どうして三つも受けることになったかと言いますと、コンクールというのは普
通は賞を狙って出るんですね。ただ、私の場合は、そういうシステムもよく知ら
なかったし、とにかく音楽というのは自分で楽しむだけでも十分楽しいんですけ
ど、父の意見によると、表現芸術は人の前にいって演奏しないと価値が半減する
というんですね。その点、コンクールに出ますと、わずかな参加料で一流のホー
ルで演奏できるし、お客さんはたくさん集まってくる。それからもう一つ、たと
えばセゴビア先生に聴いてもらおうと思っても、まずふつうは不可能ですね。と
ころが審査員としてこられると、ごく自然に、しかも真剣に聴かれる。そういう
わけですから、コンサートのつもりで出演しました。
 もちろん三つもコンクールに同時に出ますと課題曲の数が膨大になるし、練習
の割り振りによって、非常にきびしくなるんですね。でも私の場合、べつに賞を
狙っていないから、とにかく行って弾きさえすればいいわけだから、欲張ってた
くさん出たんです。
 ただ、最初から三つもとは考えていませんでした。というのも、パリ国際ギタ
ー・コンクールというのは世界でもいちばん権威があるんですけれども、このコ
ンクールは都合のいいことにわざわざパリまで行かなくても予選を受けられるん
です。つまりテープ審査になっていまして、日本人の場合ですと、東京のNHK
に行きまして録音して、NHKを通じて送るんです。そうやって世界から100
人ぐらい受ける中から四人だけが予選を通過して、パリに行く。ですから、もし
運よく通ればパリに行って弾けるし、だめなときはそこでパッと諦めがつくわけ
です。それに、どういうわけか通りまして。