マルチジャンルバトルロワイアルpart16
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0001創る名無しに見る名無し
2009/07/11(土) 23:26:02ID:gToJim5F小説・漫画・アニメのキャラが入り乱れていることから、マルチロワという名前になりました。
略して○ロワ。別に見るのに●はいりません。
この企画はリレーSS企画であり、ルールさえ守っていただければ、どなたでも参加可能です。
ルールの項に目を通していただき、分からないことがあれば気軽に本スレで聞いてみてください。
キャラ同士による殺し合いという内容のため、苦手な方は気分を害する恐れがあります。
読み進める際にご注意を、また自己責任でお願いします。
【過去スレ】
いろんなジャンルの作品キャラでバトルロワイアル
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220604468/
マルチジャンルバトルロワイアル part2
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221055898/
マルチジャンルバトルロワイアル part3
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221229891/
マルチジャンルバトルロワイアル part4
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221405474/
マルチジャンルバトルロワイアルpsrt5
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221749250/
マルチジャンルバトルロワイアルpart6
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221924153/
マルチジャンルバトルロワイアルpart7(実質8)
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1227019873/
マルチジャンルバトルロワイアルpart8(実質9)
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230130775/
マルチジャンルバトルロワイアルpart10
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1232931721/
マルチジャンルバトルロワイアルpart11
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1235147692/
マルチジャンルバトルロワイアルpart12
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1235724325/
マルチジャンルバトルロワイアルpart13
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1237380564/
マルチジャンルバトルロワイアルpart14
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1241420923/
マルチジャンルバトルロワイアルpart15
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1243945342/
【したらば】
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/11860/
【wiki】
http://www26.atwiki.jp/marurowa
【予約について】
・通常5日。延長は2日まで。(合計7日まで)
・したらばの予約スレで予約してください
【全キャラクター共通・スタート時の持ち物】
地図、コンパス、懐中電灯、筆記用具、水と食料、名簿、時計、ランダム支給品1〜3
【MAP】
(p)ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/70/405fccc08ebbff8b539e6e47e7acf801.png
上が北、一マス一km四方、端はループしています。(例:A-1から北へ行けばH-1に出る)
0270創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 01:05:50ID:1jpiPUMy誰か早く火消しを!!
まさかあれだけの大人数を一人で書ききろうと言うのか。
こいつは一週間後が楽しみだ。
0271創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 01:36:51ID:KMhmR3dDつ ガソリン
0272創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 01:39:27ID:zouHVuqv0273創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 08:53:01ID:xJfv/jjS0274創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 09:20:35ID:KMhmR3dDリアル兵装だから軽く見られがちだが、最強の自動式拳銃だからな、50AEってw
胸とかにくらったらぐちゃぐちゃになって吹っ飛ばされるw
0275創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 09:40:58ID:WW65cug30276創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 12:16:56ID:p/jtVa5A余計なお世話だバカ
雑談の何が悪いんだよ
嫌なら見なきゃいいだろ
ところで、ワンピースのキャラっていつ死ぬの?
あと二人だからもうすぐかと思ってたんだけど
今回の予約で一人は死ぬかな
0277創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 19:57:17ID:6vzA7tWN0278創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 20:16:45ID:LfqFtw5V「主人公だから」と言う先入観があるせいか違和感がw
まぁそんな違和感も「ロワだから」で済むけど。
0279創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 20:22:22ID:OyDC52wT裏の主人公とも言われる一方通行も一話退場だからな。
0280創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 20:24:29ID:iypq69k90281創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 20:45:01ID:xcJ0rRzp0282創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 20:55:42ID:OyDC52wT一応禁書の存在感を出そうと思ったら未だ不明の支給品に禁書のアイテム仕込むなんてのもあるけど。
カーテナとか使徒十字とかチャフシードとかスフィンクスとか。
0283創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 20:59:14ID:bHPSg2rE不明支給品といえば、終わクロのチート概念兵器もあんまりでてないな
7th-Gの四玉とかあったら戦略の幅が広がって面白そうだが
0284創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 21:33:43ID:dKHjFVn50285創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 21:39:52ID:1jpiPUMy一冊一冊がでかいんだよ……面白いけどさ
0286創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 21:43:09ID:bHPSg2rEまあ、変態だらけで面白いからおkだがw
0287創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 22:11:35ID:R0idXFd0200〜500円くらいする
0288創る名無しに見る名無し
2009/07/15(水) 22:14:04ID:ucxHlrS+まあ読みきるのに他のラノベの2、3倍時間がかかるから
元が取れたような気がしなくもない
0289創る名無しに見る名無し
2009/07/16(木) 03:28:54ID:P4Wpmdxzもうここも立派な盛況ロワだなー
最初期の荒れ様を考えるとやっぱりここの書き手はすごいと思う。
あと一話投下されてれば同着三位……惜しいww
0290創る名無しに見る名無し
2009/07/16(木) 07:18:27ID:nt19j0UP0291創る名無しに見る名無し
2009/07/16(木) 18:31:23ID:aYlGzqEjttp://www11.atwiki.jp/row/pages/249.html
0292創る名無しに見る名無し
2009/07/16(木) 19:09:05ID:8vVWfVWZ大体2、3日に1話くらいのペースくらいで進んでるな
書き手の皆さん乙です、といわざるを得ない
それにしても書き手3の生存者−58(生存率−31.4%)って笑うしかないな
0293創る名無しに見る名無し
2009/07/16(木) 21:26:39ID:1VLUOr0o単行本で50巻超えって凄まじく長いし、
その割に面白くないから読むのも苦痛でしかないし
あと二人だから殺そうと思えばすぐに出来るけど、支給品も結構出てるんだよな
どうしたもんかな
0294創る名無しに見る名無し
2009/07/16(木) 21:57:43ID:kch4nvl1まだ初日という事に改めて驚きを感じつつw書き手さん乙だわ
把握と言えばキャラ紹介の性格とかが空欄のキャラを埋めて欲しいぜ。
これからの奴らもそうだが、お亡くなりになった奴らも空だと寂しいとふと思った。短く纏めるのは難しいが
0295創る名無しに見る名無し
2009/07/17(金) 01:53:42ID:daZRp+Ykワンピース出典の支給品て何があったっけ
0296創る名無しに見る名無し
2009/07/17(金) 02:51:54ID:RUzKA3rhttp://www26.atwiki.jp/marurowa/pages/118.html
0297創る名無しに見る名無し
2009/07/17(金) 05:24:06ID:UIKvVGZjこれ出すぎじゃね?
何で人気もないのにこんなに出したの?
0298創る名無しに見る名無し
2009/07/17(金) 07:46:14ID:Vsq/F2+Z確かにワンピース出典の支給品は23種類と最多だった
けど中身はほとんどが武器で本格的な把握が必要なものは悪魔の実くらいだと思う
そういう意味では分かりやすかったから多く出たんじゃね?
ちなみに支給品出典数次点はポケスペ、Fate、ドラえもんの16種類
0299創る名無しに見る名無し
2009/07/17(金) 17:24:00ID:ZvhmKKAmんなもん書き手の趣味に決まってる。
トライガンあたりは俺の趣味です。
0300創る名無しに見る名無し
2009/07/17(金) 17:46:15ID:inf7caSS0301創る名無しに見る名無し
2009/07/17(金) 17:56:01ID:J030x9lDいや〜、最初期が嘘のよう。
こうしていつも楽しませてくれる書き手さんには感謝しないといけませんね。
話に入れる余地があったら自分も書き手になって参加したいと思ってたり。
>>298
ワンピースってこんなに支給品出てたのか。
まぁゾロの刀だったり武器関係が半分占めてるけど。
0302創る名無しに見る名無し
2009/07/17(金) 21:03:39ID:WDhmNwBe君の書き手デビューを楽しみにしてる。
0303創る名無しに見る名無し
2009/07/18(土) 23:26:46ID:XGOPAmgf今度は6人か
期間が延びたから書き手さんたちの動きが大きくなってきた気がする
0304創る名無しに見る名無し
2009/07/19(日) 15:00:01ID:r1ZtMxNW0305創る名無しに見る名無し
2009/07/19(日) 19:16:02ID:92EM1hYE古城組の情報交換と、その周りの動きが気になってたから楽しみ。
あと、佐山&小鳥遊組。
こちらも選択肢が多数あったからどう動くか楽しだ。
0306創る名無しに見る名無し
2009/07/19(日) 20:49:57ID:EUZeGaW+最近は予約が来ないロワが多いのに、ここは順調だな。今晩にも投下があるし
0307創る名無しに見る名無し
2009/07/19(日) 21:23:31ID:3p+Bxx0Lここみたいにペース速いわけじゃなくても、地道に進行してるとこもあるんだから
0308創る名無しに見る名無し
2009/07/19(日) 21:26:04ID:mhQe662c死者の数見るにペースで言うと結構遅いぞ、ここw
0309創る名無しに見る名無し
2009/07/19(日) 21:35:35ID:EUZeGaW+そんなつもりでは無かったんだがな
気に触ったならすまんかった。大人しく投下を待とう
0310創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 00:29:44ID:SHHUvaDCまたのご予約、心よりお待ちしております。
0311創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 00:41:53ID:BYqOU8sSそういう発言が出るのもしょうがない
0312創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 01:51:33ID:QGk3SH2r次をまってますぜ。
0313創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 22:00:44ID:zbCZKAoS前に「カツラへの言葉」を書いた◆yvUxRPre9c
氏って
同一人物だよな?
0314創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 22:15:37ID:psBc0Aze0315創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 22:26:04ID:SHHUvaDC0316創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 23:02:50ID:zbCZKAoSトリ割れなんてないだろうしやっぱり編集ミスだよな。
0317創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 21:24:54ID:Bsr2TrdT0318創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 21:49:08ID:+aXIQWigイスカンダル、ラッド・ルッソ、ギルガメッシュ、前原圭一、古手梨花、ニコラス・D・ウルフウッド
投下します
0320Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 22:54:19ID:UQUd8sl0戦場の其処彼処で殺戮が繰り広げられ、生存者は遂に六割を切った。
どこで誰と誰が殺し合い、どのようにして死んでいったのか。
それらはミュウツーの知るところではない。
深夜から今に至るまでの間に、ミュウツーが経験した戦闘は僅か二回。
しかも確実に絶命したと言える相手はたったの一人。
ましてや、他の二十七人の死に様など。
(…………)
ミュウツーは人気のない廊下を進みながら、間断なく周囲を警戒していた。
病院の廊下という場所は、目が眩みそうになるくらいに白く、鼻を衝く臭いに満ちている。
特に不快感を覚える後者だった。
どんな薬品の臭気なのかは知らないが、特に嗅覚の鋭いポケモンなら、一秒も待たずに逃げ出しているだろう。
つまるところ病院とは、端から端まで人間を治療するための空間なのだ。
治療行為に従事している者、或いは入院生活を余儀なくされた者でもない限り、ここで寝起きするのは御免蒙るに違いない。
他の動物なら尚更だ。
健康のための施設で健康を害することになりかねない。
だが、前者はそこまで不快ではなかった。
カントー地方、グレン島。
火山と幾許かの森があるだけのその島に、カツラは秘密の研究所を構えていた。
厳密には、火山そのものが研究所だったのだ。
岩肌がむき出しの裾野には分厚い扉が設けられ、火口も改造されて本来の機能を果たしていない。
外見だけを見れば単なる火山だが、内部は完全に人工の研究施設に置き換えられていた。
かつて、ロケット団の研究所から脱走したミュウツーは、ハナダシティ北西部で暴れていたところを、
自分を生み出した研究者であるカツラと、カツラの意志を酌んだレッドによって捕獲され、カツラのポケモンとなった。
その後はボールではなく特殊な液体の中で休眠し、必要なときにボールへ収まるという形態を取っていた。
病院という施設の内装は、その中で見ていた研究所の風景と似ている気がした。
勿論、研究所にあった巨大な装置や、何が書かれているのか分からない書籍の山は存在しない。
しかし、この無機質かつ人工的な雰囲気からは、言葉にし難い懐かしさを感じずにはいられなかった。
改めてミュウツーは周囲を見渡す。
地図にも記載されている治療施設である以上、利用者が皆無であるとは考えられない。
現に入り口を潜ってすぐに見知らぬ誰かの亡骸を発見することができた。
けれど、それが全部。
エントランスを通過して何分になるだろう。
あの死体以外に戦闘の痕跡は見当たらず、人の気配すら感じられない。
もしかしたら、今は無人なのではないだろうか。
そんな考えがミュウツーの脳裏を過ぎる。
可能性としては半々だ。
誰かがいるとしても、例えば階が違えば物音が聞こえないのは当然だ。
病院内部の探索がまだまだ甘いというだけのこと。
逆に誰もいなかったとしても、次の目的地を病院とした選択が間違っていたわけではない。
偶然、ミュウツーと他の参加者のタイミングが噛み合わなかった。それだけだ。
死体が転がっていたことから分かるように、何者かがここを訪れていたのは事実である。
(……?)
0321創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 22:54:22ID:sbXpWeTSとか思ってたらキター!!
0322Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 22:55:04ID:UQUd8sl0エントランスで一度嗅ぎ、次第に薄れていたはずの臭気。
病院なら必ずあるはずの臭気。
生臭い、血の芳香。
それもかなり新しいものだ。
先ほどよりも入念に、辺りを睥睨する。
――あった。
生乾きの血痕だ。
目線で痕を辿ると、エレベーターの入り口まで続いていた。
なるほど、とミュウツーは数分前に見た光景を思い出す。
確かに一階のエレベーター付近にも血痕はあった。
そのときは死体も近かったため、特に気にも留めなかったのだが、これで確定だ。
病院……それもこの階に、傷ついた誰かがいる。
ミュウツーはエレベーターとは反対方向へ伸びる血痕を辿り、ゆっくりと歩を進めた。
負傷して息を潜めているなら、通常より警戒心を高めている可能性がある。
下手に気取られるのは避けたいところだ。
逃走を許すだけならまだ救いがある。
手痛い反撃を食らって戦闘能力が低下、更には命まで落としてしまう――
それだけは絶対に回避しなければならない。
血痕は、処置室の扉に吸い込まれるようにして途切れていた。
ミュウツーはデイパックから十字槍を取り出し、念のスプーンを使うときのように構えた。
攻めると決めたなら躊躇は要らない。
反撃を許さず、何が起こったのかすら理解させずに、一瞬で仕留める。
殺す側は疲労せず、殺される側は即死する。
それが双方にとって理想的な展開だろう。
両手で槍を支え、身を屈め……駆けた。
十字槍の穂先が押し扉の真ん中に突き刺さり、吹き飛ばすような勢いでこじ開ける。
槍の一撃で開いた隙間から突貫し、即座に振り抜――
――かなかった。
(……外れ、か)
結論から言えば、処置室には誰もいなかった。
直前まで誰かがいた痕跡はある。
血濡れのシーツとタオル。
空になった輸血用血液パック。
いくつかのアンプルと使用済みの注射器。
用途の想像もつかない医療品の空袋。
ここで治療行為が行われたのは明白だった。
しかし、その『誰か』の姿がない。
恐らくは、入れ違い。
ミュウツーが突入する直前、あるいは病院を訪れる前に、この部屋は無人となっていたのだろう。
だとすれば、急げば追いつくことも不可能ではない。
これほどの出血なのだ。
掠り傷程度で済んでいるものか。
ミュウツーが処置室を後にしようとした瞬間、突然の地響きが窓ガラスを振るわせた。
窓の外を見ると、西の方角、劇場のある辺りから煙が立ち上っていた。
狼煙の類ではない。
黒い煤が混ざった燃焼の煙だ。
煙を確認し、ミュウツーは思考を巡らせる。
0323Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 22:55:46ID:UQUd8sl0ならば自分が取るべき選択は何か。
――乱入して被害を広げる。
――戦闘が終わるまで待つ。
前者は上手くいけば被害を大きく拡大させられる。
しかし失敗すれば自分だけが敵視される危険もある。
後者は生き残った方、あるいは疲弊した両者を倒すチャンスが生まれる。
しかし少々の消耗だけで引き分けとなっていた場合は得るものがない。
ミュウツーはしばし考え、そして窓枠に足を掛けた。
迷うことなく宙に身を躍らせ、念力で落下の衝撃を相殺、軟着陸。
(ここで時間を潰す意味はない……)
出した結論は、接近。
より現場に近付き、そこで最も適切な選択肢を選び取る。
戦闘に巻き込まれるリスクは高まるが、リスクなしでリターンを得ることはできない。
十字槍を得物に、ミュウツーは無人の道路を駆けていった。
二十四時間以内での三十三人の死亡。
四十八時間以内での勝利。
死ねばそこで全てが終わる。
条件は劣悪かつ不公平。
しかしひとつの手落ちもなくこなさなければならない。
マスターたるカツラが奴の手に落ちていない確証がない以上、それが最善の一手なのだから。
◇ ◇ ◇
現実は、どんな刃物よりも凄惨に胸を抉るという。
その言葉が事実なら、古手梨花の心は、今まさに深々と抉り抜かれているのだろう。
北劇場の周辺に銃声が響く。
バズーカを構えたラッドの胸を高速の抜き撃ちが貫いたのだ。
即ち、ウルフウッドによる二度目の射殺。
「……見間違いであって欲しかったんやけどな」
胸の中心を撃ち抜かれた肉体がぐらりと傾く。
しかし、やはり死なない。
ラッドは即座に脚を突っ張り、無理矢理な体勢でバズーカのトリガーに指を掛けた。
「痛てぇじゃねえか!」
トリガーが引き絞られる直前、ウルフウッドはラッドに背を向けて地面を蹴った。
そして拳銃を持っていない方の腕で梨花を抱え、全速力で劇場へと駆け抜けていく。
選択は、逃亡。
こんな開けた場所で梨花を護りながら戦える保証はない。
一旦劇場に逃げ込んで、一対一の状況を設えてから仕切り直しだ。
蒼白色の閃光が、寸前までウルフウッドのいた地面を焼却する。
芝生は一秒と持たずに炭化して焼失。
燃焼する可燃ガスの圧力が地表を吹き飛ばす。
熱が土から水気を奪い尽くして焦がし抜く。
「やっぱ逃がしちゃくれんか!」
「誰が逃がすかよ!」
0324創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 22:56:33ID:+aXIQWig0325Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 22:56:36ID:UQUd8sl0窓ガラスは最初の砲撃で全て割れていたので、突入を遮るものは何もなかった。
爆風が窓枠を素通りし、部屋中の書類を天井まで巻き上げる。
侵入した先は、机やラックが所狭しと並べられた、およそ劇場らしくない部屋だった。
どうやら事務室として利用されているところらしい。
ウルフウッドは尚も足を止めず、梨花を抱えたまま廊下へ走り出た。
二人が劇場に逃げ込んだと気付かないラッドではあるまい。
あの砲のリロードに掛かる時間は分知らないが、撃てるようになり次第、容赦なくブチ込んでくるに決まっている。
それが分かっていながら、外から位置が丸分かりの場所に留まる理由など微塵もない。
まずは梨花を比較的安全なところに連れて行く。
奴を殺すのはその後だ。
「……ニコラス……」
腕の中で梨花が呟く。
ウルフウッドは「なんや」とだけ返し、走り続けた。
しばらくの沈黙。
梨花はそれ以上何も語らず、ウルフウッドも問い質そうとはしない。
廊下を抜けた先は、入り口からも通じているエントランスロビーであった。
入り口に面しているということは、ラッドが無造作に正面から入ってきても鉢合わせるということだ。
――ここもダメや。
梨花を隠れさせられる場所が見当たらない。
あの殺人鬼が梨花を見逃す可能性は低いだろう。
少年を一人殺しておいて、やっちまった物は仕方ねえ、などと言い切れる奴なのだ。
それこそ何の感慨もなく――楽しみはするかもしれないが――引き金を引くに違いない。
ロビーすらも後にしたウルフウッドが選んだのは、劇場の内部であった。
全ての照明が落とされた演劇用ホールは、しかし想像していたよりも暗くはない。
ウルフウッドが入ってきたのは二階席中央の扉。
そこからステージのある方向へと、光の坂道が延びていたからだ。
結論を先に言えば、それは通路の両脇に備えられた電灯である。
上演中に席を立っても階段等に躓かないよう、通路脇の座席の横には小さな明かりが用意されている。
無論、全ての通路と全ての階段に施された措置なのだが、ウルフウッドの位置からでは正面のそれしか確認できない。
そのため、ステージへ続く通路と階段が、光の点線に縁取られた一本の道のように見えていた。
見えない位置にある電灯は、消えてなくなったのではなく死角で光を放ち続けている。
そうして放たれた光は反射と回折を繰り返し、星明り程度のささやかさで観客席を照らしていた。
「あそこなら隠れる場所もあるやろ」
そう言うと、ウルフウッドは電灯に照らされた階段を駆け下りた。
一段飛ばしで風のように走り抜け、一跳びでステージに上がる。
ウルフウッドの目的は、舞台の両端にある道具置き場だ。
雑多な物品が置かれているであろうその空間は、隠れ場所としてはまさしく理想的だ。
梨花を小脇に抱えたまま、ステージ上手に垂れ下がった幕を潜る。
ウルフウッドの読んだ通り、舞台袖には大量の道具が放置されたままになっていた。
「暫くここで待っとけ。ワイが片付けてくる」
舞台袖の片隅にそっと梨花を座らせる。
ここには一切の光源がなく、真の暗闇に近い状態だ。
目の前にいるはずの梨花の表情すら、ウルフウッドには分からない。
不意に、ウルフウッドは己の腕を引く力を感じた。
身体のどこかを掴まれたわけではない。
スーツの袖を、小さな手が引いているのだ。
「……なんや」
「私達は、頑張った……。
何度も失敗して、何度も絶望して……」
唐突に始まった独白。
ウルフウッドは拒むことも遮ることもせず、暗闇の向こうにいるはずの梨花に合わせて膝を折った。
0326Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 22:57:41ID:UQUd8sl0やっと運命を変えられたと思ったのに!」
梨花の慟哭が舞台袖に響き渡る。
それはあまりにも悲痛な叫び。
数え切れないほどの惨劇を繰り返し、その果てに掴んだ未来すらも奪われた少女の嘆き。
裾を掴む力が強くなる。
ウルフウッドは何もせず、何も言わず、ただ静かに聴いていた。
古手梨花という少女の辿ってきた運命は、きっと自分の理解を超えている。
そう分かっていたとしても、いや、分かっているからこそ、耳を傾ける以外に術はない。
「ねぇ、教えて……。
どうすれば、この運命を打ち破れるの……?」
「…………」
答えなど知っているはずがない。
ミカエルの眼で身につけた殺戮技術も、生体強化手術で得た戦闘能力も。
どれも古手梨花が望む答えからは程遠い。
敵を確実に殺し、自分は殺されない――それが精々だ。
ウルフウッドは梨花の頭に手を置いた。
「……正直、さっぱり分からん。
おどれに何があったんかも、どうすれば脱出できるのかも、さっぱりや」
ウルフウッドの選んだ答えは、偽らないことだった。
理解したつもりになって半端な慰めを吐くより、こちらのほうがずっといい。
「でもな、死ぬつもりはあらへん。おどれを死なせるつもりもない。
……今はそれでええか?」
ウルフウッドの手の下で、梨花が小さく頷いた。
前にも交わしたことがあるような約束。
何の担保もない口約束。
けれど、今はこれが精一杯。
ウルフウッドはデザートイーグルを手に舞台袖を後にした。
さすがにあの男も追いついてくる頃合だろう。
北劇場中を探し回って、最後にホールへ至ったとしても、そろそろだ。
近付いてくるであろう敵を迎え撃つため、ウルフウッドは来た道を戻ろうとした。
その瞬間、二階席正面の扉が開き、ホールを眩い光が貫いた。
同時に放物線を描いて飛来する異様な影。
人間大のサイズがあるそれは、咄嗟に構えたウルフウッドの上を越えて、ステージの壁と激突した。
「何や!?」
驚愕するウルフウッドの傍に金属の筒が落下する。
それは紛れもなく、劇場の外で見たバズーカであった。
まさかと言う思いに駆られつつ、視線を上げる。
ステージの壁をへこませてめり込んだそれは、屋外でウルフウッド達を襲った男――ラッド・ルッソ。
自分達を追いかけてきていたはずの男が、細いプロペラのような金属塊によって、壁のへこみに押し付けられている。
衝撃で気を失ったのかだらんと四肢を垂らしていたが、やがて重力に引かれて金属棒諸共ステージに落下した。
ラッドを磔にしたこの武器にウルフウッドは見覚えがあった。
人間台風ヴァッシュ・ザ・スタンピートをしつこく追いかける、女二人組みの保険外交員。
その一人であるミリィ・トンプソンが持ち歩いている特殊銃の弾頭である。
短いガトリング砲のような形状をしたその銃は、普通なら片手で扱えるはずがない重量で、放つ砲弾も普通ではない。
発射されると同時に、弾頭が十字型に展開。
初速91km/h、弾頭重量4.1kgの運動エネルギーが標的を打ち据えて行動不能にする物騒な代物だ。
0327創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 22:58:23ID:sbXpWeTS0328Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 22:58:30ID:UQUd8sl0ウルフウッドは開け放たれたままの扉を睨みつけた。
逆光の中に人の姿が見える。
アレが恐らく、ラッド・ルッソを吹き飛ばした張本人。
そして、ウルフウッドの次なる敵。
「おどれか、コレやったんは」
「正直――かなり驚いています」
逆光の階段を、その人影は一歩一歩下りてくる。
戸惑う様子もなく、しかし隙を見せることもせず、明確な意思を持ってウルフウッドに近付いていく。
「まさかこんなに早くあなたと出会えるなんて」
敵の名は――リヴィオ・ザ・ダブルファング。
リヴィオはガトリングのような銃を途中で捨て、代わりにスチェッキン・フル・オートマチック・ピストルを右手に収めた。
「丁度いい、続きを始めましょう。ラズロの代わりに僕が戦います」
「ラズロ……? 何のことや」
ウルフウッドの問いは心からのものだった。
しかしリヴィオは足を止めた。
表情こそ変わらないが、見る者が見れば、驚愕に思考を震わされていることが分かるだろう。
リヴィオはウルフウッドを知っている。
GUNG-HO-GUNSの10としてマスター・Cと共にウルフウッドの前に立ちはだかり、
二人が幼少を過ごした孤児院で死闘を繰り広げていた最中だったのだから。
それ以前にも交戦経験はあり、ウルフウッドの本意ではないにせよ共闘までしたこともある。
老化の促進によって変わり果てた姿も含めて周知しているのだ。
だが、ウルフウッドの方は違った。
今の彼は知らないのだ。
マスター・チャペルの生存も。
ラズロ・ザ・トリップ・オブ・デスの存在も。
『泣き虫リヴィオ』が"ミカエルの眼"の暗殺者となっていたことも。
それらは両者の決定的な齟齬であり、埋まらない溝であった。
リヴィオはステージの薄暗闇に佇むウルフウッドを凝視しつつ、再び歩を進めた。
「ラズロとご老体に付けられた傷が消えている……。
急速な治癒の代償に記憶でも失ったのですか」
「さっきから失礼な奴やな。生憎と記憶力は良すぎて困っとるくらいや」
50AEの銃把を握り、身を僅かに屈めるウルフウッド。
アレが誰なのかは分からない。
けれど、言動の端々と身に纏う威圧感から理解できるコトはある。
「せやけど、おどれが『そういうモン』やってことは分かるで」
「そこまで思い出して頂ければ結構です」
リヴィオが階段を蹴る。
瞬きよりも更に早い。
次にウルフウッドがリヴィオの存在を知覚したのは、自身の左斜め後方。
物理的限界を凌駕した跳躍力は、リヴィオに先手を打つ権利を齎した。
「……ッ!」
振り向きざまにスチェッキンのトリガーを引くリヴィオ。
ウルフウッドの頭を狙い放たれた弾は狙い過たず直進し――額の肉を削った。
姿が消えたと知覚した瞬間、ウルフウッドは即座に身体をずらしていた。
無理矢理な回避運動で傾いた体勢のまま、50AEの銃口が火を噴く。
ノズルフラッシュが背景の幕を一瞬だけ照らす。
しかしそこにリヴィオはいない。
0329Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 22:59:18ID:UQUd8sl0連射される銃弾が次々と背幕と横幕を穿ち、細かな木片を撒き散らす。
肩に、脚に、脇腹に傷を与えていくも、ウルフウッドの動きを止めるには至らない。
ウルフウッドとリヴィオは人間の限界を超えた速度と反射で撃ち合っていた。
ここに梨花がいたとしても、二人が何をしているのか視認すらできまい。
単純な身体能力で言えばリヴィオの方が上回っている。
速度、筋力、反射はもとより、再生力も圧倒的だ。
たまに銃弾が掠ろうとも、その程度の傷なら数秒で塞がってしまう。
しかし勝敗の天秤は拮抗していた。
スペックで劣っているはずのウルフウッドがリヴィオに追い縋り、隙あらば急所を撃ち抜こうと図っている。
だが、リヴィオにとってそれは初めてのことではない。
孤児院における戦いで、リヴィオはラズロより先にウルフウッドと戦っている。
結果は、圧倒的な能力差を覆されての敗北。
ウルフウッドの恐るべき戦闘センスを見せ付けられた形となった。
そして今も前轍を踏もうとしている。
使い慣れた二重牙がないという言い訳はできる。
左腕の感覚が戻り切っていない不具合もある。
しかしウルフウッドも万全ではないのだ。
むしろ最強の個人兵装パニッシャーを失っている分、不利はウルフウッドのほうにあるだろう。
それでもなお競われるという事実が、リヴィオに決着を焦らせた。
一気に後方へ跳躍し、ウルフウッドとの間に十分な距離を取る。
「できることなら、貴方には使わず勝ちたかった」
数発の弾丸が残ったスチェッキンを足元に捨てる。
そしてベルトに差してあった94FAを抜き取った。
左腕がまだ使えないため、腰に差されたままとなっていたM94FA。
装填されている弾丸は――
ステージの右端から左端までを一気に詰める。
両者の腕が交錯し、それぞれの銃口が至近から互いの胸を捉える。
「さようなら」
ウルフウッドの総身に怖気が走る。
トリガーに指を掛けたのはこちらが先。
引けばこちらが六分で早い。
しかし四分は先に撃たれ――致命的な結果となる。
ただ銃弾で撃ち抜かれるより、ずっと取り返しのつかない結末に――
「〜〜〜〜ッ!!」
直感に従いウルフウッドは身体を捻った。
一瞬の後、ほぼ同時に発砲。
どちらの弾丸も標的を穿たず、ステージの床を破損させる。
そして、ウルフウッドの背後で床面が抉られるように消失した。
「何……やて」
横目でその現象を目撃し、ウルフウッドは眼を剥いた。
生じた隙を衝くように、リヴィオの繰り出した蹴りがウルフウッドを背幕に叩きつける。
「……今の、トンガリのアレとちゃうんか」
超越的な視点から見れば、ウルフウッドはエンジェルアーム弾頭のことを生涯知らずに終わる。
何故なら、ヴァッシュ・ザ・スタンピードがこの弾頭を作ったのは、ウルフウッドの死後だからである。
故に『アレ』とはエンジェルアーム弾頭のことではない。
銃弾に込められたものとは桁が違う、本来のエンジェルアーム。
フィフス・ムーン事件で第五衛星にクレーターを生み出した強大な力。
それと同じ威圧感をリヴィオの弾丸から感じたのだ。
リヴィオは答えず、更にM94FAのトリガーを引く。
0330創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 22:59:27ID:+aXIQWig0331Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 22:59:59ID:UQUd8sl0狙ったわけではない偶発的な相殺。
ウルフウッドは大気を抹消する力の余波に紛れて横に転がり、更に二発をリヴィオへ放った。
超音速の弾丸が腹と左肩を斜め下方から貫き、舞台横の幕を撃ち抜く。
「これでも駄目ですか。まったく、大した人だ」
身体を穿ったダメージなど意に介さず、リヴィオはM94FAをしまい、代わりにもう一挺のM94FAを抜き取る。
エンジェルアーム弾頭は残り4発しかない。
弾の質よりも数が要求される現状、無理に頼っても使い潰すだけだ。
対するウルフウッドは、リヴィオが棄てたスチェッキンを左手で拾っていた。
50AEのマガジンに残った弾丸は奇しくもエンジェルアーム弾頭と同じ4発。
デイパックには29発の予備弾装が入っているが、補充のチャンスをくれる相手ではあるまい。
「そりゃこっちの台詞や」
と、ウルフウッドがあることに気がつく。
足りない――
この戦場に存在しなければならないモノが見当たらない。
開けっ放しの扉から差し込む光。
銃弾に穿たれた壁と床。
エンジェルアーム弾頭に抉られた痕。
プロペラのような形をした、十字型の金属弾。
足りない――
明らかに足りない――
ラッド・ルッソがどこにもいない――!
(あんにゃろどこ行きおったーーーーーー!!)
リヴィオの猛攻に意識を張り詰めていたとはいえ、あの殺人狂から眼を離してしまうとは。
梨花はちゃんと隠れさせたとはいえ、絶対に見つからない保証があるわけではない。
もし発見されればどうなるか。
そんなこと、想像するまでもない。
「――!」
ウルフウッドの視界から再びリヴィオが掻き消える。
リヴィオはウルフウッドの焦燥を見逃さなかった。
瞬時に間合いを詰め、眼前で一瞬減速。
そして更に地面を蹴り、背後へ回る――というフェイントを掛ける。
眼前に見えた姿が消えた瞬間、ウルフウッドはスチェッキンを持つ左腕を背後に振り向けていた。
鋭すぎる直感が裏目に出たのだ。
無防備に晒された右半身に、リヴィオは冷えた思考でM94FAの.45口径弾を――
「死ぬなよ、『リヴィオ』」
とん、と――
リヴィオの胸に軽い衝撃が走る。
拳で小突かれた程度の、痛みですらない感覚。
どういうわけか銃身から外れている、スチェッキンのマガジン。
そして、それをリヴィオの胸に押し当てる、50AEの銃口。
ノズルフラッシュ。
0332Deus ex machina ―戦争― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:00:42ID:UQUd8sl0弾丸の熱と摩擦が弾装のガンパウダーを加熱させ、リヴィオの右胸で小規模な爆発を巻き起こした。
「ガッ……!」
皮膚と胸筋が四散する。
剥きだしになった肋骨と僅かばかりの肉の向こうで、薄紫の肺が赤く染まっていく。
ウルフウッドが左腕を振り抜いた勢いでスチェッキンの銃身を投げ棄てた。
そこから最大限の加速を付けられた左の手刀が肋骨の隙間に突き刺さる。
骨を押し分け、神経と血管を引き千切り、風船のような肺臓を容赦なく押し潰す。
血の混ざった息がリヴィオの口から噴き出す。
「思い出して……いたんですか……」
「気付いただけや。言ったろ、記憶力は良すぎて困っとるって」
簡単な消去法だった。
あれだけ自分を知っているように振舞っていたのだ。
そんな相手は、名簿の中でヴァッシュ・ザ・スタンピードを除いた唯一の故知、リヴィオしか心当たりがない。
まさかとは思っていた。
ありえないとも思っていた。
『泣き虫リヴィオ』がこんな冷たい眼をするなんて思えなかった。
「しばらく寝とけ。その身体なら死にはせんやろ」
胸から左腕が引き抜かれた。
赤く染まった袖口と手が大気に晒され、ごぽりと血が溢れる。
異常なまでの回復力と運動能力。
人相まで変わるほどの急速な身体的成長。
そこに"ミカエルの眼"が絡んでいることは想像に難くない。
重心を崩し、床に倒れ込んでいくリヴィオ。
ウルフウッドはリヴィオの背中を一瞥し、梨花の待つステージ上手へ駆け出そうとした。
その瞬間、凄まじい衝撃がステージを揺らした。
◇ ◇ ◇
0333創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:01:03ID:sbXpWeTS0334Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:01:27ID:UQUd8sl0劇場がこんなに広いのは計算外だ。
圭一は廊下を走りながらぎゅっと奥歯を噛み締めた。
放送直後、圭一は適当な理由をつけてアーチャーの下から離れ、中央劇場の内部を駆け回っていた。
赤いコートの女の言葉が正しいなら、劇場のどこかにレナが来ているはずなのだ。
先の放送で、魅音と切嗣の名前が呼ばれた。
淡々と語られた無常な報告は、圭一の心に哀しみをも上回る焦りを齎していた。
もう一刻の猶予もない――
決断が遅れる度――
行動が遅れる度――
みんなの命が確実に失われていく。
レナが。沙都子が。梨花が。詩音が。
自分の手の届かないところで殺されてしまう。
劇場で合流する手筈になっていた切嗣も、どこかで命を落としてしまった。
アーチャーは余りにも危険過ぎる。
頼ることができる相手は、もういない。
「俺が絶対に……みんなを……!」
それは、園崎魅音を失ったショックを使命感で覆い隠しているだけなのかもしれない。
しかし脚を動かす思いは本物だ。
立ち止まっている時間すら惜しく感じられる。
劇場を構成する建造物は全部で三つ。
そのうち中央劇場はあらかた探し尽くした。
隅から隅までとはいかないが、レナの名を呼びながら駆け回ったのだ。
レナが、もしくはレナと行動を共にしているらしい連中がいるなら、反応が返ってくるに違いない。
それがないということは、中央劇場はハズレだということ。
「……くそっ!」
可能性は五分と五分。
北を目指すか、南を選ぶか。
調べに行けるのは片方ずつだ。
首尾よくレナと巡り会えればいいが、そうでなければ致命的なタイムロスになる。
あの赤いコートの女の存在を考えれば、まさに致命的だ。
「考えろ、考えるんだ……!」
ただ徒に走り回るより有効な手段があるのではないか。
迅速かつ確実に、レナと合流するための手段が。
もし切嗣が生きていてくれたら、北と南で手分けをすることも出来ただろう。
しかしそれも詮無きこと。
放送で名前を呼ばれた以上、生存は絶望的といわざるを得ない。
「そうだ、放送!」
圭一はロビーの柱を仰ぎ見た。
館内放送のためにあると思われる、大きなスピーカーがそこにあった。
今から大急ぎで放送室を探し出して、劇場全体に呼びかける――確かに確実だ。
レナが放送の聞こえる範囲にいれば一発で合流できるだろう。
「……駄目だ、全然駄目だ」
だが、圭一はその案を即座に放棄した。
放送は相手を選べない。
赤いコートの女を始めとした危険な連中にも、自分の居場所を教えてしまうリスクがある。
それだけならまだマシだ。
放送を聴いて動いたレナ達が待ち伏せを受ける危険も考えられる。
論外。このアイディアは論外だ。
0335Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:02:08ID:UQUd8sl0警報機を鳴らす?
それにどんな意味が。
前原圭一が来ているぞ、というアピールにすらならない。
今からでもアーチャーに頼み込む?
下手に機嫌を損ねればその場で殺される。
あの男はそういう性格だ。
容赦なく、それこそ羽虫か何かを潰すくらいの感慨でやるに違いない。
協力してくれそうな人を探す?
……意味がない。
それなら最初からレナを探したほうがいい。
幾ら考えても解決策が浮かばない。
やはり自分の足で駆け回るしかないのか。
諦めとも開き直りとも取れる感情に身を委ね、圭一は走り出した。
「……南だ!」
圭一は南劇場へ通じる連絡通路へ進路を取った。
何かしらの根拠があったわけではない。
ただ、現在の位置が北劇場よりも南劇場に少しだけ近かった。
それだけだった。
全力で走れば数分と掛からない距離。
まっすぐな連絡廊下を駆け抜ければそれで南劇場に到着だ。
しかし、それなのに、圭一は連絡通路の手前で立ち止まった。
そして転びそうになるほどの勢いで、通路入り口の壁際に身を隠す。
「ちくしょう……!」
壁際に身を隠しながら、通路の向こうを窺う。
連絡通路を挟んだ反対側、南劇場のロビー。
そこに二人分の輪郭が見える。
忘れるはずもない赤いコートともう一人。
スーツに身を包んでいるらしい男の姿。
「あいつ、もう来てたのかよ」
図書館で自分達を襲った女。
レナ達を狙っているという赤いコートの女。
それがこんなところにいるなんて。
もう一人はあいつの仲間なのだろう。
何かを話し合っているようだが、会話の内容はとてもじゃないが聞こえない。
けれど想像はできる。
どうやってレナ達を殺すか考えているんだ――
圭一は2発しか弾丸の入っていないデザートイーグルを握り締めた。
これが唯一無二の武器。
二人の相手に一発ずつ撃てばそれでおしまい。
貧弱すぎる。
心許なさすぎる。
相手は如何にもプロといった雰囲気だった。
素人の撃った銃弾なんてあたるものなのだろうか。
図書館では退けられたといっても、それはアーチャーがいて、しかも油断を衝けたからだ。
今回はアーチャーがいない。
それどころか相手に仲間がいる。
状況はあまりにも絶望的。
それこそひっくり返す余地が見当たらないほどに。
0336Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:02:52ID:UQUd8sl0通路の奥で男が踵を返すのが見える。
圭一は咄嗟に柱の影に身を隠した。
コツ、コツ、と近付く足音。
どうやら連中は二手に分かれて事を成すつもりらしい。
赤いコートの女が南を、スーツの男が中央か北を。
連中も圭一と同様、レナ達を探しているのだ。
「…………」
圭一は呼吸すら殺して男が通り過ぎるのを待つ。
中央にレナ達がいないことは確認している。
まさか、あの男も中央をスルーして北を調べはしないだろう。
時間的猶予は十分にある。
もしかしたらアーチャーと遭遇して倒されてくれるかもしれない。
やはり問題となるのは、赤いコートの女の方だ。
「…………っ」
足音が更に近付く。
固い床を靴底で叩く音が、だんだん大きくなってくる。
圭一は壁際の柱と壁の間に身を潜め、男が通り過ぎていくのを待っていた。
通路から中央劇場へ来た人間からは死角になっている場所だ。
下手に物音を立てさえしなければ、そうそうバレることはないだろう。
足音がすぐ近くにまで迫る。
心臓の鼓動と呼吸の音が異様に大きく感じる。
早く行け、早く行け、早く行け、早く行け、早く行け――!
心の中で何度も念じる。
銃把を握る掌にじわりと汗が滲んでくる。
うっかり手を滑らせてしまう気がして、圭一は片手ずつ服に擦り付けた。
――コツリ、と。
足音の響き方が変化する。
通路を抜けて劇場に足を踏み入れたのだ。
壁や天井との距離が変わって反響の仕方も変わり、音の聞こえ方まで変わったのだ。
圭一は少しだけ、気付かれないように、男の姿を覗き見た。
几帳面にスーツを着込んだ、比較的細身の身体。
サングラスを掛けて、不適な笑みを貼り付けた顔。
白髪を後ろに撫で付けたオールバックの頭。
明らかにヤバい雰囲気を漂わせた男であった。
圭一は呼吸を止めて待つ。
男が中央劇場の探索に乗り出して、通路の周りからいなくなる瞬間を。
「……よし!」
ロビーの事務室に男が消えたのを見計らって、圭一は柱の影から飛び出した。
廊下の向こうに赤いコートの姿はない。
男と別れてすぐ南劇場の探索に移ったのだろう。
ますます好都合だ。
圭一は可能な限り足音を立てないように、通路の端まで駆けていく。
劇場内部と連絡通路の境界付近で立ち止まり、そっと劇場の様子を窺ってみる。
北口からホールへ入っていく赤い背中。
十中八九、あの女で間違いない。
圭一は女の後を追おうとし、踏み止まった。
無策に追いかけて何をしようというのか。
ただ付いていくだけ?
0337創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:02:55ID:4HqrfbeU0338Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:03:33ID:UQUd8sl0どれも無意味だ。
あの女は本当に危険な奴なのだ。
レナにあいつを近付けたくないなら――
――撃つしか、ない。
銃把を握る。
デザートイーグルの重みが圭一の両手に圧し掛かる。
人を殺すという行為の重大さを告げるように、ずしりと。
幾度も繰り返される惨劇の中、圭一は何度か人を殺したことがある。
そして同じ数だけの悔悟を重ねてきた。
もう一度、それを出来るのか?
「……」
正直、決意しかねていた。
あの女を殺したとして、どんな顔で皆と会えばいいのかも分からなかった。
けれど――だけど――それでも――
護りたい人達がいるから――
圭一は歯を食い縛る。
その瞳には、何よりも強い決意の火が灯っていた。
「弾は二発……どうにかしてギリギリまで近付いて……!」
思考回路を限界寸前まで回転させる。
己の無力さは嫌になるほど痛感している。
だから考えるのだ。
彼我の実力差を埋めることができる冴えたやり方を――!
「待ってろよ、レナ……!」
◇ ◇ ◇
ウルフウッドとリヴィオの死闘が始まったちょうどその頃。
梨花はステージ上手の道具置き場で身を縮めていた。
雑多な大道具が目隠しとなって、しっかり隠れていれば見つかることはないだろう。
「もう、駄目かもしれないわね……」
梨花の抱いている感情を一言で言い表すなら、絶望であった。
ウルフウッドのことを信頼していないわけではない。
必ず護るという彼の言葉は信じているし、頼ってすらいる。
絶望の矛先は、未だ会えぬ仲間達のことである。
もう会えないかもしれない。
会えたとしても、目の前で殺されてしまうかもしれない。
眦から溢れた涙が頬を伝い落ちる。
「ニコラス……」
今は、待つしかない。
仲間達を探すのも、どこかへ逃げるのも、一人だけでは出来やしない。
ウルフウッドがあの男を倒して戻ってくるのを待つしかないのだ。
梨花は、ふと天井を見上げた。
0339Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:04:31ID:UQUd8sl0天井から巨大な人形が吊り下げられていた。
第一印象は翼のない天使。
欧米人の女性を象ったらしい人間部分を、羽衣のような衣服が覆っている。
まるでギリシャ神話の神様みたいな格好だった。
地上の人間を見渡すように顔を傾け、それでいて表情は柔らかい。
高く掲げた右腕には大きな剣を握っている。
その剣はご丁寧にも金属で造られているらしく、僅かな光を反射して鈍く輝いていた。
演目は『グリークス』
梨花の生きていた一九八三年から、遡ること三年。
イギリスのとある演出家と翻訳家が十本のギリシャ悲劇を一本の脚本に再構成した舞台作品であり、
一九八〇年に初演された、上映時間が十時間にも達するという大作である。
道具置き場がこうも混雑しているのも当然だと言えるだろう。
そして天井から吊り下げられた巨大な人形は、アテネ神を象ったもの。
全演目の終盤、ギリシャ悲劇『タウリケのイピゲネイア』を原作とする場面で、
逃げ出したオレステスとイピゲネイアを追わんとするタウリケの領主の元に降臨し、二人の逃亡を助ける役柄である。
即ち、本来の意味でのデウス・エクス・マキナ。
窮地に陥った主人公を救い、強引に物語を終わらせるため、伏線も前振りも無視して登場する神様だ。
普通は役者を機械仕掛けで登場させるのだが、果たしてこんな大きな人形を用意する例があっただろうか。
横幕の向こうでは今もなお銃撃戦が繰り広げられている。
しかし分厚い幕が防音効果を発揮しているのと、酷い反響のせいで、梨花はステージの様子を殆ど把握できていなかった。
戦いが終わればニコラスが迎えに来る……それだけを待っていた。
不意に、ステージと道具置き場を区切る幕が揺れた。
そして足音が床板を軋ませる。
「来た!」
梨花は思わず隠れ場所を飛び出した。
戦闘が終わったのだと、ウルフウッドが戻ってきたのだと思い込んで。
「ニコラ……」
そこにいるのがウルフウッドではない可能性など考えもせずに。
「……ス」
「よぉ、嬢ちゃん。こんなところでかくれんぼか?」
大仰に腕を広げる、ラッド・ルッソ。
ありえてはいけない男の存在に、梨花の思考は完全にフリーズした。
梨花はリヴィオが乱入した事実を知らない。
ウルフウッドと戦っているのはラッドであり、そしてラッドはウルフウッドに倒されるはずなのだ。
しかしそれとは真逆の現実が、目の前で残忍にニヤついている。
「うそ……」
梨花はラッドの姿に視線を釘付けにされながら、一歩退いた。
頭の中を色々なモノがグルグルと渦を巻いている。
認めたくない現実。
認めざるを得ない現実。
認めてしまった現実。
「いや……」
「怖いんだろ? 驚いてるんだろ? ビビってるんだろ?
ああ、俺も正直ビビったさ。ホールの扉を開けたと思ったら、後ろからいきなりドカンだぜ?
しかもその後は弾道飛行と来たもんだ」
0340Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:05:12ID:UQUd8sl0狂った言葉を饒舌に繰り返しながら、更にもう一歩。
「ここに隠れていれば絶対に殺されない、そう思ってたんだろ?
それなら……あー、いや待てよ。
殺されると思ったから隠れたんだよなぁ。
つまり隠れてるってことは、殺されないと思ってはなかったってわけか?
隠れてりゃ殺されない、殺されるから隠れてた……あぁ!?」
迷走した思考を追い払うように頭を掻くラッド。
やがてトーンの落ちた口調で、冷ややかに梨花へ言い放つ。
「そりゃねぇな。どっからどう見たってブッ殺されそうでガタガタ震えてるツラだ」
その言葉を聞いて、梨花は初めて、自分が救いようもないほどに震えていることを知った。
かたかたと歯の音が合わず、今にも膝を折って動けなくなりそうだ。
恐怖――
確かに古手梨花は恐怖している。
だが、ラッドに対する恐怖心はさほど大きなものではない。
それよりも圧倒的に、ウルフウッドがいないという絶望が大きかった。
ウルフウッドとラッド・ルッソが戦い、ラッドだけがやってきた。
現状を俯瞰すれば誤解であっても、梨花にとってはそれだけが事実なのだ。
ならばウルフウッドはどうなった?
負けたのだろう――
倒されたのだろう――
殺されたのだろう――
あの少年と同じように、黒焦げになったのだろう――
「嫌ああああああ……あ゛っ!」
絶叫を迸らせかけた梨花の首をラッドの手が掴む。
五指が白い肌に食い込み、ぎちぎちと締め上げていく。
「悪いな、うっかり通り魔に殺されたとでも思って諦めな。
あーそうだ、死に方くらいは選ばせてやるぜ。窒息がいいか?」
喉元で交差した親指が気管を圧迫する。
少女の細い喉はそれだけで封鎖され、隙間風のような音しか通さない。
梨花は酸素を求め、金魚のように口を動かした。
「それとも脳みそから死んでみるか?」
力の込められる位置が変わった。
気管は解放され、代わりに左右の頚動脈が塞がれる。
脳に酸素を届ける血液の流れが滞り、視界の端から暗闇が染み込んでくる。
意識が途切れかける直前、頚動脈もまた、ラッドの手から解放された。
「どっちも嫌なら首の骨とかポッキリいってみるかぁ。
知ってるか? 縛り首ってあるだろ、絞首刑だよ絞首刑。
誤魔化し切れる限度を越えた馬鹿が法律でブッ殺されるアレだよ」
0341創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:05:44ID:+aXIQWig0342Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:05:55ID:UQUd8sl0そしてぎりぎりと力を込めながら、肩の高さまで持ち上げた。
梨花は必死に脚をばたつかせてもがきながら、ラッドの腕を掴んでいる。
器用なことに気管も頚動脈も締まっていないが、それが逆に非道であった。
「アレってよぉ、窒息して死ぬわけじゃねぇんだってな。
高いところから落とした衝撃でボキッといくらしいぜ?
確か三十年くらい前に、絞首刑になった奴の首がブチ切れて飛んでいったとか聞いたなぁ。
あー、見たかったぜ! 自分は死なねぇとか考えて列車強盗やらかして、ギロチンでもないのに首を飛ばすなんてなぁ!
つーか俺がやってやりたかったな! ヒャハハハハハハハハハハハッ!!」
首の骨が軋む。
梨花はラッドの講釈に耳を傾ける余裕すらなく、必死になって暴れていた。
爪を立てて手を引っかいても、傷がつく傍から塞がって、抵抗にすらならない。
「決めねぇなら勝手に殺すぜ? あまり時間は取りたくねぇしな。
俺はこれからまだまだ殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくらねぇといけねぇんだ。
あの黒スーツも、俺をふっ飛ばしやがったモヒカン野郎……ラズロって言ったっけな。そいつらもぶっ殺さねぇと。
ていうかあの治りっぷり、ひょっとしてアイツが『決して死ぬ事のない云々』って奴なんじゃねぇか?
よーし決めた。特にモヒカン野郎は念入りにだ。徹底的にブチ殺す」
もはや何度『殺す』と言ったのかすら分からない。
ラッドの心は既に梨花には向けられておらず、本命を殺す前の一作業といった様相だ。
しかし、梨花はその狂った言葉の中に齟齬を感じていた。
殺されるか否かの瀬戸際にありながら、確かに聞き取った。
あの黒スーツもブッ殺す、と。
ニコラスは、生きている?
梨花の意識に戸惑いと希望が同時に湧き上がる。
だがそれすらも手折るかのように、ラッドの手に力が込められた。
「あ――」
締められた拍子に頭が上を向く。
天井には物言わぬデウス・エクス・マキナ。
それを吊り下げるワイヤーの数本が、いつの間にかステージからの流れ弾によって断ち切られていた。
残存したワイヤー数はアテナ像の重量を支えきれる限度を下回っている。
じりじりと負荷を受けてきた接合部が、今この瞬間、物理的強度の限界を超えた。
重力に曳かれて落下するアテナ像。
想像を絶する衝撃が轟音と共に床を砕く直前、巨大な金属の刀身がラッドの両腕を寸断した。
「……あぁ?」
轟音と粉塵が吹き荒れる中、ラッドは己の身に起きた異変に目を細めた。
肘から先が突如として消失し、凄まじい激痛が神経を遡ってくる。
足元には、床にめり込んだ大きな剣と、咳き込む餓鬼と、二本の腕。
何という皮肉だろう。
両腕を残してレッドを焼き殺した直後に、自分の両腕を失うことになろうとは。
「何じゃこりゃあああっ!」
ラッドは自身を襲った不運に叫んだ。
腕を断たれたこと自体はまだいい。
問題はタイミングだ。
どうしてよりにもよって、殺そうとするその瞬間に。
「げほっ……げほっ……!」
0343Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:06:36ID:UQUd8sl0同時に、これ以上の好機はないとも確信していた。
目の前に落ちたラッドの両腕が、焼き切られたレッドの腕を想起させる。
しかしそれを必死で振り払い、ラッドの横を潜り抜けて走り出す。
転びそうになるたび手を突いて持ち直し、幕を掴んでステージに転がり込む。
どん、と大きな何かにぶつかった。
「どうしたんや、その血!」
はっと目線を上げる。
そこには、ひどく焦った様子のウルフウッドの顔があった。
「血……?」
梨花が自分の顔に触れると、ぬるりという生っぽい感触が返ってきた。
そこで初めて、梨花はラッドの血を頭から浴びていたことに気がついた。
舞台袖のあまりの薄暗さに気がつかなかっただけで、相当凄まじいことになっているようだ。
動脈も静脈も一緒くたに断ち切られたのだ。
両腕ともが血液を噴き出すホースに成り果てていたに違いない。
「そんなことはいいから! 逃げましょう! 早く!」
「言われんでも分かっとるわ! しっかり掴まっとれ!」
ウルフウッドは梨花を抱え上げ、梨花はウルフウッドにしがみつく。
意味不明なラッドの暴言を背に受けて、開け放たれたままの出口へ駆け上る。
眩いばかりの光を放つ扉の向こうへと――
◇ ◇ ◇
赤いコートがホールの暗がりに消えたのを見計らって、圭一はホール北側を駆け足で縦断した。
そしてすぐさま、開けっ放しの扉の横に背を付けて、ホール内部から身を隠す。
圭一の現在の装備は、残弾数が二発しかないデザートイーグルのみ。
他の持ち物も、双眼鏡に空っぽの酒瓶、半壊した金色の鎧、そして大型のバイクだけ。
つくづく、死闘に臨む男の装備ではない。
だが、戦うと決めたのだ。
ここで引き下がることなんて出来るものか。
圭一がホールへ飛び込もうとしたまさにその瞬間、劇場のロビーに男の声が響く。
「始めるぜ……覚悟決めろ!」
余裕もなにもあったものではない叫び。
それに押し潰されまいとする勢いで、別の声が重なる。
「逃げろ、レナ!」
大きさの割りに、なんて涙声なんだろう。
どこの誰かは知らないけれど、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔が簡単に想像できる。
「レナ……やっぱりここにいたんだな……!」
0344Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:07:19ID:UQUd8sl0その辺にあったモノを片っ端から心材にして、どうにか自立するように調整する。
作業に掛けられる時間は一分、長くて二分程度。
傍目から、誰かがいると思えるくらいの出来栄えでいい。
「でもっ! チョッパーくんまで!」
ああ、レナの声だ。
今にも泣き出しそうなくらいに潤んでいる。
そりゃそうだよな――
魅音が死んじまったんだからな――
悔しいよな――
悲しいよな――
「……よしっ!」
小声でそう呟き、圭一は次の作業に取り掛かった。
アーチャーから預かった酒瓶に、ペットボトルの水を注いでいく。
底から測って四割くらい。
何も満タンにする必要はない。
圭一は水を移す作業が終わり次第、身を低くしてダッシュした。
赤いコートの女はゆっくりと南へ歩きながら、時折足を止めて辺りを見渡している。
腕の怪我のせいで激しい動きができないのだろう。
あいつがレナ達の声を聞いていたのかは微妙なラインだ。
圭一はホールとロビーの境界付近にいたが、女は既にホールの中に入っていた。
後は、扉が開いた状態での防音効果がどれくらいかという問題。
座席などを遮蔽物に使いながら、圭一はじりじりと女に近付いていく。
「あと少し……気付くなよ……」
位置関係は、開きっ放しの扉、黄金の鎧、赤いコートの女が北から南へ一直線。
そして圭一は、女より少々南西の座席の間に身を潜めている。
圭一から5メートルのところで女が足を止め、東側の扉に目をやった。
「……ッ!!」
今だ――!
圭一は一瞬だけ座席から身を晒し、酒瓶を北口目掛けて遠投した。
ペットボトルから移された水が錘になって、空の瓶よりもずっと長い放物線を描いていく。
床に落ちた酒瓶が割れ、甲高い音をホールに響き渡らせる。
振り返った女の視界に入る、黄金の鎧。
女が武装されたスーツケースを鎧へ向けたその瞬間、圭一は座席の間から飛び出した。
この距離、この位置、このタイミング――逃せば全てがおしまいだ――!
「――――残念ね」
スーツケースのロケットランチャーが火を噴いた。
ただし、偽装された黄金の鎧に対してではなく、真後ろの圭一へ向けて。
爆風と灼熱が、圭一の意識を刈り取った。
◇ ◇ ◇
0345創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:11:13ID:+aXIQWig0346創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:13:13ID:4HqrfbeU0347創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:14:30ID:+aXIQWig0348創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:15:16ID:+aXIQWig0349創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:15:19ID:4HqrfbeU0350Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:15:47ID:UQUd8sl0北劇場、ステージ上。
ウルフウッド達が走り去った直後、リヴィオは当然のように立ち上がった。
胸の傷は塞がってはいないが、痛みがあるだけで機能に支障はない。
「あなたに施された生体改造手術とは世代が違うんです。
こんなことだけで『僕達』は斃せません」
リヴィオとラズロは、一つの身体に宿った二つの人格という関係にある。
両者の戦闘能力の違いは戦闘センスや肉体の使い方といったソフト的側面であり、
再生能力や肉体自体のスペックといったハード的側面は共通なのだ。
それはとりもなおさず、同じ肉体を使っていながら圧倒的性能差を叩き出すラズロの凄まじさをも物語っているのだが。
リヴィオは舞台袖で狂乱する男の叫びを無視し、落ちている武器を拾い集めた。
今はまだウルフウッドとの戦闘のダメージが残っている。
連戦はなるべく避けたかった。
「…………」
ふと、ホールから走り去るウルフウッドの姿を思い出す。
あのときの彼は、年端も行かない少女を抱えていた。
おぼろげながらに聞こえた会話の感じだと、出会ってそれなりの時間がたっている様子だった。
リヴィオが記憶している限りでは、あんな子は孤児院にはいなかった。
ウルフウッドが子供と旅に同行させているなんて話も聞いていない。
だとすれば、ここに連れてこられてから知り合った子なのだろう。
やはり、昔と変わっていない――
「――まさかね」
不意に脳裏を過ぎった想像。
昔とあまり変わっていない性格。
死ぬなよ、という一言。
ウルフウッドは自分を『斃せなかった』のではなく『斃さなかった』のではないか。
「……僕には、関係のないことだ」
自分に言い聞かせるよう呟いて、リヴィオはホールを後にした。
任務に忠実な殺戮マシーンに徹すること。
マスター・チャペルから入念に叩き込まれた教えだ。
意味のない根性論ではない。
感情がブレればそこに付け入られる隙が生じる。
マシーンであれという教えは生き残るための教訓なのだ。
それなのに、欠点と指摘されたムラっ気の塊のような性格を直さず、あまつさえあんな子供に情を移すなんて。
「それでは生き残れませんよ、ウルフウッドさん……」
◇ ◇ ◇
0351創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:17:01ID:4HqrfbeU0352創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:17:04ID:+aXIQWig0353Deus ex machina ―殺人― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:17:22ID:UQUd8sl0和風ホールの北口から無常が姿を現した。
わざとらしい拍手を繰り返しながら、大股でホール中央へと歩いていく。
バラライカは不快そうに目を細めただけで、無常に対して特別な振る舞いをみせようとしない。
「随分と遅いご到着だな」
スーツケースを足元に置き、黒い掌大の機械を取り出す。
そう、エルルゥやルフィとの戦闘で取得した探知機である。
バラライカはこの装置によって、劇場における人々の位置関係を把握していた。
「この子がいるということは、あの黄金の男も来ているのか……予想通りだな」
両脚を吹き飛ばされて倒れ伏す少年を一瞥し、バラライカは呟いた。
探知機に反応があるあたり、まだ絶命はしていないらしい。
だがこれだけの深手だ。もう助からないだろう。
わざわざ楽にしてやる義理もなく、そのために無駄弾を使うつもりもない。
少年の不幸と誤算は、バラライカが探知機を所持していたことに他ならなかった。
いわば少年は情報戦で敗北したのだ。
彼の行動は中央劇場を駆け回っているときから筒抜けであった。
そもそも無常が一旦南劇場から離れたのも、少年を誘き出して挟み撃ちにするための策略であった。
結果的には、無常の到着が送れたためバラライカ一人で片付けることになったのだが。
しかし、もし探知機がなかったとしたら――
詮無きことだな、とバラライカは浮かんだ雑念を払う。
探知機がなければそもそも単独行動などしていない。
右腕を失った状態で一人になるなど、自殺行為もいいところだ。
探知機をデイパックに戻し、右肩を撫でる。
両腕が健在であれば武器と探知機の両方を同時に扱うことも可能だった。
しかし今は片腕がない。
武器を手にしたときは探知機を、探知機を手にしたときは武器をしまう必要がある。
それがひどく不便であった。
「南劇場にいるのはあと三人か」
「男と女が一人ずつと、よく分からない生き物が一匹でしたよ」
ふん、とバラライカは鼻を鳴らした。
合流に遅れてまで確認したということは、こちらを見限る準備は万端なのだろう。
「偵察だけしか能がないとは。少々評価を改めなければな」
バラライカは通路沿いの座席の肘置きに腰掛けた。
この手の輩はプライドだけは無駄に高いものだ。
少し煽ってやれば簡単に動くだろう。
「偵察だけ? 聞き捨てなりませんねぇ。
いいでしょう、次は私が主導で行います」
そら、来た。
◇ ◇ ◇
0354創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:17:57ID:4HqrfbeU0355Deus ex machina ―神々― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:18:36ID:UQUd8sl0人型に姿を変えたチョッパーの巨体が床から浮く。
「がふっ……」
「邪魔だぁ!」
掬い上げるような一撃。
右肩のフィンが回転を増し、ロビーに暴風を撒き散らす。
振り抜かれた拳に打ち上げられ、チョッパーは二転三転と宙を舞い、ホールの壁に激突した。
血の混ざった息が肺から追い出され、声にならない音が漏れる。
「チョッパーくん!」
レナは獣人型となって床に落ちたチョッパーを抱き、カズマを睨んだ。
あの拳で殴られたら、レナなどひとたまりもないだろう。
チョッパーのように白目を剥いて気絶するだけで済むとは思えない。
拳が触れた瞬間に即死する危険すらある。
それでも、レナは果敢に顔を上げた。
目から溢れた涙を拭くことも忘れ、レナはカズマに問い質す。
「どうして……? どうしてこんなことするの!?」
「決まってんだろ……さっさと帰るためだ!」
簡潔にして究極の理由を叫び、カズマはレナに右腕を向けた。
広げた指を人差し指から順に折り曲げて、最後に親指を曲げて拳を作る。
無力な少女であっても殴り飛ばす――これ以上ないほどに明確な意思表示。
「殺されてなんか、あげない」
レナはチョッパーを床に横たえて、デイパックから異形の銃を取り出した。
二挺の大型拳銃が互い違いに結合した形状のそれは、名を二重牙という。
リヴィオ・ザ・ダブルファングが得意の得物とし、両手に所持して前後左右同時射撃を可能としていた代物だ。
その威力たるや、本来の持ち主の身体能力を以ってすれば、一部隊を一瞬で鏖殺するほどである。
しかしそれは、リヴィオの鍛え抜かれた肉体と技術があってこそ。
レナが扱ったところで、余分なパーツがついた拳銃として使うのが関の山だろう。
だが、それだけでも十分だ。
「魅ぃちゃん……力を貸して……」
両の足で床を踏みしめる。
そして、両手で二重牙を構えた。
「いくぜぇ!」
カズマの背でファンが高速回転を開始する。
力強い踏み切りに合わせて大気の奔流が渦を巻き、カズマの肉体を一気に加速させた。
「……来たっ!」
レナの指がトリガーを引き絞る。
炸薬が銃身内部で爆発し、弾丸に超音速の運動エネルギーを与える。
しかしその反作用は、本体の重量で抑制されながらも、反動という形でレナに牙を剥いた。
両腕が跳ね上がり、肩に激痛が走る。
銃把を握っていた指が衝撃で外れ、宙を舞う二重牙。
繰り出された弾丸は一分の狂いもなく直進し、カズマの左上腕を貫通する。
だが、足りない。
一発だけではこの男は止められない。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
0356創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:18:38ID:4HqrfbeU0357創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:19:27ID:4HqrfbeU0358Deus ex machina ―神々― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:19:38ID:UQUd8sl0ホールの外壁が、まるで砲弾の直撃を受けたかのように爆砕。
亀裂が天井にまで及び、床材に小規模な地割れが生じた。
「チッ……」
カズマは思わず舌打ちした。
手応えがなさ過ぎる。
殴りつけたのは壁だけだ。
振り返れば、安全圏にいる動物型のチョッパー。
そして、その角に担がれたレナの姿。
「あいつはおれが倒すから……レナは休んでいてくれ」
「チョッパーくん……」
チョッパーはレナを降ろして、カズマの前に進み出た。
目深に被った帽子の下から、団栗のような目が対峙するカズマを見据えている。
「いいぜ、まずはてめぇからだ」
カズマが拳を構える。
チョッパーはトナカイの四肢で床を蹴り、カズマの眼前で人型と化した。
「うあああああっ!」
「おらぁっ!」
巨躯から振り下ろされる拳。
カズマは襲い来る腕の側面を殴り、無理矢理に軌道を捻じ曲げた。
その勢いのままに、背中のファンの出力で一回転。
無防備を晒していたチョッパーの腹部にストレートを見舞った。
チョッパーの顔が苦痛に歪む。
二歩、三歩と退いて、しかしそこで踏み止まる。
「早く逃げて!」
「駄目だ!」
レナの悲痛な叫びを、チョッパーは一言で否定した。
ぐっと歯を食い縛って、自分よりも強い敵を睨みつける。
「レナを護れなかったら、顔向けできないんだ!
ルフィに……ウソップに……みんなに顔向けできないんだ!」
獣型に変形、同時に蹄で床を蹴る。
ジグザグに跳ねながらカズマへ距離を詰めていく。
対するカズマは右腕を引き、チョッパーの突進を迎え撃つ構えを取った。
「くらえっ!」
角を突き出し、頭からカズマに突っ込む。
カズマはそれにタイミングを合わせ、脳天を狙って拳を放った。
瞬間、チョッパーの肉体が縮小。
獣人型で床に着地した。
「何っ!?」
頭上を拳が素通りする。
チョッパーは素早くカズマに背を向け、獣型に変形して後脚の蹴撃を繰り出した。
獣の脚力と頑丈な蹄が負傷していた腹部に突き刺さる。
内臓を押し潰しかねない衝撃力に、視線の焦点が揺らぐ。
しかしカズマは激痛の中、チョッパーの片脚をしっかりと握っていた。
0359創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:20:25ID:4HqrfbeU0360Deus ex machina ―神々― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:20:34ID:UQUd8sl0またもや獣人型に変化するチョッパー。
握られた片脚を軸に、身体全体がカズマへと引き寄せられる。
脚が細くなったことで、手との間に生じた隙間を利用して、床に背を向けるよう身体を捻る。
そして流れるように人型へ再変形。
「あああああっ!!」
振り翳した両腕をハンマーのようにカズマへ叩き込む。
カズマは受身を取ることすらできず、顔面から床に激突した。
一度だけ大きくバウンドし、うつ伏せに倒れ伏す。
「やった……か?」
チョッパーは肩で息をしながら、カズマの行動を見守った。
アルターに包まれた右腕が床材を握り、バキリと潰す。
凄まじい勢いで顔面から叩きつけられながらも、カズマはまだ折れていない。
右腕を支えに、上体だけを起こす。
伏せられた顔から、壊れた蛇口のように血が滴っていた。
「この程度で……」
脚がいうことを聞かないのか。
右腕だけで起き上がろうとして、また床に崩れる。
「……立ち止まってなんか……」
思考を埋めるのは、怒りではなく、助けたいという意思。
今すぐにでも駆けつけてやりたいという焦燥。
ロストグラウンドのどこかで自分を待っている、少女への想い。
「……いられねぇんだ!」
シェルブリッドが床を撃つ。
至近距離からの一撃は、その反動でカズマをチョッパーの真上にまで吹き飛ばした。
「しまった!」
「ブッ倒れろおおおっ!」
回転するファンの気流が落下速度を更に加速。
隕石の直撃じみた衝撃がチョッパーに打ち込まれ、その身体を床にめり込ませる。
ロビーに小規模なクレーターが生じる。
その真ん中で、チョッパーは四肢を投げ出して動かなくなっていた。
「……ぐっ」
クレーターの傍らに着地したカズマだったが、すぐに膝を折り、うつ伏せに床へ倒れた。
しばらくの静寂。
「チョッパーくん……!」
死闘の威圧から解き放たれたように、レナはチョッパーに向けて駆け出そうとした。
その首筋に、冷たく光るナイフの刃が押し当てられる。
「動くな」
底冷えするような女の声。
レナが背にしていたホールの扉が、いつの間にか小さく開かれていた。
女の腕はそこから突き出され、レナの首にナイフの硬い感触を伝えている。
0361創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:21:40ID:4HqrfbeU0362Deus ex machina ―神々― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:22:01ID:UQUd8sl0扉の隙間からスーツの男が姿を現す。
男はレナに対して興味を示さず、カズマに向かってまっすぐ歩いていく。
「無常……矜持……!」
「覚えて頂けて光栄です」
慇懃な言葉とは裏腹に、カズマを乱暴に踏みつけるスーツの男――無常矜持。
嗜虐的な笑みを満面に浮かべ、傷ついた左肩を踏みつける。
みしりと関節が軋み、激痛がカズマを襲う。
「ぐあ……!」
「結晶体との接触を果たした以上、貴方に使い道はありません。
今となってはただの邪魔者。速やかに消えていただきます」
アルターを使うまでもないとばかりに、拳銃をカズマの頭に突きつける。
カズマは動くこともままならず、チョッパーは意識を失っている。
レナはバラライカに銃口を突きつけられ、そのバラライカに無常を止める意志はない。
圧倒的窮地の中、カズマは尚も立ち上がろうともがいていた。
「答えろ無常……かなみを攫ったのはテメェの差し金か」
「かなみ……あの少女ですか? ならば返事はイエスです。私が命じました」
自身を踏みつける力に抗うように手足を動かす。
しかしそれすらも、無常の暴力の前に捻り潰される。
「どうして攫った……!」
「最初は貴方達を誘き寄せるためだったんですがねぇ。
貴方達が用済みになった以上、今は彼女の能力そのものが魅力的です。
私の渇きを癒す助けになってくれるに違いない」
肩を踏みつける力が更に強まる。
無常は心底楽しげに高笑いをしながら、トリガーに指を押し当てた。
「かなめは……どこだ!」
「教えてあげません」
後ほんの少しだけ引けば事足りるだろう。
だが――
何の前触れもなく、無常は拳銃を放り棄てた。
「突然ですが気が変わりました」
カズマの怒りの眼差しに対し、無常は更なる憤怒を持って応える。
慇懃な口調はそのままだが、誰の目にもその苛立ちは明らかであった。
「そういえば、貴方には一度対等に渡り合われていましたね。
あれが私の実力だと思ったまま死なれるのは、正直腹立たしいのですよ。
手向けと思ってください。貴方は私のアルターで葬って差し上げます」
翻意の理由は誰にも分かるまい。
無常とのやり取りで燃え上がった怒りによって、カズマに宿ったスタンド『サバイバー』が発動。
その効果が至近距離にいた無常にも及び、冷静な判断を失わせたのだ。
カズマはある種挑発とも取れる言動に激昂し、アルターの爪で床を掻き毟った。
「てめぇ!」
「無駄ですよ! アブソープション!」
0363創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:22:26ID:4HqrfbeU0364Deus ex machina ―神々― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:23:07ID:UQUd8sl0激痛と共に、シェルブリッドが強制的にアルター粒子へと分解されていく。
「ぐああああああああああああああっ!!」
指先から、背中のファンから、細かな粒子と帰すシェルブリッド。
そのアルター粒子は、無常の口内へと吸い込まれるように消えていった。
シェルブリッドが完全解除されたのを確認し、無常は蛇のように笑う。
「ホワイトトリック」
無常の左腕が黒い焔のようなアルターに包まれ、カズマの背を打つ。
白い電撃がカズマの総身を駆け巡った。
「あああああああああああああああっ!!」
「アーンド、ブラックジョーカー」
同様に、右腕。
黒い電撃のダメージが相乗し、カズマは人間の声とは思えないほどの叫びを上げた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーッ!!」
「これが力です! 結晶体から得た私の力です!」
絶叫と高笑いがロビーに響き渡る。
あまりの凄惨さに、レナは今まで戦っていた相手だというのも忘れて、カズマに駆け寄ろうとした。
しかし、首筋のナイフがそれを許さない。
「お友達のようになりたくなかったら、大人しくしていなさい」
「……お友達……?」
バラライカの言葉を聞いた瞬間、レナは背筋が凍りついた。
お友達と言われて思い浮かぶのは、同盟の皆か、部活メンバーのどちらか。
「お友達って……?」
ナイフが押し当てられていなければ、すぐにでも振り返って問い質しただろう。
もう誰一人として欠けて欲しくない仲間達なのだ。
聞きたくないという思いと、確かめたい思いが交錯し、レナの思考を硬直させる。
「あなたと同じ日本人の子よ。名前は確か……ケイイチ、だったかしら?」
「――――!」
レナの眼が見開かれる。
まさか、そんな、どうして――!
首を引き裂かれる危険も顧みず、レナは振り返った。
その瞬間、バラライカの腹部から血濡れの切っ先が飛び出した。
赤いコートを貫いたそれは、生臭い血糊を撒き散らし、レナの制服の袖を掠めて空を切る。
胃から逆流した血を吐く暇も与えず、バラライカを力任せに投げ捨てる黄色の槍。
「一度ならず二度までも……よほど命が要らんとみえる」
半開きの扉を押し退けて、金色の王気を放つ英雄王がその身を現した。
突然の闖入者に驚愕し、無常がカズマから手を離す。
「何ですか、あなたは」
「あやつの魔力を感じて来てみたが、随分と詰まらんことになっているな。
雑種ばかりが雁首を揃えたのではこの程度か」
0365創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:23:48ID:4HqrfbeU0366創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 23:24:31ID:+aXIQWig0367Deus ex machina ―神々― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:24:51ID:UQUd8sl0アーチャーの、他者を限りなく軽視した言動に端を発したその憤怒は、
未だ効力を失わぬサバイバーによって増幅され、無常から冷静さを根こそぎ奪い去っていた。
散々痛めつけたカズマを標的から外し、アーチャーを新たな敵として認識する。
しかし、それはまだ早すぎた。
「おおおおおっ!」
カズマの右腕と周辺の床が微細な粒子と化して消失、再構築。
分解吸収されたシェルブリッドがその形状を取り戻す。
無常に己の失策を悟らせる間もなく床を殴り、反動で上体を捻る。
シェルブリッドの威力を帯びた肘鉄が、無常の脇腹に突き刺さった。
「邪魔だ!」
「おのれぇ……!」
重石になっていた無常を吹き飛ばし、カズマは獣のように四肢を突いた。
眼差しの先には、千載一遇の好機と見て二重牙を拾いに走るレナの姿。
今のカズマにとっては、立ちはだかるもの全てが敵。
武器がなければ一介の女子学生に過ぎないレナも例外ではない。
肉体は頭のてっぺんからつま先までボロボロだ。
受けたダメージを数えることすら億劫になる。
しかしそれくらいで戦いを止めるほど、カズマという男は脆くはなかった。
肩のフィンが高速回転を開始する。
大気の渦を後方へ噴出。
水平かつ超低空の跳躍で、十メートル余りの距離を瞬時に塗り潰す。
「シェルブリッド……!」
シェルブリッドの装甲が展開。
手甲内部で膨大なエネルギーが渦を巻く。
そのとき、何の前触れもなく天井が砕けた。
「バーストオオオオオッ!」
カズマの拳が『壁』を打つ。
地響きにも似た轟音が鳴り響き、ロビー全体が振動する。
突如として立ちはだかった山岳の如き『壁』に遮られ、シェルブリッド・バーストはレナに届かなかった。
山岳の如き巨躯――
山をも穿つ掃射に耐え切る鉄壁――
「む……坊主、意外と効いたぞ」
征服王イスカンダルに阻まれて――!
ライダーによって破壊された屋根の残骸が、今頃になって床に落下する。
恐らくアーチャーを除く誰もが驚きを覚えたことだろう。
よもや時ここに至って、更なる闖入者が姿を現すとは。
「遅い。我を退屈で殺す気か」
「貴様を待たせた覚えはないんだがなぁ……痛つつ」
0368Deus ex machina ―神々― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:25:50ID:UQUd8sl0ライダーは殴られた箇所を片手で押さえ、唾液の混ざった血を吐いた。
消耗し切った状態では十全の威力を発揮できなかったのか。
それとも純粋にライダーの耐久がシェルブリッド・バーストの威力を上回ったのか。
どちらが真相であるにせよ、ライダーがこうして立っていることが唯一の事実である。
「畜生……!」
カズマがもう一度腕を振り被る。
それを止めたのは、無常の憚ることを知らない嘲笑であった。
「愚かですねぇ、実に愚かだ。
誰彼構わず噛み付いて、ここぞという時に力尽きる狂犬を見ているようですよ」
そして、カズマを哀れむように肩を竦める。
「私が憎いのではなかったのですか?
私を倒してお姫様を助けたかったのではないのですか?
目的を見失った者の迷走は、実に哀れで滑稽ですよ」
「好き勝手言いやがって……!」
カズマは無常へ殴り掛かろうと身構えた。
しかし一歩を踏み出した時点で脚が言うことを聞かなくなり、呆気なく床に倒れこむ。
「やはりあなたでは私の渇きを埋められない。
いいえ、全てを手に入れるまでこの渇きは収まらないのでしょうね」
カズマの意識が薄れるにつれて、サバイバーの効力も消えていく。
無常は平静さを取り戻した思考回路で現状を顧みた。
――自身のダメージ、なし。
――女のダメージ、深刻。もはや死を待つのみ。
――ネイティブアルター・カズマ、脅威にならず。
――毛むくじゃらの奇妙な生物、同上。
――若い女、ほぼ無力と断定。
ここまではいい。
問題は残りの二人。
――赤目の男、詳細不明。得物の黄色い槍はいつの間にか消えている。
――大男、詳細不明。シェルブリッドの一撃に生身で耐えていた。
いわば正体不明のイレギュラーだ。
しかし、無常は負ける気など毛先ほどもしていなかった。
結晶体から入手し、先ほどカズマに放った強大な力は、それほどの確信を無常に齎していたのだ。
「全てを手に入れた程度で満たされるとは。器が知れるぞ、雑種」
「……何か言いましたか、あなた」
無常の思考に、傲慢不遜な一言が割って入る。
「この世の全ては我の所有物よ。だが、世界はいつも我を飽きさせぬ。
雑種とて数が集まれば、一人くらいは楽しめる輩がいるものだ」
「戯言を……!」
『全てを手中に収めている男』はそう言い放ち。
『全てを手中に収めんとする男』は殺意を以ってそれを睨んだ。
しかし、その憎悪は完全に一方通行であった。
アーチャーは無常へ然したる興味を払わず、ライダーの陰でへたり込んでいるレナを一瞥した。
0369Deus ex machina ―神々― ◆b8v2QbKrCM
2009/07/21(火) 23:26:34ID:UQUd8sl0「…………!」
レナはアーチャーの言わんとすることを理解し、全速力でホールに駆け込んでいった。
ライダーはアーチャーの発言を聞いて意外そうに目を瞬かせ、無常は冷めた眼差しでレナを眺めていた。
バラライカの砲撃で無残に斃れた少年に縋り、肩を震わせる少女の後姿。
無様に泣き喚く声がここまで聞こえてくるようで、不快極まりない。
「力がないとは哀れなものですねぇ。
何かを手に入れるどころか、一方的に奪われるばかり。
それに死体には何の価値もない。死んでしまえばそれまでですよ」
無常は、腹と口から血を垂れ流しながらどうにか起き上がろうとするバラライカを一瞥した。
「早くお起きなさい。あなたの力はその程度なのですか」
なんという無様さの極み。
あれだけ大口を叩いておきながら、結局は不意を打たれて死に掛けている。
やはり勝ち残るのは、この無常矜持をおいて他にない。
無常はデイパックから新たな装備を取り出した。
まるで旅行鞄のような大きさのスーツケース。
傍から見ればただのケースであるが、その実体は人知を超えた凶器。
GUNG-HO-GUNSの13番目、エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルの主武装である。
『彼女』の超越的身体能力でこの武装を扱えば、かのラズロ・ザ・トリップ・オブ・デスすら赤子同然となるのだ。
無常はこれを実戦で使ったことはないが、その凄まじい威力は対物実験で既に試していた。
この男達が如何に屈強であろうと、勝ち目などあるはずがない。
勝利は必定。
敗北は奇跡でも起こらない限りありえない。
「死んでしまえばそれまで、か」
それなのに、ライダーは前に進み出た。
サーヴァントゆえの卓越した感覚は、レナの泣きじゃくる声を確かに聞き取っている。
悔しげに歪んだチョッパーの表情も感情を察するに余りある。
園崎魅音。
モンキー・D・ルフィ。
言葉には出さなかったが、橋の袂でその名を聞いたとき、ライダーは不安を覚えていた。
冷静さを失ってはいないか、嘆き悲しんではいないか、と。
だが、それは要らぬ心配だったようだ。
彼らはこうして戦い、敵に立ち向かっていたのだ。
「ならば、余も先人として王たる生き様を見せてやらねばな」
「何……?」
覇気に溢れたライダーの眼光に気圧され、無常が一歩退く。
その自信がどこから生じているのか、理解することができない。
「見せてやろう。死をも超える我らが生き様を!」
どこからか風が吹き抜ける。
灼熱の熱砂が渦を巻き、無常に一瞬の怯みを生じさせる。
再び瞼を開いたそのときには、世界はとうに変わり果てていた。
「……馬鹿な」
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