5年は地獄だった。なんやかやで体力勝負みたいなハードな苦行が
10年続いた。それでもようやく店舗を増やしたが、今のスタイルでは
利益率が頭打ち。
まず開店2,3年目のブームの時とは様相が一変してしまった。
競合店が増え、客がかなり分散した。値段もろくに上げられなかったから
利益率は低水準のままだった。そうこうするうち客足が落ちていった。

息切れした時に、むかし切り捨てた常連やリピーターたちを呼び戻そうと
いろいろ手を打ったが、ほとんど戻らなかった。
一回食ったら逃げていくミーハーさんをひたすらキャッチする、自転車操業
のような毎日になった。
長年の重労働で肌はやつれ、体力の消耗は激しく、何より足腰に来た。
立ち続けると2時間で椅子が必要になった。毎日のオペレーションに支障を
きたすようになり、体力が切れた時が運のつき、という予感はしていたが、
きのうついに店を閉めた。最終日、5人の客が駆けつけてくれて、今や
珍しくなくなったスパイスカレーをふるまった。

それでも長い間に大勢の客が来てくれたので、ある程度は金はたまった。
ただ、一生遊んでいける金はたまらなかった。
味さえよければ新たなカレー民を発掘できる、そういう自信があった。
だから宣伝に力を入れたが、カレー民はほぼ増えなかった。そして
昔の常連は戻らなかった。リピーターを上手に育てることが、
自分の体をいじめずに利益を増やせる最上の方法だったと悟った。
時すでに遅し、か。後悔の涙がとめどなく溢れ出た。最後の客が
残していったシャンパンをがぶ飲みし、店の灯を消した。

てな展開でだれか感動小説を作ってくれ。