「展覧会の絵」を全曲ギターでおやりになったけれども、ああいうことはあんま
り人はやっていないですか。

昔からいろんな音が聞こえてくればその部分だけをギターで弾いて遊んだりはし
てました。もちろんその場合はあるパッセージやメロディーだけをやりたいわけ
で、とっても全曲をやりたい気持ちにはならない。でも「展覧会の絵」のときは
あっちもこっちも弾きたくなってついには全部弾きたくなったんです。そこで本
格的にと思って父にギター用の楽譜を探してもらったんですが、見つからなくて
、それから私のアレンジが始まったんです。
 誰もやっていないことですし、恥ずかしいから父にもずっと言わなかったんで
すね。ところが、長崎ギター音楽院には、サロンコンサートという非常にありが
たいシステムがありましてね。毎月一回、非公開で生徒さんだけが三十人とか五
十人とか集まるんです。身内みたいな人がたくさんいて、みんな顔見知りですか
ら、何か新しいことやちょっと変わったことをやるときは、そこでまずやってみ
るんです。ある程度恥をかいてもいいし・・・・・、ほかにもいろんな人が弾き
ますから一人で四十分も弾いたら悪いわけですけれども、そこでならなんとか許
してもらえるんじゃないかと。
 うちの父もそのとき初めて、まわりの人ももちろん初めて聞いたんですけど、
なんか面白いということで。ぼくは非常にとまどいましてね、発表にはだいぶ抵
抗したんですけれども、どうしてもみんながやれやれというから、東京文化会館
のリサイタルでやったんです。いまは感謝しているんですけれど。結局十七歳の
ときから発表まで二年間かかったわけです。
 そのときにレコード会社の人が、次のレコーディングには絶対にこの曲を、と
強く主張してこられたんですね。私はまだレコードにしたくなかったんですが、
ちょうどそのとき十九歳だったから、まあ十代の最後だから誕生日の前に録音し
ようということになって、三月二十五日の誕生日少し前に録音しました。