うちの近所に、散歩中の犬と飼い主が集まる公園がある。
そこで犬飼い同士として知り合った、よく太ったおばさんとラブラドール。
このラブも飼い主に似てちょっぴり太めで、
「飼い主が太っていると、飼い犬も太りやすいって言うのは本当だなぁ」
(つい過剰におやつを与えてしまうせい)と自分は内心思っていた。
実際そのおばさんは、犬用のおやつをいつも持ち歩いていて、よその犬にも配りまくっていた。
そのせいでおばさんは犬たちの人気者だったけれど
「気持ちはありがたいけど、犬が太っちゃうし迷惑ですよねー」と陰で言う人も多かった。
(自分もそのうちの一人)
それでもまあ人間関係に特に問題はなく、犬飼い同士、
会えば挨拶を交わしたり、和気藹々とお喋りしたりしていた。
しかしある時期突然、おばさんとラブの姿を見かけなくなった。
噂ではラブが病気になってしまったらしい。
散歩もできないくらいなのかと犬飼仲間で心配していた。
それから随分たって皆がおばさんやラブの存在を忘れかけていたある日、
おばさん一人で公園にやってきた。
あんなに太っていたおばさんがげっそり痩せて、別人のようになっていた。
おばさんは犬飼い仲間の輪には入らず、
少し離れたベンチにひっそり座って、犬たちが遊ぶ様子をじっと無言で見ていた。
朝と夕方と、一日二回。雨の日も風の日も。

それから更に月日がたって、今ではおばさんは別の犬を連れて元気に散歩している。
おばさんはまた元のように太ってしまった。
だけど公園で犬たちにおやつを配ったりすることもなくなり、連れている犬はスマートだ。
たまに、以前おやつを貰ったことを覚えている古参の犬たちが
おばさんのところに駆け寄りおねだりをするのだが
おばさんはちょっと困った顔をして頭を撫で、「ごめんね」と小さく呟くように謝っている。