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歴代FE主人公が兄弟だったら 49章

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0001ファウダー2013/05/11(土) 03:01:13.68ID:PaBleRj9
ここはファイアーエムブレムの歴代主人公が兄弟だったら、という前提で
彼らとそれを取り巻くFEキャラ達の生活を描くネタスレです。

前スレ
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0509侍エムブレム戦国伝 断罪編 アイクの章 黒 2013/08/13(火) NY:AN:NY.ANID:w1+XnUgN
主よ。主よ。
貴方は私に過分な地位を与えてくださるが私に何をお望みなのか。
私が覇道の忠実な歯車であればそれでよいのか――――――――


「わかりきったことだ。今更何を問おうか」

彼は閉ざしていた瞳を開いた。
こうして己の中で問いかけるのも幾度になろうか。
導かれる答えもまた常に同じ。
黒光りする冷たい武者甲冑の重みだけが確かに自分がこの世に存在していることを感じさせてくれる。

「誰も彼も…生き急ぎ死に急ぐ……
 主よ。閃光は眩いがその光は長く輝きはしない。ゆめゆめ忘れることなきよう」

黒い鎧を纏いし武者は己が居室の片隅で窓の外の空を見上げながら呟く。
龍を駆る主が消えていった空を。
臣下の誰もが主の振る舞いを…そうアシュナードの行いを理解できない。
わかりようもない。凡俗の尺度で偉人は、あるいは狂人は測れぬ。
黒い武者の心を示すかのようにデインの天空は黒雲に覆われ稲光を放っている。

「天の雷…」
そう、それは誰が例えたか…アシュナードを表すにはもっとも相応しい形容に思える。
だがそれに一言付け加えた男がいた。
もう何十年も前の事だ。

「天の雷は巨大な光を持っているが荒れ狂うばかりでなんら他を益することはねぇ。まさに我が殿に相応しいぜ」

この手で葬った師グレイルの言葉だった。
「師よ。貴方は正しかった。だが…
 それを言うのなら何故に野に身を落とし他を益そうとしなんだのか?
 類まれなる剣腕を持ちながらそれこそ愚かではないか」

そういえば…ふと思い出す。
我が師グレイルを討ち果たした時、我に打ち掛かってきた青い髪の小僧がいたな。
たしか師の息子だった。
あの時は取るに足りぬ未熟者と見てあえて命を取りはしなかったが。
あれから幾年かが過ぎておりあの小僧も二十代も半ばというところだろう。
少しはできるようになっただろうか………


「武者殿。武者殿」
襖の向こうから声がする。
黒い武者は兜を被り直し鉄面を嵌めてその顔を覆い隠すと重々しい声を出した。
「何か?」

「ブライス殿がクリミア攻めの軍議を開きたいと…」
「わかった。今行く」
0510侍エムブレム戦国伝 断罪編 アイクの章 黒 2013/08/13(火) NY:AN:NY.ANID:w1+XnUgN
アシュナードが姿を消したこの時期。
デインの指導層は有力武将たちの合議をもって成り立っていた。
主たる者は以下の三名。
ブライス、プラハ、そして漆黒の武者である。
名すら名乗らぬ怪しげな武者に眉を潜める者も少なくはなかったが、
彼は抜群の武功を持って反対派を黙らせてきた。
…そして本来この中にセネリオが名を連ねるべきなのだろうが、
彼はまだ若く武功少なく、何より先日のアシュナードの布告以来デインではないがしろにされているといっていい。
もう一人のアシュナードの子、ペレアスは先日の合戦で討ち死にしたとされている。
この話には誰もが関心を払わなかった。
そのくらいデインの家中でペレアスの影は薄かった。
その力はアシュナードからは省みられず、さりとてセネリオのような智謀に秀でているわけでもない。
廷臣たちが彼を軽んじたのもやむをえざることだったかもしれない。
力を持って立つべきこの世では。


「先日来我が方はクリミアの陣地に攻撃を繰り返し、守将オスカーとケビンの両名は守り難しと思ったのであろう。
 陣を捨て兵を引いた」
ブライスが軍議の口火を切る。
「クリミア城下まであと一押しってところだねぇ」
地図に視線を落としながらプラハが応じる。
その指先がクリミアに通じる街道をなぞっていく。
「だがそれだけに奴らもこのままではおくまい。
 窮鼠と化して我が方を迎え撃つであろうて。覚悟を決め死兵と化した敵ほど手強いものはないぞ」
「ピネル、ナドゥス…ここらが我らを阻止するぎりぎりの線と見なして守りを固めてくるだろうねぇ…
 どうした漆黒の。さっきから黙りちまってさ」
「黒武者殿よ。そなたの思う所は如何?」
プラハとブライスが話を向けてくる。
黒い武者は顔を上げた。
鉄面に覆われ決して晒すことの無い顔を。
「定石からいえば攻めの一手だろう。流れは我らにある。
 ……が……天運尽き果てた陣営がどちらか…それを見てとれる者は人中におらぬ。
 天雷は天より地に落ちるもの。油断せず戦う事だ……」

そう、それを見てとれる者は人中にいない。
だが、だからこそその殻を破りさらなる高みを欲するのではないだろうか……………
0511侍エムブレム戦国伝 断罪編 アイクの章 黒 2013/08/13(火) NY:AN:NY.ANID:w1+XnUgN
そう、黒の武者が思い描く天。
黒雲の中では人智を超えた戦いが繰り広げられていた………

巨大な黒い翼が舞う。
巨龍ラジャイオンの咆哮はまさしく地上の者たちには雷鳴そのものに思えたであろう。
その背に跨る巨躯の武者は髭面に禍々しい笑みを浮かべ黒雲の中を舞う敵を見据えた。
強く大きな翼の敵を。
「人たる身に神は超えられぬか?妖は討てぬと思うか?
 試してみようではないか神の下っ端よ」
豪腕に抱えた剛刀グルグラントの切っ先が鋭い光を放っている。
その背に大きな翼を広げた山伏の姿をした男……
山界の天狗ティバーンは威圧感に満たされた眼光を持って狂気の大名を見据えた。
「確かに貴様は強ぇよ。人間の中じゃ最上級の一人だろうよ。
 だがてめえらのおよばねぇ領域ってのはある。『天空』は本来翼もたぬ人間の立ち入る領域じゃねぇ」
「勝手な理屈だな?そうして己らのみが力を得るか。ならば奪うまでの事よ」
巨龍が舞い黒い影が天狗に迫る。
グルグラントの切っ先は触れれば鋼鉄すら豆腐のように切り裂いてしまうだろう。
「ガウェインよ……あん時、お前を通しちまったのは過ちだったのかも知れねえ…」
ここにはいない…いや、もうこの世にはいない男の名を呟くと天狗は意を集中し神通力を高めていく。
その姿は次第に化生と化しやがて見る者を圧する巨大な大鷲へと変えていった。

「吹けよ嵐、轟け雷鳴!山神の末たる威、人界の覇者に見せてやろう!」
言葉そのものに霊気が乗り移ったようですらある。
この時ティバーンは大気そのものであり山そのものですらあった。
猛烈な暴風と豪雨が吹き荒れ雷鳴が轟きラジャイオンとアシュナードの身を打ち据えていく。
山界は本来禁足地、人間の立ち入る領域ではないのだ。
それを示すかのように自然界のあらゆる霊気がアシュナードに牙を剥いていた。

「よいぞ…そうだ…そうでなくてはな!
 それでこそ超え甲斐もあるというものよ!」

雷に討たれながらも大名の哄笑はやむ事が無い。
彼はその身を焦がしながらも突進を緩めず刹那の斬撃を繰り出していく。
大鷲の鍵爪が切っ先とぶつかり合いやがて爪先が刃を捉えた。
「ほう、鋼鉄すら切り裂く我が太刀を堪えるか?ならば次は力比べといこうぞ!」
「けっ…人間の細腕で何ができるか!」
アシュナードが豪腕を隆起させて太刀を推し進めようとすればティバーンもまた逞しい豪脚と鍵爪を持って切っ先を押しとどめんとする。

黒雲の中の戦いは終わる様相を見せない。
0512侍エムブレム戦国伝 断罪編 アイクの章 黒 2013/08/13(火) NY:AN:NY.ANID:w1+XnUgN
「……空が翳っているな……」
あちらはデインの方角だったか…
黒い雲が山の上に掛かり雷を降らせているようだ。
クリミアの城下まで差したる距離もない最終防衛線。
ナドゥスの陣地の中でアイクは呟く。
周辺には幾人ものクリミア兵が陣を固め戦の準備に明け暮れていた。
クリミア軍はピネル、ナドゥスの両陣地を持ってデインの進撃を跳ね返そうと図っており、
ピネルにケビン、ナドゥスにオスカーの両侍大将とその手勢を配していた。
アイクはオスカー軍の一傭兵としてこの地に立っている。
リーフは付いてこなかった。
そこまで付き合う義理はないと彼は言い放った。
やつらしい言い方だと思うしまさにその通りだとも思ったので気にも留めなかったが。
…ふと傍らから声がする。
「何十年か前にもあの山にああして黒雲が掛かった事があったっけな…」
何とはなしに呟いたのかも知れない。
弓を担いだ四十路ほどの傭兵が空を見上げている。
「そうなのか?」
話に応じてみたのもさしたる意味はない。
何気なしにというところだ。
だが、シノンと名乗ったその男が続けて発した言葉はアイクに雷鳴となって轟いた。
「おう、それからしばらくしてガウェインってとんでもなく強え剣客が山から降りてきたのさ。
 その人はずっとデインに仕えてたんだが何を思ったかグレイルって名を変えてどっかへ消えちまった。
 俺はその頃デインに雇われててガウェインの軍団にいたんだがとんでもねぇ猛者だったぜ。
 クリミアの武将の首をいくつも……」
そこでシノンの言葉は途切れた。
アイクが思わず掴み掛かったからである。
「今…グレイルと言ったか?グレイルと言ったのか!?」
「な…なんだってんだ?言ったがそれがなんだよ!?」
「グレイルは…俺の親父だ………」

呟きは風となって戦場を流れていく。
嵐風吹きすさぶ戦場へと。

ナドゥスのクリミア軍陣地を見据えるその男もまたそれを感じていたのかも知れない。
デインの旗印が幾重にもはためく中、漆黒の鎧に身を包んだ武者は敵陣を見据えていた。
「此度は貴方が陣頭に立たれるか。クリミア兵共に取っては不幸な事。
 敵将はオスカー…それなりに有能な将だが貴方の足元にも及ばない」
傍らのセネリオが呟く。
ある種の歯がゆさすら彼にはあるのかも知れない。
伺い知れぬ鉄面の下で、黒い武者はどんな顔をしたのであろうか。
誰も知りようがない。
人々が知れた事は彼が発した命である。
「奴らを蹂躙せい。我に続け」

先陣を切ってナドゥスの陣に漆黒の武者が突っ込んでいく。
それにデイン兵六千が雄たけびを上げて続いていく。

グレイルの死から七年…
戦の風は再び両名を引き合わせようとしている――――――


続く


侍エムブレム戦国伝 断罪編 

〜 リーフの章 闇に生き闇に消え 〜
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