私が大学在学中、母が倒れた。あと2,3年の命と宣告された。
母は泣いて、泣いて、泣いて心も少し壊れてしまった。
父は仕事一辺倒の人で、家事等一切出来ない。
私が休学して、家事及び母の介護を引き受けた。

医学が進歩して、母は更に数年寿命が延びた。
が、入退院を繰り返した。結局私は学校を辞めた。
朝5時から夜12時過ぎまで家事・介護・仕事(在宅でPC関係のを
友人から紹介してもらった)という生活が7,8年続いた。

現在、母が発病してから十余年。医学は更に進歩した。
母はもうその病気で死ぬ事はない。
私も既に結婚し、別世帯を構える身となった。
が、母の心の病は残った。
普段は優しい母だが、病が出ると必ず泣きながら電話をしてくる。
「私があれほど行きたかった大学を、お前はどうして辞めてしまったの」と。
心が壊れていた時の記憶が彼女にはない。
多分臨終の際ですら、彼女は問い続けるのだろうが、私は答えない。