伸矢くんが失踪し、捜索が行われると同時に、
親戚宅の電話にテープレコーダーがとりつけられた。

一家が牛久市に帰る前日、奇妙な電話がかかってきた。
父親が電話を取ると、「奥さんはいますか」という。
語尾のあがる徳島弁独特のアクセントの女性の声がした。
妻が電話を替わると、
その女性は「ナカハラマリコの母親」と名乗り、
「成蹊幼稚園の月組の父兄です。
幼稚園で見舞金を集めたのですが、
どちらに送れば良いのでしょうか。
もう帰ってくるんですか?」と尋ねた。

成蹊幼稚園とは、伸矢くんの姉が通っていた幼稚園だった。
明日帰るという旨を伝えたが、
その後ナカハラマリコの母親から連絡はなかった。

見舞金について尋ねることもできず、しばらく黙っていたが、
数日たって幼稚園に問い合わせてみたところ、
見舞金を集めたという事実はなく、
ナカハラマリコという名前の子供もいないことが判明した。

松岡さんの親戚宅の電話番号を知っているのも不自然である。
また徳島県の人間が、伸矢くんの幼稚園の名前まで知っているのはおかしかった。
松岡さん一家の事情に内通している者の電話だと言えるが、
これが手がかりとなることはなかった。