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 【“手”を使う】
「アミドキシムという吸着基を使う技術です。これが人間の手のようにウランをつかまえてくれる」。
同研究所金属捕集・生分解性高分子研究グループ研究副主幹の瀬古典明さんはそう説明する。
ポリエチレン製のフェルト状の生地に放射線を当てると、そのエネルギーで今まで
結合していたC(炭素)とH(水素)が切れる。切れたところは、さまざまな新たな機能を
接ぎ木のように付けることができるので、そこに化学薬品を注ぐと、ウランをつかまえる機能
(アミドキシム基)が付き、吸着材が出来上がる。

「グラフトは『接ぎ木』の意味。植木屋さんが丈夫な原木に接ぎ木し、美しい花が咲く木に
するように、電気特性のいい材料に放射線を当て、科学的に接ぎ木することで
さまざまな機能を持った材料にする」(瀬古さん)
吸着材に付いたウランは、硝酸溶液などで溶かし出して精製する。

 【コストの壁】
実用化の最大のハードルはコストだ。吸着材を布状にした捕集材を青森県むつ市の
関根浜沖合で、モール状にした捕集材を沖縄県恩納村沖合でそれぞれ使って、性能評価試験をした。
青森では、八メートル四方のフレームを組み、中に材料の寝床(吸着床)を作って
捕集材を設置。沖縄はいかりを付けた長さ六十メートルの捕集材を沈め、
コンブのように立ち上げてウランを捕集した。その結果、温暖な沖縄の海の方が
捕集効率がよく、コストも抑えられることが分かった。