もう記憶が薄くなるくらい昔の事だ。かといって二十年も前のことではない。
そう大山に初雪とのたよりも懐かしい。因幡の国の城番の時のことだった。
最初は驚いた。支藩の藩士が測量値を改竄したと自白したというのだ。困っ
たものだ。と思ったが直ぐに幕府に申し開きしようとしたら何もかもが無いと
言うのだ。堤は壊れるのかと聞いたら大事無いと本家測量方のお墨付きも
あると言う。え? 本家も知っているのか。何で本家も知っていて何も沙汰が
ないのだと疑問を抱いた。本家の土木方総取締にお伺いを立てると恐ろしい
お言葉が・・・。本家は預かり知らぬこと。貴様。寝言を言うておるのか。と
本家に秘匿して幕府堤方番所に恐れながらと申し出ると。また・・・・
夢でも見ているのかという言う。ここまでだ。塞がった。逃げ道は無い。
そう。全ては夢なのだ。今まで寝言を言っていたのだ。夢は寝言は書き物に
してはいけない。冬の厳しさ増した朝の焚き火。炎とともに夢を忘れた。
幾年過ぎて本家土木方総取締は家老釜炊総取締を経て大御所の引き立て
で藩業総取締代表となった。
そして小生も家老釜炊総取締となり夢を忘れた者同士が高みを極めたと思
っていた。ところが、新大御所が引退と同時に政変を起こし、小生がなんと
藩業総取締代表に。夢を忘れたことが位を極めたのか。本来であれば
あの時。奉公は終わっていたはず。切腹を恐れた武士が相次いで藩業総
取締とは。信じがたいことになった。と身が震えた。さらに周りを見ると共に
夢を忘れた者は誰も藩に残っていなかった。
そしてあの言葉。
あの夢を忘れた者で残ったのはお前だけだ。息災にな。