ウランからトリウムへ―世界の核燃料戦略を読む
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20090805/101975/

 原子力発電の燃料としてトリウムに注目する動きが静かに広がっている。
トリウムは軍事転用が難しく、かつては原発など原子力の平和利用の本命
と見なされていた元素なのだ。温暖化ガスを出さないエネルギーとして原
発の増設機運が世界的に高まっている今日、トリウムをどう位置づけてい
くか。核拡散防止やエネルギー安全保障、資源を巡る地政学などの観点を
絡めて、各国の原子力戦略が問われ始めている。

核拡散防止と放射性廃棄物削減

 トリウムはウランの従兄弟のようなもので、天然に産する放射性元素で
ある。そのトリウムを原子力燃料としてウランの代わりに利用しようとす
る動きが世界で静かに広がり始めた。

 背景には地球温暖化対策として世界的に原子力発電増設の気運が高まっ
ていることがある。その場合の大きな懸念は、核兵器の拡散と放射性廃棄
物である。トリウムは核兵器の拡散防止に役立つうえに、プルトニウムを
含む有害な放射性廃棄物がほとんど発生しない。

 そんな良いことずくめの技術なのに、なぜ今まで実用化されなかったの
だろうか。一言でいえば、理由は第2次大戦後の冷戦構造と核兵器開発競
争にある。原子力の民生利用としての原発も、軍事利用と無関係に展開さ
れてきたわけではなかったのである。

 核兵器には原料としてウランを使うタイプと、天然にはほとんど存在し
ないプルトニウムを使うタイプがあるが、プルトニウム型の方が圧倒的に
つくりやすい。プルトニウムはウランが核分裂反応を起こして燃えるとき
に生成されるが、トリウムを燃やしてもプルトニウムはほとんど発生しな
い。したがって、トリウムを原発の燃料とすると、核兵器を効率的につく
れなくなる。そのため、政治的に日の目を見ることはなかったわけだ。