「これぐらいの熱さで情けないのう。ダメ出しロボット」
「シャオムウ。それは挑発ですか?」
 熱いとロボットまでイライラするものなのだろうか。ちょっかいをかけてきた
仙狐シャオムウの言葉に、KOS-MOSは敏感に反応した。
「おい、やめろ、シャオムウ。首と胴体がお別れになるぞ」
 KOS-MOSの右手に構えられているのは巨大な刃、ドラゴン・トゥース。
零児が止めていなければ、本当に斬りかかってきたかもしれない。
「やめなさい、KOS-MOS。もう一時間も歩いたら駐屯地だから。そうしたら、
ちゃんと洗浄してあげる」
「はい。了解しました」
「不便じゃのう。ロボットなんじゃから、背中からロケットブースターとか
出して、シオンを抱えて飛んでいくとかできんのか?」
 KOS-MOSの赤い目がシャオムウの顔を見て、大きく丸くなっている。ガチャリと
音を立てて、KOS-MOSの背部装甲が開きかけた。
「いけません、KOS-MOSさん。シオンさん、風圧でバラバラになっちゃいますよ?」
「いいアイデアだと思ったのですが」
 なぜか、残念そうにうつむくKOS-MOS。
「よほど砂が嫌いらしいのう。わしなんか全然平気なのに」
「というか、おまえ。なんで平気なんだ? 俺も汗だくだくなのに」
「そりゃ個人用の寒冷魔法を掛けているからに決まっとるじゃろう……
ひゃあ! 待て、待て待て! これは術者専門の魔法で、意地悪でかけなかった
わけじゃないんじゃっ! 本当じゃからオシリ百叩きはカンベンーっ!」
 腰のところを零児にヒョイと抱え上げられて、シャオムウは悲鳴を上げている。
「熱は問題ありません。砂が目詰まりするのが問題です。早急に洗浄してください」
「だから、ダメだってばっ!」
 プシューと音を立てて。KOS-MOSの背中から白い蒸気が噴き出した。
「おおっ、ロボットっぽい!」
「喜んでる場合かっ! おい、どうした? 故障したのか?」
 KOS-MOSは背中から蒸気を噴き出したままで動かない。
「駆動系に問題が発生したため、稼働を停止します。申し訳ありませんが、
後は人力で運んでください」
「え? ちょ、ちょっとKOS-MOSっ! ワガママ言わないのっ!」
「おいおい。ロボットがワガママなんか言うわけないだろ。仕方がない。
置いていくわけにもいかないしな」
 立ったままで動かないKOS-MOS。その体に触れると熱かったが、零児は我慢して
彼女を運ぶことにした。
「でも、有栖川さん。その子、体重が200kgぐらいありますよ」
「……なにぃ!?」
「駆動系に問題が発生したため、稼働を停止します。申し訳ありませんが、
後は人力で運んでください」
「この子は……」
 困り果てている零児とシオン。
「勝ったな。わしなんか体重五分の一くらいしかないぞ」
「あの、シャオムウさんの身長だと太り過ぎだと思います」
「言うなっ! ロリ娘っ!」
 力仕事を任されないと思っている年寄りと子供は気楽であった。

 三時間後。
 駐屯地で汗だくになった零児とシオンがテントの中で倒れていた。
「シオン。駐屯地に到着しました。洗浄してください」
「あなたね……やっぱり動けたんじゃないの」
「シオン。洗浄してください」
 脱水症状を起こしかけているシオンの背中を、KOS-MOSがユサユサと揺すっている。
 その姿は、まるで母親にワガママを言う幼い娘のようだ。
「のう、零児。アイス食うか? ほら、アーンして」
 その横で、シャオムウが楽しそうに零児の口へスプーンを動かしていた。