>>621
「恩恵のないただの人間に成り下がる気かい?」

「成り下がるも何も、最初からただの人間ですよ。
おじいちゃんを亡くして寂しくて、見知らぬ世界での出会いと冒険に憧れた、ちっぽけな人間なんです」

「……もう、恩恵が無くても大丈夫かい?」

「恩恵が無くても、みんながいます」

「……正解だよ、ベルくん。
孤独で弱かった少年は、冒険を経て大人になった。
恩恵をなくしたきみが英雄と呼ばれることはもうないかもしれないけれど、きみが手に入れた勇気はいつまでもきみのものさ」

――農作業を終えて妻子の待つ我が家へ帰るとき、温かな炉のような夕陽が目に映るたびに神様のことを思い出す。
どんなに遠く離れても、年月が流れ過ぎても、僕はあなたの子どもです、神様。

〜完〜