部活帰り、東雲は中野をファミレスに呼び出した!
「それで東雲、用ってなんなのにゃ」
中野は聞いたが、東雲は頬杖をついて何かを考え込んでいる。
彼女がこうなる時は、本当に何か悩みがある時だと中野は知っていた。
もし自分に文句があるのなら、彼女はすぐにでもその美しい眉をひそめてガミガミと小言を言うはずだ。
こんな時は、ただ言葉が溢れるのを待つだけにゃ。中野は東雲の顔を眺めながらそう思った。
それにしても東雲は本当に美人だ。流れる黒髪、しなやかな身体。人形のように整った顔。
きっとこれだけ恵まれた容姿をしてるなら、人に媚びて楽に生きる事も出来たはず。でも彼女はライオンのように強く生きる道を選んだ。
それは彼女の美徳であり、中野がいつしか東雲に惹かれるようになった理由でもあった。
それは、ある種テレビの向こうのアイドルに向ける慕情のような、けして届かない夢を見るようなものだったが、中野にはそれで良かった。
中野がそんな事を思っていると、東雲が呆れたように首を振った。
「ダメね、ちゃんとしないと。言うって決めたんだから。」
東雲は深呼吸をした。中野の頭に疑問符が浮かぶ。言うって決めたって、なんにゃ?
「中野さん……けして、嫌な気持ちにならないで欲しいの。」
「私、東雲龍は……」
「あなたの事が……」
八月の夕暮れ。嘘みたいな雨上がり。夕焼けの中を、二人の女の子が手を繋いで、笑って、くっついて。
飲み干したレモンスカッシュの氷が、カランと鳴った。