雅樹ちゃん誘拐事件の本山茂久は処刑のとき、完全に気が狂って舎房の鉄格子に
しがみつき、特警にかみつき、暴れ、吠えまくり、ロープに吊るされても、あがき、
もだえ、ついに主ロープが切れ、補助ロープでかろうじて(人を殺すのに、かろう
じてもないもんだが)処刑された。顔は醜くふくらみ、目はバセドー氏病のごとく
飛び出し、白目が今にもこぼれんばかりに噴き出て、首筋から顎にかけてはざくろ
のようにただれ、舌がこんなにもながいものかと思うほど、口から血にまみれて
長く長く垂れ下がっていた。そのときには、すでに何人もの死水を取り、何体もの
屍を清め、後始末をしていた俺でさえ、腰が抜け、危くこっちまで目玉むいて逝き
そうになったが、そのとき一緒に掃夫をやっていた尊属殺しの五十嵐正秀などは、
初めてのこともあって、へなへなと腰を抜かし、自分まで小便をもらす始末であった。
この本山の様子が、誰からどこへどう漏れたのか、その数日後、突然、保安課より
非常召集の命が下った。何が何やらわけのわからぬまま、俺たち掃夫全員、
(といっても4,5名だが。多い時で3〜40人、少ないときで10〜20人の死刑囚を、
担当、副担当各1名の元に4〜5名の掃夫が世話している)保安課へ連行され、
取り調べを受けた。本山のすさまじい断末魔の様子と恐ろしい死体の有り様が
漏れ伝わり、執行官が寝込み、死刑囚たちが動揺しているからと、俺たちは厳重
な緘口令を申し渡された。 かわいそうに腰を抜かして、小便をもらした五十嵐
正秀は、掃夫をやめさせられ、本監の懲役囚や拘置所の未決囚らといっさい接触
できない、構外農場の養豚場へ強制配置転換させられ、ブーブーいいながら豚の
世話をやくハメに陥り、豚の餌の上前はねて貪り食い、それを看守に見つかって
懲罰房にぶち込まれ、ヒーヒー唸っていた。