先月ダンナが死んだ。それはもう切ない死に方で。
火葬も終えてすっかりくたびれながら、3歳になる前の娘と荷物を抱えて、重い足を引きずって
母と地下鉄に乗ろうと券売機に向っていたとき。
向こうから歩いてきたおばちゃんが近づいてきて、
「これから地下鉄乗るんですか?」と聞いてきた。
「ええ・・・」と元気なく答えると、おばちゃんはカバンをまさぐって、

「ああ、よかった。これ、私はもう使わないからよかったらどうぞ」

邪気のない微笑みと共に、一日乗車券を私に差し出した。
なんだかわからないけれども目頭が熱くなった。

「でも、いいんですか?」
申し訳なくて思わず聞き返すと、
「いいのよいいのよ、私はもう使わないもの。」

あのときのおばちゃん、ありがとう。
すごく落ち込んでて悲しくてどうしようもなかったあの時の私には、おばちゃんの優しさが
この上もなく嬉しかったよ。
あの一日乗車券は、降りた地下鉄駅で知らない女性に譲ったよ。
おばちゃんと同じように「よかったらどうぞ」って、笑顔で譲ったよ。
世の中捨てたモンじゃなかったよ。