浴衣姿でも、その美貌は一際目立っており。

「今晩は、えっと……須賀さんでしたか?」
「今晩は。福路さんですよね?」
「ええ、そうです」

話を聞くに、池田さんと花火大会に来ていたらしいのだが、はぐれてしまったとか。
普通ならスマートフォンや携帯電話で連絡も取れるのだろうが、生憎と福路さんの機械オンチは並ではない。
手持ちの簡易携帯を貸してもらい、山と重なる着信履歴からコールバック。
事情を説明し、大凡の待ち合わせ場所を決めて。

「これで大丈夫だと思います」
「ありがとう。きちんと使えるようにならないといけないのに、どうしても苦手なの」
「そういうところがあるのも、可愛いと思いますよ?」
「可愛いだなんて、そんな…」

恥じらいの中に、若干の喜色。
油断したのか、普段は閉ざされたオッドアイが
露わになり。

「池田センパイとの待ち合わせ場所まで、エスコートしますよ。また電話があるかもしれませんから」
「ありがとう、助かるわ。でも、須賀さんは誰かと来たんじゃないの?」
「いやー、みんなに断られまして。友達とかいれば声を掛けようと思ってたんですよ」
「ごめんなさいね?」

謝る声に、いたずらっ気さえ全くなく。
人混みの中、福路さんに手を差し伸べると、幾らかの逡巡の後で優しく握り返される。
後は、他愛ない話の繰り返しで時間を潰し。
待ち人が待ち合わせ場所に来るまでの僅かな時間ではあったが、人波に呑まれそうになった福路さんを抱き寄せたり(ふかふかで柔らかかった)、はぐれないようにと手を繋いだり。
携帯番号も交換したり…と交流を重ねたあと、騒がしい一団が現れて、御役御免と相成ったのだった。

翌日である。
夏休み、インハイを終えた後の部活は張り詰めた様子など全くなかったのだが。
その日に限っては、イライラとした様子を隠すこともなく同級生たちに睨まれていた。
曰く、電話したのに出なかった。
花火大会の会場で、デートしたと聞いた。
断ったのはお前たちだろと呆れながらも、スマートフォンを操る指が止まることはない。
浴衣の福路さんとのツーショットを待ち受けにしながら、拙く変換もままならぬ感謝メールを眺めて。

『よろしければ、またでんわのつかいかたをおしえてください』

つまり、京太郎にとっては黒字も黒字の幸運な一夜であったのだった。