>>355 続き:塩味誰得


ひとつ、絶縁体である空気に金属製の機体が擦られながら飛行するとき、機体外板には静電気が蓄積する。
同時に機体外板にはエンジンとプロペラが発する振動が加えられる。
リベットで繋ぎ合わされた外板は、構造上は常に接続状態にある。しかし電気的には振動によって断絶を繰り返し、静電気の蓄積と放電を繰り返す。
ジェット実験機の場合、700km/hの高速飛行を想定して厚めの外板が使われており、そしてエンジンが発する振動はごく小さい。
このために静電気由来のスパークはほぼ起きない。


ふたつ、ジェット実験機のエンジンは地上での始動時以外には点火回路を使わない。
航通校のテストパイロットが空中でジェット実験機の点火回路を動かしてみると、無線のレシーバーに弱い雑音が入ることが判った。
着陸して点火回路のシールド線端子の清掃と締めなおしを行い、空中で点火回路を動かす飛行試験を繰り返す。
回数を重ねるにつれて雑音が大きくなってゆく傾向が判った。

レシプロ機では飛行中常に点火回路が動作している。
だからこそ銅の編線でシールドしており、シールド線端子を清浄に保つようにと戦闘機戦隊向けに整備指示を作成したのだった。
しかし、振動の少ないジェット実験機でさえもシールド線端子は時間と共に緩んで、電気的な接続が失われてゆくことがわかった。
ましてレシプロ機では、新品のとき以外はシールド線としてまともに機能していないことが推察された。
これまで「新品のときにのみ機能するシールド線」を使ってきたのであった。

航通校の将校のひとりは戦後、「日本軍の飛行機は紙を巻いただけの電線を使っていた」とする通説にこう答えている。
「もしそうだったなら、無線機が実際には使えないにも関わらず『使用に耐える』と判断されて配備され、部隊に強い不信を根付かせることだけは防げたはずだ」と。