特質を備えているに違いない。
例えば嗅覚や聴覚。そして髭の触覚による僅かな風のゆらぎの感知。
視覚に頼らずケイジィを捉える方法は指の数だけ思いつく。

(だから一つ一つ潰そうねぇー)

手袋を外し、薬指を噛む。
自動修復機能付きの人造皮膚が破れ、その下の噴出スリットが顔を出した。

ケイジィ――ダーマ製骸装式魔導人形KG-03の五指にはそれぞれ5種類の呪詛毒生成機構が備わっている。
薬指に内蔵されているのは暗黒大陸原産サカゴマイマイの接触毒。
極めて強力な幻惑作用があり、触れた者の平衡感覚を上下左右逆さまに感じさせる効果を持つ。
ケイジィはそれを水の魔術で希釈し霧状にしてラテの足元へと振り撒いた。
霧はすぐに揮発し、吸い込んだり粘膜で触れればすぐに効果が顕れる。

嗅覚と触覚はこれで封じられるはずだ。
あとは、聴覚。

「ね、ね、獣人のおねーえさん!」

ラテの回りを跳ねるように飛び回りながら声を掛ける。
言葉に意味はないが、聴覚の集中を奪えればそれで良い。耳を塞がせれば儲けものだ。

「さっきお金や名誉より街の皆の暮らしが大事みたいなこと言ってたけどさ!
 それならどーしてあの時ノーキン達をおどかして退かせようとしたの?
 ここにいるのはギルドのアサシンだよ?プロが退けって言われて簡単に退けるわけないじゃん!
 ――ちゃんと殺さなきゃダメだよ、敵は」

ラテがあの時、軽銀爆弾を通路塞ぎではなく襲撃隊そのものへと投げつけていたら。
あるいは前に回って勧告などせずに、後ろから一人ずつ殺していたら。
練度の低い襲撃隊は瓦解なり、少なくとも恐れで足を止めていただろう。
そうした手段に訴えなかったラテの選択を、ケイジィは甘さだと見ていた。

「ケイジィ知ってるよ。"殺すぞ"って脅しはね、相手を殺したくないから使うんだって。
 ホントに殺すつもりならわざわざそれを伝える必要ないもんね。世界で一番優しい言葉だよ、きっと」

ラテは襲撃隊に立ちはだかり、その異貌を以って彼らを脅した。
それは、彼女の中に殺意が存在せず……あわよくば穏便にことを納めんとする覚悟の不在の証明だ。

「敵を殺さない優しい優しいおねーさんは、一体誰を守れるのかなぁ。
 アスガルドの街の人たちは、きぃっとケイジィ達を殺して欲しいと思ってるよ!殺されたくないもんね!」

ケイジィの腕から迫り出した刃――仕込みの毒ナイフがラテの足首を狙う。
塗られているのは神経毒。
致死量が多い為命を奪うには深く刺さなければならないが、代わりに即効性が優秀で僅かに擦過するだけでその部位の機能を奪う。
まずは足を止め、返す刃で首を穿つつもりだ。


【陽動部隊:アスガルド防衛団と交戦中。女型ゴーレムのロマン砲で被害者多数】
【ノーキン:裏道の部隊を路地に逃がす。
      ティターニアを一本釣りし空中にいるところを能筋拳で狙撃。
      ジャンに肉迫し、アクアの大剣を手刀で叩き折りジャンの胴体へ後ろ回し蹴りをぶち込む】
【ケイジィ:ラテを毒ガスと言葉で幻惑し、足首を狙って神経毒ナイフの一撃】
0326創る名無しに見る名無し2017/02/15(水) 20:45:12.51ID:3FqVxMz8
http://68.media.tumblr.com/2689ed3e1be3412e48c5c41abf255f13/tumblr_oimfo4W3Eb1u4nbmvo1_500.jpg
0327創る名無しに見る名無し2017/02/18(土) 01:05:25.80ID:Nr3JD94C
ティターニアと共に戦場に転移してきたと思われるパトリエーゼだが、
(むしろ差し出された手を掴もうか逡巡している間に手を引っ張られて強制的に連れてこられた可能性もあるぞ)
ノーキン達は特に彼女を意識する様子はない――
ナチュラルに地味で気付かれていないのか戦力外とみなされて放置されているだけなのかは分からないが
今のところアウトオブ眼中のようだ。
つまり今ターンは敵の攻撃を受けずにフリーに動けるということだ。
エーテル属性の魔術等を使って味方の防護に入ってもいいし、ノーキンかケイジィに不意打ちでの攻撃を仕掛けてもいいだろう。
決して好戦的ではなく皆に友達になってと言ったパトリエーゼなら、まずは味方を助けに動く可能性が高いだろうか。
エーテル属性特化型のパトリエーゼがプロテクションを使えばノーキンの鉄拳にも幾らかは対抗できる……かもしれないし
あるいは魔法陣を相殺したのと同じ類の術でラテにかけられた呪詛毒の解呪が出来る……かもしれない。
逆に周囲の意表を突いて攻撃に出るのももちろんいいだろう。
0328創る名無しに見る名無し2017/02/18(土) 01:26:45.06ID:zwuzE9OK
くっさ
0329パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/19(日) 15:12:20.59ID:t7HCYCqQ
『色を消せ。あんたの魔力から色を取り去るんだ。そうすることで、より強い純粋な魔力が生まれる。
“エーテル・ネクトル”はもう飲んだ? 朝起きたら必ず飲むようにって、言ってあるはずだけれど』

姉さまが掃除の時間、殆ど見えない魔力の塊を操りながら、小鳥や蝶たちを撃ち落としていた。
特に蝶を、執拗に。

「はい、姉さま。この後も修行に付き合ってはもらえないのですか?」

姉さまはこちらを見ずに、眉を顰めて言う。

『あんたに構ってる暇はないのさ。また虐められたのかい? それよりこっちは“蝶”を潰す準備がいるんだ。
私の宿敵である、“黒蝶騎士シェリー”を圧倒するためにね』

……

いけない、また考え事をしてしまった。

最新の噂では、ヴィルトリア帝国の多くに教団支部が建ち、その裏では兄さまの騎士団の暗躍があり、
連邦では首府ソルタレクが教団の手に落ちつつあると聞いている。

はい、頑張ります。姉さま、兄さま。今はもうしばらくは会いたくないけれど。
世界を一つにするために。平和で、誰もが幸せな……

>「だけど……居場所なら、ここにありますよ。何もしなくたっていい。
 ここは皆優しいし、安全です。
 ずっといようと思ったら……流石にちょっとは働かなきゃ、駄目でしょうけど」
>「何かをするから、居場所があるんじゃない。
居場所があるから、その為に何かをする。世の中の、大部分は、きっとそうやっと回ってます。
何かをしようと思えるまで……この居場所にいてみたら、どうですか」

ラテさんが優しくあたしを受け入れてくれた。いや、受け入れたというより、
あたしに居場所を“提案して”くれたんだ。

「ありがとう、ラテさん。あなたは歳は変わらないように見えるのに、凄く立派に見える。
きっとあたしが、何も知らな過ぎたんですね。これからお世話になります! よろしくね」

姉さまたちとは違う。あの人たちは有無を言わせない。この子は選択肢を授かる。
そういった環境で育ってきたんだ。
あたしも悲観してばかりいないで、次の道を探さなきゃ。そして、ここに恩返しをしないと……
そう言ってローブに付いたオークの肉片を払い、ローブを水で濡らす。

「はあっ…!」

全身からローブの布地へと届くようにエーテル力を放つ。これによって水は属性分解され、
汚物とともに浄化され、すっきりとローブが綺麗になっていく。

「そうだ、ここの洗濯係なんて、どうかなぁ……」

>「あー……パトリエーゼ……だったか?俺からも話がある」
0330パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/19(日) 15:14:15.10ID:t7HCYCqQ
独り言を言って作業をしていると、ジャンさんが椅子を持ってきて話しかける。

>「今俺たちは敵に追われてる。あんたと同じだ。それに危険なところばかりに行く。誰も行ったことがないような場所だ。
 これから敵はどんどん増えるだろうが、それでも来るのか?友達にはなれるだろうし、居場所もあるかもしれないが、それでも本当に一緒に行くのか?」

ジャンさんは“敵”というものが何なのか教えてはくれなかった。
その代わり、あたしに“一緒に行く”という選択肢をくれた。
敵はどんどん増える。そう、あたしはどこに行っても敵ばかり作っていた。
姉さまや、兄さま、そしてソルタレクのギルドマスターからも、離れれば何らかの攻撃を受けた。

「構いません! あたしが本当に欲しいのは友達だけじゃなくて居場所。 ジャンさんは顔はその…怖いけど、
今の話を聞いて、本当は優しいのかも、って思ったの。さっきは怖かったけど…」

オークたちを一瞬で肉塊にしてしまった時のことを思い出していた。
あの時のジャンさんはそれこそオーク以上にオークだった。
思わずジャンさんに抱きつく。

ここでも同じように裏切られ、ジャンさんから暴力を受けるようなときは、その時はその時だ。
ラテさんもああ見えていじめっ子だったりするかもしれない。でももうあたしに居場所はここしかない。
――実際に、こうして襲撃から救われたのだから。

その後、どうやらあたしは取り乱していたらしい。
気が付くと例の部屋の例の椅子にいた。ティターニア師が傍にいる。
もうオークたちの死骸は片付いていた。あたしも手伝うべきだっただろうか。

>「うむ、今回我々に襲撃をかけているのはソルタレクの冒険者ギルドらしいからな。
“少なくとも直接は”構成員ということはないだろう」

テーブルに突っ伏しながらも、師の話を聞いている。

>「ところでパトリエーゼ殿、このようなものを見た事はあるだろうか?」
「世界を構成する属性を現した模型だ。まずこの正方形部分を形作る4つが地水火風――一般に四大属性と言われるものだ。
上下の三角の頂点が光と闇――見ての通り四大元素と同じ平面には並ばぬ属性だ。
そしてこの中心にあるのが“エーテル”……全ての属性の中心にして未だ全貌は解明できておらぬ。
「虚無」とも「全」とも「生命」とも言われておるな」

「はい、姉さ…メアリ・シュレディンガーの居た場所には、あちこちにそれが置かれていました。
それと何か今の状況に関係があるんですか?」

>「このエーテル属性は特殊な属性でな、あるレベルのこの属性の魔術を使おうと思えば
同程度のレベルまでの全属性の魔術を万遍なく習得しなければ使えぬ。
先ほどそなたがやった魔法陣の相殺……あれが出来るのは高位魔術師だけだ――”普通は”」
>「もしやそなた、エーテル属性だけに特化しておるのではあるまいか?」

おおよそ当たっている。さすがだ。
ティターニア師はもしやあたしの解除魔法だけでそれを見破ったというのか!?・・

「……はい。ご存知かもしれませんが、“エーテル・ネクトル”というものを毎日飲まされ、
それまでに高めてきた魔力を周囲に“色を消せ”と教えられ…姉からは“黒い蝶を落とすための力を”と
言われて育ってきました。もしかすると、そうなのかもしれません…」

そう言うと師は声色を変えて天を仰いで叫びはじめた。人が変わったかのように。
変態という噂は本当なのかもしれない。

>「興味深い、実に興味深い! それは凄いことだぞ……! エーテルとは見ての通り中心の属性。
他の属性を習得せずしてエーテル属性を使えるとは、もしやそなたには最強の素質が眠っておるのかもしれぬ……!」

「最強…!?」
0331パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/19(日) 15:15:30.04ID:t7HCYCqQ
つい高揚してしまった。貶されてばかりで育ってきたあたしにとっては、師の言葉は途轍もなく強く響いた。

>「我々はソルタレクの冒険者ギルドの襲撃を迎え撃つことになる……
当然ながら命の危険もある、戦い慣れしていなさそうなそなたは安全な場所に隠れておくのが賢明であろう」
「もしどうしても共に戦いたいというのなら……自分の身は自分で守ると約束してくれるなら。
折角の貴重な研究対象に死なれては困るのでな。”プロテクション”は使えるか?
使えぬなら教えよう、そなたほどのエーテル属性の使い手ならすぐに覚えられようぞ」

「はい、協力します。極力は、この敷地の修復や回復になると思いますが…
あたし、人を殺したりしたことはないし、そんなことはしたくはありません。
でも、ここがあたしの居場所だから…今度はあなた方を守る側になりたいんですっ!」

師と握手を交わす。そしてその日から部屋を宛がわれ、あたしはまず、
ユグドラシア全体の見回りをして、残り4つあった魔方陣を発見し、消し去った。
そして、あとは洗濯係をしながらぼろぼろになった箇所を見つけては修復作業をした。
ジャンさんたちが手伝ってくれたけど、あたしも実は筋力には自信がある。
石を積んで張り合わせたり、防護魔方陣、探知魔方陣を張りなおしたりを手伝った。

その時、奥まった場所で干された洗濯物を浄化していると、後ろから不意に声をかけられた。


「お前さん、それはそのままにしておいてくれんかね?」

あたしは驚愕した。茶色のローブに同色の帽子を被った長身で白髭の老人、その姿は。
姉の組織とソルタレクのギルドで見た人物そのものだったからだ。

「ムーアテーメン学長様…?」

そう、人間にもエルフにも属さず、人間よりも長生きしている人間。
世界で数人しかいないという「仙人」「アヴァタール」「賢者」と呼ばれているこの人こそこの地の長で、
ティターニア師たちのヘッドであるダグラス・ムーアテーメンだった。

教団では「危険人物」、確かうる覚えだったけど、ソルタレクでは「ターゲットリスト」に入っていたはずだ。
まさかこんな好々爺だったとは。

「地水火風、光と闇の宿るものを勝手に浄化すること、それ即ち“破壊”とも言う。
お前さんに悪意は無いのだと思うが、止めてやってくれ。このジジイにはこのオンボロが丁度良いでな」

「あなたは…」

「まま、腰掛けなされ」

その後、ムーアテーメン学長とは色々と話をした。そして、掃除をするのならもっと動き易い格好で、
ということで、ヒラヒラした格好の服装に着替えさせられた。特別な魔法効果もあるという。

「結構この格好、派手で目立つような気もするんですけど、これで掃除ですか?」

本では見たことがあるが、「メイド服」というらしい。
ローブと違いしっかりと袖口を覆っているし、スカート丈も膝上なのでいざという場面では動きやすいけど…

(サイズが合ってないのかきついし、足が太いのがバレバレで、体の線も見えるし何か格好悪いかも…)
0332パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/19(日) 15:16:13.91ID:t7HCYCqQ
「おぉ、なかなか似合っとるぞ。それはこの歴史ある施設を守る者としてのあらゆる機能を備えた服じゃ。
魔力も込められた特別製であるし、おぉ…本当に生き生きしとる。生まれ変わったようじゃ」

「あ、ありがとうございます…!」

途端、学長の表情が硬くなる。

「近いうちに襲撃がある、とワシは踏んでおる。ワシもすっかり衰えたが、いざとなれば前に出て戦う所存じゃ。
その時はワシよりもティターニアたちを優先して守ってやってくれ。あやつもまだまだヒヨっ子で、教えるべきことを知っておらぬ。
こっちは心配するな。おぬしら若いモンは、無駄死にするな。生きるのじゃ。」

あたしはスカートを広げて膝を付いてお辞儀をすると、そのまま去っていった。これも本に書いてあったはず。
師も学長もジャンさんもラテさんも必ず助けてみせる。でも――

まさかの三日後、そんなことが起きるなんて。



――

>「……ラテッ!慌てるんじゃねえ、指揮してんのは俺たちじゃねえぞ!
 ティターニア!城壁が突破されたみてえだ、様子を見てくる!」

あたしは気が付くと、居眠りをしていたらしい。ジャンさんたちの声で目が覚めた。

あちこちで悲鳴や怒声が上がる。
どうやらアスガルド市街では戦闘が繰り広げられ、地面を抉る音や爆発音、それに伴う金属音が聞こえる。
座ったまま様子を見ると、中庭では上空から来た敵に対抗するユグドラシアの術士たちが応戦する姿があった。
敵は魔獣とも魔鳥とも言われるアルゲノドン、数はおよそ30といったところだろう。
人が乗っている。兄さまが「竜騎兵」と言っていた種類ものもだ。
あたし達が張った魔法陣が若干障害になっているみたいだけど、敵の攻撃力は高く、それを突破して
25以上の敵が上空まで到達してきた。

「くそ、あれは火薬か! 一旦中庭の部隊は第二学棟まで引けぇ!」

中庭で爆発したそれは仲間の研究員らしき魔術師をあっという間に四散した死骸に変える。
指揮を執っているユグドラシアの魔法兵が思わず怯み、後方に下がって敵を迎え撃った。
地水火風、色とりどりの魔法の弾幕が竜騎兵たちを襲い、そちらも怯んだのか作戦を変えたのか、
一部はアルゲノドンごと降下し、制圧を図ってきた。

「オラオラガリベンども! 俺らギルド員の底力を見ろよォ! お宝のためなら皆殺しだぜ!」
「くそっ、敵の勢いが強い…!」

既に四、五人が犠牲にもしくは戦闘不能になっている。対して相手の数は20は残っている。
場合によっては学長のいる棟も危ない、
空中からは尚も激しい火薬と魔法による爆撃が続く。
0333パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/19(日) 15:22:15.29ID:t7HCYCqQ
目の前の若い研究員が今にも杖を剣で折られ、その命を落とそうとしていた。
さらに後ろからももう一人が槍を持って突撃してくる。救援の位置は離れていて、あたしが入らないと間に合わない。
ここは兄さんに鍛えられたことを思い出さないと…

「はぁっ!」

猛ダッシュで救援に駆けつけ、回し蹴りを敵の腹に叩き込む。兄さんが「鳩尾」と言っていた場所だ。
いつも「殺すための戦法」として叩き込まれた。今日は助けるために、それを使うんだ。
さらによろめいた敵の首めがけて、錫杖を振り下ろす。ゴキッ、という鈍い音が響き、首が変な方向に曲がって敵が倒れこんだ。

「すまない…まさか君に助けられるとはな」
「いえいえ、それより、その方をどこかに安置してください。後で助けなきゃ」

敵は白眼を剥いて口から血を吐いていたけど、助かるはず。
次を何とかしないと。敵が空中でチャージしながら、氷属性と思われる魔法を放つ。

すぐにあたしは錫杖を掲げると、上に向けて放った。意識を集中させる。
――エーテリアル世界よ、悠久の時を越えて我が手に力を…!
――“カラーレス・ウィンド≪無へと帰する風≫!!”

あたしの杖から放たれたそれは、どの属性の攻撃よりも速く、瞬時に敵の魔法を包み込み、
それを相殺しながら魔力ごと爆散させる。これが“無”属性魔法、いわゆるエーテルだ。

「うわぁぁぁ!!」

敵がアルゲノドンと共に中庭に落下し、騎手があたしの傍に落ちる。
もがいている間に跳躍して頭めがけて回し蹴りを放った。これも兄に教わった方法だ。
骨が砕ける音を確認すると、後ろへと下がり、再び舞い上がろうとしているアルゲノドンの細い首目掛けて錫杖を降ろす。
気絶したアルゲノドンの首を後ろから来た増援が刎ねた。

「助かった。君、なかなかやるメイドさんだな。名前は?」

「パ…パトリシアと申します。それよりその敵さんを安全な場所へ運んでください。
あたしは助けに行かないと… お世話になった皆さんを!」

頭の割れた敵兵を運ぶように言われて困惑していた術士さんだったけど、体勢を立て直したことと、
敵が一気に怯んだことを確認して、また敵に対抗するみたい。
ごめんね、敵の兵士さんたちの治療は任せるから、あたしはティターニア師たちが心配なの。
でも、敵の一部の舞台が気になる方向に向かっていった。後で必ず助けにいきます。ムーアテーメン学長!


>「貴様は相変わらず年甲斐のない乳臭い格好だなドリームフォレスト!久しいぞ!!」
>「幼女誘拐犯許すまじ! ――ルーンロープ!」
>「ノーキン・クレイショット☆ブロォォォォッ!!」

なんと、城壁の一部を破壊して入ってきたのは、ノーキンという筋肉ムキムキのエルフさんと、女の子の二人組みだったみたい!
そんなに悪い人たちじゃないんだけど、三人が危ない。
この格好じゃ後ろまで回りこむのも大変だけど、やらなくちゃ。

エーテル教団の術士というのは、遠隔操作が得意でもある。
このあたりは姉さんに教わったことだ。
0334パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/19(日) 15:24:57.12ID:t7HCYCqQ
「お待たせしました。パトリエーゼ、ティターニア師と皆さんと、大事な場所を守るために参戦します。
ノーキンさん、すぐに降伏し、撤退しなさい!」

あたしが現れた位置は三人の少し後ろの場所だ。服装が恥ずかしいけど。
ノーキンにもはっきり見えるよう、片足と片手を挙げて杖も使って独特のポーズを取る。
これは教団に居た頃、メイドさんに関する絵本に載っていたもののマネだ。

地面は酷く割れていて、片足で立つのは大変だったけど、何とかやってみせた。

そして詠唱する。敵に見えないようにノーキンと女の子の周囲にいくつもの魔法陣を張る。
このポーズはただのギャグじゃない。杖を使って詠唱をするのにもってこいだ。
自分さえ標的にならなければ。

あっという間に上下左右のあらゆる角度に6つの魔法陣ができた。
魔力は結構消耗したけど、その疲れが分からないように我慢する。

女の子が動いた。

>「ケイジィ知ってるよ。"殺すぞ"って脅しはね、相手を殺したくないから使うんだって。
 ホントに殺すつもりならわざわざそれを伝える必要ないもんね。世界で一番優しい言葉だよ、きっと」

あたしは杖にエーテルを込めると、ラテさんのすぐ近くの魔法陣へと移送させるように念じる。

「あたし、人を殺したことがないから詳しいことは分からない。でも…
このラテさんという人は、人を助けるために必死だって、それだけは分かります!」

>「敵を殺さない優しい優しいおねーさんは、一体誰を守れるのかなぁ。
 アスガルドの街の人たちは、きぃっとケイジィ達を殺して欲しいと思ってるよ!殺されたくないもんね!」
0335パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/19(日) 15:25:39.06ID:t7HCYCqQ
「ラテさんっ…させない!」

その凶刃を錫杖「白夜のページェント」で受け、同時に女の子の鳩尾めがけて回し蹴りを放ち、
目の前に立ちはだかる。

「ふんっ…あ!」

若干とはいえ、受けきれず攻撃が脚に掠ってしまった。
普段のローブならまだしも、この格好はあちこちが無防備すぎるんだ。
出血は殆ど無いけど、神経毒が塗られていたみたいで、じわじわと集中力を奪っていく。

「くっ…さぁ、皆さん、この二人を止めましょう! ユグドラシアのために…!
ノーキン、あなたは早いうちに降伏し、襲撃の目的を話しなさい。私は人殺しをしません」

とりあえず啖呵を切る。そして大声で叫ぶのは実は囮。
さっき杖を振るわなかったのには大きな理由がある。
魔法陣の中の一つでは、今でも遠隔操作で詠唱が続けられている。
どこから攻撃を放つかは敵さんにも予想はできないはず。

姉さま――黒曜のメアリが得意としていた無属性の大魔法、
“セフィア・トルネード”≪刻滅の大旋風≫が。
この魔法は範囲に入った者たちの精紳に大ダメージを与えるとともに、
強力な気絶の追加効果をもたらすという強力なものだ。

敵の地上兵たちもユグドラシア内部へと侵入しつつある。中が心配だ。
でも、ノーキンの人望もなかなかみたいで、敵の一部がこっちの援護に向かってきているみたい。

「ノーキン様! 援護に来ましたぞ!」

あたしは杖を手放さないように構えたまま跳躍すると、肉薄してきた敵の一人にエーテルの力の一部を込めて
回し蹴りを叩き込んだ。敵のグァ、という声とともに鎧が割れ、途端的は魔法陣に吸い込まれるようにして
あらぬ方向に飛び出して学院の柱の高い位置に頭をぶつけて兜を潰し、血を流しながらズルリ、とゆっくり地面に倒れた。

「あっ…」

魔法陣の仕組みが少しバレてしまったかな、と思ったけど、皆さんがきっと何とかしてくれる…はず。


【遅くなりました】
【パトリエーゼはメイド服に着替え、爆撃組と交戦し、その後はそのままティターニアさんたちの方に合流、戦闘にお邪魔します。
パトリエーゼが片脚に掠り傷、軽い神経毒。
爆撃組とユグドラシア防衛隊の戦いは拮抗、しかし裏道から多数の増援が参加し、
このまま行くと防衛隊不利で学長が狙われつつあります。
裏道に行った部隊のうち数人が戻ってきてノーキン&ケイジィを援護】
0336 ◆ejIZLl01yY 2017/02/21(火) 01:16:01.61ID:DtpOYNo4
>「貴様の愚問に答えよう!何を得るかだと?吾輩は冒険者だ!得るものは金に決まっておるだろう!!
  知らぬのか?金は天下の回りものと言ってな、ヒトが社会で生きていく上で不可欠なる最重要物資であるぞ!」

その言葉を聞いた瞬間、私の心の中で、何かが潰えた気がした。

>「良いか若輩、金は全てに優先する!人々の安寧は金より重い?誰が決めたのだそれは!吾輩ではないぞ!
 街一つ脅かして大金が得られるならば、それは立派な経済活動だ!」

いつもの私だったら、その天下と社会を作っているのも人ですよ、とか言ってたんだと思う。
だけど、駄目だ。言葉が出てこない。
ただ肺と心臓を押し潰すような息苦しさだけが、私の胸中を満たしている。

>「……やめとけや、ラテ。冒険者に良心を期待するもんじゃねえ。街を焼いて戦利品を頂くのは傭兵だけじゃないんだからな」

あぁ、やっぱり、そうなんですね。
あの筋肉男も、他の冒険者達も、退く素振りなんてこれっぽっちも見せてくれなかった。
あくまで、壊し、奪いたいんだ。

だったら……。

>「やれやれ、要塞を守るゴーレムは魔法の笛を吹いて眠らせるのが風流というものではないのか。
  筋肉で破壊とは相変わらずの脳筋だのう、ノーキン・ソードマン!

私は宝箱に左手を忍ばせ……しかし不意にティターニアさんの姿が眼下に現れる。

>「幼女誘拐犯許すまじ! ――ルーンロープ!」

先手を取ったのはティターニアさんだった……が、あの筋肉男は、いけ好かないけど強い。
魔力の縄に縛られてもなお自由な足を使って……地面を踏み砕く。
その破壊の余波は私が立っている建物にまで及んだ。

崩れ落ちる建物の瓦礫を飛び石のように足場代わりにして、私は地上へと着地する。

筋肉男がその敵意の矛先を、ジャンさんとティターニアさんへと明確に向けた。
だけど、私は援護には入れそうにない。

>「ケイジィ、貴様はあのネズミ女を止めろ。吾輩は指環を取りに行く」
>「あいあいさっ。がんばるからね」

私には……どうやら別のお相手がいるようだ。

姿を消し、魔力も隠蔽されている。
だが……今の私には魔物の力がある。獣の卓越した五感が。

いる。私の周囲で、機を伺いながら、しかし素早く距離を詰めてくる。

宝箱に潜らせた左手が、追加の爆弾を掴む。
そして……私の足元に、何かが振り撒かれた。

それが何かはすぐに察しがつく……毒だ。
吸い込みはしない。だが強烈な毒と言うのは、皮膚に触れただけでも体に害を及ぼす。
体がよろめく。一瞬遅れて投擲した爆弾は、ケイジィと呼ばれた人形とは全く違う方向へ飛んでいった。

>「ね、ね、獣人のおねーえさん!」

しかし人形はまだ勝負を仕掛けてはこない。
0337 ◆ejIZLl01yY 2017/02/21(火) 01:17:38.72ID:DtpOYNo4
>「さっきお金や名誉より街の皆の暮らしが大事みたいなこと言ってたけどさ!
 それならどーしてあの時ノーキン達をおどかして退かせようとしたの?
 ここにいるのはギルドのアサシンだよ?プロが退けって言われて簡単に退けるわけないじゃん!
 ――ちゃんと殺さなきゃダメだよ、敵は」

どうやら、私が完全に隙を晒すのを待っているらしい。
私にとっては好都合だ。色んな意味で。

>「ケイジィ知ってるよ。"殺すぞ"って脅しはね、相手を殺したくないから使うんだって。
 ホントに殺すつもりならわざわざそれを伝える必要ないもんね。世界で一番優しい言葉だよ、きっと」

この状況を逆手に取れるかもしれないし、

「……えぇ、その通りです。私は、人を殺したくない。それの何が悪いんですか。
 あなただって、殺されたくないでしょう?それに、ノーキンさん、でしたか。
 もしあの人が殺されたら?その事が恐ろしいとは思わないんですか」

それに彼らとの会話は、まだ私にとっては途中だ。

「なんで、ここなんですか。奪うなら、もっと別の場所から奪ってくればいい。
 冒険者なら魔物からでも、ダンジョンからでも、富と名声は手に入る。
 どうしても奪い合いがしたいなら……せめて悪党同士で奪い合っていればいい」

そして。

「なのに、なんでここなんだ!人の命と、街の平和を奪って、それを金にするような真似がなんで出来る!
 私には理解出来ない!私は、人を殺したくない!私は……誰も殺したくなんか!」

>「敵を殺さない優しい優しいおねーさんは、一体誰を守れるのかなぁ。
 アスガルドの街の人たちは、きぃっとケイジィ達を殺して欲しいと思ってるよ!殺されたくないもんね!」

「……なかった」

これで、会話は終わりだ。

右の足首へ地を這うように迫るナイフを、半歩引いて躱す。
同時に、魔力の布……【スニーク】や【ファントム】に用いるそれを、左手で放る。
動きを阻害するほどの強度はない。ただ纏わりつき……その輪郭を明らかにさせる。

この人形は完全に姿を消し去っていた。
嗅覚も触覚も封じられていた。
音も、あれだけ声を張り上げていたら、聞こえる訳もない。

ならなんで避けられたのかって?
そりゃ……私は魔物の力を宿す以前に、レンジャーだから。

前にも書いたけど、レンジャーは訓練時代に、第六感を磨く訓練をさせられる。
第六感……魔力の流れを感じ取る感覚だ。それが俗に言う盗賊の鼻って奴だね。
魔力を隠蔽したって、隠せばそこには逆にマナの空白が生まれる。
レンジャーはそれを見逃さない……まぁ、私の場合このドーピングなしじゃ怪しいけど。

でも、それでも毒で体の制御を失ってたはず?
お生憎様、私はレンジャーだし、トレジャーハンターだ。
ダンジョンに潜っていれば、プリーストの支援なしで毒に曝される事もある。

対策は当然取ってある。指に嵌めたアンチエレメントの指輪もそうだし……技術だって学んだ。
毒を扱うレンジャーが、己の毒を体内に入れない為の技術。アイテムの合成と同じ要領だ。
体内に入り込んだ毒を、爪や髪……今ならこの毛皮に合成し、血中に溶け込ませずに排出する。その時間は十分あった。
0338 ◆ejIZLl01yY 2017/02/21(火) 01:20:26.28ID:DtpOYNo4
……さて。私が半歩引いたのは、回避の為だけじゃない。
回避運動であり、予備動作でもある。

オオネズミの瞬発力を最大限に活かして……この右手を振り下ろす為の。
【スニーク】を被せ暗器と化した手斧を、振り下ろす為の。
分厚い刃に重さ。それにこの人形自身が飛び込んでくる勢い……かなり深く、斬り込めるだろう。

>「ラテさんっ…させない!」

瞬間、私の目の前にパトリエーゼさんが飛び込んできた。
私を、庇おうとして?……なんて馬鹿な事を!
咄嗟に手斧を手放し、放り捨てて、同士討ちを避ける。

……確実に首を狙おうと、隠密を暴いたのは失敗だった。

「……無茶な事しちゃ、駄目ですよ。あなたが欲しがった平和な居場所は、この戦いの先にあるんだ」

私はパトリエーゼさんの肩に手を伸ばし、後ろへ退かせる。
毒にやられているなら、無茶に動き回れば余計に毒が回る。
一度解毒に専念させてあげないと。

「そういうのは私がやりますから」

にしても、うーん……不意打ちは失敗しちゃったか。
でも、いいや。もう一つの攻撃は、きっと成功してる。

「げぼっ……がぁぁっ……!」

……ほら、少し遠くから、くぐもった悲鳴が聞こえてきた。
あの人形の声じゃない。痛覚があるのかも分からないし、そもそも防御しながらの蹴りじゃ大した威力は出なかっただろう。

悲鳴が聞こえてきたのは、ソルタレクの冒険者達が駆け込んだ路地から。
路地から戻ってきた何人かが、血を吐きながらその場に倒れた。

あの筋肉男が周囲を盛大に破壊してくれたとは言え、横道は元々、瓦礫や廃材で封鎖されていた。
そんなに素早くは通り抜けられない。

そんな路地に無理矢理逃げ込む隙を隠す為、奴らは煙幕を張っていた。
だからただでさえ通りにくい路地が更に通りにくかっただろうし。
自分達が通ろうとしているその路地に、追加の、毒の煙幕を投げ込まれてたとしても、そんな事には気付けなかっただろう。

さっき投げた爆弾は、元々あの人形を狙った訳じゃない。
路地に駆け込んだ冒険者達を狙ってたんだ。

その毒はアケディアと呼ばれる蛇の毒。
怠惰の名を持つその蛇の魔物は、他の蛇みたいに獲物を丸呑みにしたりしない。
牙を突き刺し、毒を注ぎ込むと……その獲物は、体の中から溶けていくからだ。
そしてそのまま、溶けた獲物の中身を啜る。

まぁ毒煙幕を吸い込んだくらいじゃ、全身が溶けたりはしないだろうけど……少なくとも肺や喉は駄目になる。
息が出来ず、自分の血に溺れるのは、きっと想像を絶する苦しさだろう。
奴らの中にはプリーストも混じっていたけど……それでも何人かは、その手から零れ落ちる。

だけど、そんな事、知った事か。

……ジャンさんは、彼らに良心なんて期待するなと言った。やっぱり、そうだったんだ。
あの筋肉男も、他の冒険者達も、退く素振りなんてこれっぽっちも見せてくれなかった。
0339 ◆ejIZLl01yY 2017/02/21(火) 01:21:49.44ID:DtpOYNo4
>「くっ…さぁ、皆さん、この二人を止めましょう! ユグドラシアのために…!
 ノーキン、あなたは早いうちに降伏し、襲撃の目的を話しなさい。私は人殺しをしません」

「目的ならもう、聞きました。あなた達は……あくまで奪い、殺したいんだな。この街から、私達から」

だったら……

「だったら、もういい。その代わり、私にも良心を期待するな」

私は深く息を吸い込む。

「ソルタレクの冒険者ども!聞こえるか!私は警告したぞ!ここは怪物の口の中だと!
 それでも踏み込んだのはお前達だ!だったら……報いを受けさせてやる!
 苦しめて、誤った選択を後悔させて、もう取り返しが付かない事を絶望させて!」

なんて……これは全部、嘘なんだけどね。
だって私はあの人形の相手をする為に、ここから離れられない。
だけど……この場を離れた冒険者達に、そんな事は分からない。

分かるのはただ……仲間達が己の血に溺れ、死んでいったという事実。
つまり……毎度おなじみの【ヒュミント】だ。
ただ今回は、恐怖を植え付け、萎縮させる為の、だけど。

会話は、さっき切り上げた。だからこれは、そして今から紡ぐ言葉も、ただの私の意思表示。

「……殺してやる」

……まぁ、今のままじゃちょっと無理そうなんだけどね。
パトリエーゼさんが間に入っていなかったら、さっきの斬撃、私は凌ぎ切れていなかった。

【ヒュミント】で情報的に優位に立っていて、なお、それでやっと、
人形相手に有効打になるか分からない一撃と、毒の種類次第では掠めただけで終わりの一撃で相打ち。

これが……私の実力だ。
魔物の力をこの身に宿して、やっと一流の冒険者達の背中が見えてくるくらい。
だけどあの筋肉男も、アイツが傍に置いているこの人形も、一流のその更に先にいる。

私は、弱い。今のままじゃ、勝てない。

幸いにも人形が蹴っ飛ばされた事で距離は開いた。後ろに向けて地面を数回蹴る。
逃げる訳じゃない。ただ、私じゃ勝てないなら……もっと、私以外の力を使うだけだ。

さっき私に振り回されたアルゲノドンは、このすぐ近くに墜落した。
お腹を槍でぶっ刺されて、私がそれにぶら下がって、傷口は散々引っ掻き回された。
だから獣の鼻が、強い血の臭いを嗅ぎ取っている。
……あった。瓦礫の下から溢れる、魔物の血……。

私はそれを両手で掬い上げ、口に運んだ。

ぎしぎしと軋みを上げながら、また、体が作り変わっていく。
オオネズミの毛皮はより軽い羽毛と羽根に。
体も、もっと軽く……それでいて、力はもっと強く。

この巨体で自由に空を飛び回り、自身の何倍も大きな獲物をも屠る、軽く強靭な筋骨格。
遥か上空からでも、凄まじい速度での飛行の最中でも、獲物を見逃さない鷹の目。

気分は、まるでハルピュイアってとこかな。なんだか、自分が自分じゃないみたいな高揚感。
まぁ、気分だけだけど。なんたって私は元が弱い。これでもまだ勝てるかは分からない。

……ふと視線を落とした血溜まりの中に映る私の双眸は、血よりも更に紅く染まっていた。
0340 ◆ejIZLl01yY 2017/02/21(火) 01:23:09.65ID:DtpOYNo4
「……人形のあなたには、奪う命がない。その人格すらも、どうせ作り物なんでしょう」

だけど不思議とその事に何の感慨も湧かない。
そうだ。ミライユさんが死んだ時、私はこう思ったはずだ。
リアリストになりたいって。無感動でいた方が、辛くないって。
だから……これでいいんだ。

「だから、せめてあなた自身を奪います。
 奪われる苦しみを、学んでこの世から消えていくといい。
 あなたも、あの男も」

鷹の目が、人形を睨む。
不銘を抜き、矢を三本取り出す。
弦を引き絞り……射掛ける。
間髪入れず、地を蹴り前進。更にナイフを投擲。

矢とナイフには【ファントム】を被せた。
十を超える私の幻影……その中に、本物はない。

次の瞬間、人形の背後に現れる私……それも、幻影だ。
頭上越しに投げた軽銀爆弾……今度は間近で食らわせてやる。

そして私自身は……【スニーク】を纏い、人形の頭上を取っていた。
半壊した、しかし崩壊を免れた建物の残骸。
鼠の瞬発力に、猛禽の身軽さ……建物をよじ登るのは簡単だった。

不銘には既にショートスピアを番えてある。
どこを射抜いてやろうか。

頭か。いや……あの人形に奪われる苦しみを教えてやるなら、まずは足か。
それがいい。手足を地面に縫い止めて、軽銀爆弾で焼き尽くしてやろう。
炎に呑まれ、自分が消えていく感覚を味わいながら、この世からいなくなればいい。
今度は、邪魔も入らない。

……そこまで考えて、私は気付いた。
私の口元が……筋肉が引き攣るほどに、まるで牙を剥いた獣のような、笑みを描いていた事を。

おかしい。これじゃまるで……私が奪う事を楽しみにしていたみたいじゃないか。

それに、それに……私は今、何を考えていた?
パトリエーゼさんは、私を庇おうとしてくれたんだぞ。
それを、邪魔だなんて……。

カムイの刀身に、さっきの血溜まりに映った、紅い眼が脳裏をよぎる。
違う。そんな訳ない。今までだって何度も使ってきた奥の手だ。急に副作用なんて、そんな訳……。

そんな訳ないと……言い切れない。心臓が、嫌な感じに暴れている。

私の意識が一瞬、戦闘を忘れた。
指が滑る。弦を限界いっぱいまで引き絞る事なく、ショートスピアが放たれた。
気の抜けた射撃だ。あの人形を仕留めるどころか、足を縫い止める事も出来ないだろう。
居場所もバレてしまう。

だけど私の意識はまだ、この戦場に帰ってこれていない。



【雑兵どもはビビってろードーピング倍プッシュだー
なんかやりたい事だけやらせてもらっちゃっててちょっと申し訳ないかも】
0341ジャン ◆9FLiL83HWU 2017/02/21(火) 19:58:31.30ID:azsa/4+5
>「すなわち!――多少派手に地盤を割っても復旧に問題はないということだ!!」

ルーンロープの束縛をものともせず、ノーキンは足一つで石畳を砕いた。
さらにその衝撃はジャンのいる場所まで届き、吹き飛んだ石片が散弾のようにジャンの身体へぶつかっていく。
幸いアクアの大剣による防御と鉄の防具によってそれほど傷は負わなかったが、視界を塞ぐには十分な量だ。

石片と共に巻き上がる砂埃が収まったとき、ジャンの視界にいたのはノーキンただ一人だった。
ラテはおそらくノーキンの隣にいた少女と既に戦闘を開始したのだろう、二人ともここにいない。
ノーキンの後ろにいた冒険者部隊は既に別の順路で移動を開始したようだ。

つまり……ある程度こちらの狙い通りだ。

アスガルドの冒険者部隊はユグドラシアを囲む市街地に潜み、学園へ通じる裏道、裏口、通用門を全て確保している。
あの数ならば、いずれ学園にたどり着くまでに全滅するだろう。ここを知り尽くしているのはノーキンだけではないのだ。

>「そしてオークの若輩よ!貴様の持つ指環は吾輩が個人的に探し求めていたモノだ。
 くれと言ってもくれぬであろう?ならば冒険者らしく、盗掘品の奪い合いといこうではないか!」

ノーキンは力強く堂々と名乗り、踏み込んできた。
見た目からは想像もできない俊敏さにジャンが思わず目を見張った、その直後。

>「吾輩の皮膚を断つとは実に業物である。だが剣を断ち切るモノもあると知っているか?」

ジャンの目の前に現れたかと思うと、両手で構えているはずのアクアの大剣を片手で掴み、止めてみせたのだ。
ハーフオークとはいえそこらの生物に負ける腕力ではないと自負していたジャンにとって、これは久しくなかったことだった。

(コイツ…!親父かそれ以上の腕力してんな!)

さらにただの筋肉馬鹿ではない。そうジャンは直感で感じた。
ならば一旦引いて指環の力で対抗するしかない、そうジャンが考え距離を離そうとした瞬間だ。

>「――我が手刀だ!!」

ただの手刀によってアクアの大剣は容赦なく砕かれ、思わず構えが乱れた隙を突かれる。

>「そしてこれが我が足刀だ!!」

鉄の胸当てにはヒビが入るほどの衝撃が加わり、ジャンはあっけなく吹き飛ばされた。
通りにあった青果店の、先日までは売り物だった大量の果物にぶつかり、欠片の中にジャンは沈む。
だが、ジャンの身体には傷一つついてはいなかった。砕かれたアクアの大剣が圧縮された水流となり、
ジャンの身体をノーキンの一撃から守ったのだ。だが、鉄の胸当てまでは守り切れなかったようだ。

「……痛ぇなオイ、この胸当て結構高かったんだぜ」

ゆらりとジャンは立ち上がり、指環の力を再び解き放つ。
指環から放たれる激流はジャンの腕と足に纏われ、それぞれ美しい水の波紋を描いた紋様を持つ防具となった。

「こっちも名乗らせてもらう。冒険者のジャン・ジャック・ジャンソンだ。
 指環は渡せねえ。あの世か牢屋、どっちかに行ってくれや」

荒波のごとき激流を体に纏わせ、滑るようにノーキンへとジャンは突撃する。
まずは姿勢を低くし、なめらかな動きで足払いをかけた。さらに姿勢を崩したところで膝蹴りを胴に叩きこみ、顔面に右手による殴打。
常人ならばまず昏倒するか骨を砕く一撃だが、さらに指環の力によって打撃を加えた箇所に水流をまとわりつかせる。
仮に意識を保ったとしても、意のままに動かない水流によって動きは制限される……はずだ。

(この筋肉野郎に小細工が効くかどうか分かんねえが……やらんよりはマシだ!)
0342ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/22(水) 23:28:13.66ID:XwPus/33
>「……ぬ。そういう貴様は相変わらず年甲斐のない乳臭い格好だなドリームフォレスト!久しいぞ!!」
>「誰あのひと、知り合いなのノーキン」
>「ティターニア・ドリームフォレスト。ユグドラシア、ひいてはエルフ魔法界における有名人だ。異端児という意味でのな。
 優秀な導師ではあるが如何せん頭のネジがイカれ方向に振り切れているユグドラシアの狂人代表のようなものだ」
>「ううーん……とりあえずノーキンの類友ってことはよくわかったよ」

全くの嘘ではないが若干盛ったり尾びれ背びれが付いたティターニアの情報を織り込みつつ
ノーキンと謎の少女との軽妙な掛け合いが繰り広げられる。

「ま、まあ……ロマン砲等冗談半分で提案はしたが……まさか本当に作ってしまうとは思わなんだ。
そういえば古代魔法文明時代の様子を推測した論文は発表当時は爆笑の渦を巻き起こしたかの。
空飛ぶ船が妙にツボにはまったらしい」

>「まぁ聞け。ヒトに限らずエルフもまた積み重ねた年齢で相応の貫禄を宿すものだが……あの女はアレで吾輩より年上であるぞ」
>「キャピキャピエルフおばさん……!!」

「言いたいことは分かるがキャピキャピは少し方向性が違うと思うぞ。
それに逆だ、ノーキン殿の方がエルフとしては若年にして重厚な雰囲気を身に着け過ぎなのだ」

エルフの貫禄とは内側から滲み出るオーラのようなものであり、通常は外見自体に貫禄が付くわけではない。
同僚エルフ導師には外見が老けない種族特性を最大限悪用し、ウン百歳でミニスカツインテールで魔法少女を気取っている輩などもいる。
それに比べればティターニア等かなり落ち着いている方……というのはどうでもいいが
とにかく、100歳でようやく成人とされるエルフとしては、140や150と言えばまだまだ若いはずだ。
一説には、人間と結ばれると老化するようになる――
という説があったのをふと思い出すが、何しろ事例が希少なため真偽は定かではない。
ルーンロープで拘束されて尚、ノーキンは落ち着き払った様子で語る。

>「そこのポンコツが言ったようにこのケイジィはヒトを模したただの魔導人形よ。
 利害の一致から共に旅をしているに過ぎぬ……余計な詮索はするなよドリームフォレスト」

「魔導……人形……だと!?」

よくよく目を凝らしてみれば肌が人造物のように見えなくもないが、外見の精巧さもさることながら。
あの軽妙な掛け合い、表情の動き―― まるで生命が宿っているかのよう。
西方大陸はもとより中央大陸の技術レベルをも軽く超えている。
このレベルの魔道人形を作れる国があるとしたら……。興味は尽きないが、今はそれどころではないようだ。
0343ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/22(水) 23:30:05.00ID:XwPus/33
>「……さぁ!待たせたな若輩諸君!旧交の温め合いは終わった。待望の命のやり取りの再開だ!
 吾輩昔はこの国の軍人でな!重要な技術拠点でもあるこのアスガルドの戦略地理については熟知している!
 例えば街の下水道普及率はユグドラシアを中心に6割程度!この辺りはまだ汲み取り式で用を足しているな!」
>「すなわち!――多少派手に地盤を割っても復旧に問題はないということだ!!」

ノーキンが足を踏みしめると、盛大に地割れが走る。
それはいいのだが、(いや良くはないが)特筆すべきは魔術も何も使わずに本当に単に足を踏みしめただけだということだ。

>「ノーキン・スピニング☆アクセル!!」

そのままノーキンが華麗に高速回転を始め、ティターニアは気付けば宙を舞っていた。
いくらここが夢と魔法の学園都市とはいえ、なんという刺激的すぎるアトラクションであろうか!

>「瓦礫の彼方へ飛ぶがよい!」
>「ノーキン・クレイショット☆ブロォォォォッ!!」


ノーキンが正拳突きのポーズで拳を突き出し、エーテル属性の魔力が打ち出される。
魔法装具エーテルメリケンサックを介した物理攻撃から魔法攻撃への変換――
建造物を破壊する場合や肉体派の敵に対しては、魔法攻撃に変換した方が大きなダメージを与えられるのだが、
物理防御が弱い反面魔法防御に優れるティターニアにとってはこれはせめてもの救いだった。
とはいえ、アスガルド外壁の破壊にも使われたその技の衝撃は相当のものである。
とっさに発動を間に合わせたプロテクションで和らげて尚、ド派手に吹っ飛ばされる。
危うく文字通り瓦礫の彼方に飛ばされ暫し戦線離脱するところであったが、
ノーキンにほどかれたルーンロープの端を適当な構築物に巻き付け、なんとか戦場に踏みとどまった。
浮遊の魔術で落下の衝撃を和らげつつ地面に降り立つ。
ちなみに眼鏡は一連の空中散歩を経ても飛んでいくどころか何故かずれもしない。
そのような方向性にも無駄に高性能な魔装具である事が伺えるのであった。
眼鏡は無事だが今の攻撃を食らい流石にノーダメージというわけにはいかず、口の端から流れる一筋の血を手の甲でぬぐう。

「自分の血を見たのは数十年ぶりだ……と言いたいところだがそういえばこの前魔導書の紙の縁で指切ったわ」

不敵な笑みを浮かべ余裕を装うが、常にジャンをはじめとする鉄壁の前衛達に守られてきた純魔術師系クラスであるティターニアが
ここまで派手なダイレクトアタックを食らうのは稀有なことであった。
2対3、数の上ではこちらが有利だが……
ジャンは水の指環の力を解放して尚圧され気味で胸当てが砕かれており、ラテは姿見えぬケイジィの言葉に翻弄され、冷静さを失いつつある。
ケイジィはツッコミ役お喋り人形としての性能もさることながら、戦闘力も飛びぬけた魔導人形であった。
それもおそらく能力の傾向は暗殺者系――あの格好は敵を油断させるためのものだろう。
それにしてもあの言葉攻めは、今のラテにとってはそんじょそこらの毒以上に猛毒だ。
読心能力でもあるのか、あるいは言動の端々から彼女のトラウマを読み取ったのか……どちらにしても脅威。
ここで大地の指環をはめるべきか――ティターニアは暫し逡巡する。
ノーキンの発言から、彼が指環を狙っているのは明らか。
こちらが水の指環に加え大地の指環まで持っていると知れれば、更に本気になってしまうことだろう。
そんな時だった、パトリエーゼが駆けつけたのは。
0344ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/22(水) 23:33:02.50ID:XwPus/33
>「お待たせしました。パトリエーゼ、ティターニア師と皆さんと、大事な場所を守るために参戦します。
ノーキンさん、すぐに降伏し、撤退しなさい!」

独特の戦闘服、通称メイド服に身を包んだその姿は、ほんの数日前とはまるで別人のよう。
杖を掲げ独特のポーズで制止するパトリエーゼの艶やかな黒髪が、魔力の波動に揺れる。
あっという間に周囲に6つもの魔法陣が展開された。

「パトリエーゼ殿、来てくれたのか……!」

パトリエーゼのエーテル属性特化の魔術は、元々は狂気の教団によって開発された哀しき力――
彼女はそれを、流れ着いたばかりのユグドラシアを守るために惜し気もなく使ってくれている。
エーテル・ネクトル――継続して服用することでエーテル属性の魔術への適合値を飛躍的に上昇させる劇薬。
それだけに心身への負担が非情に大きく、継続的な服用者の心神喪失や突然死等が後を絶たない。
その危険性たるや人体実験ともいえるもので、当然ここユグドラシアでは禁忌とされている。
パトリエーゼがその事故例の中の一例にならずに済んだのは、運よく元々の素質に恵まれていたおかげであろう。

>「敵を殺さない優しい優しいおねーさんは、一体誰を守れるのかなぁ。
 アスガルドの街の人たちは、きぃっとケイジィ達を殺して欲しいと思ってるよ!殺されたくないもんね!」

>「ラテさんっ…させない!」

パトリエーゼはなんと、ケイジィとラテのレンジャー系クラス対決の最中に躍り出て
ステルス魔術で姿を消したケイジィの攻撃を杖で受け止め回し蹴りを放ち、ラテを庇って見せた。
それを見たティターニアは驚愕した。
卓越したエーテル属性魔術だけではなく、本格的な前衛での戦闘術まで身に着けているというのか。
それにあの身のこなしはどこかで見覚えがある――そう、帝国騎士のものだ。
それはパトリエーゼが帝国騎士団に所属していたことがあるということを示していた。

>「……殺してやる」

昏い決意を瞳に宿したラテが、アルゲノドンが墜落したあたりに歩み寄る。
ティターニアは、ラテが何をしようとしているのか分かってしまった。

「ラテ殿、やめ……」

なんとしてでも止めようとラテの方に駆けだすが、その進路上にノーキン達の援護に駆けつけた雑兵数名が割り込んできた。
0345ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/22(水) 23:36:47.85ID:XwPus/33
>「ノーキン様! 援護に来ましたぞ!」

「退け、今はそれどころではない!」

一人はパトリエーゼの魔法陣に吸い込まれて自爆し、残り数名も適当な魔術で蹴散らすのは大して時間はかからなかったが、タイミングが最悪だった。
それはラテが魔物の血を――アルゲノドンの血を飲んでしまうには十分すぎる時間だった。
すでにオオネズミの血だけでも副作用が出かけていたのだ。
その効果も切れぬうちに重ねてアルゲノドンなどという更に高位の魔物の血を飲んでしまったら……

>「……人形のあなたには、奪う命がない。その人格すらも、どうせ作り物なんでしょう」
>「だから、せめてあなた自身を奪います。
 奪われる苦しみを、学んでこの世から消えていくといい。
 あなたも、あの男も」

血よりも紅い真紅の双眸、口許に浮かべた凄惨な笑み――今や精神までも魔物の血に侵食されていることは明らかだった。
そしてそのことに気付いたラテ自身の心の動揺を現すかのように、彼女の手元が狂い始める。
魔物の血の侵食においても、戦闘においても、このままではどちらの意味でも危険だ。

「――ピュリフィケーション」

ラテによっていったん引かされたパトリエーゼに駆けより、肩に手を触れて解毒の魔術をかける。
そして背伸びしてパトリエーゼの耳元に口を寄せ、ラテに聞こえぬように小声で囁く。
本当はティターニアの方が遥かに年上なのだが、まるで幼い少女が大人に秘密の頼みごとをするような、不思議な絵面となった。
そしてたまたまパトリエーゼが大柄だったからそうなったにすぎないその絵面は、奇しくもティターニアの今の心境を正しく表しているのだった。

「頼む、ラテ殿を助けて……救ってやってくれ……! 我ではもう救えぬ……」

それは心からの懇願。学長がまだまだ未熟だと言った通り、導師の威厳もへったくれもあったものではない。
しかしそれは単に藁にもすがる心境から出た言葉ではもちろんなく、出会ったばかりのパトリエーゼに託したのはそれだけの理由がある。
理由の一つめは、単純にパトリエーゼがエーテル属性の魔術の扱いにおいてはティターニアを超える力を持っていること。
魔物の血は一種のとても強力な呪いだ。ああなってしまっては、自分の解除できる範囲を超えている。
しかしエーテル――全ての魔力を打ち消す虚無の属性を統べるパトリエーゼならばあるいは――
もう一つは、精神的な理由。
人の説得においては、何を言うかよりも誰が言うかの方が遥かに重要なことが往々にしてあるのが現実だ。
ラテがいくら説得しても無意味だったミライユが、メルセデスの前にはいともたやすく陥落したように。
人間の尺度で言えば長い年月を生きすぎたティターニアの言葉はラテの心に届かなくても、
同年代の少女であるパトリエーゼならば可能性はあるかもしれない。
とにかくこうなってしまってはラテの事はパトリエーゼに託し、自分は自分の出来ることをするだけだ。
ジャンの方を見れば、指環の魔力を全身に纏って防具として使う算段のようだ。
となれば、武器は自らの肉体自体ということだろう。
0346ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2017/02/22(水) 23:39:26.50ID:XwPus/33
「――エーテリアル・ウェポン」

いつもは武器にかけている強化魔術を今回はジャンの体自体に、いつも通りにかける。
毎度おなじみのファイアウェポンやダークウェポンといった属性付与兼強化の術の系列だが、
一つだけ違うところがあるとすれば……今回はそのエーテル属性版。
エーテルは虚無――そして全という側面も併せ持つ。
これは理論上は存在するが通常は不可能とされている、全ての属性の魔力を同時に付与するに等しい魔術なのだ。
その無謀な挑戦は功を奏し、ジャンの体が魔力のオーラを纏う。
不可能とされている術が何故成功したか、それはパトリエーゼによって展開されている六つの魔法陣の力の賜物に他ならない。

>「こっちも名乗らせてもらう。冒険者のジャン・ジャック・ジャンソンだ。
 指環は渡せねえ。あの世か牢屋、どっちかに行ってくれや」

ジャンの全ての属性が合わさって最強に見える攻撃がノーキンに炸裂する!
0347ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc 2017/02/24(金) 00:14:43.25ID:oXpkJgdQ
早い物でこのスレももうすぐ500kbだが
ここを立てて以来スレ立てをしていないのに何故か「このホストではしばらくスレが立てられません」が出てしまった。
雛形を置いておくのでどなたか可能な方にスレ立てをお願いしたい。
0348ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc 2017/02/24(金) 00:17:02.26ID:oXpkJgdQ
【スレタイ】
【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
【本文】
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし (1つの章は平均二か月程度)
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり(ただしスレの形式上敵役で継続参加するには工夫が必要)
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
避難所の有無:なし(規制等の関係で必要な方は言ってもらえれば検討します)

新規参加者は常時募集していますので、参加希望の方はまずはこちらのテンプレで自己紹介をお願いします。
(単章のみなどの短期参加も可能)

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:
職業:
性格:
能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
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【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
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0349 ◆ejIZLl01yY 2017/02/24(金) 01:58:49.21ID:rXzp6YfF
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/

ほい!立てときました!
0350パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/24(金) 18:01:23.56ID:vS4leVsa
>「……無茶な事しちゃ、駄目ですよ。あなたが欲しがった平和な居場所は、この戦いの先にあるんだ」

ラテさんがそっと肩に手を添え、あたしを後ろへと引かせる。

>「そういうのは私がやりますから」


役に立てたようで嬉しいと同時に、寂しくもあった。

「分かったわ。無駄死にするな、とここの学長さんにも言われているし、なるべく援護に回るようにします。
敵が見えています。私には。それを皆さんで共有しましょう」

「≪エーテルサーチ!≫」

ケイジィの姿がエーテルの力で露になり、ステルス効果が打ち消される。
実際には見えているようにしているだけで、打ち消しているという訳でもないのだけれど。

あたしはさらに魔力のチャージを続け、せめてもの一撃を放てるようにした。
相手は強敵だ。このまま市街や学長側の援護にもいきたいけど、彼らは“友達”なのだから。

が、状況は変わった。
ラテさんが先走ったようで、アルゲノドンを撃ち落とすと、その力を吸収しはじめた。
ラテさんの毛皮がみるみるうちに禍々しい羽根や皮膜に変わる。そしてその目は――既に人間のそれを超越していた。

「どうして、こんなことに…!」

飛び掛ってくるノーキンの部下たちに蹴りを入れ、柱や魔法陣を利用して一人ずつ無力化していく。
この人たちにも人生があるのだから、優しくしなきゃ。
柱の一本が倒れて崩れ、その一人を潰して、内蔵が出てるけど、きっと終われば何とかしてくれる。

ケイジィの背後をついたラテは禍々しいオーラをまとっている。
あたしは混乱した。とりあえず離れた場所でジャンさんと一緒にノーキンと対峙するティターニア師を見る。

>「退け、今はそれどころではない!」
>「――ピュリフィケーション」

「あっ…毒が…」

今まであたしを蝕んで動きを鈍らせていた毒が除去された。
これはエーテルの力による「中和」だ。あたしには使えないこともないが、この速度で出すことはできない。
ティターニア師が急にあたしに近づくと、背伸びをしながら耳元で囁く。

>「頼む、ラテ殿を助けて……救ってやってくれ……! 我ではもう救えぬ……」

それは真剣そのものの懇願だった。
先ほどまでは余裕の表情をしていた師が、これほどまでに追い詰められるとは。
逆にその師の友情、仁義というものに痛切に感動した。
0351パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/24(金) 18:02:10.64ID:vS4leVsa
「わかりました。きっとこれも運命なのでしょう。
エーテリアル世界が分裂したのも、ここであたしがラテさんのために身を張るのも」

杖を構え、大魔法をなおも詠唱しながら、残りの魔力を賭けて飛び上がり、ラテさんを後ろから羽交い絞めにする。

「…“無色の抱擁”≪エーテルクルセイド≫…!!」

ラテさんを羽交い絞めにしたあたしは、短時間でラテさんに宿った禍々しい属性を吸収していく。
そこには地や風、闇といった様々な属性が交錯し、禍々しい姿を像造っていたに違いない。

「あたしが、全部吸い込んでやる…!」

エーテルの器と化したあたしは、ラテさんからその能力を奪わないように、その禍々しい姿を、
ラテさんの人間の姿に完全に戻した。
つまり、ラテさんの攻撃能力を損なわないまま、侵食を食い止めたのだ。
全身に痛みが走り、彼女が今まで感じてきていた苦痛のようなものが走る。

「今だ…!!」

それを素早く大魔法詠唱の方へと上乗せする。そして研ぎ澄まされた魔力は、
濁流をもって敵をターゲッティングし、巨大な竜巻となって襲い掛かる。それは目の前にいるケイジィと、魔法陣で多段反射しながら、
突如遠く離れたノーキンを襲った。

「いきます。――“黄昏の大旋風”≪セフィア・トルネード≫…!!」

たちまち「無」属性の大魔法が放たれ、それは旋風状になって敵を襲った。
強烈な破壊力は鎧や岩も砕き、同時に相手の精神力を潰滅させる、絶対的な「虚無」の魔法。

――

――そのときだった。

『――ムーアテーメンより。敵襲じゃ!こやつらは今街を襲っている連中とは訳が違う。わしらで対抗してみるが、
余裕があったら援護頼む』

学長さんからウィンドボイス、いや、エーテルボイスのようなものが放たれた。
発信源は空中というより、この建物そのものに魔法がかけられ、それが発信源になっているみたい。

「今、助けにいきます…!」

あたしはノーキン&ケイジィと対峙する師たち三人にその場を任せると、いち早く
先ほどラテさんから「吸収した」能力の一部である浮遊能力を利用して、残る魔力を全力で消耗しながら学長のいる一号棟へと向かった。

「三人とも、うまく打ち負かしてくれてるといいな…でも、これはあたしの仕事だから。
本に書いてあった。メイドさんっていうのは、ご主人の危機が迫ったら何が何でも駆けつけなきゃならないから。
だって、この服装をくれたのは、学長さんだし…!」
0352パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/24(金) 18:06:53.05ID:vS4leVsa
あたしがこの前学長さんと一緒にお話した場所あたりに駆けつけると、
フードを被った男たちが魔術学院の学生や護衛の兵士さんたちと戦っていた。
数が多すぎるし、あの身のこなし、まるで戦闘のプロみたい。

――少なくとも冒険者ギルドから派遣されてきたメンバーではない…!
でもこの服装の集団、どこかで見たことが…

まだ建物の外だし、学長さんの姿は見えないけど、やれるだけやってみせる。
あたしが足止めして、流れを変えて撃退してやる!

「ほう…こいつもここの兵の一人か? どうする?」
「始末しろ。あの方の命令だ。女でも容赦するな」

「させないっ!」

背後に回りこむ敵のフードを被った兵を杖で殴り、そのまま精神力を破壊して気絶させる。
気絶してるだけ…だよね?

次に横から飛び掛ってきた相手がいたけど、何とか魔法陣を展開して、それを使って一度弾き飛ばすと、
思い切り頭を踏んづけて、動かなくなったのを確認する。

「あれは強敵だ。二人か、三人以上でかかれ!」

少しずつ押し返してくれればいいな、と思ったけど、もう学院の人達は逃げるか、やられるかで、
気がついたら周りにはあたししかいなかった。

あ、魔力が尽きた。それでも戦う。そろそろ向こうでの戦闘が終わって、師やラテさんたちが助けに来てくれるから。

兄さまに教えられた。
昔のある組織の兵は槍が使えなくなったら剣を抜いて戦い、剣が仕えなくなったら拳で戦い、拳で戦えなくなったら歯で戦った――と。

腕をやられ、杖を遠くに弾き飛ばされた。もう取りに行くのは難しい。
大事なのは、どうやって敵を一人でも多く減らすか。教えられた通りに、人間の体の弱点は知り尽くしてる。
倒れた敵さんから剣を貸してもらうと、それで兄さまと訓練した頃を思い出しながら、剣で相手の頭や首、胸のあたりを狙い、
そして後ろに回りこまれたら回し蹴りで目や鳩尾や脚を狙った。
弓や魔法を相手には敵さんの体を使って盾にして、その場を凌いだ。

そうして何分経っただろう。
0353パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA 2017/02/24(金) 18:10:45.49ID:vS4leVsa
――目の前が倒れた人間で一杯になっていた。
あちこちが真っ赤に染まっている。あたしの視界は真っ赤だ。

全身が痛い。あちこちに刺さった矢や傷があるから、神経毒や麻痺毒が回ってきてるんだろう。
意識が落ちる。あたしもう駄目かも。

せっかく貰った服装もボロボロに破けて、もう裸も同然だ。
これじゃ、学長やティターニア師たちに見せられないや。

意識が飛びかける寸前のこと。
建物の中から大事そうに何かを抱えて出てくる黒い鎧の男の人を見た。
どこかで、何かの本を見て知ったことがある。あれは…

「――それは…“無の水晶”≪エーテル・クォーツ≫…
まさか、貴方は、あの“クリスタルドラゴン”を…そんな…」

その“黒騎士”は口の端を吊り上げて答えた。笑っているようにも聞こえる。

「さぁな。これは“器”に過ぎん。“種”がなくてはただのガラクタだ。
と、お前がまさかここにいるとはな。とりあえず…」

そんな、まさかここで貴方に…!?

「――死ね」

ドン、と強く重い一撃が放たれると同時に、あたしはついに地面に倒れ伏した。
最後にあたしはその見知った黒騎士の姿を目に焼き付けた。彼が踵を返す光景が最期になった。

(ティターニア師、ラテさん、ジャンさん、学長…あたしは、ここが最後の場所で良かったのかな…?
皆さん、どうかご無事で…!)

殆ど動かなくなった両腕を前に組んだところで大勢の敵が群がってきた。

「殺されたホセたちのカタキだ!」「被害状況は? 何人殺された!?」「くそっ、俺の目が…」
「その女を殺せ!!」「いや、もっと、もっと苦しめてから殺してやれ……」

敵の殺気に満ちた声を聴き終わらないうちに、意識はそこで途切れた。

そして――あたしは死んだ。


【パトリエーゼ死亡で退場です】
【まず、ノーキンさんには途中割り込みになったことをお詫びします。
急な多忙の関係で途中退場することになり、本当に残念ですが、ありがとうございました。
大魔法の効果、学長の安否、黒騎士の正体などについては後は全て皆さんのご判断にお任せします】
【では、素晴らしい物語になることを期待して、さようなら】
0354ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc 2017/02/24(金) 23:27:12.73ID:oXpkJgdQ
>ラテ殿
スレ立てかたじけない!

>パトリエーゼ殿
またもや古より続く送りバントポジションの伝統の犠牲者が出てしまったか……
短い間だったがお疲れ様であった。
急な多忙とのこと、落ち着いたらまたいつでもお待ちしておる。
0355ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us 2017/02/27(月) 00:38:08.79ID:uRSb5gPs
【>パトリエーゼさん
 領海です。ようやく絡めるところでの脱退、とても残念です
 またここでお会いできることを祈っています】


【容量オーバーしそうだったので次スレにレスを投下致しました】
0356 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28(火) 04:01:51.67ID:H4NM+4pA
射かけ損ねたショートスピアは、ぎりぎりのところで人形の足を射抜けなかった。
ぐらりと足元が揺らぐ……屋上から落ちそうになって慌てて踏み留まる。
思考が纏まらない。あの人形を仕留め損ねた。居場所もバレた。だから次の手を考えて、動き出すべきなのに。

>『愉しそうだねおねえさん。そっちの方がさっきまでのしかめっ面よりずっと良いよ』

さっき、人形が私へと投げかけた言葉が脳裏に蘇る。

「違う……私は楽しんでなんか、いない」

声に出してそう言ってみても……その言葉を私自身すら、信じられない。
これはきっと……いや、間違いなく、魔物の血の、私の奥の手の副作用。

>「…“無色の抱擁”≪エーテルクルセイド≫…!!」

「っ、何を……!」

いつの間にか傍に来ていたパトリエーゼさんが、私を羽交い締めにする。
それだけじゃない。これは……私の、魔物の力が……吸い取られていく?

「や……やめて下さい!離して!」

思わず、私は叫んでいた。
だって、そんな事をされたら……後に残るのは、ただの弱い私だけじゃないか。
魔法が使えて、魔物の力を宿した私の戦いに、簡単に割り込める格闘センスもあって……私よりも、ずっと強いくせに。

「……離せ!なんであなたが、私からそれを奪うんだ!」

腕を思い切り振り回す。
肘がパトリエーゼさんの頬に当たって、私はようやく彼女を振り解けた。

いや……もう、私を捕まえておく理由がなくなっただけだ。
両手を見る……猛禽の羽毛は消えてなくなり、ただのか細くて、弱そうな、小娘の手がそこにはあった。

「……誰がこんな事を頼んだ!私が、あなたにこんな事をしろといつ頼んだ!こんなの、ただ……惨めなだけだ!」

振り返って、私はパトリエーゼさんに怒鳴っていた。

パトリエーゼさんは私を助けようとしてくれたんだ。
こんな事言っていい訳ない。そう思っても、止まらなかった。

「私に、あなたに助けてもらう義理なんてない!
 あなたがあなたじゃなくたって、私は誰にだって、親切にしてた!」

嫌だ、嫌だ、嫌だ。こんな事、言いたくないのに……なのに止められない。

「その程度だったんだ!これ以上、余計な事をしてくれるな!」

もう、魔物の姿は失っているのに……いや、そんな事、関係ないんだ。

魔物の力を奪われても、私の心と記憶までもが奪われた訳じゃない。
ただ私の体よりも先に、心が魔物に染まった……ただそれだけの事。
いや……それすらも、言い訳なのかな。
元々私の中にいた獣が、たまたま今、目を覚ましただけなのかもしれない。

「……もう、私を助けないで下さい。弱い私を、これ以上惨めにさせないで」

パトリエーゼさんは私に小さく頭を下げると、身を翻してユグドラシアの援護へ向かった。
謝らなきゃと思っても……どうしても、ごめんなさいと口にする事が出来なかった。
あんなに言いたくないと思っていた言葉は、最後まで止められなかったのに。
0357 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28(火) 04:02:38.63ID:H4NM+4pA
>「……奪うとか殺すとか、威勢の良いこと言うけどさ、おねえさん」

パトリエーゼさんが戦線を離れたのを認めて、人形が私に話しかけてくる。

>「殺すのにどうしてそんなに理由が必要なの?
  警告を無視したから。取り合わず退かなかったから。アスガルドの罪なき人たちを脅かしたから。
  ――言い訳探してばっかりじゃん。全部受け身なんだよね、おねえさんの殺意って」

それは……図星だった。
だって私は、人を殺したくなんかなかったんだ。
でも私は弱いから、手段を選んで事態を収める事が、出来ないから……これすらも、言い訳だ。
私は、何も言えなかった。

>「おねえさんはどうして冒険者なんかやってるのさ。
  冒険者なんて遺跡からモノは盗むし魔物を殺して死体は売るし、お金を積まれれば人だって殺すよ?
  ギルドの後ろ盾がなかったら犯罪者と殆どなにも変わらない、薄汚い商売だよね」

それも、違わない。
違わないけど……それだけじゃないんだ。

テッラ洞窟に潜って、あの古代都市に辿り着いた時の、
金銀と、古代の魔法技術と、大地の竜の加護が織り成す光景を見た時の感動は、決して薄汚くなんかなかった。

否定しなきゃ。そんなものは、ただの一つの側面だ。
それだけじゃないんだって言ってやりたい……のに、声が出ない。

だって……私は弱いから。
息の根を止められてしまえば、言葉は潰える。
弱い私の言葉には、何の意味も力もない。

殺したくないなんて説得しても、兵を退けと脅しても、冒険の中で得られる感動を語っても、全ては無意味なんだ。

「冒険者が人を殺す理由はお金と名誉、この二つだけでじゅーぶんなんだよ。
 それ以上の理想があるならわざわざ冒険者じゃなくたっていくらでも高尚なお仕事はあるもん。
 ……薄汚い人殺しのケイジィの、これは持論だけどね。だから――」

不意に、足場に亀裂が走る。
辛うじて倒壊を免れていただけの建物だ。
元からあった亀裂にでも、ナイフを強烈に打ち込めば……それが最後のひと押しになる。

急速に不安定になる足場によろめく私めがけ、人形がナイフを放つ。
毒が塗ってある事は間違いない。
避けるか、弾くかしないと……なのに、体が、精神が、鈍い。

「っ……!」

殆ど倒れ込むような形で、辛うじてナイフを躱す。
だけど……駄目だ、踏み留まれない。落ちる。
頭から落っこちれば間違いなく死ぬ。
せめて……なんとか、崩れる屋上の縁に指をかけ、落下の体勢を正す。
足を下にして落下して……着地と同時に前転。反動を全身に分散させる。

同時に周囲から感じる、淀んだマナの流れ……毒だ。
毒霧の中に追い込まれた。
咄嗟に呼吸を押さえ……レンジャーの解毒法を使う。

>「――おねーさん向いてないよ。冒険者辞めたら?」

生物じゃないこの人形は、自分の毒の影響を受けはしない。
この場で戦えば……ただでさえ薄かった勝ち目は、まったくのゼロになる。
0358 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28(火) 04:03:05.19ID:H4NM+4pA
私は離脱しようと後ろに跳んで……その更に背後を人形に取られた。
ナイフが一閃……石版の盾でなんとか弾く。
速い。けどそれ以上に……私が遅くなっているんだ。

パトリエーゼさんは、私に魔物の力は残して、その姿、血肉だけを奪っていった。
だけど……あの人は分かってないんだ。
単純に身体能力を向上させるだけなら、そういうポーションだって私は作れる。
魔物の血に火薬や銀を合成して、魔の部分を浄化すれば、市販品と同じようなポーションになる。

なのに、なんで私が魔物の血をそのまま飲んで、魔物と自分を合成するのか。

私に才能がないからだ。
ただの村娘に筋力増強のポーションを飲ませたって、非力な剣士に勝てるようになる訳じゃない。
体の動かし方、戦い方が、私はそもそも下手くそなんだ。

だから魔物の血肉が必要だった。
研ぎ澄まされた獣の感覚が。狩りのセンスが。
魔法にも白兵にも才能のあるパトリエーゼさんには、そんな事、分かる訳がなかったんだ。

「……私に、向いてるものなんてないんですよ」

解毒し切れないほどの毒を吸い込まない為の、浅い呼吸の中、呟いた。
……嫌だ。何の意味もないと分かっているのに、それでも言い訳がましくこんな事を呟く私が嫌だ。

戦いが長引くほど、私は不利になる。だから、なんとかしなきゃ……でも、凌ぐだけで精一杯。
策を巡らせる余裕がない。
……嫌だ。魔法の才能も、剣の才能もない私が嫌だ。

パトリエーゼさんが、あんな事をしなければ……。
……嫌だ。あんなに酷い事を言ったのに、それでもまだ彼女を責めようとしてる私が嫌だ。

ただの時間稼ぎの攻めすら凌ぎきれずに……耐えられずに、私は深く息を吸い込んでしまった。
神経毒が、私の天地を歪ませる。
せめて距離を取ろうと、最後の力を振り絞って大きく跳んだ。
そんな事をしても、稼げる時間なんてほんの数秒なのに。

……私は、私が嫌だ。私が嫌いで仕方がない。

お父さんお母さんの期待に応えられる才能のなかった私が嫌だ。
私が応えるべきだった期待を、全部弟に押し付けた私が嫌だ。
それでも優しくしてくれる皆に、甘える事しかしなかった私が嫌だ。

……古神降神術。
古い古い、この世界よりも、更に前にあった世界……エーテリアル世界。
そこで崇められいた、今では名前すら残っていない神を降ろす、降神術。
私の家は、その研究をしていた。

目的は神の力じゃなくて、その記憶と知識。
もし、それを人の身に降ろす事が出来れば……かつて栄えていたその文明の全容をも、明らかに出来るかもしれない。
代々続く、誇りある研究だった。

なのに……才能のない私が先に生まれたせいで、お父さんもお母さんも言葉には出さなくても焦っていた。
才能のない私が責任を感じないように、弟は一日でも早く後継者になろうと、無理をしていた。

だから……弟は死んでしまった。
降ろした神の力が暴走して、虚無の中に消えてしまった。
そして私は、家から逃げ出した。
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28(火) 04:03:24.96ID:H4NM+4pA
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。

惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。

だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。

……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。

私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。

……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。

私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。

これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。

だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。

炎の中に、弟の幻が見えた。

「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」

そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。

この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。

そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。

都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。
0360 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28(火) 04:03:59.06ID:H4NM+4pA
 
 
 
大地を震わせるような、狼の咆哮が聞こえる。

『……愚かな』

……あれ?ここは……あの、テッラ洞窟の奥の、古代都市?
ていうか今の声は……フェンリル?

『言った筈だ。貴様はただの、舞台に迷い込んだ小鼠だと。鼠の器に我が力を注ぎ込んで、何になる』

「やっぱり……あなた、生きてたんですか?テッラさんは?助かったんですか?」

『溢れるか、器が砕けるか……だが貴様は砕けるよりも、なお悪い末路を辿るだろう。
 我にもなれず、貴様を保つ事も出来ず……何者でもない、何かになる』

あら、完全に無視されちゃってる。
……うーん、どうなってるんだろ。
多分ここ、あの古代都市だけど、古代都市じゃないよね。
ティターニアさんの、ドリームフォレストと同じような場所、なのかな。

「……その、私じゃない私は、強いんですか?」

フェンリルが神をも畏れさせる眼光で、私を見下す。

『……強い。何もかもを、奪い取れるほどに』

そしてその大きな口を開けて……私に、喰らいついた。



……気が付けば、私はまたアスガルドにいた。
だけど、変だな。まだ、狼の咆哮が聞こえている。
……あぁ、いや、やっぱり何も変じゃないや。
なんて事はない。少し考えてみれば、分かる事だ。

この大地を震わせるような遠吠えは……私の喉から、肺腑の奥から、放たれているんだ。

銀の毛皮に包まれた両腕。
舌を這わせればそのまま切れてしまいそうなほど鋭い牙。
このままいつまででも吠えていられそうな心肺。高揚感。
体中に滾るこの大地の力。

これが……フェンリルの力。
いや、違う。私の力だ。

……それに、私はまだ私を保てている……よね?
脅かされただけ、なのかな?
テッラさんに対する愛情表現も、なんだかすごく不器用そうだったしなぁー。あり得るかも。

爪先で、地面を軽く叩く。
大地の力が軽銀の炎を掻き消した。

そして大地の属性は鍛冶を象徴する。
ほら、ノームとかドワーフとか、彼らは土の精霊なんだよね。
石畳から短剣の切っ先が生えてきて……人形へと襲いかかる。
0361 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28(火) 04:04:25.38ID:H4NM+4pA
同時に私も姿を消す。土は何かを埋めて、隠す為のもの。
また石像を彫ったり、砂や石に物を描いたり、何かを模る為のものでもある。
つまり土の属性と、レンジャーのスキルは相性抜群だ。

さて、どこから仕掛けようかな。
また頭上を取ろうか。今度はもう外さない。外す気がしない。
それとも今度こそ後ろから首を切り落としてやろうか。

うーん悩むなぁ。
けど決めた。

真正面から食らわせてやろう。
私は強くなったんだって分からせてやる。

地を蹴る。魔狼の脚力は、私を今まで感じた事のない加速の中へと連れ去った。
私が飛ばしたナイフに、簡単に追い付いちゃった。
丁度いいや、これを目くらましに、人形の目の前にまで距離を詰めよう。

やっほう、私の姿、見えてますか?
ま、見えててももう遅いけどね。

飛ばしたナイフに向かって、蹴りを放つ。
さっきから散々おいたをしてくれた人形の右腕、その付け根に、ナイフを深く突き刺すように。
そしてそのまま蹴りを振り抜く。

蹴っ飛ばす先は……あの筋肉男だ。
別に動きを阻害しようって訳じゃない。

「そのお人形に愛着があるなら……今の内に抱き締めてやる事ですよ」

これはただの、私の優しさ。

「左腕も駄目にしちゃったら、もう抱き返せなくなっちゃいますからね」

だって失くす前にその大切さを噛み締めてもらわないと、奪う意味がないもんね。
お互いがお互いを、掛け替えのないものだと理解して、それから奪ってやれば……
きっとあの二人も、自分達がどんなにひどい事をしようとしていたのか、分かってくれるはず。

楽しみだなぁ。



【パトリエーゼさんお疲れ様でした。最後のパスはおいしく使わせて頂きます

 ……パトリエーゼさんが離脱しちゃいましたし、とりあえず2on3にも出来る感じにしときました。
 ケイジィちゃんとのお喋りは楽しいのでこのままでも構いませんがね!】
0362 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28(火) 04:06:32.09ID:H4NM+4pA
あちゃー!全部こっちに投下出来ちゃった!
埋めてそのまま次スレに持ち込もうと思ったんですけど……読みにくくなっちゃってすみません!
0363創る名無しに見る名無し2017/03/08(水) 13:12:49.91ID:mOe1dyVa
同時に私も姿を消す。土は何かを埋めて、隠す為のもの。
また石像を彫ったり、砂や石に物を描いたり、何かを模る為のものでもある。
つまり土の属性と、レンジャーのスキルは相性抜群だ。

さて、どこから仕掛けようかな。
また頭上を取ろうか。今度はもう外さない。外す気がしない。
それとも今度こそ後ろから首を切り落としてやろうか。

うーん悩むなぁ。
けど決めた。

真正面から食らわせてやろう。
私は強くなったんだって分からせてやる。

地を蹴る。魔狼の脚力は、私を今まで感じた事のない加速の中へと連れ去った。
私が飛ばしたナイフに、簡単に追い付いちゃった。
丁度いいや、これを目くらましに、人形の目の前にまで距離を詰めよう。

やっほう、私の姿、見えてますか?
ま、見えててももう遅いけどね。

飛ばしたナイフに向かって、蹴りを放つ。
さっきから散々おいたをしてくれた人形の右腕、その付け根に、ナイフを深く突き刺すように。
そしてそのまま蹴りを振り抜く。

蹴っ飛ばす先は……あの筋肉男だ。
別に動きを阻害しようって訳じゃない。

「そのお人形に愛着があるなら……今の内に抱き締めてやる事ですよ」

これはただの、私の優しさ。

「左腕も駄目にしちゃったら、もう抱き返せなくなっちゃいますからね」

だって失くす前にその大切さを噛み締めてもらわないと、奪う意味がないもんね。
お互いがお互いを、掛け替えのないものだと理解して、それから奪ってやれば……
きっとあの二人も、自分達がどんなにひどい事をしようとしていたのか、分かってくれるはず。

楽しみだなぁ。
0364創る名無しに見る名無し2017/03/08(水) 13:13:25.02ID:mOe1dyVa
同時に私も姿を消す。土は何かを埋めて、隠す為のもの。
また石像を彫ったり、砂や石に物を描いたり、何かを模る為のものでもある。
つまり土の属性と、レンジャーのスキルは相性抜群だ。

さて、どこから仕掛けようかな。
また頭上を取ろうか。今度はもう外さない。外す気がしない。
それとも今度こそ後ろから首を切り落としてやろうか。

うーん悩むなぁ。
けど決めた。

真正面から食らわせてやろう。
私は強くなったんだって分からせてやる。

地を蹴る。魔狼の脚力は、私を今まで感じた事のない加速の中へと連れ去った。
私が飛ばしたナイフに、簡単に追い付いちゃった。
丁度いいや、これを目くらましに、人形の目の前にまで距離を詰めよう。

やっほう、私の姿、見えてますか?
ま、見えててももう遅いけどね。

飛ばしたナイフに向かって、蹴りを放つ。
さっきから散々おいたをしてくれた人形の右腕、その付け根に、ナイフを深く突き刺すように。
そしてそのまま蹴りを振り抜く。

蹴っ飛ばす先は……あの筋肉男だ。
別に動きを阻害しようって訳じゃない。

「そのお人形に愛着があるなら……今の内に抱き締めてやる事ですよ」

これはただの、私の優しさ。

「左腕も駄目にしちゃったら、もう抱き返せなくなっちゃいますからね」

だって失くす前にその大切さを噛み締めてもらわないと、奪う意味がないもんね。
お互いがお互いを、掛け替えのないものだと理解して、それから奪ってやれば……
きっとあの二人も、自分達がどんなにひどい事をしようとしていたのか、分かってくれるはず。

楽しみだなぁ。


やっぱり埋まってないやん
ちゃんと埋めとけよ
0365創る名無しに見る名無し2017/03/10(金) 17:21:59.28ID:rTTFPp5m
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28 04:03:24
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。

惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。

だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。

……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。

私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。

……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。

私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。

これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。

だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。

炎の中に、弟の幻が見えた。

「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」

そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。

この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。

そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。

都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。
0366創る名無しに見る名無し2017/03/10(金) 17:22:22.50ID:rTTFPp5m
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28 04:03:25
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。

惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。

だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。

……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。

私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。

……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。

私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。

これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。

だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。

炎の中に、弟の幻が見えた。

「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」

そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。

この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。

そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。

都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。
0367創る名無しに見る名無し2017/03/10(金) 17:22:58.15ID:rTTFPp5m
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28 04:03:27
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。

惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。

だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。

……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。

私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。

……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。

私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。

これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。

だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。

炎の中に、弟の幻が見えた。

「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」

そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。

この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。

そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。

都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。

さあ埋めろよ有志
0368創る名無しに見る名無し2017/03/10(金) 17:23:26.41ID:rTTFPp5m
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28 04:03:28
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。

惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。

だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。

……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。

私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。

……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。

私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。

これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。

だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。

炎の中に、弟の幻が見えた。

「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」

そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。

この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。

そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。

都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。

さあ埋めろよ有志
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