いま、山下さんは世界の中でも有数のテクニシャンだという評価があるわけだけ
れども、これから何が課題だと思いますか。

いつも思うんですけど、こういうふうに弾きたいと思っても、なかなかそうは弾
けないんですね。自分でテープに録って聴いてみると、意外に表現がないんです
よね。テクニックというのは、人間だれしもだいたい同じで、練習量と方法でみ
んなつくと思います。それから何を表現するのかが大事だと思います。ただ、父
がよく言うんですけれども、子どものころというのは子どものころにしかできな
い音楽というのがあるそうです。人それぞれの音楽があるし、同じ人でもそのと
きの考え方によって音楽というものは変わると。だから当然演奏も変わるし、ず
っと変遷していかないといけない。ですから、子どものころに大人のような演奏
をしたらおかしいし、子どもなりのすごくいい発想を演奏に結びつけないと、逆
に不自然だと言うんですね。だから、そのときの自分の置かれている環境の影響
は大きいと思いますね。たとえばクラシック音楽を日本人がやるというのはどう
いうことなのかってよく言われていますね。でも、音楽というのはやっぱりイン
タナショナルなもので、国単位ではなくて個人的ないろんな感覚からいろんな音
楽が生まれると思うんですね。たとえば私の場合ですと、長崎に生まれ育って、
うちの父やまわりの環境で勉強したりして、というのを捨てないほうがいいと思
うんですね。それがないと絶対面白くない。そういうのを生かして自分なりの新
しいものをつくっていかないと、他人のコピーはダメだと思うんです。