人間が人間を食べたことについて、元後方参謀中尉からこんな話を聞いた。
 「アメリカハムっちゅうてね・・・アメリカ兵の人肉を食べたことがありま
したよ・・。飛行士でした。イギリス軍に配属になっておった兵士です。単座
偵察機できたのを撃ち落としたんですわ。ところが、墜落したところにいった
ら生きておったんですね。参謀がすぐに調書を取って資料を作った。

  その後ですよ・・・おまえ、川で体を洗ってこいといって洗わせましてね、
その後、そいつの首をはねた。辻正信参謀でした。死んだ体の肉をそぎ、腿の
肉を塩漬けにしたんです。
  わたしがそれを知ったのは、一カ月ほどしてです。瓶の中に入れて落とし
蓋をし、その上に石がのっけてあった。その塩漬けの腿の肉を取り出してジ
ュージュー焼いて、おまえも食べろっちゅうわけですよ。焼く前は、薄いきれ
いなピンク色をしておった。私はとても食べられん、かんべんしてくれって言
いましたら、敵愾心が足りんと怒られましてね。辻参謀は、作戦主任参謀で、
強い人だった。戦況の偵察に、自分で第一線まで出かけていって確かめる行動
力のある軍人でしたよ。日本が降伏すると知ると、なぜ最後まで戦わんのかと、
あのときはそりゃ大変でしたわ」