1989年3月9日 朝刊 1社
◆無罪主張退け、控訴棄却 豊田商事会長刺殺 【大阪】
 金の現物まがい商法で多数の被害者を出し破産した豊田商事の永野一男会長(当時32)が昭和60年6月、詰めかけた報道陣の目の前で刺殺された事件で、
殺人や銃刀法違反などの罪に問われた鉄工所経営飯田篤郎被告(59)=大阪市東住吉区山坂3丁目=と建設作業員矢野正計被告(34)=同市淀川区加島4丁目=に対する控訴審の判決公判が8日、
大阪高裁で開かれた。西村清治裁判長は「永野会長を殺したのは一方の被告」とする両被告の無罪主張を退けたうえで、
「残虐で社会的影響の大きな犯罪だが、詐欺商法に対する義憤が主な動機で、同情の余地がないとまで断定できない」と述べ、飯田被告を懲役10年、矢野被告を懲役8年とした1審判決を支持し、両被告の控訴を棄却、
同時に「1審判決は軽過ぎる」とした検察側の控訴も棄却した。

飯田被告は公判で、「現場に詰めかけた報道陣にあおられて矢野被告がやった」と主張。これを立証するため、犯行現場を撮影したテレビ局の未放映ビデオを証拠申請したが却下されたため、
「裁判は不公正」と抗議して、この日、出廷しなかった。両被告とも上告する方針。
1審判決によると、60年6月18日、豊田商事の詐欺まがい商法で多数の被害者が出ているのに憤った飯田被告が、
かつて自分の下で働いていた矢野被告を連れて、大阪市北区天神橋3丁目のマンション内の永野会長宅に行き、矢野被告が窓を破って侵入。
続いて侵入した飯田被告と2人で、永野会長の頭などを銃剣で刺して殺した。
控訴審の公判で、飯田被告側は「永野会長宅に侵入してからは記憶がない。気づくと永野会長が寝室に倒れていた」などと主張。
一方、矢野被告側も「永野会長の足を刺した記憶しかない」として、
両被告とも1審に続いて殺意、事前共謀を否定。そのうえで、「実際に永野会長を殺したのは自分ではなくもう一方の被告」と主張していた。