「うん、恵美、一緒に帰ろう…」
そう言ってオレは恵美に手を差し出した。
「は、はい…」
恵美がもじもじしながらもそれに応える。
恋人として初めて触れる恵美の手。しっとりとしていてとても暖かかった。
そう、たった今、桜が舞う伝説の坂で恵美がオレに告白してくれた。
勉強も、合気道の部活も、修学旅行も、そしてクリスマスの時も一緒に過ごしてきた。
いつもふたりで一緒に頑張ってきた。だから告白してくれた時は本当に嬉しかった。

恵美と手をつなぎながら、ゆっくりと歩き出す。でもなんか緊張するよな…。
思わず横を歩く恵美の顔を見つめてしまう。あ、恵美も赤くなってる…。
「あの… その… そんなに見つめられると照れてしまいます…」
「あ、いや、ごめん…」
恵美の手が汗ばんで来るのがわかる。お互い緊張しているせいか会話がぎこちない。
だがその時突然、強い風が坂一帯を吹き抜けていった。
桜の花びらがオレと恵美の周りを取り囲むように舞い上がる。
「うわ…」
「きゃあ!」
予期せぬ出来事にオレは石につまづいてしまった。
そして恵美の手を握ったままうっかりそのまま転んでしまったのだ。

「…いてて」
仰向けになって転んだオレが目を開けると恵美も転んでいてオレに覆い被さっていた。
「あ、だ、大丈夫ですか? ケ、ケガはしてませんか?」
オレに乗っかった姿勢のまま心配そうな顔をして恵美がオレの顔を覗き込んでいる。
「うん、大丈夫だけど… その…」
「あ…ご、ごめんなさい!」
やっと恵美もこの体勢に気がついたようだ。急いで起き上がろうする恵美。

「あ、待って、恵美…」
だが、オレはそのまま恵美の手を更に強く握りしめ、恵美を引き戻す。
「恵美… さっきさ、自分は弱い人間ですって言ってたよね。でも、それでいいんだと思う。
 オレだって決して強くはないよ… ただ、恵美がいてくれたから…」
「そ、そんな事、ないです…。私だってあなたがいてくれたから…」
「うん、だからさ、これからはずっとふたりで一緒に歩んでいこう。
 今までのオレたちのように…」
「は、はい… すごく嬉しいです… あなたが…大好きです…」
恵美が瞳を潤ませながらにっこりと微笑んでくれた。そんな恵美を無性に愛おしく感じた。


つづく