政府の中央防災会議の推定によると、東海地震で浜岡町は震度6強の強い揺れと
5〜10メートルの津波に襲われる。静岡県は第3次被害想定で、県内の死者数は最大で5851人、
倒壊家屋は15万戸以上と推測したが、浜岡原発の被害は「軽微」とした。県全体が壊滅的な被害を
受けるのに原発だけはなぜ「安全」なのか。これは原発の耐震性が、国の原子力安全委の
「耐震設計審査指針」で保証されているためだ。
 しかし、この指針は78年に作られ、81年に一部改定されてから20年間更新されておらず、
学界でも「地震学の新しい知見を加えるべきだ」と指摘されている。中央防災会議は昨年末、
東海地震の想定震源域を22年ぶりに見直し、多重震源による複雑な震源断層モデルを作成した。
26年前に東海地震説を初めて唱え、見直しにもかかわった石橋克彦・神戸大教授(地震学)は
「浜岡原発の耐震性評価は、私が作成した当初の単純な震源断層モデルで行われている。
新たなモデルで計算した地震動による検証が不可欠だ」と主張する。
 特に浜岡1、2号機は東海地震説が出る以前の設計。中電は指針に基づいて再評価し
「新しい3、4号機と同様の耐震性を持つ」と結論付けた。しかし、事故を繰り返す1、2号機に、
住民の多くは中電を信頼できず、不安を募らせる。
 市民グループ「浜岡原発とめよう裁判の会」は4月25日、東海地震の前に浜岡原発4基の
運転を差し止める仮処分申請を静岡地裁に起こした。原発や関連施設の設置許可取り消し、
運転差し止めを求めた裁判は過去に18件(10件は係争中)あるが、住民の請求が認められた
判例はない。今回も住民側が明確に「老朽化」を証明できなければ、司法の判断は
住民に厳しいものになるだろう。
 しかし、原発震災で放射能が飛散する取り返しのつかない事態はどうしても避けるべきだ。
必ず起きる東海地震による原発震災を食い止めるためには「予防原則」を適用して国が原発を
止める決断をするしかない。中電の供給予備力は約300万キロワットあり、
計138万キロワットの浜岡1、2号機を停止しても影響はない。国は「老朽化」を見過ごす
「重大な失政」を引き起こしてはならないと思う。
メールアドレス kishanome@mbx.mainichi.co.jp(毎日新聞2002年5月1日東京朝刊から)