コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ37
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0001創る名無しに見る名無し
2009/02/24(火) 23:43:06ID:eaiT05oZ感想等もこちらで。このゲームについて気になる人はギャルゲー板のゲーム本スレにもお越しください。
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コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS 攻略スレ4
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■攻略wiki http://www9.atwiki.jp/codegeasslc/
0132POPPO
2009/03/01(日) 01:49:41ID:+ZWAjzRR私は彼らに考える暇も与えず、そこにいたブリタニア軍人は全て殺し、数人の黒の騎士団の内、一人だけ残して他は撃ち殺した。
両腕両足を撃たれた男は、目の前で起こった事が把握できずにただ地べたをもがいていた。
その男に近付いて、髪を思い切り掴みあげた。
男の耳に障る悲鳴を無視してメガネを上げる。
左目にある赤の紋章が輝く。
対象者に触れている時は対象者の意思すら私の支配下に入る。
正真正銘の傀儡を化すのだ。
私は『命令』した。
「ゼロの居場所を言え」
「…12時の方向に待機しているトレーラーに、副司令と一緒にいる」
「ゼロの正体は?」
「………」
口が動かない。彼は答えを持っていない。つまり、ゼロの正体を知らない。
私は用が済むと、銃口を彼の額に当てた。
「そう、ありがとう」
バン!
腕に軽い反動がきて、男の顔が無残にはじけ飛んだ。
返り血を浴びたが、拭うことはしなかった。
アサルトライフルを捨てて、また死体から2丁奪った。マガジンも持てるだけ持ってポケットに入れる。
人が集まる前に、私は瓦礫と化した出入り口を飛び越えていった。
歯を食いしばりながら、彼女は必死に感情を殺していた。
冷静な判断力を損なわないように。体を焦がす激情と体を凍らせる絶望感に押し潰されながらも。
大粒の涙が、彼女の瞳から零れ落ちていた。
0133創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:50:45ID:fQPmbK6p0134POPPO
2009/03/01(日) 01:51:33ID:+ZWAjzRR僕はディートハルトに連絡を入れた。
通信機を切った後、ルルーシュの寝顔を見た。
主治医に指示して、ルルーシュには睡眠薬を飲ませて眠っている。
放っておけば傷を無視してでも指揮をとって、命を危機に晒しかねない。
医療スタッフはゼロの素顔に目もくれずに仕事に徹している。
僕は椅子に座りながら思考を始めた。
(…ユフィの言動と行動。明らかにおかしかった。ならば、半年前のようにギアスに操られていた可能性が高い…でも、一体誰が、何のために?)
そして府に落ちないことはそれだけでは無い。
(『新日本党』のリーダー、鬼頭もおかしなことを言っていたな。
『ゼロ』の指示でやった、と。
でもルルーシュからそんな話は聞いていない。
それに『新日本党』と組んでも、黒の騎士団側に何のメリットも無い。ルルーシュは関わっていないことは確かだ)
『ギアス』、『新日本党』、『ゼロ』。
これをキーワードに様々な思考を巡らせていったが、もう一つ、重要な要素が欠けている。
それは動機。
事の発端はそれに繋がる原点が絞り込めないのだ。
今回の事は日本にとってもブリタニアにとっても不利益を被る話でしか無い。
ブリタニアの有力貴族たちの介入が一番疑わしいが、根拠が薄すぎる上に勢力は不特定多数だ。
情報が少なすぎる。
分かっていることはゼロの命を狙っていて、失敗したということだけ。
今はそれが分ればいい。
「だから、ここを守ることが最優先だ」
僕は手元にある銃を見た。扱い方は『識っている』。
今一度、マガジンにある弾を確認した。
そう、もう過去は変えられない。
本当に大変なのはこれからだ。
このままではブリタニアとの衝突は避けられない。しかし、それを避ける手が無いわけでは無い。
僕はそれを見越して早急に手を打った。
ディートハルトに下した命令が無事に完遂すればいいのだが…
(そういえば…)
カレンや壱番隊に連絡を入れてない。ルルーシュの手術中は警備と担当していただけだった。
連絡もディートハルトと藤堂弐番隊長だけだ。
壱番隊には待機命令とKMFが揃うまで動くなという指示を送ったはずだけど、大丈夫かな?
そう思って無線機に電源を入れた時、
パパパパパパン!
外で銃声の音がした。
悲鳴を上げる看護士たち。
僕はそれを手で制して、アサルトライフルを握る。
外に待機させていた団員から連絡が入った。
「どうした!?何が起こった?」
『い、いきなり団員の一人が発砲して、相撃ちに…うっ、グアッ!?』
「おい。応答しろ。藤原。藤原!」
0135創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:51:35ID:dtQvlL/A0136POPPO
2009/03/01(日) 01:53:38ID:+ZWAjzRR突如、大きな音と共にトレーラーが傾き始めた。
それをいち早く察した僕は、銃を肩にかけて、ルルーシュの体を掴んで、反対方向へ跳んだ。
(――――――ッ!!)
背中に激痛が走り、医療器具が飛んでくる。
僕はそれを無視して非常ボタンをガラスと共に叩き壊した。
いきなりトレーラーの天井が展開し、その小さな隙間を掻い潜って転がるようにルルーシュを抱きかかえたまま脱出した。
医療スタッフたちは何が起こったかもわからず、体を揺らされてトレーラーの中に取り残された。
地面に僕は転がった。シーツに包まっていたルルーシュの体が二転、三転してしまう。
泥が顔に付いたが、拭っている場合ではない。
周囲から押し寄せてくるのは炎から来る熱気。僕の背後では黒の騎士団員の死体が転がっていた。
横倒しになったトレーラーから小さな足音が聞こえた。
咄嗟にルルーシュの前に出る。
「誰だっ!!?」
僕は反射的に銃を構えた。
しかし、そこに『敵』はいなかった・
「ど―――――!?」
『敵』は僕の視界の下にいた。
刹那、風を切る音と同時に拳が飛んできた。
咄嗟にアサルトライフルで顔を守った。
バッドで殴られたような衝撃が両腕にかかる。
(ぐっ!)
そして、即座にライフルを蹴り上げられた。隙も与えずに回し蹴りが僕の左腕に炸裂する。
左腕が強烈な攻撃力に悲鳴を上げる。
振り張らわれた左腕の隙から、拳が僕の胸を突き刺した。
重い衝撃が僕の体を揺らした。
(ごっ、が――――!!)
揺らぐ視線の先で、迫りくるアーミーナイフと共に『敵』の顔を見た。
青の長髪が、僕の視界で揺れている。
琥珀色の瞳に整った容姿。
血塗れの服。
僕は目を見開いてしまった。
(お、女の子!?)
僕が驚く暇も無く、彼女のナイフを持った右手が直進してくる。
体を瞬時に仰け反らせたが、鋭利な刃物は僕の頬をかすめた。
僕は彼女の右腕を上に払うと、彼女が態勢を崩す。僕は右足に力を込めて、彼女の腹部を思い切り蹴とばした。
華奢な体は宙を舞い、鈍い音を立てて勢いよくトレーラーの壁に激突する。
激痛が走る胸を手で抑えながら、背中のホルスターに入れていた拳銃を取り出し、彼女に構えた。
(な、なんだ。さっきの威力は…女の子が出せる力じゃない…)
同時に彼女も拳銃を僕に突き出していた。長い前髪に隠れた瞳が僕を捉えた。
距離は5メートルも無い。射程範囲内だ。
後ろにはルルーシュがいる。
しかも、マントもシーツも無く、顔をさらけ出している。
まずい!
『敵』を射殺するためにトリガーを引こうとして、
引けなかった。
なぜなら、目の前にいる『敵』がこんな事を呟いたからだ。
小さな唇が動く。
「え?…ライ、先輩?」
僕の体が硬直した。
0137創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:53:58ID:fQPmbK6p0138POPPO
2009/03/01(日) 01:55:07ID:+ZWAjzRR血で濡れた服を着た青髪の少女は目を見開いて、僕を見ていた。
目の前の光景が信じられないと言っているように。
「き、君は…アッシュフォードの?」
彼女の左目に輝いている紋章を僕はとらえた。
見間違えることの無い、悪魔の紋章。それを彼女は宿していた。
眼鏡の奥で、赤の紋章が輝いている。
(左目は、まさか…ギアス!?)
真っ赤に染まった全身で、僕に銃を向けている彼女。
長い青髪が風に揺れた。
「え?…な、なんで?…へ?」
私の目の前には黒の騎士団のジャケットを羽織った少年。泥で顔が汚れていて、鋭い目つきをしているが、その端正な容姿が陰ることは無い。
燃え盛る炎を背に、私を睨みつける美少年は間違いなく我が校の『銀の王子様』、ライ先輩が其処にいた。
医療用のトレーラーの中にはゼロと副司令がいると言っていた。
私が転倒させたトレーラーから、二人の少年が出てきた。
そして、ライ先輩のうしろにいるのは…
腹部に包帯を巻いた黒髪の美少年。目を閉じて眠っているが、その顔に見覚えがある。
彼もライ先輩と同じく、整った容姿をしている美少年だから。
「る、ルルーシュ先輩?…は?…え、え?」
一瞬、頭の中が真っ白になる。
…何の冗談?
ル、ルルーシュ先輩の格好って…は?ウソでしょ?
裸体の上半身に紫色の生地に黄色のラインが入った特徴的なズボン。
腹部には負傷したと言わんばかりの包帯。
信じられない。
信じたくない。
私の手が無意識に震えていた。
銃口が定まらない。
ギアスの力で体を制御してるのに。
「貴方が…」
(…この騒乱、まさかこの少女が!!)
「君が…」
ライ先輩とルルーシュ先輩が!!
「何でこんなところにいるんですかああああああああああああああ!!」
「何でこんなところにいるんだああああああああああああああああ!!」
0139創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:55:29ID:j9UkQaCx0140創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:55:35ID:fQPmbK6p0141創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:55:40ID:dtQvlL/A0142POPPO
2009/03/01(日) 01:56:14ID:+ZWAjzRRズゥゥゥウウウウウン!!
突然、轟音と共に視界一杯に黒い物体が広がり、『それ』は炎上していたトレーラーを踏み潰した。
僕と彼女の間を隔てる壁のように立ちはだかった。
小さな銃声がかき消され、周囲に粉塵が舞い上がった。恐る恐る上を見上げると、それがKMFであることが分かる。
『無事か!?』
「C.C.!!」
ゼロ専用のKMF、ガウェイン・ラグネルからオープンチャンネルで彼女の声が聞こえた。
赤いハッチが開き、C.C.の姿が見えた。
「今、ワイヤーを…」
「そんな暇は無い!」
僕はルルーシュを担ぎあげるとガウェイン・ラグネルの右腕を足蹴にして、コクピットに飛び乗った。
ベルトは締めずに、即座に操縦桿を握ってハッチを閉める。
膝にルルーシュの体を置くと、両側から現われたキーボードに打ち込んで生体反応を確認した。
モニターには炎上した機器が周辺に多くあり、温度による生体反応が確認できない。
思わず舌打ちをする。
「…逃げたか」
「?一体どうしたんだ?」
前部座席から僕を見上げながらC.C.が訪ねてきた。
「さっき僕たちの目の前に女の子がいただろ!?彼女はギアスを持っていた!」
「何だと!?」
「!?C.C.も知らないのか…おそらく身体を操るギアスだろう。さっきの異常な身体能力も自分自身にギアスをかけていたなら説明がつく!そして、この事件のっ!…」
ガンッ!と僕は右横のフレームを思い切り叩きつけた。少し拳形に凹んでしまっていた。
その時、コクピット内にアラーム音が鳴った。
モニターを確認する。周囲に5機のサザーランドが接近し、発砲してきた。
ガウェイン・ラグネルの前方に絶対守護領域が展開された。
『ゼロォォォオオ!!自分だけ逃げる気かああああ!!』
銃弾を完全に防ぎきれたとしても衝撃はコクピット内にも伝わってくる。
ルルーシュの体が揺れ、ジャケットに彼の血がこびり付いた。ルルーシュの腹部に巻いてある包帯が血で滲み始めていた。
傷口が開いている恐れがある。
「――ッ!!」
それを見た瞬間、僕の頭は沸騰した。
操縦桿を強く握り、サザーランド全てをロックオンした。そのままボタンを押す。
「お前らは…」
ワイヤーカッターが装備されたスラッシュハーケンが発射され、2機のサザーランドに巻きつく。ナイトメアのアサルトライフルがいとも簡単に切り落とされる。
「邪魔なんだよおおおお!!!」
そのままガウェイン・ラグネルの上半身を回転させた。同時にフロートシステムを展開する。
他のサザーランドに激突しながら、サザーランドの機体が切り裂かれた。周囲の破片と粉塵をまき散らしながら黒い機体は空高く飛び上がる。
一瞬遅れて、5機全てコクピットごとサザーランドが炎上した。パイロットの生死など確認するまでもない。
その光景をモニターで見ること無く、ガウェイン・ラグネルを発進させた。
ルルーシュの傷にタオルを押し当てながら、僕はC.C.に声をかける。
「このままシズオカの本部に向かってくれ。ルルーシュの傷が開きかけてる」
「分かった。…ライ。お前はどうするつもりだ?」
「…ルルーシュを休ませている間、僕がゼロを代行する。そして、あの少女を捕まえる。黒の騎士団総力を挙げ…うっ!?」
僕の頭に激痛が走った。
視界が歪んだ。意識が一瞬飛びそうになった。
「どうした!?ライ!」
しかし、痛みはすぐに引いていった。
僕は頭を振りながら、C.C.に大丈夫だと返事をした。
僕を見つめていたC.C.は言葉を返す。
「…ライ。私も同行する」
「何を言ってるんだ?C.C.はルルーシュの傍にいてくれ。万が一の事態に対処できないだろ?」
「私はルルーシュの共犯者だが、子守をする気はない」
「…冷たいな。君は」
「フッ。恋人からの連絡をほったらかしにしているお前に言われたくないな。不審に思われるぞ?」
0143創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:57:04ID:fQPmbK6p0144創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:57:53ID:p0CBOY1f0145創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 01:58:59ID:j9UkQaCx0146POPPO
2009/03/01(日) 02:01:38ID:+ZWAjzRRQ1
相手はカレンだ。紅蓮可翔式からの通信だった。
僕は言い知れぬ冷や汗をかき始めた。
何でかって?
それはC.C.がニヤついているからさ。
「C.C.…ゼロの仮面は無いか?声でバレる」
「そんなものは無い。繋ぐぞ」
「ちょっと待っ!」
僕の言葉も空しく、チャンネルがつながれた。
眼前のモニターには『SOUND ONLY』の文字だけ表示されている。
『ゼロ!ご無事でしたか!?…報告します。現在、ポイント甲七十八に待機させているトレーラーに副司令が到着していません。
『蒼天』のスタンバイは既に完了していますが、連絡も途絶えたままで…』
「…そのまま『蒼天』をポイント丙二十一まで後退させてくれ。零番隊はポイントB2に移動を開始しろ」
『…ええっ!ライ!?何でガウェインに乗ってるのよ!?』
やっぱりばれた。声をゼロに真似てドスの利いた命令口調で言ったのに。
映像は無いものの、何故か焦ってしまう。
僕は仕方ないので正直にしゃべることにした。
「すまない。カレン。成り行きでこうなった」
『成り行きでって…!!ゼ、ゼロは?ゼロは無事なの!?』
「ああ。今は眠ってるけど命に別状はない。あと、カレン。今から数日程度、僕がゼロの代わりをするから。心配しな…」
『はあああああ!!?』
0147POPPO
2009/03/01(日) 02:02:09ID:+ZWAjzRR…ルルーシュ。よく起きないな。睡眠薬効きすぎじゃないか?
僕の耳にも響くものがあったが、それが逆に心地よかった。
カレンの声を聞いただけで心が癒されるなんて…僕はもう、取り返しがつかないほどカレンに依存しているのかもしれない。
『ちょ、ちょっと何言ってんのよ!?た、確かにライは指揮能力が高いけど、ゼロの代わりなんて…』
「大丈夫だ。カレン。ライの腕なら私が保証する」
『え!?C.C.!?何で貴女が其処に、って、まさか!ライと二人っきりでガウェインに!?』
「…ゼロも乗っている。負傷中だからあまり大声を出さないでくれ。カレン」
『あっ!も、申し訳ありません!』
「だから、ゼロは眠ってるって…」
カレンの声に、僕とC.C.は思わず笑ってしまった。
いつの間にか、さっきまで張り詰めていた緊張感が無くなっていた。
ここでようやく僕は気づいた。
C.C.がカレンと連絡を取ったのは、僕を気遣ってくれてのことだったということを。
『…ねえ、ライ』
「ん?何だい?」
『ライは、大丈夫なの?怪我とか、してない?』
「ああ。心配してくれてありがとう。カレン」
『…良かったぁ』
…カレン。君って人は本当にやさしい女の子だ。
君を好きなってよかったよ。
心がすごく落ち着く。
通信が切れる前に、僕はカレンに言った。
彼女だけにかける、魔法の言葉を。
「カレン」
『えっ?何?』
「愛してるよ」
『〜〜〜!!!』
ブチッと、通信を強引に切る音が聞こえた後、コクピット内に静寂が生まれた。
C.C.が小さく笑うと僕のほうを見上げながら言葉を紡いだ。
「カレンの扱い方が上手くなったな」
「その言い方は酷いな。でも、カレンが考えていることは手に取るように分かるよ」
「…乙女心まで知り尽くす気か。末恐ろしいな。お前は」
「?何がだい?」
「いや、何でも無い。ただの一人言だ」
「そうなんだ。ところでさ。C.C.」
「何だ?」
タイピングを一旦止めて、僕はC.C.に笑顔で感謝の意を述べる。
「ありがとう」
C.C.は少し面食らった顔をした後、彼女は含み笑いを僕に返した。
ちょっとばかり怖い。カレンの笑顔とは大違いだ。C.C.の笑顔は心を不安にさせる。
「フン。『非』童貞坊やが。生意気だぞ?」
0148創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:02:36ID:dtQvlL/A0149POPPO
2009/03/01(日) 02:02:47ID:+ZWAjzRR混沌とした式典会場。そこには幾多の死体が転がっていた。
悲鳴と銃声。
撃墜されたサザーランドの残骸の上に、ガウェイン・ラグネルの後ろ姿を見守る一人の少年がいた。
帽子を脱ぎ去り、黒髪のカツラをはぎ取った。
彼の綺麗な白い長髪が肩にかかる。
その時、彼の表情には深い笑みが刻まれていた。
少年には相応しくない、狂喜に満ちた、目と唇を歪ませた禍々しい笑顔。
その唇が言葉を紡いだ。
「見つけた…」
左右非対称の瞳は黒いナイトメアが見えなくなるまで、その姿を見続けていた。
0150創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:02:52ID:fQPmbK6p0151創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:04:02ID:j9UkQaCx0152創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:04:02ID:fQPmbK6p0153POPPO
2009/03/01(日) 02:04:55ID:+ZWAjzRR支援ありがとうございます!
ですが引き続き支援をお願いします!
それでは(後編1)
行きます!
0154創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:05:40ID:fQPmbK6p0155創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:06:15ID:j9UkQaCx0156創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:08:21ID:dtQvlL/A0157創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:12:08ID:QRLrdJV30158創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:23:33ID:fQPmbK6p0159POPPO
2009/03/01(日) 02:24:24ID:+ZWAjzRR黒の騎士団の本部であり、その建築物は元あったブリタニア軍の基地を大幅に改装したものである。
今やその規模は、トウキョウ租界にあるブリタニア軍本部に匹敵する軍事力を備えている。
配備されているKMFの総数。軍事研究施設を合わせると日本最大の軍事要塞と言っても過言ではない。
世界各地に支部を持つ『黒の騎士団』の総本山として、申し分無い戦力を有している。
その基地の中心にそびえ立つ巨大な建物。周囲には多数のKMFが警備をしており、24時間厳重な警戒態勢が敷かれている。
その建物に比較的高い階層にあるゼロの個室。
個室と呼ぶには大きな空間で、書庫に寝室、シャワールーム、化粧室、コンピュータ室。さらには客人を向かい入れる居間もある。
3人はゼロの書斎にいた。
現在、インド支部で開発されている浮遊航空艦『イカルガ』に設計されているゼロの自室も、この部屋を参考にして建造されているが、ここの面積は3倍ほどあるだろう。
書類に目を通し終わった僕はコーヒーを啜りながら、束の間の休憩を取っていた。
長いソファに座って、机にはいくつかの書類とノートパソコン、そして数ピースのピザが入っている箱が置いてある。
仮面は外しているが、僕は着慣れないゼロの衣装を着ていた。
少々熱苦しいがマントも羽織っている。
C.C.は僕の隣でもくもくとピザを食べていた。先程からピザの匂いが服に着かないか心配している。
ピザの匂いがするゼロなんて、本当に笑えない。
しかし、僕はそれ以上に気になることがあった。
C.C.もピザを食べながら僕と同じ視線の先を見つめていた。
それは運搬用のベッドにいる一人の少年だった。
上半身は裸で腹部には包帯が巻かれていて、左手には点滴が打たれている。
黒髪の美少年、ルルーシュは携帯を耳にかけて会話の真っ最中だった。
二人の会話が僕の耳にも入る。
0160POPPO
2009/03/01(日) 02:25:06ID:+ZWAjzRR「ごめんな。シャーリー。でも心配しないでくれ。命にか…」
『心配するよおおお!!ル、ルルに何かあったら私、わたし…』
「…心配してくれてありがとう。シャーリー。嬉しいよ」
電話からは彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。必死に声を抑えていて、それでも抑えきれずに息遣いが途切れ途切れになっていて、それを強調していた。
電話越しでもシャーリーの表情が分かる。それを聞いたルルーシュの顔が少し和らいだ。
「なあ、シャーリー…」
『え?ぐすっ…何?』
「愛してる」
『!!う、うん!私もよ!ルル、愛してる!』
「ありがとう。……あっ、すまない。シャーリー。そろそろ時間だ。…体には気をつけろよ」
『それはこっちのセリフよ!もうっ。…うふふっ。あっ、それと、ナナリーの事は心配しないで。私がずっと傍にいるから』
「!あ、ああ。恩に着る。…これは、デート10回分かな?」
『ううん!ルルが、無事に帰ってきてくれるだけでいいから』
「…っ!……シャーリー」
『じゃあね。ルル。ちゃんと帰ってきてよ?』
「ああ。必ずだ。約束する。…それじゃあ、切るからな。愛してるよ。シャーリー」
ピッ、電話を切る電子音が書斎に響いた。
コーヒーを飲み続ける僕。ピザを淡々と口に運ぶC.C.
会話を済ませるや否や、ルルーシュは僕たちをほうを見た。
ん?どうしたんだい?ルルーシュ。
「そこでニヤニヤするな!ライ!それにC.C.!」
あははっ。
そんな顔で睨んでも全然怖くないなぁ。ルルーシュ。
0161創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:25:18ID:QRLrdJV30162創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:25:39ID:fQPmbK6p0163創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:26:11ID:QRLrdJV30164POPPO
2009/03/01(日) 02:27:35ID:+ZWAjzRR「反逆のルルーシュ。覇道のライ」
TURN00 「終わる日常」 (後編1)
「ごめんごめん。ルルーシュ。もう何も言わないからスネないでくれよ」
「すねてなどいない!」
なら怒鳴らないでくれ…っていうかその顔、無茶苦茶すねてるじゃないか。
「フン。あんなノロケ話を私たちの前でするほうが悪い」
「それはライのせいだろう!仕事中にいきなり携帯を持ってくるからこんな事にっ!」
「シャーリーが必死に『ルルはどうしたの!?ねえ!』なんて言ってるのに、切れるわけないじゃないか」
「ぐっ!…それはそうだとしても、後でかけさせるとか、他の手立てがあったはずだろ!?」
「シャーリーだって危険を承知で君に連絡を入れてるんだぞ?無碍には出来ないよ」
「し、しかし!」
「見苦しいぞ。ルルーシュ。自分の女の好意を無碍にするとは、男の風上にも置けんな」
眉間に皺を寄せるルルーシュ。君に言いたいことは分かる。
C.C.にその言葉をそのままそっくり返してやりたい気持ちは痛いほどわかるけど、ここは穏便に、ね?
C.C.はそういうルルーシュの反応をからかっているだけぞ?
「ふふ。しかしなぁ。女の殺し文句まで一緒とは…出自は違えど、血は争えんな。お前たちは」
そうかな?でもこれが一番効果的だろ?ストレートでなおかつインパクトのある言葉だ。
これ以上に愛を伝える言葉を僕は知らないよ。
「だが、安心しろルルーシュ。お前はライよりまだマシだ」
「「……どういうことだ?」」
怪訝な表情をした僕に、C.C.は意地の悪い笑顔を返す。まるでイタズラがうまくいったような妖しい顔だ。
なぜだろう?何もしてないのに背筋が寒くなる。
「お前の告白を聞いたのは私とこいつだけだが、ライの告白は黒の騎士団全員に聞かれたぞ?」
「「はあっ!!?」」
僕は思わず声を上げてしまった。ルルーシュの声と一致してしまったが、そんなことはどうでもいい。
え!何で!?
あの時は音声だけの通信だろ!?まさか、僕がゼロの代理をしているって皆知っているんじゃ…
「お前ほどの男が気づかなかったのか?ライ。会話の最後の部分だけ全部隊のチャンネルに繋いだのさ。…確か、カレンの『心配している』あたりからだったかな?」
僕は絶句してしまった。
嘘だ!と思いたかったが、いくつか思い当たる節がある。
C.C.の話を聞いてそのひっかかりが、紐がするすると解けていくように解決できた。
一昨日の重役会議からカレンが僕と目を合わせてくれなかったのだ。
カレンには僕がゼロの代わりをしていることを知っている。なのに二人きりの時でも、話しかけてこなかった。
なんてことだ!そういうことだったのか!!だから食堂でカレンの前にあんな人だかりが出来ていたんだな!?多くの女性団員に囲まれて冷やかされていたのか!恥ずかしくて目を逸らしてたんだな!?
『今日、ライ副司令はお休みですよね?』ってそういう事だったのか!!
ああ、なんたる失態!
C.C.に一瞬でも気を許すんじゃなかった!僕に気を遣うなんて二の次だったんだ!ちくしょう!C.C.の性格をちゃんと理解していたのに!何故気づけなかったんだ!?
ルルーシュが複雑な表情で僕に声をかける。
「……ライ。すねるな」
ルルーシュ!なんだその顔は!僕を憐れむ気か!?
僕はすねてなどいない!ムカついているだけだ!自分に!
「さて、雑談はこのくらいにして本題に入ったらどうだ?時間が詰まっているんじゃないか?」
顔を見合わせる僕たち。
…まさか、C.C.に主導権を握られるとは。
敵わないな。僕とルルーシュでは。この魔女に。数百年生きてきたのはやはり伊達じゃない。
0165創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:27:36ID:fQPmbK6p誤字報告
少々熱苦しい → 少々暑苦しい
0166創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:28:25ID:dtQvlL/A0167POPPO
2009/03/01(日) 02:29:48ID:+ZWAjzRR「…状況はどうなっている?」
「リアルタイムで君のパソコンに送っているはずだが?」
僕は空になったカップをテーブルに置いた。緩んでいた顔を引き締める。ルルーシュも先程とはうって変わって真剣な表情だ。
「そういう意味ではない。ブリタニアとの衝突は避けられないのか?」
「これを見てくれ」
僕はリモコンでモニターを展開させて、今まで放送されたブリタニアの報道が流れる。
式典以外のニュースを排して、ルルーシュに見せた。
彼の表情が一層険しくなった。握り拳がベッドにあるテーブルに叩きつけられた。
ドンッ!
「馬鹿かっ!!ブリタニアはっ!」
「…最初、僕も言葉が出なかったよ」
それは歪曲された報道だった。軍の息がかかった情報局が、軍に都合のいい情報に作り替えられるのはブリタニアでは日常的なことであって、騒ぐほどのことではない。
しかし、今回はあまりにも常軌を逸していた。
ユーフェミアが『ゼロ』が撃ったことは数万人という日本人とブリタニア人が目撃している。その上、TV局がその瞬間を捉えていた。今や日本中が知る事実だ。
だが、ブリタニアの情報局ではユーフェミアの発砲は無かったと報道し、それどころかゼロが今回の事件の黒幕であると、『新日本党』の鬼頭の発言が大きく取り上げられていた。
これでは日本人に怒りを、ブリタニア人には不信感を買ってしまう。
皇族と軍の情報局の癒着、それを顕著に表わすものでしか無かった。
犠牲者は『新日本党』の爆弾と、KMFの交戦によって五〇〇〇人に上っていた。
「ディートハルトに情報操作をしてもらっていたんだが…」
「ウイルスが仕組まれていたんだろ?確かEUで開発されていたという…」
「それで黒の騎士団のネットワークは一時的に潰されてしまった。完全な状態に戻るまでは時間がかかると言っていた。その間にこんな報道が行われてしまったんだ。これは『新日本党』の…」
「『新日本党』…!口にしただけでも虫唾が走る!」
ルルーシュが苦虫を潰したような顔をした。
「…事件以来、スザクと連絡が取れないんだ。学園にも来てないらしい。…ユフィが、あんなことになって…もう行政特区日本は」
「ライ…それ以上は、言うな」
「…ああ、すまない」
沈黙する僕とルルーシュ。静寂が広い書斎を支配した。C.C.がピザを食べる音だけが聞こえる。
互いに次に繋げる言葉が見つからなかった。
その静寂の中、ジュースを喉に流し込んだC.C.が無表情で言葉を発した。
0168創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:30:24ID:QRLrdJV30169創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:30:54ID:fQPmbK6p0170POPPO
2009/03/01(日) 02:31:00ID:+ZWAjzRRルルーシュ。お前が指揮をしたとしても結果は変わらなかったと思うが?」
僕とルルーシュはC.C.の顔を見つめた。彼女にしては意外な言葉だった。
フン、と鼻を小さく鳴らしたルルーシュは頬杖をついた。
「今、各地で起こっている衝突はもうすぐ終わる。ただ、国境が完全封鎖された。海外の支部から増援を送っても防衛ラインで激戦になって戦力が無駄に削られるだけだ。
日本にいる戦力だけで租界を落とすしかない。あと40時間で十分な戦力が整う。ブリタニアの援軍が到着する五日後までに決着を着けなければならない。
ルルーシュはそれまで体を休めておいてくれ。僕は『蒼天』で前線にでる」
「…分かった。幸い、内臓は傷ついていないからな。明日まで大人しくしておくよ。それに、決戦時にお前がいないと士気が下がる」
「そこまで大した存在じゃないよ、僕は。でも、ルルーシュ。もし傷が痛むのなら決戦の時も僕が『ゼロ』を演じようか?」
「それは困る。ベッドにいるのはもうウンザリだ。今からでもその仮面を返してもらいたいくらいだよ」
ルルーシュは冗談交じりに言ったが、僕はそれを少し鋭い口調で制した。
「怪我を甘く見るな。僕の時代では、銃で腹を撃たれたらまず助からなかった。いくら医学が発達しているといっても油断はするなよ。君に何かあったら皆が悲しむ。僕も、どうかなってしまう」
ルルーシュは僕の真剣な表情を見て、目を見開いていた。そして、すぐに表情が柔らかくなる。
「…ああ。分かった」
「分ってくれれば、それでいいさ」
僕たちは微笑みあった。それを見ていたC.C.も微笑んでいるようだった。口にケチャップをつけたままというのがいただけなかったが。
時刻を確認する。そろそろ幹部の作戦会議が始まる。
C.C.に濡れたフェイスタオルを手渡した。汚れた手を口元を拭いて、また僕に返してきた。C.C.らしい。
ピザの箱を片付け、テーブルに置いてある書類をまとめているとルルーシュが低い声色で僕に話しかけてきた。
僕は顔を上げる。
「何だい?ルルーシュ」
「…見つかったのか?例の女は」
その言葉に僕は目を細める。
「ああ、見つかったよ。アッシュフォード学園の中等部に、一人当てはまる人間がいた」
僕は手元にある一枚の書類を手渡した。
ルルーシュはその用紙を見て、表情が険しくなった。
其処に載っているのは、彼女の経歴と青い長髪を持つ可愛らしい少女の写真。
それを眼の端に捉えながら、僕は言葉を紡いだ。
「リリーシャ・ゴットバルト―――――――あのジェレミアの妹だ」
0171POPPO
2009/03/01(日) 02:31:53ID:+ZWAjzRR気付いたらもう夜だった。
私は隠れ家にしているアパートに閉じこもっていた。
パソコンを叩き壊して、血塗れになった服を投げ捨てて、下着を着けたままでベッドに蹲っていた。
電気もつけず、部屋は暗い。月の明かりだけが部屋に照らしていた。
シーツは汗や唾液で汚れ、部屋は散らかっていた。壊れたパソコンに拳銃。バッグや変装用のカツラ。化粧品もばらばらに散乱している。あのメガネも叩きつけて、どこにあるのか分らない。
体中が軋んで、足を少し動かすだけでも激痛が走った。
もう何もしたくない。
もう何もできない。
ここに帰ってきて眠り込んだ私はすぐに起きてしまった。
悪夢を見たからだ。
私がアンの首を絞めて、息の根が止まるまで絞め続ける夢を。
寝ようとするが、その度に悪夢を見た。
逃げる子供の背中を容赦なく撃つ夢を。
KMFで親子を踏み潰す夢を。
軍人が拳銃で自分の頭を撃ち抜く夢を。
ナイトメアのライフルで人間を撃って、肉片が吹き飛ぶ夢を。
仲間同士がナイフで刺し合う夢を。
自分で自分の腹を刺してその腕が止まらない夢を。
そして、ライ先輩が私に銃口を向ける夢を。
何が本当にやったことで、どれが私の妄想なのか。区別がつかない。
悪夢が見るのが怖くて、眠ることができなかった。
『力』を手に入れたあの日から始まった非日常。
特別な人間だと慢心していた。輝いていたと思っていた日々が、醜くて、血に濡れた、狂気に満ちた世界に思える。
(ああ、やめて!やめてよ!いや、いやあ!!)
爪を立てて、痛みで何も考えないようにしないと。
鼻につく血の匂いと、燃え盛る炎でむ淀んだ空気。腕に反動が来ると共に、目の前で人の顔がはじけ飛ぶ瞬間。耳に響く悲鳴と銃声、爆音。
その全てが脳裏にこびり付いて離れない!!
あの式典で味わった光景が。感触が。匂いが。感情が。私の五感を震わせる。
もう、いや!いやあ!
やだやだやだやだやだ!聞きたくない!感じたくない!味わいたくない!
怖い!こわい!こわい!
撃ちたくない!殺したくない!命令したくない!いや!いやあ!
思い出したくないよ!いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだあああああああ!!
その時、ドアの前で音がした。
0172創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:33:13ID:fQPmbK6p0173創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:33:30ID:dtQvlL/A0174POPPO
2009/03/01(日) 02:33:32ID:+ZWAjzRR(誰か来た!)
胸に氷が突っ込まれたように心臓が跳ねあがる。それと同時に体中が震えだした。
私を、殺しに来たんだ!私を!私を殺しに来たんだ!
い、いや、死にたくない。死にたくない!死にたくないよおおっ!!
目を動かして、床に転がっている拳銃を発見した。
私はベッドから倒れこむように拳銃を掴む。受け身も取れず、強く胸を打ちつけた。
「…いぎっ!」
全身に激痛が走る。どの痛みが体を打ち付けた痛みで、どの痛みが重度の筋肉痛か分からない。体が仰向けになったまま、ドアに向けて銃を構えた。
その時、右腕の筋肉が肉離れを起こす。
引きつった痛みで右腕がまっすぐに伸びたまま動かない。
「…ああっ、はあっ!!」
震える左手で銃を持ちかえた。
キィィィと、音を立てて扉が開いた。
廊下は明かりが付いていて、逆行で顔が見えない。
ひっ、人影が見えた!
私の心は恐怖に染まる。
声にならない叫びで私は引き金を引いた。
「…あ、あああああ、ああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ドンッ!ドン!ドンッ!ドドン!ドン!ドンッ!
何かが割れる音共に、『誰か』が壁に吹き飛ばされた。壁に寄りかかった『誰か』に、私は容赦なく撃ち続けた。
かち、かちかち、かちかちかちカチッ…、
弾が切れても、私は引き金を引き続けた。
「ああ、ああああ…はあっ、はあはあ、あ、あっ、あああああ…」
乱れた呼吸を整える。開ききった眼で、私はドアの先で倒れている人間を見た。
廊下は明かりがついていて目が眩んだが、壁にはいくつかの穴とべったりと血がこびり付いているのが分った。
倒れている人間は身動きをしない。
死んだ。
「ひひっ…は、はは、ははは。……ひっ、やった」
安堵するのも束の間、式典での凄惨な光景が脳裏に蘇った。
急に胸から込み上げてきた。
「ううっ、うええええっ、ごぼっ、おええええ、おうえええええっ!!」
吐いた。
医に溜まっていたキツネ色の物体を床に零した。
脳を貫くような痛みが全身を刺激するので、嘔吐を繰り返すたびに苦しい。
それでも吐いた。
吐き続けた。
ビチャビチャと、水が叩きつけられる音が部屋に響いた。
「おっ、おええええっ、ごぼっ、ごばっあ!あっ、あっ、あはああ!ぶっ、ぶりゅあ」
嘔吐を繰り返して、やっと口から出るものが無くなる。
鼻水と唾液をだらしなく零して、前を見た。
目の前には動かなくなった死体があった。
しかし、その死体がむくりと立ち上がった。
0175創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:34:22ID:dtQvlL/A0176創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:34:59ID:jro5dovc0177創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:35:10ID:jro5dovc0178創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:35:16ID:fQPmbK6p0179創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:35:26ID:jro5dovc0180創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:35:47ID:jro5dovc0181創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:37:39ID:jro5dovc0182POPPO
2009/03/01(日) 02:40:39ID:+ZWAjzRR「―――――――――――ひえ、ひっ、ひいいいいいいいいやああああああああ!!!」
床を這いずるように私は後ろへと後ずさる。
床に転がっていたマニキュアや鏡を蹴とばして、銃を握り締めたまま必死に距離をとった。
壁に背中を当てた。
顎が震えて、声が出ない。
体が悲鳴を上げているが、それでも生への執着がその痛みすら凌駕する。
何で?
何で動けるの?
あれだけ体に撃ち込んだのに、なんで生きてるの?
何で、平然と立っていられるの?
なんでなんでなんでなんでなぜ何故何故何故何故!!
「あーあ。服が血まみれになっちゃった。やり過ぎだよ。リリーシャ」
立ち上がった死体から、拍子抜けする子供の声が聞こえた。
眼が少しずつ光に慣れてきた。
「あ…ああ…あ、あああ、ああ…」
よく見知った顔だった。
肩まである綺麗な白髪に、整った容姿。
右目は黄金、左目は深緑の左右非対称の瞳。
青色の煌びやかな服が、血と水で濡れていた。
「水とシュークリームを持ってきたのに、これじゃあ駄目だね。あ、でも、冷蔵庫に肉まんを買ってきたから食べなよ。リリーシャ。3日も何も食べてないでしょ?」
眉間から流れ出る血を拭いながら、X.X.は私に優しく微笑みかけた。
その笑顔を見た私は、視界がぼやけてしまった。
手で床の上を進んで少年を抱きしめた。
小さくて華奢な体に、ほのかな温もり。
その体温を貪るように私は腕を少年の体に巻きつけた。
荒みきった心に一滴の水が沁み渡った。
私の中からせき切ったように、凍てついていた感情が溢れ出してくる。
「ああ、ああああああっ!!え、えええっ、えっくす、つー!X.X.!!どこ行ってたのよおおおっ!!」
X.X.は私の乱れた髪を優しく撫でてくれた。
余計に顔が歪んで、大粒の涙が頬を伝う。
「わ、わたし、寂しくて。さみしくてえっ!怖かったんだからああ!!」
「そっか。ごめんね。リリーシャ」
X,X,の声が私の心に深く沁み渡る。
あまりの心地よさに私は危うく忘れるところだった。
「ねっ、ねえ!X.X.!!私、これでいいよね!貴方の願い、叶えられたよね!?だから、これ以上、私、人を殺さなくていいよね!?ね、そうでしょ!?」
「もう、リリーシャったら。こんなに汚れて。髪もパサパサじゃないか。お風呂にも入ってな…」
「話を逸らさないでっ!!」
0183POPPO
2009/03/01(日) 02:41:47ID:+ZWAjzRRなんで、なんでいつも通りなの!?貴方は。
私がこんなに苦しんでるのに!
「答えてよ!貴方の願いはこれで叶ったでしょ!?これでブリタニアとイレブンとの間に争いが起こる!多くの血が流れる!ただの争いじゃない!そう、もうこれは『戦争』と呼べる規模で!」
唾がX.X.の顔にかかるが、私はそんなことを気にも留めなかった。
「貴方の願いは、『この地で戦争をもたらすこと』
そうでしょ!?もう、貴方の願いは叶った!私が叶えてあげた!だから、だからああ!!」
私の手はX.X.の顔から、肩へとゆっくりと落ちていった。
そして、X.X.は笑顔で私にこう言った。
いつも私に見せてくれた笑顔で。
「だから、今日はお別れに言いに来たんだ」
「…………へ?」
一瞬、何を言われたのか、理解できなかった。
「じゃあね。リリーシャ。短い間だったけど楽しかったよ」
X.X.は私の瞳を見つめた。
そして、端正なX.X.の顔が邪悪な笑顔に歪む。
彼女はこの世で初めて、『悪魔』を見た。
X.X.は私の肩を抑えつけた。
少年とは思えぬ強い力で。
私は心が色んな感情でぐちゃぐちゃになってた。
「…ねえ、X.X.……冗談でしょ?」
彼の左目が深緑から銀色の瞳に輝いた。
「…ねえ、やめて。やめてってばあ!」
その瞳に宿るのは銀の紋章。
紋章が大きく羽ばたいた。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
0184創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:42:06ID:fQPmbK6p0185創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:42:19ID:jro5dovc0186創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:42:38ID:jro5dovc0187創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:42:49ID:jro5dovc0188創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:42:56ID:dtQvlL/A0189創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:50:26ID:j9UkQaCx0190創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:52:42ID:j9UkQaCx0191POPPO
2009/03/01(日) 02:55:46ID:+ZWAjzRR『――――――――――うぐっ!』
幹部の会議中に、ゼロの仮面が揺れて頭を抑えた。
ゼロの異変に気付いた黒の騎士団の幹部たちが声をかける。
「ぜっ、ゼロ!ご無事ですか!?」
「ゼロ!大丈夫か!?」
「おいっ!まさか、撃たれた傷がまだ痛んでじゃねえだろうなあ!?」
僕は仮面ごしにカレンの表情を捉えた。
彼女は僕を心配して、瞳に涙すら溜めている。
(ありがとう。カレン)
心で感謝して、幹部の面々に言葉をつづけた。
『心配をかけてすまない。ただの睡眠不足だ』
「…しかし、やはり過労がたたっているんじゃないのか。ゼロ。いくら軽傷とはいえ、十分な休息をとる必要があるぞ」
『藤堂。君の気遣いには感謝する。しかし今は一刻を争う。その会議済み次第、私も休眠を取る。心配するな。…では、卜部。トウホク支部での状況報告を頼む』
「…ああ、分かった。では続けるぞ」
0192創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:56:18ID:dtQvlL/A0193創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 02:56:33ID:fQPmbK6p0194創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 03:09:54ID:fQPmbK6p0195創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 03:12:57ID:dtQvlL/A0196創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 03:13:54ID:e2opsEt00197POPPO
2009/03/01(日) 03:25:14ID:+ZWAjzRRトウキョウ租界にある政庁の司令室。
そこではオペレータの大きな声が飛び交っていた。
『キュウシュウ本部が陥落しました!生き残った兵士は捕虜となっているようです!』
『シコク、チュウブ基地との連絡が途絶えました!相手は黒の騎士団で間違いないようです!』
『緊急入電!ミヤギでのクルツリンガー卿の編成部隊が全滅!エアハルト卿も撤退を開始しました!』
『定期連絡です。現在、トクシマでブリタニア軍と黒の騎士団が交戦中!増援の要請が出ています!』
次々と報告されるブリタニア軍の敗走に、コーネリアは唇を噛み締めていた。
「くそっ!戦闘の展開が早すぎる!これもゼロの仕業かっ!」
他の武官たちがコーネリアの声を聞いて、言葉を噤んでいた。
その中で、彼女の後ろに立っている選任騎士、ギルフォードが言葉を発する。
「コーネリア様。ここは残存する兵力をこのトウキョウ租界に集結させるべきかと。いずれゼロは時期にこのトウキョウ租界に攻めてくるでしょう。
ダールトン参謀長もグラストンナイツを率いてこちらに向かっています。トウキョウ租界を陥落させることがゼロの目的です。ここを5日間死守すれば本国からの援軍が到着し、我々の勝利です」
「分かっている!しかし、何としてでもシズオカにある本部を早急に抑えねばならん!ここは…」
「旗色は悪そうですね?コーネリア皇女殿下」
聞きなれた声にコーネリアは後ろを振り返った。彼女の顔は驚愕に染まった。
「エ、エニアグラム卿!?」
そこにいたのはコーネリアの師でもある女傑。引き締まった肉体に端正な顔立ち。
白い服装に紫色のラウンズのマント。
「なっ!?まさか、ナイトオブラウンズ!?」
他の武官が声を発した。
その声に司令室にいる人々も動きが止まる。
「潜水艦『グラム』で、ただいま到着しました」
コーネリアの前で彼女は会釈をした。
「エニアグラム卿。こんなに早く来てくれたのですね!これで我が軍の士気も上がりましょう!」
コーネリアはノネットの手を掴むと、顔を綻ばせた。
ユーフェミアが無くなって自室に閉じこもっていたと聞いていた。
目もとにはまだ、跡が残っている。
しかし、表面を取り繕えるだけでも、彼女は十分だった。
「殿下。実は。助っ人を連れてきましてね。まあ、助っ人というには強力すぎる戦力かもしれませんが…」
「…助っ人ですか?」
ノネットの言葉を聞いたコーネリアは少し首を傾げた。
しかし、彼女の後に入室してきた人物を見て、コーネリアは言葉を失った。
「お久しぶりですね。コーネリア様。ロシア戦線からの寄り道ということで陛下から許可が下りました」
ノネットに続いて、一人の男の声が聞こえた。
「あ、貴方はっ!」
その人物を見るや否や、ギルフォードが驚愕の声を上げた。
それだけではない。コーネリアも他の軍人たちも思わぬ来客に目を見開いていた。
ノネットと同じく、白い軍服を着た男だった。
オールバックの黒い髪に、貴族の威厳を示すような黒の髭。緑色の瞳に宿す鋭い眼光。2メートルを超える巨体に、服の上から分かるほどの強靭な体躯。
ラウンズのみが許されたブラウン色のマントを身に纏った男であり、騎士を名乗る者なら誰もが知りうる人物。
コーネリアも彼の姿を見た時は言葉を失っていたが、すぐに不敵に口を歪ませた。
「…確かに、助っ人と言うには強力すぎます。黒の騎士団を抑えるどころか、息の根を止めることができましょう」
「当然でしょう。そのために私たちは出向いたのですから」
彼の低い声が司令室に木霊した。力強く、重圧のある彼の言葉。それだけでブリタニアの士気が高まっている。コーネリアは二人の人物に会釈をした。彼女にしては珍しく嬉々を含んだ声だった。
「ようこそ御出で下さいました。ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム卿。ナイトオブツー、セルゲイ・サザーランド卿」
0198創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 03:25:51ID:dtQvlL/A0199創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 03:26:59ID:fQPmbK6p0200POPPO
2009/03/01(日) 03:33:11ID:+ZWAjzRR皆さんには感謝してもし足りません!!
これで(後編1)
終了です!
感想、いくらでも待ってます!
それでは!
ID:fQPmbK6pさん。誤字報告ありがとうございます!
誤字報告
少々熱苦しい → 少々暑苦しい
159。ライの話の途中。
0201創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 03:37:22ID:dtQvlL/A更なる激動、それと共に未知なる存在であるナイトオブツーの参戦。
X.X.の目的、そしてライ達が向かう先。
続きが気になる次回の投下も楽しみにしております、GJでした!
0202POPPO
2009/03/01(日) 03:38:01ID:+ZWAjzRR197
ユーフェミアが無くなって→ユーフェミアが亡くなって
訂正お願いします!
0203創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 10:30:25ID:gekdeDt/POPPO卿、GJでした!
オリジナルが増えてきましたね。
しかし、このX.X.の言葉は……
リリーシャどうなっちゃうんでしょう。
戦争が、始まる、のか?
むぅ、ドキワクだね。
貴公の次の投下を全力を挙げて待たせていただきます!
0204創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 21:54:15ID:dtQvlL/A前書き・本文・後書き合わせて12レスです
0205創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:00:49ID:BE9a/SNt0206ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:10:02ID:dtQvlL/A今回は前日譚の第2話ですよ〜
【タイトル】コードギアス 反逆のルルーシュR2 RADIANT WORLD
【ジャンル】シリアス(長編)
【警告】ギアス篇&黒の騎士団篇の合いの子ルートの
ギアス篇ENDからスタートしています
R2の豪快なifルート&オリジナルのキャラ&メカが
登場しますので苦手な方は御注意下さい
0207ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:11:35ID:dtQvlL/A空虚な想いを重ねながら描いた様々な欠片。
それを必死で拾い集め彷徨っても掌から綺麗にまた落ちていく。
築き上げた日々はもう帰ってはこない。
そうして喪う事にも慣れていくのは心が閉じていくからなのだろうか―――――
UNDERGROUND SIDE
『―ORDER:円卓の騎士』
シャルルとV.V.との密約から数週間。
ライはある女性の下に身を寄せている。
ナイトオブラウンズ、神聖ブリタニア帝国が誇る最強の十二の騎士。
その最高位の称号の九番目の席を預かる女性、ノネット・エニアグラム。
それが彼を預かる女性の身分だ、そして彼女は辺境ながらも領地を持っている。
ラウンズの中には名門貴族が何人かはいるが領地を持っているとなると話は別だ。
彼女以外では今現在のナイトオブワンたるビスマルクしか持っていない。
歴史を紐解いてもこの様な異例は稀だった。
その彼女が預かる領地はブリタニアの辺境にある、その領地内にある屋敷の庭で彼はラジオに耳を傾けながら剣を振るっていた。
『続いてのニュースはテロ組織、黒の騎士団に関する情報です。逃亡を続けている―――――』
(これで主要の構成員はほぼ捕まったか……出資者は見せしめに処刑、やはり手慣れているな)
彼は逐一情報収集しながら状況の整理をはじめていく。
C.C.を捕獲したいというシャルルとV.V.の言葉にライは黒の騎士団の存続を主張した。
それ自体については滞りなく通ったのだが、出資者である桐原爺含むキョウト六家を処断するのは止められなかった。
幸いにも皇神楽耶は存命した様だが、資金源等を失ったのは痛手でもある。
それでも、その中でシャルルとの契約の折に随分と融通が通った事が彼にとっては意外でもあった。
『C.C.の捕獲は一任しよう、好きにするがよい』
(何を考えているのやら……)
訓練用の木剣を一陣の風の様に舞わしてからの横薙ぎ一閃。
その剣先に出ているのは恐れ、迷い、不安。
剣は心を映す鏡、そんな言葉が彼の脳裏を掠めた。
昔日の彼に剣技を教えた者の言葉。
その言葉を知る彼女は窓から見える彼の光景を気だるげに見つめていた。
「おはようございます、今日もお早いですな」
「ああ……あいつはいつもあれをしているのか?」
「毎朝仕事が済めばしておりますな。いやはや、若いながらにしっかりしておられますぞ?」
「そうか……」
特に興味がないわけでもない、ただ億劫な気分で彼女は答えている。
起きてから終わるまでガウンのままでただ眺めているだけ。
ここ最近の彼女の日課はこれだけだった。
後はただ椅子に腰掛けて日々を過ごす、そんな事の繰り返し。
ビスマルクはそんな彼女を諌めたがおいそれとも変わることはない。
彼女にとって親友であり尊敬する人物である女性はついぞ最近行方を晦ましたからだ。
そして、その彼女が大切にしていた妹はこの世界にはもういない。
『エニアグラム卿、世話をして貰いながらすまないと思っている』
「復讐、か……その相手はもういないのではないのですか、コーネリア様」
「ふぅ……少しは本調子になってきたな」
体のストレッチをしながらライは自分の予定を組み立てていく。
今日は帝都ペンドラゴンに出向く日、勿論ノネットの付き添いという名目。
しかしそれが果たされた日は今のところ一度もない。
(今日も一人だろうな、動き易くて助かるが……)
0208ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:13:02ID:dtQvlL/A数週間の間、食事時以外で会話の一つもない関係。
(団員達が苦労をしているかと思えばこちらはVIP待遇か、因果なものだな……)
ストレッチを終えてタオルで汗を拭き取っている彼の耳にゆっくりと近づく足音が聞こえてくる。
「終わりになられましたかな?」
「ええ、ジョンさんも終わりになられたんですか?」
少々しわがれた声ながらも優しげに彼へ話しかけてきた老人、ジョン・ウエストウッド。
代々エニアグラム家に仕えている家系らしく彼も同じ道を選んだそうだ。
彼の仕事は執事、所謂バトラーであり屋敷の事柄を切り盛りしている。
「本日は出庁されるとの事、送迎は任せますぞ?」
「それは構いませんが……」
そしてライの苦手な人でもある、それは忘れている記憶の影響なのか。
彼にとって温和な老人というのがはじめてのタイプなのだろう。
それもあってか彼の老獪からくる口八丁手八丁に翻弄されるのが今の悩みだ。
その事をガレージに停めてある車を玄関前に移動させながら、同時にライは幾つかの悩みを思い浮かべる。
悩みの一つにはここに食客としている以上は人間関係を円滑に運ぶかどうかだった。
だが、彼は今もエリア11と呼ばれる日本の復権を願って戦いに身を投じた立場である。
そして今もそれは変わらない、だからこその悩みだ。
その考えも久々に袖を通したであろうスタイルに合わせて作られた純白のスーツを着用している女性によって阻まれる。
「待たせたな、帝都に向かってくれ」
「イエス、マイロード」
「ああ、それからその返事は止めろ。お前は客だろ、そういう細かい事は気にするな」
「はぁ……わかりました」
言葉を発したのはそれっきりでノネットは目的地に到着するまで黙って車窓の景色を眺め続けてた。
反応するのも時折通り過ぎていく領地内に居住している住人に手を振って応える程度に留めている。
その彼女の領地から帝都ペンドラゴンまでは車で約四時間という所だ。
車中での会話は目的地である特務庁に到着するまで一度もなかった、かといって空気が重たかったわけでもない。
お互いに話をする気分ではないというのもあるだろう。
同時に話題がなかったともいえる、それは互いに知らない事が多いからだろう。
「用が済めば連絡する、それまでは好きにしていいぞ」
「わかりました」
彼女が手に持っていた紫色のマントを羽織り特務庁へと入っていくのを見届けてから彼も行動をはじめる。
背中を突き刺す様に感じる気配、それを感じながら特務庁の駐車場に車を預けて向かう先。
ブリタニアのバイオニクス関連において一翼を担う研究機関へと向かう―――――
自分を待っていたであろう特務総監が執務室に自分を通してソファーに腰を掛けるように促す。
極々普通な対応かもしれない。しかし、ノネットにとってそれは些か腹立たしい対応だった。
勧めに反して彼女はデスクの前まで進み憮然と腕を後ろに回して、まるで新兵の様な構えを取って総監である女性を見据えた。
ベアトリス・ファランクス、ブリタニア皇帝の主席秘書官にして特務総監。
特務庁の仕事、要は皇帝や皇族近辺の警護担当であり付随してナイトオブラウンズを預かっている立場とも言える。
それを踏まえて、ノネットはここに呼ばれた理由について理解はしている。
電話一本『特務庁に来なさい』のみ、しかし腹立たしい理由はもっと別の事だ。
「呼ばれた理由はわかっているわね、ナイトオブナイン」
「ああ、わかっているさ」
「結構。ではKMFの改修案を近日中に提出して頂きましょうか、各機構の新規案についてのデータは―――――」
事務的な対応に苛立ちよりも呆れにも似た諦めの感情がノネットの神経を静かに逆撫でしていく。
だが、我慢する以外の術はない。いや、言うだけ無駄というのが正しいのだろう。
それがこみ上げてくる怒りを抑えるには至らないだけだ。
「その他の詳しい事は派遣される特派の技術者に。以上です」
「他に言う事は?」
「ありませんが」
「……本当にないのか?」
「ええ、それがなにか?」
0209ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:15:00ID:dtQvlL/Aそれを聞いて控えていた秘書達は即座に執務室へと入ったが、それ以上の侵入はベアトリスによる手のみで制された。
ただ両手を机の上に乗せたままベアトリスを見続けるノネット。
その胸倉を今にも掴みかかりそうな気迫を放っている背中に不安を覚えながらも秘書達は踵を返していく。
この二人になにかを言える人間はこの場にいない。しかし、仮にこの二人を制する事ができるであろう人物は皇帝だけだ。
つまり秘書達の選択は正しい、この二人の関係は上司と部下という言葉で括る事が出来ない事も含めて。
その二人だけの空間に漂う沈黙、殺気にも似た感情を眼に宿らせてベアトリスを見据えるノネットの貌。
彼女もわかっている、なぜそこまで問い詰めてくるのかを。
だからこそ応えない、応えられる事が出来ないから。
「……ブリタニアは世界の全てに対して今も戦争をしている、わかっているでしょうナイトオブナイン」
「ああ、だからユーフェミア様は死んだ。あれだけの事をすればナンバーズに討たれるのも当然の事だろうさ」
「その物言い、まるで私達が殺したとでも言いたそうですね」
「違うとでも言う気か? 笑わせるなよファランクス特務総監、ユーフェミア殿下はな―――――」
「ナイトオブナイン、貴方がそんな事では困ります。今も尚ブリタニアと世界情勢、そして国民感情も冷えてはいない」
「ちっ……心底呆れたよ」
ノネットが発した落胆の言葉、それは本意ではない。
彼女とてわかっている、ここでブリタニアが退けば遺恨を残し続けるだろうと。
同時に今のバランスを覆せば被害を被るのは富裕層ではない国民達だ。
軍事需要や貿易、各エリアとの物流で潤っているのは利権を持つ貴族のみ。
一般市民はその余りで生活している、この状態はブリタニアの歴史を振り返れば十分でもあった。
以前より続いていた平定されない国内情勢に疲弊した状況を一変させた功績。
それが現政権への絶対たる忠誠心を生んでいる。だが、その代償には他国が蹂躙される結果だ。
しかし、現ブリタニア皇帝であるシャルルが掲げた国是。それに付随する利益。
隙あらば我が物にしようとしていた他国、主に中華連邦とEUによる虎視眈々と狙われていた状況の打破。
結局のところ、ブリタニアには選ぶ道がこれしかなかったのだ。
だからこそどうしようもなかった皇族に絶対忠誠を誓う軍部の体制、それと共に行なわれるナンバーズとの区別。
その末路にユーフェミアの死、コーネリアの失踪が絡んでいる。
だが、情報の統制と操作によって歪んだこの事実は国民の感情を煽り更なる世界制覇へと進めさせられていく。
自国の民か、いずれ起きるであろう悲劇か。
ノネットの選ぶ道もまた、自国を護る方向以外にはない。
その幾つもの考えに自分を沈め、彼女は執務室を後にしようとするが―――――
「……エニアグラム卿」
「ふぅ……なんだ、ベアトリス」
「先程も言ったとおり情勢は現在ですら先の見えない状況、貴方がそんな事では国民も不安がります」
「わかっているさ、ナイトオブラウンズの名がただの飾りじゃない事も含めてな」
「それに私とて人の子です、痛まないはずがありません……」
「だが、いずれは向き合わねばならない事柄だろう? 政治は得意ではないが、いつかは必ず露呈するぞ」
「仮にそうだったとして、解決できる人間は一生出てこないでしょう。それを可能とするのは―――――」
「人ではないだろうな。それも当然か、世界の全てを巻き込んで戦争を起こすなんて事をするのは」
その言葉を最後にノネットが執務室を後にしてすぐにベアトリスは肩を下ろした。
彼女もわかっている、こんな事を続けていればいずれ破綻する。
退く道がないところにいるのは追い詰められていくナンバーズだけだとは限らないのだと。
「これで大丈夫なのか?」
「肉体面の問題は全てクリアしてあります、後はどうとも言えない状況でして……」
「そうか」
投薬と検査を終えて体の動きを軽くチェックしているライを不安な表情のままで見つめるバトレー。
自分が誰を肉体改造したのか、その事実に震えながら彼は少年を見続けた。
「脳はどうだったんだ?」
「一部に謎の腫瘍があります、CODE-Rの物と酷似しておりますが未知の腫瘍ですので……」
「摘出はできないのか?」
「何分脳の中心部ですので……今の医療技術では不可能です……」
0210創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:16:16ID:fQPmbK6p0211ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:17:02ID:dtQvlL/A問題はこれがどれだけのリスクを生むかどうかだ。
「……ところで」
「はっ、なんでしょうか?」
「その話し方はどうにかならないのか? 以前はそんな口調で僕に話しかけなかっただろう?」
「そ、それは……」
「僕が皇族の血筋だからか? その人間の体を好き勝手に弄った事を咎められるのが怖いのか?」
「うう……」
「余計な心配だな、僕自身にはもうわだかまりはない。だからもう少し楽にしてくれ、これじゃ聞きたい事も聞き辛い」
わだかまりはない、少なくともライ自身はもう解消している。
腹立たしくはないと言うのは嘘になるかもしれないが、少なくとも済んだ事をいつまで言い続けるのは趣味ではないのもあるだろう。
そして、そんな事に執心していられるほどの余裕もない。
腫瘍に関する事の簡易的な説明を受けてからライはそのまま駐車してある車の元へと戻ってきていた。
(データと比べて以前より大きくなっている、か。となればいずれは―――――)
死亡、もしくはそれに近い事が体に起こる。
それがバトレーの見解と医学的見地を合わせた診断結果だった。
目覚める前に見たC.C.の記憶、そこで出会ったはずであろう人物。
(なぜ思い出せないんだ……なにかを聞いたはずなんだが……それされわかれば―――――)
「おい、こんなところでなにをしている」
「ん? ここで待っているだけだが」
「見かけない顔だな、それにお前―――――」
「貴様ハーフだな、ハーフが特務庁になんの用だ!」
(まったく……教育が行き届いているのは結構だが少し横暴過ぎるだろう、これは)
数人のブリタニア軍人、それもKMFのパイロットであろう士官の服装。
揉め事を避けたいライはあれこれと言葉を続けるが相手に聞く耳はない。
そのまま胸倉を?まれる形になったのだが―――――
「あら? エニアグラム卿、お久しぶりですね」
「モニカか? お前も呼ばれていたのか」
「ええ、KMFの改修案を出して頂けるかしらってファランクス総監に」
ノネットはモニカが声をかけるまで見ていたであろう窓の外に視線を向けると、自分の運転手が軍人に絡まれている姿を見つける。
モニカが男性に興味があった事にノネットは驚いたが、それ以上に次に飛び込んできた光景に彼女は驚愕した。
ライの胸倉を掴んだ軍人が空に舞い背中から地面へと落ちて、その二呼吸遅れて飛び掛ってきた軍人全てを薙ぎ倒す光景。
拳、蹴り、投げ、言葉で表現すればありふれた物だ。しかし、その体の動かし方は―――――
「珍しい、と言うよりは変わり者のようですね」
「あ、ああ……あんな演舞用の武術を実戦で使う奴がいるとはな……」
「本当です。しかもフィアナ流といえば演舞者自体も少ないというのに」
流れる様に体を動かし、時に相手の力を飲み込んで返す。西洋剣術と体術の流れを汲むブリタニアでは珍しいどころか目にかかれない技術。
ノネットとモニカ、この二人ですら士官学科での映像教材でしか見た事がないものだ。
倒された軍人達は事態を飲み込まず、再度攻撃しようと立ち上がりライへと向かおうとする。
しかし、間に割って入っていく栗色の髪の少女を見て二人は茶番はもう終わりだなと結論付けた。
「さて、これ以上の騒ぎは御免だな。止めに行くか」
「エニアグラム卿の知人だったのですか? それでしたら面白そうですわね」
「興味があるなら話してみるか? 私もちゃんと話した事がないから丁度いい機会だ」
「お止めなさい! 貴方達もブリタニア軍人なら毅然と―――――」
「なんだ、グラウサム・ヴァルキリエ隊か? その割に見慣れない顔だな」
「新人だろ? おい、新人が俺達に文句を言おうってのか!?」
「ううっ……し、新人は新人ですが、それでも同じ軍人としてですね!」
「すまない、止めてくれた事は感謝するが……君が割って入ったから話が余計に面倒になっていると思うぞ?」
「えええええっ!?」
0212創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:18:17ID:fQPmbK6p0213ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:19:02ID:dtQvlL/A状況をややこしくした事もあるが、同時に少し懐かしい事もあった。
アッシュフォード学園にいた時に親しくしてくれた少女と似て明るく誠実なところに。
「戯れはそこまでにしておけ。そいつは私の預かっている者だ、なにか問題があるか?」
「ナイトオブナイン!? それにナイトオブトゥエルブまで!?」
「お、おい行こうぜ……し、失礼しましたっ!」
一応の敬礼だけをして去っていく軍人を眺めながらライはラウンズという名の重さをようやく理解した。
同時に疑問もあった、なぜエリア11で起きた黒の騎士団によるテロの際にすら出撃しなかったのかを。
「やれやれ。で、お前はルキアーノのところの新人か?」
「は、はいっ! マリーカ・ソレイシィですっナイトオブナイン!」
「はっはっはっ、ルキアーノの部隊員の割には元気だな」
「ええ、ヴァルキリエ隊は淑女が多いですから」
ノネットの後ろからついてきていた見覚えのない女性にライは疑問よりも警戒をしてしまう。
その身に着ているのはノネットと同じ純白のスーツに黄緑色の外套。
それだけで十分にわかる事実、彼女もまたナイトオブラウンズの一員なのだと。
「マリーカ、なにをしているの? もうすぐミーティングの時間よ、急ぎましょう」
「はい、リーライナさん。それでは、失礼します」
マリーカの先輩らしき金髪の女性に呼ばれて去っていく二人の姿をライは見届ける。
あくまで見届けているだけだったのだが―――――
「なんだ、惚れたのか?」
「それはありません」
「面白味のない奴だなぁ、そこで冗談の一つでも言ったらどうだ?」
「はぁ……彼女達はどこかの特殊部隊の所属なんですか?」
「ふふっ、特殊部隊ではなくてラウンズ直属よ。それもブリタニアの吸血鬼の、ね」
吸血鬼、というのが比喩か誇張された表現なのか。
些か似合わない異名に疑問を抱きながらもライは二人の言葉を待った。
できる事なら早く帰りたいというのが本音だからだ。
「そういえば自己紹介がまだでしたわね。私はモニカ・クルシェフスキー、ナイトオブラウンズのトゥエルブよ」
「ライです」
「その続きは? そういえば、お前の家名はなんなんだ?」
「聞かない方がいいですよ、色々と」
「面白い返答ですね、武術は誰に教わったのです?」
「その質問の意図を聞きたいですね、別段珍しくもなかったでしょう?」
ライの返答に二人はきょとんとして目を合わせて、その一呼吸遅れてノネットが大笑いした。
モニカもモニカで面白いのか、くすくすと笑っている。
「あれだけの事をしておいて珍しくもない、か。お前、面白いな」
「……僕は面白くないです」
「失礼。エニアグラム卿、どうやら陛下の客人は余程の人物みたいですよ」
「みたいだな」
そのままモニカは一礼して去ろうとするのだが、振り返り様に派手につんのめるのを見て慌ててライは受け止めた。
モニカが照れ笑いしながら礼を述べるのを見ながら彼の脳裏に一つの答えが出る。
ナイトオブラウンズは変わり者の集まりなのだろうと。
「ジョン、戻ったぞ」
「おかえりなさいませ。して、いかがされますかな?」
「とりあえず帝都のKMF工廠へ運搬させよう、オーバーホールも一度必要だろうからな」
「かしこまりました。ライ殿も務め、御苦労様でしたぞ」
「はぁ……ありがとうございます」
邸宅に帰宅してジョンによる出迎え。
変わらなかった日常に現れた変化、それはノネットが帝都に出向いただけでは終わらない。
この日を境に彼女はライとの肉弾戦・KMF模擬戦をしていく事になる。
一日も間を空ける事もなく、毎日毎日。
時には夜になっても止まる事もなく―――――
そんなある日、彼はジョンと話す機会があった。
0214創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:19:36ID:XE6ST8bf0215ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:21:02ID:dtQvlL/A「き、聞かないで下さい……見ればわかるでしょう……?」
「ほっほっ、随分と疲れ果てておりますな」
なにが入っているのかはわからない水筒を手渡され、彼は一瞬躊躇したが飲まないのも失礼だと考えた。
それに時間は既に幾らか経っているのに今更始末されるとも考えられないなと。
「当家のスタミナ飲料はよく効きますぞ。時にライ殿はまだ成人されていらっしゃらないようですな」
「それがなにか?」
「なに、老爺の戯言です。今は良いでしょうが将来の事を考えておられては?」
「未来について、か……自分の事に関してなら特には」
「それはそれは。ふむ、あまり急く事もないでしょうに」
「はぁ……」
「一度ノネット様に軍に入られた時の事を聞かれるが良いでしょう」
「そこはジョンさんが、とは言わないんですね」
「所詮は老いた執事、若人に説く言葉は知れども騎士たる者に説く言葉は知りえてはおりませんからな」
その言葉の意味、真意。幾らかの言葉を交わしてもライはこの老人がやはり苦手だった。
だが、言いたかった事を理解できないわけでもない。
実にシンプルなものだ、もう少し幸福を求めてもいいのではないかという問い。
しかしライにしてみれば失笑する他に術を知らない。
今更幸福を求めるなどと―――――
『―――――イ……生き……るのよ……』
「珍しいな、お前でも読書はするのか?」
「失礼ですね、僕でも本は読みますよ」
「そうか、それは悪かったな」
ライは食事を済ませた後、書斎で本を物色していた。
その手には一冊の本が収まっている。
彼は寝る前に読書をする、ここでの生活において日課になっている事の一つだ。
「ロマン・ロランか。父も母もよく読んでいたな、それは」
「そうなんですか。それにしても随分と節操のない蔵書ですね、ここは」
「私もそう思うよ。種類を問わずに集めていたみたいでな、私はたまにしか読まないからよくわからないんだが」
そう言いながら彼女も一冊の本を棚から引き抜く。
題名からしてブリタニアの戦記を記した書籍なのだろう。
それを訝しい顔で見つめたまま、その本を彼女は彼の方向へ向けて軽く振って見せた。
「……そういえばジョンさんに言われたんですが」
「ん〜なんだ?」
「ノネットさんが軍に入った時の話を聞けと」
ライの言葉にノネットああ〜などと言いながら頭を軽く掻いた。
少々の沈黙の後、彼を手招いて食堂にまで足を運び紅茶をジョンへ要求する。
その流れに彼は余程重苦しい話なのだろうと思わずにはいられなかった。
テーブルを挟んだだけの僅かな空白、少なくともそれは二人の距離の証明でもあるのだろう。
「知っているとは思うがブリタニアは随分と国内情勢が安定しなくてな―――――」
思い出すように彼女は言葉を続けていく。
ブリタニアが安定しない事、その中で現皇帝のシャルルが即位した時は荒れに荒れた事。
即位以降ではナイトオブラウンズの造反、その結果はラウンズの二人を残して事実上の崩壊。
その暗く重い時代の中で民衆の支えとなるマリアンヌという騎士の栄転と実力の草子。
「当時の私は子供でな、その話を聞いて……」
「それでどうしたんですか?」
「勢い余って士官学校に入った」
「……はっ?」
先程までの重苦しい声とは違い明るいトーンになったのを彼は思わず呆け面で受け止めてしまう。
しかもどこがどうなればそういう話になるのかも理解できなかったからだ。
0216創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:22:06ID:fQPmbK6p0217創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:22:47ID:XE6ST8bf0218ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:23:02ID:dtQvlL/A「あれはもう大変でしたぞ、先代のあの慌て様は未だかつてありませんでしたからな」
「当然でしょう……跡継ぎが急に軍へ入るなんて言い出せば……」
「それもそうなんだがな。だが、私はそれが嫌だったんだよ」
旧体制にも似た家名の存続を優先するよりも彼女は国を重んじた。
自分は辺境とはいえ貴族、民衆から這い上がり代表的存在になったマリアンヌが国に尽くしているのに自分は家を護るだけ。
その現状を彼女は認められなかった。
「私にとって世界なんてものは目に見える範囲の事だったからな、だからマリアンヌ様の話は驚いたよ」
「世界は果てしなく広い、といったところですか」
「そうだな、そういう表現が一番かもしれないな」
「この辺りの農夫方も先代の説得に参られましてな。いやはや、あの日は最高でしたぞ」
「最高、か。確かに最高の日だったな」
そう言って彼女は窓の外に視線を向けて邸宅の先に広がる領民の家を見た。
彼も続いて見た先では家には明かりが灯っており家族の団欒の時間なのだろうと見て取れる。
「ああ、本当に最高だったよ。エニアグラムの娘じゃなく、ノネット・エニアグラムとして生きられるという事がな」
「まるで子供が自立をしたみたいな言い方ですね、それ」
「そうだな。だが、世界はどこまで続いていると知ればそうも思うさ」
「無限の可能性を知った様な表現をしますね」
「そういう事だろう? 私はどこまでも進める、なんでもできるんだとな」
跡継ぎとして、結婚をして、子を生して、家督を譲って、そして老いていく人生。
そんな人生が嫌だったわけではない、ただそれ以外の道を知ってしまったのだと。
彼女は言いたかった、それは彼にとっては他人事にも等しい事柄でもあった。
「結果として世界を巻き込んだ戦争に加担してしまったのは後悔しているがな」
「辞めようと思えば辞められるでしょう」
「私にも誇りはある。それに自分で選んだ道だ、後悔はしても責任は取るさ」
窓へと向けた視線を彼に戻して真剣な眼差しで見た。
彼はまだ窓の景色に執心している、それを意に介さず彼女は言葉を発する。
「まぁ、要は誰にでも可能性はあるという事だ。勿論お前にもな」
「そう思うのはノネットさんだけですよ」
「その言葉を言った事、いつの日か後悔するぞ〜?」
「しませんよ、絶対に」
視線を変えず窓の外の景色を見続ける彼にこれ以上の言葉はない。
後は本人の意思だろう、そう思い彼女は席を離れた。
しかし、彼女は言葉の続きが腹の中にある。
今のまま強くなり続けても限界はいつかくる。
だが、もしその先を知った時―――――
「あいつ、マリアンヌ様よりも強くなれるかもな」
ライと帝都に出向いた日からノネットは少しずつ変わっていった。
塞ぎこむのを辞めて外に出てはライとの模擬戦にKMFの改修と精力的に活動している。
それにつき合わさせられているライは急なハードワークで最初は疲弊したが最近は慣れたものだ。
目覚めてから一ヵ月、彼は成長をし続けているが世界情勢に変化はない。
「いい加減、少しは動いてみるか……」
特務庁の駐車場でいつもの様にノネットを待ちながら彼は幾つかの行動を考えた。
手に入る情報は表面上の情報だけだ、つまりギアスに関する事は自身の身体についてしか知りえていない。
「こんなところで待っていたらまた問題が起きますよ?」
「ん? ああ、マリーカさんか。こんにちわ」
「こんにちわ〜ってそうじゃないです!」
相変わらず元気な子だなと思いながら彼は頭の中の考えを止めない。
ノネットと共に帝都に来てから感じる視線、その視線に対してアクションを起こすか。
それともV.V.の元に行きギアスに関する事の探りを入れるかだ。
0219創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:24:10ID:XE6ST8bf0220創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:24:15ID:fQPmbK6p0221ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:25:02ID:dtQvlL/A「はい、ナイトオブテンのKMFの改修案についての認印を貰いに来ました」
「直属部隊も大変そうだな」
「そうなんですよ〜それに新任のラウンズの資料も貰ってこいとか馬上試合の事も聞いてこいとか」
「そこまでくるとただの小間使いだな」
「ひ、酷いですっ!」
そのまま他愛のない話だけして別れたが、その間にライはアクションの一つを選んていた。
会話の間だけ強く感じた視線、自分を見ているという他者の意識。
見えないなにかを探るよりまずは身近な事柄を処理しようと―――――
「ちょろちょろ動いて……子供じゃないんだから」
少女は少年を追いかけた。
最初は高層ビルの屋上から見届けていただけだったが、そうも言っていられなくなった。
高層ビル群の中へと進まれて見失うの愚かしい。
そう思い人込みに紛れて少年を追い続けた。
その少年がビルの間に入り込んだのを見て追従したのだが―――――
「いない!?―――――」
「上にいるぞ―――――」
背後からの不意な衝撃と首と手を固められた勢いで彼女は地面に寝そべる形になってしまう。
両手は固められている、首もしっかりと極められている。
つまり彼女は完全に拘束され生殺与奪の権利を追跡していた少年に与えてしまったのだ。
「尾行をしていた割には無用心だな、路地裏に入っただけでなにもしないとでも思ったのか?」
「ど、どうやって……」
「簡単な事だ、追跡者が誰かわかっているならタイミングを見計らって視界から一瞬だけ消えてやればいい」
「路地裏に入ったのも……」
「ただの目晦ましだよ、本命は君だ」
ライは尾行している人間を特定してから路地裏に入った。
しかしただ入れば捕まえられるとも思わなかったのだ。
自分を尾行する可能性がある組織、ないしは人間。
それがギアスに関係する者だった場合、対策をしなければならない。
「ロロの能力、自分の能力、それを考慮すればこれがベストだろう?」
「だからって普通する……あんな台の上から飛んで……背後に回るなんて……」
「できるならする、可能だったら実行する、基本だろう?」
「あんたって……もしかして体力馬鹿……?」
既に力関係は明確だが、それでも悪態を続ける彼女に彼は呆れた。
だが敵対関係になるなら話は別だ。
「答えてもらうぞ、色々とな」
「その質問はナンセンスでしょ、私みたいな下っ端が知っていると思う?」
「期待はしていないさ、ギアスは持っているのか?」
「……ええ、持っているわよ。無理矢理与えられたのをね」
「無理矢理……だと?」
ライは予想の中になかった答えに対して困惑した。
自分の意志で望んだのではなく、他人の意志によって与えられたのだと。
「ロロもそう……誰が好き好んでこんな力なんか……」
「与えたのはV.V.か?」
「そうよ……勝手に与えておいて人を失敗作呼ばわり……」
「ちっ、よりにもよって……」
ライは少女の返答に苛立ちと怒りを覚えた。
自分で望んだのなら代償があるのは当然だろう。
しかしこの少女は無理矢理与えられ、更には危険を孕んだ代価まで払わされたのだ。
その返答に質問を続けるの止めて彼は拘束を解いた。
少女に対してこれ以上の行動ができる筈はないと。
0222ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:27:02ID:dtQvlL/A「……本気なの? 不利になっても知らないわよ」
「生憎と君達に怨みはない、それにこれ以上の行動はプライドが許さないからな」
「なにそれ?」
「V.V.が嫌いって事だ」
彼の返答に少女はきょとんとしてから思わず笑いそうになってしまう。
自分の行動と指示をした人間を嫌悪しているとその手下にわざわざ漏らしたのだ。
それは自殺行為にも等しい、それをさらりとしてしまった事があまりにも可笑しかったのだ。
「面白い事するんだ」
「そうか、僕は面白くはないんだがな」
「面白いわよ、それもすっごく」
「はぁ……まったく……それで名前は?」
「名前? アリスだけど」
「アリスか、覚えておくよ」
そのまま彼はアリスに追跡について色々と付け加えた。
自分を尾行をするなら隠れずに普通についてこいと。
それから自分を失敗作だと思うなと。
「細かい事はいずれ言う、とりあえずは以上だ」
「V.V.様に言うなとは言わないんだ」
「好きにすればいい。こっちもリターンはそれなりにあったからな、リスクは背負うさ」
そう言ってそのまま街の雑踏へと戻っていく彼をアリスは黙って見送った。
本当ならば追うべきだろう。
だが、彼の行動と言葉が発したか不思議な魔力は彼女を躊躇と共にこのままでもいいのだろう思ってしまう。
それはギアス嚮団という特殊な環境において存在しなかったものだからだろうか。
「世界には面白い人がいるんだね、ねえ―――――」
彼女は思わず空へ想いを伝えてしまう、懐かしい名前と共に―――――
特務庁の駐車場に戻ったライはノネットの姿を探したがまだ戻ってきていなかった。
随分と時間が経った筈なのだがと思いながら、彼は視線を右往左往させた時。
そこで場違いとも思える少女の姿を見つける。
しかし出で立ちはここにいて当然という姿だった。
カスタマイズされたであろう純白のスーツに桃色の外套。
(ナイトオブラウンズか、見たところナナリーと同じ年頃みたいだが……)
携帯を弄るのに忙しいのか、彼の視線に気付かず彼の前を通り過ぎようとする少女。
その懐から落ちた書類にも気付かず歩いていくのを見て彼は少女を呼び止めた。
書類を拾い少女に手渡そうとした時―――――
「書類、落としましたよ」
「……ありがと」
『っ!?』
彼の目の前にはフラッシュバックが起きて、少女は虚ろな瞳になっていく。
感じ慣れない意識の流入、感じ慣れた意識の遮断。
『僕達の計画は無かった事になってしまう―――――』
(ぶ、い……つ……)
『相も変わらず嘘吐きばかりよな、このブリタニアという国は。のう、マリアンヌ?』
(こ……う、て……いま……で……)
不意を疲れた衝撃に手に持っていた書類を落として彼は膝をついてしまう。
頭の中で鐘をがん、がん、と鳴らされたような痛みの中で見上げた少女の顔。
最初は虚ろな表情だったのだが、次に浮かべた表情は微笑だった。
0223創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:27:15ID:XE6ST8bf0224創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:30:15ID:fQPmbK6p0225ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:30:44ID:lIVAuCX5「こんなところでユーザーに会うなんてね。しかも、陛下に勝るとも劣らない程の力」
「なっ……ギアスを知っているのか!」
「知っているわよ、それも貴方よりも深くね。はじめまして、私の名はマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。聞いた事位はあるでしょう?」
「マリアンヌ、だと……!?」
砕けたガラス絵は元には戻らない。
願い続けなければ想いは色づかない。
王が繰り返すのは罪と罰。
それでも全てを背負わねばならない。
指の隙間から全てが堕ちていこうとも―――――
0226ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
2009/03/01(日) 22:31:17ID:lIVAuCX5まさかのマリアンヌ様早期登場に自分でビックリです
幸せに興味がなそうなライはどこまでも捻くれているのはよろしくないですね
アリスと絡んだりマリーカと絡んだりもして大忙しなブリタニアでの生活
その過程で何を知って何を決断するのか
その決断は本編でどう成って変化するのかが楽しみですね
では、次回の12話でまたお会いしましょう。失礼しました
0227創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:33:14ID:jro5dovc0228創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:33:28ID:jro5dovc0229創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 22:42:15ID:Cb8SWG3tマリーカやアリス、執事さんが今後ライにどんな影響を与えるのか、彼の体が抱える問題とは…気になります。
そしてこれが現在にどうつながるのか、次回を楽しみにしています。
0230創る名無しに見る名無し
2009/03/01(日) 23:54:28ID:gekdeDt/ぷにぷに卿、GJでした!
ブリタニアで多くの人と出会っていくライ。
色々なことが起こっていきますねぇ。
そしてマリアンヌ……この邂逅、どうなるのか……
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
0231創る名無しに見る名無し
2009/03/02(月) 01:59:37ID:u+AFTNqd面白かった!!
オレンジが生きていることを知っている読者としては
リリーシャの動機の「弱さ」は少し気になっていたところだったのですが
こうもきっちりひっくり返してくれるなんて。
スザクがどう動くか、ルルーシュの行末も気になる……
どう転ぶかわからないギアスらしさを持った作品、本当に楽しみにしています。
ぷにぷにさん
面白かったです。細部まで作りこまれていて読み応えがすごい。
ギアス編からのライが、自分で定めた分を守りながらも
ノネットと交流を重ねていく過程が良いなあと。
執事さんも素敵だ。マリーカやアリスたちとの絡み方も自然で、
あちこちにきっちりネットワークがつながっていく感じ。
続きを読める日を楽しみにお待ちしています。
あー面白かった。
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