決して忘れられないその日は、たまたま俺しか家にいなかった。
親父は相変わらず仕事、おふくろは近所のオバチャン連中に連れ出されて都内のデパート巡り、
皐月は部活。残された俺だけが一人、夕方のニュースを垂れ流すTVとにらめっこしていた。

オバチャン連中がおふくろを引っ張りまわしてくれているのは、正直ありがたかった。
彼女達も落ち込んでいるおふくろを励まそうとしているわけだし、この家で俺とおふくろの
2人きりになったら、どうしても美咲のことを考えてしまう。
美咲は幸せだった。あとは残された俺達が、美咲の分も幸せになることだ。

ピンポーン

不意に呼び鈴が鳴る。誰だろう?
家にいるのは俺だけで、無視するわけにもいかない。

ガチャリ

扉を開けるとそこにいたのは。

「ただいま、お兄ちゃん」
「・・・美咲?」
「うん」

信じられない。美咲だ。美咲が帰ってきた。どうして? どうやって?

「お前、幽霊か・・・」
「違うよ、ちゃんと生きてるよ。玄関で話もあれだから、とりあえず中に入れて?」
「おい」
「うわー、オウチだー。2年ぶりー。なつかしー」