世の中には自我が無くなってしまった人もいるのだそうだ。

つまり何にも感覚移入できず、何にも感情移入できない人々である。
彼らは言葉にできない辛さと、記憶の不明瞭さにいつも悩んでいる。

離人症として知られるその症状にかかると、視界にもやがかかった
ようになり、何かを鮮明に見ることができなくなる。視力には問題が
無いが、重要なものに集中できないのである。しかし逆に、誰もが
見落とすような微細な変化に気付いたりする。

(そのため日常生活にたまに支障が出ることがある代わりに、
ポーカーフェイスを見破れるのでポーカーの類はとても強い)

また、基本となる「身体の自我」もあいまいになっているため、
ときどき視点が第三者のものになってしまう。いわゆる解離症状である。
(おそらくドッペルゲンガー伝説の原型でもある)

なぜ第三者視点などという不思議なことが起こるのかというと、
(推測だが)視覚が集めた情報を元に空間イメージを構築する際に、
基点となるべき「私」の位置感覚があいまいであるため、
「常に同じ視点」という大前提が崩れてしまい、変な場所から見た
空間イメージが脳内に構成されてしまうのだろう。

我々が見ているのは脳内の像であってリアル・ワールドそのもの
ではない、という事実を再確認してくれる現象である。

…これらの例を見れば、自我アルゴリズムが果たす役割が
なんとなく見えてくるのではないだろうか。