とある寂れた配信『フェンリルのLOL』、時刻は深夜2時をまわっている
配信業界はニコ生のオワコン化により
客足が伸びず業績悪化の一途をたどり、過疎化が進む一方だった。
コメ欄に響く常連たちのため息、どこからか聞こえる「またコメントが止まった…」の声
無言で帰り始める常連たち…あれほどいたリスナーたちも今ではほとんどフェンリルの元から去っていった
かつてのウメスレの王フェンリルは独りゴミ屋敷で泣いていた
格闘ゲームで手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できる仲間たち・・・
それを今の配信で得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」フェンリルは悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、フェンリルははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいゴミ袋の感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、今日も金策を考えなきゃな」フェンリルは苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、フェンリルはふと気付いた

「あれ・・・?リスナーがいる・・・?」
ゴミ山から立ち上がったフェンリルが目にしたのは、アリーナに加えて立ち見で埋めつくさんばかりの配信だった
千切れそうな声でコメントが行われ、地鳴りのようにリスナーの応援が響いていた
どういうことか分からずに呆然とするフェンリルの背中に、聞き覚えのある棒読みが聞こえてきた
「とーちゃん、大会やるんでしょ、さぁ早く」声の方に振り返ったフェンリルは目を疑った
「ご・・・ごま?」  「てめー時間ぐらい守れよなー」
「ぬ・・・ぬっきー」 フェンリルは半分パニックになりながらモニターを見上げた

Hevo 決勝戦 Street Fighter W

暫時、唖然としていたフェンリルだったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「みんな・・・戻ってきたんだ!」
5万人の視聴者が見守る中、華麗な配信技術を披露するフェンリル、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、ゴミの山で冷たくなっているフェンリルが発見され、ごまは病院内で静かに息を引き取った