ひとつになって抗議しよう / 椎名 誠

 政治家は国民が団結して大勢おしかけてくることをなにより恐れる。
これは歴史が証明している。自壊の起爆剤になるからだ。
 そういう変革を作っていくには国民の一致団結だ。とりあえず平成維
新。300万人ぐらいが集まって国会をとりまく。むかしと違ってネッ
トの力があるから強烈なリーダー組織があったら今は簡単にそのくらい
集まるような気がする。焦った政治家が警察や自衛隊を動かして威嚇し
攻撃したら中国の天安門事件のような構造になって、日本は沈没する。
 以前アルゼンチンのブエノスアイレスで感動的な光景に遭遇した事が
ある。
 治安の悪いこの町では「日帰り誘拐」というのが流行っていた。
なんでもないそこらの会社員などを会社帰りに誘拐。妻などに身代金を
請求する。その額が日本円にして30万円とか50万円とかなりリーズ
ナブル。だからすぐに身代金を振り込んで、その日のうちに人質は解放
され、日帰りできる。
 これが流行っていて、日本の振り込め詐欺みたいに、ひっきりなしに
おきるので町は不安に包まれていた。
 あるとき町工場の経営者の息子がこの誘拐事件の人違いで射殺された。
悲しんだ工場の経営者がテレビで「もうこんな悲しいことは何もできな
い国家のかわりに、我々の力でやめさせよう」と訴えた。そして抗議の
集会をこれから議会前でやろう、と訴えた。
 ぼくは街のレストランのテレビでその場面をライブで見ていた。する
と表通りを黒い服を着てローソクを持った市民がぞろぞろ歩いている。
経営者の呼びかけに応じて、抗議集会に行く人がどんどん集まってきて
いるのだ。やがて議会前の広場には13万人の市民が集まり、その中央
で経営者が、じかに13万人の街の人にこの悪しき犯罪の撲滅を政府が
即座に対応するように訴えた。経営者は、街のほんとうに小さな工場の
いわゆる一市民だった。
 テレビはノーコマーシャルで延々とこれを報じ、その後、この悪弊は
撲滅されたという。