不況の影響で労働環境が厳しさを増す中、長時間労働による過労が原因の自殺が後を絶たない。
目立つのは20〜30代の若い世代で、遺族の苦悩は大きい。2日には福岡地裁が電気設備工事大手「九電工」(福岡市)に対し、
自殺した社員(当時30)の遺族に計約1億円を支払うよう命じる判決を出した。司法の場で、過労の実態が明らかになる事例も出てきている。
「主人が誇りを持って一生懸命働いてきた会社とこんな形で闘いたくなかった」
自殺した九電工社員の妻(34)は、2日の福岡地裁判決後、声を絞り出した。
判決によると、男性は入社6年目の2003年から時間外労働時間が月120時間を超え、04年7月には176時間に及んだ。
「2カ月以上にわたって月80時間以上」という厚生労働省の「過労死ライン」をはるかに超えていた。
男性の体が変調を来し始めたのは04年4月ごろ。出勤前に吐き気を催し、鏡に向かって叫ぶこともあった。
「仕事を辞めたい」と周囲にも漏らした。動悸(どうき)がすると訴えて、眠れない様子で、食欲も落ち、
大好きだったアイスクリームも口にしなくなった。
04年9月6日。起床時に「きつい、だるい」と訴える夫を心配した妻は、普段つけない結婚指輪をつけて出勤させた。
午後1時すぎ、外出していた妻に「声が聞きたかったから」とだけ電話があった。男性が自宅マンションで自殺したのはその後だった。
リビングのテーブル下にあった携帯電話には「今までありがとう。勝手なことしてごめんなさい」という未送信メールが残されていた。
労働基準監督署は自殺を労災認定したが、九電工側は仕事との因果関係を認めなかった。妻は「夫の死を個人の問題で終わらせたくなかった。
今後、社員の労働管理を徹底してもらいたい」と訴えた。
一方、裁判で「精神障害を発症した証拠はないし、男性の経験に照らして無理のない業務だった」
と主張してきた九電工側は「現場の実情を十分理解してもらえず残念。控訴の方向で検討を進めたい」としている