「原発が全部止まれば、電力不足で停電する」「原発の分を全部火力で代替した
ら、料金は大幅に上がる」――3.11以来、耳にたこができるほど聞かされてきた
2重の脅し文句だが、よく考えると、2つとも仮説である。
「れば」や「たら」がついた仮説に、怪しい与太話が多いことを、私たちは生活の中
で骨身にしみて知っている。必要のない計画停電を力ずくで実施し、知らぬ間に料
金値上げを続けてきた電力会社と経産省の役人の流す言説だけに、脅しは相当
にきいているが、怪しげな仮説であることに変わりはない。
 2つの仮説の間には解決し難い矛盾が存在する。別に難しい話ではない。停電
の仮説は、原発の分を既存の火力では代替できないことが前提になっていて、料
金値上げを不可避とする仮説のほうは、逆に代替できることを前提にしている。代
替が可能か不可能か、前提が相反するので、2つの仮説がともに成り立つことは
決してない。
 わかりやすく言うと、値上げするなら再稼働の必要はないし、再稼働するなら値
上げの必要はないことを、電力会社と経産省が自らふりまいた2重の脅し文句が
証明している、という話である。
 ここで誤解してはいけないのは、2つの仮説、2重の脅しがともに成り立つことは
ないが、どちらか一方が必ず成り立つわけでもないことだ。両方とも成り立たな
いことは十分にあり得る。