低い雲が島京を覆い、通り過ぎていく風がやけに冷たく感じられる。
 煙草の紫煙が、吐いた煙が風にさらわれると雲間からぼんやりと澱んだ太陽が顔を覗かせた。
 曖昧な輪郭の影が、細く長く伸びる。その向こうから、ゆっくりと若い男、言うならば少年と青年と境目で立ち竦んでいる感じの男が歩いてきた。

「タバコはあるかい?」

「安物ならな」

「シケてんだな、アンタ」

「若いクセにタバコの味に拘るのか?」

 言葉を短くして交わし、ポケットからタバコを取り出し、男に渡す。が、投げ返される。

「どうした?」

「最後の一本を貰うのは気が引ける。今アンタが吸っているヤツをくれ」

「――変わってるな」

「アンタ程じゃない」

 短くなったタバコを渡すと男は上手そうに吸う。見ていて見惚れる程だ。

「で、お前はこんな辺鄙な所にタバコを吸いに来たのか?」

「まさか。アンタに会いに来たのさ。何でも屋のΞだろ?」

 男は笑いながら答える。たが、その瞳は決して笑ってはいない。
 どちらかと言えば、俺を値踏みするような眼だ。

「ああ、その通りだ。で、誰に俺の事を聞いた?」

 俺がクェーカー、つまり企業に雇われる傭兵――と言うよりは仕事屋である事を知っている人間はは少ない。
 目の前のコイツはちょっと悪ぶった感が強いが、どう見ても一般人にしか見えない。
 要するに、誰かが俺の事をこの男に教えたという訳だ。
 クェーカーである事を他言されるのは今後の仕事に差し支えがあるから、おしゃべりな奴には口にチャックをして貰う必要がある。

「あ、ああ……。ゼロゼロっていう情報屋だ。女だったぜ」

「――心当たりはないな」

 懐に手を入れて銃に手を掛けると、男は顔を歪めた。

「嘘じゃない! 本当だ!0が二つでゼロゼロだ」

 ゼロが二つで00。それなら心当たりはある。

「若いの、そいつはゼロゼロじゃなくてラブラブ――タチの悪い情報屋だ」

 懐から手を話すと、固まっていた男の相好が崩れる。