>>201(続き)

4 しかし、Aは、「手形の振出しや保証」をY社内規で禁止されているから、裏書が無
 効ではないか。
 (1) まず、内規に「裏書」の文言はないが、それでも本件Aの裏書は内規に反すると考え
  る。なぜなら、Aは裏書人の担保責任を利用してZ社に信用を与える目的で裏書を行
  っており、このように実質的に手形金の保証を行うことは、内規にいう「保証」禁止の
  趣旨に反するからである。
 (2) もっとも、AはY社の支店長であるから、「支配人」(会11条)として、手形行為の
  代理権を有しないか。
   この点、「支配人」とは、当該営業所の営業に関する「一切」の権限を有する者である。
  そして、その権限には手形行為の代理権も含まれる。しかし、内規によりAの権限は
  制約されている。従って、Aは「支配人」に当たらず、手形行為の代理権を有しない。
 (3) としても、Aは表見支配人(会13条)に当たるので、裏書は有効ではないか。
  Yは、Aに甲支店の「支店長」の「名称を付し」ている。この名称は、甲「支店の事業
  の主任者であることを示す」ものである。
   従って、「相手方」Xが内規につき「悪意」でない限り、裏書は有効である。
5(1) そうだとしても、Xは、本件手形の満期(平成17年7月15日)前の同年5月18日
  に支払を請求している。そこで、Z社が同年5月17日に「破産手続開始の決定」を受
  けていることを理由に、Xは満期前の遡求(手43条)が許されないか。77条1項4号
  が43条2号を準用するか、「支払ノ拒絶」とあるので問題となる。
 (2) 思うに、同号の趣旨は、一次的支払義務を負う者に支払能力がないことが明確にな
  った場合に、遡求権の行使を認めて所持人を保護し、もって手形流通を促進すること
  にある。そして、この趣旨は、約束手形の振出人が破産手続開始決定を受けた場合に
  も妥当するのは明白であって、約束手形につき同号の適用を除外するのは妥当でない。
   また、「支払ノ拒絶」は単なる例示であると読むこともできる。
   従って、77条1項4号は43条2号を準用すると考える。
 (3) よって、Xは、Zが破産開始を受けたことを理由として、満期前に遡求権を行使で
  きる。
6 以上より、XがY社内規につき悪意でない限り、本件XのYに対する手形金支払請求は認められる。

以上(1550字程度)