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【炎色消去(バーニングデリート)】、それが中野杏の能力名。
【全身に炎が回った瞬間に『炎』となる】、それが杏の能力。
炎に衝撃は効きはしない、炎は重さを持たないから。
炎に刃は聞かない、炎に刃は立たないから。

杏は不死系統の能力の持ち主、ということだ。
最初にガソリンとライターが目前にあったのはこれを使えと言うことだろう。
そして、杏に人を殺せと言うこと。
炎を纏えば自分で能力を解除しなければ消えはしない、別の超能力で無理やりかき消されない限り。

「……ごめんなさい、田中くん」

杏は目の前に転がる一人の男子生徒を見下ろす。
コメカミに後ろ廻し蹴りが見事に命中した、こんな姿を見たために呆然して身動きが取れなかったのだ。
これで死んでいるかもしれないが、念には念を入れた方がいい。
ゆっくりと、本当にゆっくりと右脚を空へと向かって持ち上げる。
やがて天空へと捧げた右脚と地面を噛み締めた左脚が真っすぐになった。
そして、その右脚を田中智司への喉元へと、思い切り振り下ろした。

「……」

わずかに嫌な音を出しながら、田中智司の喉元は歪なデコボコを作り出した。
これで死んだはずだ、少なくとも喉元の火傷でやがては死ぬ。
それを認識した瞬間に炎を纏っている杏に寒気が走る。
炎を纏っているというのに、だ。

「けーくん……」

その寒気を打ち消すために静かに愛しい人の名前をつぶやく。
もう、会えないだろう。人を殺してしまったのだから。
でもそれでいい、それは杏の望むところだ。
自分が圭吾以外のクラスメイト全員を殺して、最後に自分が死ぬ。
そう決めたのだ。
自分以外にも殺し合いに秀でた能力を持つクラスメイト居る。
決して無敵なわけではない、単純な攻撃能力を持たない田中智司とは相性がすこぶる良かっただけに過ぎないのだ。

「けーくん、私はもうけーくんとは会えないよ」

誰に言うまでもなく自分に言い聞かせる。
ミニウージーは拾わない、自身の熱で不良を起こしてしまうだろう。
だから今必要なのは銃ではなく、リーチのある金属バットか鉄パイプの類だ。
ある程度形が崩れても使えるし、リーチがある上に高熱が加わる。
木材は燃えきってしまうので駄目だ。

「……ごめんなさい、けーくん。私はバカでマヌケだから、こんなことしか思いつかなかった」