ご存知のように、西ヨーロッパの言語は複合時制や受動態やいくつかの相を
表現するためにestiとhaviに当たる動詞を多用する。ところがエスペラントを
創るにあたって、ザメンホフはhaviにそれらの役割を分担させるのをやめて、
全てをestiに押し付けるという離れ業を演じてみせた。そのおかげで、
エスペラントの文法ではestiの使用頻度が「潜在的には」非常に高くなる。
その使用頻度を考えると、estas, estis, estosなどは1音節、たとえば
tas, tis, tosにした方が良いのではないかという意見があるのは当然だろう。
だが、エスペラントでは語幹が子音だけ(tだけ)ということは許されない。
したがって、どんな動詞、名詞、形容詞でも必ず2音節以上になってしまうのだ。

estiの音節数が多いという欠点に、分詞の音節数も多いことが加わって、
Mi estas leganta libron. 私は本を読んでいる(現在の進行相)
Mi estas leginta la libron.私はもうその本を読んだ(現在の完了相)
の代わりにMi nun legas libron.やMi jam legis la libron.のような
副詞と単純時制の組み合わせが好まれる傾向にある。簡単な言い替えで
2音節も節約できるというのは確かに大きい。
フランス語やスペイン語など複合時制を常用する言語を母語とする者に
とっては、何でも単純時制で表現するのは幼稚に感じられるかもしれないが、
能動分詞と受動分詞という概念をもともと持たない言語の話者にとっては、
エスペラントの「esti+分詞」文型は長くて妙に紛らわしいだけの存在に
思えるかもしれない。