皆でキャラ考えて『島京』で動かそう!なスレ
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0001名無しさん@お腹いっぱい。
2008/09/16(火) 21:49:22ID:6Wl+VC3Sそこで暮らすキャラを各自で作り、それぞれに動かして、時には絡めて、皆で一つの物語を作っていこう!
という企画
1.世界観みたいなもの
西暦2173年、第三次世界大戦勃発
その最中、日本に新型戦略兵器が投下され東京一帯が消滅
同都市所在地は海面下まで地盤が吹き飛び、東京湾から海水が大量に流入。水没して海と化す
西暦2175年、海外にも名を轟かせる国内企業数社が結託し、日本政府から東京跡地を買収
企業連は様々な技術の研究開発を目的とした大型研究施設建造計画を進め、同地に巨大な人工浮島を建造
この新造島は複数企業の合同保有地として、部外者侵入の一切が禁止された
外界と隔絶された領域内にて、各企業の技術研究が秘密性を保持したまま公然と行われる
西暦2180年、世界大戦終結
同年、企業連は新造島の研究施設上層に街を作り、大々的にこれを開放。日本各地から人々が集まり、都市は更に成長していく
西暦2183年、新造島は多層構造を持つ巨大海上都市『島京』として完成
◇
この物語は西暦2233年の島京が舞台
2233年の世界では、国の姿や領土等、今と大差ない
しかし大戦期に技術躍進が起こり、科学面は大幅に進歩している
人間に極めて近い思考を持つAI、アンドロイド、環境の修復改善や医療方面に特化したナノマシン技術、欠損した人体を補う精巧な模擬躯体等が一般化
また兵器利用目的から魔法や超能力といった神秘力の研究が進み、これらの復活が成された(こちらは裏社会等で半ば常識的に認知されるが、表の社会では一般化していない)
ヒトゲノムの解析進行からクローン培養や遺伝子操作も難しくなくなったが、戦争終了と共に国際法で利用が禁止された
空間上に表示されるホログラムモニター等の立体映像投射技術が高まり、ディスプレイ形式の物理的映像表示媒体は絶滅
フロートシステムと呼ばれる機関が開発され、車両関係は地面から少しだけ浮き上がって移動する
0032創る名無しに見る名無し
2009/01/05(月) 21:25:54ID:OJJfbgKyそのままフォルネウス倒しに行くんだよな?
0033創る名無しに見る名無し
2009/01/05(月) 21:28:23ID:LVTmjaKI0034創る名無しに見る名無し
2009/01/06(火) 00:46:09ID:oV0Ng5li0035創る名無しに見る名無し
2009/01/06(火) 00:54:18ID:a3bXyhZM0036創る名無しに見る名無し
2009/01/06(火) 11:21:30ID:PHJ8CfyO0037創る名無しに見る名無し
2009/01/06(火) 15:54:47ID:JjXOhNYdクェーカーとして任務にあたる人間が付き合って
地下と地上で生きる人間の葛藤とか
0038創る名無しに見る名無し
2009/01/06(火) 17:48:54ID:7332b/4S0039創る名無しに見る名無し
2009/01/06(火) 20:11:00ID:vpedPcxVこの島で育った、そして今日15才になった
15才になるのは僕だけじゃない妹のナナクサ・ムツキの誕生日でもある
僕らは同じ日にここ軍人養育施設イズモに捨てられていたらしい
この国では捨て子は国家が責任を持って育てる
僕らは育ててくれたお礼としてこの国を15才から五年間守る義務が生じる
その後は五年分の給金で除隊して学校行こうが転職しようが自由だ
僕的にはフェアな制度だと思ってるけどムツキは気に入らないらしい
0040創る名無しに見る名無し
2009/01/06(火) 21:05:53ID:Swe0630dとうどの鳥が 日本の国へ
渡らぬ先に まとめてばったばった
0041創る名無しに見る名無し
2009/01/08(木) 05:39:06ID:u3DMRvLx「なんだよ!!」
人にバカにされるのは慣れてるがさすがに面と向かってバカ呼ばわりされるとムッとする
ましてや実の妹だ
「私さ今日脱走するから」
「はい?」
「うん、いきなり消えるのも悪いかなって、一応たった二人きりの兄妹だから挨拶はしとこうと思ってさ」
数時間後
「おいバカ兄貴」
「なんだよ!!」
「なんでついてくるんだよ!!」
こうして僕たちは15才にして国家に追われる身となった
0042創る名無しに見る名無し
2009/01/08(木) 17:49:29ID:7exLg0Bp0043島京物語 ◆NN1orQGDus
2009/01/08(木) 19:21:05ID:2M8veYrh煙草の紫煙が、吐いた煙が風にさらわれると雲間からぼんやりと澱んだ太陽が顔を覗かせた。
曖昧な輪郭の影が、細く長く伸びる。その向こうから、ゆっくりと若い男、言うならば少年と青年と境目で立ち竦んでいる感じの男が歩いてきた。
「タバコはあるかい?」
「安物ならな」
「シケてんだな、アンタ」
「若いクセにタバコの味に拘るのか?」
言葉を短くして交わし、ポケットからタバコを取り出し、男に渡す。が、投げ返される。
「どうした?」
「最後の一本を貰うのは気が引ける。今アンタが吸っているヤツをくれ」
「――変わってるな」
「アンタ程じゃない」
短くなったタバコを渡すと男は上手そうに吸う。見ていて見惚れる程だ。
「で、お前はこんな辺鄙な所にタバコを吸いに来たのか?」
「まさか。アンタに会いに来たのさ。何でも屋のΞだろ?」
男は笑いながら答える。たが、その瞳は決して笑ってはいない。
どちらかと言えば、俺を値踏みするような眼だ。
「ああ、その通りだ。で、誰に俺の事を聞いた?」
俺がクェーカー、つまり企業に雇われる傭兵――と言うよりは仕事屋である事を知っている人間はは少ない。
目の前のコイツはちょっと悪ぶった感が強いが、どう見ても一般人にしか見えない。
要するに、誰かが俺の事をこの男に教えたという訳だ。
クェーカーである事を他言されるのは今後の仕事に差し支えがあるから、おしゃべりな奴には口にチャックをして貰う必要がある。
「あ、ああ……。ゼロゼロっていう情報屋だ。女だったぜ」
「――心当たりはないな」
懐に手を入れて銃に手を掛けると、男は顔を歪めた。
「嘘じゃない! 本当だ!0が二つでゼロゼロだ」
ゼロが二つで00。それなら心当たりはある。
「若いの、そいつはゼロゼロじゃなくてラブラブ――タチの悪い情報屋だ」
懐から手を話すと、固まっていた男の相好が崩れる。
0044島京物語 ◆NN1orQGDus
2009/01/08(木) 19:23:53ID:2M8veYrhタバコに火を着けて一息吸い込むと、口の中に合成ニコチンの味と、添加物の甘い香りが広がる。
「俺には記憶が無いんだ。記憶を取り戻して欲しいんだ!」
「成る程。面白くもキナ臭い依頼だ」
止まない風に揺らぐ紫煙は、儚く散っていく。同じタバコ飲みの依頼なら断る訳にはいかないだろう。
やれやれと肩を竦めて仰ぐ空は、相も変わらずに曇ったままで、行き先を暗示しているのかも知れない。
――To be continued on the next time?
0045島京物語 ◆NN1orQGDus
2009/01/08(木) 19:24:24ID:2M8veYrh0046創る名無しに見る名無し
2009/01/08(木) 19:25:30ID:mnes2C430048創る名無しに見る名無し
2009/01/08(木) 20:19:25ID:ErVEJVS60049携帯 ◆4c4pP9RpKE
2009/01/09(金) 17:54:04ID:aNtj8lgn俺も無機物達の続き書こうかなぁ
0050創る名無しに見る名無し
2009/01/11(日) 20:56:35ID:hq6eSt+b誰にでも使えるの?
勝手に考えて物語作れないからさ
一応俺的に考えたのがアカシックレコードにアクセスできて
そこから情報を読み取るのが上手い人間が魔術やら魔法やらの超能力が使えるみたいな
でもネットで料理レシピ検索しても誰もが上手い料理作れないようにセンスや練習が必要みたいな感じ
アカシックレコードは膨大な情報量で普通の訓練受けてない人間はアクセスしてもスペックオーバーで壊れる
一昔前の精神異常者は実はアクセスのコツを教えて貰えないまま自然にアクセスした人間
こんな感じダメかな
0052創る名無しに見る名無し
2009/01/11(日) 22:27:53ID:hq6eSt+bじゃあ、とりあえずこれですすめるよ
0053創る名無しに見る名無し
2009/01/11(日) 23:11:29ID:hq6eSt+bタケトリ准尉は僕の言葉に鉄のような笑みを浮かべた
「別におまえ等の意志なんてどうでもいいんだ」
無造作にタケトリ准尉は動き始めていた
僕が気づいた時にはタケトリ准尉は間合いに入っていた
足!?左のミドル、避けられない
僕は右手でブロックしつつ左に周り同時に肋骨の隙間に貫手を入れる
が、その前に左のミドルで吹っ飛ばされた
体勢と力点をずらしてもこれか、なんて威力だ
「さすが徒手格闘術特級、奇襲もあまり効かないか」
そうなんだ、一応軍事学校の格闘練では超優等生だった
でも冗談じゃない、いまので右腕は二分は死んでる
この人相手に二分は致命的だ
0054創る名無しに見る名無し
2009/01/12(月) 00:21:42ID:IFbtTJjJドォーンンッッ!
その瞬間その場所に雷鉾が突き刺さる
信じらんない、ムツキは俺も一緒に殺そうとした
いや、それ以前に人を殺すのに何の躊躇いを感じてない‥
准尉だって僕らを殺す気なんて全くなかったろうに
いつの間にかムツキは500メートルは離れたとこにいた
接近戦に魔術は不利、さすがイシュタルと通り名される程の魔術練の超優等生だ心得てる
ここは第2階層のある食品メーカーの倉庫、僕らはここで教官だったタケトリ准尉に発見されてしまった
「准尉、いまのは警告」
「いや、殺す気だったろ!!」
僕らは同時に叫んでいた
0055創る名無しに見る名無し
2009/01/12(月) 14:31:48ID:IFbtTJjJ准尉は腰に差した脇差しを抜いた
「乱心藤悟‥」
僕は呟く、施設ヤクモが蔵してる霊剣だ
確か今から400年前に造られた脇差し
あらゆる鉱物は天然のハードディスクだ
アカシックレコードの入口にアクセスできるくらいのメトリー力があるなら
そこら辺に落ちてる石を拾ってみても内容は解らなくても驚く程の情報が記憶されてるのは解る
だから古い武器は危険だましてや力のある鍛治に鍛えられた武器は意志を持つ百年、二百年と純粋に勝つ事ばかり考え情報をインプットしていく、
そこまで純粋な意志は力になる霊剣の誕生だ、半端な魔術なんて効かない
「ムツキ撤退だ!」
僕らはコンテナの群れに逃げ込んだ
0056創る名無しに見る名無し
2009/01/12(月) 16:04:46ID:IFbtTJjJ「了解」
「五年後必ず会いに行くよ、その時ムツキが何をやりたかったか教えてくれ」
「ありがと」
ムツキは僕にしばらく頬をくっつけてじってしていた
それから僕の顔を見上げかすかに微笑む
「またなバカ兄貴」
ムツキはコンテナの向こうに消えていった
騒ぎを聞きつけて他の捜索メンバーも集まってきた
そして全員一斉にコンテナ群に突入してきた
僕は携帯配置操作版を使ってコンテナ群を霍乱するように動かす
「ナナクサ二等陸士もういいだろ」
准尉の面倒臭そうな声が響く
あと四手、コンテナを動かし続ける
……できた!
「兵闘臨者皆陣列前在」
九字を切る
粛−
そして空間が歪む
八門遁甲の陣が完成する「5年は長いや‥」
そして僕は30分後投降した
0058創る名無しに見る名無し
2009/01/12(月) 22:16:52ID:hxl6DgcbΣ(゚Д゚;エーッ!! ここで何してるの!?
0061創る名無しに見る名無し
2009/01/12(月) 22:18:10ID:HiDLaZy70062創る名無しに見る名無し
2009/01/13(火) 02:20:26ID:jEE3MfXj国家じゃなく企業が管理してる島だった
軍隊も私設だった
いまから修正可能だろうか
妹も一人で生きていくの無理ぽいな
0063創る名無しに見る名無し
2009/01/15(木) 19:54:23ID:a0dIVVAgこれが僕に対する軍が課した罰だった
人材だけは豊富な我が国得意戦略、文字通り[布石]
とりあえず役に立つか立たない懸案に対して人材だけは配置しておく
配置された人間は命令があるまでその場所で独力で好きなように人生を送る
こうして僕は今、日本国島京で住み込みの新聞配達員をしている
雨の日や寒い日はつらい‥
0064創る名無しに見る名無し
2009/01/28(水) 01:43:07ID:8boibD9E0065創る名無しに見る名無し
2009/02/19(木) 12:13:16ID:/epJk7Ueこの島には“ありえないことがありえない”。
全てが資本という実力に捩じ曲げられた歪な島。
その歪曲した栄華の象徴である超高層ビル群のVIPルームに、ありえない格好の人物がいた。
いや、それは人物というよりもプリンであった。
がっちりとした体躯はマネキンのようにツルリとしていて、
着込んだスーツが嫌味なくらいフィットしている。
腰の位置が高く、本当にマネキンのような体型だ。
その完成された肉体美の頂点には……プリン。
彼が動くたびにぷるぷると震えるプリンは、今にも皿から零れそうでいて、なのに不思議と零れない。
プリンには目鼻立ちのはっきりした凛々しい顔が浮かんでいる。
やけにスマイルの似合う顔立ちだ。
「ふふふ、ここ(島京)は良い所だね」
プリンの独り言のような囁きに、秘書の女性が答える。
「ええ、社長が自らデザインされただけはあります。洗練されたデザイン、私も大好きです」
「ふふ、社長だなんて……よしてくれ」
プリンは頭のカラメルを自分の人差指に取り、秘書の口に滑り込ませた。
一瞬たじろいだ秘書は、すぐに甘えるようにその指をしゃぶり始める。
舌を絡ませ、口を窄め、ときおり内頬に擦り付けるようにして。
因美な水音がVIPルームの遠い壁に反響する。
「甘くて苦いだろう。ふふふ……そうさ、この島もスウィートの底にビターが感じられるから……だから美しいのさ」
プリンはとりあげるように秘書の口から指を抜いた。
「すまない。私はまだ仕事が残っているんだ。君の底にあるビターはまた今度頂くとするよ。ふふふ」
潤んだまなざしの秘書を残し、プリンはVIPルームをあとにした。
0066創る名無しに見る名無し
2009/02/20(金) 23:08:49ID:JereSOdYしかも社長ってww
0067創る名無しに見る名無し
2009/02/21(土) 03:31:32ID:R9hICLZr彼の造物主たるジャービル・イブン・ハイヤーン──ゲベルスの意志に関するところが大きい。
西暦810年の頃、医術者であり錬金術師だったゲベルスは人体の脳にある物質を発見した。
彼が見つけた物は後の研究でジョウント効果と呼ばれる、
精神感応移動(テレポーテーション)の鍵とされる虎斑(タイグロイド)であった。
彼はたくさんの人体解剖を繰り返し、一人からほんの少ししか採取できない虎斑を大量に集めた。
ゲベルスは集めた虎斑を精製し、自らの頭蓋に孔を開け、少しずつ滴下した。
ゲベルスはいつしか未来が見えるようになった。
移動先を意識すれば瞬間移動が出来る事を指してジョウント効果と呼ぶが、
ゲベルスは、どの位先か、を意識すると、その未来に意識だけが飛べるようになっていた。
ゲベルスは未来の世界では何ものにも知覚されなかった。
幽体離脱したゴーストのように、誰にも知覚されず、影響も与えられない。
だが見ること、聞くことは出来る。
ゲベルスは未来で様々な知識を得た。
そして世界の終わりを知った。
そして自分の終わり(寿命)を知った。
ゲベルスは死ぬ前に、宇宙の法則や人類の未来をも揺がす、壮大なイタズラを思い付いた。
未来の技術を使って、世界の終わりを変えてやろう、と。
ゲベルスは世界の終わり間近の未来で、途方もなく奇異な、
だが未来を変えうる可能性を孕んだ技術を見つけ、これを持ち帰った。
そうして生まれたのが、プリンだった。
「ふふふ……」
プリンは不敵に微笑を零す。
ゲベルス、あなたが生み出したパラドクス──つまり私が、特異点になってみせるよ。
あなたの見た未来との、ね。
プリンはただ静かに微笑む。
世界の終わりの近きを知りつつ。
0068創る名無しに見る名無し
2009/02/21(土) 22:08:49ID:GNuwsaAWてかジャービル・イブン・ハイヤーンって誰だ
0069創る名無しに見る名無し
2009/02/24(火) 21:34:51ID:zPdX5RGR0070創る名無しに見る名無し
2009/02/24(火) 22:11:02ID:siKmdKKG0071創る名無しに見る名無し
2009/02/24(火) 22:41:50ID:zPdX5RGR0072創る名無しに見る名無し
2009/02/25(水) 02:28:58ID:/q4cb5MH0073創る名無しに見る名無し
2009/03/11(水) 01:05:03ID:pi3uS8fE0074創る名無しに見る名無し
2009/03/11(水) 18:59:57ID:2dE0EFlQ0075創る名無しに見る名無し
2009/03/17(火) 12:12:45ID:+zlZEyg/0076創る名無しに見る名無し
2009/03/22(日) 12:32:43ID:3/egBzdCちょっと考えてるがあまり想像ができんなあ
0077創る名無しに見る名無し
2009/04/01(水) 21:59:16ID:GnHcpYvIうーんうんうん結局何が自分は何を書いてみたいんだろう
0078創る名無しに見る名無し
2009/05/07(木) 03:13:44ID:ZrUeym94「おはよう」
廊下で隣室の新聞配達マシンに声をかけられる
このマシンを見るたびにいつも3つほど疑問がわく
なぜマシンなのに部屋住みなのか
なぜレイン社製局地戦汎用機SDX5が新聞配達をしてるのか
所長はこれをどこで手に入れ世間はなぜ気づかないのか
ムツキ‥島京は怖いところです
0079創る名無しに見る名無し
2009/06/28(日) 01:38:51ID:8ohTYAVP0080「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/07/28(火) 22:43:58ID:egxww3/F聞くからに陳腐ではあるが、それゆえに一層、人口に膾炙されたこの比喩。
今や23世紀を迎え、その異名は知らぬ人とておらぬ。
しかしながら、その都市は名実ともにそれを凌駕していた。
むしろ、陳腐な比喩そのものが言語の限界を持って示していたのだ。
まさしくそれは、ダイヤモンドであった。
青い星に翡翠の色合いを見せて横たわる秋津島、日本列島の中央に浮かべた、
なめらかな金属と珪素の織りなす天衝く結晶。
昼は陽光を反射して閃き、夜は内より眩しく白く、輝きは水平から地平に至るまであまねく照らす。
さながらアーク光にも似た、光輝の都市国家島京。
至高の人造宝石は今、自らの歴史を新たにしようとしていた。
とはいえ、登場人物が揃うには、なお半世紀を待たねばならなかったのだが。
いつも演者の知らぬところで幕は上がるものだが、このときも例外ではなかった。
幕を引いたのは一つの偶然。
とはいえ、ひとつの偶然が決して必然ではない、と言い得る者がどこにいよう。
なんとなれば、喜劇には、そしてもちろん悲劇にも、脚本家がいるではないか。
登場人物であり観客でもある木偶たちのあずかり知らぬ場所に――。
0081「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/07/28(火) 22:44:59ID:egxww3/Fそう、この年九月下旬、島京を台風、通称、三三島京台風が襲ったのだった。
日本へ上陸した台風の中では最低気圧、最高風速を同時に記録した台風になるのだが、
人ならぬこの俳優は発生当初はそれほど警戒されていなかった。
フィリピン東方に生を受けた彼女(そう、女なのだ)は、
通常の台風とほぼ同じ経路をたどって北上。
初期には中心気圧990hPaと特に見るものはなかった。
勢力が強まったのは沖縄南方海上でのことだった。
他に類を見ない超弩級の成長速度と規模が確認されている。
ここで中心気圧840hPaを記録、瞬間最大風速は134m/s、優に480km/hを越すと推定されている。
この年、海水温が平年より高かったことからある程度の成長は予測されていたのだが、
世界史上最強レベルの風速に日本と島京は色めき立った。
参考までに、21世紀にその名をとどろかせたハリケーン、
「ザ」カトリーナの瞬間最大風速は78m/s、280km/hに過ぎなかったことは付記しておきたい。
日本国中が彼女に備えた。大戦後道州制を採用してからこのかた、
これほどの一体感がこの国に見られたことはなかっただろう。
各道、州においては買い占め騒動が相次いだ。
人間たちの騒ぎを余所に台風はゆっくりと勢力を弱めながら沖縄東方を北上、転向する。
このときの移動速度は時速10kmと、台風としては遅い部類であった。
同月27日には平均風速96m/sと――これは時速340km/hほどだ――勢力は弱まるが、
この時点でも史上最強の低気圧であることに間違いはなかった。
28日正午過ぎ、広大な暴風域に潮岬、洲崎が飲み込まれる。
29日未明、ついに三三島京台風が、かつて大島があった場所を通過して島京湾へ真正面から上陸。
長い惨劇の始まりだった。
0082「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/07/28(火) 22:46:18ID:egxww3/F島京1300万と一般に言われるが、この中に狭山霧一は含まれていたかどうか、定かではない。
というのも彼は日本よりの密入国者――それ自体非常な困難を意味するのだが――であって、
戸籍を島京に置いていなかったのである。
彼は、否、霧一と呼ぼう、霧一は島京の摩天楼群の底に、二匹の猫とともに生活していた。
猫の名は朝霧、夕霧という。
底と言っても、海抜高度は80m。地上換算にして20階余である。
もちろん遥か上方へと建物群は絡み合い、
カーボンとガラス繊維の道路網をまとわりつかせつつ登っているのだが、
この高さでも十分に島京湾は見渡せた。
外郭を成す建物群の窓から故郷を眺めるたびに、霧一は複雑な気分に襲われるのを感じた。
もちろんその気になれば文字通り結晶構造をもって作られた、
海抜高度1036mの島京塔の頂上へ登ることもできたのだが、彼はそんな気にはなれなかった。
それはひとつに、高いところへ登りたがるのは馬鹿と猫だけだという、
古い故郷のことわざのせいだったのかもしれない。
猫達も彼と同じ主義と見えて、むやみやたらと出歩いたりはしたがらなかった。
意気があったというべきか、類は友を呼ぶと言えば言いすぎか、
ともかく、一人と二匹は調和して生活していたのである。
0083「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/07/28(火) 22:47:48ID:egxww3/F女性のバストアップ。流れだす音声。
「島京統治政府気象委員会です……」
無表情に朝霧を撫で、霧一はニュースに注意する。
「……温帯低気圧はフィリピンの東120kmの海上にあって、非常に速い速度で成長しています。
日本の気象庁提供のデータによると、今後さらに成長が予想されるとのことであり、厳重な警戒が必要とされています」
「台風だとよ、お前ら」
キャスターの立体映像を消す。
猫たちはどこ吹く風といった風情だ。
二匹は目をつぶって横たわっていたが、寝入っているわけではないことを彼は知っていた。
整えられた抽斗からカードを取り出し、卓のリーダーへ乗せる。
キンと震えるような音がして、卓上には海底から頂点までの島京の全体像が浮かび上がった。
こうしてみると、島京というのは紡錘を突き立てたような形をしている、と霧一は考える。
構造的にも外乱に影響されにくくはあるのだが、いかな紡錘形とはいえ、水面下に相当な重量がなくては安定しない。
釣りの浮きを想像すればわかるだろう。
むろんこの島は浮いているわけではなく、海底700mに突き刺さっている。
とはいえ、不安定な構造の弱点が解決しているとは言いがたい。
指を動かすと、表示されている立体コンソールをちょんと叩く。
外壁部が消え、骨組構造が、蛍光色のラインで宙に浮かぶ。
長ハニカム系の構造。I型材の鉄筋構造部とH型材の海面地上境界層構造、そしてそこから天へと伸びる流線形の建物群。
そのさまはカイロウドウケツを想わせた。
1000mを越す深海に生活する海綿である。それはこの都市と同様のガラス繊維の複雑な構造を生まれながらに持っている。
低温での硝子繊維形成を、人類はこの海綿から学んだのだった。
閑話旧題。
0084創る名無しに見る名無し
2009/07/28(火) 22:48:08ID:FUnp1/if0085「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/07/28(火) 22:49:17ID:egxww3/F霧一は抽斗からもう一枚取り出し、乗せ換えた。
今度は異なるフォーマットで、立体映像が浮かび上がる。
三行にわたって文字が記されていて、
それぞれ「島京可動化プラン」「潜水型パターン」「浮遊型パターン」と読めた。
もう幾度となく目を通してきた資料を、彼はまた丹念に見返す。
どれも、今でも机上の空論とみなされているものだ。
だが、一部トップレベルの研究者の中には、全精力をつぎ込んでいる者もいることを彼は知っていた。
第七層に鍵がある、というのだが、資料が残っていない以上、どうしようもなかった。
調査しようにも、有人層として稼働できるのは第二層のみとあって、
その先がどうなっているかは今では知る由もないのだ。
霧一はシステムを閉じた。
彼の頭の中には、これまでに出たパターンとは全く異なる可動都市が浮かんでいた。
それは海面地上境界層から分離する浮遊案でもなければ、潜水型都市でもなかった。
そもそも、潜水艦化するには島京は少し巨大すぎた。
卓の上にある、別の物体を手に取る。
平たい長方体をした緑色のそれは、今では高値でコレクターたちがやり取りするようなメディア――。
紙の本だった。
もっとも、この本の場合はその中身自体も、普通の本とは比べ物にならなかったが。
これこそ、霧一の作成しようとしている計画の裏付けとなる、たった一つの希望だったのである。
島京の設計者たちが、そしてその裏で企業たちが目指した真の島京の姿、それは恐るべき計画であった。
その時が近づいていることを知っている人間はごく限られていることだろう。
予兆は既に地下で起きていたが、大半の人間は無関係で平和な生活を送っているのだから。
夕霧が甘えた声で鳴いた。
食事をねだっているのだった。
例のキャスターが語っている。
「非常に大型で強い台風16号は、勢いをさらに増し加えながら北北東へ……」
0086創る名無しに見る名無し
2009/07/28(火) 22:50:10ID:egxww3/F支援ありがとう
とりあえず一章分投下終了です
0087創る名無しに見る名無し
2009/07/28(火) 22:52:20ID:TNaFv5sm0088創る名無しに見る名無し
2009/07/28(火) 22:55:14ID:/sBZB/Woこれは災害脱出劇になるのかな?
とりあえずwktk
0089創る名無しに見る名無し
2009/07/28(火) 23:09:41ID:TNaFv5sm続きに期待
0090創る名無しに見る名無し
2009/07/28(火) 23:37:42ID:ZPxoi5Xe0091 ◆LV2BMtMVK6
2009/07/29(水) 23:56:20ID:GeiUMr0v通勤者たちが続々と乗りこんでいく、工業区行きエレベータへ入る。
主に海抜150mまでは低所得層の居住区であることもあって、大きなエレベータは既に労働者でいっぱいだった。
かすかに甘い合成鉱物油の香りと、きな臭いようなオゾン臭が辺りに漂っている。
この都市はどこでも非常に明るかったが、エレベータですらこの例にもれなかった。
熱を発さない白色光源が、このガラスの箱を硬い色合いの光で包みこんでいる。
本来ならば、ほとんどここで会話が聞かれることはない。
だが、今日は違った。
「日本直撃は確実なコースだと言っとりますね」
「既にハリケーンで言うとカテゴリー5に入ってまだ成長を続けてるらしい、悠長にしてもいられないよ」
ざわつきはそこかしこに波紋を立てている。
それらの会話のうちの一つが、霧一の耳に引っかかった。
「最近おかしなことばかりだからなあ。発電区あたりも挙動が怪しいって聞いたし、台風までいかれてるっていうのか」
「なあに、島京だぜ?この辺じゃ強い地震なんて珍しくもないし、台風なんか毎年来てるだろう」
「今度のは桁違いだって言うぞ」
とはいえ、楽観的な見方が空気の大勢を成しているように思われた。
島京民には己の街への信頼と誇りを持っているものが多く、それは所得の高低とは関わりなく見られるものであったから、
それも自然な事といえただろう。
かつて大英帝国は世界に広がる領土を持って日の沈まぬ帝国を標榜したが、
「島京、ただの一都市にしてなお陽、沈まず」
とは、程度の差こそあれこの輝ける不夜城の住人たちが一様に抱いていた感慨の表明に違いなかった。
背後にいぶかしむような視線も感じたが、気にとめない。
ジャンクメタルのタイルが敷き詰められた、無人の道を歩く。
「風が強いな」
ひとりごちた。
確かに、安定した強さで吹いてくる潮風からは、上層部のそれとは異なる湿度と圧迫感が伝わる。
未だ姿を見せない、沖縄はるか南方海上の台風が、あたかも降伏を促すかのように自らの威力を誇示しているのだった。
通常であれば、日本領海にも入らない台風の影響が島京湾周辺で見られることなどあり得ない。
事実、隔壁の向こうでは、打ち寄せる三角波の砕ける音が響いていた。
「波高は……」
ポケットから取りだした携帯端末スティックに触れると、メインメニューがドーム状に浮かんだ。
その一つに触れて表示されたデータに、彼は驚かされることになった。
2.5から3.5mだと?波防帯と同じ高さじゃないか。
天を見上げる。超超高層ビル――公式にこう呼ぶのだ――の先端は雲の上に消えていた。
流線形が特徴的な建物群はなお昂然と、来るべき敵を待ち受けているかに見えた。
とはいえ、彼は特に台風のためにこの階、海面地上境界層まで降りてきたわけではない。
いつの時代にも、光があれば影があるものである。
光、ことさらに輝けば、より一層闇も暗く蠢く。
島京の場合も例外ではない。
ここでも比喩的な意味で、海面下部分が影、海上部分が光となって相互に補完し合っていた。
光と闇はせめぎ合う。一見無人のこの層で。
そこは居住区最下層部の、外見からは想像もつかないが確かに存在する半スラム部とも違っていた。
半スラム部は治安が若干悪いとはいえ、人間の住む場所なのだ。
だが、ここはそうではない。地上一階分だけの、無機質な光沢を放つゴーストタウンだった。
植物の姿すらちらほらとしかない。
無人のはずのここだが、最近頻繁に不審な動きが見られていたのだ。
霧一とて興味本位の行動ではなかった。
トップ企業連の手のかかったクェーカーが保っている秩序は、
地下にある何かを守るためのものに他ならなかったのだが、
最近、ことに奇妙な事態が続々と起きていることを情報は示していたのだ。
外部からの特殊部隊の関与も示唆されていたため、
民間人が――それも密入国者だ――公に嗅ぎまわるのは得策ではなかった。
だが、外側勢力が行動を起こすとしたら、台風や地震、その他の災害は好機になるのではないか。
そんな考えから、水際に特徴を読み取ろうとした霧一の行動だったのだが――。
「無駄に広いんだよ」
この人工都市の断面積がもっとも広くなるのは海抜0m階であったから、それは無理からぬことではあった。
彼は自分のバイク――フローティングシステムが開発されてすぐの時期に開発されたものだが、今でも十分通用する程度にチューンされていた――
に乗ってくるべきだったかとも思えたが、すぐにその考えを打ち消した。
有人層ならともかく、無人層で目立つべきではなかった。
この都市は基本的に統治機構の監視下にあるのだ。
企業連盟の手は故郷の官憲よりも速く長いことを、彼は知らぬわけではなかった。
霧一がビルの先を曲がったその時だった。
彼は細い路地の先に動く影を認めて、そばの壁に張り付いた。
0095創る名無しに見る名無し
2009/07/30(木) 00:35:16ID:+6CYG825サイバーパンクってよく分からないけど
0096創る名無しに見る名無し
2009/07/30(木) 20:26:06ID:apNILQPp次の投下を待ってるぜ!
0097恒星都市 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/02(日) 00:18:17ID:wdUn2A8v重装備に身を包んだ五人ほどが通って行く。各々の荷物はおそらく偽装された武装だろう 。
霧一は動きを止めた。夜間ではないから赤外線暗視スコープなどは入れていまい。
動きさえしなければ発見は免れるはずだ。
携帯端末スティックを逆探知でもされない限り、十分な彼我距離は確保できていた。
足早に歩きすぎる姿を彼はじっと見送り、不審部隊の目的を考えた。
奇妙な点は多かった。
どう行動すべきだろうか。
このまま帰って出直す?
そんな選択肢はない。
行き先と行動を確認するのが妥当だろうと判断、陰から足をゆっくり外した瞬間。
また人陰が横切った。
どうやら先行した者たちについて動いているらしい。
作業服を着た、やや小柄ですらりとした影だが。
「尾行にしちゃ下手くそすぎる」
霧一が呟いた通りだった。
雑な動きは、取り残された子供が慌てて遊び仲間に従うかのようにすら見えた。
しかし、この道化の出現で追尾行動は困難になった。
首輪に鈴のついた猫が鼠を狙うようなものである。
彼は鈴を鳴らさずにネズミの向かう餌場へ到達しなくてはならなかった。
一人目の追尾には気付いているだろうが、霧一の存在には気付かれては困るのだ。
0098恒星都市 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/02(日) 00:19:23ID:wdUn2A8v可能性は低いものの、更に他の尾行者がいる状況をも想定しなくてはならなかった。
その様子を想像して霧一は思わず笑うところだった。間抜けな図ではないか。
先行する数人は広場から左へ折れた。
広場は美しかったが、やはり無機的で殺風景だ。
中央、滑らかなカーブを組み合わせて作られたオブジェは艶と輝きを失ってはいなかったが、
広場の隅々には塵芥がたまっていた。
追って広場に入ろうとして、霧一は足を止めた。 丁度上空に、鏡面が被う道路の高架が横切っている箇所。
歩きながら先ほど感じた不審を整理する。
そもそも、どんな勢力の手先なのか。
外部からのものではないように思える。
この時間帯を選んだ理由は?
工作員は普通、夜陰に乗じて動くものだ。
それに、工作員ですと言わんばかりの装い。
一番目の尾行者のように、作業員のかたちをとることすらしていない。
0099恒星都市 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/02(日) 00:25:21ID:wdUn2A8vだが、そもそも陽動が必要というのはどういう事態だ。
島京は少なくとも表面上は、どこかと敵対してはいないし、各企業連に関してもそれは同じだ。
地下の不穏な情勢にしても、一階で陽動して利点がありそうな存在は思い当たらなかった。
ここは平和な自治国家であったし、企業連の自警機構も機能している。
恐らく彼らは無人システムに現在進行形で監視されているだろう。
それに、彼らは自警機構よりずっと高機動な手段をも擁しているはずだった。
陽動でないとなれば、よほど切羽詰まった状況であることになる。
それも、企業連そのものが。
思い当たる節があり、霧一は足を早めた。
一行は西へ向かっていた。
霧一の思惑が正しければ、そこは発電区から電源が上がってくる西南区画ではなく、
富士山に面した、生産物エレベータのはずだった。
ちょうど、霧一たちの住居の方へ円を描いていることになる。
この軌跡に意味はあるのか考える彼の前で、
最初の尾行者の作業帽がぴょこぴょこ揺れていた。
全ては硝子の絶壁の下。
ネズミは終点に近づいている、と彼は思い、なんとか鈴が鳴らなければいいが、と余計なことまで考えた。
はるか天上では、摩天楼が彼らを見下ろしていた。
0101創る名無しに見る名無し
2009/08/02(日) 00:33:15ID:K7EBoCcK続き楽しみにしてるぜ
0102創る名無しに見る名無し
2009/08/02(日) 01:07:33ID:NkKc8Qup0103恒星都市 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/03(月) 01:01:59ID:P9+Mj9h0ここまでは霧一の予想の範囲だったが、ここで初めて選択を迫られることになる。
ビル群の密林から、比較的開けた地区へ出た。
周辺には平屋の大きな倉庫が並ぶ。
振り返れば、今朝後にしてきたガラス張りのビルが、朝霧と夕霧の待つ部屋が、
この結晶の形をした都市の、威圧感を具現したかのような壁面が望まれた。
男たちは互いに何事か言い交わしている。
だが荷物を下ろしていないことから見て、ここが最終目的地ではないことは明らかだった。
さらに気がかりでならないのは、男たちではなく、作業服の人間だった。
一応見えない位置にはいるのだが、一々場所どりも悪ければ、注意も散漫。
まして霧一の存在など、端から考えもつかないといったふうである。
風の様子は変化していた。
先ほどまでのビル風めいた強弱がある風は、今では安定した強さで横から吹く風になっている。
台風は未だにずっと南にあるとは思えない強さで、辺りには甲高く笛を吹くような音が響いていた。
島京が、啼いていたのだ。
0104恒星都市 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/03(月) 01:04:38ID:P9+Mj9h0短く会話した後、彼らは二手に別れた。
なぜ最初から別れていなかったのかが気になるが、
今はどちらを監視するか定めなくてはならなかった。
そうだ、あいつはどうする?
作業服も判断しかねているように見えた。
これではまず参考にはできないと判断して動きを見る。
未熟な人間には同じ方向に動かれない方がいい。
幸いにも、作業服は南へ向かう方を追うことにしたようだ。
まあ、ここまで一緒に行動したからにはさほど離れることはなかろう。
合流点があるとすれは、発見されることだけは避けなくてはならないが。
目的地を確認できるだけでも上出来なのだ。
霧一が追った片割れはさほど移動しなかった。
倉庫群のはずれ、打ち捨てられた工場のようにも見える建物へ、彼らは入っていく。
建物とそれに空き地をはさんでつながる大きめの小屋。
潮風に腐食した壁が歴史を感じさせる。
この超現代の都市には植物と名のつくものはほとんどなかったが、ここにはそれがあった。
といっても、黄色い花を頂いたセイタカアワダチソウを始めとした雑草だったが。
近辺にはあちこちに明かり取りの低い煙突が地に生えている。
低電消費の半地下稼働区だったのだろう。
流石に中へ入ることはしない霧一。一ブロック手前で様子を伺う。
すぐに身を隠せる場所だ。
そろそろ引き上げる潮時でもあった。
風にしなうセイタカアワダチソウの花冠は、雲をまとう島京そのもののように見える、と彼は考えた――。
0105 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/03(月) 01:05:19ID:P9+Mj9h0追尾パート終了。
0106創る名無しに見る名無し
2009/08/03(月) 01:08:17ID:Ge6jj+S2描写が来いから島京の具体的なビジョンが見えてくるなー
0107創る名無しに見る名無し
2009/08/03(月) 01:11:43ID:yHBqUpMAwktk
0108創る名無しに見る名無し
2009/08/05(水) 12:13:21ID:dYpWsMyx具体的なビジョン見えてきたな
とりあえずwktk
盛り上げようとまとめの紹介充実させようとしようと思ったら別のとこに作ってたー
パニックになって挫折しちゃったorz
0109『恒星都市』 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/06(木) 04:47:55ID:SripvwTKあの計画のためならどんなリスクを踏むことも厭わなかった彼だが、
流石に今日の尾行には疲労させられた。
目の前にあの作業服がいなければこんなに消耗するはずはなかったのだが、
彼がどうこうできる状況でもなかった。
まどろみながら考える彼の足元に、夕霧が頬をすりよせる。
朝霧はと言えば、ソファーの上に腹を見せて熟睡の体だ。
尾行は時に命がけになることもある。
例の作業服の挙動もそのプレッシャーによるものかもしれないが、あれでは逆効果というものだ。
いつへまをするかとハラハラさせられたせいもあり、極度に負担がかかった神経を休めたいところだった。
彼はソファーに横になり、一分後には眠りの沼へと沈んでいった。
夢の国を訪れていた霧一だったが、それほど長く休息できた訳ではなかった。
午後一時、彼を目覚めさせたのは絹を引き裂くような調子で泣き叫ぶ風でもなければ、
優しく触れる夕霧の前足でもなかった。
それは一件のボイスメールの着信を知らせる音だった。
受信データを確認する。
定期更新の天気予報ではない。
緊急警報であった。
「今さらだな」
確認する必要もないといった口ぶりだ。
実際、この島からどこかに逃げることはできなかった。
そもそも、逃げる必要を感じさせるような要素はこの人工島には皆無であった。
最低限の備えをしておくことはごく当然であり、直前に騒ぎ立てるメリットなどない。
だが、情報を知っているに越したことはないのは明白であったから、彼はそうすることにした。
インスタントコーヒーを片手に卓へと向かう。
0110『恒星都市』 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/06(木) 04:51:00ID:SripvwTKデータを開く。
本来、市民をパニックにさせないための警報であり、実際にもパニックを起こさないようにと述べているものの、
緊急警報自体がパニックに陥っているかに思われるような内容である。
異常なものを感じて詳細データを取得する。
猫たちは素知らぬ顔だ。
動物が不安感に騒いだりしないことに、彼は少し感銘を受けたものの、
猫たちがここにいれば安全だと考えているのか、それとも台風の進路自体ここを大きく外れているのか、
はたまたこれらの怠惰な動物たちが野生の勘を無視することに決めたのかははかりかねた。
天気図を読みこむと台風の立体モデルが表示される。
息を飲む霧一。
予想を遥かに上回る規模のそれは、芸術的なまでに美しくくっきりとした渦を描いている。
彼はその壮大さに見とれてしまいそうになる。
気圧。
865hPa。
あまりの低さに目を疑うが、見間違えようはない。
見たことも聞いたこともないような数字である。
風速。
実測値不明。
注釈に、風速計のベアリングが摩擦熱で焼き付き、なぎ倒されたとある。
計算値、130m/s。
時速にして468km/hである。
俺のバイクの最高速より150km/h以上も速いのか。
取り乱した彼はあらぬことを考えてしまった。
メディアの態度は不自然だったが、 島京を襲うルートが高確率と報じられている今、
報道側が先に恐慌状態になるようなパターンは想像に難いものではなかった。
とはいえ、意図的にアジテートしている存在の可能性は十分に考慮すべきでもあったのだが。
0111『恒星都市』 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/06(木) 04:54:03ID:SripvwTK霧一は以前止めてくれるよう二匹に頼んだこともあったのだが、猫たちはいよいよ盛んに爪を研ぎはじめたのだった。
しかもどう見ても彼が困るのを喜んでいる様子が伺えたため、説得を諦めたのだ。
市販の爪研ぎのどこが悪いのか、と海に向かって呟いたことを、霧一は鮮明に覚えている。
そうだ、朝の連中の足取りを辿るのだったと思い出し、彼はホログラムリーダーにカードをセットする。
プロットしていって北西地区へ。
ちょうどこの部屋の足元から防波堤、さらにその外側に突き出した波防帯までにあたる。
窓辺に立てば、彼らの入っていった廃墟も視界の端の方に小さく見えた。
この地区は……。
霧一は意外なことに気付いた。
製品搬出エレベーターは第二層工業区へ直通、そのあたりに半地下の施設など存在しないことになっているのだ。
カードの誤りかとデータベースに要求してみても、それ以上の内容は得られない。
例の緑の本には、かつて頓挫した島京浮遊可動プランの中で、電気利用の超巨大モータが設置されることになっていたと記されていた。
強制的な電磁誘導をベースにナノマシンを使用したMR4Wドライブ、
液体窒素で維持可能な、−150度程度の高温超伝導エンジン。
だが、浮遊可動プラン自体は机上の空論に終わった計画であり、
島京のあるべき真の姿としてかつての開発者たちが、
企業の首脳たちが、そして霧一が信じたものとは全く異なっていた。
行儀よく欠伸する朝霧を見ていて出した結論は、まだこちらから判断するには早いというものだった。
なにしろ、中央のサーバにあの工作員たちの監視データが何も残っていなかったのだから。
一部独立したシステムを用いられているとしたら、こちらを逆引きされるリスクを背負うのは愚かなことだった。
しかしながら、霧一の想定より遥かに迅速に、状況は変化することになる。
時代の足音はすぐそこに迫っていたのだった。
いよいよ勢いを強める風。対岸の日本は霞んで見えない――。
>>108
創発まとめ編集お疲れ様です
0113創る名無しに見る名無し
2009/08/06(木) 12:34:58ID:rqR9uHZX0114創る名無しに見る名無し
2009/08/06(木) 22:33:13ID:TM2C/EV0wktkしながらまとめにスレの概要として1をコピーしておいたよん
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/59.html
0115創る名無しに見る名無し
2009/08/06(木) 22:35:02ID:TM2C/EV00116創る名無しに見る名無し
2009/08/11(火) 21:26:31ID:eSLToCHm続きマダー?
0117「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/13(木) 20:21:25ID:3TxlSTkOそれはある人間からのボイスメール――それも、ソリッドビジョナルテレフォン――だった。
今ではほとんど使われていないそれ。
無論盗聴の危険もあり、設置個所から動かせない点で携帯型の超短波通信に比すべくもなく劣る。
リーダとその無線利用親機からできているこれだが、なぜこの部屋にそれがあったのか。
彼の答えは単純だった。
「好きなんだよ、懐かしくて」
だが同時に、好きでもなければ使わないような代物であることをも、その言葉は暗に物語るのだが。
ともかく、入電があったのである。
相手は、女。
年の頃三十程か、平均的な顔だち、眼光は鋭い。
彼女は若輩ながら企業連会長会の末席に名を連ねていた。
もっとも、企業力の方は末席どころか島京――ということは世界でも―― 一、二を争うほどだったのだが。
彼女はすぐに本題へ入った。
「久しぶりだね、霧一。」
「はあ」
「用件はわかるね?」
「は?台風ですか」
「いや、違う。しかし、関わりなくもないか。『今朝の』件だ」
「はあ。あれは一体何なのですか?島京可動化計画と何か関係が?」
女は息をついた。
そばでは二匹の猫がじゃれあっていたため、霧一は注意を逸らされそうになるのを堪えなくてはならなかった。
不意に、猫が積んであった箱を崩してしまった。
彼は振り向いた。
「あの計画の残党ではなさそうね。全く風の音が強い……霧一、そこに誰かいるの? 」
「ああ、猫がいますが」
0118「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/13(木) 20:23:57ID:3TxlSTkO「ははあ、貴女の? 」
勘ぐりにも冷静な彼女。
「違うわ。アメリカに本社を置きながら、島京支社は東塔上部140階にも及ぶ……」
「WPか、わかりましたよ。で、WPは何を意図しているんです?」
WP。かつて米国の筆頭企業だったホワイト・パーフェクションを前身とする、巨大複合企業だ。
IT、軍需、重工業から紙おむつ、出版まで幅広い分野を手がけている。
恐らく現在、もっとも強力な複合企業だろう。
まさしくゆりかごから墓場まで、金で売れるものはおよそ全てのものを売るような世界的組織だった。
「何を意図しているか、それを調べてるんじゃない」
もっともな意見である。
「そうですか、事情は知らないが悠長な事で……今朝の奴らは相当急いでいましたがね」
「知ってるわ。こっちにも情報がないわけではない。そこで、あなたに用があるワケよ」
短い間。
「あなたには今朝の部隊……WPの私兵集団をマークしてもらう。内容によっては阻止も」
「おたくにはそういう集団は無いんですか」
「ウチは島京に籍がある企業なのよ?そんなものを置けるハズがない」
「そうですか?」
「これまでは、必要がある時に統治委員会に図ってクェーカーを出していたからね。
ウチにも諜報部はあるけど、事を構えたが最後潰されるか、余所に漁夫の利をかっ攫われるわよ。」
「今回はクェーカーは使えないんです?」
「金で雇える者には金で裏切られる、それくらいわかるだろう。子飼いのクェーカーは今手元にいないのよね」
自分は信頼されているというわけか。賢明にも、皮肉めいた呟きが実際に音になることはなかった。
体のいい使い捨て要員か、などと言えるはずがない。
表情に出たのか、内言を見透かしたように彼女は続けて口を開いた。
「もちろん無理にとは言わないし、見合うことはさせて貰おう。わたしとしても、脅迫めいたことは言いたくない」
彼女は具体的な脅迫の中身は述べなかったが、彼の立場を考えれば、霧一にはそれで十分だった。
さらに、彼の島京上陸に援助の手を差し伸べたのは彼女であり、
そもそもその支援なくして彼がこの街にいることもなかっただろうから、選択の余地は元からない、ともいえた。
「ええ、俺も聞きたくありませんからね、ただ、簡単な条件をつけさせてください」
「簡単なものならね。それはあとで聞こうか。肝心の依頼なんだが、WPの工作員の尾行と報告だ。
だが状況次第では妨害や阻止もしてもらう。というより、それがメインだ。一人、アシストをつけるね」
「はあ、期待に添えますかどうか」
0119「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/13(木) 20:28:01ID:3TxlSTkO「実は二つあるのですが」
「ではひとつめ、二匹の猫の世話をお願いしたい」
「いいわ。誰か人を寄越しましょう。あずかるのは現実的ではないし、台風が気になっているからね」
「避難しないんですか?」
「どこに避難できるというのか。だいたい私が避難しては、事後、逃げたとの誹りを免れん」
「ふたつめ、ご存じとは思うが、島京に関して俺にも未来のビジョンがないわけではない。主義に反する行動はとれない」
「二つ目は容れられないよ、残念ながら。ま、状況的に大丈夫だとは思うがね。
言うことを聞けない場合は消えてもらうわ。それでは、二階で待機して貰おうか。
ウチのアシストの到着を待ってほしい。スティックは持っている?」
「……持っています、それでは」
特有のシュンッという音とともに立体映像は消え、奇妙な会話は終わった。
風は割らんばかりの勢いで広い窓を叩いている。
猫たちも流石に落ち着かぬ素振りになってきたようだ。
夕霧を抱き上げると、ソファーへ座って撫でてやる。
「いい子で待ってるんだぞ」
服装はあまりゴテゴテできまい。
機動性が命だ。
その分、リュックにはきっちり詰めた。
すぐに投げ出せる背嚢に荷を集中するのは基本でもある。
風が窓をびしびしと殴りつけるのを後目に、重量感たっぷりのリュックを背負う。
秋涼の候にも関わらず、室外は妙に暖かかった。
0121創る名無しに見る名無し
2009/08/13(木) 20:30:01ID:3TxlSTkO>>120
×「もったいぶって」
○「もったいぶった」
0122創る名無しに見る名無し
2009/08/13(木) 20:46:11ID:T5XPcp3Tところでシェアードなのに書いてるのが一人じゃ寂しいな
俺もなんか考えてみるか
この話の後じゃあかなりハードル上がってるけどw
0123「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/21(金) 04:32:25ID:/03Bo+wQ独特のクリック音を三回させた電話の相手は、先ほどの女。
「確認のために連絡がいる、と思ったのでね」
「はい」
「もう着くようね」
「ええ」
ライブ状態でエレベータのカメラから見られているわけだ。
それは体温、脈拍から装備の逐一まで、彼女に――ということはWP側の中央頭脳オペレーターにも、
筒抜けであることを意味した。
ただ、例の仮想敵がどの程度霧一をマークしているかは未知数であり、不必要に監視されている可能性は薄かった。
「境界層、そしてそれより低い地下を動くことになるでしょう。移動手段の用意はあって?」
「徒歩を予定してますが」
「そう。それより速い選択肢があるのなら、そちらに変更して貰おうかしら」
「部屋へ戻ってバイクを出すべきでしょうかね」
「そうしてもらえる?」
「はい」
だがエレベータの内で上昇しながら、彼は一つの疑問を口に上せずにはいられなかった。
「アシストの移動手段は?」
「二人乗りしてもらおうとは考えていない。別行動をとってもらう可能性もあるからね」
0124「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/21(金) 04:33:26ID:/03Bo+wQちょうど、ビルの側壁から主要軌道へ、加速コードのように繋がっている形だ。
丸く左右からアーチ状に覆い被さった防音壁のおかげで風はほとんど感じられなかったが、
高い音域の轟音と高架橋群を揺さぶる風圧は厭が応にも身に迫る。
側道にアイドリングしている愛馬へまたがる。ライムグリーンのそのモンスターは、未だ水冷機ながら二百四十馬力。
車重は二百キロであるからパワーウエイト比は0.83。怪物の名にふさわしい。
ゼロ発進から100km/hに達するまで、二秒程度と言えば伝わるだろうか。
曲がりくねった都市環状線を駆け下りる。フロートシステムとはいえ、車体を傾けなくては曲がらない。
右に左にステップを擦り、珪素と希金属の火花が尾を引く。大きく減速する度に、アフターファイヤが炸裂した。
二階のパーキングスペースに横向きでスライドしながら入っていく。
霧一は車体に派手なカウンターアクションを与えつつ、頭では冷静に思考を巡らせている。
自分はあの女の狂言の中でただ舞っているだけではないのか、と。
風に唸るパーキングには小さな四輪の姿があった。
光学ウインドウで乗り手の姿は見えない。
と、着信があった。
出た彼の耳に、聞き慣れない声が飛び込んで来た。
「霧一さんですね、アシストの露です」
若い女?
「はい。……つゆ、さん?」
来たとき同様、唐突に通話は切れた。
視界の端に動くものを認めて振り向く霧一。
その目に映ったのは、あの作業服だった……。
ここまで。
>>122
書きたいコトを書けるのがいいところですよ!
思うがままにやってしまっていいと思います><
0126創る名無しに見る名無し
2009/08/21(金) 11:05:31ID:/F4m8UdO0127創る名無しに見る名無し
2009/08/21(金) 13:38:46ID:i8ZXvKTqこの出会いは先が楽しみでならない
0128「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/27(木) 22:48:35ID:g1R2bpqQ轟音を立てて風が駆け抜け、立っているのもやっとといったところだ。
壁によせて止めたはずの車両が、煽られて揺れている。
この時すでに、日本国太平洋沿岸、及び島京は暴風域にあった。
入電。
「着いたようね。目の前に見えるのが一番北側のブロック。その建物から地下区域へ入ってもらうわ。露と一緒にそのバイクで入って」
霧一は答えなかった。風の音は強く、発話は聞き取りづらいことこの上ない。
「あまり時間はなさそうなんだけれど、以上でいいわね」
「俺は正直、あいつと一緒に動きたくない気持ちなのだが。動きがお粗末過ぎるのを見てるので」
「私も見ている。だからあなたと一緒に動かせることにした」
「……選択の余地はないか。ところで、単車で中へ入れるのか?」
「入れると思う。待ち伏せなどはないはずだけれど、探査には露を使って頂戴。そのためのアシストよ」
「そういえば、地下区域の構造データはなかったようだったが」
「例の計画で秘匿条項になったのでね。こちらにはある。露が手元に持っているから問題はない」
露を後ろへ載せ、慎重に工場へ進入する。
貼り付けインカムのヘッドセットで会話は可能な状態だ。
マイクは邪魔にならないよう首元に留めてある。
工場の中はがらんどうだった。バイクのライトに映ったのはただの壁。
床はいやに埃っぽい。
建物の中央と思しきあたりに、下へ向かうスロープが掘られている。
もともと製品搬送に使われていたようにも思われるものだ。
窓では風が金切り声をあげている。
外から逃げ込んだのだろう、天井のトラス鉄骨には鳥たちが並んでいた。
スロープへ入ろうとする二人の上で、時折鳥が飛ぶ。
地下道へ進入。
完全に地下区域に入ったところでバイクを横へ寄せて停車。
マップを露に見せてもらうことに。
0129「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/27(木) 22:50:18ID:g1R2bpqQこれは霧一。
「西側に限ればそうみたい。ただ、どこへ行けばいいのかわからない……。実際には第一層居住区と第二層工業区の間に挟まれた、
海抜がゼロメートル以下の地区になるはずなのだけれど」
エンジンを切る霧一。
露の端末が展開した構造マップへ見入る。
「S字の内側にはつきあたりから折れていくんだな、こちらへ行くか」
言ったその時、ステイックタイプ携帯端末に入電があった。
「霧一、WPの私設舞台が地下地区へ入る。やり過ごして追尾して。彼らは徒歩だ」
「了解」
もちろん露もこのメッセージを聞いていた。
一応了解はしたものの、彼は目前のハードルが若干高く見えてきている。
だが、いつまでも通路脇にいるわけにもいかない。
残留熱量探知でも使って追われたなら、地の利のないこちら側が逃げ切れるはずもないのだ。
後ろへ乗るよう手振りで促し、霧一はエンジンクランキング、火が入るやスロットルを全開。
長くゆるやかに弧を描いた地下道内を疾駆する。
人口的な照明に包まれた通路――というよりは道路と言っていい広さだが――を切り裂くヘッドライト。
空気の壁を貫き、振動を後ろへ絞り込む。ただ前へと狂ったように駆ける金属の馬。
衝撃波が後ろへ長く尾を引いて消えていく。
2km近くを一瞬にして走った彼は不意に減速すると、レーリングシステムいっぱいまで使って左へターン。
枝道へ飛び込んだ。バンクの激しさにイン側ステップが床と接触して火花を散らす。
「とりあえず、かなり時間が稼げただろう」
「でも、そんなに長いことじゃないわ。それに、彼らがここまで来なかったり、あるいはまさにここに来たりするとしたらリスクは高すぎる」
「確かにな。彼らの目的地がS字のつきあたりでなかったとしたらかなりまずいし、つきあたりだったとしても気づかれては追尾するどころじゃない。
逆に追尾されてしまうのがオチだ。もう少し落ち着いて隠れられるところを探すか」
言って霧一はリュックサックから小物を取り出し、本通路への出口に置いてきた。
「自動ドアのシステムは二百年前と変わらない。動くものの熱に反応しているわけだ。そのメカニズムは今でも生きている。
さっき置いてきたのは発信器だ」
「つまりそこを通るかどうかくらいはわかると」
「そういうこと。ただし気付かれる危険性も無きにしもあらず」
「それで?」
「ここを離れてさらに奥へと入れる。さっきマップを見たとき、研究施設の分館のような場所があった、無論現在生きてはいないだろうが」
「了解」
0130「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/27(木) 22:51:53ID:g1R2bpqQバイクも中へ入れてある。
廃墟とはいえ、内部は整然としていた。数列に並んだデスク類の上には物もない。
自動照明が人間に反応して、ぼんやりと二人を照らしている。
白い壁に、二人とバイクの影が伸びていた。
「露さん?」
「ハイ」
「今回のことはどれくらい理解しているんだ? なぜアシストに来ている」
「うーん、あなたのアシストができる程度には理解しているつもりよ。アシストに来た理由は……裏切らない方がいい、とだけ言っておくわ」
年下に見えるが、こんなことを言われるのも妙なものだ、ぞっとしないとは思ったが、あえて口に出すこともなかった。
「じゃあ、今回の出来事をどう認識しているのか話してくれないか」
露が応えて口を開こうとしたその時、再び入電があった。
「退避はできたようね」
「かなり不安ですがね。結局何をすればいいんです?」
「当初説明したことと全く変わってはいない。基本的には監視」
「そうですか……猫の世話の方は問題ありませんか」
「人をやっている。問題は今のところないね、ただ……」
「ただ?」
「今後どうなるかはわからない。台風が常識を超えた規模なのよ。隣のオフィスなどは窓が割れた」
「はあ……」
彼は地下に入ってから、台風のことなどすっかり忘れていた。
ステイック端末を使い、台風情報を再生する。
その内容に二人は息を呑んだ。
「これは……」
低気圧によって海面が著しく上昇しており、風速はコンスタントに100m/sを記録。
波の高さは8メートルから12メートルというから、四から五階あたりまでは波をかぶりかねない計算だ。
「これで島京は持ちこたえられるのか……」
「凄い規模。『史上最強の低気圧』らしいわね」
そのまま押し黙る二人。
彼等はあらゆる意味で、極限を知ろうとしていた。
0131「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/27(木) 22:53:55ID:g1R2bpqQ「奴らだ。思ったより早いペースだったな。そして……これはこちらへ向かっているのか!」
「そのようね」
今はバイクに執着せず、できるだけ奥へ行かなくてはならなかった。
二人は早足で移動し、施設の奥、独立発電ユニット室と書かれた扉を入った。
だだ広い空間と、巨大な二つの発電機。水力を使ったものか燃料熱を使ったものかは外見からはわからない。
多分、本体は下の階へと続いているのだろう。
「もし気づかれたのなら時間の問題でしょうけど、待ち伏せやすい場所でいいわね」
「ああ、警戒したなら突っ込んでは来ないだろうからな」
もっとも彼はこんなところに籠城するのは御免だったが。
現在位置を非音声通信で報告し、すぐに電源を切る。
沈黙のまま、永遠とも思えるほどの時間が過ぎた。
結論から言えば、例の工作部隊は研究施設まで至らずに、少し離れた場所へ入っていったのだが、この時二人には行き先まで知る由もない。
ただ、研究施設まで入ってきていないことは、バイクの近くに置いてきた長波形レーダー ――例の、コーヒー缶よりコンパクトな発信器だ―― から判明していた。
「こちらの強さを測りかねているのか、そもそも気に留めてもいないため気付かないのか……」
「気づいていないんじゃないかしら」
この時露は正しかったのだが、正確な根拠のないことであるし、憶測を元に動くわけにもいかなかった。
話すこととてなく、二人は細々と会話した。
「本来の設計者たちが目指した島京、ってのがあるんだ」
「聞いたことがないわ。浮遊計画のこと?」
「いや、そうじゃない、だが、WPはそれを知って、浮遊計画を元に何かを図っている可能性がある」
やや短い間。
「私もそれは聞いてきている。だから実際何を目指しているのかが気になったんだけれど」
「簡単に言うと、頓挫した浮遊計画は島京上部切り離し、この西地区の高温超伝導エンジンで駆動を駆けるものだったんだが、
今回のWPは、本来の島京計画……真島京プランとでも言うか、そのために用意された機能を流用して浮遊させようとしているんじゃないかってことだ。
発電変電区域を狙ったテロじゃないところから、俺はそう結論付けた。この思惑が当たっているかどうかは、近い将来にわかるだろうさ」
「さっぱりわからないわ」
「今は、ね。第7層、最深部に何があるかが鍵になってくる、と俺は思っている」
「あの、第7層……」
会話が止み、霧一がリュックを下ろした瞬間、スティックがあのクリック音を立てた。入電だ。
「今西地区の独立発電室に籠ってるんですが」
「そう」
バックには台風だろうか、大音響が轟いているようだ。
「悪いけど、これからは確実に連絡を取れるとは限らないわ、この風で。島京はもう、駄目かもしれ」
通話は途中で、切れた。
0132 ◆LV2BMtMVK6
2009/08/27(木) 22:54:45ID:g1R2bpqQ板発足一周年、おめでとう!
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