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Newsweek

[2012年2月22日号掲載]

 欧米諸国でイスラム教徒が襲撃されたという話や、昨年の「アラブの春」の民衆革命でイスラム教徒が独裁者と勇敢に戦ったという話は、しばしば話題になる。

 しかしその陰で、まったく別の戦いが起きている。その知られざる戦いでは、何千人もの命が奪われている。

 世界のイスラム諸国で、多くのキリスト教徒が信仰を理由に殺されているのだ。
拡大を続けるこのジェノサイド(大量虐殺)に、世界はもっと危機感を抱くべきだ。

 イスラム教徒を犠牲者や英雄扱いする描き方は、真実のせいぜい一面しか伝えていない。
西アフリカから中東、南アジア、オセアニアに至るまで、イスラム教徒が多数派を占める国々では近年、
少数派のキリスト教徒に対する暴力的迫害が頻繁に起きるようになった。

 政府や政府の息の掛かった勢力が教会を焼き払ったり、
キリスト教徒を投獄したりしている国もある。
反政府武装勢力や民間自警団がキリスト教徒を殺害したり、先祖代々の土地から追い出したりしている国もある。

 こうした実態は、メディアでほとんど報じられていない。
報道することで、暴力がエスカレートすることを恐れている面もあるのかもしれない。
だが、おそらくそれより大きな原因はイスラム協力機構(OIC)といった国際機構や、
米イスラム関係評議会(CAIR)などイスラム系ロビー団体の影響力だ。

 これらの組織の最近10年ほどの活動により、欧米の有識者やジャーナリストは、
イスラム教徒を標的とした差別事件がことごとく「イスラム恐怖症(イスラモフォビア)」という邪悪な病理の表れだと考えるようになった。
外国人恐怖症(ゼノフォビア)や同性愛恐怖症(ホモフォビア)を連想させ、
人々の道徳的嫌悪感を引き出すことを意図した用語だ。

 しかし近年の状況を客観的に見ると、むしろ「キリスト教恐怖症(キリストフォビア)」のほうがずっと深刻だ。
例えば、人口の4割をキリスト教徒が占めるナイジェリア(イスラム教徒が多数派の国の中では、キリスト教徒の割合が最も大きい)。
この国のイスラム教徒とキリスト教徒は長年にわたり、内戦の一歩手前の状態にある。

 緊張のかなりの部分は、イスラム過激派勢力がつくり出している。
「ボコ・ハラム」(「欧米教育は罪」の意)と名乗る過激派組織は、
ナイジェリアにイスラム法を確立することを目指し、国内のキリスト教徒をすべて殺すと宣言している。